弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     被告人に対し当審に於ける未決勾留日数中六十日を本刑に算入する。
         理    由
 弁護人佐々木正泰の上告趣意第一点について
 刑事訴訟においては第二審は第一審の続審ではなく覆審であつて第一審とは別個
の手続であるから第一審の訴訟手続に対する非難は第二審判決に対する上告適法の
理由とならないし、第一審において一旦申請した証人でも、その後その申請を撤回
してしまつた証人は、第二審においてあらためて申請しなければ、第二審において
その訊問申請をしたことにはならない。原審公判調書によれば、裁判長が、証拠調
の終了後、利益となるべき証拠あらば提出し得る旨を告げ、刑訴応急措置法第十二
条の趣旨を解示したのに対して、被告人は無之旨を答え、弁護人は立証なしと述べ
たとあつて、被告人も弁護人も被害者A及同Bの訊問請求をしなかつたことが明白
であるから、仮に第一審において所論のようないきさつがあつたとしても、原審が
A及び同Bに対する司法警察官の聴取書を証拠に採用したことは少しも違法ではな
い。
 又前記第十二条第一項但書は、被告人の側より同条所定の書類の作成者又は供述
者について訊問の請求があつたけれども、訊問の機会を与えることができないか又
はそれが著しく困難な場合の規定であつて本件のように被告人の側からその請求の
なかつたこと前記の如くである場合には、適用のない規定であるのみならず、その
規定の趣旨とするところは、所定の書類を証拠とするについては、これについての
制限及び被告人の憲法上の権利を適当に考慮しなければならないというだけであつ
て、所論のように、被告人が公判期日において直接に訊問する機会を持たなかつた
書類の供述者の供述記載の中、被告人に不利益な部分を証拠に採用してはならない
というのではないのである。
 従つて原審がA及び同Bに対する司法警察官の聴取書中の同人等の供述記載をそ
の儘証拠として採用したとしても、そして又その中に第一審における証人Cの被告
人に有利な供述(この供述は第一審判決も第二審判決も証拠に採用していない)に
反する部分が含まれていたとしても、違法ではない。原判決がその挙示の証拠によ
り、被告人等の判示所為を以て、A及び同Bの反抗を抑圧する程度のものであつた
と認定したことは、十分肯認できることである。従つて被告人等の所為を恐喝罪と
せずに強盗罪にあたるものと認定問擬した原判決には、審理不尽若しくは旋律錯誤
の違法は存しない。論旨は理由がない。
 同第二点について。
 憲法第三十六条にいわゆる「残虐な刑罰」とは、人道上残酷と認められる刑罰と
いふ意味であつて、事実審の裁判官が、普通の刑を法律において許された範囲内で
量定した場合においては、それが被告人の側から観て「過酷」と思はれるものであ
つても、憲法にいわゆる「残虐な刑」にあたらないことは、既に当裁判所の判例(
昭和二二年(れ)第三二三号、昭和二三年六月二三日言渡)の示す通りである。従
つて原判決を以て憲法第三十六条に違反するものということはできない。それ故論
旨は理由がない。
 同第三点について。
 原判決が酌量減軽を判示するにあたつて、「刑法第六十条」を引用していること
は所論の通りである。しかし第六十条は共同正犯に関する規定であつて、原判決に
おいては既にその前に適用済みであるから、重ねてこれを適用する筈がない。且つ
判文には「犯罪の情状憫諒すべきものあるので同法第六十条………に従い酌量減軽
を為し」とあることから考えてみて、それが「第六十六条」の誤記であることは一
見明白である。よつて論旨は理由がない。
 被告人Dの上告趣意は要するに原審の事実誤認を主張することと寛大な処置を求
めることとに帰着する。何れも適法な上告理由と為し得ないものである。
 以上の理由により刑事訴訟法第四百四十六条に則り本件上告は之を棄却し、尚刑
法第二十一条に従い、被告人に対し当審に於ける未決勾留日数中六十日を本刑に算
入すべきものとし、主文の通り判決する。
 以上は裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 宮本増蔵関与
  昭和二三年九月二二日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介

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