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判決言渡平成22年2月26日
平成21年(行ケ)第10219号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成22年2月24日
判決
原告日本テトラパック株式会社
訴訟代理人弁理士清水正三
被告特許庁長官
指定代理人村上聡
同千馬隆之
同黒瀬雅一
同田村正明
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2007−30370号事件について平成21年6月23日に
した審決を取り消す。
第2事案の概要
1本件は,原告が,名称を「パッケージ用窒素ガス噴射装置」とする発明につ
いて特許出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判
請求をし,平成19年11月28日付けで特許請求の範囲の変更等を内容とす
る手続補正をしたが,特許庁が,上記補正を却下した上,請求不成立の審決を
したことから,原告がその取消しを求めた事案である。
2争点は,上記補正に係る発明(本願補正発明)が下記引用発明との関係で進
歩性(特許法29条2項)を有していないとして上記補正を却下したことが適
法か,である。

米国特許第5452563号明細書(出願人インターナショナル・ペーパ
ー・カンパニー,特許登録日1995年[平成7年]9月26日。甲1,以
下「引用文献」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)
第3当事者の主張
1請求の原因
(1)特許庁における手続の経緯
原告は,平成13年11月28日,発明の名称を「パッケージ用窒素ガス
噴射装置」とする発明について特許出願(特願2001−362820号,
請求項の数4。公開特許公報は特開2003−165509号[甲2])を
し,平成19年6月11日(甲10,請求項の数4)及び平成19年9月6
日(乙2,請求項の数4)に,それぞれ特許請求の範囲等を変更する補正を
したが,拒絶査定を受けたので,平成19年11月8日付けで不服の審判請
求をした。
特許庁は,上記請求を不服2007−30370号事件として審理し,そ
の中で原告は,平成19年11月28日付けで特許請求の範囲等を変更する
補正(甲3,請求項の数4。以下「本件補正」という。)をしたが,特許庁
は,平成21年6月23日,本件補正を却下した上,「本件審判の請求は,
成り立たない。」との審決をし,その謄本は平成21年7月7日原告に送達
された。
(2)発明の内容
本件補正後の特許請求の範囲【請求項1】は,上記のとおり請求項1∼4
から成るが,そのうち【請求項1】の内容は,次のとおりである(以下「本
願補正発明」という。下線は補正部分)。
「液体食品が充填された封止前の上方開放口からパッケージ本体内へ窒素
ガスを噴射する噴射ノズルに,前記パッケージ本体の上方開放口より広い領
域にわたって上方を覆うと共に噴射された窒素ガスが外へ逃げ出すのを阻止
する位置で,水平なプレート状に形成された開放口カバーを設ける一方,前
記噴射ノズルは,前記パッケージ本体の上方開放口の上端が順次止じ合わさ
れる止じ合せ前の位置で,前記パッケージ本体の上方開放口が内側に折り込
まれてなくパッケージ本体から垂直に立上がる大きく開いた状態にあるパッ
ケージ本体の上方開放口の真上に臨む位置に設けられていることを特徴とす
るパッケージ用窒素ガス噴射装置。」
(3)審決の内容
ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,①本
願補正発明は引用発明に基づいて容易に発明することができた(特許法2
9条2項)から,本件補正は違法である,②本件補正前の発明も引用発明
に基づいて容易に発明することができた,というものである。
イなお,審決が認定する引用発明の内容,本願補正発明と引用発明との一
致点及び相違点は,別添審決写し記載のとおりである。
(4)審決の取消事由
しかしながら,本願補正発明は引用発明に基づいて容易に発明することが
できたとして本件補正を却下した審決は,次のとおり違法なものであるか
ら,取り消されるべきである。
ア取消事由1(一致点についての認定判断の誤り)
(ア)審決は,引用発明について「…噴射された窒素ガスが外へ逃げ出す
のを阻止する位置で,水平なプレート状に形成されたフード16を設け
る…」と認定し(8頁4行∼5行),「…噴射された窒素ガスが外へ逃
げ出すのを阻止する位置で,水平なプレート状に形成された開放口カバ
ーを設ける…」点を一致点と判断した(8頁17行∼18行)。
(イ)審決の上記認定判断は,以下に述べるとおり,誤りである。
a引用文献(甲1)は,フードについて,「…フード16は,また,
楕円形の開口穴22を介して導管18と連通する空間部20を有して
いる。空間部20は,傾斜した平らな天井壁24と周壁26とにより
形成されている。図1に最もよく示されているように,空間部20の
高さは,長さ方向で直線的に変化している。周壁26は,角が丸くな
った実質的に長方形の横断面を有し,同じ形の開口部28を形成して
いる。図2をみるに,開口部28は,空間部20を介して開口穴22
に連通している。不活性ガスのブランケットは,以下に詳細に述べる
ように,開口部28を通って通過する。」と記載する(訳文は,審決
3頁16行∼23行)。また,引用文献(甲1)の2欄64行∼3欄
6行には,開口部について,「…従って,好適の実施態様において,
開口部は,矩形の断面を有し,容器の移動方向と垂直な方向に沿った
上記矩形の幅は,これと同じ方向に沿った容器の幅よりも小さく,容
器の移動方向に沿った上記矩形の長さは,これと同じ方向に沿った容
器の長さよりも大きくなっている。」と記載する(訳文は,引用文献
に対応する日本特許出願の特許公報[特許第3113339号。甲9
]の対応箇所(段落【0018】)による。)。
これらの記載から,フードは,下面に,横長の開口部とそこから凹
んだ空間部20とを有し,空間部20の天井壁24は傾斜していると
認識されるべきである。
bフードの形状は,引用発明において重要な構成要件である。空間部
20は,引用文献(甲1)のFIG5及びFIG6に示されているよ
うに,開口部28を介してガスがパイプ8直下の箱(容器)40の上
部空間に流れ,また,横長の開口部28を介してガスが隣接する箱
(容器)40に流れるトンネルとして機能する。水平なプレート状に
形成された本願補正発明の開放口カバーは,本体内に噴射された窒素
ガスが上方開放口から逃げることを抑える機能を示すものであり,上
記の引用発明の機能を発揮することはできない。
cしたがって,審決のように,フードが「水平なプレート状に形成さ
れ」ていると認定することはできない。
本願補正発明では,開放口カバーが「水平なプレート状に形成さ
れ」ているのに対して,引用発明では,フードは,下面に,横長の開
口部とそこから凹んだ空間部とを有し,空間部の天井壁が傾斜してい
る点で相違する。審決は,上記相違点を看過している。
イ取消事由2(相違点についての認定判断の誤り)
(ア)審決は,相違点について,「…引用発明では,パイプ8が,箱の上
方開放口の真上に臨む位置に設けられているものの,その時の箱の開放
口の形状が不明である点」(8頁下11行∼下10行)と認定し,この
相違点について,「パッケージ本体内へ窒素ガスを噴射する際に,パッ
ケージ本体の上方開放口をどのような形状にしておくかは,当業者が必
要に応じ適宜設定し得るものである。そして,パッケージ本体内へ窒素
ガスを噴射する際の,パッケージ本体の上方開放口の形状として,『内
側に折り込まれてなくパッケージ本体から垂直に立上がる大きく開いた
状態』は,折り込み作業がなされる前の形態であり,当業者であれば当
然に想到し得る形態である。」と判断した(8頁下7行∼下2行)。
(イ)審決の上記認定判断は,以下に述べるとおり,誤りである。
a引用文献(甲1)のFIG6は,引用発明のガス置換装置の動作時
に得られるガスの流れを示すフード及び箱(容器)の上部の断面図で
ある。FIG6は,進行方向前後の器壁が内側に折り込まれ,箱(容
器)の胴体から傾斜した状態を明らかに図示する。進行方向前後の器
壁が内側に折り込まれているために,進行方向に平行な2枚の器壁も
同時に内側に折り込まれている。このように,引用文献のFIG6か
ら,ガスの流れが供給される動作時の箱の開放口の状態は,箱の上部
器壁が内側に折り込まれ,上部器壁が箱の胴体から傾斜した状態であ
ることが明らかに認められるから,審決が認定するように,その時の
箱の開放口の形状が不明ではない。
引用文献は,米国特許公報であり,その明細書は,引用発明の最適
の態様(ベストモード)を完全に開示しなくてはならないという法定
の記載要件に沿って記載されている。引用文献には,上記の1件の実
施例のみが最適の態様として記載されているから,上記のように認定
されなければならない。
b本願補正発明の技術分野は,屋根型紙容器用窒素ガス置換装置であ
り,本願出願前の従来技術である特開平7−187135号公報(発
明の名称「液体充填密封装置」,出願人凸版印刷株式会社,公開日
平成7年7月25日。甲4)及び特開2002−37215号公報
(発明の名称「不活性ガス置換装置」,出願人四国化工機株式会
社,公開日平成14年2月6日。甲5)では,引用発明と同じよう
に,ガスの流れが供給される動作時の箱の開放口の状態は,箱の上部
器壁が内側に折り込まれ,上部器壁が箱の胴体から傾斜した状態であ
る。
c窒素ガス置換装置が用いられる屋根型紙容器用液体充填密封装置
は,主に,充填ステーション,加熱ステーション及び封止ステーショ
ンとからなる。本願出願前の従来からの技術では,屋根型に折畳み易
くするように,折り癖を付ける仮折工程が設けられている。この仮折
工程は,加熱ステーションの前に,一旦,仮折ガイドによって容器上
部の器壁を折込み線に沿って内側に深く折り込み,仮折ガイドを離し
て器壁の可撓性によって部分的に戻し,器壁の折れ線での変形によっ
て,上部器壁が容器の胴体から傾斜した状態にする処理である(Aの
報告書[甲6])。
d本願出願前に頒布された刊行物である特開平10−53204号公
報(発明の名称「加熱装置およびこの装置を用いた加熱密封方法」,
出願人凸版印刷株式会社,公開日平成10年2月24日。甲7)及
び特開平10−101003号公報(発明の名称「容器頂部ヒートシ
ール用加熱装置」,出願人四国化工機株式会社,公開日平成10年
4月21日。甲8)には,加熱ステーションにおいて,既に容器の上
部器壁が内側に折り込まれ,上部器壁が容器の胴体から傾斜した状態
であることが示されている。
e以上のとおり,本願出願前の従来技術では,封止ステーションの折
込み作業中のみならず,折込み作業前の加熱ステーションにおいて
も,容器が仮折工程の処理を受けているので,大きく開いているか小
さく開いているか程度の差があるにしても,箱(容器)の上部器壁が
内側に折り込まれ,上部器壁が箱(容器)の胴体から傾斜した状態に
なっている。
fこれに対して,本願補正発明では,上記の従来の認識・技術と異な
り,加熱ステーション後であっても,ガスの流れが供給される動作時
の容器の開放口の状態は,内側に折り込まれてなくパッケージ本体か
ら垂直に立上がる大きく開いた状態である。
本願補正発明の上記形態は,従来の認識・技術を覆すものであり,
当業者であれば当然に想到し得る形態ではない。
(ウ)なお,被告は,乙1(特開平5−330515号公報。発明の名称
「充填密封容器ヘッドスペースのガス置換方法」,出願人凸版印刷株
式会社,公開日平成5年12月14日)を引用しているが,乙1(段
落番号【0018】∼【0025】及び図3)では,密封シール工程に
おいて,加熱加圧密封シールが行われるから,上記(イ)の加熱ステーシ
ョンは,この密封シール工程に対応する。この密封シール工程において
は,加熱後に容器は内側に折り込まれている。したがって,乙1が開示
するガス置換では,加熱ステーション後も,容器の開放口は,垂直に立
上がる大きく開いた状態ではない。乙1のガス置換は,加熱ステーショ
ン前に,パッケージ本体内へ窒素ガスを噴射する際に,パッケージ本体
の上方開放口を垂直に立ち上がった状態を示す(乙1,図3)。また,
本願明細書においても,比較例として,加熱ステーション後に,パッケ
ージ本体内へ窒素ガスを噴射する際に垂直に立ち上がった状態を示す
(甲2,図5(b))。乙1のガス置換及び本願明細書の比較例では,
開放口にカバーがないことによって外気を巻き込み,また,噴射された
窒素ガスが開放口から逃げる問題点がある。乙1のガス置換では,この
問題点を窒素ガスがノズル26から供給されたチャンバー31で製造工
程全体若しくは大部分を覆うことによって解決するものである。
ウ取消事由3(相違点の効果についての判断の誤り)
(ア)審決は,相違点の効果について,「さらに,このような形態を採用
することにより,顕著な効果を奏するものでもない。」と判断した(8
頁下2行∼下1行)
(イ)審決の上記判断は,以下に述べるとおり,誤りである。
a気体の流れは,気体の流れが当たる面の傾きによって大きく変化す
る。このことは,航空機の昇降蛇や方向蛇,船舶の舵など身近な例か
ら容易に理解される。
引用発明及び本願出願前の従来技術において,上記イ(イ)で述べた
ように,気体の流れが当たる面の傾きがパッケージ本体から傾斜して
おり,屋根型紙容器の上部器壁は,異なる傾きを持つ内面になってい
る。このような異なる内面を持つ空間にガスを噴射すれば,気体の流
れシュミレーションも難しい複雑なガスの流れとなる。
これに対して,本願補正発明では,パッケージ本体の上方開放口の
形状として,「内側に折り込まれてなくパッケージ本体から垂直に立
上がる大きく開いた状態」であり,屋根型紙容器の上部器壁は,単純
に垂直な4面になっている。このようなシンプルな内面を持つ空間に
ガスを噴射すれば,異なる傾斜の内面を持つ空間の場合に比べ,より
スムーズな気体の流れ,乱流を抑制し層流になり易いガスの流れとな
る作用を発揮する。
本願明細書には,パッケージの上部器壁について,「…窒素ガス
は,…四方へ広がり,壁に沿って垂直に上昇する」(乙2,段落【0
009】など)と記載されている。また,上記の壁は,本願の図面の
図5(a)が示すように,内側に折り込まれてなくパッケージ本体か
ら垂直に立上がる状態である。更に,図5(a)は,窒素ガスの流れ
を矢印で示し,その矢印は,複雑なガスの流れや乱流を示さず,スム
ーズな気体の流れ,層流を示唆する。したがって,垂直に立上がる器
壁が,少なくとも,スムーズな気体の流れ,乱流を抑制し層流になり
易いガスの流れとする作用効果は,本願の明細書及び図面の記載に基
づくものである。
b本願補正発明は,上記のとおり,垂直に立上がる器壁によって,ス
ムーズな気体の流れ,乱流を抑制し層流になり易いガスの流れとする
作用効果を奏する。また,本願補正発明は,開放口カバーによって,
本体内へ外気を巻き込む動きと本体内に入った窒素ガスが四隅のコー
ナー部から再び上方へ抜ける動きを阻止する作用効果を奏する。これ
らの作用効果は,独立して作用するのではなく,お互いに関連し絡み
合いながら作用する。これは,ガスの流れが容器壁にも,また,開放
口カバーにも当たり,気体の流れが当たった面により,流れの方向,
乱れの有無,ゆらぎの発生などに影響を及ぼすからである。
垂直に立上がる器壁による作用効果が,開放口カバーによる作用効
果に影響し,開放口カバーによる作用効果が,開放口カバーによる作
用効果にフィードバックする。
そして,窒素ガスが残存ガスを置換することに寄与する。
c以上のとおり,本願補正発明は,窒素ガスが残存空気を置換するこ
とに寄与するという顕著な効果を奏する。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)∼(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。
3被告の反論
(1)取消事由1に対し
ア本願補正発明の「水平なプレート状に形成された開放口カバー」に関し
て,本願明細書(公開特許公報,甲2)には,以下の記載がある。
・「一方,開放口カバー37は,第1,第2の噴射ノズル23,24
の下半部側となるノズル部23−2,24−2にまたがって一体に連
続して設けられ,各パッケージ本体11,11を組合せた面積より広
い面積で上方を覆うようになっている。」(段落【0052】)
・「開放口カバー37は,水平なプレート状に形成され,外周端縁は
下方へ向かって小さく屈曲されている。」(段落【0053】)
・「開放口カバー37とパッケージ本体11の上方開放口13までの
間は所定の隙間を有している。この隙間は,パッケージ本体11がコ
ンベア3によって搬送される時に干渉しない距離になっていることに
加えて,先端ノズル口23a,24aからの窒素ガス噴射時に,外気
の巻き込みを最少に抑えることと,内部へ噴射された窒素ガスが上方
開放口13から外へ逃げるのを最少に抑える寸法に設定されてい
る。」(段落【0054】)
また,図面の【図1】ないし【図3】及び【図5】(a)に,開放口カ
バー37の外周縁を下方に向かって屈曲させた構成が開示されている。
以上の記載によると,本願補正発明の「開放口カバー」は,水平なプレ
ート状に形成し,パッケージ本体の上方開放口より広い領域にわたって上
方を覆うと共に噴射された窒素ガスが外へ逃げ出すのを阻止する位置に設
けることにより,窒素ガス噴射時に外気の巻き込みやパッケージ本体の内
部に噴射された窒素ガスが上方開放口から外へ逃げるのを抑えるものとい
える。そして,開放口カバーが「水平なプレート状」であるとは,開放口
カバーの外周端縁が下方に向かって湾曲しているものも包含するから,厳
密な意味での水平な形状を意味するものではないと解される。これらのこ
とを勘案すると,「水平なプレート状に形成された開放口カバー」とは,
パッケージ本体の上方開放口13を覆うように,上記機能又は作用を奏し
得る範囲において概ね水平方向に広がりを持った全体としてプレート状で
あるものと解される。
イ一方,引用文献(甲1)のフード16は,引用文献の5欄8行∼26行
(訳文は,審決5頁3行∼15行)に記載されているように,長さが5
5/8”で,幅が37/8”であり,箱の正方形の横断面の一辺の長さが,3
3/4”であり,またフード16の長手方向の両側に,突出部30が設けら
れ,当該突出部30の底表面32と容器の開放口の側方の上端とが最小間
隔38に設定されていることから,フード16は,箱の上方開放口より広
い領域にわたって上方を覆っているものであり,またフード16が窒素ガ
スが外へ逃げ出すのを阻止する位置に設けられているといえる。
してみると,引用発明のフードは,本願補正発明の開放口カバーと同様
に,窒素ガス噴射時に外気の巻き込みや箱の内部へ噴射された窒素ガスが
上方開放口から外へ逃げるのを抑えるものである。そして,引用文献のフ
ード16は,周壁26や傾斜した平らな天井壁24を有する構成である
が,周壁26は,本願明細書の【図1】∼【図3】及び【図5】(a)に
開示されている開放口カバー37の外周縁を下方に向かって屈曲させた構
成に共通するものであり,また天井壁24は傾斜しているとはいえ平坦で
あり,この構造により層流の不活性ガスの流れを生じさせ窒素ガスの置換
を好適にする(引用文献の6欄3行∼14行[訳文は,審決7頁18行∼
25行]),つまり,乱流の発生を抑えて,窒素ガス噴射時に外気の巻き
込みを防止するものであり,しかも引用文献(甲1)の図面の「FIG1
∼5」の開示からみると,全体として箱の上方開放口に対し概ね水平方向
に広がりを持ったプレート状であるということができる。
そうすると,引用文献のフード16は,箱の上方開放口を覆うように,
本願補正発明の開放口カバーと同様の上記機能又は作用を奏し得る範囲に
おいて概ね水平方向に広がりを持った全体としてプレート状であるという
ことができる。
ウしたがって,引用発明のフードを「水平なプレート状に形成された」も
のとした審決の認定に誤りはない。
なお,原告は,引用発明のフードは,その形状によりガスの流れを生じ
させ,開口部28が当該ガスを流すトンネルとして機能させるものである
が,本願補正発明の水平なプレート状に形成された開放口カバーではその
ような機能を発揮することができない旨主張している。本願補正発明の開
放口カバーによりガスがどのように流れるかは明らかではないが,上述し
たように,引用発明のフードは,本願補正発明の開放口カバーと同様に乱
流の発生を抑えて,窒素ガス噴射時に外気の巻き込みを防止するものであ
り,しかも窒素ガスの置換を更に好適にするためのものであるから,引用
発明のフードが「水平なプレート状に形成された」ものであるという認定
に影響を及ぼすものではない。
(2)取消事由2に対し
ア相違点の認定は,引用文献から引用発明を認定し,本願補正発明と引用
発明とを対比して,一致点と相違点とを抽出して認定されるものであっ
て,本願補正発明と引用文献とを対比して認定するものではない。審決に
おいても,引用文献(甲1)の記載から,引用発明を「液体食品が充填さ
れた封止前の上方開放口から箱内へ窒素ガスを噴射するパイプ8に,前記
箱の上方開放口より広い領域にわたって上方を覆うと共に噴射された窒素
ガスが外へ逃げ出すのを阻止する位置で,水平なプレート状に形成された
フード16を設ける一方,前記パイプ8は,前記箱の上方開放口の上端が
順次止じ合わされる止じ合せ前の位置で,上方開放口の真上に臨む位置に
設けられていることを特徴とするパッケージ用窒素ガス噴射装置。」と認
定し,本願補正発明と対比している。引用発明においては,上記認定のと
おり,パイプ8が,箱の上方開放口の真上に臨む位置に設けられていると
きの,箱の上方開放口の形状に関して何ら特定していない。したがって,
相違点として,「引用発明では,パイプ8が,箱の上方開放口の真上に臨
む位置に設けられているものの,その時の箱の開放口の形状が不明である
点」と認定したものであって,その認定に誤りはない。
イまた,引用文献(甲1)の記載をみても,フード16の底表面の内側端
34は,33/8”だけ離れており,外側端が37/8”だけ離れているこ
と,また,横寸法が33/4”である正方形の横断面を有する標準的な半ガ
ロンのゲーブルトップの箱の上端が,底表面34の下方に直接的に対向す
るように配置することが記載されている(引用文献の5欄8行∼26行[
訳文は,審決5頁3行∼15行])ように,箱の横断面が正方形であるか
ら,上方開放口の横断面も同様に正方形であるとも解し得るとともに,箱
の上端は,33/8”∼37/8”の間隔をおいて開いている必要があるた
め,箱の1辺が33/4”であることからすれば,箱の上端は,少なくとも
ほぼ垂直に立上がる大きく開いた状態でなくてはならず,また箱の上端を
折り曲げておかなければならない特段の事情も見当たらないことから,箱
の上方開放口は,垂直に立上がる大きく開いた状態であるとも解し得る。
一方で,引用文献(甲1)の図面のFIG6の記載からすると,箱の上
端が僅かに折り込まれているように記載されているが,当該記載は,箱の
上端を折り込まれた状態でなくてはならないという技術を特定するもので
はなく,引用発明の実施例の一つを示しているに過ぎない。
これらのことを勘案すると,引用文献には,箱に窒素ガスを噴射する際
に,箱の上端をどのような形状にしておくか明記されていないというべき
であり,パイプ8が,箱の上方開放口の真上に臨む位置に設けられている
ものの,その時の箱の開放口の形状は不明というべきである。
したがって,審決において,箱の開放口の形状が不明であるとした相違
点の認定に誤りはない。
ウ原告は,本願補正発明の,ガスの流れが供給される動作時の容器の開放
口の状態が,内側に折り込まれてなくパッケージ本体から垂直に立上がる
大きく開いた状態とすることは,従来の認識・技術を覆すものである旨主
張しているが,ガスの流れが供給される動作時の前後の工程を検討する
と,ガスの流れが供給される動作時の前に箱の上部器壁を内側に仮に折り
込んでガスを供給した後に封止するか,ガスの流れが供給される動作時の
前には箱の上部器壁に対して何も作業せずにガスの流れを供給した後に,
箱の上部器壁を内側に折り込んで封止するか,つまり箱の上部器壁の折り
込み作業は,ガスの流れを供給する前後のいずれかになる。そして,例え
ば,甲4(段落【0004】,【0011】,【図1】,【図2】)及び
甲5(段落【0016】,【0017】)に記載されているように,ガス
の流れが供給される動作時の前に箱の上部器壁を内側に仮に折り込んでガ
スを供給した後に封止することは,本願出願前において技術常識であり,
また例えば,特開平5−330515号公報(発明の名称「充填密封容器
ヘッドスペースのガス置換方法」,出願人凸版印刷株式会社,公開日平
成5年12月14日。乙1)において,第2ガス置換工程③及び④の後,
仮折り工程⑤を行うことが記載されている(段落【0018】∼【002
5】及び【図3】)ように,ガスの流れが供給される動作時の前には箱の
上部器壁に対して何も作業せずにガスを供給した後に,箱の上部器壁を内
側に折り込んで封止する,つまりパッケージ本体を垂直に立ち上がった状
態でガスの流れを供給させることも,本願出願前において技術常識であ
る。これらのことを勘案すると,パッケージ本体内へ窒素ガスを噴射する
際に,パッケージ本体の上方開放口を傾斜した状態とするか,垂直に立ち
上がった状態とするかは,当業者が必要に応じ適宜設定し得るものであっ
て,本願補正発明のように「内側に折り込まれてなくパッケージ本体から
垂直に立上がる大きく開いた状態」とすることは,当業者であれば当然に
想到し得る形態である。しかも,下記の(3)に示されているように,この
ような形態を採用することにより,顕著な効果を奏するものでもない。
エしたがって,審決における相違点についての認定判断に誤りはない。
(3)取消事由3に対し
ア原告は,本願補正発明において,パッケージ本体の上方開放口の形状と
して,「内側に折り込まれてなくパッケージ本体から垂直に立上がる大き
く開いた状態」とすることにより,よりスムーズな気体の流れ,乱流を抑
制し層流になり易いガスの流れとなる作用を発揮し,窒素ガスが残存空気
を置換することに寄与する旨を主張しているが,本願明細書には,パッケ
ージ本体の上方開放口の形状を,窒素ガスと残存空気との置換特性との関
係において特定することや,当該上方開放口の形状と窒素ガスの置換特性
との間に技術的な因果関係があることは,何ら記載されていない。さら
に,上記効果を裏付ける根拠も何ら示されていない。してみれば,上方開
放口の上記形状を採用することにより,よりスムーズな気体の流れとなる
ことにより,乱流を抑制し層流になり易いガスの流れとなる作用を発揮
し,窒素ガスが残存空気を置換することに寄与するという作用効果は,本
願明細書の記載に基づくものではない。
イさらに,そもそも,パッケージ本体の上方開放口の形状が,「内側に折
り込まれてなくパッケージ本体から垂直に立上がる」との構成は,平成1
9年9月6日付け手続補正(乙2)により追加された事項であり,その補
正の根拠として,同日付けの意見書(乙3)において,当初明細書の段落
【0019】や図面の【図5】(a)及び【図6】が示されているが,当
初明細書の段落【0019】には,上方開放口がパッケージ本体から垂直
に立上がるということは記載されていないし,図面の【図5】(a)及び
【図6】では,一応は上方開放口が垂直に立上がることが見て取れるもの
の,これはあくまでも略図であり,また,当初明細書には,上方開放口の
折り込みを,どのような装置により,どのようなタイミングで行うのか何
ら記載されていないことを勘案すると,【図5】(a)及び【図6】の略
図は,上方開放口を厳密に垂直に立ち上げるという技術を開示したもので
はなく,本願補正発明における「垂直に立上がる」とは,ちょうど垂直な
場合のみならず,引用発明のように,ほぼ垂直な場合を含むというべきで
ある。してみれば,このような観点からしても,原告の主張する上記作用
効果は,本願補正発明の作用効果として認められるべきものではない。
ウまた,仮に原告の主張するような作用効果があるとしても,上記(1)の
とおり,引用発明においても,乱流が発生していないのであり,また上記
(2)のとおり,本願補正発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明
することができたものであるから,必然的に原告が主張するような作用効
果を奏するものであって,その作用効果は当業者であれば予想し得る程度
のものにすぎず,顕著な作用効果であるとはいえない。そして,原告の主
張するような作用効果は,本願出願前の技術水準を示す乙1も本願補正発
明と同様に容器(本願補正発明の「パッケージ本体」に相当)の容器トッ
プ部(本願補正発明の「上方開放口」に相当)が内側に折り込まれてなく
容器から垂直に立上がる大きく開いた状態であることから,当然同一の作
用効果を奏するものである。してみると,原告の主張するような作用効果
は,当業者であれば予想し得る程度のものにすぎず,顕著な作用効果であ
るとはいえない。したがって,原告の上記主張は失当である。
エなお,上方開放口からパッケージ本体内で外気を巻き込む動きを阻止す
るとともに,窒素ガスが上方開放口から上方へ逃げる動きを阻止するとい
う,本願明細書に繰り返し記載されている作用効果は,開放口カバーを設
けることによるものであって,パッケージ本体の上方開放口が垂直に立上
がることによるものではなく,ちょうど垂直に立上がるものであっても,
多少内側に傾斜して立上がるものであっても,当該作用効果を奏すること
に変わりはない。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審
決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2本願補正発明の意義
(1)本件補正後の特許請求の範囲【請求項1】は,前記第3,1(2)のとおり
であり,本件補正後の明細書の【発明の詳細な説明】の記載及び図面の記載
は,次のとおりである(甲2,3,乙2)。
ア発明の属する技術分野
「この発明は,屋根付容器に適するパッケージ用窒素ガス噴射装置に関
する。」(甲2,段落【0001】)
イ従来の技術
・「一般に,牛乳や清涼飲料等のパッケージにあっては,各種形状のも
のがあるが,その内でも屋根付容器と呼ばれるものがある。」(甲2,
段落【0002】)
・「屋根付容器は,例えば,図12(a)に示すようにパッケージ本体
101の上方開放口を,図において両サイドを点線で示すように内側に
折り込んだ状態で上端を止じ合せ,その止じ合面103を熱溶着等の手
段によって封止することで,図12(b)に示すように切妻屋根状の屋
根付容器が作られるようになっている。」(甲2,段落【0003】)
ウ発明が解決しようとする課題
・「屋根付容器は,上方開放口を封止する際に,パッケージ本体101
内の上方に,断面切妻屋根状の閉空間が作られるようになる。」(甲
2,段落【0004】)
・「閉空間内には,空気が存在するようになる所から,パッケージ本体
101内に充填された液体食品は閉空間内の空気中の酸素と接触し酸化
が促進される。」(甲2,段落【0005】)
・「酸化の促進は風味を損ね,充填完了後の製品の賞味期限に重大な影
響を与えるために,製品の保管,流通工程において時間的な制約を受け
る等の問題をかかえているのが現状である。」(甲2,段落【0006
】)
・「そこで,この発明は,パッケージ本体の上部閉空間内に作られる空
気層を窒素ガスに置換することで,空気との接触をなくして液体食品の
酸化を抑える一方,高い窒素ガス置換率が得られるようにすると共に,
しかも,衛生面に優れるパッケージ用窒素ガス噴射装置を提供すること
を目的としている。」(甲2,段落【0007】)
エ課題を解決するための手段
・「前記目的を達成するために,この発明の請求項1にあっては,液体
食品が充填された封止前の上方開放口からパッケージ本体内へ窒素ガス
を噴射する噴射ノズルに,前記パッケージ本体の上方開放口より広い領
域にわたって上方を覆うと共に噴射された窒素ガスが外へ逃げ出すのを
阻止する位置で,水平なプレート状に形成された開放口カバーを設ける
一方,前記噴射ノズルは,前記パッケージ本体の上方開放口の上端が順
次止じ合わされる止じ合せ前の位置で,前記パッケージ本体の上方開放
口が内側に折り込まれてなくパッケージ本体から垂直に立上がる大きく
開いた状態にあるパッケージ本体の上方開放口の真上に臨む位置に設け
られていることを特徴とする。」(甲3,段落【0008】)
・「これにより,噴射ノズルによって上方からパッケージ本体内へ窒素
ガスが噴射される。この噴射時の窒素ガスは,上方開放口のほぼ中央部
位からビーム状に本体内へ入った後,四方へ広がり,壁に沿って垂直に
上昇するようになる。この時,上方からパッケージ本体内へ入る窒素ガ
スは,上方開放口からパッケージ本体内へ外気を巻き込む動きと,本体
内部では四方へ広がった後,特に,四隅のコーナ部に沿って垂直に上昇
し,上方開放口より上方へ逃げる動きが発生するが,それらの動きは開
放口カバーによって阻止される。」(乙2,段落【0009】)
・「この結果を,開放口カバーがない場合と,実験データで比較してみ
るとパッケージ本体内の空気層に対する窒素ガスの置換率は,開放口カ
バーがない時は,平均値で約60%台であったのに対して,上方に開放
口カバーを用いる本願補正発明にあっては,置換率が約80%台までア
ップし,大きな置換率の向上が認められた。」(甲2,段落【0010
】)
・「これは,上方開放口の上方に設けられた開放口カバーによって,本
体内へ外気を巻き込む動きと,本体内に入った窒素ガスが四隅のコーナ
部から再び上方へ抜ける動きが阻止されたためと考えられる。」(甲
2,段落【0011】)
・「したがって,窒素ガス置換率の向上によって液体食品の酸化が抑え
られることで,例えば,充填済みのパッケージを出荷する際に,これま
では3日間しかなかったのが,6日間は品質管理の保障期間として使え
るようになると共に,パッケージの保管,流通工程に余裕を持てるよう
になる。」(甲2,段落【0012】)
オ発明の実施の形態
(ア)第1の実施形態
・「一方,開放口カバー37は,第1,第2の噴射ノズル23,24
の下半部側となるノズル部23−2,24−2にまたがって一体に連
続して設けられ,各パッケージ本体11,11を組合せた面積より広
い面積で上方を覆うようになっている。」(甲2,段落【0052
】)
・「開放口カバー37は,水平なプレート状に形成され,外周端縁は
下方へ向かって小さく屈曲されている。」(甲2,段落【0053
】)
・「開放口カバー37とパッケージ本体11の上方開放口13までの
間は所定の隙間を有している。この隙間は,パッケージ本体11がコ
ンベア3によって搬送される時に干渉しない距離になっていることに
加えて,先端ノズル口23a,24aからの窒素ガス噴射時に,外気
の巻き込みを最少に抑えることと,内部へ噴射された窒素ガスが上方
開放口13から外へ逃げるのを最少に抑える寸法に設定されてい
る。」(甲2,段落【0054】)
・「次に,動作について説明する。」(甲2,段落【0055】)
・「コンベア3の上流側に送り込まれたパッケージ本体11は,2個
ずつ所定の間隔を有して搬送され,その搬送工程中に液体食品充填ス
テーション5において,例えば,牛乳等の液体食品が充填され,続い
て,加熱ステーション7において上方開放口13にヒートシール用の
熱が与えられた後,各噴射ノズル23,24.25.26から窒素ガ
スが噴射され,封止ステーション9において上方開放口13の上端が
封止される。」(甲2,段落【0056】)
・「これら一連の工程において,パッケージ本体11の上方開放口1
3から内部へ向かって窒素ガスが噴射される噴射時の様子を図5
(a)(b)に基づいて具体的に説明する。」(甲2,段落【005
7】)
・「上方から噴射された窒素ガスは,パッケージ本体11の上方開放
口13のほぼ中央部位からビーム状に本体内へ入った後,四方へ広が
り,おもに,四隅のコーナ部から上昇するようになる。この時,上方
から本体へ入る窒素ガスは,図5(b)に示すように開放口カバー4
5がない場合,上方開放口13から本体内へ外気を巻き込むようにな
る。一方,本体内部では四方へ広がった後,おもに四隅のコーナ部か
ら上昇し,外へ逃げるようになるが,図5(a)に示すように開放口
カバー45がある場合,外気の巻き込み量及び外へ逃げる量は最少に
抑えられる。」(甲2,段落【0058】)
・「この結果は,実験データで比較してみると明らかで,開放口カバ
ー37がない場合には,パッケージ本体11内の空気層に対する窒素
ガスの置換率は,平均値で約60%台であったのに対して,上方に開
放口カバー37がある場合には,窒素ガスの置換率が約80%台まで
アップし,大きな置換率の向上が認められた。」(甲2,段落【00
59】)
・「これは,上方開放口13の上方に開放口カバー37が設けられる
ことで,パッケージ本体11内へ外気を巻き込む動きと,上方開放口
13から外へ逃げる動きを阻止する阻止手段として機能するためと考
えられる。加えて,上方開放口13が順次止じ合わされていく工程時
に,第3,第4の噴射ノズル25,26によって噴射される窒素ガス
と相俟って高い窒素ガスの置換率が得られるようになった。」(甲
2,段落【0060】)
・「したがって,窒素ガスの置換率の向上によって液体食品の酸化が
抑えられることで,例えば,充填済みのパッケージを出荷する際に,
これまでは3日間でしかなかったのが,6日間は品質管理の保障期間
として使えるようになると共に,パッケージの保管,流通工程に余裕
を持てるようになる。」(甲2,段落【0061】)
(イ)第2の実施形態
・「一方,開放口カバー75は,第1,第2の噴射ノズル63,64
の下半部側となるノズル部63−2,64−2にまたがって一体に連
続して設けられ,各パッケージ本体11,11を組合せた面積より広
い面積で上方を覆うようになっている。」(甲2,段落【0083
】)
・「開放口カバー75は,水平なプレート状に形成され,外周端縁は
下方へ向かって小さく屈曲されている。」(甲2,段落【0084
】)
・「開放口カバー75とパッケージ本体11の上方開放口13までの
間は所定の隙間を有している。この隙間は,パッケージ本体11がコ
ンベア3によって搬送される時に干渉しない距離になっていることに
加えて,先端ノズル口63a,64aからの窒素ガス噴射時に,外気
の巻き込みを最少に抑えることと,内部へ噴射された窒素ガスが上方
開放口13から外へ逃げるのを最少に抑える寸法に設定されてい
る。」(甲2,段落【0085】)
カ発明の効果
・「以上,説明したように,この発明の請求項1によれば,パッケージ
本体の上方開放口の上端が順次止じ合わされる止じ合せ前の位置で,前
記パッケージ本体の上方開放口が内側に折り込まれてなくパッケージ本
体から垂直に立上がる大きく開いた状態にあるパッケージ本体の上方開
放口の真上に臨む位置に設けられた噴射ノズルと,その噴射ノズルに設
けた開放口カバーにより,パッケージ本体内の空気層に対する窒素ガス
の窒素ガス置換率を大幅に向上させることができる。その結果,液体食
品の酸化を遅らせることが可能となり,製品の保管,流通工程に余裕が
もてるようになる。」(甲3,段落【0092】)
キ図面
【図1】(第1の実施形態の概要説明図)
【図3】(第1の実施形態の概要分解斜視図)
【図5】(a)(窒素ガス噴射時の動作説明図)
【図7】(第2の実施形態の概要説明図)
【図10】(第2の実施形態の概要正面図)
(2)上記(1)によれば,本願補正発明は,次のようなものであると認められ
る。
ア本願補正発明は,屋根付容器に適するパッケージ用窒素ガス噴射装置に
関するもので,パッケージ本体の上部閉空間内に作られる空気層を窒素ガ
スに置換することで,空気との接触をなくして液体食品の酸化を抑える一
方,高い窒素ガス置換率が得られるようにすると共に,衛生面に優れるパ
ッケージ用窒素ガス噴射装置を提供することを目的としている。
イ本願補正発明の構成を有するパッケージ用窒素ガス噴射装置において,
噴射ノズルによって上方からパッケージ本体内へ噴射された窒素ガスは,
上方開放口のほぼ中央部位からビーム状に本体内へ入った後,四方へ広が
り,壁に沿って垂直に上昇するようになる。この時,窒素ガスは,上方開
放口からパッケージ本体内へ外気を巻き込む動きと,本体内部では四方へ
広がった後,特に,四隅のコーナ部に沿って垂直に上昇し,上方開放口よ
り上方へ逃げる動きが発生するが,それらの動きは開放口カバーによって
阻止される。その結果,パッケージ本体内の空気層に対する窒素ガスの置
換率は,大きく向上するので,液体食品の酸化が抑えられることとなり,
品質管理の保障期間を延ばすことができると共に,パッケージの保管,流
通工程に余裕を持てるようになる。
3取消事由1(一致点についての認定判断の誤り)について
(1)引用文献(米国特許第5452563号明細書。甲1)には,次の記載
がある。
ア「本発明は,一般に,固体物質あるいは液体物質が充填されている容器
のヘッドスペース(充填空積)から酸素を取除くためのガス置換装置およ
び方法に関し,より詳細には,ゲーブルトップ型の紙容器のヘッドスペー
ス内の大気空気を不活性ガスに置換するガス置換装置および方法に関す
る。」(1欄13行∼18行,訳文は,引用文献に対応する日本特許出願
の特許公報[特許第3113339号,公開日平成5年5月28日,登
録日平成12年9月22日,発明の名称「ガス置換装置および方法」,
出願人インターナショナル・ペーパー・カンパニー,甲9]の対応箇所
である段落【0001】)
イ・「一般に,容器内に包装される食品,薬品,化粧品,そして他の物質
は,大気により酸化され,物質の品質の劣化を招く。従来技術として,
不活性ガスを容器に満たす間に,上部空間の大気と置換して,酸素を取
り除く方法はよく知られている。」(1欄22行∼27行,訳文は,審
決2頁下1行∼3頁3行)
・「しかしながら,”ニシグチ”等の構成では,容器の断面が正方形で
あるのに対し,ノズルの出口が円形であるので,容器の隅部の周囲空気
を容易に置き換えることができないという欠点がある。さらには,上記
理由に加え,注入された不活性ガスは当初,半径方向に外側に向かって
流れ,次いで容器の内壁に沿って上昇するので,乱流が生じ,この結
果,ヘッドスペース内には周囲空気がトラップされてしまう。」(1欄
53行∼60行,訳文は,甲9の段落【0006】)
・「本発明の目的は,上述したような在来の包装機械の欠点を克服し,
容器のヘッドスペース内の酸素容積量を1%以下に減少させることの可
能なガス置換装置および方法を提供することにある。」(2欄24行∼
30行,訳文は,甲9の段落【0011】)
・「本発明の目的は,さらに,連続的に移動している容器が所定の容積
空間を通過する際に,該容積空間に不活性ガスの連続流れを与える据え
付けのガス置換装置を提供することにある。」(2欄34行∼37行,
訳文は,甲9の段落【0013】)
ウ・「本発明において,上記目的,並びに効果は,ガス置換装置に対して
移動している容器のヘッドスペース内にガス置換装置によって不活性ガ
スを効果的に差し向けることにより達成される。すなわち,ガス置換装
置から多量の不活性ガスを出し,容器のヘッドスペース領域を低速の不
活性ガスで覆い,ヘッドスペース内の周囲空気を不活性ガスで置換する
ことによって達成される。」(2欄51行∼58行,訳文は,甲9の段
落【0017】)
・「…従って,好適の実施態様において,開口部は,矩形の断面を有
し,容器の移動方向と垂直な方向に沿った上記矩形の幅は,これと同じ
方向に沿った容器の幅よりも小さく,容器の移動方向に沿った上記矩形
の長さは,これと同じ方向に沿った容器の長さよりも大きくなってい
る。」(2欄67行∼3欄6行,訳文は,甲9の段落【0018】)
エ・「フード16は,パイプ8の端が穴14にはめ込まれたときに,パイ
プ8の導管10と連通する円筒状の導管18を有している。フード16
は,また,楕円形の開口穴22を介して導管18と連通する空間部20
を有している。空間部20は,傾斜した平らな天井壁24と周壁26と
により形成されている。図1に最もよく示されているように,空間部2
0の高さは,長さ方向で直線的に変化している。周壁26は,角が丸く
なった実質的に長方形の横断面を有し,同じ形の開口部28を形成して
いる。図2をみるに,開口部28は,空間部20を介して開口穴22に
連通している。不活性ガスのブランケットは,以下に詳細に述べるよう
に,開口部28を通って通過する。」(4欄40行∼52行,訳文は,
審決3頁15行∼23行)
・「従来からあるゲーブルトップの半ガロンの紙箱は横断面が正方形で
あり,横寸法は33/4”である。したがって,フードの寸法は,一般的
に,箱の寸法に適合させる要求により決定される。例えば,標準的な半
ガロンのゲーブルトップの紙箱に用いられる装置の好適な具体例として
は,空間部26の前壁の高さは25/32”,空間部26の後壁の高さは
15/32”,そして,開口部28の幅は27/8”,そして長さは425/32
”である。しかしながら,フードの寸法は,箱の大きさによって異な
る。」(4欄53行∼63行,訳文は,審決3頁下4行∼4頁3行)
・「図5で最もよく分かるように,容器40と容器40’は,搬送ベル
ト(図示しない)により,長さ方向(矢印Aで示されている)に向け
て,フード16の下方を通って搬送される。ここで示される発明の好適
な具体例に関して,これらの容器は,正方形の横断面を有している。フ
ードは,フードの開口部28において,図1に"h"で示される予め定め
られた隙間だけ,容器の上部の開口から離されるように配置されてい
る。好適な具体例である,標準的な半ガロンのゲーブルトップの紙箱の
製造に用いられるアプリケーションにおいては,"h"は,3/32”であ
る。」(4欄64行∼5欄7行,訳文は,審決4頁14行∼21行)
・「開口部28の両側には,一対の互いに平行な長さ方向の突出部30
が設けられ,この突出部30において,フード16の最も低い位置が形
成されている(図2参照)。突出部30は,フードに必須の部分である
直線状のバーを構成している。それぞれの突出部は,平坦な底表面32
と,高さ"h"の平らな内側表面34を有している。底表面32は,容器
40,40”の開放口の長さ方向の側方の上端が,それぞれの底表面に
対向するとともに最小間隔38だけ離れた状態で通過するように,配置
されている(図5参照)。好適な具体例では,底表面は,幅が1/4”
で,長さが55/8”で,それぞれが33/8”に等しい間隔である"d"を
隔てて配置されている(図4参照)。したがって,底表面の内側端34
は,33/8”だけ離れており,一方,外側端は37/8”だけ離れてい
る。標準的な半ガロンのゲーブルトップの紙箱の正方形の横断面の横寸
法は33/4”であるから,ライン上の箱は,各箱の上端が,箱の移動方
向に整列されるとともに,底表面34の下方に直接的に対向するように
配置されるようになる。」(5欄8行∼26行,訳文は,審決5頁3行
∼15行)
・「フード16の下方に位置している開いた箱の他方の一対の上端は,
一方の底表面34から他の底表面に亘って伸びており,開口部28を囲
む平らな底表面36から,予め設定された隙間"h"だけ離されている。
これらの上端は,前方及び後方のフード16の底表面36と共に,h×
d,つまり,3/32”×33/8”の長方形の隙間を形成し,上部空間に流
れ込む窒素ガスによって置換される大気を排出させる役割を果たす。」
(5欄27行∼37行,訳文は,審決5頁25行∼30行)
・「さらに,ここで示される好適な具体例においては,開口部28の前
方端は,前方端の底表面36から3/8”だけ離されており,開口部28
の後方端は,後方端の底表面36から15/32”だけ離されている。そし
て,開口部28の側端は,それぞれの突出部30,36から1/4”だけ
離されている。また,丸い円筒状の導管18の直径は1”であり,フー
ドの長手方向の両側方から同距離にあり,また,フードの後端から1”
だけ離されている。」(5欄38行∼47行,訳文は,審決6頁4行∼
9行)
・「この発明の装置は,従来からある直列的な成形/充填/密封の箱ラ
インでの使用に特に適しており,また,上部加熱器と密封セクションの
間の位置に適している。この発明によれば,不活性ガス,好ましくは窒
素ガスのブランケットは,その下を通過するそれぞれの箱の上部空間を
覆う。不活性ガスの流れは,容器に流れ込むようにそれぞれの箱を覆い
続け,そして,密封のためのはさみ口,又は,従来から密封セクション
で用いられている装置により,密封される。稼働しているコンベヤベル
トのそれぞれの箱をフードの下に搬送するにしたがい,開口部28の増
大する領域が,箱の上部の開放口に覆い被さる。上部開放口を覆う開口
部の部分の箱の搬送方向の長さは,0から33/4(すなわち,標準的な
半ガロンのゲーブルトップの紙箱の頂部の開放口の全長)に変化し,箱
の移動の次の11/32”の間は,33/4”に等しく,その後,33/4”か
ら0へ変化する。したがって,不活性ガスのブランケットが,箱の前方
端から始まり,箱の頂部の開放口を効果的に通過させられる。箱の上部
空間に吹き込まれる窒素ガスにより,上部空間にある大気と置換され,
上部空間の酸素が減少させられて1%未満の水準となる。」(5欄48
行∼6欄2行,訳文は,審決6頁30行∼7頁6行)
・「図6は,ガス置換装置の動作によって得られる大気と不活性ガスの
流れのパターンを理論的に記載したものである。この発明の利点は,大
量に又低速度で箱の上部空間を覆う不活性ガスの流れによって達成され
る。図6に示されるように,このガス置換装置は,層流で非乱流の不活
性ガスの流れを箱の上部空間に作りだす。箱の上部空間の大気は徐々に
箱の横や角から排出される。この発明の効果的な酸素の放散を達成する
ために,放散される層流が,ガスの層流は後方への流れ,または,大気
が箱に入り込み混ざることを制限している。」(6欄3行∼14行,訳
文は,審決7頁18行∼25行)
オ「FIG6」
(2)ところで,審決は,引用文献記載のフード16について,「水平なプレ
ート状に形成された」と認定する(8頁4行∼5行)ところ,原告は,この
点について争うので,以下,判断する。
ア前記第3,1(2)のとおり,本件特許請求の範囲【請求項1】には,
「水平なプレート状に形成された開放口カバーを設ける」と記載されてい
る。
また,前記2(1)オのとおり,本願明細書には,「発明の実施の形態」
として,「開放口カバー37は,水平なプレート状に形成され,外周端縁
は下方へ向かって小さく屈曲されている。」,「開放口カバー75は,水
平なプレート状に形成され,外周端縁は下方へ向かって小さく屈曲されて
いる。」と記載され,前記2(1)キのとおり,図面には,液体食品が充填
された封止前の箱と水平な位置に形成されたプレート状の「開放口カバー
37」,「開放口カバー75」が示されており,その外周端縁は下方へ向
かって小さく屈曲している。
さらに,本願発明の「開放口カバー」は,そのパッケージ本体の上方開
放口と対向する下面によって,パッケージ本体内へ噴射される窒素ガスの
流れを制御するものである。
以上によれば,本件特許請求の範囲【請求項1】における「水平なプレ
ート状に形成された」の意義は,開放口カバーの下面が,液体食品が充填
された封止前の箱と水平な位置にプレート状に形成されることを意味する
ものと認められ,外周端縁が下方へ向かって小さく屈曲しているようなも
のも含むと認められる。
イこれに対し,前記(1)によれば,引用発明のフード16は,容器40,
40’の上方開放口に対して平行な板状の外観をなしており,フード16
には,上方開放口側へ開口して窪ませた空間部20が天井壁24と周壁2
6とにより形成され,この空間部20の天井壁24が容器の上方開放口に
対して傾いた平坦な面で,天井壁24の高さが容器の移動方向に沿って増
加しているものである。
このように,引用発明のフード16において,液体食品が充填された封
止前の箱と対向して,パッケージ本体内へ噴射される窒素ガスの流れを制
御する面は,傾斜面であって,水平とはいい難い上,空間部20が天井壁
24と周壁26とにより形成されているフード16がプレート状に形成さ
れているということも困難である。
上記アのとおり,本願補正発明の「水平なプレート状に形成された」に
は,外周端縁が下方へ向かって小さく屈曲しているようなものも含むが,
そうであるからといって,液体食品が充填された封止前の箱と対向する面
が傾斜面であって,およそ水平とはいい難く,また,プレート状ともいい
難いフード16をもって,「水平なプレート状に形成された」の点で,本
願補正発明と一致するということはできない。
なお,被告は,本願補正発明の開放口カバーと引用発明のフード16
は,ともに,窒素ガス噴射時に外気の巻き込みや箱の内部へ噴射された窒
素ガスが上方開放口から外へ逃げるのを抑えるものであると主張するが,
このような作用効果については,後記4(3)のとおり,相違点が容易想到
かどうかという判断では考慮されるとしても,上記のとおり異なる本願補
正発明の開放口カバーと引用発明のフード16を「水平なプレート状に形
成された」の点で一致すると認定することの根拠とすることはできない。
ウそうすると,「本願補正発明の開放口カバーは,水平なプレート状に形
成されているが,引用発明のフード16は,水平に対して傾斜した平らな
天井壁24と周壁26からなる」点を相違点とすべきであったということ
ができる。
(3)以上のとおり,取消事由1は理由がある。しかし,後記4(3)のとおり,
この相違点は,当業者が容易に想到することができたから,この相違点があ
ることは結論に影響を及ぼすものではない。
4取消事由2(相違点についての認定判断の誤り)及び取消事由3(相違点の
効果についての判断の誤り)について
(1)審決は,「本願補正発明では,噴射ノズルが,『前記パッケージ本体の
上方開放口が内側に折り込まれてなくパッケージ本体から垂直に立上がる大
きく開いた状態にあるパッケージ本体』の上方開放口の真上に臨む位置に設
けられているのに対し,引用発明では,パイプ8が,箱の上方開放口の真上
に臨む位置に設けられているものの,その時の箱の開放口の形状が不明であ
る点。」を相違点としている(8頁23行∼27行)。
原告は,上記相違点の認定のうち,引用発明の「箱の開放口の形状が不明
である」としたことについて争うので,以下,判断する。
ア前記3(1)のとおり,引用文献のFIG6には,パイプ8が液体食品が
充填された封止前の箱の上方開放口の真上に臨む位置に設けられている時
におけるガスの流れが示されているが,そこにおいて,箱の中のガスは,
箱の上部が内側に折り込まれ,箱の胴体から傾斜した中を流れる様子が示
されているから,FIG6において箱の開放口は内側に折り込まれてお
り,パッケージ本体から垂直に立上がる大きく開いた状態ということはで
きないものである。
イそして,引用文献(甲1)には,他に,パイプ8が箱の上方開放口の真
上に臨む位置に設けられている時の箱の開放口の形状を示す記載や図面が
あるとは認められないから,本願補正発明と対比すべき発明を認定する引
用発明の認定においては,パイプ8が箱の上方開放口の真上に臨む位置に
設けられている時の箱の開放口が内側に折り込まれていることを認定すべ
きであったということができる。
(2)上記(1)で述べたところに前記3で述べたところを総合すると,引用発明
の認定は次のようになり,本願補正発明との一致点,相違点は,次のように
なる。
ア引用発明の内容
「液体食品が充填された封止前の上方開放口から箱内へ窒素ガスを噴射
するパイプ8に,前記箱の上方開放口より広い領域にわたって上方を覆う
と共に噴射された窒素ガスが外へ逃げ出すのを阻止する位置で,水平に対
して傾斜した平らな天井壁24と周壁26からなるフード16を設ける一
方,前記パイプ8は,前記箱の上方開放口の上端が順次止じ合わされる止
じ合せ前の位置で,上方開放口の真上に臨む位置に設けられており,その
時に箱の開放口が内側に折り込まれていることを特徴とするパッケージ用
窒素ガス噴射装置。」
イ本願補正発明と引用発明との一致点,相違点
【一致点】
「液体食品が充填された封止前の上方開放口からパッケージ本体内へ窒
素ガスを噴射する噴射ノズルに,前記パッケージ本体の上方開放口より広
い領域にわたって上方を覆うと共に噴射された窒素ガスが外へ逃げ出すの
を阻止する位置で開放口カバーを設ける一方,前記噴射ノズルは,前記パ
ッケージ本体の上方開放口の上端が順次止じ合わされる止じ合せ前の位置
で,上方開放口の真上に臨む位置に設けられていることを特徴とするパッ
ケージ用窒素ガス噴射装置。」
【相違点1】
本願補正発明では,噴射ノズルが,「前記パッケージ本体の上方開放口
が内側に折り込まれてなくパッケージ本体から垂直に立上がる大きく開い
た状態にあるパッケージ本体」の上方開放口の真上に臨む位置に設けられ
ているのに対し,引用発明では,パイプ8が,箱の上方開放口の真上に臨
む位置に設けられているものの,その時,箱の開放口が内側に折り込まれ
ている点。
【相違点2】
本願補正発明の開放口カバーは,水平なプレート状に形成されている
が,引用発明のフード16は,水平に対して傾斜した平らな天井壁24と
周壁26からなる点。
(3)そこで,上記相違点1について,当業者(その発明の属する技術の分野
における通常の知識を有する者)が容易に想到することができたかどうかに
ついて判断する。
アパッケージ用窒素ガス噴射装置において,パッケージ本体の上方開放口
が内側に折り込まれてなくパッケージ本体から垂直に立上がる状態は,内
側に折り込む前の状態であって,内側に折り込まなければパッケージ本体
の上方開放口がパッケージ本体から垂直に立上がる状態となっているので
あり,液体食品が充填された封止前の上方開放口からパッケージ本体内へ
窒素ガスを噴射する工程前に折り込まなければならないとの積極的な事情
も認められないから,そのような折り込む前の状態としておくことは,当
業者が容易に想到することであるということができる。現に,特開平5−
330515号公報(発明の名称「充填密封容器ヘッドスペースのガス置
換方法」,出願人凸版印刷株式会社,公開日平成5年12月14日。乙
1)には,内容物充填工程①,第1ガス置換工程②,第2ガス置換工程
③,同工程④,仮折り工程⑤,密封シール工程⑥を経て,充填密封容器を
製造することが記載されている(段落【0018】∼【0025】及び【
図3】)から,液体食品が充填された封止前の上方開放口からパッケージ
本体内へ窒素ガスを噴射する工程後にパッケージ本体の上方開放口が内側
に折り込むことは,本願出願(平成13年11月28日)前からされてい
たものと認められる。
なお,原告は,乙1が開示するガス置換では,加熱ステーション後も,
容器の開放口は,垂直に立上がる大きく開いた状態ではないのに対し,本
願補正発明では,加熱ステーション後も,容器の開放口は,垂直に立上が
る大きく開いた状態である点が異なると主張するが,本件特許請求の範囲
【請求項1】は,「前記噴射ノズルは,前記パッケージ本体の上方開放口
の上端が順次止じ合わされる止じ合せ前の位置で,前記パッケージ本体の
上方開放口が内側に折り込まれてなくパッケージ本体から垂直に立上がる
大きく開いた状態にあるパッケージ本体の上方開放口の真上に臨む位置に
設けられていること」と記載されているのみであるから,本願補正発明
は,パッケージ本体の上方開放口の上端が順次止じ合わされる止じ合せ前
に,噴射ノズルによって窒素ガスを噴射する際には,パッケージ本体の上
方開放口が内側に折り込まれてなくパッケージ本体から垂直に立上がる大
きく開いた状態にあるものの,加熱ステーション後まで容器の開放口が垂
直に立上がる大きく開いた状態であるとの特定はないから,乙1が開示す
るガス置換では,加熱ステーション後も,容器の開放口は,垂直に立上が
る大きく開いた状態ではないとしても,その点は,本願補正発明との相違
点であるということはできない。
イ原告は,上記相違点1について,本願補正発明は,パッケージ本体の上
方開放口の形状を「内側に折り込まれてなくパッケージ本体から垂直に立
上がる大きく開いた状態」としたことによって,「スムーズな気体の流
れ,乱流を抑制し層流になり易いガスの流れとする」作用効果があると主
張する(前記第3,1(4)ウ(イ))が,原告が主張するこのような作用効
果は,本願明細書には記載されていない。この点について,原告は,本願
明細書には,パッケージの上部器壁について,「…窒素ガスは,…四方に
広がり,壁に沿って垂直に上昇する」(乙2,段落【0009】など)と
記載されていること,上記の壁は,本願の図面の図5(a)が示すよう
に,内側に折り込まれてなくパッケージ本体から垂直に立上がる状態であ
ること,図5(a)は窒素ガスの流れを矢印で示していることから,上記
作用効果は,本願の明細書及び図面の記載に基づくものであると主張する
が,これらの記載から上記作用効果の記載があると認めることはできない
し,上記作用効果が自明の作用効果であるということもできない。したが
って,上記作用効果を考慮することはできない。
また,原告は,上記の「スムーズな気体の流れ,乱流を抑制し層流にな
り易いガスの流れとする」作用効果は,開放口カバーによって,本体内へ
外気を巻き込む動きと本体内に入った窒素ガスが四隅のコーナー部から再
び上方へ抜ける動きを阻止する作用効果とお互いに関連し絡み合いながら
作用するとも主張するが,上記「スムーズな気体の流れ,乱流を抑制し層
流になり易いガスの流れとする」作用効果を考慮することができない以
上,それと「開放口カバーによって,本体内へ外気を巻き込む動きと本体
内に入った窒素ガスが四隅のコーナー部から再び上方へ抜ける動きを阻止
する作用効果」が関連し絡み合いながら作用することにつき考慮すること
はできない。
さらに,仮に,原告が主張するような作用効果の違いがあるとしても,
それをもって格別のものということはできず,上記のとおり容易に想到す
ることができる相違点1に係る本願補正発明の構成から当然に予測される
ものというべきである。
(4)次に,上記相違点2について当業者が容易に想到することができたかど
うかについて判断する。
ア前記2(2)のとおり,本願補正発明の開放口カバーは,パッケージ本体
内へ噴射された窒素ガスが上方開放口からパッケージ本体内へ外気を巻き
込む動きや上方開放口より上方へ逃げる動きを阻止するためのものであ
る。これに対し,前記3(1)の引用文献の記載によれば,引用発明のフー
ド16は,傾斜面によって,窒素ガスを層流として下流側に流すことで,
外気を巻き込む量を抑制してパッケージ本体の残留空気を置換するもので
あり,パッケージ本体内へ外気を巻き込む動きを阻止する点において,本
願補正発明の開放口カバーと作用効果が共通する。また,引用発明のフー
ド16は,パッケージ本体の上方開放口を覆っているから,窒素ガスが上
方開放口より上方へ逃げる動きを阻止する作用効果を有していると認めら
れ,この点でも,本願補正発明の開放口カバーと共通する。そして,開放
口カバーが水平なプレート状であるという形状が特異な形状であるという
ことはできないこと,上記作用効果について,本願明細書には,開放口カ
バーが水平なプレート状に形成されていることと直接関連付けた記載はな
く,その他,本願補正発明の開放口カバーと引用発明のフード16で格別
の違いがあると認めることができる技術常識に関する証拠もないことから
すると,フード16を水平で平らな天井壁を有する水平なプレート状とす
ることは,当業者が適宜選択しうる設計的事項といえる。したがって,相
違点2についても当業者が容易に想到することができたというべきであ
る。
イなお,原告は,引用発明のフード16は,横長の開口部28を介してガ
スが隣接する箱(容器)40に流れるトンネルとして機能すると主張する
が,上記のとおり,本願補正発明が実現しようとする作用効果において,
本願補正発明の開放口カバーと引用発明のフード16とで格別の違いがあ
るとは認められず,相違点2は,当業者が容易に想到することができたと
いうべきであって,ガスが隣接する箱(容器)40に流れるトンネルとし
て機能することによって上記認定が左右されるものではない。
(5)以上のとおり,取消事由2は,審決の相違点の認定の誤りを主張する部
分は理由があるが,審決の結論に影響を及ぼすものではなく,当該相違点に
ついての容易想到性の判断の誤りを主張する部分は理由がない。また,取消
事由3は理由がない。
5結論
以上のとおりであるから,審決の結論に誤りがあるということはできない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官森義之
裁判官澁谷勝海

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