弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中有罪部分を破棄する。
     被告人は無罪。
         理    由
 被告人本人の上告趣意中、憲法二八条違反をいう点は、実質は、労働組合法一条
二項の解釈適用の誤りをいう単なる法令違反の主張であり、また、判例違反をいう
点は、所論各判例が、事案を異にし、いずれも本件に適切でないから、ともに、上
告適法の理由にあたらない。被告人本人の上告趣意その余の点および弁護人鈴木正
貢の上告趣意は、いずれも、単なる法令違反の主張にすぎないもので、刑訴法四〇
五条の上告理由にあたらない。
 所論に鑑み、職権で調査するに、原判決は、本件当時、金沢郵便局郵便課事務員
でA労働組合石川県地区本部執行委員兼青年部長であつた被告人が、A労働組合が
昭和三四年年末斗争に企図した差立締切郵袋の標準重量厳守等のいわゆる規制斗争
に際し、昭和三四年一二月一九日午前九時二〇分頃、金沢市a町b番地金沢郵便局
郵便課作業室で、同所小包郵便区分棚附近に差立のため、集積してあつた小包郵便
差立締切郵袋の重量を計量したうえ、その中から、第一審判決中の一覧表記載の一
一個の郵袋を法規違反の郵袋と判断し、それぞれの郵袋の票札差しに差し入れてあ
つた差立局名、宛名局名を記載した票札各一枚宛合計一一枚を抜き取つて、これら
を自己の着衣のポケツトに入れた被告人の所為を、「郵便専用物件である小包郵便
差立締切郵袋の損傷に当り、一応郵便法七八条の郵便用物件を損傷する罪の構成要
件に該当している。」としたうえ、被告人の本件所為中、郵袋の使用区分の誤つて
いた、前記一覧表番号2、3、6、7、8、9および10の合計七個の郵袋の票札
を抜き取つて隠匿した行為については、「刑罰をもつて臨まなければならない程の
強度の社会的非難性即ち組合活動としての不当性を認めることができない。」もの
で「正当行為として違法性がない」とし、この点についての第一審判決の判断を正
当であるとしている反面、前記一覧表1、4、5、11の、郵袋使用区分には反し
ない四個の並郵袋については、標準重量一五瓩を超えているが、小包郵便物の一個
の重量制限が六瓩である点を考慮し、標準重量一五瓩に六瓩を加えた二一瓩には至
つていないものである(一覧表1、一七・五瓩、4、一七瓩、5、一九瓩、11、
一七瓩)から、標準重量違反に該当しない適法郵袋であり、「これら四郵袋の票札
を抜き取つたことについて違法性を阻却する事由は見当らない。」と判断し、「本
件郵袋全部について票札抜取行為は正当行為であると認定した原判決部分は事実を
誤認し、法令の解釈を誤つたものであり、右誤りは判決に影響を及ぼすことが明ら
かである。」として、第一審判決を破棄し、四個の郵袋の票札抜取行為を有罪とし
ている。
 しかしながら、標準重量超過郵袋でも、「小包郵便物の一個の重量限制が六瓩(
郵便法一七条)である点を考慮すると、標準重量一五瓩に六瓩を加算した二一瓩に
至らない郵袋は、適法郵袋である。」旨の原判断には、合理的理由を見出すことが
困難であり、前記一覧表1、4、5、11の四個の並郵袋の票札を抜き取つた所為
につき、それら郵袋が、重量の点で、原判決がいう、いわゆる適法郵袋であるとい
うだけの理由で、違法性を阻却する事由は見あたらないとしている原判決の判断は
正当とはいえない。
 被告人の本件所為は、昭和三四年一一月一六日発せられたB中央斗争委員会指令
第一号の「一二月一日から業務の規制斗争を厳格に実施せよ」との趣旨を受けて、
規制斗争の方法として実践されたものであること、右指令第一号は、昭和三三年四
月二八日、春季斗争の責任を問われて解雇されたB本部三役を含む組合幹部との団
交を当局が拒否したことに対し、Bが、団交再開斗争を展開するにあたり、昭和三
四年一一月五日から開かれたB第二〇回中央委員会において決定した団交再開、I・
L・O条約の批准、公労法改正等の政治的権利的要求と、仲裁裁定二五〇円の即時
実施、年末手当二ケ月分の獲得、年末首繁忙手当の制度化等の経済的要求の斗争目
的実現の手段として発せられたものであることは、原判決認定のとおりである。更
に原判決によれば、昭和三四年一二月中旬頃、金沢郵便局には、郵便物の滞貨が激
増し、学生アルバイト、研修生等を加え、また、一方金沢郵政局職員をもつて編成
された監視班の応援を求め処理にあたつてきたこと、右監視班約一〇名位はその頃
より金沢郵便局二階会議室において同郵便局非組合員等とともに小包郵便物の差立
締切作業を行ない、同月一八日までに相当数の郵袋締切を行なつたが、従来現業に
従事していなかつたため、作業不慣れであつたことと、滞貨解消の目的のため、作
業を急いだこと等の理由のため、締め切られた郵袋の中には、郵袋の使用区分(並
郵袋と錠郵袋の区分)に反するものや、重量制限を超えるものができ、その状況は、
外観上明白に看取される程度に顕著であつたこと、その頃金沢郵便局から郵袋を受
け取り鉄道を経由して逓送していた金沢鉄道郵便局組合員から、重量超過の郵袋そ
の他法規違反の郵袋が金沢郵便局から送られてきた旨の苦情が、B石川県地区本部
委員長Cに申し出られたこともあつたので、Cは、金沢郵便局における郵袋の重量
制限、その他の点について前記斗争指令の趣旨にしたがい、改めて組合幹部として
規制、点検を行なうことを考慮するに至り、同月一八日午後、金沢郵便局郵便課長
Dに対し法規違反の郵袋に対し善処方申し入れたが、具体的回答がなく、翌一九日
午前八時過頃再び同人に対し前同旨を申し出たが、同様具体的回答がなかつたので、
Cは、その頃差立のため階下郵便課作業室に集積されていた前記監視班等作成の普
通小包郵便差立締切郵袋を計量し、その結果得られた具体的事項を示して再度当局
側に申し入れるべく、執行委員である被告人他三名に右郵袋の計量、点検をするよ
う命じたこと、被告人は、この指示にしたがい右作業室隅発着口附近に置いてあつ
た自動台秤を作業室中央附近に移動させ、右三名の者とともに、同日午前九時一〇
分頃から、同日午前九時三四分金輪下り便差立予定等の郵袋の計量をはじめ、前記
一覧表記載の一一個の郵袋を、法規違反の郵袋と判断し、当局側に締切直しを要求
して締切直しを行なわせようと考え、その前提として、被告人においてその票札を
抜き取つたものであること、郵政省は、同年一一月上旬頃、組合の規制斗争の対策
として、全国郵務部長会議を開き、組合の右斗争に対処する方法を指示し、たとえ
ば郵袋重量制限厳守の斗争については、一五瓩の重量制限は、標準重量であつて最
高限度を定めたものでなく、したがつて、右一五瓩を若干超過しても違法ではなく、
その取扱を拒否するものに対しては業務命令を発しても行なわしめること等を明ら
かにし、右指示は同月一九日北陸普通局長会議を通じて各郵便局長に示されていた
こと、の各事実が認定されている。右認定の状況のもとにおいては、法規違反の郵
袋を単に指摘するだけでは、その指摘が無視され、法規違反の郵袋がそのまま差し
立てられてしまうことが必至の状勢であつたと認められる。
 集配郵便局取扱規程内務編中、郵袋の重量は一五瓩を標準として締め切る旨の規
程が、郵袋の積降しに従事する職員を過重な労働から救済する作用を営むもので、
郵袋使用区分に関する規程より、より密接かつ直接的に、労働条件に関連する規程
であり、原判決が、第一審判決の判断を正当としている七個の郵袋の票札抜取行為
の対象となつた七個の郵袋の重量につき前記一覧表をみるに、6は、二八・〇瓩、
7は、二七・五瓩、10は、二五・〇瓩、9は、二四・〇瓩、3は、一七・〇瓩、
2は、一六・五瓩、8は、一四・〇瓩であり、8を除けば他は、いずれも標準重量
を超過し、6、7、10、9に至つては、極度に標準重量を超過しているのである
から、本件の規制斗争の主眼は、標準重量を超過した郵袋の指摘行為にあり、原判
決が有罪としている標準重量超過の四個の郵袋の票札抜取行為は、右の七個の郵袋
中8を除く、標準重量超過の六個の郵袋の票札抜取行為と一連の行為の関係に立つ
計一〇個の標準重量超過郵袋の指摘行為の一部をなすものと認めることができる。
 そのうえ、原判決の判示するところによれば、被告人等が前記点検を行なうこと
は、ほぼ予測されていたのであり、また、具体的点検行為に入つてからも、当局お
よび当該作業担務者に、積極的禁止或いは排除の気構えがなかつたこと、被告人側
に暴力その他これに類する不当な有形力の行使が認められないこと、票札を抜き取
られた郵袋については、締切直しは一個につき約一分半程度でなすことができ、予
定便に差し立てることが可能であつたことが認定されている。
 以上の諸般の事情を考慮に入れれば、原審が有罪としている四個の標準重量超過
郵袋についての被告人の所為についても、労働組合法一条二項により、正当行為と
して刑事免責がなされるべきものと解せられる。
 そうすると、本件において、金沢郵便局発羽咋郵便局宛差立予定のもの三個(重
量一七・五瓩並郵袋、同一七瓩並郵袋、同一九瓩並郵袋―前記一覧表中1、4およ
び5の各郵袋)、同局発神戸分局宛差立予定(予定時刻同日午前一一時一四分頃)
のもの一個(重量一七瓩並郵袋―前記一覧表中11の郵袋)合計四個の各郵袋の票
札各一枚宛合計四枚を抜き取り隠匿した被告人の所為につき、違法性を阻却する事
由は見あたらないとし、第一審判決を破棄し、右四個の郵袋の票札抜取行為を有罪
としている原判決は、法令の解釈および事実の評価を誤り、罪とならない所為を有
罪としたものというべきであり、その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかで、
刑訴法四一一条一号により、右有罪部分を破棄しなければ、著しく正義に反するも
のと認められる。
 よつて、同法四一三条但書、四一四条、四〇四条、三三六条により、右有罪部分
についても無罪の言渡をすることとし、裁判官下村三郎、裁判官松本正雄の反対意
見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文の通り判決する。
 裁判官下村三郎の反対意見は次のとおりである。
 公共企業体等労働関係法一七条一項は、争議行為を禁止しているのであるから、
これに違反してなされた争議行為は、すべて違法であつて、正当な争議行為という
ものはありえない。したがつて、このような争議行為には、労働組合法一条二項の
適用はないものと解すべきである。その理由の詳細は、昭和三九年(あ)第二九六
号昭和四一年一〇月二六日大法廷判決(刑集二〇巻八号九〇一頁)における裁判官
奥野健一、同草鹿浅之介、同石田和外三裁判官の反対意見と同趣旨であるから、こ
こにこれを引用する。
 そして、右見解によれば、原判決が、被告人の本件所為について正当な争議行為
の範囲内にとどまるものかどうかの点を判断しているのは、法令の解釈を誤つたも
のであるといわなければならない。しかし、原判決の有罪部分は、結局において、
被告人の本件四個の郵袋の票札抜取行為が正当な争議行為にあたらないとしている
のであるから、右の誤りについて刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められな
い。
 裁判官松本正雄の反対意見は次のとおりである。
 多数意見は、本件争議行為にも労働組合法一条二項の適用があることを前提とし
て、原判決が有罪としている四個の郵袋の票札抜取行為につき、諸般の事情からみ
て、正当な行為であるとして犯罪の成立を否定した。
 しかし、わたくしは、本件争議行為には労働組合法一条二項の適用はないと考え
るのであり、その意見の詳細は、昭和四二年(あ)第一三七三号同四五年六月二三
日第三小法廷決定(刑集二四巻六号三一一頁)および昭和四一年(あ)第二五七九
号同四五年九月一六日大法廷判決(裁判所時報五五四号二頁)のわたくしの反対意
見に示したとおりである。
 わたくしの見解は右のとおりであるから、本件争議行為にも労働組合法一条二項
の適用があることを前提としている原判決は、法令の解釈を誤つたものと思料する。
しかし、原判決の有罪部分は結論において正当であり、刑訴法四一一条を適用すべ
きものとは認められない。
 検察官冨田正典 公判出席
  昭和四六年三月一六日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    松   本   正   雄
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    飯   村   義   美
            裁判官    関   根   小   郷

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