弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人神道寛次の上告理由第一点について。
 所論のうちで、先ず、原判決(その引用する第一審判決、以下同じ。)には憲法
を適用せず、もしくは憲法の解釈適用を誤つた違法があるとの論旨について考える
に、所論は、要するに、日本のすべての国家機関は日本国憲法および国内法の範囲
外において行動できる筋合のものでないにかかわらず、違法、無効な本件覚書の執
行を日本政府が実施したことの違憲違法を原判決が看過していると非難する。しか
し、連合国最高司令官は、降伏条項を実施するためには、日本国憲法にかかわりな
く法律上全く自由に自ら適当と認める措置をとり、日本官庁の職員に対し指令を発
してこれを遵守実施せしめることをえたのであり、したがつて、右指令の実施と日
本国憲法および国内法が牴触するときは、その適用が排除されること固より当然の
ことであることは、当裁判所大法廷の裁判の趣旨に徴し明白である(昭和二六年(
ク)第一一四号同二七年四月二日大法廷決定、民集六巻三八七頁・昭和二四年(れ)
第六八五号同二八年四月八日大法廷判決刑集七卷七七五頁参照)。そして、原判決
が適法に確定したところによると、特別審査局係官が実施した本件差押封印行為は、
連合国最高司令官がいわゆる直接管理の方式により自ら適当と認めて発した命令に
基づき、その範囲内においてしたものであり、かつ、右命令が降伏条項実施の範囲
外であること極めて明白であるとはいわれないものであるというのである。果して
しからば、本件差押封印行為を義務行為として違法性を有しないものと判断した原
判示は正当であつて、違憲の論旨は採用できない。
 次に、理由そごの論旨について考えるに、原判決の所論判示の趣旨は、畢竟する
に、本件差押封印行為を義務行為と解して違法性を有しないものと判断しているの
であつて、右判断の説示には所論のような違法はない。所論は、原判決を正解しな
いものであつて、採るを得ない。
 同第二点の一、および二、について。
 所論は、本件発行停止の命令そのものは連合国最高司令官の直接命令であるとし
ても、その執行についてはいわゆる間接管理の立場をとつたものである旨主張する
が、原判決が適法に確定した事実関係の下においては、本件差押封印行為は、いわ
ゆる直接管理の方式によつたものに外ならないと認めるのが相当である。所論は独
自の見解であつて採るを得ない。
 同点の三、について。
 所論は、本件指令が何人にとつても、降伏条項実施の範囲外であること極めて明
白な場合に当るとの独自の見解に立ち原判決を非難しているのであつて、原判決に
は、所論のような理由そご、理由不備のかしはない。
 同点の四、について。
 原判決挙示の証拠によると、本件差押封印行為は、連合国最高司令官がその権限
に基づき内閣総理大臣を通じ特別審査局係官に命じてなさしめたものであつて、い
わゆる直接管理の方式によつたものである旨の認定は、首肯できる。所論は、連合
国の日本管理の方式ならびに管理の手段たる日本政府機関の地位に関する独自の見
解に立つて、原審が適法にした事実認定を非難するにすぎない。
 なお、所論は、本件連合国最高司令官の書簡は、その命令ないし指令でないとい
うが、右書簡は内閣総理大臣吉田茂に宛てられたものであるが、その日付の官報に
も公表されており、それは同時に日本のすべての国家機関ならびに国民に対する指
示でもあると認むべきこと、昭和二五年七月一八日付マ書簡につき前掲当裁判所大
法廷決定がした判断と同様である。
 それ故、以上所論はすべて採用できない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    斎   藤   朔   郎
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    長   部   謹   吾

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