弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 検察官の上告趣意第五点について。
 所論は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて刑訴法四〇五条の上告理由に
あたらない。
 しかし職権をもつて調査するに、原判決は、「もともと旅費の問題は昭和三二年
四月一日から施行された同年法律第一五四号一般職の職員の給与に関する法律の一
部を改正する法律による国家公務員の俸給表改訂に伴い同法付則第二八項により旅
費法の一部が改正されて、旅費法改正前は二等旅費適用資格者であつた五級職以上
七級職以下の者及び改正時二等旅費適用資格者となるべき者が新俸給表により七等
級に格付けされたため三等旅費の支給があるにとどまつたので、その結果の不合理
が指摘されて、中央で農林省とB労働組合との間で交渉が重ねられ、昭和三二年一
〇月三等旅費適用者にも運用で二等旅費に近い金額を支給するよう取扱うことの了
解に達し、各地方でもこれにならい、長崎統計調査事務所においても、当時のC所
長とB長崎県本部との間に労働慣行(14)項のとおりのとりきめがなされて運用
されてきたものであることは原判示のとおりである。」と認定したうえ、右国家公
務員等の旅費に関する法律(以下、旅費法という。)の一部改正を含む前記給与法
の改正法律が成立した際右改正旅費法中現行より不利益となる部分については十分
考慮することとの国会の付帯決議のあること、右労働慣行(14)項の趣旨も中央
交渉の結果を出るものとは認められないこと等から、直ちに「旅費法による三等旅
費適用者も運用面でその差額を支給する」とのいわゆる労働慣行(14)項は旅費
法違反のとりきめであるとは、断ずるをえないと判断している。
 ところで、(一)第一審証人D(記録五冊、二〇一五ないし二〇一七丁)、同E
(同五冊、二〇八一ないし二〇八四丁)、同F(同四冊、一七四三丁)らは、いず
れも中央の労使間で右趣旨の了解が事実上成立した旨を供述し、ことに証人Gは、
第一審において、「昭和三一年旅費法の改正のとき、従来の四級職以上が二等旅費
をもらえたのを七級職以上でないともらえないというふうに改悪され、そののちの
改正のさい、国会で新俸給表で七等級になつた場合でも二等旅費を支給しなさいと
いう付帯決議があり、これが次官通達で確認され、その結果組合は昭和三二年一〇
月ころ大臣官房経理厚生課長であつたH課長と団交をし、話合いがつき、われわれ
はこれを『H通達』とよんでおり、第五回中央委員会にも報告し、なおBはこの趣
旨の『連絡四六号』を各県本部に流した。」旨供述している(記録五冊、一九二四
ないし一九二七丁)のであるが、しかし、証人Hは、原審公判廷において、「自分
は昭和三〇年一二月五日から同三一年六月までは農林大臣官房経理厚生課長をして
いたが、同年六月から同三三年までは林野庁林政課長をしていたので、本件の旅費
問題で中央執行委員のG氏との間で了解事項に達したことも、とりきめもしていな
い。まして、その問題で『H通達』なるものを流したこともない。」旨を供述する
(記録一一冊、四〇七三丁)ほか、訴訟関係人から指示された昭和三一年六月二日
付農林新聞中の写真についても、「そこに自分がいるかどうかわからない。」と説
明し、さらに同月四日付農林新聞の記事についても、「それは『日額旅費規程』に
関するもので、旅費法のことで交渉したことがない。」旨をくりかえし供述してい
る(記録一一冊、四〇八〇丁)。そして、証人Gは、原審において、これまで「H
通達」があつたとしていたのは、自分の記憶違いであつたとして、第一審でした供
述を訂正しており(記録一一冊、四三一三丁)、また所論国会の付帯決議も一〇項
目あるうちの第七項として「改正旅費法中、現行より不利となる部分については十
分考慮すること。」というものであつて、証人Gが説明するようなものではない。
右のように、「H通達」が存在しないことがわかり、なお当時各県下に流したとい
う「連絡四六号」がいまだに発見されない以上、原判決のいう中央での了解が成立
していたかどうかは、きわめて疑わしいものがあるのである。
(二)つぎに、旅費法は、昭和三一年五月一日法律第八七号(同年六月一日施行)
によつて改正され、従来二等運賃の支給を受けていた四、五、六級職の者が三等運
賃を受けることとなり、ついで昭和三二年六月一日法律第一五四号一般職の職員の
給与に関する法律の一部を改正する法律(遡つて同年四月一日より施行、以下、新
給与法という。) 付則二八項により、給与体系の改定と相まつて旅費法も一部改
正され、新たに六等級以上の職員は二等運賃を、七等級、八等級の職員は三等運賃
を支給されることとなつたが、人事院の行なう職員の格付け作業により旅費法の運
用上一部の職員が不利益となるのではないかと憂慮された結果、右法律第一五四号
新給与法の審議の際、昭和三二年四月一六日前記のような内容の国会の付帯決議が
なされるにいたつたのである。そして、この付帯決議は、その第一項に「一般係員
で現在六級以上の者は、原則として、行政職俸給表(一)の七等級へ格付すること。」
とあるのと対比すると、従来昭和三一年五月一日法律第八七号旅費法によれば、二
等運賃を支給されていた一般係員で六級以上の者たとえば七級職の者の一部が新給
与法上六等級に格付けされ、一部が七等級に格付けされたため、六等級に格付けさ
れた者は依然二等運賃の支給が受けられるのに七等級に格付けされた者は三等運賃
しか支給されなくなるという不利益をこうむることを考慮した経過的なものと解さ
れるのであつて、証人Gの供述(記録五冊、一九二五丁、一一冊、四三〇八丁)に
徴すれば、大蔵省では右の国会の付帯決議に基づき職員の等級決定までの暫定措置
ないし経過的取扱いとして通牒(昭和三二年七月三一日、蔵計第二四五六号)を発
し、右付帯決議にそう措置を講じていることが窺われる。
 ところで、このような不利益の発生は、給与体系の改定に伴う一時的な現象にと
どまり、改定時七級職の者でたまたま七等級に格付けされた者も間もなく六等級に
昇格され、二等運賃の支給を受けることとなると解されるので、旅費法改定時から
四年以上も経過した本件紛争の昭和三六年一〇月当時にいたるまで昇格されること
なく七等級に止まつた者が被告人らを含む農林省長崎統計調査事務所の職員の間に
残存していたかどうかは、証拠上これを窺い知ることができない。
 以上によつてみると、農林省とB労働組合との間にいわゆる労働慣行(14)項
のような話合いがついたことを前提とし、かつ、本件争議当時にも農林省長崎統計
調査事務所の職員のなかに前記給与体系の改定に伴う不利益をこうむつている者が
果して現存しているかどうかも確定しないで、本件の労働慣行(14)項の継続実
施を要求することをもつて旅費法違反のとりきめと断ずるをえないとする原判決に
は、事実を誤認しあるいは審理不尽に陥つた違法があるというべきであり、この誤
認ないし違法は、原判決に影響を及ぼし、これを破棄しなければ著しく正義に反す
るものといわなければならない。
 右の点で原判決を破棄すべきものとする以上、その余の違憲の主張については判
断すべきものではないので、これを省略し、刑訴法四一一条三号、一号により原判
決を破棄し、同法四一三条本文により、さらに審理させるためこれを福岡高等裁判
所に差し戻すこととし主文のとおり判決する。
 この判決は、裁判官色川幸太郎、同天野武一の各補足意見、裁判官石田和外、同
下村三郎、同村上朝一、同藤林益三、同下田武三、同岸盛一の意見があるほか、裁
判官全員一致の意見によるものである。
 裁判官色川幸太郎の補足意見は、次のとおりである。
一 原判決は、本件争議の中心問題は旅費支給に関するいわゆる労働慣行(14)
項であり、本件争議行為も、これを撤廃しようとするI所長に反対し、右の慣行す
なわち勤務条件を維持するためになされたものであるが、この争議目的をもつて、
「直ちに法律違反の要求をしようとするものとし違法なものであるとは断ずるをえ
ない」としている。しかしその根拠としているところには事実誤認の疑があるのみ
ならず、その上重要な事実につき審理不尽の違法のあることは多数意見の指摘する
とおりである。しかし、原判決にはその他にもなお審理を尽くさざるところがあり、
私は、以下に述べる点についても、その存否いかんを明らかにするのでなければ、
本件争議行為が違法であるか否かの評価はできないと考える。
二 まず、旅費法改正の経過及びこれに伴う中央交渉ならびにいわゆる了解の存否
について、一件記録、特に証拠物等にあらわれているところを検討してみたい。
 (イ) 昭和三一年六月四日付のB労働組合(以下単に組合という。)の機関紙
「農林新聞」には、六月一日に農林当局(H経理厚生課長)から次の回答があつた
と題し「原則的に六級職アンバランスであることは判る。だが実行上これを直すこ
とはいえない。併し出張で足を出させることはできない。足を出させないように考
慮したい。特別に違法とみなされないものについては了承する。この点について各
局から問い合せがあつた場合と同様に回答する。」(原文通り、以下同じ。)とい
う記事がある。右にいう改正とは昭和三一年五月一日法律第八七号により、従来二
等運賃の支給を受けていた四、五、六級職の者があらたに三等運賃待遇となつたこ
とを指すものであるが、右記事が真実を伝えたものであるとすれば、当局側が、組
合の要求を容れ、運用によつてその不利益をカバーすることを暗黙裡に了解した意
味にとることができる。そして右回答の時期において、Hが記事に示す職にあつた
ことは、同人の証人としての供述にも出ているところである。
 (ロ) つぎに昭和三二年六月、給与体系の改正に伴い、再び旅費法の改正があ
り、七等級に格付けされた者は、三等運賃待遇に格下げとなる結果となつたので、
国会でも付帯決議がなされたわけであつたが、この点に関係のある組合側文書(い
ずれも証拠調ずみ)を見ると次のようである。
 最初に、同年七月に開催されたB第七回大会における「一般経過報告」なる文書
を見ると、「今年度の給与改訂にともなう旅費法改悪」については、「従来通りの
運用で行う。従つて出血出張はさせない。旧七級以上は二等で運用し実質的に既得
権の剥奪にならないようにする点でおおむね了解にもち込んだ」という記載があり、
また、同年一〇月の同組合第五回中央委員会における「経過報告」書中には
「Bは大蔵通達前后から、農林省における運用について直ちに交渉に入り十月、次
のような方法での運用を決定、妥結した。
 ①行政職俸給表(一)七等級以下の職員(その俸給表については、大蔵運用方針
において行政(一)七等級に見合うと指定されている等級号以下)については、運
用で二等旅費に近い額(二等相等額)を支給するよう部局、場所を指導する。
 ②旧七級職については国会の付帯決議もあるので二等を支給する。
 以上の点については、中央における点検と併せて、職場からのまきかえしで実施
させなければならない。」と述べている。そのほか、「秋季年末斗争の集約と春季
斗争の構想」(同年一二月二三日付)という組合本部発行の文書には、
 「(ホ) 旅費法改悪反対も七等級の不満を組織して旧七級職は二等、その他は
運用で二等旅費の近似値を支給さす事に成功した」という記載があり、また、B指
令第九号「春季斗争方針」(昭和三三年一月二四日付)には「この既得権剥奪に対
し組合員の不満が結集され、斗いを進めた結果旧七級在職者は係長の職務代行者と
して二等を支給さした。また従来よりも旅費法の建前では三等でも運用面で二等の
近似値を支給さす確約をとつていたが、必ずしも全職場に浸透しなかつた。根本的
には運用面で解決しないので二等旅費を支給するよう旅費法の改正(法一一四号)
を要求する」という記載があるのである。
 (ハ) 以上の文書内容と証人Dの供述とを総合すると
 (1) 組合側としても、国会の付帯決議は、暫定的に不利益を受ける者、すな
わち改定時七級職の者で七等級に格付けされた者に関して適当な措置をとるよう要
望したものであり、それ以上のものではないと理解してはいたが、
 (2) しかし組合の要求は、その線にとどまらず、七等級以下の職員(恐らく
全部でもあろうか。) について、運用で二等運賃に近い額を支給せよというので
あり、
 (3) 結局、組合としては、農林当局との昭和三一年の旅費法改正時における
交渉の「妥結」 (但しこれは組合の見方である。) にひきつづき、昭和三二年
の改正に際しても、右(1)(2)に示すような条件で了解点に達したものである
と受け取つており、これを組合本部の正式文書として、いくたびか下部に流したと
いうのである(もつともこの点は組合側の証人の供述に見られるにとどまり、原審
で認定された事実ではない。組合本部の文書中連絡四六号と称するものなどについ
ては文書の存在自体につきやや疑問がある。)。
 以上の事実を窺うことができないわけではない。
 (二) もしそうだとすると、本件紛争の際、なお七等級に止まつている者が本
件統計調査事務所に何人残つていたか、を審理認定するだけでは十分ではないので
あつて、同所では本件紛争以前において七等級以下の職員のいかなる者が、いかな
る運用で、いかなる旅費を支給されていたか、についても明らかにされる必要があ
る。そしてまた、本件職場で実際に行なわれた運用なり、中央交渉にあらわれたい
わゆる了解のあつたという運用なるものは、必ずしも完全に適法な手続によるわけ
でなく、あるいは、何らかの姑息な手段が講ぜられていたのかも知れないが(その
点は原判決には全く認定されておらず、記録からも窺うことができないのであつて、
単に推測するのみである。)、仮にその運用が違法なものであろうとなかろうと、
組合の最末端の機構であり、しかも本土の果の眇たる分会においては、組合員はも
とより幹部ですら、従来の旅費慣行を、中央交渉の結果である使用者の容認した合
法的なものと考えていたのではないか、少なくとも、しかく考える余地が多分に存
するのである。
 したがつて争議行為の違法性を論ずるにあたつては、それらの点につきさらに的
確な事実が認定されなければならないというべきである。
三 さらに以下のことも指摘しておきたい。本件の争議行為は、一般私企業におけ
るそれと比較しても、かなり粘り強く(あるいは執拗と評してもよかろう。) 戦
われているのであるが、これが組合員の一部(それがどの位になるのか明らかにさ
れる必要のあることは前述した。) にしか利害関係のない、旅費支給に関する要
求の貫徹だけを目的としたものだとすると、どこからそれだけのエネルギーが出て
きたのか、常識上いささか理解し難いのである。記録によれば、I所長の組合に対
する態度にはかなり硬直した姿勢が窺われるのであるが、あるいは、同人が従来の
労務管理を一挙に是正しようとする熱意のあまり、あまりにも性急な改革に乗り出
し、組合との対立抗争を激化せしめたものではないかと、みるべきふしがある。そ
のためでもあろうか、本件争議行為中における組合のスローガンには「職場民主化
をはばむ所長独裁をつき破ろう」「所長の独裁を破り明るい職場を守ろう」などの
よびかけがあるのである。紛争の全経過と収拾結果の内容などに照らすと、旅費慣
行の維持擁護のためだけでなく、争議行為の目的は、それと併せて、あるいは、む
しろ主として、I所長の労務管理方針に対する是正への要求にあつたのではないか
と考えられないでもない。もしそうだとすると、この点もまた、争議行為の違法性
の判断に対して、影響がないとはいえないのであるから、これにつき立ち入つた審
理を必要とすることもちろんである(いわゆるJ事件についての当裁判所第二小法
廷昭和二四年四月二三日判決・刑集三巻五号五九二頁参照)。
 以上の見地に立ち、私は、多数意見に付加して、上記の点に関する原審の審理不
尽を主張する次第である。
 裁判官天野武一の補足意見は、次のとおりである。
 私は、多数意見のうち、原判決を前記の点で破棄すればその余の違憲の主張につ
いては判断すべきものではないとする部分を除き、これに同調するものである。私
は、原判決が被告人らの本件行為を、共謀して国家公務員に対し争議行為をあおつ
たという概念範疇にあたるとしながら国家公務員法(昭和四〇年法律第六九号によ
る改正前のもの、以下国公法という。)一一〇条一項一七号に該当しないとしたの
は、所論憲法の解釈を誤り、ひいては国公法の右規定の解釈を誤つたものであるが
ゆえに、この点においてもまた原判決は破棄を免れないと考えるものであつて、そ
の理由は、所論第一点および第二点に対する石田裁判官らの後記意見のうち、被告
人らの所為が争議行為の目的、態様のいかんを問うまでもなく、国公法の罰条に該
当すること自体明らかであるとして、多数意見の指摘する事実誤認、審理不尽の点
に関する判断は省略して足りるとする部分を除き、これと同一であるから、ここに
引用する。そして、私は、本件争議行為の目的が旅費法違反のとりきめの継続実施
を要求していたものかどうかは、犯罪構成要件に直接関連する事実であつて、その
事実関係のいかんは、行為ないしその責任の評価に影響することが大きく、また証
拠に即して具体的な罪となるべき事実を正確に確定することは、法令適用の前提を
なすものであるから、原判決の事実誤認、審理不尽の違法は、この点においても判
決に影響を及ぼし、これを破棄しなければ著しく正義に反するものといわなければ
ならないと考える。
 裁判官石田和外、同下村三郎、同村上朝一、同藤林益三、同下田武三、同岸盛一
の意見は、次のとおりである。
 検察官の上告趣意第一点および第二点について。
 原判決の判示するところによれば、被告人Kは、B労働組合長崎県本部副執行委
員長であり、同Lは、同本部統計本所分会執行委員長であるが、国家公務員等の旅
費に関する法律の実施等についての、いわゆる九・一通告(昭和三六年九月一日以
降旅費の支給は従前の例によらず、旅費法どおり実施する旨の農林省長崎統計調査
事務所長Iの組合に対する通告)撤回闘争にあたり、昭和三六年一〇月一二日から
同月二四日までの間(うち日曜日を除く)、農林省長崎統計調査事務所において、
いずれも同事務所職員(B労働組合員)の職場放棄を指導する立場に立ち、約五〇
名の職員に対し「当局より一日長く頑張ろう」などと呼びかける等して職場放棄と
その継続を慫慂し、もつて共謀して国家公務員に対し同盟罷業を遂行させる目的で
これを実行する決意をさせ、またはこの決意を助長するような勢いのある刺激を与
えたものであり、争議行為をあおつたという概念範疇に一応あたる行為をしたもの
である、というものである。そして、原判決は、国家公務員法(昭和四〇年法律第
六九号による改正前のもの。以下、国公法という。) 一一〇条一項一七号の罪の
構成要件について、一面、争議行為が政治目的のために行なわれるとか、暴力を伴
うとか、または国民生活に重大な障害をもたらす具体的危険が明白であるとかの不
当性をもつ場合に、これをあおつたことを要するとし、また他面、争議行為の非難
可能性の程度がとくに微弱なものについては、争議行為に直接利害関係のない第三
者があおつたこと、あるいはこれと密接な利害関係を有する者が通常行なわれるよ
うな手段、方法、程度を超えて激越な方法であおつたことを要するとして、かかる
両面からのいわゆる限定解釈を加えたうえ、その限りにおいて国公法一一〇条一項
一七号は憲法二八条、一八条、二一条、三一条に違反するものではないとの判断を
示し、この観点から、本件争議行為は右のような不当性があるものとは認められず、
また被告人らの具体的行動は争議行為に通常一般的に随伴し、これと不可分の関係
にあるものと目せられると判断して、被告人らの本件行為は罪とならない、とした
ものである。
 しかしながら、国家公務員の争議行為およびそのあおり行為等を禁止した国公法
九八条五項は、文字どおりに解しても、憲法二八条に違反するものではなく、また、
この禁止に反する違法な争議行為をあおる等その原動力となる行為をした者につき
刑事制裁を規定した国公法一一〇条一項一七号の罰則は、何らいわゆる限定解釈を
しなくても憲法二八条、三一条に違反するものでないことは、本判決と同日言渡の
当裁判所大法廷の判決(昭和四三年(あ)第二七八〇号)の示すとおりである。し
たがつて、原判決のように、国公法一一〇条一項一七号の規定が、政治目的のため
に行なわれるとか、暴力を伴うとか、または国民生活に重大な障害をもたらす等違
法性の強い争議行為を違法性の強い行為によりあおる等した場合に限つて、これに
刑事制裁を科すべき趣旨であると解し、また、同条項が争議行為に通常随伴し、こ
れと同一視できる一体不可分の行為を処罰の対象としない趣旨であると解すること
は、かえつて、犯罪構成要件の明確性を害することになり、憲法三一条に違反する
疑いがあるものというべく、また、国公法の解釈上もこれを是認すべき根拠がない
こともまた右大法廷判決において説示したとおりである。それゆえ、被告人らの前
記行為は、争議行為の目的、態様のいかんを問うまでもなく、国公法の前記罰条に
該当することが明らかである。してみると、所論指摘のような限定解釈のもとに、
被告人らの本件所為が国公法一一〇条一項一七号にあたらないとした原審の判断は、
憲法の前記各規定の解釈を誤り、ひいては国公法の右規定の解釈を誤つたものであ
つて、検察官の所論は理由があり、原判決は破棄を免れない。また、右国公法の解
釈の誤りは、原判決に影響を及ぼすことが明らかであり、これを破棄しなければ著
しく正義に反するものといわねばならない。
 よつて、その余の論旨に対する判断を省略し、原判決を破棄し原審に差し戻すべ
きものである。
 なお、以上の見解に立つて見れば、多数意見の指摘する事実誤認ないし審理不尽
の違法の有無は、被告人らの刑事責任の存否に影響することがなく、したがつて判
決に影響を及ぼすものではないと認められるから、これをもつて原判決破棄の理由
とすることはできない。
 検察官冨田正典、同山室章、同蒲原大輔 公判出席
  昭和四八年四月二五日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    石   田   和   外
            裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    村   上   朝   一
            裁判官    関   根   小   郷
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    小   川   信   雄
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸       盛   一
            裁判官    天   野   武   一
            裁判官    坂   本   吉   勝
 裁判官田中二郎、同岩田誠、同下村三郎、同色川幸太郎は、退官のため署名押印
することができない。
         裁判長裁判官    石   田   和   外

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