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平成14年(行ケ)第656号審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成16年1月26日
判    決
原    告      株式会社オーレック
同訴訟代理人弁護士美 勢 克 彦
同訴訟代理人弁理士梶 原 克 彦
被    告      特許庁長官今井康夫
同指定代理人   藤 井 俊 二
同榎 本 吉 孝
同大 野 克 人
同涌 井 幸 一
主    文
     1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
 特許庁が訂正2002―39094号事件について平成14年12月2日にし
た審決を取り消す。
第2 前提となる事実
1 特許庁における手続の経緯
 原告は,発明の名称を「乗用型草刈機のカッターの制動方法」とする特許第2
796956号(平成7年12月21日特許出願(遡及日平成4年12月29
日),平成10年7月3日設定登録,以下「本件特許」という。)の特許権者であ
る。
 原告は,平成14年4月15日,本件特許の願書に添付された明細書の特許
請求の範囲の請求項1及び発明の詳細な説明の訂正(以下「本件訂正」といい,訂
正後の明細書を「訂正明細書」という。)をする訂正審判の請求をした(訂正20
02―39094号)ところ,特許庁は,平成14年12月2日,「本件審判の請
求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本
は,同月12日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲
(1) 本件訂正前のもの
【請求項1】車体側に設けてあり,水平方向に回転する駆動プーリと,
 昇降する刈取部側に設けてあり,水平方向に回転する従動プーリと,
 上記駆動プーリと従動プーリの間に回し掛けられているベルトと,
 上記従動プーリによって駆動されて回転するカッターを有し,上記車体下
方に昇降手段を介して垂直方向に昇降可能に設けてある刈取部と,
 該刈取部を昇降させる昇降操作手段と,
 上記ベルトに作用し上記カッターへの駆動力を断続するクラッチ機構と,
 ブレーキシューで従動プーリ周面を押圧して上記カッターの回転を止める
制動手段と,
を有し,刈取作業時には上記刈取部を下降させて作業を行う乗用型草刈機の
上記カッターの制動方法であって,
 上記昇降操作手段を操作することにより,上記刈取部を垂直方向に上昇さ
せて上記従動プーリを刈取作業時とは異なる平面に移動させた後に,上記クラッチ
機構により上記ベルトの緊張力を緩和して上記カッターへの駆動力を「断」する作
動が行われ,かつ上記ブレーキシューが動くことにより従動プーリ周面を押圧して
該カッターの回転制動作動も行われるようにしたことを特徴とする,
 乗用型草刈機のカッターの制動方法。
(2) 本件訂正後のもの(下線部は訂正部分である。)
【請求項1】車体側に設けてあり,水平方向に回転する駆動プーリと,
 昇降する刈取部側に設けてあり,水平方向に回転する従動プーリと,
 上記駆動プーリと従動プーリの間に回し掛けられているベルトと,
 前輪と後輪との間に位置し,カバー,制動手段および上記従動プーリによ
って駆動されて回転するカッターを有し,上記車体下方に昇降手段を介して垂直方
向に昇降可能に設けてある刈取部と,
 該刈取部を昇降させる昇降操作手段を構成する昇降ハンドルと,
 クラッチレバーの回動によって上記ベルトに作用し上記カッターへの駆動
力を断続するクラッチ機構と,
 上記クラッチレバーの上方への回動による上記クラッチ機構の断方向の作
動によってブレーキシューで従動プーリ周面を押圧して上記カッターの回転を止め
る上記制動手段と,
を有し,
 刈取作業時には上記刈取部を下降させて作業を行う乗用型草刈機の上記カ
ッターの制動方法であって,
 上記昇降操作手段を構成する昇降ハンドルを引き上げ操作することによ
り,上記刈取部を垂直方向に上昇させて上記従動プーリを刈取作業時とは異なる平
面に移動させた後に,上記昇降ハンドルの引き上げに伴う上記クラッチレバーの上
方への回動による上記クラッチ機構の断方向の作動により上記ベルトの緊張力を緩
和して上記カッターへの駆動力を「断」する作動が行われ,かつ上記ブレーキシュ
ーが動くことにより従動プーリ周面を押圧して該カッターの回転制動作動も行われ
るようにしたことを特徴とする,
 乗用型草刈機のカッターの制動方法。
(以下,この発明を「訂正発明」という。)
 3 本件審決の理由の要旨
 本件審決は,以下のとおり,訂正発明は,実願昭61-162134号(実
開昭63-66428号)のマイクロフィルム(甲4。以下「引用例1」とい
う。)及び米国特許第4934130号明細書(甲5(訳文甲6)。以下「引用例
2」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」等という。)並びに周知技
術等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法2
9条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないので,本
件訂正は,平成6年法律第116号附則6条1項の規定によりなお従前の例による
とされる,同法による改正前の特許法126条3項の規定に適合せず認められな
い,とした。
(1) 訂正発明と引用発明1の一致点,相違点
(一致点)
 車体側に設けてあり,水平方向に回転する駆動プーリと,昇降する刈取部
側に設けてあり,水平方向に回転する従動プーリと,上記駆動プーリと従動プーリ
の間に回し掛けられているベルトと,前輪と後輪との間に位置し,カバー,制動手
段及び上記従動プーリによって駆動されて回転するカッターを有し,上記車体下方
に昇降手段を介して垂直方向に昇降可能に設けてある刈取部と,該刈取部を昇降さ
せる昇降操作手段を構成する昇降ハンドルと,クラッチレバーの回動によって上記
ベルトに作用し上記カッターへの駆動力を断続するクラッチ機構と,上記クラッチ
レバーの切側への回動による上記クラッチ機構の断方向の作動によってブレーキシ
ューで従動プーリを制動して上記カッターの回転を止める上記制動手段と,を有
し,刈取作業時には上記刈取部を下降させて作業を行う乗用型草刈機の上記カッタ
ーの制動方法であって,上記昇降操作手段を構成する昇降ハンドルを操作すること
により,上記刈取部を垂直方向に上昇させて上記従動プーリを刈取作業時とは異な
る平面に移動させ,上記クラッチレバーの切側への回動による上記クラッチ機構の
断方向の作動により上記ベルトの緊張力を緩和して上記カッターへの駆動力を
「断」する作動が行われ,かつ上記ブレーキシューが動くことにより従動プーリを
制動して該カッターの回転制動作動も行われるようにした乗用型草刈機のカッター
の制動方法
(相違点A)
 カッターの回転を止めるのに,訂正発明では,ブレーキシューで従動プー
リ周面を押圧しているのに対し,引用発明1では,ブレーキ部材(26)で入力プ
ーリー(20)位置の入力ベルト(23)を押圧している点
(相違点B)
 訂正発明では,昇降ハンドルを引き上げ操作することにより,刈取部を垂
直方向に上昇させて従動プーリを刈取作業時とは異なる平面に移動させた後に,昇
降ハンドルの引き上げに伴うクラッチレバーの上方への回動によるクラッチ機構の
断方向の作動によりカッターへの駆動力を「断」する作動が行われ,かつブレーキ
シューが動くことによりカッターの回転制動作動も行われるようにしているのに対
し,引用発明1では,クラッチレバー(27)を切側へ操作することにより,刈取
テンションクラッチ体(24)の断方向の作動により刈刃(14)への駆動力を
「断」する作動が行われ,かつブレーキ部材(26)が動くことにより入力プーリ
ー(20)位置の入力ベルト(23)を押圧して入力プーリー(20)を制動して
該刈刃(14)の回転制動作動も行われるようにしているが,昇降ハンドル(リフ
トレバー(17))の引き上げに伴ってクラッチレバー(27)が上方へ回動する
ように構成されていない点
(2) 相違点についての判断
ア 相違点Aについて
 ブレーキシューで従動プーリ周面を押圧してカッターの回転を止めるこ
とは周知(例えば,実願昭54-117373号(実開昭56-35432号)の
マイクロフイルム(甲10),実願昭61-202845号(実開昭63-104
233号)のマイクロフイルム(甲11)参照)であるから,引用発明1におい
て,ブレーキ部材(26)で入力プーリー(20)の周面を押圧するよう構成する
ことは当業者なら容易にできることである。
イ 相違点Bについて 
 引用例2には,1つの操作レバーを引き上げ操作することによって,カ
ッタ・アタッチメントを上昇させ,カッターへの駆動力を切断すると共に,カッタ
ーの制動を行うようにする技術思想が開示されており,しかも,その作動が互いに
関連する2つ作動部を操作する各レバーを併設し,1つのレバーを操作することに
より他のレバーを連動して操作できるように構成することは慣用技術(例えば,実
公昭55-35940号公報(甲7。以下「引用例3」という。),実公昭49-
27067号公報(甲8。以下「引用例4」という。)及び実公昭48-1683
5号公報(甲9。以下「引用例5」という。)参照)である。 
 そうすると,引用発明1において,1つの操作レバーの引き上げ操作に
よって,刈取部を上昇させ,刈取部への動力を切ると共に刈取部にブレーキを掛け
るようにすること,すなわち,リフトレバー(17)の引き上げに連動してクラッ
チレバー(27)を上方へ回動するようにして訂正発明のように構成することは当
業者が容易に想到できることである。 
ウ 訂正発明の効果について
 訂正発明の奏する効果は,引用発明1及び2並びに周知技術から予測で
きる程度のことであって格別顕著なものではない。
第3 原告主張に係る本件審決の取消事由の要点
 本件審決は,以下のとおり,訂正発明と引用発明1との相違点を看過し(取消
事由1),また,相違点A及びBに係る進歩性の判断を誤ったものであり(取消事
由2,3),その誤りは審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから,違法
として取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点認定の誤り・相違点の看過)
(1) 訂正発明の「従動プーリ」と引用発明1の「入力プーリー(20)」につ
いて
 本件審決は,両者が一致すると誤って認定し,相違点を看過した。すなわ
ち,訂正発明の「従動プーリ」は,カッターのみを回転駆動するものであり,か
つ,ブレーキシューの動きを周面で受け止めてカッターの回転を止める機能を有す
るものである。一方,引用発明1の「入力プーリー(20)」は,垂直入力軸(1
5)に設けられた刈刃(14)を回転駆動するだけでなく,分配プーリー(2
9),分配ベルト(31),従動プーリー(30),従動プーリー(30)と連動
する刈刃(14)をも回転駆動するものであり,かつ,ブレーキシューの動きを周
面で受け止めてカッターの回転を止めるものではない。
(2) 訂正発明の「ベルト」と引用発明1の「入力ベルト(23)」について
 本件審決は,両者が一致すると誤って認定し,相違点を看過した。すなわ
ち,訂正発明の「ベルト」は,従動プーリとカッターのみを回転駆動の対象とする
ものであり,かつ,ブレーキシューとして機能するものではない。一方,引用発明
1の「入力ベルト(23)」は,入力プーリー(20)に設けられた刈刃(14)
を回転駆動するだけでなく,分配プーリー(29),分配ベルト(31),従動プ
ーリー(30)及びこれと連動する刈刃(14)をも回転駆動するものであり,か
つ,ブレーキ部材(26)によって入力プーリー(20)に圧接され,ブレーキシ
ューとして機能するところに特徴がある。
(3) 訂正発明の「昇降操作手段を構成する昇降ハンドル」と引用発明1の「リ
フトレバー(17)」について
 本件審決は,両者が一致すると誤って認定し,相違点を看過した。すなわ
ち,訂正発明の「昇降ハンドル」は,単に刈取部を垂直方向に上昇させるだけのも
のではなく,昇降ハンドルを引き上げ操作することにより,刈取部を垂直方向に上
昇させて従動プーリを刈取作業時とは異なる平面に移動させた後に,昇降ハンドル
の引き上げに伴うクラッチレバーの上方への回動によるクラッチ機構の断方向の作
動によりベルトの緊張力を緩和してカッターへの駆動力を「断」する作動が行わ
れ,かつブレーキシューが動くことにより従動プーリ周面を押圧してカッターの回
転制動作動も行われるように構成したものである。一方,引用発明1の「リフトレ
バー(17)」は,単に刈刃ハウジング(2)を上下位置調整可能とするものにす
ぎない。
(4) 訂正発明の「クラッチ機構,ブレーキシュー」と引用発明1の「刈取テン
ションクラッチ体(24),ブレーキ部材(26)」について
 本件審決は,両者が一致すると誤って認定し,相違点を看過した。
 すなわち,訂正発明の「クラッチ機構,ブレーキシュー」は,クラッチレ
バーの上方への回動によるクラッチ機構の断方向の作動によってブレーキシューが
動かされ,このブレーキシューで従動プーリ周面を押圧してカッターの回転を止め
るという一連の動きを構成するものである。
 一方,引用発明1の「刈取テンションクラッチ体(24),ブレーキ部材
(26)」は,両者が枢支ピン(25)回りに回動可能に一体的に形成されている
ものであるから,訂正発明の「クラッチ機構,ブレーキシュー」のように,クラッ
チ体とブレーキ部材が連動して一連の動きを構成するものではない。
 また,訂正発明の「ブレーキシュー」は,直接従動プーリ周面を押圧して
カッターの回転を止めるものであるのに対し,引用発明1の「ブレーキ部材(2
6)」は,入力ベルトと協働して初めて機能し,それ自体では制動機能を有さない
ものである。
2 取消事由2(相違点Aに係る進歩性判断の誤り)
 本件審決が周知例として挙げた甲10,11には,「ブレーキシューで従動
プーリ周面を押圧して従動プーリの回転を止めること」が記載されているだけであ
って,「直接カッターを回転させているプーリの回転を止めること」が記載されて
いないから,これらに基づいて「ブレーキシューで従動プーリ周面を押圧してカッ
ターの回転を止めること」が周知であるとした本件審決の認定は誤りである。した
がって,同認定に基づいてされた相違点Aの判断も誤りである。
3 取消事由3(相違点Bに係る進歩性判断の誤り)
(1) 引用発明2について
ア 本件審決は,「引用例2には,1つの操作レバーを引き上げ操作するこ
とによって,カッタ・アタッチメントを上昇させ,カッターへの駆動力を切断する
と共に,カッターの制動を行うようにする技術思想が開示されている。」と判断し
たが,誤りである。
(ア) すなわち,引用例2には,「制動ラバー・ブロック」に関し,「前
記カッタ・アタッチメントは,複数のプーリ66を有し,これらプーリは,それぞ
れ,カッタ・アタッチメントの一つのブレードを駆動し,前記シャーシは,対応の
数の制動ラバー・ブロック67を有する。これらのブロックは,カッタ・アタッチ
メントが図2中に於いて破線で示された位置であるその非作動上方位置にまで回動
された時に,上記プーリに係合するように配置されている。これらのブロックは,
又,前記上方位置に於けるカッタ・アタッチメントのためのバネ支持体としても作
用し,これによって,モアが駆動される時のがたつきと騒音とが回避される。」
(訳文4~5頁)と記載されているのみであり,「係合」が「プーリの停止」であ
るとの記載は全くない。
 また,引用発明2においては,制動ラバー・ブロック67は,プーリ
66の中心部分に係合するものであるため,制動効果が極めて低いことと,バー1
9で引き上げる部分は,カッタ・アタッチメントと昇降体を構成する多くの構成要
素で構成されており,引き上げには力を必要とすることとがあいまって,プーリを
停止させるためには極めて強い力が必要である。
 元来,引用発明2においては,カッタ・アタッチメント11を上昇さ
せてもガード58は動かないので,カッタ・アタッチメントのブレードが露出せず
危険ではないため,ブレードを急激に停止させる必要性はない(これに対し,訂正
発明は,カッターと共にカバーも上昇する草刈機であるので,安全性の確保のため
に,ブレーキシューにより,刈取部が上昇した場合のカッターの制動を速やかに行
う必要がある。)。むしろ,回転している機械を急激に止めると,各構成部分に負
荷がかかり機械にとって好ましいことではない。したがって,引用発明2は,ブレ
ードの回転を短時間で停止させることが困難な構成のものであることから,制動ラ
バー・ブロック67の機能は,本質的にはモアが駆動される時のがたつきと騒音を
回避するためのものに他ならないというべきである。
 結局,制動ラバー・ブロックがカッターの制動を行うものとはいえな
い。
(イ) また,引用例2には,「テンションローラ」について,「同時に,
前記ドローバー55に接続されたテンションローラによってエンジンとカッタ・ア
タッチメントとの間の前記ベルトにテンションが付与されていることにより,カッ
タ・アタッチメントのベルト駆動装置(図示せず)が係合される。」(訳文5頁)
との記載があるものの,テンションローラによりベルトにテンションを付与しない
ことに関する明示的な記載は一切ないから,テンションローラがカッターへの駆動
力を切断するものとはいえない。
イ 引用例2には,バー又はハンドル19が「ブレーキシューを動かす」原
因となるという技術思想の開示がない。すなわち,引用発明2は,プーリを下方か
ら上方に動かして制動ラバー・ブロック67に係合させるものであり,制動ラバ
ー・ブロックを動かしてプーリに係合させるようにはなっておらず,まして,バー
又はハンドル19の動きにより「ブレーキシューを動かす」等の記載は皆無であ
る。したがって,引用発明2に基づき,ブレーキシューが動くことにより制動する
という訂正発明における制動手段の構成を想到することは困難である。
  (2) 引用例3ないし5記載の発明(以下「引用発明3」等という。)について
 引用発明3ないし5は,いずれもコンバインに関する発明であって,訂正
発明のような構造を有する乗用型草刈機についての発明ではなく,まして刈取部を
昇降させる昇降ハンドルと,それの引き上げに伴うクラッチレバーの上方の回動に
関するものではないから,これらに基づき訂正発明の相違点Bの構成を想到するこ
とは容易とはいえない。
第4 被告の反論の要点
 以下のとおり,本件審決の認定判断に誤りはなく,原告の主張する本件審決の
取消事由は理由がない。
1 取消事由1(一致点認定の誤り・相違点の看過)について
 本件審決は,原告の主張する各構成の差異をいずれも相違点A及びBとして
認定しており,これを看過したわけではない。本件審決は,訂正発明と引用発明1
とを対比するために,原告の挙げる訂正発明と引用発明1の各部分が対応している
としているのであり,各部分がその構成・機能等の全てにおいて同じであるとして
いるのでない。
 また,訂正発明の「従動プーリ」については,本件訂正後の特許請求の範囲
の記載によれば,これがカッターのみを回転駆動するものに限定されているわけで
はないから,この点についての原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかない
ものである。
 さらに,訂正発明の「ベルト」についても,本件訂正後の特許請求の範囲の
記載によれば,これが従動プーリとカッターのみを回転駆動の対象とするものに限
定されているわけではないから,上記と同様である。
2 取消事由2(相違点Aに係る進歩性判断の誤り)について
 甲11記載のものは,従動プーリ55が固設されたPTO軸58が自在接手
軸68を介してモアー37の駆動部に連動連結されており,従動プーリ55にブレ
ーキシュー74を付勢して,PTO軸58の回転を止めるとモアー37の回転が止
まるものであるから,甲11には,「ブレーキシューで従動プーリ周面を押圧して
カッターの回転を止めること」が記載されており,本件審決の認定に誤りはない。
 なお,甲10には,確かに,「ブレーキシューで従動プーリ周面を押圧して
従動プーリの回転を止めること」は記載されているものの,「ブレーキシューで従
動プーリ周面を押圧してカッターの回転を止めること」までは記載されていない。
しかしながら,「ブレーキシューで従動プーリ周面を押圧して回転を止めること」
が周知技術であれば,相違点Aの構成は容易に想到できることである。
3 取消事由3(相違点Bに係る進歩性判断の誤り)について
  (1) 引用発明2について
 引用例2には,カッタ・アタッチメントを非作動上方位置にまで移動する
と,カッタ・アタッチメントのブレードを駆動するプーリがbraking ru
bber blocks67(制動ラバー・ブロック67)に係合することが記載
されており(訳文4頁),また,「クレーム1のモアであって,更に,ブレーキ部
材を有し,前記カッタ・アタッチメントは前記ブレーキ部材と協動し,これによっ
て,前記カッタ・アタッチメントが上記上方変位領域に移動した時に,前記カッ
タ・アタッチメントのブレードは,移動を停止される。」(訳文8頁)と記載され
ている。したがって,引用発明2において,カッタ・アタッチメントを非作動上方
位置にまで上昇移動すると,制動ラバー・ブロック67がプーリに係合してブレー
キをかけブレード(刃)の回転を止めることは明らかである。
 また,引用例2には,「本発明に依る装置のもう一つの利点は,カッタ・
アタッチメントの刈り取り高さを調節するためのバーと同アタッチメントの係脱の
ためのバーとが一つの同じユニットに組み込まれたことによって,機械の操作が非
常に簡単になったことにある。」(訳文2頁),「このバー19の更に前方への移
動によって,前記レバー49とこれに固定されたカッタ・アタッチメントとが,…
前記リンクアーム46,ドローバー47及びフォロア39の作用によって図中まっ
すぐ下方に移動される。…同時に,前記ドローバー55に接続されたテンションロ
ーラによってエンジンとカッタ・アタッチメントとの間の前記ベルトにテンション
が付与されていることにより,カッタ・アタッチメントのベルト駆動装置(図示せ
ず)が係合される。」(訳文5頁)と記載されているから,これらの記載によれ
ば,バー19を上げ操作(時計方向に移動)すると,三腕フォロア39が時計方向
に回動し,カッタ・アタッチメントが上方に移動すると共に,エンジンとカッタ・
アタッチメントとの間のベルトへの緊張力(テンション)が緩和されてカッタ・ア
タッチメントのブレードへの駆動が切られることは明らかである。
 したがって,引用例2には,バー19を引き上げ操作することによって,
カッタ・アタッチメントを上昇させ,カッターへの駆動力を切断すると共に,カッ
ターの制動を行うようにする構成が記載されているといえ,本件審決の認定に誤り
はない。
 そして,引用発明2がこのような構成であることを前提にすれば,訂正発
明の相違点Bに係る構成は,本件審決の判断のとおり,当業者にとって容易に想到
できるものである。
  (2) 引用発明3ないし5について
 引用発明3ないし5が,乗用型草刈機についてのものでなく,また,刈取
部を昇降させる昇降ハンドルと,それの引き上げに伴うクラッチレバーの上方の回
動に関するものでなくても,これらによれば,「その作動が互いに関連する2つの
作動部を操作する各レバーを併設し,1つのレバーを操作することにより他のレバ
ーを連動して操作できるように構成すること」が農業機械の分野において慣用技術
であることが明らかであるから,この慣用技術を,乗用型草刈機に関する引用発明
1のリフトレバー(17)とクラッチレバー(27)とに適用することは当業者な
ら容易に想到できることである。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点認定の誤り・相違点の看過)について
(1) 訂正発明の「従動プーリ」と引用発明1の「入力プーリー(20)」につ
いて
 原告は,「訂正発明の従動プーリは,①カッターのみを回転駆動するもの
であり,かつ,②ブレーキシューの動きを周面で受け止めてカッターの回転を止め
る機能を有するものであるのに対し,引用発明1の入力プーリー(20)は,その
ようなものではないのに,本件審決は,上記従動プーリと入力プーリーとが一致す
ると誤認し,上記相違点を看過した。」旨主張する。
ア 上記①の点について検討すると,本件訂正後の特許請求の範囲におい
て,訂正発明の従動プーリが駆動回転させる対象についての記載は,「上記従動プ
ーリによって駆動されて回転するカッター」という部分のみである。したがって,
訂正発明は,従動プーリが受けた駆動回転力をカッター以外の他部材に伝達するこ
と,従動プーリとカッターの伝動経路中に補助的な伝動手段(例えば,変速装置
等)を備えること,あるいは何らかの他部材を駆動するための伝動手段を介在させ
ること等を排除しているものとはいえず,従動プーリが駆動回転させる対象がカッ
ターのみであるということはできない。
 確かに,訂正明細書に記載された実施例においては,従動プーリ51は
カッターCを回転支持する垂直軸50と一体化されており,従動プーリ51は専ら
カッターCを駆動回転させるのみで,他に駆動回転させる部材を有していないが,
訂正発明の従動プーリを実施例のようなものに限定する根拠はない。むしろ,上記
のように,必要に応じて,伝動経路に何らかの伝動手段を介在させたり,あるいは
他の部材への駆動力伝達手段を介在させたりすることは,当業者にとって選択的に
行い得ることというべきである。
 したがって,上記①の主張は理由がない。
イ 上記②の点について検討すると,確かに,引用発明1におけるブレーキ
手段は,ベルトを押圧することで結果として入力プーリー(20)を制動するもの
であり,訂正発明における従動プーリ周面を押圧して制動するものとは,プーリに
対して制動作用を働かせる部位が相違している。しかしながら,本件審決は,プー
リに対して制動作用を働かせる部位の相違を相違点Aとして認定していることか
ら,この点において訂正発明と引用発明1とが一致すると認定したものでないこと
が明らかである。したがって,本件審決が上記相違点を看過したということはでき
ず,上記②の主張は理由がない。
(2) 訂正発明の「ベルト」と引用発明1の「入力ベルト(23)」について
 原告は,「訂正発明のベルトは,①従動プーリとカッターのみを駆動回転
の対象とするものであり,かつ,②ブレーキシューとして機能するものではないの
に対し,引用発明1の入力ベルト(23)は,そのようなものではないのに,本件
審決は,上記ベルトと入力ベルトとが一致すると誤認し,上記相違点を看過し
た。」旨主張する。
ア 上記①の点について検討すると,本件訂正後の特許請求の範囲におい
て,訂正発明のベルトが駆動回転させる対象についての記載は,「上記駆動プーリ
と従動プーリの間に回し掛けられているベルト」,「上記従動プーリによって駆動
されて回転するカッター」という部分のみである。したがって,上記(1)アと同様の
理由により,ベルトが駆動回転させる対象は従動プーリとカッターのみであるとい
うことはできず,上記①の主張は理由がない。
イ 上記②の点については,上記(1)イと同様の理由により,本件審決が相違
点を看過したということはできず,上記②の主張は理由がない。
(3) 訂正発明の「昇降操作手段を構成する昇降ハンドル」と引用発明1の「リ
フトレバー(17)」について
 原告は,「訂正発明の昇降ハンドルは,単に刈取部を垂直方向に上昇させ
るだけのものではなく,昇降ハンドルを引き上げ操作することにより,刈取部を垂
直方向に上昇させて従動プーリを刈取作業時とは異なる平面に移動させた後に,昇
降ハンドルの引き上げに伴うクラッチレバーの上方への回動によるクラッチ機構の
断方向の作動によりベルトの緊張力を緩和してカッターへの駆動力を「断」する作
動が行われ,かつブレーキシューが動くことにより従動プーリ周面を押圧してカッ
ターの回転制動作動も行われるように構成したものであるのに対し,引用発明1の
リフトレバー(17)は,単に刈刃ハウジング(2)を上下位置調整可能とするも
のにすぎないのに,本件審決は,上記昇降ハンドルとリフトレバーとが一致すると
誤認し,上記相違点を看過した。」旨主張する。
 しかしながら,本件審決は,一致点として,「刈取部を昇降させる昇降操
作手段を構成する昇降ハンドル」を認定するものの,相違点Bとして,「訂正発明
では,昇降ハンドルを引き上げ操作することにより,刈取部を垂直方向に上昇させ
て従動プーリを刈取作業時とは異なる平面に移動させた後に,昇降ハンドルの引き
上げに伴うクラッチレバーの上方への回動によるクラッチ機構の断方向の作動によ
りカッターへの駆動力を「断」する作動が行われ,かつブレーキシューが動くこと
によりカッターの回転制動作動も行われるようにしているのに対し,引用発明1で
は,クラッチレバー(27)を切側へ操作することにより,刈取テンションクラッ
チ体(24)の断方向の作動により刈刃(14)への駆動力を「断」する作動が行
われ,かつブレーキ部材(26)が動くことにより入力プーリー(20)位置の入
力ベルト(23)を押圧して入力プーリー(20)を制動して該刈刃(14)の回
転制動作動も行われるようにしているが,昇降ハンドル(リフトレバー(17))
の引き上げに伴ってクラッチレバー(27)が上方へ回動するように構成されてい
ない点」を認定している。
 したがって,本件審決は,訂正発明の「昇降操作手段を構成する昇降ハン
ドル」と引用発明1の「リフトレバー(17)」とが,刈取部を昇降させる操作を
行う点において一致すると認定するのみであって,その構成・機能等の全てにおい
て同じであるとしているものではなく,原告の指摘する点を相違点として扱ってい
ることが明らかである。よって,原告の上記主張は理由がない。
(4) 訂正発明の「クラッチ機構,ブレーキシュー」と引用発明1の「刈取テン
ションクラッチ体(24),ブレーキ部材(26)」について
 原告は,「①訂正発明のクラッチ機構,ブレーキシューは,クラッチレバ
ーの上方への回動によるクラッチ機構の断方向の作動によってブレーキシューが動
かされ,このブレーキシューで従動プーリ周面を押圧してカッターの回転を止める
という一連の動きを構成するものであるのに対し,引用発明1の刈取テンションク
ラッチ体(24),ブレーキ部材(26)は,両者が一体的に形成されているもの
であるから,クラッチ体とブレーキ部材が連動して一連の動きを構成するものでは
ない。②また,訂正発明のブレーキシューは,直接従動プーリ周面を押圧してカッ
ターの回転を止めるものであるのに対し,引用発明1のブレーキ部材(26)は,
入力ベルトと協働して初めて機能し,それ自体では制動機能を持たないものであ
る。本件審決は,上記クラッチ機構等と刈取テンションクラッチ体等とが一致する
と誤認し,上記相違点を看過した。」旨主張する。
ア 上記①の点について検討すると,引用例1には,「このテンションクラ
ッチ体(24)と一体的に枢支ピン(25)回りに回動可能にブレーキ部材(2
6)が形成され」(6頁)との記載があるから,引用発明1においては,刈取テン
ションクラッチ体(24)とブレーキ部材(26)が一体のものであることが明ら
かである。しかしながら,これらについては,「刈取テンションクラッチ体(2
4)が…クラッチレバー(27)にワイヤー(28)を介して連動連結されてい
る。そして,このクラッチレバー(27)のクラッチ入切操作によって刈取テンシ
ョンクラッチ体(24)は枢支ピン(25)回りに正逆回転して入力ベルト(2
3)を緊緩させ,これにより,動力接断がなされ,これと同時に,ブレーキ部材
(26)も刈取テンションクラッチ体(24)と逆に枢支ピン(25)回りに回転
し,動力接続時には入力ベルト(23)から離間され,動力切断時には入力ベルト
(23)の外面側に沿って面圧接され,この入力ベルト(23)が入力プーリー
(20)のV溝に圧接されて入力プーリー(20),後述の分配ベルト等を介して
全刈刃(14)…が制動されるように構成されている。」(6頁~7頁)との記載
があるから,上記刈取テンションクラッチ体(24)とブレーキ部材(26)とが
一体のものであっても,これらを本件審決の認定した一致点である「クラッチレバ
ーの回動によって上記ベルトに作用し上記カッターへの駆動力を断続するクラッチ
機構と,上記クラッチレバーの切側への回動による上記クラッチ機構の断方向の作
動によってブレーキシューで従動プーリを制動して上記カッターの回転を止める上
記制動手段」ということに何ら妨げはない。したがって,本件審決が上記構成を一
致点として認定したことに誤りはなく,上記①の主張は理由がない。
イ 上記②の点については,前記(1)イのとおり,本件審決は,プーリに対し
て制動作用を働かせる部位の相違を相違点Aとして認定しているから,上記相違点
を看過したということはできず,上記②の主張は理由がない。
(5) したがって,取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(相違点Aに係る進歩性判断の誤り)について
 原告は,「本件審決が周知例として挙げた甲10,11には,「ブレーキシ
ューで従動プーリ周面を押圧して回転を止めること」が記載されているだけである
から,「ブレーキシューで従動プーリ周面を押圧してカッターの回転を止めること
」が周知であるとした本件審決の認定は誤りであり,同認定に基づいてされた相違
点Aの判断も誤りである。」旨主張する。
 しかしながら,甲11には「37はミッドマウントモアーで,前部リンク3
8と後部リンク39とから成る平行リンク機構40を介してトラクタ車体1の下腹
部に昇降自在でかつ着脱自在に装着されている。」(7頁),「巻掛伝動機構44
は駆動プーリ54,従動プーリ55,及びこれらに掛装されたベルト56とから成
り,…従動プーリ55は…PTO軸58に固設されている。」(8~9頁),「P
TO軸58は自在接手軸68を介してモアー37の駆動部に連動連結されてい
る。」(9頁),「74はPTO軸58の慣性回転を防止するブレーキシューで,
従動プーリ55下側面に対向して配置されている。」(10頁)と記載されてい
る。上記PTO軸58は,必要に応じて回転部材への駆動力を供給する動力取出し
機構(PTO=Power take off)であって,専らカッターを駆動回
転させるものとはいえないとしても,上記記載に合わせて第1図,第4図及び第5
図を参照すれば,甲11には,ブレーキシューで従動プーリ周面を押圧してモアー
(カッター)の回転を止めるという実施例が開示されていることは明らかである。
したがって,甲11を挙げて,「ブレーキシューで従動プーリ周面を押圧してカッ
ターの回転を止めること」が周知であると本件審決が認定したことは相当である。
 なお,甲10には,「ブレーキシューで従動プーリ周面を押圧して従動プー
リの回転を止めること」は記載されているものの,「ブレーキシューで従動プーリ
周面を押圧してカッターの回転を止めること」までは記載されていないことは,当
事者間に争いがないから,この限りで本件審決の認定には誤りがある。しかしなが
ら,甲11に基づく上記認定が可能であるから,この誤りは結論に影響を及ぼさな
いことが明らかである。また,相違点Aは,「カッターの回転を止めるのに,訂正
発明では,ブレーキシューで従動プーリ周面を押圧しているのに対し,引用発明1
では,ブレーキ部材(26)で入力プーリー(20)位置の入力ベルト(23)を
押圧している点」であるから,「ブレーキシューで従動プーリ周面を押圧して回転
を止めること」(これが甲10,11に記載されていることは原告も認めてい
る。)が周知技術であれば,訂正発明の相違点Aに係る構成は当業者が容易に想到
できるというべきであるので,この観点からも上記誤りは結論に影響を及ぼさない
筋合いである。
 したがって,取消事由2は理由がない。
3 取消事由3(相違点Bに係る進歩性判断の誤り)について
(1) 引用発明2について
ア 原告は,「本件審決が,引用例2には,1つの操作レバーを引き上げ操
作することによって,カッタ・アタッチメントを上昇させ,カッターへの駆動力を
切断すると共に,カッターの制動を行うようにする技術思想が開示されていると判
断したのは,誤りである。すなわち,引用例2の制動ラバー・ブロックはカッター
の制動を行うものとはいえないし,また,テンションローラがカッターへの駆動力
を切断するものともいえない。」旨主張する。
(ア) 引用例2には,「制動ラバー・ブロック」に関して,
「前記カッタ・アタッチメントは,複数のプーリ66を有し,これらプ
ーリは,それぞれ,カッタ・アタッチメントの一つのブレードを駆動し,前記シャ
ーシは,対応の数の制動(braking)ラバー・ブロック67を有する。これ
らのブロックは,カッタ・アタッチメントが図2中に於いて破線で示された位置で
あるその非作動上方位置にまで回動された時に,前記プーリに係合するように配置
されている。」(訳文4頁),
「7.クレーム1のモアであって,更に,ブレーキ部材を有し,前記カ
ッタ・アタッチメントは前記ブレーキ部材と協動し,これによって,前記カッタ・
アタッチメントが前記上方変位領域に移動した時,前記カッタ・アタッチメントの
ブレードは,移動を停止される。
 8.クレーム7のモアであって,更に,複数のプーリを有し,前記ブ
レーキ部材は,前記シャーシに固定されたラバー・ブロックであり,これにより,
前記カッタ・アタッチメントの前記上方位置に於ける前記ブロックは,前記カッ
タ・アタッチメントのブレードを駆動する前記プーリに係合する。」(訳文8頁)
と記載されており,これらの記載によれば,引用発明2は,カッタ・ア
タッチメントを非作動上方位置まで回動移動すると,制動(braking)ラバ
ー・ブロック67がプーリに係合することによりブレーキをかけ,ブレードの回転
を停止するものであることが明らかである。したがって,引用例2の制動ラバー・
ブロックは,カッターの制動を行うものであるというべきであり,この点について
の原告の上記主張は理由がない。
 これに対し,原告は,「制動ラバー・ブロック67の機能は,本質的
にはモアが駆動される時のがたつきと騒音を回避するためのものに他ならない。」
旨主張する。しかしながら,引用例2には,制動ラバー・ブロック67について,
「これらのブロックは,又,前記上方位置に於けるカッタ・アタッチメントのため
のバネ支持体としても作用し,これによって,モアが駆動される時のがたつきと騒
音とが回避される。」(訳文4~5頁)と記載されているのであるから,モアが駆
動される時のがたつきと騒音を回避する機能は,あくまで付加的なものにすぎない
と解すべきである。
(イ) また,引用例2には,「テンションローラ」に関して,
「本発明に依る装置のもう一つの利点は,カッタ・アタッチメントの刈
り取り高さを調節するためのバーと同アタッチメントの係脱のためのバーとが一つ
の同じユニットに組み込まれたことによって,機械の操作が非常に簡単になったこ
とにある。」(訳文2頁)
「前記シートには,バー又はハンドル19が設けられている。このバー
は,後述のリンクアーム機構によって前記カッタ・アタッチメントに対して作用し
て,様々な刈り取り高さに位置決め可能であるとともに,刈り取り位置から非刈り
取り位置へと移動可能である。」(訳文2~3頁)
「図2に示されているように,シャーシの一側方に配置されている前記
バーは,ドロー・バー38により,シャーシに回動可能に固定された軸40に接続
された三腕フォロア39に連結されている。」(訳文3頁)「前記フォロアの第3
アーム54は,前記駆動ユニットと前記カッタ・アタッチメントとの間で移動する
ベルト(詳細には図示せず)に作用するべく,ドローバー55を介してテンション
ローラ56(図1)に接続されている。」(訳文4頁)
「前記バーが係合解除する時,カッタ・アタッチメントの重量により前
方に下がり,これによって,前記ドローバー38は前記フォロアを図2に於いて時
計回り方向に回動する。この移動により,前記レバー49が外れ,図に於いて下方
に移動可能となる。これにより,その前部が前記レバー49のフォーク51上に載
置された初期位置にある前記ヨーク41が,前記ローラ44が地面に係合するま
で,前記軸40回りで回動する。このバー19の更に前方への移動によって,前記
レバー49とこれに固定されたカッタ・アタッチメントとが,前記フォーク51が
前記パイプ42の縦部分に沿って移動するのと同時に,前記リンクアーム46,ド
ローバー47及びフォロア39の作用によって図中まっすぐ下方に移動される。次
に,このバーの下方移動は,前述したような方法で前記フック22によって停止さ
れる。もちろん,前記ヨーク41に直接に接続された前記ガード57は,上述した
移動に追従する。同時に,前記ドローバー55に接続されたテンションローラによ
ってエンジンとカッタ・アタッチメントとの間の前記ベルトにテンションが付与さ
れていることにより,カッタ・アタッチメントのベルト駆動装置(図示せず)が係
合される。」(訳文5頁)
「前記カッタ・アタッチメントを,下方変位領域の下方刈り取り位置か
ら上方変位領域の上方非刈り取り位置へ,又はその逆に移動させる操作装置」(訳
文7頁)
と記載されている。これらの記載に加え,①カッタ・アタッチメントの
係脱のためにはブレードの駆動を切る必要があること,②上方非刈り取り位置にお
いて,特に,上記(ア)認定のとおり,制動ラバー・ブロック6 7がプーリに係合
することによりブレーキをかけてブレードの回転を止める際には,ブレードの駆動
が切られていると考えるのが自然であること,及び③昇降装置を下降させる際の作
動が明記されていれば,昇降装置を上昇させる際には,逆の手順が行われると解す
ることが自然であり,もし昇降装置の下降と上昇において異なる作動が行われるの
であれば,むしろ異なる作動を裏付ける記載が当然されるべきはずであるのに引用
例2にはそのような記載はないことを考慮すると,引用発明2においては,バー1
9を下げ操作すると,カッタ・アタッチメントが下方の刈り取り位置に移動すると
共に,三腕フォロア39の第3アーム54に連結されたドローバー55を介してテ
ンションローラ56が作動し,エンジンとカッタ・アタッチメントとの間のベルト
に緊張力が与えられてカッタ・アタッチメントのブレードが駆動されること,ま
た,上記操作とは逆に,バー19を上げ操作すると,カッタ・アタッチメントが上
方の非刈り取り位置に移動すると共に,エンジンとカッタ・アタッチメントとの間
のベルトへの緊張力(テンション)が緩和されてカッタ・アタッチメントのブレー
ドへの駆動が切られることが明らかである。したがって,引用発明2のテンション
ローラは,カッターへの駆動力を切断するものというべきであり,この点について
の原告の上記主張は理由がない。
イ 原告は,「引用例2には,バー19が「ブレーキシューを動かす」原因
となるという技術思想の開示がないから,引用発明2に基づき,ブレーキシューが
動くことにより制動するという訂正発明における制動手段の構成を想到することは
困難である。」旨主張する。
 しかしながら,引用発明2は相違点Bの判断において引用されていると
ころ,相違点Bは,前記のとおり,「訂正発明では,昇降ハンドルを引き上げ操作
することにより,刈取部を垂直方向に上昇させて従動プーリを刈取作業時とは異な
る平面に移動させた後に,昇降ハンドルの引き上げに伴うクラッチレバーの上方へ
の回動によるクラッチ機構の断方向の作動によりカッターへの駆動力を「断」する
作動が行われ,かつブレーキシューが動くことによりカッターの回転制動作動も行
われるようにしているのに対し,引用発明1では,クラッチレバー(27)を切側
へ操作することにより,刈取テンションクラッチ体(24)の断方向の作動により
刈刃(14)への駆動力を「断」する作動が行われ,かつブレーキ部材(26)が
動くことにより入力プーリー(20)位置の入力ベルト(23)を押圧して入力プ
ーリー(20)を制動して該刈刃(14)の回転制動作動も行われるようにしてい
るが,昇降ハンドル(リフトレバー(17))の引き上げに伴ってクラッチレバー
(27)が上方へ回動するように構成されていない点」というものであって,要す
るに,昇降ハンドルの引き上げに伴って,クラッチレバーも上方へ回動するか否か
の点であるから,原告の主張に係る「ブレーキシューが動くことにより制動する構
成であるか否か」の点は,相違点Bの判断とは無関係の事項であるというべきであ
る。したがって,原告の上記主張は理由がない。
(2) 引用発明3ないし5について
 原告は,「引用発明3ないし5は,いずれもコンバインに関するものであ
って,訂正発明のような構造を有する乗用型草刈機におけるものではなく,まして
刈取部を昇降させる昇降ハンドルと,それの引き上げに伴うクラッチレバーの上方
の回動に関するものではないから,これらに基づき訂正発明の相違点Bの構成に想
到することは容易とはいえない。」旨主張する。
 しかしながら,本件審決は,農業機械の分野(訂正発明もこれに属す
る。)において,「その作動が互いに関連する2つの作動部を操作する各レバーを
併設し,1つのレバーを操作することにより他のレバーを連動して操作できるよう
に構成すること」が慣用技術であることを示すために,引用例3ないし5を挙げて
いるにとどまり,これらに,「刈取部を昇降させる昇降ハンドルと,それの引き上
げに伴うクラッチレバーの上方の回動」という訂正発明の構成が記載されていると
するものではない。
 そして,同じ農業機械の分野に属するものの間で,慣用技術が必要に応じ
て適宜転用されることは当然である。
 したがって,乗用型草刈機に関する引用発明1のリフトレバー(17)及
びクラッチレバー(27)に,上記慣用技術を適用することは,当業者が容易に想
到できることというべきであるから,原告の上記主張は理由がない。
(なお,原告の主張を善解すると,引用例1と2とは解決すべき課題が異なる
から,相違点Bにつき引用例1に引用例2を適用して訂正発明を想到することは困
難であると主張するが,仮に原告主張のとおり,引用例1と2との解決すべき課題
が相違するとしても,引用例1及び2は,いずれも乗用型草刈機の技術分野に属す
るから,引用例1に引用例2を適用することに何ら阻害事由はないというべきであ
る。)
(3) してみると,取消事由3も理由がなく,採用することはできない。
4 結論
 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に本件審決を
取り消すべき瑕疵は見当たらない。
 よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文
のとおり判決する。
  東京高等裁判所第3民事部
  裁判長裁判官 北  山  元  章
 裁判官  青  柳     馨
       裁判官沖  中  康  人

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