弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
一 本件訴えを却下する。
二 訴詮費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
1 被告が平成二年六月一三日付けで原告に対してした難民の認定をしない旨の処
分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 本案前の答弁
主文同旨
2 本案の答弁
(一) 原告の請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、平成元年九月二七日に本邦に上陸した中華人民共和国(以下「中国」
という。)の国籍を有する外国人であるが、同年一二月二〇日被告に対し、出入国
管理及び難民認定法(以下「法」という。)六一条の二第一項に基づき難民の認定
の申請(以下「本件申請」という。)をしたところ、被告は、これに対し平成二年
六月一三日付けで難民の認定をしない旨の処分(以下「本件不認定処分」とい
う。)をし、同月二一日原告に通知した。
2 原告は、被告に対し、同月二五日本件不認定処分に対する異議の申出をしたと
ころ、被告は、同年九月三日原告の右異議の申出には理由がない旨の決定をし、同
月七日付けで原告に通知した。
3 本件申請は右1のとおり原告が本邦に上陸した日から六〇日を経過した後に行
われたが、これには、以下のとおり、同条二項ただし書のやむを得ない事情があ
る。
(一) 原告は、本邦到着後福岡入国管理局那覇支局主任審査官から法一三条一項
に基づく仮上陸の許可を受け、同審査官が指定した住居である長崎県大村市所在の
大村難民一時レセプションセンターに入所していた。その間の平成元年一一月五日
テレビ放送により、原告が報道機関の取材に対し「天安門事件の時デモに参加し
た、中国に帰れば死が侍っている。」旨述べたことが報道された。これによって右
事実を知った福岡県弁護士会及び長崎県弁護士会の各人権擁護委員会は、共同して
原告に対し難民認定等の手続が適法、適正に遂行されているかどうかの調査を始め
た。右各委員会の委員である弁護士らは、同月一八日同センターに赴き、写真を示
して原告の氏名がAであることを確認し、原告との面会を求めたのに対し、同セン
ターの所長及び次長は、本省の指示によるとしてこれを拒否した。その後右弁護士
らは、同月二四日及び同年一二月八日に原告との面会につき法務省入国管理局警備
課長等との協議を余儀なくされた上、同月一五日に漸く原告と面会するに至ったと
ころ、原告から難民としての法的保護を要請された。
同センターの所長及び次長の右の対応は、被収容者処遇規則三三条、三四条に違反
し、弁護士の正当な業務行為又は公的色彩を有する弁護士会人権擁護委員会の業務
を妨害したものである。
(二) 右のとあり、原告は、本邦上陸後身柄を拘束され、弁護士との面会を妨害
されその援助を受けられない状態で、法六一条の二第二項所定の期間を経過したも
のであるから、本件申請には、同項ただし書のやむを得ない事情がある。
4 原告は、平成元年六月のいわゆる「天安門」の学生運動に共鳴、賛同し、同月
三日午前九時ころから午後四時ころまでの間、中国福建省福川市内において、デモ
行進に参加し、「反対一党専制」と書いたステッカーを貼付する等の行為をしたと
ころ、同市においてもデモ参加者に対する責任を追及するため公安当局が活動する
ようになった。そのため原告は、両親の勧めに従って、身の安全のため親戚のいる
同国四川省に逃げ、同年八月中旬まで滞在し、更に同年九月二四日同国福建省福清
から難民船に乗って本邦に入国した。
したがって、原告は、難民の地位に関する条約(昭和五六年条約第二一号、以下
「条約」という。)一条A(2)及び難民の地位に関する議定書一条の規定により
難民条約の適用を受ける難民のうち、「人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集
団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十
分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であって、そのような恐
怖を有するためにその国籍国の保護を望まないもの」に当たる。
5 したがって、原告は法二条三号の二所定の難民に当たるから、本件不認定処分
は違法である。
よって、原告は、本件不認定処分の取消しを求める。
二 被告の本案前の主張
1 行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(以下「処分等」という。)の
取消しの訴えは、その処分等により自己の権利又は法律上保護された利益の侵害を
受けた者が、その処分等の取消しによって右の法益を回復することを目的とする訴
えであるから、その回復の可能性が存する限り、その訴えの利益は肯定されるが、
その回復の可能性がなくなった場合には、取消訴訟によっては右のような法益回復
の目的を達成することができないから、訴えはその利益を欠くこととなると解され
る。
2 本件不認定処分のような申請に対する拒否処分は、それ自体何ら積極的な内容
を有していないから、仮に判決によってこれを取り消したとしても、申請状態、す
なわち右の拒否処分がされなかった状態が回復されるに過ぎず、右の取消判決が確
定した場合、行政庁は改めて申請に対する判断をすることとなる。
3 法六一条の二第一項は、本邦にある外国人から法務省令で定める手続により申
請があったときは、被告は、その提出した資料に基づき、その者が難民である旨の
認定を行うことができる旨を定め、法六一条の二の七は、本邦に在留する外国人で
難民の認定を受けているものが、退去強制の手続において退去強制令書の発布を受
けたときは、その外国人は、速やかに被告にその所持する難民認定証明書及び難民
旅行証明書を返納しなければならない旨を定めていることからすると、法は、難民
である旨の認定を行うには、その外国人が本邦に在留していることを要求している
ものというべく、外国にいる外国人は我が国の難民の認定を受けることができない
ものと解すべきである。
右のことは、条約は締約国が締約国の領域内にある条約上の難民に対し条約所定の
保護を与えるべきことを定めていること、条約上の難民認定制度も各締約国内にあ
る外国人に対し保護を与えることを目的とすることに照らしても明らかである。
4 しかして、原告は、平成元年一二月一日福岡入国管理局主任審査官から退去強
制令書の発布を受けていたところ、平成三年八月一四日右退去強制令書に基づき我
が国からその国籍国である中国へ送還された。
したがって、本件不認定処分が取り消されたとしても、原告には改めて難民である
旨の認定を受ける余地はない。そうであれば、原告は、本件不認定処分の取消しを
求める利益を有せず、本件訴えは不適法である。
5 (一)原告は、被告が原告を中国に送還したことは、ノン・ルフルマンの原則
及び市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「B規約」という。)一三条に
違反しているから、これによって本件訴えの利益がなくなったとすることはできな
い旨主張する。しかし、右の送還は、法、条約及びB規約一三条に何ら違反しな
い。のみならず、そもそも原告に対する退去強制令書の執行が適法であるかどうか
は、本件訴えの利益の存否とは関係のないことであるから、いずれにせよ右の主張
は失当である。
(二) 原告は、法二六条等を根拠として難民の認定がされるためにその外国人が
本邦に在留していることは必要でないものと解すべきである旨主張する。
しかし、同条に基づく再入国の許可は、本邦に在留する外国人に対し、先の在留資
格及び在留期間等の条件を存続させ、その条件のままで再入国することを認める処
分である。すなわち、本邦に在留する外国人は、本来出国すれば在留の実態を失
い、その在留資格等は消滅するところ、再入国の許可を受けることによって、出国
により本来消滅すべき在留資格等は存続することとなる。したがって、本邦在留中
に難民の認定の申請をし、かつ再入国の許可を受けて出国した外国人は、再入国許
可の有効期間中に再入国した場合には在留継続とみなされるが、右期間中に再入国
しなければ、在留条件存続の効果は消滅し、その外国人は、本邦に在留する者では
ないこととなり、難民の認定を受けられないこととなる。
したがって、再入国の許可を受けて出国した外国人はほぼ無条件に難民の認定を受
けられるかのような解釈を前提とする右主張は失当である。
また、再入国の許可を受けて出国した外国人は、何らかの短期目的をもって出国し
た者であって、ほぼ確定的に再入国を予定しているのであるから、これと、再入国
の許可を受けることなく出国し再度本邦に入国するかどうかの不明な者とを同列に
論ずることはできない。ましてや、原告は退去強制令書の執行により国籍国である
中国に送還された者であるから、これを右のような再入国の許可を受けた者と同様
に扱うことはできないものというべく、右主張は失当である。
(三) (1)原告は、行政事件訴訟法九条括弧書によりなお本件不認定処分の取
消しの利益を有する旨主張する。
右にいう「回復すべき法律上の利益」があるとは、処分等によって侵害された権利
又は法律上の利益の回復の可能性があることをいい、右の回復すべき利益とは、原
告適格を基礎付けるに足りる個別的、具体的な個人的利益をいい、事実上の利益又
は反射的利益とされるものはこれに当たらないものと解される。
(2) 右2及び3のとおり、本件不認足処分を取り消す判決が確定した場合、被
告は右判決の趣旨に従い、改めて本件申請に対する判断をすることとなるところ、
原告はもはや本邦に在留していない以上、本件申請に対して難民の認定がされる余
地はないから、この場合に難民の認定がされ、更にこれに関連し、又はこれを前提
とする他の処分がされることを前提とする右主張は、失当である。
三 原告の本案前の主張
1 (一)条約三三条は、「難民を政治的意見のためにその生命又は自由が脅威に
さらされるおそれのある領域へ送還してはならない」というノン・ルフルマンの原
則を定めているところ、法五三条三項はこれを国内法化した規定であり、しかも、
同項は難民認定がされているかどうかを問わずすべての外国人についても適用され
ることとなっている。
(二) 中国においては、政府と政治的意見を異にする者に対して、行き過ぎた取
調べがされ、刑事手続において「公正な裁判を求める国際準則」が保障されておら
ず、このような傾向は天安門事件以後著しくなり、右の者に対しB規約の趣旨に反
する扱いのされるおそれがある。
したがって、被告が原告を中国に送還したことは、政治的意見のためにその生命又
は自由が脅威にさらされるおそれのある領域への送還にほかならず、右ノン・ルフ
ルマンの原則に違反し、更にB規約一三条にも違反している。
したがって、そのような被告の違法な措置によって原告が送還されたことを理由と
して本件不認定処分の取消しを求める利益がなくなったとすることはできない。
2 被告は、難民の認定がされるには、その外国人が本邦に在留していることが必
要である旨主張し、これを前提として原告には本件不認定処分の取消しを求める利
益がない旨主張する。
しかし、法六一条の二は難民の認定の申請の要件であって、これを難民の認定自体
の要件と解する必要はなく、また、法六一条の二の七は、法六一条の二の二第三項
と同様に退去強制に伴う手続につき定めた規定に過ぎないから、法六一条の二及び
法六一条の二の七をもって被告の右前提となる主張の根拠とすることはできない。
むしろ、法五条一項各号の本邦に上陸することのできない事由は限定的列挙であっ
て一旦退去強制令書が執行されて送還された外国人も改めて適法に本邦に上陸する
ことは可能であるとされていること及び法二六条、六条一項ただし書、九条三項た
だし書等によれば難民の認定の申請をした後に再入国の許可を得て出国した外国人
は本邦に在留していないにもかかわらず難民の認定を受けることができるものと解
されることにかんがみると、難民の認定がされるためにその外国人が本邦に在留し
ていることは必要でないものと解すべきである。
したがって、被告の右主張は失当である。
3 (一)処分等の効果が期間の経過その他の理由によりなくなった後においても
なお処分等の取消しによって回復すべき法律上の利益を有する者は、処分等の取消
しの訴えを提起することができるものとされているところ(行政事件訴訟法九条括
弧書)、取消しを求める処分等が、将来の何らかの法律効果についてその要件事実
としての意味を持っている場合、右の法律上の利益があるものと解すべきである。
(二) 難民と認定しない旨の処分が取り消され、難民と認める旨の処分がされる
と、その外国人には在留資格が付与されることとなる。そして、法七条の二によれ
ば、本邦に上陸しようとする外国人は、予め申請をして、被告から法七条一項二号
に掲げる条件に適合している旨の証明書(いわゆる在留資格認定証明書)の交付を
受けることができるものとされ、また、右2のとおり退去強制によって送還された
外国人も改めて適法に本邦に上陸することは可能であるとされている。これらのこ
とからすると、難民と認定しない旨の処分はその外国人が受けることの予想される
処分に重大な影響を持ち、その要件事実を構成するものというべきである。加え
て、本件訴えは裁判所に対し抽象的、一般的な問題についての助言を求めるもので
はないこと、原告がこれまで訴訟追行に費やした労力が考慮されるべきであること
等を併せ考えると、原告は、本件不認定処分の取消しを求めるにつき右(一)の法
律上の利益を有する者に当たる。
四 請求原因に対する被告の認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実は認める。
3 同3のうち、本件申請が原告が本邦に上陸した日から六〇日を経過した後にさ
れたことは認める。
4 同4の事実中、原告が中国福建省福清県の海岸から木造船に乗船して出発し、
平成元年九月二七日本邦沖縄県那覇市所在の那覇新港に到着したことは認め、その
余は知らない。主張は争う。
5 同5の主張は争う。
五 被告の主張
1 原告が難民に当たる根拠として主張する事実は、要するに、平成元年六月三日
中国福建省福川市内において、デモ行進に参加し、ステッカーを貼付する等の活動
をしたこと(以下「デモ行進参加事実」という。)及び同市においてもデモ参加者
に対する責任を追及するため公安当局が活動するようになったことをいうものと解
される。
2 (一)右のデモ行進参加事実に関する原告本人の供述は、本件申請に対する調
査の際と本件不認定処分についての異議の申出に対する調査の際とで、重要な点に
ついて異なっており、しかも不合理な内容を含むものであって信用性に乏しい。
(二) 仮にデモ行進参加事実が認められるとしても、その後差し迫った逮捕のお
それはなく二四日間自宅にいた等の原告本人の供述からすると、当時原告が迫害を
受けるおそれのなかったことは明らかである。
(三) 中国にいる母からの原告宛書信は、その内容に照らしデモ行進参加事実及
びこれを理由とする迫害のおそれを推認させるものではない。
(四) 原告は、本邦到着後、一時庇護のための上陸許可の申請における質問回答
及び法二四条一号該当容疑事件の違反調査において、本邦への渡航目的は稼働のた
めである等の供述をしており、これによれば、原告に迫害事由となる事実がなく、
または事実があったとしても迫害のおそれのないことは明らかである。
3 このように、デモ行進参加事実等の迫害事由となる事実の存在が明らかでな
く、仮にそのような事実があるとしても、迫害のおそれは合理的なものとは認めら
れず、また迫害を受けるおそれについての恐怖は客観的にみて十分に理由があると
は認められない。
よって、原告を難民に当たらないとした本件不認定処分は適法である。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 請求原因1及び2の各事実は当事者間に争いがない。
二 本件訴えの適否について
1 難民の認定を申請をし、これをしない旨の処分を受けた者について、判決によ
ってその処分が取り消され、右判決が確定した場合には、被告は、その趣旨に従
い、改めて難民の認定の申請に対する処分をしなければならないこととなるから
(行政事件訴訟法三三条二項)、原告は、法律上、右申請を認容され、難民の認定
を受ける可能性を得ることとなる。そして、原告の有するこのような法律上の可能
性を得るという利益が、難民の認定をしない旨の処分の取消しを求める訴えの利益
であると解される。
2 (一)法は、難民の認定について、本邦にある外国人から申請があったとき
に、その提出した資料に基づいてこれを行うことができること(法六一条の二第一
項)、その申請は、その者が本邦に上陸した日(本邦にある間に難民となる事由が
生じた者にあっては、その事実を知った日)から六〇日以内に行わなければならな
いこと(同条二項)を定めており、難民の認定の申請をする外国人は本邦にある者
であることを前提として規定している。また、法六一条の二の七は、本邦に在留す
る外国人で難民の認定を受けているものが退去強制令書の発布を受けたときは、速
やかにその所持する難民認定証明書又は難民旅行証明書を返納しなければならない
ことを定めており、この規定は、法六一条の二の二第二項、三項が、難民の認定を
取り消す場合には、被告が、当該外国人に係る難民認定証明書及び難民旅行証明書
がその効力を失った旨を官報に告示すること、当該外国人は、その取消しの通知を
受けたときは、速やかに難民認定証明書又は難民旅行証明書を返納しなければなら
ないことを定めているのと対比すれば、退去強制令書の発布により、難民認定証明
書及び難民旅行証明書がその効力を失うことを前提とするものと解される。そし
て、退去強制令書が発布されるための要件は、難民の認定を取り消す要件と同じで
はなく、外国人は、その受けた難民の認定が取り消されなくとも、退去強制令書の
発布を受ければ、難民認定証明書等を返納しなければならないこととなっているの
であるから、これらの規定によってみると、法は、退去強制令書の発布を受けれ
ば、当該外国人は、速やかに国外に送還され、本邦に在留しないこととなるので、
そのような本邦における在留が法律上否定された外国人については難民の認定の効
力が当然消滅するとの前提に基づいて、以上のような規定をおいているものと解さ
れる。
以上によれば、法は、我が国において外国人を難民と認定するには、その外国人が
本邦にあることを要件としているものと解される。
(二) (1)原告は、法六一条の二の七は退去強制に伴う手続に関する規定に過
ぎないからこれをもって難民の認定を受けるにはその外国人が本邦にあることを要
するものと解することの根拠とすることはできない旨主張するが、同条の趣旨は、
本邦における在留が法律上否定された外国人は難民に対する保護を享受すべき地位
を失うというところにあると解されるから、原告の右主張は採用することができな
い。
(2) 原告はまた、難民の認定の申請をした後に再入国の許可を受けて出国した
外国人は、本邦にないにもかかわらず難民の認定を受けることができると解される
から、難民の認定を受けるにはその外国人が本邦にあることを要するものと解する
ことはできない旨主張する。
しかしながら、法二六条所定の再入国の許可を受けて出国した外国人は、本邦に再
度上陸しようとするに際しその旅券に日本国領事官等の査証を要しないものとされ
(法六条一項ただし書)、上陸の許可を受ける場合に改めて在留資格及び在留期間
の決定を受けることを要しないものとされているが(法九条三項ただし書)、これ
らは、本邦に在留する外国人が一時出国した後再び本邦に入国した場合に、上陸、
在留に関する手続を簡略化するとともに、再入国後の在留を出国前の在留の継続し
たものとみなすこととした規定であって、出国後再び入国するまでの期間において
も従来の在留が継続しているとみなすような趣旨までを含むものではない。したが
って、再入国の許可を受けて出国した外国人といえども、出国後再入国前の現実に
本邦にいない期間において難民の認定を受けることはできないものと解されるか
ら、原告の右主張はその前提において失当であり、採用することができない。
3 (一)その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから
真正な公文書と推定すべき乙第二一号証(退去強制令書謄本)によれば、原告は、
平成元年一二月一一日付けで福岡入国管理局主任審査官から退去強制令書の発布を
受け、平成三年八月一四日中国上海へ向けて出発し、右退去強制令書の執行として
その国籍の属する国である同国へ送還されたことが認められる。
右事実によれば、原告は、現に本邦にある者ではないことが認められるから、難民
の認定を受けるための要件を欠く者となったものといわざるを得ない。
そうであれば、判決によって本件不認定処分を取り消し、再度本件申請に対する処
分をさせることとしても、その結果難民の認定がされることはあり得ないから、本
件訴えは、その利益を欠くに至ったものというほかはない。
(二) (1)原告は、原告が中国に送還されたことは違法であるから、これによ
って本件訴えの利益がなくなったとすることはできない旨主張するが、本邦にない
外国人が難民の認定を受けられないことがその外国人が本邦にない理由のいかんに
かかわらないことは右2の判示に照らして明らかであり、原告が本邦になくなるに
至った経緯や、その適法かどうかといった事柄によって、右2及び3に判示したと
ころが左右されるものではないから、原告の右主張は失当である。
(2) 原告はまた、行政事件訴訟法九条括弧書により本件訴えにはなおその利益
がある旨主張するが、同条括弧書は、処分等の効果が期間の経過その他の理由によ
りなくなった後においてもなお処分等の取消しによって回復すべき法律上の利益を
有する者は、処分等の取消しの訴えを提起することができる旨を定めたものである
ところ、本件不認定処分は、右(一)の事実によってその効果が消滅するものでは
なく、ほかに本件不認定処分の効果が消滅している事実の主張はないから、本件訴
えの利益について同条括弧書の適用される余地はなく、原告の右主張は失当であ
る。のみならず、右主張は、本邦にない外国人も難民の認定を受けることができる
との見解を前提とするものと解されるところ、そのような見解の採用できないこと
は右2に判示したとおりであるから、右主張はこの点においても失当である。
三 以上によれば、本件訴えは不適法なものとなったからこれを却下することと
し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主
文のとおり判決する。
(裁判官 中込秀樹 石原直樹 長屋文裕)

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