弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
(当事者の申立)
第一 原告の申立
1 被告が原告に対し、昭和四七年六月三〇日付け法人税額等の更正通知書及び加
算税の賦課決定通知書をもつて、原告の昭和四四年七月一日から昭和四五年六月三
〇日までの事業年度の法人税につきなした更正処分のうち、所得金額七四万九、二
三四円を超える部分及び過少申告加算税金九万一、一二〇〇円の賦課処分を取り消
す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求める。
第二 被告の申立
主文同旨の判決を求める。
(当事者の主張)
第一 原告主張の請求原因
一 原告は歯車製造を業とする株式会社である。
二 原告は昭和四五年八月二九日、昭和四四年七月一日より同四五年六月三〇日ま
での事業年度(以下本件事業年度という)分の法人税につき、課税標準である所得
金額七四万九、二三四円、法人税額一九万五、八〇〇円として確定申告をしたとこ
ろ、被告は昭和四七年六月三〇日付けの法人税額等の更正通知書及び加算税の賦課
決定通知書をもつて、課税標準である所得金額を金五七四万九、二三四円、法人税
額を金二〇二万一、九〇〇円と更正する旨、及び過少申告加算税金九万一、三〇〇
円を賦課する旨の各処分をした。
三 原告は、右更正処分について、昭和四七年八月一八日、関東信越国税不服審判
所長に対し審査請求をしたが、同審判所長は、同四八年一一月八日付けをもつて右
審査請求を棄却する旨の裁決をし、その裁決書謄本は同年一二月六日原告に送達さ
れた。
四 しかしながら、原告の申告額を超える右更正処分には課税標準である所得額を
過大に評価した違法があり、これに基づく右加算税賦課処分もまた違法であるとい
うべく、その取消を求める。
第二 被告の答弁と主張
一 答弁
(一) 請求原因一ないし三各項の事実は認める。
(二) 同四項は争う。
二 主張
被告は、原告が本件事業年度において従業員に対する特別賞与として計上した金額
五〇〇万円を左の理由により法人税法第一三二条に基づき否認し、これを被告の本
件事業年度における所得と認めて更正処分をした。
すなわち、原告は、本件事業年度末(昭和四五年六月三〇日)の直前である同月二
七日、従業員三六名に対し臨時に特別賞与名義で総額金五〇〇万円(以下本件特別
賞与という)の支給をしたと称してこれを本件事業年度の損金に計上し、更に、右
従業員らが本件特別賞与をもつて、原告の発行にかかる社債総額金五〇〇万円(以
下本件社債という。その償還期日昭和五五年六月三〇日、その譲渡につき取締役会
の承認を要するなどの譲渡制限が付されている。)全部を引き受け、本件特別賞与
の支給日に、その払込みをしたものとして処理した。
しかしながら、原告は本件事業年度の業績が良好であり、多額な純利益を計上でき
ることが見込まれたことから、税負担の軽減と資金の社外流出を防ぐ意図のもとに
毎年定期的(七月及び一二月)に支給される賞与とは全く別個に、労働協約、就業
規則又は労使の慣行などに基づくこともなく、原告の取締役会の決議によつて処理
されたものであり、右従業員らに対し、本件特別賞与の支給につきその基準、金額
及び方法、なかんずくこれを本件社債の払込金に充当することなどの周知手続もな
されることなく、原告はその支給日と定めた昭和四五年六月二七日の時点におい
て、源泉徴収義務者として、所得税法第一八三条により、支給金額から源泉所得税
を控除した金額を支給すべきところ、原告は、各受給者ごとの源泉所得税額を合計
金三六万三、〇〇〇円と算出し、該金員を原告において一括立替え納付の操作をし
て本件特別賞与金相当の金額をそのまま社債払込金に振り替え、結局該金員につき
社内留保の目的を達した。
なお、原告はその後に至り、右従業員らの昭和四五年分の給与所得に本件特別賞与
を含めた申請が誤りであるとして、本件特別賞与に対する市民税の還付請求をし、
訴外足利市長から還付がなされている。
従つて、本件特別賞与金相当の金員は本件事業年度において、右従業員らに対し現
実に支給されたものと見ることはできないうえ、所得金額の算定上損金に算入さる
べき費用とされる当該事業年度における確定した債務と見ることもできない。
第三 被告の主張に対する原告の答弁
1 原告が本件特別賞与の支給につき、従業員に対しその基準、金額、方法など具
体的内容の周知手続をしなかつたこと、本件特別賞与金相当の金員が当該事業年度
において現実に支給されることなく、かつ、損金として計上さるべき確定した債務
に該当しないとの点はいずれも否認する。
その余の事実は認める。
なお、特別賞与に対する市民税の還付請求は、被告が本件特別賞与を法人税法上否
認したため、市民税についても同一歩調がとられ、訴外足利市長から特別賞与に対
する市民税の還付請求手続を促がされて、やむなく被告主張のような還付手続をと
つたにすぎないのである。
(証拠)(省略)
○ 理由
一 請求原因一ないし三各項の事実は当事者間に争いがない。
二 (被告の主張について)
1 次に被告の主張事実のうち原告が本件特別賞与の支給につき、従業員らに対し
その基準、金額、方法など具体的内容につき周知手続をしなかつたこと、及び本件
特別賞与金に相当する金員が本件事業年度において従業員らに対し現実に支給され
る事なく、かつ、法人税法の所得金額の算定上損金とされるべき確認した債務に該
当しないとの点を除き、その余の事実は当事者間に争いがない。
2 成立に争いのない甲第一号証、第六号証、第二一ないし第二六号証、乙第一号
証、証人Aの証言及び原告代表者本人尋問の結果、並びにこれらによつて真正に成
立したものと認められる甲第四号証、第七号証、第一二号証、証人Bの証言、及び
これによつて真正に成立したものと認められる乙第二ないし第五号証を総号する
と、
原告は、昭和四五年ごろ、足利市内の工業団地に移転する計画を進め、資金の社内
留保を図るべく、その方法として、まず利益の一部を特別賞与とし、従業員らに対
しこれを支給する形態をとると同時に、譲渡制限を付した社債を発行し、右賞与金
を社債の払込金に充当するという段取りを考案してその具体化を図ることとなり、
同年六月二五日原告の臨時株主総会で社債の発行についての決議をなさしめ、相前
後して原告は事務所において従業員らに対し、社債の発行を伴う形で本件特別賞与
を支給する旨の説明をし、従業員らも右方法による賞与の支給を了承し、別段異議
の申出をした形跡もうかがわれないこと、そこで原告は本件特別賞与を支給したこ
ととして各従業員に対し社債申込証に押印せしめ、更に決算段階において、賞与金
五〇〇万円(損金)、社債金五〇〇万円(負債)と振替記帳をし、源泉所得税につ
いては、各従業員から源泉所得税相当額につき、昭和四六年以降の毎年の本件社債
の利息の支払時に、支払われる該利息金で清算をし、原告にすべて右立替金を返済
せしめる操作をしていること、次に原告は被告から本件特別賞与が、法人税法上否
認されたことに伴い、地方税たる市町村民税の取扱いについても変動をきたした結
果、原告は訴外足利市長から各従業員の所得税の取扱いと同様市町村民税について
も処理する旨の意向を示され、かつ本件特別賞与金に対する市民税の還付請求手続
を促がされて原告もこれに従つたものであること、なお、原告は、本件社債発行後
現在に至るまで、退職者をも含め、本件社債による本件特別賞与の受給者とされる
者に対し、毎年本件社債に対する利息の支払をしていることなどの事実が認められ
る。
3 ところで、一般に税法上損益発生時期の判定基準は、収入又は支出すべき権
利・義務(債務)の確定時であり、損金に算入さるべき債務の確定については当該
事業年度終了日までに当該費用にかかる債務が成立し、かつ、当該債務に基づいて
具体的な給付をなすべき原因となる事実も確定し、その金額を合理的に算定し得る
ことができるものであると解するのが相当である。
4 本件についてみるに、先に認定したところから明らかなように本件特別賞与
は、償還期日を昭和五五年六月三〇日とする従業員に対する社債の払込金として給
付したことにしたものであり、現金による賞与の支給のように受給者において自由
に処分しうるものとは異なり、しかも、現金化の可能性を与えないなど原告の一方
的な構想による金銭を目的とする債権・債務の発生を伴う形式で行われたものであ
る。したがつて、前記3の税法上の損益の判定基準によれば、本件において、特別
賞与としてはあくまでも、手段とされた本件社債の償還期日である昭和五五年六月
三〇日が到来しない限り債務が確定することはありえず、これを待つて損金の発生
があるものと見なければならない。本件特別賞与は、本件事業年度においては、賞
与債務としての具体性、現実性を欠き、本件事業年度末までに、いまだその金額、
支払時期等が実質的には確定せず、かつ、到来していないといわざるを得ないので
ある。したがつて、本件特別賞与は、税法上いまだ本件事業年度の損金(費用)に
計上しえないものと認めるべきである。
よつて、被告が、法人税法第一三二条により、本件事業年度の特別賞与額金五〇〇
万円を否認したのは正当であるといわれなければならない。
三 以上のとおりであるから、原告の本訴請求は理由がなく失当として棄却し、訴
訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のと
おり判決する。
(裁判官 奥平守男 相良 甲子彦 安間雅夫)

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