弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成16年7月7日宣告平成15年合(わ)第603号,平成16年刑(わ)第286号 強盗致
死,強盗被告事件
           主       文
被告人を無期懲役に処する。
未決勾留日数中120日をその刑に算入する。
           理       由
(罪となるべき事実)
 被告人は,外国人女性から金員を強取しようと企て,
第1 平成15年8月8日午前6時10分ころから同日午前7時ころまでの間,東京都文京
区ab丁目c番d号所在のホテルA207号室において,中華人民共和国の国籍を有するB
(当時23歳)に対し,その身体を紐で縛り上げた上,麻酔作用を有するクロロホルムを染
み込ませたタオルを同女の鼻口部等に押し付けて,クロロホルムを多量に吸引させる暴
行を加え,同女を意識不明状態に陥らせ,その反抗を抑圧した上,同女所有の現金約4
万7000円を強取し,
第2 同月27日午前3時ころから同日午前9時20分ころまでの間,同都荒川区ef丁目g
番h号所在のホテルC201号室において,同国籍のD(当時24歳)に対し,その身体を紐
で縛り上げた上,数回にわたり,麻酔作用を有するクロロホルムを染み込ませたタオルを
同女の鼻口部等に押し付けて,クロロホルムを多量に吸引させる暴行を加え,同女を意
識不明状態に陥らせ,その反抗を抑圧した上,同女所有の現金約5万5000円を強取し
たが,そのころ,同所において,同女を上記クロロホルム吸引による急性薬物中毒により
死亡するに至らせ
たものである。
(証拠の標目)略
(累犯前科) 
被告人は,平成8年3月8日に長野地方裁判所上田支部で逮捕監禁致傷,強姦致傷,業
務上過失傷害,道路交通法違反及び傷害の罪により懲役4年6月に処せられ,平成12
年6月28日にその刑の執行を受け終わったものであって,以上の事実は,前科調書(乙6
4)及び判決書謄本2通(乙65,66)によってこれを認める。
(法令の適用)
罰条  
判示第1の所為  刑法236条1項
判示第2の所為  刑法240条後段
刑種の選択  判示第2の罪につき無期懲役刑
再犯の加重  判示第1の罪につき刑法56条1項,57条,14条
併合罪加重  刑法45条前段,46条2項本文(無期懲役刑を選択した判示第2の罪の刑
で処断し,他の刑を科さない)
未決勾留日数の算入  刑法21条
訴訟費用の不負担  刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
1 本件は,被告人が,ラブホテル等で売春行為を行う外国人のホテトル嬢から金員を強
取しようと企て,2回にわたり,23歳と24歳の中国人のホテトル嬢2名をラブホテルに呼
び出した上,同女らに対し,その身体を紐で縛り上げ,クロロホルムを多量に吸引させる
暴行を加えて,同女らを意識不明状態に陥らせ,同女らから現金を強取し,うち1名を急
性薬物中毒により死亡させたという強盗(判示第1)及び強盗致死(判示第2)の事案であ
る。
2 まず,本件各犯行の態様を見ると,被告人は,外国人のホテトル嬢であれば,不法滞
在の可能性が高く,警察に被害を申告されるおそれも少ないと考え,同女らを眠らせた
り,緊縛したりして金員を強取しようと企て,あらかじめクロロホルムを移し替えておいた小
瓶2本のほか,睡眠薬入りのカプセル数個,紐数本,変装用のサングラスや帽子,厚手と
薄手の手袋2双,アイマスク,口枷,ビデオカメラ等を準備した上,犯行が発覚しにくいよう
に,自宅のある長野県内ではなく,東京都内のラブホテルで犯行を行うことにして,東京
都内まで自動車で赴いた。被告人は,東京都内でも,夜間は閑散としていて犯行を行うの
に適当だと考えた地域に赴き,顔を見られないように帽子を着用した上,逃走が容易と思
われるラブホテルを選んで入室し,非常口ドアの施錠の有無や防犯カメラの設置状況等
を確認するなどした。さらに,被告人は,発信履歴等から犯行が発覚するのを防ぐため,
ラブホテルに備付けの電話を使用して,韓国人ホテトル嬢を宣伝文句にしている派遣業
者に電話を掛けてホテトル嬢の派遣を依頼し,ホテトル嬢が来るまでの間,クロロホルム
をタオルに染み込ませるなどして犯行の準備を整えた。そして,被告人は,ラブホテルを
訪れた朝鮮族の中国人である被害者らに対し,睡眠薬を清涼飲料水に溶かして飲ませた
り,性行為の最中に睡眠薬を自らの唾液で溶かして被害者らの口や性器から吸収させよ
うとしたものの,被害者らが一向に眠らなかったことから,クロロホルムを使用して被害者
らを眠らせることにし,SMプレイと称して被害者の身体を紐で縛り上げたり,暴れて抵抗
する被害者の身体を押さえ込んで紐で縛り上げたりして,被害者らが身動きできないよう
にした上,数回にわたり,クロロホルムを染み込ませたタオルを被害者らの鼻口部等に押
し付けた。その後,被告人は,被害者らがクロロホルムで眠った際に特有のいびきをかい
ていることを確認した上,被害者らから金員を強取しようとしたが,被害者らが用心のため
に所持金をほとんど持っていなかったので,自らが売春代金等として支払った現金合計約
10万2000円のみを強取した。さらに,被告人は,犯行に使用したクロロホルム入りの小
瓶やタオル等を片付け,同室のテーブル等に付着した指紋を拭き取るなどした後,ラブホ
テルから逃走したが,判示第2の犯行の被害者については,クロロホルム吸引による急
性薬物中毒により死亡するに至らせたものである。
 このように,被告人は,犯行に用いる種々の用具等を事前に準備し,それらを自在に
駆使するのみならず,犯行の発覚を防止するための工作を綿密に施した上で,本件各犯
行に及んでいるのであって,本件は,極めて計画的かつ用意周到な犯行である。また,被
告人は,後記のように,平成7年8月にクロロホルムを使用した強姦致傷等の罪により逮
捕された際,取調官から,「クロロホルムは,吸い過ぎると,肺に水が溜まる。お前も吸っ
ているようだが,危険だから,やめろよ」などと告げられ,クロロホルムを過度に吸入する
と呼吸困難により死亡するおそれがあることを十分に認識していたのである。それにもか
かわらず,被告人は,本件各犯行において,金員強取の目的を遂げるために,必死に抵
抗する被害者らに対し,その身体を紐で縛り上げた上,完全に失神するまでの長時間に
わたって,クロロホルムを染み込ませたタオルを執拗にその鼻口部等に押し付けているの
であって,その犯行態様は,甚だ粗暴かつ危険なものであるというほかない。とりわけ,被
告人は,判示第2の犯行においては,被害者に対し,最初に3分間くらい,次に二,三分
間くらい,更に四,五分間くらいと,被害者の意識が戻りそうになる都度,繰り返しクロロホ
ルムを嗅がせている上,失神している被害者に対し,自ら苛虐的行為を行う様子をビデオ
カメラで撮影するなどしているのであって,本件は,女性の人格を一顧だにしない極めて
悪質な犯行というべきである。
3 そして,本件各犯行の結果は,人一人の貴重な生命を失わせるなどしているのであっ
て,誠に重大である。すなわち,
(1) 判示第2の被害者は,日本語を勉強し,更には日本の大学で勉強したいとの希望を
持って来日し,日本語学校に通う傍ら,来日費用の借金の返済資金や学費,生活費等を
得るために,ホテトル嬢として稼働していた者であって,もとよりこのような理不尽な被害を
受けるいわれもないのに,被告人から,身体を縛り上げられて身動きもできない状態で,
無理矢理に多量のクロロホルムを数回にわたって吸引させられるという激しい暴行を受
け,苦悶と恐怖のうちに絶命するに至っているのである。被害者は,被告人の待つラブホ
テルに赴くや,被告人が強盗の意図を有していることや自らが数時間後に非業の死を遂
げることになるなどとは夢想だにしないで,初対面の被告人に対し,問われるままに,「お
金を貯めて,大きな家に住みたいの。それが一番の目標なの。その次の目標は,日本語
の勉強をして,友達と一緒に,日本と自分の国を行き来するビジネスをしたいの」などと目
を輝かせるようにして自らの夢を語っているのであって,誠に痛ましく哀れというほかな
い。24歳という若さで,まさに人生もこれからという時に,遠い異国の地において,突然に
その一生を終えねばならなかった被害者の無念さは,察するに余りあるというべきであ
る。また,被告人の凶行により最愛の家族を失った遺族らは,衝撃の余り心身の健康を害
した者もいるのであって,その悲しみや憤りの念は計り知れず,遺族らが被告人に対して
極刑を望んでいるのも,誠に無理からぬものがあるといわなければならない。
(2) さらに,判示第1の被害者も,必死に抵抗したにもかかわらず,被告人から,馬乗り
になられて押さえ付けられ,身体を緊縛された上,「死ね」などという言葉を浴びせられな
がら,クロロホルムを染み込ませたタオルを執拗に押し付けられるという激しい暴行を受
け,「もう駄目だ。このまま私は死んでしまう」という思いが頭をよぎる中で,失神するに至
っているのであり,その身体的な苦痛や恐怖感は,この上なく大きなものがあったと推察
される。被害者が,「狭いホテルの部屋の中で,二人きりでいるところを被告人から突然に
襲われ,ひどい暴力を振るわれて,殺されてしまうという大変な恐怖を感じた。被告人に対
しては,憎しみで一杯で,とても許してやろうなどという気持ちにはなれないので,日本の
法律でできる限り重く処罰してほしいと思う」などと峻烈な被害感情を述べているのも,当
然というべきである。
(3) しかるに,被告人は,現在に至るまで,判示第1の被害者や判示第2の被害者の遺
族らに対し,被害弁償や慰謝の措置を何ら講じていないのである。
4 次に,本件各犯行に至る経緯を見ると,被告人は,かねてから強力な麻酔作用を有す
るクロロホルムやSMプレイに強い興味を抱いていたところ,Eに勤務中の昭和59年ころ
から,実際に裸の女性の身体を紐で縛るなどの行為を行って性的な満足感を得るように
なった。被告人は,平成2年2月に,テレホンクラブで知り合った女性を脅迫する事件を起
こし,F駅助役を最後にEを退職した後は,保険会社の契約社員をしていたが,平成6年
から平成7年にかけて,偶然見掛けた女性をクロロホルム及び革ベルトを使用して強姦す
るなどした強姦致傷等の事件を起こし,平成8年3月に懲役4年6月に処せられて服役し
た。その後,被告人は,平成11年9月に仮出獄し,自動車運転手として稼働するなどした
ものの,十分な収入を得ることができず,他方で,多額の負債を抱えるとともに,買春資金
等が必要なこともあって,金銭に窮するようになった。そこで,被告人は,クロロホルムで
女性の意識を失わせて強姦するだけでなく,女性の所持金を奪うことを思い付き,平成1
4年7月には,売春婦に対してクロロホルムを使用するなどの行為に及び,強制わいせつ
罪により逮捕されたが,同女との間で示談が成立し,告訴が取り消されたため,処罰は免
れた。
 その後,被告人は,同年8月ころから地元で養鶏業を開始したが,ひよこが大量に死ぬ
などしたため採算が取れない上,相変わらず多額の負債を抱えていたことから,売春婦を
ラブホテルに呼び出してクロロホルムを嗅がせ,意識不明の状態にして紐で縛り上げ,売
春代金と所持金を奪う犯行を計画するようになった。そして,被告人は,容姿の優れた韓
国人のホテトル嬢であれば,安心させるための話題にも事欠かず,SMプレイも楽しめる
上,稼ぎも多いので多額の所持金を奪うことができ,被害申告をされるおそれも少ないな
どと考えて,韓国人のホテトル嬢に狙いを定め,平成15年4月ころから,専ら韓国人のホ
テトル嬢派遣業者に電話を掛け,派遣されたホテトル嬢にクロロホルム等を使用する行為
を多数回繰り返しているうちに,本件各犯行に及んだものである。
 このように,被告人は,自らの性的欲望等を満たす行為を繰り返す中で,外国人のホ
テトル嬢から金員を強取する目的で,甚だ短絡的に本件各犯行を敢行しているのであっ
て,その動機は,誠に身勝手かつ自己中心的なものというほかなく,同情の余地は皆無で
ある。しかも,被告人は,クロロホルムやSMプレイに強い関心を有しており,平成8年3月
に,クロロホルム等を使用した強姦致傷等の罪により懲役4年6月に処せられ,その刑終
了の約2年後の平成14年7月には,クロロホルムを売春婦に使用するなどして強制わい
せつ罪により逮捕されたにもかかわらず,その僅か9か月ほど後の平成15年4月ころか
ら,韓国人のホテトル嬢らに対するクロロホルム等の使用を開始し,そのような行為を多
数回繰り返す中で,何らためらうことなく本件各犯行を敢行しているのである。これらの事
情に鑑みると,被告人のこの種の犯罪に対する犯罪傾向には根深いものがあるといわざ
るを得ない。
5 したがって,以上の諸点に照らすと,本件の犯情は極めて悪く,被告人の刑事責任は
誠に重大である。
6 もっとも,他方,被告人のために酌むべき事情も存在する。すなわち,被告人は,捜査
段階から本件各犯行について素直に事実を認め,被告人なりに反省の態度を示してい
る。被告人は,判示第2の被害者の死の結果について,これを意図したわけではない。被
告人が本件各犯行で強取した金額は,結局,自らが売春代金等として被害者らに支払っ
た金額にとどまっている。その他,弁護人が指摘するような被告人のために有利に斟酌す
ることができる事情も認められる。
7 しかしながら,本件は,被告人が,クロロホルムを使用した強姦致傷等の前科や同種
の前歴を有するにもかかわらず,再びクロロホルムを使用して中国人女性2名に対する
現金強取の犯行を繰り返し,その結果,1名を死亡するに至らせたという誠に重大かつ悪
質な強盗致死及び強盗の事案であることに鑑みると,前記のような被告人に有利な事情
を最大限に斟酌しても,被告人に対しては,永く獄舎において贖罪の途を歩ませるため
に,主文のとおり無期懲役に処するのが相当であると判断した次第である。
(検察官中條隆二,国選弁護人真木幸夫各出席)
(求刑 無期懲役)
  平成16年7月7日
     東京地方裁判所刑事第3部
裁判長裁判官服   部       悟
   裁判官大   西   達   夫
   裁判官吉   戒   純   一

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛