弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人池邊甚一郎の上告趣意第一点および第二点について。
 原審が、弁護人から証人訊問の申請があつたAについてその申請を却下したこと、
所論のとおりである。しかし、憲法第三七条第二項は、被告人または弁護人からし
た申請に基き、すべての証人を喚問し不必要と思われる証人までも悉く訊問しなけ
ればならないといふ訳ではなく、証人申請の採否は当該裁判所に実験則に反しない
限りにおいてその裁量に委ねられているものであることは、当裁判所の判例とする
ところである(昭和二三年(れ)第二三〇号同年七月二九日大法廷判決)。そして
本件の具体的性質、環境、その他諸般の事情を斟酌すれば、該証人の訊問は必ずし
も裁判に必要適切なものではないと認めても実験則に反するところはないから、右
却下は前記大法廷判決の趣旨に徴し何ら憲法第三七条に違反するものではない。
 次に、原審第三回公判において、原審裁判長が証人Bに対する予審判事の訊問調
書外本件各証拠の証拠調をした際、池邊弁護人は現場検証並びに現場におけるB外
一名の証人訊問を申請し、裁判長は右各証人訊問の申請を許容し昭和二五年九月一
日の次回公判廷において喚問することを宣したが、その後原審は右Bの証人訊問に
つき同年六月三日和歌山地方裁判所において受命判事をして訊問せしめる旨決定し
た。かくして、同年六月三日原審受命判事岡利裕は和歌山地方裁判所に出張して右
証人の訊問を行つたが、その際被告人並びに弁護人が立会わなかつたこと所論のと
おりである。しかし記録を調べてみると、所論の証人Bに対する原審受命判事の訊
問については、その期日および訊問場所につき、当時保釈中であつた被告人並びに
弁護人に対し適法に告知されながら、同人等はこの訊問に立会わなかつたことが明
らかであるから、被告人および弁護人は同証人の審問の機会を与えられながら自ら
その権利を行使しなかつたものといわねばならない。そして、被告人および弁護人
に対し証人訊問の日時、場所を通知して立会の機会を与え、その証人審問権を実質
的に害しない措置を講ずれば憲法第三七条第二項の規定に対する違反を生じないこ
とは、当裁判所の判例とするところである。(昭和二四年(れ)第一八七三号同二
五年三月一五日大法廷判決、尚昭和二四年(れ)第三三六号同二五年九月五日第三
小法廷判決参照)。されば原審には所論のように被告人の証人審問権を害した憲法
違反はない。また、右のやうに被告人並びに弁護人に対し証人訊問の日時、場所を
通知して立会の機会を与え、その証人審問権を実質的に害しない措置を講じた以上、
被告人並びに弁護人において現実に反対訊問をしなかつたとしても、公判廷外にお
けるその証人の供述録取書類をもつて証人に代えることは、何ら所論憲法第三七条、
刑訴応急措置法第一二条に違反するものではない。(昭和二三年(れ)第一六七号
同年七月一九日当裁判所大法廷判決参照)。尤も弁護人はこの点について、右証人
訊問期日には同弁護人は他に刑事事件の公判があつて差支えのため出頭できなかつ
た事情があるため証人訊問期日変更の申請を原審に提出したといつているが、その
出頭できなかつた事情についての疏明資料も原審に提出されていないのであるから、
原審が右期日変更申請を正当な理由があつたものと認めなかつたことも違法ではな
い。
 されば、論旨第一、二点はいずれも理由がない。
 同第三点について。
 当該裁判所の公判廷における被告人の自白は憲法第三八条第三項にいわゆる「本
人の自白」にあたらないことは、当裁判所の判例とするところである。(昭和二三
年(れ)第一六八号同年七月二九日大法廷判決)。のみならず、本件においては原
審は被告人の原判示第二の(二)の強盗の事実を、被告人の原審公判廷の自白と証
人Bに対する予審判事および原審受命判事の各訊問調書中の同人の各供述記載とを
綜合して認定しているのである。たとい犯罪事実の一部の証拠が被告人の自白のみ
であつても、自白と他の証拠と相まつて犯罪事実を認定することは法の許容すると
ころであり、また犯人が被告人であることの証拠が自白のみであつても違憲違法で
はないことも当裁判所の判例によつて示されている。(昭和二三年(れ)第一四二
六号同二四年一〇月五日大法廷判決、昭和二三年(れ)第一三八二号同二四年一一
月二日大法廷判決)。それゆえ、原審が被告人の自白と他の証拠とを綜合して原判
示の強盗の事実を認定したことについては、所論のような違法はないのであるから、
論旨は理由がない。
 よつて、本件上告を理由ないものと認め、旧刑訴第四四六条に従い主文のとおり
判決する。
 以上は、公判廷の自白に関し裁判官井上登に反対意見ある外、全裁判官の一致し
た意見によるものであつて、裁判官井上登の反対意見は昭和二三年(れ)第一六八
号同年七月二九日大法廷判決記載のとおりである。
 検察官 十藏寺宗雄関与
  昭和二六年三月二七日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介

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