弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1被告は,A及び株式会社Bに対し,各自金3万6008円及びこ
れに対する平成20年11月7日から支払済みまで年5分の割合に
よる金員の支払を請求せよ。
2原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,これを4分し,その3を原告の負担とし,その余を
被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,A及び株式会社Bに対し,各自金7万3185円及びこれに対する
平成20年11月7日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を請求
せよ。
2被告は,C及び株式会社Dに対し,各自金7万3185円及びこれに対する
平成20年11月7日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を請求
せよ。
第2事案の概要
本件は,平成19年4月22日に行われた墨田区議会議員の選挙(以下「本
」。)(「」。)件選挙というにおける候補者2名が公職選挙法以下公選法という
及び同区の条例に基づき同区から選挙運動用自動車の使用につきいわゆる公費
負担を受けたことについて,同区の住民である原告が,上記の各候補者及び各
借入先の業者は公費負担の対象外の金額を含めて不正に請求するなどして同区
に同金額に相当する損害を加えたものであり,同区は上記の各候補者等に対し
て不法行為に基づく損害賠償請求権を有しているにもかかわらず,同区の長で
ある被告はその行使を怠っていると主張し,同区の執行機関である被告に対し
て,上記の各候補者及び各借入先の業者に各自損害相当額及びこれに対する不
法行為の日の後の平成20年11月7日から支払済みまで民法所定の年5分の
割合による遅延損害金の支払を請求するよう求めた事案である。
1関係法令の定め
(1)公選法
ア公選法141条1項は,地方公共団体の議会の議員及び長等の選挙にお
いては,候補者1人について,主として選挙運動のために使用される自動
車(道路交通法2条1項9号に規定する自動車をいい,その構造上宣伝を
主たる目的とするものを除く)1台,拡声機1そろい等のほかは,使用。
することができない旨を定めている(1号。)
イ公選法141条8項は,市(特別区を含む。266条1項)の議会の議
員又は長の選挙については,市は,衆議院(小選挙区選出)議員等の選挙
における取扱いに係る同条7項の規定に準じて,条例で定めるところによ
り,公職の候補者の同条1項の自動車の使用について,無料とすることが
できる旨を定めている。
(2)墨田区議会議員及び墨田区長の選挙における選挙運動の公費負担に関す
る条例(平成6年条例第3号。以下「本件条例」という。乙8)
墨田区は,公選法141条8項等の規定に基づき,本件条例を制定し,本
件条例は墨田区議会議員及び墨田区長の選挙における同条1項の自動車以,(
下「選挙運動用自動車」という)の使用等の公費負担に関して必要な事項。
を定めている(1条。)
ア本件条例2条は,墨田区議会議員等の選挙における候補者は,公選法9
3条1項の規定等により供託物が墨田区に帰属することとならないときに
限り,6万4500円に,その者につき公選法86条の4第1項等の候補
者の届出があった日から当該選挙の期日の前日までの日数を乗じて得た金
額の範囲内で,選挙運動用自動車を無料で使用することができる旨を定め
ている。
イ本件条例3条は,前記アの規定の適用を受けようとする者は,道路運送
法3条1号ハに規定する一般乗用旅客自動車運送事業を経営する者(以下
「一般乗用旅客自動車運送事業者」という)その他の者との間において。
選挙運動用自動車の使用に関し有償契約を締結し,墨田区選挙管理委員会
(以下「委員会」という)の定めるところにより,その旨を委員会に届。
け出なければならない旨を定めている。
ウ本件条例4条は,墨田区は,前記イの契約が一般乗用旅客自動車運送事
業者との運送契約以外の選挙運動用自動車の借入契約である場合,候補者
が当該契約に基づき当該契約の相手方に支払うべき金額のうち,当該選挙
運動用自動車のそれぞれにつき,選挙運動用自動車として使用された各日
についてその使用に対し支払うべき金額(当該金額が1万5300円を超
える場合には,1万5300円)の合計金額を,当該相手方からの請求に
基づき,当該相手方に対して支払う旨を定めている((2)ア。)
2前提事実(各項の末尾に記載した証拠により容易に認められる事実又は弁論
の全趣旨により認められる事実を含む)。
(1)当事者等
ア原告は,墨田区の住民である。
イ被告は,墨田区の執行機関である。
ウA(以下「A候補」という)及びC(以下「C候補」といい,A候補と
併せて「本件各候補者」という)は,後記(2)のとおり,いずれも本件選。
挙において立候補した者である。
エ株式会社B(以下「B」という)は,後記(3)ア記載のとおり,A候補。
との間で本件選挙に係る選挙運動用自動車の借入契約の締結等をした株式
会社である。
オ株式会社D(以下「D」といい,Bと併せて「本件各業者」という)。
は,後記(3)イ記載のとおり,C候補との間で本件選挙に係る選挙運動用
自動車の借入契約の締結等をした株式会社である。
Dは,平成19年当時,道路運送法80条所定の国土交通大臣の許可を
受けていなかった(弁論の全趣旨)。
(2)本件選挙
委員会は,平成19年4月15日,本件選挙の期日を同月22日とする旨
を告示し,C候補は,同月15日9時2分に,A候補は,同日10時16分
に,それぞれ公選法86条の4第1項の規定による候補者の届出をし,本件
選挙は,同月22日に行われた(乙5,14,15)。
(3)公費負担の手続等
アA候補関係
(ア)A候補は,平成19年4月15日,委員会委員長に対し,同月1日
付けでBとの間で以下の内容の本件選挙に係る選挙運動用自動車の借入
契約を締結した旨を,その契約書の写しを添付して届け出た(乙3,。
乙17の1及び2)
(契約内容)
(「」。)車種及び登録番号E・○○○YY以下本件車両1という
台数1台
使用期間平成19年4月15日から同月21日まで7日間
契約金額10万7100円
(内訳1日1万5300円×7日間)
(イ)A候補は,平成19年4月21日付けで,委員会に対し,本件車両
1を同月15日から同月21日まで使用したことを証明する旨の選挙運
動用自動車使用証明書(自動車)を提出した(乙3,乙19の2)。
(ウ)Bは,平成19年5月1日,墨田区長に対し,以下のとおり,本件
車両1の使用に係る金額として10万7100円の支払の請求以下本(「
件請求1」という)をした(乙3,19の1)。。
(内訳)
使用年月日平成19年4月15日から同月21日まで
借入金額(基準限度額)各1日1万5300円
計10万7100円
(エ)委員会の事務局長は,墨田区長の権限についてのいわゆる専決とし
て,平成19年6月4日,Bに対し,本件車両1の使用についての公費
負担として,10万7100円を支出する旨の決定(以下「本件支出決
定1」という)をし,同月15日,その支出がされた(乙3)。。
イC候補関係
(ア)C候補は,平成19年4月15日,委員会委員長に対し,同月1日
付けでDとの間で以下の内容の本件選挙に係る選挙運動用自動車の借入
契約を締結した旨を,その契約書の写しを添付して届け出た(乙2,。
乙16の1及び2)
(契約内容)
車種及び登録番号バン○○ZZ(以下「本件車両2」という)。
台数1台
使用期間平成19年4月15日から同月21日まで7日間
契約金額10万7100円
(内訳1日1万5300円×7日間)
(イ)C候補は,平成19年4月21日付けで,委員会に対し,本件車両
2を同月15日から同月21日まで使用したことを証明する旨の選挙運
動用自動車使用証明書(自動車)を提出した(乙2,18の2)。
(ウ)Dは,平成19年5月1日,墨田区長に対し,以下のとおり,本件
車両2の使用に係る金額として10万7100円の支払の請求以下本(「
件請求2」といい,本件請求1と併せて「本件各請求」という)をし。
た(乙2,18の1)。
(内訳)
使用年月日平成19年4月15日から同月21日まで
借入金額(基準限度額)各1日1万5300円
計10万7100円
(エ)委員会の事務局長は,墨田区長の権限についてのいわゆる専決とし
て,平成19年5月15日,Dに対し,本件車両2の使用についての公
費負担として,10万7100円を支出する旨の決定(以下「本件支出
」,「」。)決定2といい本件支出決定1と併せて本件各支出決定という
をし,同年6月8日,その支出がされた(乙2)。
(4)住民監査請求
ア原告は,平成20年11月6日,墨田区監査委員に対し,地方自治法2
42条1項の規定に基づき「墨田区長・本件財務会計責任者に対する措,
置請求」と題する書面(以下「本件監査請求書」という)を提出して,。
本件選挙における選挙運動用自動車の使用の費用等についての公費負担に
関し,①F候補が公費負担に係る文書に虚偽の記載をしたとして,F候補
及び借入先の業者から公費負担支払分が返還されるよう墨田区長に求め
る,②本件各候補者を含む「別紙の候補者についても監査委員の権限で調
査し不正が判明したら返還させるよう求めるとして住民監査請求以,」,(
下「本件監査請求」という)をした(乙1)。。
イ墨田区監査委員は,平成20年12月24日付けで,本件各候補者に係
る支出については違法,不当とはいえないとして,本件監査請求のうち本
件各候補者に係る部分(以下「本件請求部分」という)を棄却する旨等。
の監査結果を原告に通知した(甲1)。
(5)本件訴えの提起
原告は,平成21年1月21日,本件訴えを提起した。
3争点
(1)本案前の争点
本件監査請求のうち本件請求部分が,①監査の対象が特定されていないこ
と,②監査請求期間が遵守されていないことを理由に,適法な住民監査請求
を経ていないものとして,本件訴えが不適法であるか否か。
(2)本案の争点
本件各候補者及び本件各業者が選挙運動用自動車の使用に係る金額につい
て不正に本件各請求をし,墨田区に不正請求相当額の損害を加えたものであ
るか否か。
4争点についての当事者の主張
(1)本案前の争点
(被告の主張)
ア監査の対象が特定されていないこと
本件監査請求書には,本件請求部分に関して「第3.本件同様の他,
の候補者に付いて」の項目に「別紙の候補者についても監査委員の権。
限で調査し,不正が判明したら返還させるように求める」との記載と。
別紙の一覧表に本件各候補者の氏名の記載があるにすぎない。また,原
告は,本件監査請求書に,わざわざ「第4.監査期間について」の項。
目を設け,あたかも本件監査請求の対象が「怠る事実」ではなく,公金
の支出であるかのような主張をしており,その対象は判然としない。こ
のような本件監査請求書及びこれに添付された事実を証する書面の記
載,原告が提出したその他の資料等を総合して判断したとしても,本件
監査請求のうち本件請求部分は,その監査の対象とする財務会計上の行
為等が何ら特定されていない。したがって,本件監査請求のうち本件請
求部分は,監査の対象が特定されていないものとして,不適法である。
イ監査請求期間が遵守されていないこと
(ア)本件監査請求のうち本件請求部分について,仮に,怠る事実を対
象としたものであるとしても,墨田区監査委員が監査を遂げるために
は,本件各候補者及び本件各業者の不法行為の存在及び内容を検討す
るとともに,本件各支出決定が本件条例等に照らして違法であるか否
か,墨田区が損害を被ったのか否かを検討しなければならない。そし
て,本件各支出決定については,その支出決定権者の裁量にゆだねら
れていることからすれば,本件各候補者及び本件各業者による本件各
請求が不法行為との評価を受けるためには,本件条例等の規定を解釈
するだけでは足りず,本件各支出決定の支出決定権者の判断に裁量権
の逸脱,濫用があるか否か,本件各支出決定が違法,無効であるか否
かが前提となるというべきである。そうすると,本件請求部分につい
ては,監査委員が怠る事実の監査をするに当たり,財務会計上の行為
が財務会計法規に違反して違法であるか否かの判断をしなければなら
ない関係にあるから,その対象は,いわゆる不真正怠る事実であると
いうべきであり,地方自治法242条2項所定の監査請求期間の適用
があるというべきである。
(イ)本件監査請求については,本件各支出決定から1年以上経過した
後にされているから,上記の監査請求期間を徒過してされたものであ
る。
そして,本件各支出決定については,何ら秘密裏にされたものでは
ない上,その具体的内容についても,その起案文書の開示を受けるこ
とにより了知することは容易であり,その各支出金額が本件条例の定
める上限額であること,Dが道路運送法80条の所定の許可を受けて
いないことなどを認識することが十分に可能であった。そうすると,
墨田区の住民が相当の注意力をもって調査すれば,C候補に係る本件
支出決定2については遅くとも平成19年6月ころには,A候補に係
る本件支出決定1については遅くとも同年7月ころには,それぞれ客
観的にみて,住民監査請求をするに足りる程度に本件各支出決定の存
在及び内容を知ることができたということができ,現に,原告は,同
月25日には本件各支出決定につき条例に基づく公開請求により関係
する区政情報の開示を受けているのであるから,上記の時期から1年
3か月以上も経過した後にされた本件監査請求のうち本件請求部分に
,「」ついては地方自治法242条2項ただし書が規定する正当な理由
はないというべきである。
(ウ)したがって,本件監査請求のうち本件請求部分は,監査請求期間
が経過した後にされたものとして,不適法である。
(原告の主張)
ア監査の対象が特定されていること
本件監査請求書には,本件選挙の選挙運動用自動車の使用に係る公費
負担について,他のガソリン代の費用と区別するとともに,F候補によ
る不正請求の例を具体的に摘示した上,別紙を添付して本件各候補者に
ついても監査の対象としているから,本件監査請求については,本件各
候補者及び本件各業者が不正請求をしたことを対象としたものであり,
監査の対象の特定に何ら問題はない。
イ地方自治法242条2項の規定の適用がないこと等
本件監査請求において,原告は,本件各候補者が公費負担の対象外の
諸経費をも上乗せして不正な請求をした結果,墨田区に損害を与えた可
能性を指摘し,本件各候補者及び本件各業者に対する各損害賠償請求権
の行使を怠る事実について監査を求めたものであり,本件各支出決定の
違法性を問題としたものではない。したがって,本件監査請求について
は,地方自治法242条2項の規定の適用はない。
仮に,本件監査請求について地方自治法242条2項の適用があると
しても,墨田区監査委員が本件監査請求について監査を実施しているの
であるから,本件監査請求については,地方自治法242条2項ただし
書が規定する「正当な理由」がある。
(2)本案の争点
(原告の主張)
ア公費負担の対象
本件条例は,公選法141条8項等の規定に基づき定められたもので
あるところ,同項は,同条1項の自動車の使用について無料とすること
ができる旨を定め,同項の自動車については,道路交通法2条1項9項
に規定する自動車と明確に定められていることからすれば,本件条例に
より公費負担の対象となるのは,車両本体の借入れに係る実費であり,
公選法143条14項が規定する看板の作成等に係る費用については公
費負担の対象に含まれないというべきである。このことは,東京都選挙
管理委員会事務局選挙課長が各区市町村選挙管理委員会事務局長あてに
発出した「選挙運動用自動車の借入れに関する取扱いについて」におい
,「,」て選挙運動用自動車に係る付帯料金は公費負担の対象にならない
と明確にされていることからも明らかである。
イA候補関係
A候補がBとの間で締結した本件選挙に係る選挙運動用自動車の借入
契約は,本件車両1の車両本体だけでなく,当該車両の屋根に載せる看
板や拡声機をもセットで借り入れる「選挙パック」と称される契約であ
る。Bは,本件車両1について,他のレンタカー会社から平成19年4
月8日から同月22日までの14日間をレンタル料6万7830円で借
り入れているところ,本件選挙における選挙運動用自動車の使用につい
ての公費負担の対象となる期間は同月15日から同月21日の7日間で
あるので,当該期間分に相当するレンタル料は3万3915円となり,
この金額が公費負担として支払請求することができる本件車両1の借入
れに係る実費である。そうすると,A候補及びBは,本件請求1の請求
額である10万7100円から上記の3万3915円を控除した7万3
185円を不正に請求し,その支払を受けて墨田区に損害を加えたので
あるから,被告は,A候補及びBに対し,同損害額の賠償を請求すべき
である。
ウC候補関係
(ア)C候補についても,A候補と同様に,3万3915円が本件車両
2の借入れに係る実費であるということができる。したがって,C候
補及びDは,本件請求2の請求額である10万7100円から上記の
3万3915円を控除した7万3185円を不正に請求をし,その支
払を受けて墨田区に損害を加えたのであるから,被告は,C候補及び
Dに対し,同損害額の賠償を請求すべきである。
(イ)C候補が本件車両2の借入契約を締結した相手方であるDは,そ
の当時,道路運送法80条所定の国土交通大臣の許可を受けていなか
った。本件条例は,公道を走行することを目的とした選挙運動用自動
車の使用に係る費用を公費負担の対象としているのであるから,上記
の許可を受けていない違法な業者からの借入れを想定していないとい
うべきであり,また,上記のような違法な業者との契約は,民法90
条が規定する公序良俗にも反し,さらに,誠実に選挙活動を行う者と
,,そうでない者との不平等が生じることからすれば上記の借入契約は
違法,無効というべきである。したがって,C候補及びDは,上記の
借入契約を前提として不正に本件請求2をしたものであるから,被告
は,前記(ア)の賠償を請求すべきである。
(被告の主張)
ア公費負担の対象
公選法141条8項は,候補者は,選挙運動用自動車を無料で使用す
ることができる旨を定めているにすぎず,公費負担の対象となる費用の
明確な定義,範囲を定めていない。そうすると,選挙運動用自動車の使
用に関して具体的にどのような費用が公費負担の対象となるか否かの判
断については,法や本件条例の趣旨に照らし,その支出決定権者である
委員会事務局長の裁量にゆだねられているというべきである。そして,
同事務局長は,その裁量権の行使の基準ないし目安として,公費負担の
対象とすべき選挙運動用自動車の借入れに係る費用の範囲について,本
件条例4条2号アの規定に照らし「一般的に顧客に対して行われる車,
両賃貸借契約に含まれる経費」と捉え,その具体的な判断については,
,,,選挙運動用自動車の車両賃貸借契約といっても車両の所有者借入先
契約の形態等が多種多様であること,被選挙権を間接的に保障するとい
う本件条例の趣旨等に照らし,おおむね大手のレンタカー会社が用いる
レンタカー貸渡約款が定めるところの「基本料金」及び「基本料金と同
様ないし類似と解される貸渡料金」に相当する経費が「一般的に顧客,
に対して行われる車両賃貸借契約に含まれる経費」に該当すると考えて
いる。
イA候補関係
A候補がBとの間で締結した本件選挙に係る本件車両1の借入契約に
おいては,その内訳として,本件支出決定1で公費負担の対象となった
レンタカー代10万7100円と別に,スピーカー等の基本セット代5
万6000円,車載用キャリア代2万5000円等が示されている。そ
して,上記のレンタカー代については,本件選挙の告示日からの選挙運
動期間が実際の利用期間との認識で料金が設定されたものであることか
らすれば,公費負担の対象である本件選挙の選挙運動期間である7日間
の本件車両1本体のみの使用に係る費用と評価することができ「一般,
的に顧客に対して行われる車両賃貸借契約に含まれる経費」に該当する
というべきである。
本件条例には,転貸借を禁ずる旨の規定はない上,選挙運動用自動車
の借入契約といっても多種多様であることなどからすれば,当該借入契
約が公序良俗に反して無効というべきような特段の事情がない限り,そ
の契約金額を基に公費負担を判断せざるを得ない。Bは,本件支出決定
1の公費負担額よりも,他のレンタカー会社から低廉な金額で本件車両
1を借り入れているものの,選挙運動用自動車という特殊な車両の点検
や整備に係る費用が別途必要であると考えられること,本件選挙が行わ
れた平成19年4月には,統一地方選挙が行われており,全国で相当数
の選挙運動用自動車の需要があったと推認されることからすれば,あら
かじめ選挙運動用自動車を確保し,それに一定の手数料等を付加した上
,,で転貸することも不合理とはいえず上記の借入契約が公序良俗に反し
無効であるということはできない。原告が主張するように,公費負担の
対象について,Bが他のレンタカー会社から本件車両1を賃借した金額
に限定されると解する必要はなく,本件支出決定1の公費負担額が車両
本体のみの使用に係る費用であるということができる。
ウC候補関係
(ア)C候補がDとの間で締結した本件選挙に係る本件車両2の借入契
,,約の内訳からすれば本件支出決定2で公費負担の対象となったのは
「選挙用(仕様)自動車(特別電源)充電装置一式安全対策施行
一式」の7日分の費用であることは明らかである。そして,上記のう
ち「特別電源)充電装置一式安全対策施行一式」の内容は,ルー(
フキャリアや看板等の付帯設備に係る取付けや借入れの費用ではな
く,安全対策のために「直流電圧発生源のオールタネータ(ダイナ,
モ)強化その他関連システムのレベルアップさせた自動車」の借入れ
に係る費用である。このオールタネータとは,一般の自動車のエンジ
ン部分に,その一部品として搭載され,自動車の走行には必要不可欠
な発電機であるところ,本件車両2については,安全対策のため,よ
り強力なオールタネータが搭載されたため,借入れの基本料金がやや
高額になったものと評価することができる。これは,あたかも一般の
自動車の走行に必要不可欠な車両の駆動部分について,二輪駆動式か
ら四輪駆動式に強化され,そのために料金がやや高額になる場合と同
様に評価することができるところ,四輪駆動式自動車については,選
挙運動用自動車としての使用が認められており,その使用に係る費用
も公費負担の対象とされている。そうすると,本件支出決定2で公費
負担の対象となった上記の費用は,本件車両2本体の使用に係る費用
ということができ「一般的に顧客に対して行われる車両賃貸借契約,
に含まれる経費」に該当するというべきである。
(イ)民主政治の健全な発達を期することを目的とする公選法に基づく
本件条例により創設された公費負担制度と輸送の安全確保,道路運送
利用者の利益保護及び利便の増進,道路運送の総合的発達等を目的と
する道路運送法所定の許可制度とは,その趣旨,目的が全く異なり,
その許可がなければ私法上の契約の効力が生じないという関係にもな
い。本件条例は,道路運送法80条所定の許可を得ていることを公費
負担の要件とはしておらず,あくまで契約に基づく実績の有無によっ
て公費負担の可否を決定しているのであり,また,借入先が上記の許
可を受けていなかったとしても,その責任を負うのは当該借入先であ
り,各候補者ではないのであるから,原告が主張するような誠実に選
挙活動を行う者とそうでない者との不平等は生じない。したがって,
Dが上記の許可を受けていないことは,本件支出決定2の適法性を左
右するものではない。
第3当裁判所の判断
1本案前の争点について
(1)監査の対象が特定されているか否かについて
被告は,本件監査請求のうち本件請求部分については,監査の対象とする
,。財務会計上の行為等が何ら特定されていないから不適法であると主張する
しかしながら,前記第2の2の前提事実並びに証拠(甲1,乙1)及び弁
,(),「.」,論の全趣旨によれば本件監査請求書乙1には第1要旨として
本件選挙において「F候補が選挙カーの公費負担に係る文書に虚偽の記載,
が行われていることが,F候補の公費負担ガソリン代裁判(平成▲年行ウ第
▲号)で判明した「よって,F候補候補の公費負担支払分をF候補及び。」,
㈲Gから返還されるよう区長に求めるとの第2概要としてF,。」,「.」,「
候補は㈲Gより,選挙カーに使用したレンタカーを22日間借り,その22
日分使用したことを7日間と偽り選管に証明書を提出し,また,㈲Gも22
日分したと選管に請求し,選管より㈲Gに振り込ませ,本件レンタカー代金
を詐取したのだ「本件は墨田区議会議員が墨田区から公金を詐取した極。」,
めて悪質な事件である「よって請求人は,墨田区長に「F候補,㈲G」。」,
より103,950円を返還させることを勧告するよう求める」との「第。,
3.本件同様の他の候補に付いて」として「当然,F候補同様にデタラ。,
メな請求していた候補者がいることは容易に想像が付く「F候補同様に。」
自動車を使用し,満額請求していた候補を別紙を作成した「よって,別。」,
紙の候補者についても監査委員の権限で調査し,不正が判明したら返還させ
るように求める」との各記載があり,本件監査請求には,別紙として本件。
各候補者の氏名,各公費負担額,本件各業者の名称等の記載がある一覧表が
添付されていること,墨田区監査委員は,本件監査請求に対し,F候補のほ
,,,か本件各候補者に関しても監査を実施し本件各候補者に係る支出が違法
不当とはいえないとして,本件請求部分を棄却したことが認められる。
上記の本件監査請求書の記載内容等を参照すれば,本件監査請求について
,,は本件選挙における選挙運動用自動車の使用についての公費負担に関して
その請求の手続においてF候補及びその締結した契約の相手方が虚偽の記載
のある文書を提出し墨田区から公費負担相当額を詐取したとして,F候補及
び契約の相手方である業者に対して支払済みの公費負担相当額を返還させる
措置を講じることを求めるとともに,本件各候補者や本件各業者等について
も,F候補と同様の不正な行為があったと考えられるとして,監査した上で
不正な行為があったことが明らかになった場合には,やはり公費負担相当額
を返還させる措置を講じることを求めたものであると認められる。このこと
からすれば,本件監査請求のうち本件請求部分においては,本件各候補者及
び本件各業者に対してそれらの者のした上記の公費負担の請求における不法
行為に基づく損害賠償請求権又は不当利得返還請求権が存在していることを
前提として,その行使を求めるものであって,墨田区監査委員において,そ
の監査の対象について,上記の損害賠償請求権等の行使を怠る事実が含まれ
ていることを容易に認識することができる程度に摘示されていると認めるこ
とができ,その対象の特定を欠くものではないというのが相当である。
したがって,上記の被告の主張は,採用することができない。
(2)監査請求期間の遵守について
被告は,本件監査請求が怠る事実を対象としたものであるとしても,墨田
区監査委員が監査を遂げるためには,本件各支出決定が違法であるか否かな
どを検討しなければならない関係にあるから,監査請求期間に関する地方自
,,治法242条2項の適用があるというべきであり本件監査請求については
本件各支出決定から1年以上経過した後にされているから,監査請求期間を
徒過してされたものであり,そのことにつき同項ただし書が規定する「正当
な理由」もないから,本件監査請求のうち本件請求部分については,不適法
であると主張する。
しかしながら,前記(1)に述べたとおり,本件監査請求のうち本件請求部
分においては,本件各候補者及び本件各業者に本件選挙における選挙運動用
自動車の使用についての公費負担の請求の手続中で本来請求し得るところを
超える金額を請求する不法行為があったものとして,これらの者に対する損
害賠償請求権等の行使を怠る事実が含まれているということができ,墨田区
監査委員が上記の怠る事実の監査を遂げるためには,本件各支出決定の内容
等について検討しなければならないとしても,本件各支出決定が財務会計法
規に違反して違法であるか否かの判断をしなければならない関係にはないと
いうことができるから,本件監査請求のうち本件請求部分については,地方
自治法242条2項の適用はないと解するのが相当である(平成10年(行
ヒ)第51号同14年7月2日第三小法廷判決・民集56巻6号1049頁
参照。)
したがって,上記の被告の主張は,採用することができない。
2本案の争点について
(1)A候補関係について
ア前記第2の2の前提事実並びに証拠(甲1,2,4,16,乙3,17
の1及び2,19の1及び2,25,調査嘱託の結果(B関係)及び弁)
論の全趣旨によれば,①A候補は,平成19年4月ころ,選挙運動用自動
車等の賃貸借を専門とするBとの間で,本件選挙における選挙運動のため
に使用すべく看板,音響機器等を設置した本件車両1を,同月12日から
同月22日までの間,選挙運動用自動車の使用についての公費負担の請求
予定額を除いた合計金額25万9770円(消費税込み)で借り入れる旨
の契約(以下「本件契約1」という)を締結し,上記の期間にわたって。
本件車両1を借り入れたこと,②上記の契約金額の内訳(消費税別)は,
「ホーンスピーカー」等の基本セットが5万6000円「スピーチ用マ,
イクロホン」が5000円「車載用キャリア」が2万5000円「1,,
2Vバッテリー」が3万8000円「車載用看板」の基本デザイン制作,
費が10万5000円「写真データ補正料金」が1万円「写真データ,,
等変換料金」が4000円,本件車両1のレンタル料(レンタカー)「」
が公費負担の請求予定分として10万2000円(消費税込みの金額は1
0万7100円)及び残額として4400円(消費税込みの金額は462
0円)であり,同レンタル料の算定に当たっては1日当たりの料金に日数
を乗じて算定する方法は採られていなかったこと,③Bは,本件契約1の
締結に当たって,他の業者から,本件車両1を,同月8日から同月22日
,(),までの期間レンタル料6万7830円消費税込みで借り入れたこと
④A候補は,同月15日,委員会委員長に対し,同月1日付けでBとの間
で本件車両1を同月15日から同月21日まで契約金額10万7100円
(1日1万5300円×7日間)で借り入れる契約を締結した旨を届け出
て,Bは,同年5月1日,墨田区長に対し,本件車両1の使用に係る金額
として10万7100円の支払を請求する本件請求1をし,同年6月15
日,その支払を受けたことが認められる。
以上の認定事実によれば,Bがした本件請求1の請求額(10万710
0円)は,本件契約1の契約金額の内訳において本件車両1のレンタル料
として計上された金額(11万1720円=10万7100円+4620
円)の一部であるということができ,同内訳においては,本件車両のレン
タル料とは別に,看板の制作費,音響機器や搭載器具に係る費用が計上さ
れていることからすれば,本件請求1は,本件車両1の使用に係る対価に
相当する金額を請求したものと認められる。
イところで,本件条例2条及び4条(2)アの規定によれば,選挙運動用
自動車の使用についての公費負担の対象となるのは,選挙運動用自動車の
借入契約の場合には,公選法86条の4第1項等の候補者の届出のあった
日から選挙の期日の前日までの選挙運動期間(公選法129条参照)に選
挙運動用自動車として使用された各日についてその使用に対し支払うべき
金額であるとされている。上記の規定の文言からすると,借入契約の契約
期間中に選挙運動期間以外の期間も含まれている場合には,選挙運動期間
中に使用された各日について,その使用に対し支払うべき金額のみが公費
。,,負担の対象となることは明らかであるそうするとこの場合においては
当該借入契約上,選挙運動期間中の各日の使用に係る対価を特定すること
ができるときを除き,当該借入契約の契約金額を全契約期間で除して算出
した1日当たりの金額に選挙運動期間中に選挙運動用自動車として使用さ
れた日数を乗じた金額に限り,上記の公費負担の対象となると解すべきこ
ととなる。
前記第2の2の前提事実(2)によれば,本件選挙における選挙運動用自
動車の使用についての公費負担の対象となる期間は,平成19年4月15
,,日から同月21日までの7日間であるところ前記アの認定事実によれば
本件契約1の契約期間は,同月12日から同月22日までの11日間であ
り,A候補は,Bから,上記の契約期間にわたって本件車両1を借り入れ
ている。そして,本件契約1の契約金額のうち本件車両1のレンタル料に
ついては,1日当たりの料金に日数を乗じて算定する方法は採られていな
かった上,その契約金額は11万1720円であり,A候補が委員会委員
長に対して届け出た借入契約の契約書(乙3,17の2)記載の契約金額
(10万7100円=1日1万5300円×7日間)は実際の本件契約1
の契約金額と異なるものである。また,BがA候補に対して上記の公費負
担の対象となる期間を除いた本件契約1の契約期間中の各日に係る分につ
いて別途レンタル料を請求するなどしたことはうかがわれない。これらの
ことからすれば,上記のレンタル料は,本件契約1の全契約期間(11日
間)についての本件車両1の使用に係る対価であると認めるのが相当であ
り,本件契約1上,上記の選挙運動期間中の各日の使用に係る対価のみで
あると認めることはできないといわざるを得ない。
この点について,調査嘱託の結果(B関係)において,Bは,実際に使
用する日数よりも長い期間で商品を渡し,レンタル料については実際の使
用日数分のみを請求する方法を採ることが多々あり,選挙運動用自動車の
場合には,実際に使用するのは選挙の告示日以降であるので,それ以降の
選挙運動期間が実際の利用期間という認識でレンタル料を設定しているも
のの,車両の事前審査等のために実際には告示日より前に顧客に車両を渡
す必要があり,実際の貸出日が告示日よりも数日前になると説明する。し
かしながら,本件契約1に関する見積りの内容が記載された文書(甲2,
乙25)においても,本件車両1の「納品日(期間」は上記の公費負担)
の対象となる期間とはかかわりなく平成19年4月12日から同月24日
までと記載されていることが認められ,本件車両1の使用につき公費負担
の対象となる期間に限定する旨の合意や同期間以外の使用を無償とする旨
の合意がされていたとの事実を認めるに足りる証拠はない。これらのこと
からすれば,本件契約1における本件車両1のレンタル料は,その全契約
期間の使用に係る対価として定められたものというべきであり,上記のB
の説明は上記認定を左右するものではない。
本件契約1における契約期間である11日(同月12日から同月22日
まで)のうち本件選挙における選挙運動用自動車の使用についての公費負
担の対象となる期間の日数である7日(同月15日から21日まで)分の
本件車両1のレンタル料については,上記の本件車両1のレンタル料を契
約期間の日数である11日で除して計算した1日当たりの金額に7を乗じ
て算定するのが相当であるから,これによると,1日当たりの金額(消費
税込み)は1万0156円(11万1720円÷11日)となり,これに
7を乗じると7万1092円(消費税込み)となる。そうすると,本件請
求1の請求額10万7100円のうち7万1092円を超える金額3()(
万6008円)については,公費負担の対象となる期間ではない期間分の
本件車両1の使用に係る対価について請求したものというべきである。そ
,,,,して前記アの認定事実によればA候補及びBは本件契約1について
契約期間が同月12日から同月22日までの11日間であること,本件車
両のレンタル料が11万1720円(消費税込み)であることを認識して
いながら,本件車両1について使用期間を同月15日から同月21日まで
の7日間,契約金額(消費税込み)を10万7100円(1日1万530
0円×7日間)とする借入契約を締結した旨の内容の契約書を作成し,A
候補においてその写しを添えて委員会委員長に対してその旨を届け出た
上,Bにおいて上記の金額をもって本件請求1をしたものである。本件条
例の規定に照らせば,本件選挙における選挙運動用自動車の使用について
の公費負担の対象となる期間が限定されていることは明らかであることか
らすれば,A候補及びBは,少なくとも過失により共同して本件選挙にお
ける選挙運動用自動車の使用についての公費負担の対象とはならない金額
(3万6008円)をも含めて本件請求1をし,その支払を受けて墨田区
に同金額に相当する損害を加えたものであり,墨田区に対して共同不法行
為に基づき上記の損害を賠償する責任を負うと認めるのが相当である。
そして,墨田区の長である被告は,同区がA候補及びBに対して上記の
損害賠償請求権を有するにもかかわらず,その行使を怠っているというこ
とができる。
ウ原告は,Bが他のレンタカー会社から本件車両1を借り入れた際のレン
タル料のうち本件選挙における選挙運動用自動車の使用についての公費負
担の対象となる期間である7日分に相当する金額(3万3915円)が公
費負担の対象となる本件車両1の借入れに係る実費であり,これを超える
部分を請求することは許されないと主張する。
しかしながら,本件条例上,選挙運動用自動車の借入先については一定
の親族を除くほか特段限定がされておらず(3条参照,借入先が他の業)
者から自動車を借り入れ,これを選挙運動用自動車として候補者に貸し付
けることを禁ずる旨の規定も見当たらない上,本件条例における公費負担
の対象については,候補者が選挙運動用自動車の使用に関して締結した有
償契約に基づき当該自動車の使用に対し支払うべき金額とされており,そ
のような場合に当該借入契約の相手方が当該自動車を他の業者から借り入
れるに当たって要した金額等に限定する旨の規定はないのであるから,本
件条例に基づく選挙運動用自動車の使用についての公費負担の対象となる
金額について,Bが他の業者から本件車両1を借り入れた際のレンタル料
に相当する金額に限定しなければならない理由は認め難い。
そして,調査嘱託の結果(B関係)によれば,Bにおいては,選挙運動
用自動車のレンタル契約については,自動車に看板,音響機器等の設置等
をした上で候補者に貸し付けることから,自動車を他の業者から借り入れ
る場合には,関連する作業のため,候補者に貸し出す日よりも前に自動車
を借り入れなければならず,それに伴う回送や駐車などの諸経費等を考慮
して算定した金額を付加して,候補者との間での契約におけるレンタル料
を定めていることが認められるところ,そのような算定方法が不合理であ
るとは認め難い。前記アの認定事実によれば,Bは,他の業者から,本件
車両1について,平成19年4月8日から同月22日までの期間,レンタ
ル料6万7830円(消費税込み)で借り入れた上,A候補に対し,本件
契約1に基づき,同月12日から同月22日までの期間,レンタル料11
万1720円(消費税込み)で貸し付けており,本件契約1における本件
車両1のレンタル料(11万1720円)は,Bが他の業者から本件車両
1を借り入れた際のレンタル料(6万7830円)に,諸経費等を考慮し
Bとしての利益も含めて4万3890円を付加して定められたものと推認
されるところ,その付加された金額が取引通念上不相当なものであると認
めるに足りる証拠はない。
上記の原告の主張は,採用することができない。
エ以上によれば,被告は,A候補及びBに対し,不法行為に基づく損害賠
償請求として,本件車両1の使用についての公費負担として支出された金
額のうち公費負担の対象とはならない金額(3万6008円)に相当する
損害及びこれに対する不法行為の日の後の平成20年11月7日から支払
済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求すべきで
ある。
(2)C候補関係について
ア前記第2の2の前提事実並びに証拠(甲1,3,13,14,乙2,1
6の1及び2,18の1及び2,調査嘱託の結果(D関係)及び弁論の)
全趣旨によれば,①C候補は,平成19年4月ころ,選挙運動用自動車等
の賃貸借を専門とするDとの間で,本件選挙における選挙運動のために使
用すべく看板,音響機器等を設置した本件車両2を,同月11日から同月
,,21日までの間を使用期間及び4日間を製作審査及び解体の期間として
選挙運動用自動車の使用についての公費負担の請求予定額を除いた合計金
額52万5000円(消費税込み)で借り入れる旨の契約(以下「本件契
約2」という)を締結し,上記の使用期間にわたって本件車両2を借り。
入れたこと,②上記の契約金額の内訳(消費税込み。調査嘱託の結果中の
「No.4」の「明細書」参照)は「選挙用(仕様)自動車(特別電,
源)充電装置一式安全対策施工一式(11日間,製作・審査・解体)
一式(4日間」のレンタルの金額(以下「本件車両2のレンタル料」)
という)について公費負担の請求予定分として10万7100円及び残。
額として13万2000円の合計23万9100円「音響機材一式(5,
00w)スピーカーシステム(4台)電源用バッテリーオプション・
その他」のレンタル,製作及び工事の金額(以下「音響機器のレンタル料
等」という)について32万8000円「看板装備(取付・解体)。,
看板文字・デザインオプション・その他」のレンタル,製作及び工事
(「」。),の金額以下看板の製作等料というについて29万円であるほか
「協賛値引き」が25万円であり,同値引きについては,音響機器のレン
タル料等から12万,看板の製作料等から13万円を値引きするものであ
ること,③本件車両2のレンタル料(消費税込み)については,1日当た
りの料金に日数を乗じて算定する方法が採られ,同月15日から同月21
日までの期間が1日当たり1万5300円に7日を乗じた10万7100
円,それ以外の期間が1日当たり1万6500円に8日を乗じた13万2
000円であること,④C候補が本件契約2に基づき借り入れた本件車両
2については,電圧(DC400A)を確保するため,電圧発生源のオー
ルタネータの強化及びその他関連システムの水準向上がされていたほか,
アンプやバッテリー等の機材の固定等の安全対策が図られていたこと,⑤
C候補は,同月15日,委員会委員長に対し,同月1日付けでDとの間で
本件車両2を同月15日から同月21日まで契約金額10万7100円
(1日1万5300円×7日間)で借り入れる契約を締結した旨を届け出
て,Dは,同年5月1日,墨田区長に対し,本件車両2の使用に係る金額
,,として10万7100円の支払を請求する本件請求2をし同年6月8日
その支払を受けたことが認められる。
以上の認定事実によれば,Dがした本件請求2の請求額(10万710
0円)は,本件契約2の契約金額の内訳において本件車両2のレンタル料
として計上された金額のうち本件選挙における選挙運動用自動車の使用に
ついての公費負担の対象となる期間である同月15日から同月21日まで
の間の分(10万7100円=1日当たり1万5300円×7日)のもの
であるということができ,同内訳においては,本件車両2のレンタル料と
は別に,音響機器のレンタル料等及び看板の製作料等が計上されているこ
と,本件請求2に係る期間についてはその前後の期間とは区別して1日当
たりにつきより低い金額が定められ,その期間中に工事等がされたことを
うかがわせる証拠はないこと等からすれば,本件請求2は,本件車両2の
同期間中の各日の使用に係る対価に相当する金額を請求したものと認めら
れる。
本件車両2については,オールタネータの強化,その他関連システムの
水準向上及びアンプやバッテリー等の機材の固定等の安全対策がされてい
る。ところで,オールタネータは,自動車のエンジンに搭載されている自
(,),動車の走行に必要不可欠な発電機であるところ乙27弁論の全趣旨
自動車の上での一定の連呼行為(公選法140条の2)や演説(同141
条の3)等を伴う選挙運動のためという特殊な使用に供し得るように,走
行に要する部品及び走行の際の安全対策につき上記のような措置が講じら
れた本件車両2について,そのような特性等を考慮して借入契約における
その使用に係る対価の金額を定めることは,一般的に,選挙運動における
自動車の使用の在り方は,その車種,性能等によって多様であり,本件条
例においても,その構造上宣伝を主たる目的とするものでないこと(公選
法141条1項1号)及び所定の乗用の自動車であること(同条6項)を
除いては,それらの性能等の基準については定められていないことからす
れば,これが妨げられると解すべき理由は特段見当たらず,本件において
これと異なって判断すべき事情を認めるに足りる証拠はない。
イ原告は,Dは本件契約2の締結当時に道路運送法80条所定の国土交通
大臣の許可を受けていなかったのであるから,本件契約2は違法,無効と
いうべきであり,不正に本件請求2をしたというべきであると主張する。
しかしながら,道路運送法80条1項は,自家用自動車は,国土交通大
臣の許可を受けなければ業として有償で貸し渡してはならない旨を定め,
Dは上記の許可を受けていないものの,本件条例においては,選挙運動用
自動車の借入先については一定の親族を除くほか特段限定がされておらず
(3条参照,公費負担の要件として借入先が道路運送法80条所定の許)
可を受けていることも定められていない。そして,同法は,輸送の安全を
確保し,道路運送の利用者の利益の保護及びその利便の増進を図るととも
に,道路運送の総合的発達を図ることなどを目的とするものであり(1条
参照,同法80条は,その2項において,国土交通大臣は,自家用自動)
車の貸渡しの態様が自動車運送事業の経営に類似していると認める場合を
除くほか,1項の許可をしなければならないと定めていることから明らか
なように,上記の同法の目的を達成すべく,業としてされる自家用自動車
の有償での貸渡しが自動車運送事業に対する同法の規則を潜脱するものと
なることを防止する趣旨で定められたものと解され,同条に違反して締結
された契約の効力を否定する旨の規定は存在しない。そして,本件におい
て,DがC候補に対してした本件車両2の貸渡しは,運送行為を伴うもの
ではなく,その態様が自動車運送事業の経営に類似しているとは認め難い
こと,C候補において上記の許可に関するD側の事情を認識しつつ本件契
約2を締結したといった事情をうかがわせる証拠は見当たらないこと,既
に述べた上記の許可の制度の趣旨等に照らすと,C候補において,Dから
本件車両2を借り入れようとするに際し,それが上記の許可を受けていた
か否かを確認すべき義務を負っていたとも認め難いこと,同条に違反する
行為に対する罰則の内容及び程度(100万円以下の罰金。同法98条1
7号)等の事情を考慮すると,C候補とDとの間で締結された本件契約2
について,公序良俗に反し,無効と評価すべきものとは認め難いというべ
きである。そうすると,Dが本件契約2の締結当時に上記の許可を受けて
いなかったからといって,本件選挙における本件車両2の選挙運動用自動
車としての使用に係る対価に相当する金額につき本件条例の適用がないと
解する理由はないというのが相当である。そして,既に述べたところに照
らすと,C候補がDとの間に本件契約2を締結したことにつき故意又は過
失があったとはいえず,C候補が本件車両2を本件選挙において選挙運動
用自動車として使用したことの対価に相当する金額については,これに対
する本件条例の適用が否定されない以上は,いずれにせよ墨田区において
負担すべきものであったのであるから,結局,同金額につき墨田区に損害
は生じていないというべきである。
したがって,上記の原告の主張は,採用することができない。
第4結論
以上のとおり,原告の請求は,被告に対してA及びBに損害の賠償として各
自金3万6008円及びこれに対する平成20年11月7日から支払済みまで
年5分の割合による金員の支払を請求することを求める限度で理由があるか
ら,これを認容し,その余はいずれも理由がないから棄却することとし,訴訟
,,,費用の負担について行政事件訴訟法7条民事訴訟法64条本文を適用して
主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官八木一洋
裁判官谷口豊
裁判官高橋信慶

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