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平成13年(ネ)第4146号 特許権侵害差止等請求控訴事件(平成14年6月
13日口頭弁論終結。原審・東京地方裁判所平成11年(ワ)第23013号)
     判    決
控訴人(被告) リンテック株式会社
 訴訟代理人弁護士 田倉整、復代理人弁護士 田倉保、補佐人弁理士 志水浩
被控訴人(原告) 三水株式会社
 訴訟代理人弁護士 森田政明、補佐人弁理士 永井義久
     主    文
 本件控訴を棄却する。
 控訴費用は控訴人の負担とする。
     事実及び理由
第1 控訴人の求めた裁判
 「原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。」との判
決。
第2 事案の概要
 発明の名称を「記録紙」とする特許第2619728号(平成2年1月25日出
願、平成9年3月11日設定登録)の特許権者である被控訴人は、原判決別紙製品
目録記載のタコグラフ・チャート用紙の原紙を製造、販売していた控訴人に対し、
その製造、販売等の差止め等及び損害賠償を請求している。
 原判決が、損害賠償請求の一部を棄却した以外は被控訴人の請求を認容したの
で、本件控訴があった。
 被控訴人の請求内容、当事者間に争いのない事実及び争点(原審におけるもの)
は、原判決事実及び理由中の第1及び第2に記載のとおりである。
第3 原判決摘示の争点に対する判断
 上記争点に対する当裁判所の判断も、原判決事実及び理由中の「第3 当裁判所
の判断」に示されているとおりであるので、その判断に基づき被控訴人の請求を認
容した部分を支持するものである。被控訴人の請求を認容する関係での説示は原判
決のこの判断で十分に尽くされているが、控訴人が当審において補足して主張する
ところに対し、項を改めて、控訴人の主張を簡単に要約しつつ当裁判所の判断を示
すことにする。
第4 補足追加に係る控訴人の主張と当裁判所の判断
 1 明らかな無効事由の存否
 控訴人は、本件特許発明は昭和63年9月19日に出願されて平成2年3月20
日に出願公開されたいわゆる拡大先願の範囲(特許法29条の2)に該当する特開
平2-80288号の発明(いわゆる本州発明)、との対比において無効とされる
べきである、と主張する。しかしながら、控訴人も自認するように、この無効理由
に基づいてはこれから無効審判請求をする予定であるというのであり、現段階にお
いては明らかに無効事由があると認めることはできない(明らかな無効事由がある
ことを認めるべき証拠もない。)。
 控訴人は、本件特許発明が特公昭50-14567号公報に記載の発明(いわゆ
るチャンピオン発明)との対比においても無効であると主張する。しかしながら、
その根拠が本件特許発明の新規性欠如にあるのか、進歩性欠如にあるのか、主張か
らも判然としないし、また、①控訴人は平成11年審判第35263号無効審判請
求において、平成5年11月12日付け手続補正は明細書の要旨を変更するもので
あること、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、当業者が容易に発明を実施す
ることができる程度に構成等が記載されていないことを主張したが、その審判の請
求は成り立たないとされ、その審決取消訴訟(東京高裁平成12年(行ケ)第14
9号)の判決でもその審決が支持されたこと(甲第192号証)、②控訴人は別の
平成11年審判第35526号無効審判請求において、本件特許発明は、特開昭6
0-223873号公報、特開昭61-288118号公報、実願昭57-624
44(実開昭58-164773号)の願書に最初に添付した明細書及び図面の内
容を撮影したマイクロフィルム、実願昭49-156934(実開昭51-833
66号)の願書に最初に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィル
ム及び特公昭43-778号公報に記載の各発明に照らして進歩性を欠如すること
を主張したが、その審判の請求は成り立たないとされ、その審決取消訴訟(東京高
裁平成12年(行ケ)第280号)の判決でもその審決が支持されたこと(甲第1
93号証)、③無効2000-35092の無効審判請求において、平成4年12
月14日付け手続補正は明細書の要旨を変更するものであるとして、平成4年12
月14日に出願されたものとみなされるとし、その結果それより以前の公知文献と
対比して進歩性を欠如すると主張したが、控訴人主張の要旨変更は認められないと
して、その審判請求は成り立たないとされたこと(甲第199号証)、が認められ
る。このように、数度にわたり控訴人が請求した無効審判請求が成り立たないとさ
れ、審決取消訴訟でもその審決が支持された経緯にあることにもかんがみると、本
訴において、控訴人の上記主張に基づき本件特許発明に明らかな無効原因があると
まで認めることはできない。
 2 市場に競合品が存在する場合の損害額の算定
 控訴人は、市場には、本件特許発明の非侵害品で競合品が存在するから、原判決
がしたように、控訴人の販売量のすべてについて被控訴人が主張するような利益率
を掛けて損害額を算出するのは社会常識に合致しない、と主張するが、この主張を
もってしても、侵害者の譲渡数量と特許権者の利益率とに基づいて特許権侵害の損
害額を算定すべきものとする特許法102条1項の規定に従ってした原判決の損害
額算定方法を動かすものではない。
 3 タコグラフ記録紙の特殊事由
 控訴人は、タコグラフ記録紙の取引分野においては特許法102条1項の適用を
認めるべきでない特殊な事情が存すると主張する。その根拠として、被告製品の品
質が優れているのに対し、被控訴人の特許発明実施品は劣悪なものであること、被
控訴人の特許発明実施品は低価格で特売されていたこと、解析体制が伴わないまま
ではタコグラフ記録紙は市場に受け入れられないこと(解析体制やエンドユーザー
の認証体制が整った控訴人の純正品でなければ、市場に受け入れられることはない
こと)などを挙げ、乙第97号証の1をもって、これらの裏付けとしている。しか
しながら、控訴人主張のこれらの事実をもってしても、特許法102条1項の適用
を排斥するまでの特段の事実関係とすることはできず、控訴人の主張は理由がな
い。
 4 原告製品が本件特許発明の実施品ではないとの主張
 控訴人は、被控訴人が本件特許発明の実施品を製造、販売していないから特許法
102条1項を適用することはできない旨主張する。しかし、甲第223号証によ
れば、被控訴人が平成4年9月ころから本件特許発明の実施品を製造し、販売して
きたことは明らかであり、これに反する証拠はない(乙第97号証の1は控訴人担
当者の報告書であるが、被控訴人の実施品の成分については単に推測しているにす
ぎない。そこには、被控訴人実施品の製造方法が本件特許明細書に記載されている
ところと異なるとの報告部分もあるが、本件特許発明は物の発明であるから、この
報告部分は意味を持たない。)。
 5 本件特許発明は本件特許出願前から先行実施されていたとの主張
 控訴人は、本件特許発明に係る製品は、本件特許出願前から被控訴人の当時の取
締役であったAによって販売されていたと主張し、この主張事実に基づき、本件特
許は消尽していること、本件特許発明の実施につき控訴人は畔柳典男の口頭による
特許保証を得たこと、本件特許発明は出願前公然実施されていたこと、控訴人は先
使用権を有することなどを主張し、これらの事実関係などに基づき本件特許権の行
使は権利濫用に当たるなどと主張する。しかし、控訴人主張の販売に係る製品につ
いての構成を認めるべき客観的な証拠はなく、控訴人のこれらの主張は前提事実を
欠くものとして理由がない。
 6 被告製品の特定
 控訴人は、被告製品については原判決別紙製品目録記載のものとは別の特定をす
べきであると主張するが、被告製品は平成9年1月から平成11年9月14日まで
の間のものであり、原判決別紙製品目録記載の特定が、平成11年9月14日に行
われた仮処分執行(被控訴人を債権者とし控訴人を債務者とする東京地裁平成11
年(ヨ)第22019号(甲第212号証はその認可決定)の仮処分命令に基づく
もの。甲第33号証)によって執行官保管とされた被告製品に基づき、控訴人自ら
によってされたものであることは本訴の経緯から見て明らかである。したがって、
控訴人の上記主張は採用することができない。
 7 文書提出命令の効果
 当裁判所は、当審第1回口頭弁論期日前の平成13年7月31日、控訴人の証拠
保全の申立てに基づき被控訴人に対して、納品書用紙帖及び請求書(控)の提出を
命じたが、被控訴人からその提出はなかった。これについて、被控訴人代表取締役
は平成13年8月17日に上申書を当裁判所に提出し、そこには、納品書用紙帖及
び請求書(控)に関しては必要な書証を既に提出しており、代金決済の確認が完了
した時点で廃棄しているから、文書提出命令に係る書類は既に廃棄済みであるとの
説明記載がある。この記載説明に不自然な点は認められず、この説明記載が虚偽で
あることを認めるべき証拠もないので、当裁判所は、民訴法224条1項所定の効
果を発動させないこととする。
 8 その他の控訴人の主張について
 控訴人は、◇本件特許発明は未完成発明であるとの主張、◇本件特許発明の出願
経過には要旨変更を理由とする補正があったとの主張、◇被告製品がいわゆる本州
発明の実施品であることを理由とする自由技術の抗弁主張、◇畔柳典男の行為に基
づく被控訴人の名板貸し責任や共同不法行為責任の主張、◇本件特許発明では着色
原紙の表面に水を含んだ隠蔽層が含まれるのに、被控訴人の実施品や被告製品では
水を含まない乾燥した隠蔽層であるとの主張(意識的除外、包袋禁反言)などに基
づき、本件侵害を認め、損害額を算定した原判決説示の誤りを述べるが、これらの
主張は上記説示したところから理由がないことが明らかであるか、又は主張事実を
認めるべき証拠がないものに帰するものとして、いずれも採用することができな
い。
第5 結論
 以上のとおりであって、一部の金銭請求を除いて被控訴人の請求を認容した原判
決は相当であり、本件控訴は理由がない。
 東京高等裁判所第18民事部
         裁判長裁判官永   井   紀   昭
            裁判官塩   月   秀   平
裁判官田   中   昌   利

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