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判決言渡平成22年2月26日
平成21年(行ケ)第10167号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成22年2月22日
判決
原告株式会社日立国際電気
訴訟代理人弁護士花水征一
同末吉剛
同山田卓
訴訟代理人弁理士上田忠
被告京セラ株式会社
訴訟代理人弁護士古城春実
同堀籠佳典
同玉城光博
同大宅達郎
訴訟代理人弁理士藤巻文雄
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2008−800263号事件について平成21年5月29日
にした審決を取り消す。
第2事案の概要
1本件は,原告が権利者で発明の名称を「携帯電話機」とする特許第3942
281号について,被告が無効審判請求をしたところ,特許庁がこれを認容す
る審決をしたことから,原告がその取消しを求めた事案である。
2争点は,上記特許に係る発明が下記の刊行物に記載された発明との関係で
進歩性を有するか(特許法29条2項),である。

・特開平8−125603号公報(発明の名称「通信端末装置」,出願人ソ
ニー株式会社,公開日平成8年5月17日,甲1。以下,「甲1文献」と
いい,そこに記載された発明を「引用発明」という。)
第3当事者の主張
1請求の原因
(1)特許庁における手続の経緯
原告は,平成10年8月5日に発明の名称を「携帯電話機」とする発明に
ついて特許出願をし,平成19年4月13日に特許第3942281号とし
て設定登録を受けた(請求項の数1。以下「本件特許」という。特許公報は
甲6)。
これに対し,被告は平成20年11月21日付けで本件特許の請求項1に
ついて無効審判請求をしたので,特許庁は,これを無効2008−8002
63号事件として審理した上,平成21年5月29日,「特許第39422
81号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」旨の審決を
し,その謄本は平成21年6月10日原告に送達された。
(2)発明の内容
本件特許の請求項1の内容は,次のとおりである(以下「本件発明」とい
う。)。
「【請求項1】
通話機能と,相手先の電話番号を登録する電話帳機能と,文字あるいは数
字からなるメッセージデータを送信する機能とを有する携帯電話機におい
て,
入力手段により文字あるいは数字を表示手段に表示しながらメッセージデ
ータの作成が行われ,当該作成中のメッセージデータに電話番号データを入
力するために,入力手段のキー操作により予めメモリに保持されている電話
番号を呼出す機能が選択されると,記憶手段に保持されている電話番号デー
タを呼出して表示手段に表示し,当該表示手段に表示されている電話番号デ
ータを入力手段のキー操作により選択して確定操作がなされると,当該選択
された電話番号データを前記作成中のメッセージデータに付加し,入力手段
のキー操作により送信操作がなされると当該作成されたメッセージデータを
送信することを特徴とする携帯電話機。」
(3)審決の内容
ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本件
発明は引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明することができた,
というものである。
イなお,審決が認定する引用発明の内容,本願発明と引用発明との一致点
及び相違点は,別添審決写し記載のとおりである。
(4)審決の取消事由
しかしながら,審決には,以下のとおりの誤りがあるから,違法として取
り消されるべきである。
ア取消事由1(引用発明の認定不能)について
(ア)審決は,本件発明と対比するため,甲1文献から「引用発明」を認定
している。
(イ)しかし,以下のとおり,甲1の段落【0019】及び図4のSP3
の記載が理解不能であるから,甲1から本件発明と対比しうる技術思想
を読み取ることが困難であり,そもそもそこから「引用発明」を認定す
ることは不可能である。
a甲1の段落【0019】には,以下の記載がある。
「ここでは表示画面が図5(A)(判決注:「A」は「a」の誤記
と思われる。以下同じ)になったとして以降の処理を説明する。この
ときCPU9はステップSP3に移り,次に入力する単語が登録され
ているか否かの判定する。この例では次に入力する単語である
「meet」が既に辞書に登録されているので,例えば「*3」等のキー
操作により辞書モード「種類その他」に入る(ステップSP4)。こ
こで「*3」は入力モードを変えるためのキー操作であり,他のキー
の操作でも良い。」
b段落【0019】で言及されるSP3は,以下の図4に記載されて
いる。
cSP3は,CPU9によって行われるステップである(上記段落【
0019】)。しかし,図5(a)の状態において,CPU9は何を
材料として「次に入力する単語は登録してある語か」を判定するの
か,理解することはできない。「次に入力する語」をCPU9が察知
して判定することなど不可能である。
また,SP3の処理が行わなければ,次のSP4である「登録辞書
を選択」する処理へ移行することができないため,引用発明の認定に
直接的に関係するものである。
したがって,甲1の記載から本件発明と対比しうる技術思想を読み
取ることは困難であり,そもそもそこから「引用発明」を認定するこ
とは不可能である。
(ウ)それにもかかわらず,審決は,「甲第1号証の【0019】段落及
び図4のSP3の記載は,技術的にみて正確なものとはいえないが,上
記5.(1)の引用発明の認定に直接的に関係するものではないので,
被請求人の主張は採用できない。」(11頁下8行∼下6行)として,
そもそも不可能な「引用発明」の認定を行い,これと本件発明とを無理
に対比している。
このような審決は,重要な判断を誤った違法がある。
イ取消事由2(引用発明認定の誤り)について
(ア)引用発明につき
仮に,甲1から何らかの発明が認定できるとしても,その発明は,以
下のとおり,電話番号を人名辞書として利用し,ショートメッセージに
人名を入力するものであって,電話番号を入力するものではない。
a(a)甲1には,引用発明の課題解決手段及び適用対象に関し,以下
の記載がある。
・「【請求項1】単文送信機能を備えた通信端末装置において,
使用頻度の高い単語が予め登録された記憶部と,上記記憶部に登
録されている単語の選択を指示する選択手段と,上記選択手段に
よつて選択された単語及び又は入力手段を用いて入力された単語
を表示する表示部とを具えることを特徴とする通信端末装置。」
・「【発明が解決しようとする課題】ところでショートメッセー
ジを送信するときには,適当な方法で必要なメッセージを作って
からそれを相手に送信するだけであるが,携帯電話にはアルファ
ベット入力キー等は通常用意されていないので,どのようにメッ
セージを作成するかが問題になる。」(段落【0005】)
・「実際には数字キーとシフトファンクションキー等を組み合わ
せてアルファベットを入力し,メッセージを入力するようなこと
が一般的には考えられるが,この方法だと手間も時間もかかって
しまう。…」(段落【0006】)
・「なお上述の実施例においては,…本発明はこれに限らず,専
用のアルファベット入力キー等をもたない情報端末であってメッ
セージを入力する機能を有するものに広く適用し得る。」(段落
【0029】)
・「【発明の効果】上述のように本発明によれば,単文の入力
時,使用頻度の高い単語が予め登録されている記憶部から所望の
単語を選択することにより単語を入力できることにより,簡単に
単文を入力することができる通信端末装置を得ることができ
る。」(段落【0033】)
(b)以上の記載から明らかなとおり,引用発明の通信端末装置は,
アルファベット入力キーがなくても単語を入力できるようにするた
め,「使用頻度の高い単語が予め登録された記憶部」及び「上記記
憶部に登録されている単語の選択を指示する選択手段」などを有し
ている。引用発明で課題としているのは,通常はアルファベット入
力キーで入力される単語(例えば名前)を,アルファベット入力キ
ーを用いずに入力することであって,本件発明の課題である電話番
号などの数字列を,数字キーを用いずに入力することは何ら問題と
されていない。
(c)審決(5頁下3行∼6頁1行)の引用する甲1の4欄40行∼
44行(段落【0021】)も,上記通信装置の使用態様の一例で
あり,電話番号の入力を開示したものではない。
b甲1の4欄41行∼42行の「辞書(電話帳)」とは,4欄4行∼
7行(段落【0017】)の「…またのうち人名等は既にSIMカー
ド12内の電話帳として登録されているので,この実施例では人名辞
書はこれを使用するものとする。」との記載が示すとおり,人名辞書
として使用される電話帳を指している。この人名辞書の使用例は,実
施例の「(2−2)任意文の作成」(段落【0018】∼【0021
】),「(2−3)定型文を用いた作成」(段落【0022】∼【0
026】)及び「(2−4)自動挿入モードによる作成」(段落【0
027】∼【0028】)に記載されている。これらの例のいずれで
も,当該人名辞書は,名前の入力に用いられている。例えば,「(2
−2)任意文の作成」では,「M.Tom」の入力に(4欄35行∼38
行),「(2−3)定型文を用いた作成」では,「A.Robin」の入力
に(5欄7行∼23行及び図7),「(2−4)自動挿入モードによ
る作成」では,「Dearxxxx」の「xxxx」に相手先の名前を挿入するた
めに(6欄5行∼12行),人名辞書が用いられている。そして,甲
1には,(2−2)ないし(2−4)以外に,当該人名辞書に関する
記載はない。
審決は,「(2−2)任意文の作成」の一部である4欄40行∼4
4行のみに着目し,この箇所に基づいて,人名ではなく電話番号が入
力されるかのような認定をしている(5頁下3行∼6頁8行)が,こ
の認定は,甲1の課題に反するものであり,極めて不自然である。し
かも,4欄40行∼44行の直後には,文字列であるの入力に関する
記載(「ただし入力する文字が登録されていない場合には,ステップ
SP7−ステップSP8の処理により該当する単語を1文字づつ入力
する。」[4欄44行∼47行])がなされている。
c甲1の4欄40行∼44行の記載は,「因に人名辞書として電話帳
のものを使用する場合には,辞書入力モードを選ぶときに辞書(電話
帳)から人名だけを用いるのか,電話番号だけを用いるのか,それと
も両方表示するのかを,モードとして選択できるようにしておけば良
いだろう。」というものである。この4欄40行∼44行の記載のみ
からも,4欄40行∼44行は,名前の入力のための画面として,人
名,電話番号及びその両方という選択肢を提示したものであることは
明らかである。
そして「人名辞書として電話帳のものを使用する」という表現が示
すとおり,入力対象は,あくまで,単語としての人名であって,電話
番号などの数字列ではない。
特に,電話番号を暗記している場合は,その電話番号を選択するこ
とにより,簡単に名前を入力することができる。なお,類似の例とし
て,郵便番号の入力により住所を表示する例や,電話番号の入力によ
り店舗などの名称を地図上に表示する例もあり,番号を入力して文字
列を表示することは有意義な方法として用いられている。また,電話
番号(5432−6789)を表示して名前(A.Robin)を入力する
ようにすると,例えば,電話帳に複数の同姓(A.Robin,B.Robin等)
が存在していて入力すべき相手がどちらか分からない場合に,電話番
号により識別できるものと考えられる。
審決の解釈によると,電話番号(5432−6789)だけを表示
して電話番号(5432−6789)だけを入力することになり,人
名辞書としての使用及び人名入力として全く意味がないことになる。
d甲7(特開平6−236145号公報。発明の名称「ナビゲーショ
ンシステム」,出願人富士通テン株式会社,公開日平成6年8月2
3日)には,電話番号を入力することにより,その電話番号に対応す
る氏名を表示させる技術が開示されている。また,株式会社エヌ・テ
ィ・テイ・ドコモの提供する携帯電話サービスにおいては,電話番号
の入力により対応する氏名・名称を表示する技術が現在も使用されて
いる(甲8[A作成の報告書])。この技術は,電話番号は記憶して
いるものの氏名を正確に記憶していない,氏名の読みは記憶している
が漢字は正確に覚えていない,氏名の発音は記憶しているが綴りは正
確に覚えていないという場合に有用である。
同様の理由により,甲1においても,電話番号を表示させて人名を
入力することには意義がある。
審決は,甲1について,「人名だけの表示が選択されたときは,人
名がメッセージに付加されることは当然であり,また,電話番号だけ
の表示が選択されたときは,同様に電話番号がメッセージに付加され
ることになると理解するのが妥当である。」(12頁13行∼15
行)と判断している。しかし,この判断は,甲1全体の記載を顧みな
いばかりか,甲7に記載の技術の有用性を顧みない独断的なものとい
わざるをえない。
eなお,被告は,電話番号が引用発明において殊更に排除されている
とはいえない,電話番号は,単なる数字の連続ではなく,数字キーの
みで入力されるとも限らず,原告の主張は前提からして誤っている旨
主張するが,電話番号を入力するのであれば,数字キーを用いて入力
すればよく,わざわざ辞書を用いて入力すれば,かえって手間も時間
もかかってしまうのだから,人名などのアルファベットを効率良く入
力するという引用発明の目的・課題に反することとなる。
また,被告は,甲1の【図3】には,登録される単語例として,人
名と電話番号の組みが複数挙げられているとも主張するが,【図3】
の例では,電話帳を人名辞書に転用しているのだから,人名辞書とし
ての電話帳の中に電話番号のデータが含まれていることは当然であっ
て,この事実が被告主張の根拠となるものではない。
(イ)審決の引用発明認定の誤り
a審決は,甲1の4欄40行∼44行(段落【0021】)の記載に
基づいて「電話帳を辞書として使用する場合に,電話番号だけを用い
るモードを選択したことを想定すると,当該モードの選択は,【00
19】段落の記載を参照すれば,入力手段のキー操作により行われる
ことになる。」(6頁2行∼4行)と判断した。
しかし,当該モードの選択が入力手段のキー操作により行われるこ
とは甲1に記載されていない。段落【0019】に記載された「*
3」等によるモード変更は辞書モードの話であり,電話帳を辞書とし
て使用する場合に,電話番号だけを用いるモードとは異なっている。
bまた,審決は,「…表示部に表示されている電話番号をジョグダイ
ヤルの操作により選択して確定操作がなされると,当該選択された電
話番号が作成中のショートメッセージデータに付加されることになる
のは,当業者に自明のことである。」(6頁6行∼8行)と判断して
いる。
しかし,前記(ア)のとおり,甲1には,ショートメッセージに電話
番号を入力するために,選択された電話番号を作成中のショートメッ
セージに付加するという技術的思想は記載されていない。
この点について,審決は,「甲第1号証には,使用頻度の高い単語
を記憶部に辞書として登録しておき,辞書に登録された単語を表示し
て選択することにより,文を作成することが開示されており,電話帳
を使用する場合には,人名だけの表示,電話番号だけの表示,人名と
電話番号の両方を選択することも開示されている。人名だけの表示が
選択されたときは,人名がメッセージに付加されることは当然であ
り,また,電話番号だけの表示が選択されたときは,同様に電話番号
がメッセージに付加されることになると理解するのが妥当である。被
請求人の主張のように,甲第1号証に『人名辞書として』と記載され
ていることのみを根拠として,電話番号だけの表示がなされていると
きに,電話番号を選択すると人名がメッセージに付加されると解釈す
るのは不自然であり,妥当ではない。」(12頁8行∼19行)と判
断している。
しかし,被請求人(原告)は,「甲第1号証に『人名辞書として』
と記載されていることのみを根拠」にして,「電話番号だけの表示が
なされているときに,電話番号を選択すると人名がメッセージに付加
されている」と主張しているのではない。前記(ア)のとおり,甲1は
「電話番号の入力」を開示したものでなく,「数字列である電話番号
の入力」と解釈することできない。
cしたがって,審決の引用発明についての「…当該作成中のショート
メッセージに電話番号を入力するために,入力手段のキー操作により
記憶部に登録されている電話番号だけを用いるモードが選択される
と,記憶部に記憶されている電話番号を呼出して表示部に表示し,当
該表示部に表示されている電話番号を入力手段のジョグダイヤルの操
作により選択して確定操作がなされると,当該選択された電話番号を
前記作成中のショートメッセージに付加し,…」(審決6頁18行∼
23行)との認定には誤りがある。
(ウ)引用発明の認定の誤りに起因する一致点の認定の誤り
審決は,上述のとおり引用発明の認定を誤っているから,本件発明と
引用発明とが「…当該作成中のメッセージデータに電話番号データを入
力するために,入力手段のキー操作により予めメモリに保持されている
電話番号を呼出す機能が選択されると,記憶手段に保持されている電話
番号データを呼出して表示手段に表示し,当該表示手段に表示されてい
る電話番号データを入力手段により選択して確定操作がなされると,当
該選択された電話番号データを前記作成中のメッセージデータに付加
し,…」(10頁21行∼26行)である点で一致するとの認定にも誤
りがある。
(エ)引用発明の認定の誤りに起因する相違点の看過
審決は,上記引用発明の認定を誤った結果,本件発明と引用発明の相
違点,すなわち,本件発明が電話番号を入力する方法であるのに対して
引用発明が人名等を入力する方法であるとの相違点を看過している。
すなわち,引用発明は,アルファベット入力キーがなくても単語を入
力できるようにするという課題を解決するため,「使用頻度の高い単語
が予め登録された記憶部」及び「上記記憶部に登録されている単語の選
択を指示する選択手段」などの構成を採用し,この構成により,例えば
記憶部から人名辞書を呼び出し,登録されている人名を選択し,その人
名をショートメッセージデータに組み込むことができる,というもので
ある。これに対し,本件発明の解決課題は,メッセージデータ作成中に
電話番号を入力する場合,操作部より一から入力することで誤った電話
番号を入力してしまうことを防ぎ,メッセージデータ作成中にメモリに
登録された電話番号を読み出す際,メッセージデータが消去されてしま
うことを防ぐというものである(本件明細書[甲6]段落【0007】
∼【0009】)。本件発明は,この課題解決のため,メモリに登録さ
れた連絡先等の電話番号を確認した上で,電話番号を直接メッセージデ
ータに入力できるという構成を採用している。
以上のとおり,本件発明及び引用発明は,その解決課題が全く異なっ
ている。入力対象も,引用発明では,本来アルファベットキーで入力さ
れる単語であるところ,本件発明では,本来数字キーで入力される電話
番号であり,全く異なっている。
(オ)なお,被告は,原告の主張を前提としても,甲1から電話番号を入
力することを容易に想到し得ると主張するが,この主張は,無効審判手
続で争われ審理判断された事項からかけ離れており,本件訴訟の審理対
象ではない。また,引用発明はアルファベット入力を対象とするもので
あり,電話番号を入力することは引用発明の課題,目的に反するもので
あるから,引用発明において「人名」を「電話番号」に代えることは導
き出せるものではない。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。
3被告の反論
(1)取消事由1に対し
ア本件発明の技術思想は,本件明細書(甲6)の「課題」の記載(段落【
0007】,【0008】),メッセージデータの作成時にメモリに登録
されている電話番号を直接メッセージデータに入力できるようにして,入
力操作を向上させ,誤入力を防止する旨の「目的・効果」の記載(段落【
0010】,【0022】),及び「課題解決の手段」の記載(段落【0
011】)に照らすと,メッセージデータ作成中にメモリに保持されてい
る電話番号データを呼び出し,呼び出された電話番号データを作成中のメ
ッセージデータに付加するというだけのことにすぎない。
これと同じレベルでいうなら,甲1には,携帯電話機でショートメッセ
ージを作成する際に,辞書や電話帳等に予め登録した単語等を呼び出し
て,入力中のメッセージに付加するという技術思想が明確に記載されてい
る(段落【0016】∼【0026】の実施例,段落【0009】の作
用,段落【0033】の効果の記載)。この甲1に示された技術思想が,
本件発明と同種同等のものであることは論を俟たない。
イまた,仮に,甲1の段落【0019】及び図4のSP3の記載が技術的
に見て正確とはいえなかったとしても,そのことゆえに引用発明が認定不
能となるものでもない。
原告は,「SP3の処理が行われなければ,次のSP4である『登録辞
書を選択』する処理へ移行することができない」というが,CPU9が
「次に入力する語は登録してある語か」を判定する構成は,本件発明と何
ら関係がない。そもそも,本件特許請求の範囲は,「…キー操作により予
めメモリに保持されている電話番号を呼出す機能が選択されると,記憶手
段に保持されている電話番号データを呼出して表示手段に表示し,当該表
示手段に表示されている電話番号データを入力手段のキー操作により選択
して確定操作がなされると,当該選択された電話番号データを前記作成中
のメッセージデータに付加し」などと,もっぱら機能ないし動作によって
発明を記述しており,それらの機能ないし動作をもたらす具体的な技術的
手段・構成を何ら特定していない。
したがって,引用発明の認定も,本件発明と同じレベルで行えば足りる
のであって,甲1の記載に技術的手段ないし構成として多少不明確なとこ
ろがあったとしても,そのことゆえに引用発明が認定不能であるなどとい
う主張は成り立たない。
(2)取消事由2に対し
ア「引用発明につき」の主張に対し
(ア)原告は,引用発明の通信端末装置は,アルファベット入力キーがな
くても単語入力できるようにするため,「使用頻度の高い単語が予め登
録された記憶部」及び「上記記憶部に登録されている単語の選択を指示
する選択手段」などを有しているので,引用発明が課題としているの
は,通常はアルファベット入力キーで入力される単語(名前)を,アル
ファベット入力キーを用いずに入力することであると主張する。
しかし,引用発明の課題についての原告の上記理解は正当でない。も
ともと,メッセージ作成時の手間や負担を減らし,誤入力を防止して効
率的な入力を図ることは,携帯電話装置等の携帯情報端末に限らず,文
字入力装置一般に共通する普遍的な課題である。甲1には,「本発明は
以上の点を考慮してなされたもので,メッセージ作成時の負担をできる
だけ小さくすることができる機能を備えた通信端末装置を提案しようと
するものである。」(段落【0007】)と記載されており,引用発明
も広く誤入力の防止や効率的な入力を課題としたものであることは明ら
かである。「…数字キーとシフトファンクションキー等を組み合わせて
アルファベットを入力し,メッセージを入力するようなことが一般的に
は考えられるが,この方法だと手間も時間もかかってしまう。」(段落
【0006】)は,「メッセージ作成時の負担」を例示したものであ
り,甲1の課題を原告主張のように「アルファベット入力キーがなくて
も単語を入力できるようにする」ことに限定して理解することは相当で
ない。
原告は,甲1では,電話番号などの数字列を数字キーを用いずに入力
することは何ら問題とされておらず,電話番号に関する記載はない,と
主張する。
しかし,甲1が,入力の手間や煩雑さの例として,「数字キーとシフ
トファンクションキー等を組み合わせてアルファベットを入力し,メッ
セージを入力する」と手間や時間がかかってしまうこと(段落【000
6】)に言及しているからといって,そのこと故に「電話番号」が引用
発明において殊更に排除されているとはいえない。
また,原告は電話番号は数字の連続であって,単語を構成するアルフ
ァベット等とは異なるといいたいようであるが,文中においては,電話
番号は通常,「1234−5678」や「(1234)5678」のよ
うに,ハイフォン記号や括弧を付けて記載されることから,単なる数字
の連続ではなく,数字キーのみで入力されるとも限らず,原告の主張は
前提からして誤っている。甲1の【図3】には,登録される単語例とし
て,人名と電話番号の組み(J.Michael1234-0987,M.Tom3456-7654,
A.Robin5432-6789)が複数挙げられているのであるから,甲1の「単
語」が数字列で表される「電話番号」を含むことは明白である。
人名辞書として電話帳を使用しかつ電話番号だけを用いるモードを選
択した場合(甲1,段落【0021】)に電話番号が入力されること
は,原告の主張する課題に何ら矛盾・相反するものではない。
(イ)原告が甲1全体を通じて人名辞書は名前の入力に使用されていると
して引用する箇所は,電話番号だけを用いるモードを選択した場合に関
する記載ではない。すなわち,甲1は,ショートメッセージで任意文を
作成する際,電話帳を使用する場合に選択できるモードとして,「辞書
(電話帳)から人名だけを用いるのか,電話番号だけを用いるのか,そ
れとも両方表示するのか」という3つを挙げている(4欄40行∼44
行,段落【0021】)。ところが,原告が甲1全体を通じて人名辞書
は名前の入力に使用されているとして引用する「(2−2)任意文の作
成」での「M.Tom」の入力(段落【0021】),「(2−3)定型文
を用いた作成」での「A.Robin」の入力(段落【0023】∼【002
4】)及び「(2−4)自動挿入モードによる作成」での「Dearxxxx」
の「xxxx」への相手方の名前の挿入(段落【0028】)は,いずれ
も,電話番号だけを用いるモードを選択した場合(段落【0021】)
についての記載ではない。
甲1の段落【0018】以下には,辞書を使用して,任意に文を作成
する方法についての記載があり,段落【0020】及び【図5】には,
辞書モードに入ると,「候補文字列」が表示されるので,カーソルを移
動し,「候補文字列」(「meet」)を選択すると,【図5】(c)のよ
うに,先に入力した単語の後に選択された「候補文字列」(「meet」)
が入力された状態となることが記載されている。そして,段落【002
1】には,「因に人名辞書として電話帳のものを使用する場合には,辞
書入力モードを選ぶときに辞書(電話帳)から人名だけを用いるのか,
電話番号だけを用いるのか,それとも両方表示するのかを,モードとし
て選択できるようにしておけば良いだろう。」と記載されているから,
人名辞書として電話帳を使用しかつ電話番号だけを用いるモードを選択
した場合(段落【0021】),電話帳に登録された「電話番号」が選
択候補文字列として表示され,カーソルを移動し,「電話番号」を選択
すると,文中に「電話番号」が入力されることは自明である。
原告は,甲1の「…ただし入力する文字が登録されていない場合に
は,ステップSP7−ステップSP8の処理により該当する単語を1文
字づつ入力する。」(4欄44行∼47行,段落【0021】)との記
載を挙げて,文字列である単語の入力に関する記載がなされている,と
主張するが,そもそも原告指摘の箇所に「単語」の入力に関する記載が
あることが何故電話番号が入力されないことに結び付くのかは,不明で
ある。甲1の「特許請求の範囲」にも「発明の詳細な説明」にも,「単
語」が文法上の意味・機能を有するものに限定される(数字を含まな
い)との記載や示唆はない。のみならず,電話番号を含む文は,メッセ
ージ等において普通に用いられており,その場合の電話番号は文の成分
である。したがって,「単語」を「文法上の意味・機能を有する,言語
の最小単位」(審判時の答弁書における原告の主張)を意味すると解し
ても,電話番号が「単語」であることは明らかである。
加えて,電話番号が文法上の意味・機能を有しないと理解するのであ
れば,人名(例えば,「M.Tom」の文字列)も同様に文法上の意味・機
能を有しないと理解すべきところ,甲1には,そのような「人名」が選
択作業により入力されることが記載され(段落【0021】),【図3
】には,登録される単語例として,人名と電話番号の組み(J.Michael
1234-0987,M.Tom3456-7654,A.Robim5432-6789)が複数挙げられてい
る。これらの記載に照らしても,人名や電話番号が「単語」に含まれる
ことは自明である。そして,人名や電話番号に関しても,メッセージ作
成時の負担をできるだけ少なくする課題(段落【0007】)は存在す
るし,単文作成を簡単に行うことができるという作用(段落【0009
】)が得られるのである。単語には数字を含まないから,甲1にメモリ
(辞書)から電話番号を入力することの記載はないという原告の主張
は,失当である。
(ウ)原告は,甲1の「因に人名辞書として電話帳のものを使用する場合
には,辞書入力モードを選ぶときに辞書(電話帳)から人名だけを用い
るのか,電話番号だけを用いるのか,それとも両方表示するのかを,モ
ードとして選択できるようにしておけば良いだろう。」(4欄40行∼
44行・段落【0021】)の記載は,名前の入力のための画面表示と
して,人名,電話番号及びその両方という選択肢を提示したものであ
り,入力対象となるのは,単語としての人名であって,電話番号などの
数字列ではない,と主張する
しかし,電話帳に登録され,表示された人名と電話番号のうち,人名
は入力のために使用できるが,電話番号は入力のために使用できないと
いうのは,いかにも不自然である。甲1には,「【作用】単文の入力
時,使用頻度の高い単語を記憶している記憶部から所望の単語を選択す
れば所望の単語を入力できることにより,単文作成を簡単にできる。」
(段落【0009】。段落【0033】も同旨)として,単語一般につ
き,区別を設けることなく,記憶→選択→入力されることが記載されて
いるのであるから,電話帳(記憶部)に記憶された単語が,人名であ
れ,電話番号であれ,選択により入力できることは,むしろ自明といっ
てよい。
また,原告は,「人名辞書として電話帳のものを使用する」(段落【
0021】)という表現は入力対象が人名であることを示していると主
張するが,甲1の「人名辞書として…使用する」を「人名を入力する」
に勝手に置きかえて読んでおり,誤りである。甲1の「人名辞書」に関
する記載には,「またそのうち,人名等は既にSIMカード12内の電
話帳として登録されているので,この実施例では人名辞書はこれを使用
するものとする。」(段落【0017】)とあり,この記載から,甲1
の「人名辞書」は,人名以外も含むものであることがわかる。そして,
同記載及び「また同じくCPU9に接続されるSIMカード12には電
話帳データの他…が記憶されており,…」(段落【0016】),
「(2−1)メッセージ作成用辞書」(段落【0017】),「次にこ
のような辞書を使用して,任意に文を作成する方法を説明する。」(段
落【0018】)等の記載から,「人名辞書」は,記憶部(SIMカー
ド12内)に登録され,メッセージの作成に使用されるデータを意味し
ていることは明らかであり,「人名」のみが入力されるという意味合い
は含まれていない。したがって,「人名辞書として電話帳のものを使用
する」(段落【0021】)の記載を根拠に,甲1には,電話番号を入
力することは記載されていないという原告の主張には理由がない。
さらに,甲1において,選択される候補文字列と入力される単語は同
じであり,電話番号だけを用いるモードを選択した場合にのみ,選択さ
れる候補文字列と入力される単語が異なると解すべき理由はない。仮に
両者が異なるとすれば,甲1には,候補文字列が選択された後に,(そ
れとは異なる)入力される単語を決定することに関する記載はあるはず
であるが,そのような記載はない。したがって,電話番号だけを用いる
モードを選択した場合にも,選択される候補文字列と入力される単語
(電話番号)は同一であると考えるのが自然である。甲1の段落【00
09】に「【作用】単文の入力時,使用頻度の高い単語を記憶している
記憶部から所望の単語を選択すれば所望の単語を入力できることによ
り,単文作成を簡単にできる。」と記載されている(段落【0033】
も同旨)ように,選択される単語にも入力できる単語にも,同一の「所
望の単語」という言葉が用いられているから,両者は同一である。ま
た,【図5】の(c)には,表示される「候補文字列」を選択した後の
状態が示されているが,そこで,文中に入力されたものは,当該選択さ
れた「候補文字列」である。よって,電話番号だけを用いるモードを選
択した場合に,表示された電話番号を選択するとショートメッセージに
入力されるのは,当該選択された電話番号である。
(エ)原告は,甲7を引用して,電話番号を表示して名前を入力する構成
の有用性を述べる。しかし,主張される有用性は,電話番号を暗記して
いる場合に電話番号を選択して名前を入力する,電話番号を表示して名
前を入力するようにすると,電話帳に複数の同姓がいる場合に電話番号
により識別できる,などという実際問題として非現実的な利便にすぎな
いし,仮にそのよう有用性があったとして,それがなぜ引用発明におい
て電話番号を表示しながら「電話番号」を入力できない根拠となるの
か,理解できない。甲7に記載された事項は,検索機能を有するナビゲ
ーションシステムに関するものであって,本件には関係がない。
イ「審決の引用発明認定の誤り」の主張に対し
(ア)原告は,甲1の段落【0019】に記載された「*3」等によるモ
ード変更は辞書モードの話であり,電話帳を辞書として使用する場合
に,電話番号だけを用いるモードとは異なると主張する。
しかし,甲1の段落【0019】には,入力モードの変更,辞書モー
ドの選択等がキー操作により行われることが記載されているから,段落
【0021】の「辞書入力モードを選ぶとき」の「電話番号だけを用い
る」モードの選択も,キー操作により行われることは自明である。
また,原告は,甲1には,ショートメッセージに電話番号を入力する
ために,選択された電話番号を作成中のショートメッセージに付加する
という技術的思想は記載されていない,と主張するが,その主張に理由
がないことは上述したとおりである。
(イ)上述したとおり,審決の引用発明の認定には何ら誤りはなく,した
がって,審決には,原告が主張するような一致点の認定の誤りも,相違
点の看過もない。
(ウ)原告は,本件発明と引用発明との解決課題の違いを主張するが,本
件発明と引用発明の課題の対比は,引用発明の認定とは直接関係のない
事項であるから,課題の違いを引用発明の認定の問題として主張するの
は,的外れである。
なお,本件明細書(甲6)には,「【発明が解決しようとする課題】
しかしながら,上述した(被告注:従来の)携帯端末装置では,電話番
号等がメモリに登録され記録されているにも拘らず,電話番号等を操作
部のテンキーにより一から入力する必要があり煩雑で,入力モードが文
字入力モードであれば一旦数字入力モードに変更する必要があり,ま
た,操作部より一から入力することで誤った電話番号等を入力してしま
うといった問題があった。」(段落【0007】)と記載されているか
ら,本件発明が,誤入力の防止や効率的な入力を課題としていることは
明らかであるところ,既に述べた引用発明の課題も,本件発明と共通す
る。
(エ)上述したように,原告の上記主張は理由がないものであるが,人名
辞書として電話帳を使用しかつ電話番号だけを用いるモードを選択した
場合(段落【0021】)に「人名」が入力されるという原告の立場を
前提としても,甲1には,人名だけを用いるモードを選択した場合に,
選択された候補文字列をショートメッセージに入力することが記載され
ているから,選択した電話番号がショートメッセージに入力される構成
は,甲1に実質的に記載されているか,少なくとも甲1から想到容易で
あることに変わりはない。すなわち,甲1には,人名辞書として電話帳
のものを使用しかつ人名だけを用いるモードを選択することが記載され
ており(段落【0021】),この場合に,電話帳に登録された人名が
候補文字列として表示され,選択操作により選択された候補文字列とし
ての人名そのものがショートメッセージに入力される。そして,甲1の
「人名辞書」には,「人名等」,すなわち人名以外のデータも登録され
ることが予定されており,「人名」も「電話番号」も電話帳に登録され
た候補文字列である点で何ら差異はないから,候補文字列が「人名」で
あるか「電話番号」であるかは実質的な相違点とはなり得ず,少なくと
も「人名」を「電話番号」に代えることは極めて容易である。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審
決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2本件発明の意義
(1)本件特許請求の範囲【請求項1】は,前記第3,1(2)のとおりであり,
本件明細書の【発明の詳細な説明】の記載(甲6)は,次のとおりである。
ア発明の属する技術分野
「本発明は,メッセージデータを送信可能な携帯端末装置に関し,特
に,メッセージデータを作成する際に,電話番号データを数字キーにより
入力することなくメッセージデータを作成する携帯端末装置に関するもの
である。」(段落【0001】)
イ従来の技術
・「近年,携帯電話機,PHS(パーソナル・ハンディフォン・システ
ム)等の携帯無線端末には,通話のみならず,相手先の電話番号を登録
する電話帳機能,通話中に相手の音声を録音しておく録音機能,数字あ
るいは文字からなるメッセージデータを送信する機能等があり,高機能
化している。
また,単方向の通信端末の選択呼出受信機いわゆるページャについて
もメッセージデータをDTMF(DialToneMultiFr
equency)信号に変換して送信する機能を有しているものがあ
る。」(段落【0002】)
・「ここで,従来の携帯無線端末,ページャ等の携帯端末装置につい
て,その一例である携帯電話機を用いて図4及び図5を参照して説明す
る。
図4は,携帯電話機の操作部の構成一例を示す図である。
操作部は,文字あるいは数字等のデータを入力する数字キーを有する
テンキー41と,各種機能を選択する機能キー42と,メモリに記憶さ
れている電話番号データを呼出す呼出キー43と,上記テンキーにより
入力されるデータを数字とカナ文字及び英文字とを変更するカナ/英キ
ー44と,各種機能等の選択,電話番号データの確定をする確定キー4
5と,メッセージ等の入力を終了するための終了キー46とから構成さ
れている。」(段落【0003】)
・「図5は,従来の携帯端末装置におけるメッセージデータ作成の処理
を示すフローチャートである。
まず,ステップ501では,上記操作部の機能キー42を押下するこ
とにより,メッセージ作成モードを選択して,ステップ502におい
て,テンキー41により文字あるいは数字からなるメッセージデータの
入力処理が行われる。次に上記入力メッセージデータに連絡先の電話番
号等を入力するために,ステップ503で数字入力モードか否かの判断
がなされ,数字入力モードでない場合には,ステップ504において上
記カナ/英キー44による数字入力モードの選択が行われ,ステップ5
05で電話番号の数字データ入力が行われる。」(段落【0004】)
・「また,数字入力モードの場合には,入力モードを変換せずにステッ
プ505の電話番号データの入力が行われ,次に,ステップ506で上
記終了キー46が押下されたか否かの判断,すなわちメッセージデータ
の作成が終了したかの判断がなされ,終了キー46が押下されない場合
には,ステップ502へ戻り,文字あるいは数字の入力が行われる。一
方,終了キー46が押下された場合には,メッセージデータ入力の処理
を終了して,上記作成されたメッセージデータの送信処理が行われ
る。」(段落【0005】)
・「また,ステップ506では,メッセージデータ作成中に,機能キー
42,呼出キー43が押下されて電話番号呼出モードが選択されると,
メッセージデータ作成処理が中止され,ステップ507でメモリに登録
されている電話番号が携帯端末装置の表示部に表示される。そして,電
話番号が表示された後,すなわち,ステップ501へ戻り,再度メッセ
ージ作成モードの選択を行い,最初からメッセージデータの作成を行っ
ていた。」(段落【0006】)
ウ発明が解決しようとする課題
・「しかしながら,上記した携帯端末装置では,電話番号等がメモリに
登録され記録されているにも拘らず,電話番号等を操作部のテンキーに
より一から入力する必要があり煩雑で,入力モードが文字入力モードで
あれば一旦数字入力モードに変更する必要があり,また,操作部より一
から入力することで誤った電話番号等を入力してしまうといった問題が
あった。」(段落【0007】)
・「また,メッセージデータを作成中に,携帯端末装置のメモリに登録
している連絡先等の電話番号を確認するためには,メッセージデータの
作成処理を中止し,電話番号呼出モードへの変更を行わなければならな
いため,一度作成したメッセージデータが消去してしまうという問題点
があった。」(段落【0008】)
・「本発明は上記問題点を解決し,使用者がメッセージデータの作成時
に,電話番号を操作部のテンキーの数字キーより直接入力することをな
くし,メモリに登録されている電話番号を直接メッセージデータに入力
することができ,操作部からの入力操作を向上させ,入力データの誤り
を防止する携帯端末装置を提供することを目的とする。」(段落【00
09】)
エ課題を解決するための手段
「本発明の携帯端末装置では,予め電話番号データを保持する記憶手段
と,入力手段によりメッセージデータ作成中に電話番号データを入力する
際に,前記記憶手段に保持されている電話番号データを呼出す電話番号呼
出手段と,前記電話番号呼出手段により呼出された電話番号データを前記
メッセージデータに付加する電話番号付加手段とを備えた携帯端末装置で
ある。
したがって,使用者はメッセージデータ作成中に,記憶手段に保持され
ている電話番号データを呼出して,メッセージデータに付加することがで
きる。」(段落【0010】)
オ発明の効果
「以上説明したように,本発明の携帯端末装置では,メッセージデータ
作成時自局電話番号やその他複数の電話番号データを入力する際に,デー
タメモリに予め登録してある電話番号データを呼出して,作成中のメッセ
ージデータに付加することにより,従来のように数字キーを用いて入力す
ることがないため,誤入力を防止して確実な電話番号データを入力するこ
とができる。」(段落【0022】)
(2)上記(1)によれば,本件発明は,通話機能と,相手先の電話番号を登録す
る電話帳機能と,文字あるいは数字からなるメッセージデータを送信する機
能とを有する携帯電話機において,メッセージデータ作成時に,自局電話番
号やその他の電話番号データを入力する際に,データメモリに予め登録して
ある電話番号データを呼出して,作成中のメッセージデータに付加し,当該
作成されたメッセージデータを送信することにより,煩雑な数字キーの操作
をすることなく電話番号を入力することができ,また,誤入力を防止して確
実な電話番号データを入力することができ,さらに,メッセージデータを作
成中に登録している電話番号を確認するために一度作成したメッセージデー
タが消去されることがないものであると認められる。
3引用発明の意義
(1)甲1文献(特開平8−125603号公報)には,以下の記載がある。
ア特許請求の範囲
「【請求項1】単文送信機能を備えた通信端末装置において,使用頻度
の高い単語が予め登録された記憶部と,上記記憶部に登録されている単語
の選択を指示する選択手段と,上記選択手段によって選択された単語及び
又は入力手段を用いて入力された単語を表示する表示部とを具えることを
特徴とする通信端末装置。」
イ発明の詳細な説明
(ア)産業上の利用分野
「本発明は通信端末装置に関し,例えばディジタルセルラ端末に適用
し得るものである。」(段落【0002】)
(イ)従来の技術
・「今日,ディジタル移動体通信システムの実現のため各国で様々な
システム(ディジタルコードレス電話システムやディジタル自動車電
話システム)が検討されている。例えばDECT(DigitalEuropean
CordlessTelecommunicaions)やGSM(GroupeSpicialde
Mobile)がそれである。」(段落【0003】)
・「これらは携帯電話機能についてのシステムであるが,これらの中
にはGSMのようにショートメッセージサービスの提供が予定されて
いるものがある。ショートメッセージサービスは160文字までの7
〔bit〕文字を送受信するサービスであり,これを使用すれば携帯電
話をページャーのように使用することができる。すなわち利用者は自
分当てに届いたメッセージを受信機(携帯電話)のディスプレイ上で
確認したり,ICカード(例えばSIM(SubscriberIdentity
Module)カード)内のメモリ等に一時蓄えておき,後からそれを参照
することも可能である。」(段落【0004】)
(ウ)発明が解決しようとする課題
・「ところでショートメッセージを送信するときには,適当な方法で
必要なメッセージを作ってからそれを相手に送信するだけであるが,
携帯電話にはアルファベット入力キー等は通常用意されていないの
で,どのようにメッセージを作成するかが問題になる。」(段落【0
005】)
・「実際には数字キーとシフトファンクションキー等を組み合わせて
アルファベットを入力し,メッセージを入力するようなことが一般的
には考えられるが,この方法だと手間も時間もかかってしまう。そこ
で予め定型文を携帯電話内のメモリなどに組み込んでおき,これをそ
のまま使うか,又はそれを利用者が必要な部分のみ変更して使用する
ことが考えられている。しかしその場合でも,丁度良い定型文がある
とは限らず,修正して使用するにしても前述のように修正自体に手間
がかかるものであった。」(段落【0006】)
・「本発明は以上の点を考慮してなされたもので,メッセージ作成時
の負担をできるだけ小さくすることができる機能を備えた通信端末装
置を提案しようとするものである。」(段落【0007】)
(エ)課題を解決するための手段
「かかる課題を解決するため本発明においては,単文送信機能を備え
た通信端末装置において,使用頻度の高い単語が予め登録された記憶部
(12)と,記憶部(12)に登録されている単語の選択を指示する選
択手段(11)と,選択手段(11)によつて選択された単語及び又は
入力手段を用いて入力された単語を表示する表示部(11)とを設け
る。」(段落【0008】)
(オ)作用
「単文の入力時,使用頻度の高い単語を記憶している記憶部から所望
の単語を選択すれば所望の単語を入力できることにより,単文作成を簡
単にできる。」(段落【0009】)
(カ)実施例
a全体構成
・「まずディジタル携帯電話の概略構成から説明する。図1に示す
ように,携帯電話1は送受信アンテナ2の他,高周波(RF)信号
処理回路3,変復調/データ処理回路4,音声処理回路5等の各種
の回路によつて構成されている。そして送信されてきた音声信号を
スピーカ6を介して再生する一方で,通話者の声をマイク7を通じ
て取り込み,これを送受信アンテナ2から送信するようになされて
いる。」(段落【0011】)
・「因にこの実施例で用いる表示操作部11はショートメッセージ
を画面上に表示する表示部11Aと表示される内容の入力や選択に
用いられるジョグダイヤル11B及び各種操作キー11Cによつて
構成されている。ここでジョグダイヤル11Bは画面上に表示され
たカーソルを移動させる回動機構の他,選択された情報の確定に用
いられるクリック機構とを備えており,画面上に表示される複数の
候補例から特定の候補を簡単に選択し,確定できるようになされて
いる。」(段落【0015】)
・「また同じくCPU9に接続されるSIMカード12には電話帳
データの他,メッセージ作成用の定型文等が記録されており,携帯
電話1の機能を拡張するために必要なデータや情報等が記憶されて
いる。この実施例ではこの機能をショートメッセージの作成に用い
る。」(段落【0016】)
bショートメッセージの作成
(a)メッセージ作成用辞書
「単語等を登録するときには,種類毎に分けて登録できるように
しておけば使い勝手が良くなると考えられる。そこでこの実施例で
は良く使用されるであろう単語を人名や場所ごとに分類して登録し
ておく。またのうち人名等は既にSIMカード12内の電話帳とし
て登録されているので,この実施例では人名辞書はこれを使用する
ものとする。勿論,新たに作成しても良い。このような辞書を利用
者が編集できるようにしておけば,利用者の好みにあった辞書も作
成可能である。辞書の例を図3に示す。」(段落【0017】)
(b)任意文の作成
・「次にこのような辞書を使用して,任意に文を作成する方法を
説明する。図4に入力手順を示し,図5にこの場合の表示画面例
を示す。例えば「IwillmeetM.Tomatoffice,today」等のメッ
セージを入力したい場合,CPU9はショートメッセージの入力
モードが任意文の作成が選択されると,ステップSP1からステ
ップSP2に入り,文字の入力を受け付ける状態になる。」(段
落【0018】)
・「ここでは表示画面が図5(a)になったとして以降の処理を
説明する。このときCPU9はステップSP3に移り,次に入力
する単語が登録されているか否かの判定する。この例では次に入
力する単語である「meet」が既に辞書に登録されているので,例
えば「*3」等のキー操作により辞書モード「種類その他」に入
る(ステップSP4)。ここで「*3」は入力モードを変えるた
めのキー操作であり,他のキーの操作でも良い。」(段落【0
019】)
・「辞書モードに入ると候補文字列が表示されるので,図5
(b)のような状態でカーソルを移動し,「meet」を選択する
(ステップSP5)。前述のようにこのような選択作業にはジョ
グダイヤル11Bを使用すればすばやい選択操作が可能である。
このような選択作業の後は図5(c)のようになるので,後のメ
ッセージ入力を続ければ良い。」(段落【0020】)
・「例のようなメッセージ文の場合には,ステップSP6からス
テップSP3に戻り,「M.Tom」,「office」,「today」等の文
字列を全て,前述のような選択作業だけで入力する。よってこの
例では1文字毎にメッセージを入力するのに比べ,早く簡単にメ
ッセージの入力ができる。因に人名辞書として電話帳のものを使
用する場合には,辞書入力モードを選ぶときに辞書(電話帳)か
ら人名だけを用いるのか,電話番号だけを用いるのか,それとも
両方表示するのかを,モードとして選択できるようにしておけば
良いだろう。ただし入力する文字が登録されていない場合には,
ステップSP7−ステップSP8の処理により該当する単語を1
文字づつ入力する。」(段落【0021】)
(c)定型文を用いた作成
・「これに対して登録してある定型文を用いてメッセージを作る
ときには,その一部を変更したい場合等が良くあるものと思われ
る。このような場合には,変更したいものが場所や人名など種類
別に辞書登録してあるものであれば,比較的簡単に変更すること
ができる。このとき定型文自体に,場所や人名など辞書を使用し
て変更可能なものについて何らかの印をつけてあれば,利用者に
とつても便利である。」(段落【0022】)
・「このようなものの入力手順を図6に示し,図7及び図8にこ
の場合の表示画面例を示す。まず図7を用いて説明する。定型文
として「Iwillmeethimatoffice」などを使用し,これを「I
willmeetA.Robinatschool」と変更したい場合には,予め
「meet」,「him」,「office」と言った単語にはアンダーバー
があるので,この語を辞書を変更して変更可能なことはすぐにわ
かる(ステップSP11∼ステップSP13)。」(段落【00
23】)
・「従って図7(a)のように,ジョグダイヤル11B等を使用
してカーソルを「him」の下に移動して選択すれば(ステップS
P14),この単語は予め変更を予定された単語であるためステ
ップSP15からステップSP16にCPU9の処理は自動的に
移り,人名辞書モードに入つて候補を表示する状態になる図7
(b)。この状態で必要な名前を選択すれば図7(b)から図7
(c)に表示画面が切り替わる(ステップSP17)。このよう
に定型文の変更も簡単にできてしまう。このような変更を
「office」に関しても適用すれば望むようなメッセージを作成す
ることも容易である。」(段落【0024】)
・「これに対して定型文で指定されたキーワード以外の単語を変
更する場合でも,それを登録してある語に変更するだけならば難
しくない。これはステップSP15−ステップSP18−ステッ
プSP19−ステップSP16−ステップSP17の処理であ
る。まず図7(a)の「will」のように印(アンダーバー)が付
いていない場合,これを例えば「may」に変更したいとすれば
「may」が「その他」の辞書に登録されていれば,上述のような
手段で(辞書の種類は人為的に選択せねばならないかも知れない
が),変更することも容易である。」(段落【0025】)
・「このように文中に何らかの印をつけて,辞書による変更が可
能な単語を示す以外にも,予め変更可能な単語を文とは別に示す
ような方法もある。このような例を図8に示す。図8では
「meet」,「him」,「office」などのような単語を予め変更情
報(changeinformation)として画面の下に示し,この中から変
更が必要な単語を選択してから,辞書による実際の変更を行うよ
うな作業を,利用者に行ってもらう。上述のような変更方法は一
例であり,他にもこのような変更方法を組み合わせたりして,利
用者が使い易いように変更は可能であろう。」(段落【0026
】)
(d)自動挿入モードによる作成
・「このような例は,今まで述べたものと比べると若干異質では
あるが,メッセージ作成時に登録してある名前等を使用して,相
手名や自分の名前を自動的に文章中に埋め込んでしまうようなこ
とも考えられる。例えば携帯電話1に自分(発信者)の名前を登
録しておき,SIMカード12内の電話帳から相手を選択してメ
ッセージを出すことを考える。」(段落【0027】)
・「このようなとき分かりやすい例として,文の最初に「Dear
xxxx,」,文の最後に「Fromyyyy.」を付加するようなものを考え
てみる。ここで「xxxx」は相手の名前,「yyyy」は自分の名前で
あるとする。このような文を定型文の最初と最後に付加するよう
な設定をした場合に,登録した発信者の名前を「yyyy」に挿入
し,電話帳から選んだ相手先の名前を「xxxx」に自動挿入するこ
とは容易にできる。その他の定型文内でも自分の名前を入れる場
所や相手の名前が入る場所がわかっている場合にはそのような設
定を定型文に行い名前を自動挿入するようなことも可能であ
る。」(段落【0028】)
c他の実施例
・「なお上述の実施例においては,ショートメッセージの入力機能
を有するディジタルセルラー端末について述べたが,本発明はこれ
に限らず,専用のアルファベット入力キー等をもたない情報端末で
あってメッセージを入力する機能を有するものに広く適用し得
る。」(段落【0029】)
・「また上述の実施例においては,選択操作キーとしてジョグダイ
ヤルを用いる場合について述べたが,本発明はこれに限らず,カー
ソルの移動方向を入力する操作方向と項目の選択を確定する操作方
向とが異なる入力装置であれば他の機構の入力装置を用いても良
い。」(段落【0030】)
・「例えば回転角が所定角度に制限されたいわゆるジョグシャトル
を用いても良い。またクリック機構付きのトラックボールやジョイ
スティックを用いても良い。またクリック機構付きのスライドスイ
ッチを用いても良い。」(段落【0031】)
・「さらに上述の実施例においては,電話帳や固定文等をSIMカ
ード12内のメモリに格納する場合について述べたが,本発明はこ
れに限らず,本体内のメモリに格納しても良い。」(段落【003
2】)
(キ)発明の効果
「上述のように本発明によれば,単文の入力時,使用頻度の高い単語
が予め登録されている記憶部から所望の単語を選択することにより単語
を入力できることにより,簡単に単文を入力することができる通信端末
装置を得ることができる。」(段落【0033】)
ウ図面
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
(2)上記(1)によれば,引用発明は,①携帯電話において,ショートメッセー
ジを送信するときには,適当な方法で必要なメッセージを作って,それを相
手方に送信するが,携帯電話にはアルファベット入力キー等は通常用意され
ていないので,実際には数字キーとシフトファンクションキー等を組み合わ
せてアルファベットを入力し,メッセージを入力するようなことが一般的に
は考えられるが,この方法だと手間も時間もかかってしまう,②そこで予め
定型文を携帯電話内のメモリなどに組み込んでおき,これをそのまま使う
か,又はそれを利用者が必要な部分のみ変更して使用することが考えられて
いるが,その場合でも,丁度良い定型文があるとは限らず,修正して使用す
るにしても修正自体に手間がかかる,③そこで,引用発明は,携帯電話にお
いて,「使用頻度の高い単語が予め登録された記憶部と,記憶部に登録され
ている単語の選択を指示する選択手段と,選択手段によって選択された単語
及び又は入力手段を用いて入力された単語を表示する表示部とを具えるこ
と」によって,メッセージ作成時の負担をできるだけ小さくすることができ
るようにしたものである,と認められる。
そして,上記(1)によれば,引用発明は,「通話機能と,相手先の電話番
号を登録する電話帳機能と,ショートメッセージデータを送信する機能とを
有する携帯電話において,入力手段により単語を表示部に表示しながらショ
ートメッセージデータの作成が行われ,当該作成中のショートメッセージに
単語を入力するために,記憶手段に保持されている単語を呼出して表示手段
に表示し,当該表示部に表示されている単語を入力手段のジョグダイヤルの
操作により選択して確定操作がなされると,当該選択された単語を前記作成
中のショートメッセージデータに付加し,当該作成されたショートメッセー
ジデータを送信する携帯電話。」というものであると認められる。
引用発明に関するその余の点については,後記5で判断する。
4取消事由1について
(1)前記3(1)イ(カ)b(b)のとおり,甲1の段落【0019】には,「ここ
では表示画面が図5(a)になったとして以降の処理を説明する。このとき
CPU9はステップSP3に移り,次に入力する単語が登録されているか否
かの判定する。この例では次に入力する単語である『meet』が既に辞書に登
録されているので,例えば『*3』等のキー操作により辞書モード「種類そ
の他」に入る(ステップSP4)。ここで『*3』は入力モードを変えるた
めのキー操作であり,他のキーの操作でも良い。」と記載されているとこ
ろ,CPU9は何を材料として「次に入力する単語は登録してある語か」を
判定するのかが記載されていないが,そうであるとしても,以上の点が明ら
かにならなければ,まとまりのある技術思想としての引用発明を認定するこ
とができないということにはならないのであって,後記5(2)のとおり引用
発明を認定することができ,これに基づいて,後記5(6)のとおり,本件発
明は,引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明することができたと認め
られる。
(2)したがって,取消事由1は理由がない。
5取消事由2について
(1)前記3(2)で認定した引用発明の意義のうち,そこでいう「単語」に電話
番号データが含まれるかどうかについて判断すると,以下に述べるとおり,
ここでいう「単語」に電話番号データが含まれるものと認めることができ
る。
ア引用発明は,前記3(2)のようなものであるから,その解決すべき課題
は,アルファベット入力キーを持たない携帯電話においてメッセージ作成
時の負担をできるだけ小さくすることであって,このような課題からする
と,引用発明の「単語」としては,本来的にはアルファベット入力するも
のが想定されているということができる。
しかし,電話番号は,「1234−5678」や「(1234)567
8」のように,ハイフォン記号や括弧を付けて記載されることがあること
からすると,必ずしも数字のみで入力されるものではなく,このようなア
ルファベット入力と数字入力により入力されるものが引用発明の「単語」
に含まれると解することが,上記課題に反するとまでいうことはできな
い。
また,甲5(「広辞苑第4版」1991年[平成3年]11月15日発
行1627頁)によれば,「単語」は,「文法上の意味・職能を有する,
言語の最小単位」を意味するから,引用発明の「単語」に電話番号データ
を含むと解することが,「単語」の通常の意味に反するということもでき
ない。
イ甲1には,前記3(1)イ(カ)b(a)のとおり,「…人名等は既にSIM
カード12内の電話帳として登録されているので,この実施例では人名辞
書はこれを使用するものとする。…辞書の例を図3に示す。」(段落【0
017】)と記載されており,前記3(1)ウのとおり,【図3】には「単
語例」として「人名と電話番号」を記載したものが示されている。
そして,上記のとおり,「発明の詳細な説明」には,電話帳を人名辞書
として使用するとしか記載されていないが,上記【図3】の記載と併せて
みると,電話帳を「人名辞書」として使用して入力する単語には,電話番
号データが含まれると解することができる。
ウもっとも,甲1には,前記3(1)イ(カ)b(b)∼(d)のとおり,実施例
として,「任意文の作成」(段落【0018】∼【0021】,【図5
】),「定型文を用いた作成」(段落【0022】∼【0026】,【図
7】),「自動挿入モードによる作成」(段落【0027】∼【0028
】,【図8】)が記載されており,そこで示されている具体例には,電話
番号データを入力するものはない。
しかし,「任意文の作成」中には,「因に人名辞書として電話帳のもの
を使用する場合には,辞書入力モードを選ぶときに辞書(電話帳)から人
名だけを用いるのか,電話番号だけを用いるのか,それとも両方表示する
のかを,モードとして選択できるようにしておけば良いだろう。」(4欄
40行∼44行,段落【0021】)との記載がある。
この記載に,上記イで述べたところを総合すると,引用発明の「単語」
を,電話帳を使用して入力するときに,人名だけを用いるのか,電話番号
だけを用いるのか,それとも両方表示するのかを選択できるようにしたと
の趣旨に理解することができる。
この点につき,原告は,甲7(特開平6−236145号公報。発明の
名称「ナビゲーションシステム」,出願人富士通テン株式会社,公開日
平成6年8月23日)には,電話番号を入力することにより,その電話番
号に対応する氏名を表示させる技術が開示されており,また,株式会社エ
ヌ・ティ・テイ・ドコモの提供する携帯電話サービスにおいては,電話番
号の入力により対応する氏名・名称を表示する技術が現在も使用されてい
る(甲8[A作成の報告書])から,電話番号を表示させて人名を入力す
ることには意義があると主張するが,メッセージデータの作成において,
電話帳から電話番号を選択してそれを入力する場合に比べて,電話番号を
表示させて人名を入力することにそれほど必要性があるとは考えられない
から,原告が主張する機能に有用性が存する場合があるとしても,甲1
が,そのようなあまり用いられない機能について記載したと認めることは
できない。
また,甲1の段落【0021】には,上記記載に続いて,「ただし入力
する文字が登録されていない場合には,ステップSP7−ステップSP8
の処理により該当する単語を1文字づつ入力する。」(4欄44行∼47
行)と記載されているが,ここでいう「文字」によって入力される「単
語」に,上記のとおり電話番号データを含むと解すれば,上記4欄40行
∼44行についての認定と矛盾することはない。
(2)そうすると,引用発明は,次のとおり認定することができる。
「通話機能と,相手先の電話番号を登録する電話帳機能と,文字あるいは
数字からなるショートメッセージデータを送信する機能とを有する携帯電話
において,入力手段により文字あるいは数字を表示部に表示しながらショー
トメッセージデータの作成が行われ,当該作成中のショートメッセージに電
話番号を入力するために,記憶部に登録されている電話番号だけを用いるモ
ードが選択されると,記憶手段に保持されている電話番号を呼出して表示手
段に表示し,当該表示部に表示されている電話番号を入力手段のジョグダイ
ヤルの操作により選択して確定操作がなされると,当該選択された電話番号
を前記作成中のショートメッセージデータに付加し,当該作成されたショー
トメッセージデータを送信する携帯電話。」
そして,この引用発明は,煩雑な数字キーの操作をすることなく,電話番
号を入力することができ,また,誤入力を防止して確実な電話番号データを
入力することができ,さらに,メッセージデータを作成中に登録している電
話番号を確認するために一度作成したメッセージデータが消去されることが
ないものであると認められる。
(3)審決は,「…電話帳を辞書として使用する場合に,電話番号だけを用い
るモードを選択したことを想定すると,当該モードの選択は,【0019】
段落の記載を参照すれば,入力手段のキー操作により行われることにな
る。」(6頁2行∼4行)と認定しているが,段落【0019】は,前記3
(1)イ(カ)b(b)のとおり,辞書モード「種類その他」に入る切替えのため
に「*3」等のキー操作を用いるとの記載であり,辞書(電話帳)から人名
だけを用いるのか,電話番号だけを用いるのか,それとも両方表示するのか
を選択するために「*3」等のキー操作を用いるとまで記載されているわけ
ではないから,引用発明について,「入力手段のキー操作により記憶部に登
録されている電話番号だけを用いるモードが選択される」とまで認めること
はできない。
(4)以上述べたところに基づき,本件発明と引用発明を対比すると,その一
致点は,「通話機能と,相手先の電話番号を登録する電話帳機能と,文字あ
るいは数字からなるメッセージデータを送信する機能とを有する携帯電話機
において,入力手段により文字あるいは数字を表示手段に表示しながらメッ
セージデータの作成が行われ,当該作成中のメッセージデータに電話番号デ
ータを入力するために,予めメモリに保持されている電話番号を呼出す機能
が選択されると,記憶手段に保持されている電話番号データを呼出して表示
手段に表示し,当該表示手段に表示されている電話番号データを入力手段に
より選択して確定操作がなされると,当該選択された電話番号データを前記
作成中のメッセージデータに付加し,当該作成されたメッセージデータを送
信する携帯電話機。」であり,その相違点は,審決が認定する「相違点1」
及び「相違点2」(10頁下8行∼下1行)に加えて,「本件発明では,入
力手段のキー操作により予めメモリに保持されている電話番号を呼出す機能
が選択されるが,引用発明においては,記憶部に登録されている電話番号だ
けを用いるモードが選択される手段が明らかでない点」を相違点(相違点
3)とすべきであったということができる。
(5)しかし,上記(3)のとおり,甲1に,辞書モード「種類その他」に入る切
替えのために「*3」等のキー操作を用いるとの記載があることからする
と,同じく辞書に関するモードである「電話番号だけを用いるモード」の選
択に当たっても,キー操作を用いることが示唆されているということがで
き,相違点3は,甲1から容易に想到することができたというべきである。
(6)相違点1及び2が容易想到であることについては,審決が認定するとお
り(11頁1行∼13行)であるから,本件発明は,引用発明及び周知技術
に基づいて容易に発明することができたと認められるのであり,審決の結論
に誤りがあるということはできない。
(7)以上のとおり取消事由2も理由がない。
6結論
以上の次第で,原告が主張する取消事由は全て理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官森義之
裁判官澁谷勝海

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