弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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            主     文
       原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
       前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。
       控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人戸倉晴美,同中川朋子,同澤田孝の上告受理申立て理由1について
 1 原審が適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
 (1) 上告人の××支店の従業員である甲(以下「甲」という。)は,昭和62
年5月ころ,被上告人に対し,上告人から融資を受けて土地を購入するように積極
的に勧誘し,宅地造成がされて分譲中の土地の1区画である第1審判決別紙物件目
録記載1の土地(以下「本件土地」という。)の購入を勧めた。
 本件土地には,公道に通ずる私道(以下「本件私道」という。)があり,本件私
道を構成する複数の土地は,すべて私有地であったが,不動産登記簿上の地目は,
当時から,いずれも「公衆用道路」であった。本件土地は,本件私道に面する造成
宅地のうちの最も奥の区画であった。
 本件土地は乙(以下「乙」という。)の所有であり,本件私道の一部である第1
審判決別紙物件目録記載2の土地も,当時,同人の所有であり,同土地の一部が本
件土地の前面道路部分(以下「本件前面道路部分」という。)であった。
 (2) 被上告人は,甲の積極的な勧誘により本件土地を購入することとし,同年
7月7日,乙との間で,同人から本件土地を代金1180万円で購入する旨の契約
(以下「本件売買契約」という。)を締結した。その際,被上告人は,上告人との
間で,融資契約を締結し,上告人から1200万円の融資を受けた。
 本件売買契約の締結には,被上告人と乙のほか,売主側の不動産仲介業者として
丙株式会社の担当者らが立ち会った。その際,被上告人は,丙株式会社が宅地建物
取引業者として記名押印し,宅地建物取引業法35条1項所定の重要事項の説明を
する宅地建物取引主任者であるDが署名押印した重要事項説明書の交付を受けた。
その書面には,本件土地が第2種住居専用地域にあり,6m幅の私道に接している
旨の記載がある。
 (3) 本件前面道路部分は,本件売買契約が締結された当時,道路位置の指定が
されておらず,本件土地は建築基準法43条1項本文所定の接道要件を満たしてい
なかったが,被上告人は,乙や丙株式会社の担当者からも,上告人の担当者である
甲からも,その旨の説明を受けなかった。
 (4) 本件私道に接する造成宅地の区画には,本件土地を除き,いずれも建物が
建築されたが,被上告人は,本件土地購入後も,長年にわたり,本件土地を空き地
の状態のままにしていた。その間に,本件前面道路部分は,平成6年5月5日,乙
の死亡によりその相続人が相続し,平成8年6月24日には,同日受付,同日付け
売買を原因とする丙株式会社への所有権移転登記手続が行われた。
 (5) 被上告人は,平成11年ころ,本件土地上に建物を建築しようとしたが,
本件土地が接道要件を満たさないものであったため,建築確認を受けられなかった。
そこで,被上告人は,丙株式会社に対し,本件前面道路部分について道路位置の指
定を受けることなどについて協力を求めたが,これを拒否され,かえって,丙株式
会社から本件前面道路部分を高額で買い取ることを求められた。
 2 被上告人は,上告人に対し,甲は本件土地が接道要件を満たさない土地であ
ることを被上告人に説明すべき義務があったのにこれを怠った旨を主張して,民法
715条の規定に基づき,損害の賠償と遅延損害金の支払を求めた。
 3 原審は,前記の事実関係の下で,次のとおり判断して,被上告人の請求を,
200万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余を棄
却すべきものとした。
(1) 上告人の従業員である甲は,被上告人に対し,上告人から融資を受けて本件
土地を購入するように勧め,その結果,被上告人が本件土地の購入を決意したので
あり,本件売買契約は,被上告人と上告人との間の融資契約と一体となって,上告
人の利益のために,上告人の従業員である甲のあっせんによって行われたものであ
るから,このような場合には,甲は,被上告人に対し,信義則上,本件売買契約締
結に先立って,本件土地が接道要件を満たさないことなどについて説明する義務を
負うものと解するのが相当である。
 ところが,甲は,本件売買契約締結当時はもとより,その後も,被上告人に対し
,この点についての説明をしなかったのであるから,甲は,上記の説明義務違反の
不法行為により被上告人が被った損害を賠償すべき義務を負う。そして,甲による
本件売買契約のあっせんは,上告人の事業の執行につき行われたものと認められる
から,上告人は,被上告人に対し,民法715条の規定に基づき損害賠償義務を負
うものというべきである。
 (2) 被上告人は,適法に本件土地に建物を建築するためには,丙株式会社に対
して訴えの提起や交渉を行う必要があり,これに要する費用は,甲の不法行為によ
って被上告人が被った損害というべきであり,その額は,200万円を下ることは
ないと認められる。
 したがって,上告人は,被上告人に対し,上記金額の損害賠償責任を負うものと
いうべきである。
 4
しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとお
りである。
 前記の事実関係によれば,次のことが明らかである。(1) 本件売買契約と被上
告人と上告人との間の上記の融資契約とは,当事者を異にする別個の契約であるが
,甲は,後者の融資契約を成立させる目的で本件土地の購入にかかわったものであ
る。このような場合に,甲が接道要件が具備していないことを認識していながら,
これを被上告人に殊更に知らせなかったり,又は知らせることを怠ったりしたこと
,上告人が本件土地の売主や販売業者と業務提携等をし,上告人の従業員が本件土
地の売主等の販売活動に深くかかわっており,甲の被上告人に対する本件土地の購
入の勧誘も,その一環であることなど,信義則上,甲の被上告人に対する説明義務
を肯認する根拠となり得るような特段の事情を原審は認定しておらず,また,その
ような事情は,記録上もうかがうことができない。(2) 本件前面道路部分は,本
件私道の一部であり,
本件売買契約締結当時,本件土地の売主である乙が所有しており,不動産登記簿上
の地目も公衆用道路とされていたことから,同人が被上告人に売却した本件土地の
接道要件を満たすために本件前面道路部分につき道路位置の指定を受けること等の
乙の協力が得られることについては,その当時,十分期待することができたのであ
り,本件土地は,建物を建築するのに法的な支障が生ずる可能性の乏しい物件であ
った。(3) 本件土地が接道要件を満たしているかどうかという点は,宅地建物取
引業法35条1項所定の重要事項として,書面による説明義務がある。本件売買契
約においては,売主側の仲介業者である丙株式会社がその説明義務を負っているの
であって,甲に同様の義務があるわけではない。
 【要旨】これらの諸点にかんがみると,前記のとおり,上告人の従業員である甲
が,被上告人に対し,上告人から融資を受けて本件土地を購入するように積極的に
勧誘し,その結果として,被上告人が本件売買契約を締結するに至ったという事実
があったとしても,その際,甲が被上告人に対して本件土地が接道要件を満たして
いないことについて説明をしなかったことが,法的義務に違反し,被上告人に対す
る不法行為を構成するということはできないものというべきである。
 5 そうすると,以上判示したところと異なる見解に立って,甲に説明義務違反
があるとして被上告人の請求を一部認容した原審の判断には,判決に影響を及ぼす
ことが
明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を
免れない。そして,前記説示によれば,被上告人の請求を棄却した第1審判決は正
当であるから,上記部分につき,被上告人の控訴を棄却することとする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 梶谷 玄 裁判官 福田 博 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山
継夫 裁判官 滝井繁男)

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