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平成13年(ワ)第26063号 特許権侵害差止請求反訴事件
口頭弁論終結日 平成14年8月28日
             判      決
反訴原告(以下「原告」という。) 三菱マテリアル株式会社
訴訟代理人弁護士   近 藤 惠 嗣
同梅 澤   健
   反訴被告(以下「被告」という。)株式会社神戸製鋼所
訴訟代理人弁護士本 間   崇
補佐人弁理士  蟹 田 昌 之
        主      文
      1原告の請求をいずれも棄却する。
      2 訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由
第1 請求
1 被告は,別紙物件目録記載の銅管内面溝付加工装置(以下「被告装置」とい
う。)を製造し,使用してはならない。
2 被告は,前項の銅管内面溝付加工装置を廃棄せよ。
第2 事案の概要
 本件は,銅管内面溝付加工装置を製造,使用する被告の行為が,原告の有する
特許権を侵害するとして,原告が被告に対して,その差止め等を求めている事案で
ある。
1 争いのない事実
(1) 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その発明を「本件発
明」という。)を有する。
特許番号   特許第2590568号
出願年月日   平成元年8月30日
発明の名称金属管内外面加工装置
登録年月日   平成8年12月19日
(2) 本件発明に係る明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲
の記載は次のとおりである。
「金属管を縮径する縮径装置と,該縮径装置の後段に配置された該縮径装
置によって加工された前記金属管の内外面にさらに所定の形状を付与する金属管内
外面加工機とを具備し,前記縮径装置は,前記金属管の外面に圧接するダイスと,
前記金属管の内部で前記ダイスに対応する位置に浮遊するフローティングプラグと
からなり,前記金属管内外面加工機は,前記金属管の外面に圧接される複数の回転
体と,該複数の回転体をそれぞれ前記金属管を中心にして公転させる駆動機構と,
前記フローティングプラグに回転自在に連結され前記金属管内の前記複数の回転体
に対応する位置に浮遊するマンドレルとからなり,前記駆動機構は,磁気軸受で回
転自在に支持され前記複数の回転体を公転駆動する駆動軸を備えており,この駆動
軸は内部に前記金属管を挿通可能なように円筒状に形成され,その軸心が前記回転
体の公転中心に一致されていることを特徴とする金属管内外面加工装置。」
(3) 本件発明の構成要件は,次のとおり分説される。
A 金属管を縮径する縮径装置と,
B 該縮径装置の後段に配置された該縮径装置によって加工された前記金属
管の内外面にさらに所定の形状を付与する金属管内外面加工機とを具備し,
C 前記縮径装置は,前記金属管の外面に圧接するダイスと,前記金属管の
内部で前記ダイスに対応する位置に浮遊するフローティングプラグとからなり,
D 前記金属管内外面加工機は,前記金属管の外面に圧接される複数の回転
体と,該複数の回転体をそれぞれ前記金属管を中心にして公転させる駆動機構と,
E 前記フローティングプラグに回転自在に連結され前記金属管内の前記複
数の回転体に対応する位置に浮遊するマンドレルとからなり,
F 前記駆動機構は,磁気軸受で回転自在に支持され前記複数の回転体を公
転駆動する駆動軸を備えており,
G この駆動軸は内部に前記金属管を挿通可能なように円筒状に形成され,
その軸心が前記回転体の公転中心に一致されていることを特徴とする
H 金属管内外面加工装置
(4) 被告は,エアコン等に使用される熱交換器用の銅管を製造,販売してい
る。被告の製造,販売する銅管の内面には熱移動媒体との接触面積を増加させて熱
交換効率を上げるために多数の溝が形成されており,この銅管は,内面溝付銅管と
呼ばれている。被告は,この溝を形成するために,被告の製造に係る被告装置を用
いて銅管の内面溝付加工を行っている。
2 争点及び当事者の主張
(1) 被告装置の磁気軸受は,本件発明の構成要件Fの「磁気軸受」に該当する
かどうか。
(原告の主張)
 構成要件Fの「磁気軸受」は,受動型磁気軸受に限定すべきでなく,駆動
軸の吸引力を制御して駆動軸を基準位置に一定に保つ能動型磁気軸受を含むものと
解すべきである。
 すなわち,本件明細書には,本件発明の構成要件Fの「磁気軸受」を受動
型に限定する記載もなければ,能動型を除外するとの記載もない。また,能動型磁
気軸受は,駆動軸の位置を基準位置に一定に保持するものではなく,能動型磁気軸
受においてもロータは外力の変化に追従して変位できる。そして,被告装置におい
ては,駆動軸は,該駆動軸に外力が作用すると,駆動軸が外力の向きに変位し,そ
の変位量に対応した大きさの磁力が生じるように制御されている能動型磁気軸受に
よって支持されているから,溝付加工される銅管の軸心と転造ボールの公転中心
(駆動軸の軸心)が加工中にずれた場合には,駆動軸の軸心は転造ボールの公転中
心と銅管の軸心が一致する方向に変位する(甲1,2)。
 したがって,被告装置の磁気軸受は,能動型であっても,回転体の公転中
心と金属管の軸心とがずれても駆動軸が変位して回転体の公転中心と金属管の軸心
とを一致させるという本件発明の作用効果を奏するものであるから,本件発明の構
成要件Fの「磁気軸受」に該当する。
(被告の反論)
ア 構成要件Fの「磁気軸受」は,以下のとおりの理由から,受動型磁気軸
受に限定すべきであり,駆動軸の吸引力を制御して駆動軸を基準位置に一定に保つ
能動型磁気軸受を含まないものと解すべきである。
(ア) 磁気軸受には,能動型磁気軸受と受動型磁気軸受とがある。
 能動型磁気軸受では,ステータに電磁石,ロータに強磁性体である軟
鉄板の積層体が設置され,ロータの位置を検知する非接触式の位置センサが設けら
れている。そして,能動型磁気軸受においては,ロータはステータの電磁石の吸引
力によって保持され,位置センサの信号を用いてステータの電磁石に流す電流を変
化させてロータの吸引力を調節し,ロータ位置を常に基準位置に保持するように制
御が行われる。
 他方,受動型磁気軸受では,反発力を利用する場合及び吸引力を利用
する場合ともロータとステータに使用されている磁石は永久磁石あるいは一定励磁
電流の電磁石であって,その磁力は常に一定であり,磁力の大きさを制御するもの
ではないため,ロータに対して負荷が加えられた場合にロータは負荷の向きに変位
し,またバランスする位置は,その磁力と負荷の力との大きさによって自然に決定
されることとなり,そのバランスする位置を,能動型磁気軸受のように常に一定に
保つことはできない。
(イ) 本件発明は,回転体の公転中心と金属管の軸心とが半径方向にずれ
ても,その心ずれ量だけ該駆動軸が変位して該ずれ量を吸収することにより,金属
管の軸心が回転体の公転中心に一致されているように構成されている。すなわち,
本件発明では,駆動軸が変位できることが必須であるため,駆動軸を支持する磁気
軸受としては,電磁石を用いて電流を変えることによって駆動軸の吸引力を制御
し,駆動軸の位置を常に基準位置に保持する能動型磁気軸受ではなく,常に磁力は
一定であるけれども,負荷に応じて駆動軸が変位することのできる受動型磁気軸受
が予定されているといえる。
 したがって,構成要件Fの「磁気軸受」は,受動型磁気軸受に限定し
て解釈すべきであり,駆動軸の吸引力を制御して駆動軸を基準位置に一定に保つ能
動型磁気軸受を含まない。
イ これに対して,被告装置においては,加工ヘッドがモータ内蔵型磁気軸
受スピンドルの駆動軸によって駆動され,その駆動軸は,該駆動軸に外力が作用し
ても常に基準位置を保って回転するように制御されている能動型磁気軸受によって
支持されている。したがって,被告装置の磁気軸受は,本件発明の構成要件Fの
「磁気軸受」には該当しない。
(2) 被告装置は,構成要件Gの「その軸心が前記回転体の公転中心に一致され
ている」を充足するかどうか。
(原告の主張)
 被告装置の駆動軸は,ラジアル磁気軸受に支持され,銅管の軸心が半径方
向に変位したときに,加工ヘッドの転造ボールの回転中心は,銅管の軸心と一致す
るように変位することができる。被告は,被告装置の駆動軸は基準位置に保持され
ると主張するが,実際は,駆動軸の位置が変動している(甲1ないし3)。
 したがって,被告装置は,本件発明の構成要件Gの「その軸心が前記回転
体の公転中心に一致されている」を充足する。
(被告の反論)
 被告装置の駆動軸は,能動型磁気軸受により支持されており,常に基準位
置に保持されるから,銅管の軸心が半径方向に変位したときにも,加工ヘッドの転
造ボールの回転中心は,銅管の軸心と一致するように変位することはない。
(3) 本件発明は特許法29条1項1号又は同条2項の無効理由があることが明
らかであり,原告が本件特許権に基づき権利の行使をすることは権利の濫用に当た
り許されないかどうか。
(被告の主張)
ア 仮に,本件発明の「磁気軸受」が能動型磁気軸受を含むと解釈するとす
れば,本件発明は,以下の理由により,無効理由があることが明らかである。
(ア) 仮に,本件発明の「磁気軸受」が能動型磁気軸受を含むと解釈する
とすれば,本件特許出願時に公知であった能動型磁気軸受スピンドル(乙3の7)
を,同じく公知であった金属管内面溝付加工装置(乙3の2)に適用することは,
本件特許出願時に当業者が容易に想到することができるというべきであり(乙3の
3,5,6,乙8),本件発明には,同条2項所定の無効理由が存在することにな
る。
(イ) 仮に,本件発明の「磁気軸受」が能動型磁気軸受を含むと解釈する
とすれば,①日本磁気ベアリング株式会社の「VHS磁気軸受スピンドルB20/
750・B25/500」のカタログ(乙3の3)中に,同スピンドルは,銅管内
面加工等に適用されてきた旨の記載,②本件特許出願前の平成元年4月24日ころ
には,上記VHS磁気軸受スピンドルB20/750・B25/500は公然知ら
れたものとなり,神鋼電機株式会社において,これを銅管内面溝付加工用に採用す
る概略見積もりが検討された際に用いられたカタログ(乙3の5),③古河電気工
業株式会社において,本件発明の金属管内外面加工装置と同義の内面溝付管ボール
転造加工機に使用することが検討された際に用いられたカタログ(乙3の6),④
またその他の当業者においても内面溝付銅管加工装置用として日本磁気ベアリング
社の販売する能動型磁気軸受スピンドルを導入することを予定していた経緯(乙
8)等を総合すれば,金属管内外面加工装置に能動型磁気軸受を使用するという本
件発明は,本件特許出願時に公然知られたものとなっていたというべきであり,本
件発明には,同条2項所定の無効理由が存在することになる。
イ したがって,仮に本件発明の「磁気軸受」が能動型磁気軸受を含むと解
釈するとすれば,本件発明は,特許法29条1項1号,2項の無効理由を有するこ
とが明らかであるから,原告が被告に対し本件発明に基づいて被告装置の使用につ
き差止請求権を行使することは,権利の濫用であって許されない。
(原告の反論)
 被告が無効理由の基礎として依拠している文献は,既に被告自身が請求し
た無効審判において検討され,請求不成立の審決が確定し,この審決は登録されて
いる(乙5及び乙1の8番の登録事項参照)。
 他方,特許法167条により,何人も,無効審判の確定審決の登録があっ
たときは,同一の事実及び証拠に基づいて審判を請求することができないから,同
条の趣旨に照らして,被告の主張が失当であることはいうまでもない。
 また,被告は,無効審判で提出されていない証拠として,議事録(乙8)
を提出しているが,そこには,「スピンドルの説明,内面溝付管を製造している他
メーカーが導入予定のこと」と記載されているだけで,何ら,技術的な具体性はな
く,本件発明が公知になった証拠とは認められない。
したがって,被告の権利濫用の主張は失当である。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(構成要件Fの充足性)について
(1) 受動型磁気軸受と能動型磁気軸受
ア 磁気軸受の種類
 磁気軸受には大別して受動型磁気軸受と能動型磁気軸受とがある(乙
6,7)が,それぞれの構成,特徴等は以下に述べるとおりである。
イ 受動型磁気軸受
 「能動型磁気軸受の原理,特徴,応用例」(乙9)には,受動型磁気軸
受に関して,以下のとおりの記載がある。
(ア) 受動型磁気軸受の原理について,「受動型磁気軸受は,永久磁石ま
たは一定励磁電流による電磁石を使って,その反発力または吸引力によって軸受機
能を得ようとするものである。そのやり方としてはつぎのような二通りの方法があ
る。」(1頁20行~21行)
(イ) 磁石の反発力を利用した受動型磁気軸受について,「同極性の二つ
の磁石を対向させて配置すれば自重の数十倍の力を発生させることができるので,
簡単な一自由度支持が可能である。(図1)」(1頁23行~24行)
(ウ) 磁石の配置の利用について,「磁石をうまく配置することにより安
定したラジアル軸受を構成することができる。(図2)ロータにはラジアル方向に
着磁されたリング状永久磁石が固定されており,その両側には同様にラジアル方向
に着磁されたリング状永久磁石がありステータに固定されている。両者は吸引力に
よりラジアル方向には安定点があり,ラジアル軸受として機能させることができ
る。」(1頁26行~2頁2行)
 以上の各記載によれば,受動型ラジアル磁気軸受においては,反発力を
利用する場合及び吸引力を利用する場合とも,ロータ(駆動軸,以下同じ。)とス
テータに使用されている磁石は永久磁石あるいは一定励磁電流の電磁石であって,
その磁力は常に一定であり,磁力の大きさを制御するものではないため,ロータ
は,外力が作用しなければ,ステータとの間の反発力又は吸引力によって決定され
る力学的に安定な位置で回転するが,例えば,ロータに下向きの外力が加わると,
ロータは安定な位置から,加えられた外力と,ロータとステータとの反発力が釣合
う位置まで変位し,その位置で回転し,この外力が除かれるとロータは上記の安定
位置に復帰するものであるといえる。すなわち,受動型ラジアル磁気軸受において
は,ロータに対して負荷が加えられた場合にロータは負荷の向きに変位し,またバ
ランスする位置は,その磁力と負荷の力との大きさによって決定されることとな
り,そのバランスする位置を,能動型磁気軸受のように常に一定に保つことはでき
ない。
ウ 能動型磁気軸受
 前記「能動型磁気軸受の原理,特徴,応用例」には,能動型磁気軸受に
関して,以下のとおりの記載がある。
(ア) 能動型ラジアル磁気軸受の構成について,「ロータの位置は四つ
(またはそれ以上)の位置センサにより検出され,基準位置との差が誤差信号とし
て制御回路に入り,電磁石に流すべき電流,即ち,磁界の強さを修正してロータを
基準位置に戻す。」(2頁29行~33行)
(イ) 制御回路として,「制御回路の役目は,位置センサからの情報をも
とに電磁石へ流すべき電流を変えてロータ位置を制御することである。(図6)位
置センサからの信号はロータの基準位置を定めている基準信号と比較される。もし
基準信号がゼロならばロータは基準位置としてステータの中央になるように制御さ
れることになる。・・・誤差信号はその瞬間のロータ位置と基準位置との差を示し
ており,・・・誤差信号に対する制御信号の比は伝達関数と呼ばれるが,高い剛性
によってロータを基準位置に精度良く保つよう,また外乱によってロータに変位が
生じようとすれば適正な減衰によって基準位置にすぐ戻すようこの伝達関数が選ば
れる。」(4頁18行~34行)
 以上の各記載からすれば,能動型磁気軸受においては,ロータの位置が
位置フィードバック制御で制御されているため,ロータが基準位置において支持さ
れている状態において,ロータに対して,例えば上から下方向への負荷が加わり,
ロータが下方へ移動した場合,そのロータの位置変位を変位センサが検出し,その
変位した位置からロータを基準位置に戻すために必要な磁力を各ステータの電磁石
が発し得るだけの電流が各ステータの電磁石へ送られ,その結果,上から下方向へ
の負荷が加えられてもロータは瞬時に基準位置に復帰し,さらに,その負荷が継続
してもロータはその基準位置における回転を維持し続けることとなるものであると
いえる。
(2) 本件明細書の「発明の詳細な説明」の記載(乙2)
「発明の詳細な説明」には,以下のとおりの記載がある。すなわち,
ア 「発明が解決しようとする課題」として,近年開発された金属管の外面
に圧接しながら該金属管の軸心を中心にして公転する複数の回転体を備えた加工機
を用いた場合,「回転体の公転中心と金属管の軸心とが加工中に多少ずれるため,
この心ずれに起因して振動が発生する。この振動は,回転体を高速で公転させれば
させるほど急激に増大して,回転体を公転駆動する駆動軸のベアリングに大きな負
荷の変動が作用し,該ベアリングの寿命を著しく低下させることになる。また,上
記振動が増大すると,金属管に対する回転体の面圧が大きく変化し,この際,面圧
が著しく高くなったときの油切れにより金属管に凝着が生じることがある。このた
め,回転体の公転速度としては,所定の公転速度以上にすることができず,転造能
率の上限が制限されていた。」(3欄9行~21行)また,「本発明は,上記事情
に鑑みてなされたものであり,加工時の回転体の公転中心と金属管の軸心とのずれ
の影響を少なくして,該回転体をより高速で公転させることのできる金属管内外面
加工装置を提供することを目的としている。」(3欄22行~26行)
イ 「課題を解決するための手段」として,本発明は,上記目的,すなわ
ち,加工時の回転体の公転中心と金属管の軸心とのずれの影響を少なくするという
目的を達成するため,「駆動機構は,磁気軸受で回転自在に支持され前記複数の回
転体を公転駆動する駆動軸を備えており,この駆動軸は内部に前記金属管を挿通可
能なように円筒状に形成され,その軸心が前記回転体の公転中心に一致されている
ものである。」(3欄39行~44行)
ウ 「作用」として,「本発明においては,駆動軸が磁気軸受の磁気力によ
って浮遊した状態で支持されているため,回転体の公転中心と金属管の軸心とがず
れても,その心ずれ量だけ該駆動軸が変位して,該ずれ量を吸収する。このため,
心ずれに伴う振動が抑えられ,回転体を高速で公転することが可能になる。」(3
欄46行~4欄1行)
エ 「実施例」の項に,「転造過程で銅管1の軸心と金属管内外面加工機2
0の軸心とが変化した場合には駆動軸41に半径方向の力が作用するが,その際に
は,ラジアル磁気軸受47,48のエアーギャップの範囲内で駆動軸41がずれ,
金属管内外加工機20の軸心が自動的に銅管1の軸心に一致するように作用するの
で,心ずれによる振動が抑えられる。」(7欄15行~20行)
オ 「発明の効果」として,「本発明によれば,駆動軸を磁気軸受により非
接触で支持しているから,回転体の公転中心と金属管の軸心とがずれても,磁気軸
受のエアーギャップの範囲内で駆動軸が変位して,回転体の公転中心が金属管の軸
心に一致するようになる。このため,上記心ずれに伴う振動を抑えることができ,
また,従来のギヤ列に起因する機械損失がなくなるため,従来より回転体を高速で
公転させることができ,金属管を転造する能率を向上させることができる。」(8
欄45行~9欄3行)
 と,それぞれ記載されている。
(3) 本件発明の構成要件Fの「磁気軸受」の意義
ア 本件明細書の前記(2)の各記載によれば,本件発明に係る金属管内外面加
工装置は,駆動軸が磁気軸受の磁気力によって浮遊した状態で支持されているた
め,回転体の公転中心と金属管の軸心とがずれても,その心ずれ量だけ駆動軸が変
位して該心ずれ量を吸収するものであると解される。すなわち,本件発明に係る金
属管内外面加工装置は,金属管が半径方向に変位することによって生じる半径方向
の力によって,駆動軸が半径方向に移動し,その結果,回転体の公転中心が金属管
の軸心に一致するように構成されているものである。したがって,構成要件Fの
「磁気軸受」は,駆動軸に負荷が加わった場合に,駆動軸が当初位置から変位した
位置(負荷と釣り合った位置)で回転を継続し得るような磁気軸受であることが必
須である。
イ そうすると,本件発明の構成要件Fの「磁気軸受」は,受動型磁気軸受
(ロータに対して負荷が加えられた場合にロータは負荷の向きに変位し,その磁力
と負荷の力の大きさによってバランスする位置で回転するものであるから,駆動軸
に負荷が加わった場合に,駆動軸が当初位置から,負荷とバランスした位置に変位
して回転を継続し得る磁気軸受)のみを指すものと解すべきであって,能動型磁気
軸受(ロータに負荷が加えられてもロータは瞬時に基準位置に復帰し,更に,その
負荷が継続してもロータはその基準位置における回転を維持し続ける磁気軸受)を
含むものと解することはできない。
(4) 被告装置との対比
 これに対して,被告装置の磁気軸受は,能動型磁気軸受である(当事者間
に争いがない)から,本件発明の構成要件Fの「磁気軸受」に該当しない。
 したがって,被告装置は,本件発明の構成要件Fを充足しない。
(5) 原告の主張に対する判断
 原告は,被告装置における能動型磁気軸受においても,その磁気軸受は,
駆動軸の位置を基準位置に一定に保持するものではなく,ロータは外力の変化に追
従して変位することができ,その駆動軸は,該駆動軸に外力が作用すると,駆動軸
が外力の向きに変位し,その変位量に対応した大きさの磁力が生じるように制御さ
れている能動型磁気軸受によって支持されているから,溝付加工される銅素管の軸
心と転造ボールの公転中心(駆動軸の軸心)が加工中にずれた場合には,駆動軸の
軸心は転造ボールの公転中心と銅素管の軸心が一致する方向に変位すると主張す
る。
 しかし,原告の主張は,以下のとおり採用できない。
 すなわち,能動型磁気軸受が,ロータに負荷が加えられてもロータは瞬時
に基準位置に復帰し,さらにその負荷が継続してもロータはその基準位置における
回転を維持し続けるものであることは,前記(1)認定のとおりである。また,甲1に
よれば,原告において,能動型磁気軸受(S2M社製B25/500)を使用して
溝付管(銅管)を製造したときのロータの動きを測定したところ,ロータの中心は
基準位置からずれたまま時々刻々その位置を変動させていたとの結果が得られたこ
とが認められるが,これは,ロータの幾何学的中心の位置が変動していることを示
すにすぎず,工業的に使用される銅管内面溝付装置においては,ロータの幾何学的
中心と重心とが一致しないことは不可避であることを考慮すると,甲1の示すよう
な測定結果があったとしても,能動型磁気軸受の原理,特徴等に関する前記(1)の認
定判断を左右するものとはいえない。
 結局,原告の前記主張は採用できない。
2 争点(2)(構成要件Gの充足性)について
(1) 構成要件Gの「その軸心が前記回転体の公転中心に一致されている」の意

 本件明細書の前記1(2)の各記載によれば,本件発明は,駆動軸が磁気軸受
の磁気力によって浮遊した状態で支持されているため,回転体の公転中心と金属管
の軸心とがずれても,その心ずれ量だけ該駆動軸が変位して,回転体の公転中心が
金属管の軸心に一致するようになり,該ずれ量を吸収するという技術に係るもので
ある。そうすると,構成要件Gにおける「その軸心が前記回転体の公転中心に一致
されている」とは,「金属管が半径方向に変位することによって生じる半径方向の
力によって,駆動軸(駆動軸と一体となっている回転体の公転中心)が半径方向に
移動し,その結果,金属管の軸心が回転体の公転中心に一致されている」ことを意
味するものと解される。
 これに対し,原告は,本件発明の特許請求の範囲には「その軸心が前記回
転体の公転中心に一致されている」と記載されているだけであるから,金属管の変
位と駆動軸の変位とのいずれが原因でいずれが結果であるかということ(因果関
係)は特許請求の範囲とは無関係であると主張する。
 しかし,本件明細書の前記記載に加え,原告が本件特許の無効審判事件
(平成9年審判第21439号)における審判事件答弁書(乙4)の中で,「本件
特許発明における磁気軸受の構成は,このような一般的な軸受や甲第2号証等に開
示の磁気軸受とは技術思想が根本的に異なり,金属管内外面加工装置において加工
される金属管の移動に軸を追従させるようにしたものである。」(4頁12~15
行),「本件特許発明は,駆動軸内を挿通する金属管の軸心が回転体の公転中心に
一致されるように該駆動軸を磁気軸受によって支持したもので,駆動軸を磁気軸受
のエアーギャップの範囲内で変位可能にして,金属管のずれに対する回転体の追従
を円滑にしたものである。」(4頁下から7~4行)と述べていることを併せ考慮
すると,本件発明は,金属管のずれ(変位)に回転体の公転中心を追従させた技術
に係るものであると理解するのが相当であるから,原告の上記主張は採用できな
い。
(2) 被告装置との対比
 前示のとおり,被告装置の能動型磁気軸受は,駆動軸に負荷が加えられて
も駆動軸は瞬時に基準位置に復帰し,さらに,その負荷が継続しても駆動軸はその
基準位置における回転を維持し続けるものであるから,被告装置においては,銅管
の軸心が半径方向に変位したときに,これに追従して加工ヘッドの転造ボールの回
転中心が銅管の軸心と一致するように変位するとはいえない。
 したがって,被告装置は,構成要件Gの「その軸心が前記回転体の公転中
心に一致されている」とはいえないから,構成要件Gを充足しない。
(3) なお,甲2によれば,原告において,原告が使用する銅管内面溝付加工装
置によって溝付管を製造したときの銅管,転造カセット及びロータの変位を測定し
たところ,銅管の変位と転造カセットの変位との間に強い相関関係があるとの結果
が得られたことが認められる。しかし,甲2の測定結果からは,銅管の変位によっ
て転造カセットの変位が生じたとは認められないのみならず,かえって,乙13に
よれば,被告装置においては,銅管なしの場合,加工ヘッドの変位の周期が,ロー
タ(駆動軸)の回転周期と一致し,かつ,ロータ(駆動軸)の回転周期を変化させ
た場合,加工ヘッドの変位の周期もそれにつれて変化し,銅管ありの場合にも,そ
の関係が維持されていることが認められるから,加工ヘッドはロータ(駆動軸)の
回転に起因して変位しており,加工ヘッド付近の銅管は,加工ヘッドの変位に追従
して変位しているということができる。
 したがって,被告装置においては,銅管の軸心が転造ボールの回転中心に
一致されているとはいえず,甲2は,被告装置が構成要件Gを充足しないとの前記
判断を左右するものではない。
3 結論
 以上のとおり,被告装置は,本件発明の構成要件F及びGを充足しないか
ら,本件発明の技術的範囲に属しない。よって,原告の請求はその余の点につき判
断するまでもなく理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決す
る。
   東京地方裁判所民事第29部
         裁判長裁判官    飯  村  敏  明
            裁判官 榎  戸  道  也
            裁判官 佐  野     信
(別紙)
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