弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主      文
被告人を懲役3年6月以上7年以下に処する。
未決勾留日数中100日をその刑に算入する。
理      由
(罪となるべき事実)
 被告人は,
第1 平成14年4月26日午後10時5分ころ,普通乗用自動車を運転し,新潟県三条市a
先の信号機により交通整理の行われている交差点に差し掛かり,同交差点をb方面
からc方面に向かい直進するにあたり,対面信号機が赤色の灯火信号を表示してい
るのを同交差点停止線の手前約78・1メートルの地点で認め,直ちに制動措置を講
じれば同停止線の手前で停止することができたにもかかわらず,同交差点の赤色灯
火信号を殊更に無視し,進行する道路の指定最高速度が時速40キロメートルである
ところを重大な交通の危険を生じさせる速度である時速約60キロメートルで同車を運
転して同交差点に進入したことにより,折から青色灯火信号に従って同交差点内を左
方から右方へ向かい横断歩行中のA(当時87歳)に同車前部を衝突させ,よって,同
人に肋骨骨折及び胸腔内損傷の傷害を負わせ,同日午後11時30分ころ,同市d所
在のB病院において,同人を上記傷害に基づく胸腔内出血等により死亡させた,
第2 前記日時ころ,前記場所先交差点において,同車を運転中,前記のとおりAに傷害を
負わせる交通事故を起こしたのに,直ちに車両の運転を停止して,同人を救護するな
ど必要な措置を講ぜず,かつ,その事故発生の日時及び場所等法律の定める事項
を直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかった
ものである。
(証拠の標目)
 略
(法令の適用)
 被告人の判示第1の所為は刑法208条の2第2項後段,1項前段に,判示第2の所為の
うち救護義務違反の点は平成13年法律第51号附則9条により同法による改正前の道路
交通法117条,72条1項前段に,報告義務違反の点は同法119条1項10号,72条1項
後段にそれぞれ該当するが,判示第2の救護義務違反と報告義務違反は1個の行為が2
個の罪名に触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条により1罪として重い救護
義務違反の罪の刑で処断し,判示第2の罪について所定刑中懲役刑を選択し,以上は同
法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第1の罪の刑に
同法47条ただし書の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で,少年法52条1項により
被告人を懲役3年6月以上7年以下に処し,刑法21条を適用して未決勾留日数中100日
をその刑に算入することとする。
(量刑の理由)
 本件は,被告人が友人の普通乗用自動車を運転し,急ハンドルを切って曲がり,あるい
は,交差点等で信号無視をして走行するなどの暴走運転を繰り返し,本件犯行現場となっ
た信号機で交通整理の行われている交差点の停止線の手前約78・1メートルの地点で,
同交差点の対面信号機が赤色灯火信号を表示していることを認めたにもかかわらず,殊
更これを無視して同交差点を直進しようとして,重大な交通の危険を生じさせる速度である
時速約60キロメートルのまま同交差点に進入し,折から同交差点の青色灯火信号の表示
に従って歩いて横断中の被害者に同車を衝突させて重傷を負わせ死亡させ,また,このよ
うな人に死傷を負わせる事故を惹起したにもかかわらず,そのまま走り去って逃走し,直ち
に車両の運転を停止して重傷を負った被害者を救護せず,かつ,その事故発生の日時及
び場所等法律の定める事項を直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかったという救
護義務違反及び報告義務違反の道路交通法違反を伴う危険運転致死の事案である。
 被告人は,判示第1の危険運転致死の犯行において,本件犯行前に居酒屋等でビール
及び洋酒等を相当量飲んだのにもかかわらず,友人が乗ってきた車両の性能を試してみ
たいなどと考え,その承諾を得ることなく,別の友人を誘い同車に乗り込んで運転を開始
し,決して広いとはいえない幅員の道路において,急ハンドルを切り,タイヤを横滑りさせて
カーブを曲がり,あるいは,信号無視などの暴走運転を繰り返し,同乗していた友人が危
険を感じてそのような運転を止めるよう再三注意をしたのにもかかわらず,飲酒のため気
が大きくなっていたため,この同乗する友人の注意をきかず上記交差点の停止線の手前
約78・1メートルの地点で,同交差点の自己の進行方向の信号機の赤色灯火信号を認め
たものの,殊更これを無視して同交差点を直進しようなどと考え,進行していた道路の指定
最高速度が時速40キロメートルであるにもかかわらず,これを上回る時速約60キロメート
ルで同交差点に進入し,横断中の被害者を衝突直前に発見したものの,もはやブレーキを
かける間もなく,同人に同車を衝突させて死亡させたものであり,被告人が本件危険運転
の犯行に及んだ動機や経緯は,正に起こるべくして起きた交通人身事故であって,酌量の
余地は全くない。被告人は,本件犯行当日,危険性の高い暴走運転を繰り返し,その挙げ
句に指定最高速度を大きく上回る速度で,赤色灯火信号を認めながら,あえて停止するこ
となく,赤色灯火信号に従い同交差点で停止している前方車両の脇をすり抜けるようにし
て対向車線に進出して走行した結果,本件事故を惹起したのであって,余りにも無謀で危
険極まりない運転であり,その犯行態様は極めて悪質である。
 その上,被告人は,判示第1の犯行により被害者に傷害を負わせたことを知りながら,自
己が飲酒した挙げ句に信号無視をしたことにより惹起した交通人身事故であるため,その
刑責を免れんがために被害者を救助せず,かつ,警察官に事故発生を報告することなく,
そのまま被害者を放置し,上記衝突により上記車両の運転席側のフロントガラスが蜘蛛の
巣状に割れ,前方の視界がほとんど遮られた状態となった同車のナンバープレートを見ら
れないようにするため前照灯を消し,その助手席側に身を乗り出し,あるいは,運転席側
の窓を開け,そこから頭を出して前方を見るなどして運転を継続して逃走し,判示第2の犯
行を敢行しており,その犯行は,専ら自己のことのみを考え,被害者の生命の安全を全く
顧みることのない誠に身勝手で自己中心的なものというほかなく,その犯情は極めて悪質
である。
 被害者は,本件当時,上記交差点の青色灯火信号に従って交差点内を歩いて横断して
いたもので,横断歩道上を歩行していないものの,そのことは本件とは直接的な関連性は
なく,何らの落ち度があるとはいえず,当時87歳と高齢ながら健康にも恵まれて妻と余生
を健やかに過ごしていた被害者が,本件犯行により重傷を負い,ほぼ即死に近い状態で
その生命を奪われたことによる肉体的苦痛や精神的苦痛,そして,無念さは察するに余り
あり,また,被害者の遺族らが被告人に対し,激しい怒りを抱き,その処罰感情が厳しいの
も誠に当然で,本件犯行により発生した結果は極めて重大である。
また,被告人は,平素から本件犯行のごとき危険な暴走運転を繰り返し行ってきた事情
が窺われる上,平成10年11月に普通自動二輪免許を取得した後,数回にわたり道路交
通法違反を重ねた前歴があり,そのため,平成12年6月には免許停止処分まで受けてい
ること,これまでにも飲酒して自動車の運転をしたことが数回あることなどを自認しており,
被告人の道路交通法規に対する規範意識は相当程度鈍磨していたといわざるを得ないこ
と,被告人は,捜査段階の当初,自己の刑事責任を軽減すべく,事故当時の記憶がないな
どと供述していること,本件事案の悪質性と重大性からは一般予防の必要性が非常に高
いことなどを考慮すると,被告人の刑事責任は極めて重大である。
 他方,被告人は,本件犯行後,程なくして友人らの助言を受けるなどした結果,自首して
おり,捜査が進展するにつれて本件各犯行を認めて,現在では本件を深く反省しているこ
と,本件後,被害者の遺族に対し,自賠責保険によりその損害が填補されたほか,被告人
の両親及び被告人からその余の損害賠償金として総額金620万円が支払われることで,
その遺族との間で示談が成立していること,被告人の両親が,今後の被告人に対する一
層の指導監督を約束し,また,被告人が社会復帰した後には,現在の雇用先に再雇用さ
れる見込みがあることなど被告人の更生環境が整っていること,被告人は可塑性に富んだ
少年であり,無免許運転幇助の道路交通法違反による非行歴が1件あるのみで,これまで
に前科はなく,今回初めて身柄拘束された上で公判請求されたもので,今後の自覚次第で
は更生の余地が大きいことなど被告人のために斟酌すべき事情も認められるので,これら
諸情状を総合考慮すると,被告人を主文掲記の刑に処するのが相当である。
 よって,主文のとおり判決する。
平成14年10月22日
新潟地方裁判所刑事部
          裁判長裁判官     榊   五十雄
              裁判官     金子大作
              裁判官     入江克明

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