弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を罰金二、〇〇〇円に処する。
     右罰金を完納し得ないときは金五〇〇円を一日に換算した期間被告人を
労役場に留置する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人木下元二、同米田軍平連名の控訴趣意書記載のとおり
であるから、これを引用する。
 所論は要するに、略式命令の謄本中主文が原本と異つていても一旦送達された以
上告知の効力が生じ、その略式命令は外部的に成立するものと解すべきであるか
ら、右略式命令の確定後に更に正確な略式命令謄本を送達したとしても、先の確定
裁判に抵触することになるので、該命令に対しては、刑事訴訟法第三三七条により
免訴の判決がなされるべきである。これと異る趣旨に立つ原判決は同条の解釈適用
を誤つたもので、訴訟手続の法令に違反し、且つ憲法第三九条後段に違反するとい
うのである。
 本件記録及び原審において取り調べた証拠によると、
 一、 神戸区検察庁検察官は昭和三八年九月一六日被告人に対する本件道路交通
法違反事件について神戸簡易裁判所に略式命令を請求した。
 二、 同簡易裁判所判事柳原文雄は
 昭和三八年九月一六日同事件について
 「被告人を罰金三、〇〇〇円に処する。
 これを完納することができないときは金二五〇円を一日に換算した期間被告人を
労役場に留置する。
 第一項の金額を仮りに納付することを命ずる。」
 との主文を含む略式命令を作成した。
 三、 しかるに、同裁判所書記官Aは同日右略式命令の謄本を作成するに当り、
不注意にも罰金額を二、〇〇〇円と誤つて記入し、同日これを被告人に交付して送
達した。
 四、 その後、同書記官は右誤謬を知り、改めて本件略式命令原本に基づき罰金
額を三、〇〇〇円とする適正なる謄本を作成したうえ、これを被告人に郵送し、被
告人は昭和三八年一一月一八日これを受領した。
 五、 被告人は昭和三八年一二月二日正式裁判の請求をした。
 等のことが認められる。
 <要旨>よつて所論につき案ずるに、略式命令はこれを当事者に告知することによ
つて初めて外部的に成立し、これを発した裁判所も自らこれに拘束され変更
撤回することができなくなるものであるところ、右告知は裁判所書記官が謄本を作
成してこれを送達することにより行うものとされている。しかして、右謄本は原本
を正確に写したものであることが必要であるから、仮に謄本中に原本の文言と異る
箇所があり、その誤謬が重大である時はもはや謄本としての価値を有しないから、
これを当事者に送達しても告知の効力を生じないものと解すべきである。もつとも
判決は宣告により外部的に成立するものであるから、判決書の記載と異る宣告をし
ても、この宣告を無効とすることができないことは所論のとおりであるが、この理
をもつて略式命令における告知を律することはできない。何故なら判決の宣告は裁
判官が自ら法廷において判決内容を宣言するものであるから、仮に判決書と異る内
容の判決を宣告したとしても、それはむしろ判決内容を変更したものと理解される
に反し、略式命令の告知、すなわち、謄本の送達は裁判官が直接これに関与するも
のでなく、専ら裁判所書記官が裁判書の原本に基づき謄本を作成してこれを当事者
に送達するものであるから、若し所論のように謄本が原本を正写していないもので
あつても一旦これを送達した以上告知の効力があり、その記載内容に従つた略式命
令が確定するに至るものと解すれば、結局は裁判官によつてなされた略式命令の内
容を、裁判所書記官がほしいままに変更することを是認する結果となり、不当なる
こと明らかである。ところでこれを本件についてみるに、当初被告人に送達された
略式命令謄本の主文には罰金二千円とあり、その原本の罰金額である三千円と主文
において金額が異つていること明らかであり、その誤謬は決定的にしてとうてい謄
本たるの価値を有しないものであるから、謄本送達の効力なきものと言わねばなら
ない。すなわち、罰金額を二、〇〇〇円と誤記され、昭和三八年九月一六日被告人
に交付された略式命令謄本によつては、一四日が経過しても、該略式命令が確定裁
判となることはないのである。そして、昭和三八年一一月一八日被告人に郵送され
た略式命令謄本により初めて有効な略式命令の告知がなされたものであるから、こ
れに対しなされた被告人の正式裁判の請求に基づき、原裁判所が前段説明と同趣の
理由により免訴の裁判をすることなく、本案について審理し、有罪の判決を言渡し
たことは適法であつて、所論のような違法、違憲の廉はない。論旨は理由がない。
 (以下省略)
 (裁判長裁判官 石合茂四郎 裁判官 三木良雄 裁判官 西村清治)

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