弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
3 原判決主文第一項を次のとおり,また,同第二項中「二」とあるのを「三」と
それぞれ更正する。
 「一 控訴人が被控訴人に対し平成8年6月19日付けでした別紙目録1記載の
土地に係る平成6年度固定資産課税台帳の登録価格についての審査の申出に対する
決定のうち,上記土地の価格が11億3908万6080円を超える部分の審査の
申出を棄却した部分を取り消す。
二 被控訴人のその余の請求を棄却する。」
       事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人の控訴の趣旨
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人の請求を棄却する。
2 被控訴人の請求の趣旨
(1) 主位的請求
 控訴人が被控訴人に対し平成8年6月19日付けでした別紙目録1記載の土地
(以下「本件土地」という。)に係る平成6年度固定資産課税台帳の登録価格につ
いての審査の申出に対する決定を取り消す。
(2) 予備的請求
 控訴人が被控訴人に対し平成8年6月19日付けでした別紙目録1記載の土地に
係る平成6年度固定資産課税台帳の登録価格についての審査の申出に対する決定の
うち,上記土地の価格が3億3784万2570円を超える部分の審査の申出を棄
却した部分を取り消す。
(なお,被控訴人は,当審において,上記(1)及び(2)の各請求の関係を上記
のとおり訂正したものである。)
第2 事案の概要
1 原判決の記載の引用
 本件における事案の概要,前提となる事実,本件決定の根拠,当事者双方の主張
及び争点は,次項以下に当事者双方の当審における主張を補足するほかは,原判決
の「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」の項の記載のとおりであるから,こ
の記載を引用する。なお,以下では,地方税法を「法」と略称する。
 すなわち,東京都知事は,別紙目録1記載の本件土地の平成6年度の固定資産の
価格を別紙目録3記載のとおりに決定し,東京都渋谷都税事務所長は,この価格を
固定資産課税台帳に登録した(以下,この登録価格を「本件登録価格」とい
う。)。本件土地の所有者であって,本件土地の固定資産税の納税義務者である被
控訴人は,本件登録価格が高額すぎるとして,平成6年4月18日,控訴人に対し
審査の申出をしたが,控訴人は,平成8年6月19日,この審査の申出を棄却する
旨の本件決定をした。そこで,本件決定を不服として
,被控訴人が,控訴人に対し,本件決定の取消しを求めているのが本件である。
(1) 被控訴人が本件決定の違法事由として主張する主要なものは,次のとおり
である。
ア 本件登録価格は,賦課期日である平成6年1月1日時点の本件土地の価格でな
ければならないが(法349条1項),実際は,上記の時点より時価が高額であっ
た平成5年1月1日時点の本件土地の価格を登録価格としているのであるから,本
件決定は上記条項に違反している。
イ 土地の課税標準については,税負担が重くならないよう時価の一定の割合をも
って課税標準とすることとされ,この割合が15%とされていた。ところが,都
は,平成6年度の土地の課税標準の評価替えに際して,7割評価通達(平成4年1
月22日自治固第3号)に基づき,土地の課税標準を時価の70%に引き上げた。
このような大幅な評価割合の引上げを通達で行うことは,租税法律主義に違反する
違法なものであり,また,上記通達にいう70%という数値自体も,その根拠に欠
ける不合理なものである。
ウ 固定資産税は,土地の使用により取得し得る収益に担税力を認めているもので
ある。したがって,仮に時価の70%の評価が許されるとしても,地価公示価格や
不動産鑑定士による土地の鑑定評価額が土地の最有効利用を前提としているのに対
し,固定資産税の評価が上記のとおり土地の通常の使用(収益価格)を前提として
いることから生ずる相違を考慮すれば,上記の70%評価は固定資産税における土
地評価の上限を示していることとなり,時価の70%を上回る評価は違法となる。
エ 自治大臣告示で定めている固定資産の評価基準(昭和38年12月25日自治
省告示第158号)及びこの評価基準の取扱いについて定めた取扱通達(昭和38
年12月25日自治乙固発第30号)は,いずれも法的拘束力を持たないところ,
その内容も大量の宅地を短期間で評価するための大雑把な基準であるにすぎず,内
容の不備もあり,また,これらに基づく不動産鑑定士の評価にも開きがあることか
らすると,時価の70%とする7割評価通達が定める評価を上回る評価は違法とい
うべきである。
オ 本件土地の評価に係る標準宅地の選定,商況に係る格差率の認定,三角地であ
ることによる補正率の認定には誤りがあり,その結果,本件評価額が「適正な時
価」を超えるに至っている。
(2) これに対し,控訴人は,被控訴人の上記主張を争
うとともに,次のように主張している。
ア 土地の固定資産税の課税標準は賦課期日における価格と定められているが,実
際には,評価事務に一定の時間を要することからして,法は,賦課期日から一定の
期間(評価作業に要する合理的な期間)をさかのぼった過去の時点に価格調査の基
準日を定め,この時点の価格を賦課期日における価格とみなすことを許容している
ものというべきである。本件においては,評価作業に要する合理的な期間内である
平成5年1月1日にこの価格調査基準日が設けられているのであるから,平成5年
1月1日の本件土地の価格を平成6年度の登録価格としたことは適法である。仮
に,本件評価額が本件賦課期日である平成6年1月1日時点の本件土地の価格でな
ければならないとしても,実際には,価格調査基準日の時価の70%を評価額とし
ており,また,時価はその性質上ある程度の幅を持つ価格といえるため,これが違
法な価格となることはない。
イ 7割評価通達により,本件土地の登録価格が引き上げられたとしても,これ
は,むしろ,土地の固定資産評価額を「適正な時価」とする旨を規定している法3
41条5号の趣旨に適合するものである。したがって,7割評価通達の内容が法令
の正しい解釈に合致する以上,これに沿った本件登録価格の決定も法令の根拠に基
づいた適法なものということとなる。したがって,評価基準,7割評価通達等に従
って決定された本件土地の価格は適法なものである。
ウ 本件土地の評価に係る標準宅地の選定,商況に係る格差率の認定,三角地であ
ることによる補正率の認定は,評価基準に従って適正にされており,本件評価額が
「適正な時価」を超えることはない。2 控訴人の当審における補足主張
(1) 固定資産課税台帳に登録する価格と賦課期日における当該土地の価格と
は,登録価格と課税標準が乖離している現行法のもとでは,一致しなければならな
いものでない。
(2) 法349条1項は,課税標準を「基準年度に係る賦課期日における価格で
土地課税台帳等に登録されたもの」と規定している。これは,各市町村長に土地課
税台帳に価格を登録するに当たり種々の手続を履践するよう求めていることから,
課税標準を,単に賦課期日における価格ではなく,賦課期日に土地課税台帳に登録
された価格,すなわち,法の要求する種々の手続を履践した上で賦課期日に課税台
帳に登録することができる価格としているの
である。したがって,登録価格の算定基準日は,賦課期日とする必要はなく,賦課
期日から評価事務に要する一定期間をさかのぼった過去の時点とすることが許容さ
れているのである。
 そうすると,平成6基準年度の評価替えにおける価格算定基準日を平成4年7月
1日(なお,平成4年7月1日から同5年1月1日までの時点修正がされているた
め,実際は同5年1月1日となる。)としたことは,法が容認しているものである
から,本件登録価格は適法である。
(3) 仮に,本件土地の評価額が平成6年1月1日時点の「適正な時価」を超え
ないことを要するとしても,本件土地の評価額は,平成6年1月1日時点の「適正
な時価」を超えていないのである。すなわち,本件土地の評価額は,平成5年1月
1日時点の本件土地の「適正な時価」より30%減額した価格としているが,本件
土地の半径500m以内の地価公示地5地点(いずれも商業地)及び東京都基準地
3地点(いずれも商業地)並びに本件土地の半径1㎞以内の地価公示地9地点(い
ずれも商業地)及び東京都基準地8地点(いずれも商業地)の価格の下落率の平均
をみても,平成5年1月1日から平成6年1月1日までの時価下落率は,マイナス
31.1%にとどまる。この時価下落率は30%をやや超えるものの,「適正な価
格」とは,固定的なものではなく,ある幅を持った価格帯に存する価格を指すとい
うべきであるから,上記地価公示地等の価格の平均下落率を1.1ポイント超える
にすぎない本件評価額は,平成6年1月工日時点の「適正な時価」の範囲内にある
というべきである。
(4) なお,本件登録価格が違法であるとしても,本件決定の全部が取り消され
るべきではなく,「適正な時価」を超える部分のみが取り消されるべきである。す
なわち,本件訴訟は,本件価格決定に係る登録価格の適否を判断するものであるか
ら,「適正な時価」を超える部分のみを取り消す一部取消判決をすれば,取消判決
の拘束力(行政事件訴訟法33条1項)により,関係行政庁である市町村長は判決
の判断内容を尊重した決定をすることが義務づけられるのであり,この新たな決定
が,取り消されなかった決定の残部と論理的に矛盾することもなく,実際上も紛争
の永続化を防いで妥当な結果をもたらすのである。むしろ,全部の取消しがされる
と,是正すべき評定方法が一義的に明らかとならず,場合によっては,紛争の抜本
的解決を
図ることができなくなる危険性がある。
3 被控訴人の当審における補足主張
 固定資産課税台帳に登録される価格は「適正な時価」でなければならず,これは
固定資産の客観的交換価値ではなく,収益価格と解すべきであるが,仮にこれが客
観的交換価値であると解したとしても,その評価は,7割評価通達で定めた評価限
度,すなわち,評価基準によって評価した賦課期日の価格の70%を上限とするも
のでなければならない。
 すなわち,評価基準は,各筆の土地を個別評価するものではなく,諸制約の下に
おいて大量の土地について可及的に適正な時価を評価する技術的方法を規定するも
のであり,標準宅地の客観的時価に価格形成要因の主要なものに関する補正等を加
えて,対象土地の価格を比準評定するものである。ところが,評価基準及びこれに
基づく東京都の取扱要領は,日影規制に基づく建物の高さ制限などの実効容積率に
対応して評価する基準を設けておらず,建築基準法42条2項に基づいてセットバ
ックをするため建物の建築ができない部分が生ずる宅地についてこの評価減を行う
基準を設けていないなど,当該土地の「適正な時価」を算出する基準としては不十
分かつ大雑把な欠陥基準である。したがって,この基準によって10割の評価をし
た場合は,その評価額が賦課期日の適正な時価を超える可能性が高い。したがっ
て,7割評価通達による評価を行うにしても,評価額の70%を上限とするもので
なければならないのである。
第3 当裁判所の判断
1 原判決の説示の引用
当裁判所も,本件土地に係る平成6年度固定資産課税台帳の登録価格についての審
査の申出に対する本件決定のうち,上記土地の価格が11億3908万6080円
を超える部分の審査の申出を棄却した部分は違法であると判断する。
 その理由は、次項に当裁判所の判断を補足するほかは、原判決がその「事実及び
理由」欄の「第三 争点に対する判断」の項で説示するとおりであるから、この理
由説示を引用する。
2 当裁判所の判断の補足
(1)固定資産税の課税標準となる土地価格の評価等について
ア 法349条1項は,「基準年度に係る賦課期日に所在する土地に対して課する
基準年度の固定資産税の課税標準は,当該土地の基準年度に係る賦課期日における
価格で土地課税台帳又は土地補充課税台帳に登録されたものとする。」と規定し,
この「個定資産税の賦課期日」は、当該年度の初日の属する
年の1月1日とすると定め(法359条),この「価格」は,「適正な時価」と定
めている(法341条5号)。また,固定資産税が,固定資産の所有者に対して,
その所有という事実に担税力を認めて課税する財産税であることからすれば,この
「適正な時価」とは,正常な条件の下に成立する当該土地の売買価格,すなわち客
観的な交換価値(客観的時価)をいうものと解される。そうすると,土地課税台帳
に登録すべき当該土地の適正な登録価格とは,当該基準年度の1月1日における当
該土地の客観的時価,本件についていえば,平成6年1月1日における本件土地の
客観的時価ということとなる。
 これに対し,控訴人は,登録価格と課税標準が乖離している現行法のもとでは,
登録価格と賦課期日における価格が一致しなければならないものではないと主張す
る。なるほど,法附則に特例として定められている課税標準の調整措置及び税額の
負担調整措置などにより,土地課税台帳等に登録された価格に所定の税率を適用し
て税額を算出するという関係には一定の変更が加えられていることが認められる
が,このような特例による暫定的な措置が定められているからといって,これによ
り登録価格が賦課期日における価格であるとの原則が変更されたと解することはで
きないから,控訴人の上記主張は採用することができない。
 また,被控訴人は,固定資産税は土地の使用により取得し得る収益に担税力を認
めているものであると主張する。しかし,かつての地租・家屋税とは異なり,固定
資産税は,土地,家屋等の資産価値に着目し,これを所有すること自体に担税力を
認めて課する一種の財産税であるから(最高裁判所第二小法廷昭和59年12月7
日判決・民集38巻12号1287頁参照),上記の「適正な時価」とは,その通
常の用法どおり,正常な条件下に成立するその時点の取引価格をいうものと解する
のが相当である。したがって,被控訴人の上記主張も採用することができない。
イ ところで,法は,土地に関する固定資産の価格決定について,全国の土地を各
市町村が同一の基準で評価し,さらに,都道府県間及び各都道府県内の市町村間の
評価の均衡を図るためにそれぞれ所定の調整を行うこととする一方(法418条,
419条1項,422条の2第1項),市町村長の価格決定を賦課期日の約2か月
後に当たる基準年度の2月末日までに行うべきものとしている(法410条)。
そうすると,大量に存在する課税対象についてそれぞれ適正な時価を算定する事務
手続の量を考慮すると,約2か月間のうちにこの評価事務のすべてを行うことは困
難であるものといわざるを得ない。したがって,法は,賦課期日から一定の期間
(評価作業に要する合理的な期間)をさかのぼった過去の時点を価格調査の基準日
と定め,この時点の価格を一つの資料として,賦課期日における価格を算定するこ
とまで禁止するものではないと解すべきである。したがって,平成6年度の固定資
産の価格評定事務について,価格調査の基準日を平成4年7月1日とし,平成5年
1月1日時点における地価の動向をも勘案して地価変動に伴う修正を行うものとし
た手続自体には,違法な点はないものというべきである。
 これに対し,控訴人は,上記の手続の負担を理由として,法は,登録価格の算定
基準日を賦課期日から評価事務に要する一定期間をさかのぼった過去の時点にする
ことまでも許容していると主張する。しかし,法が「適正な時価」の算定基準日を
賦課期日である当該年度の初日の属する年の1月1日と定めている以上,「適正な
時価」の算定基準日を実質的に価格調査基準日等の他の期日に変更したり,賦課期
日以外の期日における価格を賦課期日における価格とみなすことまでを法が許容し
ているものと解することはできない。したがって,控訴人の上記主張は採用するこ
とができない。
ウ 上記のとおり,土地に関する固定資産の価格決定については,価格調査基準日
を設けて,その価格に基づいて賦課期日における評価を行うことが許されるが,こ
の価格調査基準日の価格自体は賦課期日における客観的時価の一資料であるにすぎ
ず,また,自治大臣が定める評価方法である評価基準による評価も,大量処理のた
めの方法であって,その評価額と客観的時価との間に誤差が生じることも考えら
れ,さらに,将来の地価の変動を予想することの困難さからすれば,少なくとも,
評価額が客観的時価を超えるという事態を生じさせないようにするために,「適正
な時価」をあらかじめ控えめに評定することは,課税処分の謙抑性の観点からして
も許されるものというべきである。したがって,宅地の評価に当たっては,地価公
示価格等から求められた価格の70%程度をその適正な時価として扱うとする7割
通達の内容は,その本来の趣旨が土地基本法16条の趣旨を踏まえて地価公示価格
等の公的土地評
価の均衡化,適正化を目指すものであって,賦課期日までの時点修正を直接の目的
とするものではないものの,これが法の禁ずるものということはできないのであ
り,この7割評価通達に従った評価にも違法性がないものというべきである。
 これに対し,被控訴人は,7割評価通達の内容及びこれが通達という手続でされ
たことが違法であると主張する。しかし,たとえ,土地の登録価格が時価の15%
程度でされるという行政実務がある程度の期間行われ,納税者の間にこれへの信頼
が存在していたとしても,そのような行政措置により,法が定める「適正な時価」
という概念そのものが実質的に変更されたり,上記行政実務が法的な規範性を獲得
したということはできない。むしろ,7割評価通達の実施は,法の趣旨に反するそ
れ以前の行政実務を法の定めに合致する方向に是正変更するための行政上の措置で
あって,何ら新たな立法をするものではないというべきである。したがって,被控
訴人の上記主張は採用することができない。
エ 以上述べたところによれば,地価が下落した結果,7割評価という修正を加え
られた価格をもってしても,評価価格が賦課期日における客観的時価を超える事態
となった場合には,この超過部分は違法なものというほかない。
 これに対し,被控訴人は,7割評価通達による時価の70%の評価は,固定資産
税における土地評価の上限となり,これを上回る評価は違法であると主張する。し
かし,7割評価通達の実施は,法の趣旨と乖離していた従前の行政実務を法の定め
に合致する方向に是正変更するための行政上の措置というべきであるから,法の規
定を実質的に変更するものでも,法と同価値の規範性を獲得するものでもあり得な
いのであるから,上記通達により時価の70%という評価の上限が法的な規範とし
て設定されたものとみることはできない。したがって,被控訴人の上記主張は,そ
の余の点について判断するまでもなく採用することができない。
 もっとも,7割評価通達により評価時の時価の70%をもって土地の評価をした
場合でも,平成5年1月1日から平成6年1月1日までの地価の下落率は地域によ
って異なるので,当該土地の賦課期日における時価に対する評価価格の割合は地域
ごとに異なることとなるが,これは賦課期日からさかのぼった時点を基準とする評
価を行う以上必然的に生ずる結果であるから,これも法が容認するものといわざる
を得ない。
(2) 本件土地の評価額について
ア 固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続についての基本的な事
項を定めた評価基準,取扱要領(東京都固定資産(土地)評価事務取扱要領)及び
比準表(東京都土地価格比準表)は,本件土地を評価する基準及び方法として合理
性を有し,また,これらを本件土地の評価に適用して,市街地宅地評価法により評
価を行うこととした上で,本件土地の状況類似地区内から本件標準宅地を選定した
こと,本件土地について採用した奥行価格補正率,不整形地の補正率がいずれも合
理性を有することは,前記引用に係る原判決の説示にあるとおりである。
イ しかし,本件土地周辺の時価は価格調査の基準日となる平成5年1月1日から
本件賦課期日である平成6年1月1日までの間に下落しているのであるから,賦課
期日である平成6年1月1日における本件土地の客観的時価を評価するためには,
上記の価格調査の基準日から賦課期日までの時価下落率を算出し,これによる時点
修正を行うことが相当である。そうすると,本件標準宅地の価格を鑑定するに当た
り基準とされたα5-12(渋谷区β213番)の地価公示価格は,本件標準宅地
(渋谷区β35番3)及び本件土地(渋谷区β118番2)に近接かつ類似した場
所にあることからして,本件標準宅地の上記期間の地価下落率をほぼ正確に反映し
ているものと推認されるところ,α5-12の公示価格は,上記期間において,2
270万円から1500万円まで33.9%下落していることが認められる(乙
5,32の1ないし3)。したがって,本件標準宅地は,上記期間内に33.9%
の割合の地価の下落があったものと推認するのが相当である。
 これに対し,控訴人は,本件土地の半径500m以内の地価公示地5地点(いず
れも商業地)及び東京都基準地3地点(いずれも商業地)並びに本件土地の半径1
㎞以内の地価公示地9地点(いずれも商業地)及び東京都基準地8地点(いずれも
商業地)の価格の下落率の平均を見るべきであると主張する。しかし,α5-12
は,本件土地と同じくJRα駅近隣の高度商業地区内の東急本店通りに面し,しか
も,本件土地及び標準宅地に近接した位置にあるのに対し,控訴人の主張する多数
の地点は,本件土地及び標準宅地と距離が離れていたり,街路条件等が異なるなど
その類似性が劣るものというべきであるから(乙32の1ないし3,
乙33の1ないし3),これが本件標準宅地の価格変動を反映する程度はα5-1
2に比較して小さいといわざるを得ない。そうすると,他に適切な資料のない本件
においては,α5-12の公示価格の変動に従って本件標準宅地の客観的時価の時
点修正をするのが最も合理的というべきである。したがって,控訴人の上記主張は
採用できない。
 また,控訴人は,「適正な価格」とは個定的なものではなく,ある幅を持った価
格帯に存する価格を指すと主張する。しかし,法341条5号の「適正な価格」と
は,合理的な鑑定・評価によって算定された結果である一義的な価格を指すものと
解すべきであって,固定資産の評価価格がこれを上回っているにもかかわらず,価
格帯に幅があることを理由としてこれを是認することはできない。したがって,控
訴人のこの点の主張も採用することができない。
ウ 平成6年1月1日における本件標準宅地の路線価は,上記の時点修正を経た結
果1920万点と算出され,これに格差率93%を乗じて本件土地に沿接する正面
路線の路線価を1780万点とし(有効数字上位3桁),さらに,これに奥行価格
補正率0.98,不整形地補正率0.90の補正処理を行い,本件土地の単位地積
当たりの評点を1566万4000点とし,これに本件土地の地積72.72㎡を
乗じて総評点を11億3908万6080点とし,これに1点当たりの価格1円を
乗じると,本件土地の評価額が11億3908万6080円と算出されることは,
前記引用に係る原判決の説示にあるとおりである。
(3) まとめ
 以上のように,本件土地の平成6年1月1日時点の固定資産税の課税標準となる
べき価格は11億3908万6080円とするのが相当であるから,本件土地の登
録価格12億0307万9680円のうち上記価格を超える部分は違法であり,被
控訴人の本訴請求は,本件決定のうち上記価格を超える部分の取消しを求める限度
で理由があり,その余は失当として棄却すべきこととなる。
3 原判決主文第1項等の更正
 原審も,本件決定は,本件土地価格を11億3908万6080円を上回る12
億0307万9680円と認定した点において違法であると判断したが,そのよう
場合でも,固定資産評価委員会のした決定の一部のみの取消しは許されないとし
て,本件決定の全部を取り消した。
 確かに,法は,審査委員会が審査決定をした場合における登録価格等の修
正手続を規定しているが(法435条),確定判決があった場合の登録価格等の修
正手続を規定していないので,裁判所としては,審査委員会の審査決定の一部に違
法がある場合でも,常に審査決定の全部を取り消して,審査委員会に判決の判断に
従った審査決定を改めて行わせ,この審査決定により,市町村長に上記の登録価格
等の修正手続による登録価格等の修正をさせるという見解も成り立ち得る。
 しかし,本件訴訟においては,本件決定が認定し登録価格の適否を判断するので
あるから,適正な時価を超える認定部分を特定して,これのみを取り消すことも可
能であり,また,このような一部取消判決がされたとしても,取消判決の拘束力を
規定した行政事件訴訟法33条1項によって,市町村長は審査決定の場合と同様の
措置を義務付けられるものと解されるのであるから,審査委員会の審査決定を介在
させる必要はなく,介在させないことによって特に不都合が生ずるとも考えられな
いというべきであり,むしろ,一部取消判決をすることで紛争が早期に解決するこ
とにもなるのである。したがって,違法の理由が審査手続の違法である場合や内容
の違法であっても例外的に審査委員会に審査のやり直しを求めるのが相当である場
合を除いては,審査決定のうちの違法な部分のみを取り消せば足りるものというべ
きである。
 そうすると,本件決定については,平成6年1月1日時点における適正な時価を
超える価格を認定した点のみが違法とされるのであるから,審査委員会に審査のや
り直しを求める理由もないのであって,この適正な時価を超える部分のみを取り消
せば足りるのである。
 また,訴訟当事者が審査決定のうち適正な価格と主張する価格を超える部分の取
消しのみを求めた場合でも,これは勝訴判決の上限としての価格の取消しを求める
範囲を画する訴訟行為として有効なものと解されるのであるから(最高裁判所第一
小法廷昭和62年5月28日判決・訟務月報34巻1号157頁参照),上記の解
釈は,審査決定取消訴訟における審判の対象である訴訟物は当該審査決定の違法性
一般であるとする行政訴訟における訴訟物理論と食い違うこともないのである。
 そうすると,原判決が本件決定の全部を取り消したことは,明白な誤りというべ
きであるから,原判決主文第一項等を主文第3項のとおり更正することとする。
第4 結論
 以上の次第で,原判決は相当であり,本件控訴は
理由がないから,これを棄却することとし,また,原判決主文第一項等を更正し,
主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第15民事部
裁判長裁判官 近藤崇晴
裁判官 宇田川基
裁判官 加藤年男
 目録
1 東京都渋谷区β118番の2 宅地 72.72㎡
2 平成5年度登録価格       3億3784万2570円
3 平成6年度登録価格      12億0307万9680円
目録
1 東京都渋谷区β118番の2 宅地 72.72㎡
2 平成5年度登録価格       3億3784万2570円
3 平成6年度登録価格      12億0307万9680円

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛