弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1(1)原判決中,上告人Yの敗訴部分を破棄する。1
(2)上記(1)の部分につき,本件を東京高等裁判所に
差し戻す。
2(1)原判決中,上告人Yの敗訴部分を破棄する。2
(2)上記(1)の部分につき,被上告人の控訴を棄却す
る。
3上告人Yと被上告人との間においては,控訴費用2
及び上告費用は被上告人の負担とする。
理由
上告代理人武田聿弘,同土屋義隆の上告受理申立て理由第1の4,第2について
1原審が確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)上告人Yは,平成4年に,神奈川県内に所在する墓地を運営していたAか2
ら,同墓地(以下「本件墓地」という。)の土地所有権等の財産の出えんを受けて
設立され,以降,本件墓地の運営を行っている。
(2)Aは,上告人Yと共に,新たな墓地の開発を計画し,そのための資金を被2
上告人から借り入れて調達することとなった。そこで,被上告人は,Aに対し,平
成8年5月21日から平成12年2月29日まで,7回にわたり,利息制限法1条
1項所定の制限利率を超える月3分の利率による利息の約定で,合計4億6000
万円を貸し付けた(以下「本件貸付け」と総称する。)。
Aは,被上告人に対し,本件貸付けに係る各債務(以下「本件借入金債務」と総
称する。)の支払のために約束手形(以下「本件約束手形」と総称する。)を振り
出して交付した。
(3)Aは,上告人Yから,本件墓地のうち1130㎡分の永代使用権を2億52
000万円で購入していたが,そのうち800㎡分の永代使用権(以下「本件墓地
使用権」という。)を,平成14年1月,本件約束手形に基づく手形金債権の担保
としてではなく,本件貸付けの一部の残債権(以下「本件被担保債権」という。)
の担保として被上告人に譲渡し,上告人Yは,被上告人に対し,本件墓地使用権2
の対象区画の使用を承諾する旨を記載した使用権利証を交付した。
(4)Aは,本件借入金債務について,利息の支払を継続した。Aが利息制限法
1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払った部分を元本に充当する
と,本件借入金債務に対する最終の弁済がされた平成16年4月27日までに,本
件貸付けのいずれの貸付けについても,過払金が生じていた。
(5)Aは,平成16年5月,約20億円の負債を抱えて,事実上倒産した。
(6)上告人Yは,昭和62年ころから,Aに対し,金員を貸し付けていたとこ1
ろ,上記Aの倒産時に,約3億3000万円の貸金債権を有していた。そこで,A
の代表取締役と上告人Yの代表取締役は,平成16年12月4日,本件借入金債1
務について生じた過払金が約2億1000万円であるとして,同過払金についての
Aの被上告人に対する不当利得返還請求権(以下「本件過払金返還請求権」とい
う。)を上告人Yに譲渡する旨の合意をし(以下「本件債権譲渡」という。),1
Aの代表取締役は,同月7日,被上告人に対し,本件過払金返還請求権を上告人Y
に譲渡したことを通知した。本件債権譲渡がされた当時,Aには,本件過払金返1
還請求権以外に価値のある財産はほとんどなかったが,本件債権譲渡について,A
の取締役会の決議はなかった。上告人YはこれらのAの事情を知っていた。1
2本件は,①上告人Yが,被上告人に対し,本件債権譲渡により取得した本1
件過払金返還請求権に基づき,その支払を求め,②上告人Yが,被上告人に対2
し,本件墓地使用権の譲渡は本件被担保債権の担保を目的としてAから被上告人に
譲渡されたものであるから,被上告人は,本件被担保債権が弁済により消滅した結
果本件墓地使用権を失ったと主張して,被上告人が本件墓地使用権を有しないこと
の確認を求める事案である。なお,被上告人は,上告人Yの請求について,本件1
債権譲渡はAの「重要ナル財産ノ処分」(平成17年法律第87号による改正前の
商法260条2項1号)に当たり,Aの取締役会決議を経ていないため無効である
旨主張していたが,会社法の制定により,取締役会の権限に関しては同法に上記商
法260条2項と同内容の規定である362条4項が設けられ,会社法の施行前に
生じた事項にも適用されるものとされた(同法附則2項)ので,同法施行後は同法
362条4項1号に該当することによる無効を主張するものと解される。
3原審は,前記事実関係の下において,次のとおり判断して,上告人らの請求
をいずれも棄却した。
(1)上告人Yの請求について1
アAが事実上倒産した平成16年5月以降,本件過払金返還請求権がAの一般
債権者の支払に充てるほとんど唯一の財産であったという状況に照らすと,2億円
を超える本件過払金返還請求権の譲渡を内容とする本件債権譲渡は,Aの重要な財
産の処分に当たり,取締役会の決議が必要であったというべきである。
イ本件債権譲渡については,上記取締役会の決議がなく,上記債権譲渡の相手
方である上告人Yもそのことを知っていたから,上記債権譲渡は無効である。1
(2)上告人Yの請求について2
本件墓地使用権は,Aが上告人Yから対価を支払って購入したものであり,A2
がこれを被上告人に譲渡したことについて,上告人Yも被上告人に使用権利証を2
交付して承認していること,上記譲渡の当事者であるA及び被上告人の間では,上
記譲渡が現在も有効であり,被上告人に本件墓地使用権が帰属していることに争い
がないこと,上告人Yは,本件墓地の所有者であるが,本件墓地使用権に基づく2
墓地使用を受忍する立場にある以上,上記使用権の帰属を承認せざるを得ないこと
から,本件墓地使用権は,被上告人に帰属しているものと認めざるを得ない。
4しかしながら,原審の上記3(1)イ及び(2)の判断は是認することができな
い。その理由は,次のとおりである。
(1)上告人Yの請求について1
会社法362条4項は,同項1号に定める重要な財産の処分も含めて重要な業務
執行についての決定を取締役会の決議事項と定めているので,代表取締役が取締役
会の決議を経ないで重要な業務執行をすることは許されないが,代表取締役は株式
会社の業務に関して一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有することにかん
がみれば,代表取締役が取締役会の決議を経ないでした重要な業務執行に該当する
取引も,内部的な意思決定を欠くにすぎないから,原則として有効であり,取引の
相手方が取締役会の決議を経ていないことを知り又は知り得べかりしときに限り無
効になると解される(最高裁昭和36年(オ)第1378号同40年9月22日第
三小法廷判決・民集19巻6号1656頁参照)。
そして,同項が重要な業務執行についての決定を取締役会の決議事項と定めたの
は,代表取締役への権限の集中を抑制し,取締役相互の協議による結論に沿った業
務の執行を確保することによって会社の利益を保護しようとする趣旨に出たものと
解される。この趣旨からすれば,株式会社の代表取締役が取締役会の決議を経ない
で重要な業務執行に該当する取引をした場合,取締役会の決議を経ていないことを
理由とする同取引の無効は,原則として会社のみが主張することができ,会社以外
の者は,当該会社の取締役会が上記無効を主張する旨の決議をしているなどの特段
の事情がない限り,これを主張することはできないと解するのが相当である。
これを本件についてみるに,前記事実関係によれば,本件債権譲渡はAの重要な
財産の処分に該当するが,Aの取締役会が本件債権譲渡の無効を主張する旨の決議
をしているなどの特段の事情はうかがわれない。そうすると,本件債権譲渡の対象
とされた本件過払金返還請求権の債務者である被上告人は,上告人Yに対し,A1
の取締役会の決議を経ていないことを理由とする本件債権譲渡の無効を主張するこ
とはできないというべきである。
(2)上告人Yの請求について2
前記事実関係によれば,本件墓地使用権は,本件被担保債権の担保としてAから
被上告人に譲渡されたものであり,本件被担保債権は,平成16年4月27日まで
には弁済により消滅したというのであるから,これにより担保の対象である本件墓
地使用権はAに復帰したと解するのが相当である。そして,被上告人は,上記の譲
渡以外に本件墓地使用権の取得原因を主張していないのであるから,Aと被上告人
との間で本件墓地使用権が被上告人に帰属していることに争いがないからといっ
て,上告人Yとの間において被上告人に本件墓地使用権が帰属しているというこ2
とはできない。
なお,上告人Yは,本件墓地の土地所有権を有するのであるから,本件墓地使2
用権を有しないのにそれを有すると主張する者に対し,本件墓地使用権がその者に
帰属しない旨の確認を求めることができることは明らかである。
5以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違
反がある。論旨は理由があり,原判決中,上告人らの敗訴部分は破棄を免れない。
そして,上告人Yの請求については,被上告人の相殺の主張等について更に審理1
を尽くさせるため,同上告人の敗訴部分につき,本件を原審に差し戻すこととし,
上告人Yの請求については,上記説示したところによれば理由があり,これを認2
めた第1審判決は正当であるから,同上告人の敗訴部分につき,被上告人の控訴を
棄却することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官古田佑紀裁判官今井功裁判官中川了滋裁判官
竹内行夫)

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