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判決言渡平成20年6月30日
平成19年(行ケ)第10305号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成20年6月25日
判決
原告X
原告株式会社カワタ
両名訴訟代理人弁理士石原勝
被告ビュファ・コンクリートプロテ
クシーヨン・ジャパン株式会社
訴訟代理人弁理士最上正太郎
訴訟代理人弁護士那須克巳
同本間伸也
同野口隆一
同山平喜子
主文
1原告らの請求を棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2005−80352号事件について平成19年7月18日に
した審決を取り消す。
第2事案の概要
1本件は,原告らが有し発明の名称を「建築物における防水膜施工方法」とす
る後記特許第3248554号について,被告が無効審判請求をしたところ,
特許庁が請求項1∼3(全請求項)に係る発明についての特許を無効とする旨
の審決をしたことから,原告らがその取消しを求めた事案である。
2争点は,上記特許の請求項1∼3に係る発明が,下記引用例1∼8に記載さ
れた発明との関係で進歩性を有するかどうか(特許法29条2項)である。

・引用例1:欧州特許第81729号明細書(発明の名称「金属,合成樹脂,
石,コンクリートを腐食,摩損から保護するための液体低温硬化
ポリウレタン形成液の使用」,特許権者バイエル株式会社,公表
日1987年[昭和62年]7月29日。甲1。以下,これに記
載された発明を「引用発明」という。)
・引用例2:実願平1−148710号(実開平3−90649号)のマイク
ロフィルム(考案の名称「2液型塗料塗布装置」,出願人アトム
化学塗料株式会社,公開日平成3年9月17日。甲2)
・引用例3:特開平1−187264号公報(発明の名称「コンクリート施工
面用シート防水材」,出願人ジヤパンゴアテツクス株式会社,公
開日平成元年7月26日。甲3)
・引用例4:特開平1−295950号公報(発明の名称「発泡ウレタンフオ
ームによる外断熱工法」,出願人A・B,公開日平成元年11月
29日。甲4)
・引用例5:特開昭63−181858号公報(発明の名称「コンクリート型
枠」,出願人三井東圧化学株式会社・三星産業株式会社,公開日
昭和63年7月27日。甲5)
・引用例6:実願昭60−163868号(実開昭62−72154号)のマ
イクロフィルム(考案の名称「2液塗材塗布装置」,出願人岩田
塗装機工業株式会社,公開日昭和62年5月8日。甲6)
・引用例7:特開昭61−114765号公報(発明の名称「二液型塗料の塗
装装置」,出願人トヨタ自動車株式会社,公開日昭和61年6月
2日。甲7)
・引用例8:特開平4−97042号公報(発明の名称「建築物用防水材およ
ぞその防水材を用いた建築物の防水工法」,出願人ニッタ株式会
社,公開日平成4年3月30日。甲8)
第3当事者の主張
1請求の原因
(1)特許庁における手続の経緯
株式会社カワタ技建,櫻ジェッター株式会社及び原告Xの3名は,平成6
年6月13日,名称を「建築物における防水膜施工方法」とする発明につい
て特許出願をし(特願平6−130177号),平成13年11月9日特許
第3248554号として設定登録を受けた(請求項の数3。特許公報は甲
9。以下「本件特許」という)。
これに対し平成14年7月22日付けでCから特許異議の申立て(異議2
002−71801号)がなされ,その途中で株式会社カワタ技建及び櫻ジ
ェッター株式会社は原告株式会社カワタに本件特許権の持分を譲渡し平成1
4年9月24日その旨の登録がなされ(甲12),本件特許権は原告両名の
共有となったが,原告らは,上記異議申立てに対し訂正の請求をして対抗し
たところ,特許庁は,平成15年4月1日,訂正を認めて本件特許の請求項
1∼3に係る特許を維持する旨の決定をした(以下この訂正を「本件訂正」
という。特許決定公報は甲10)。
ところで被告は,平成17年12月7日付けで本件特許の請求項1∼3に
つき無効審判請求(乙11)をしたので,特許庁は,同請求を無効2005
−80352号事件として審理した上,平成19年7月18日,本件特許の
請求項1∼3に係る発明についての特許を無効とする旨の審決をし,その謄
本は平成19年7月30日原告らに送達された。
(2)発明の内容
本件訂正後の特許請求の範囲は,前記のとおり請求項1∼3から成る
が,その内容は次のとおりである(以下順に「本件発明1」∼「本件発
明3」という。)。
「【請求項1】混合すると5∼15秒で硬化する高速硬化ウレタン樹脂
主剤液とその硬化剤液とをスクリューガイドで形成されているスタティッ
ク混合部に圧送し,これら2液をスタティック混合部で混合した後,この
混合液をスタティック混合部の流出口において,スタティック混合部とこ
れを覆う外筒との間に形成されるエア経路を流れてくる圧縮エアの流れに
乗せてノズル部から噴出させ,被施工物に吹きつけてその表面に透湿性の
あるウレタン防水膜を形成することを特徴とする建築物における防水膜施
工方法。
【請求項2】高速硬化ウレタン樹脂主剤液とその硬化剤液とを,その混
合比率が所定値に保たれた状態で,両液の合計供給量を調整可能にしてス
タティック混合部に圧送することを特徴とする請求項1記載の建築物にお
ける防水膜施工方法。
【請求項3】高速硬化ウレタン樹脂主剤液とその硬化剤液とをギアポン
プを用いてスタティック混合部に圧送することを特徴とする請求項1また
は2記載の建築物における防水膜施工方法。」
(3)審決の内容
ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,
本件発明1及び本件発明2は前記引用例1∼5,8に記載された発明
に基づいて,本件発明3は前記引用例1∼8に記載された発明に基づ
いて,それぞれ容易に発明をすることができたから,特許法29条2
項により特許を受けることができないというものである。
イなお,審決が認定する引用発明の内容(引用例1による)並びに本件発
明1と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
〈引用発明の内容〉
「吹き付けから約10∼12秒後に固化する成分A)と成分B)とから
なる反応成分が別々に混合ヘッドに圧送され,そこで,スタティックミキ
サーによって混合が行われ,引き続き,空気の力で,鉄筋コンクリートに
吹き付ける方法によって,土台から上昇するガス(空気,水蒸気)によっ
てキャピラリーが形成されるようなことは起きない建築物のような鉄筋コ
ンクリート建造物を被覆するのに用いる吹き付ける方法。」
〈一致点〉
引用発明と本件発明1とは「混合すると所定時間で硬化する成分1と成
分2とをスクリューガイドで形成されているスタティック混合部に圧送
し,これら2液をスタティック混合部で混合した後,この混合液を噴出さ
せ,被施工物に吹きつけてその表面にウレタン防水膜を形成することを特
徴とする建築物における防水膜施工方法。」である点で一致する。
〈相違点1〉
硬化に要する所定時間が,本件発明1では「5∼15秒」であるのに対
し,引用発明では「約10∼12秒」である点。
〈相違点2〉
成分1と成分2とが,本件発明1では「硬化ウレタン樹脂主剤液とその
硬化剤液」であるのに対し,引用発明では「成分A)と成分B)」である
点。
〈相違点3〉
硬化ウレタン樹脂主剤液が,本件発明1では「高速」の限定があるのに
対し,引用発明ではそのような限定がない点。
〈相違点4〉
混合液を噴出させる点に関する構成が,本件発明1では「スタティック
混合部の流出口において,スタティック混合部とこれを覆う外筒との間に
形成されるエア経路を流れてくる圧縮エアの流れに乗せてノズル部から噴
出させ,」の限定があるのに対し,引用発明ではそのような限定がない
点。
〈相違点5〉
ウレタン防水膜が,本件発明1では「透湿性のある」の限定があるのに
対し,引用発明ではそのような限定がない点。
(4)審決の取消事由
しかしながら,審決は,以下のとおり,相違点4及び5についての判断を
誤り,その結論も失当であるから,審決は,違法として取り消されるべきで
ある(なお,本件発明1と引用発明との一致点相違点が審決認定のとおりで
あること,相違点1∼3が実質的な相違点とはいえないことは認める)。
ア取消事由1(相違点5についての判断の誤り)
(ア)以下のとおり,本件発明1は,透湿性のある防水膜を建築物におけ
る被施工物の表面に形成する施工方法に係るものであるのに対して,引
用発明は,透湿性のある防水膜を形成することを意図する施工方法に係
るものではない。
a引用発明は,高速硬化ウレタン樹脂主剤液とその硬化剤液とを被施
工物に吹き付けてその表面にウレタン防水膜を形成すると,「…反応
混合物が急速に固化するので,土台から上昇するガス(空気,水蒸
気)によってキャピラリーが形成されるようなことは起きない。この
性質に基づき,例えば,平屋根,丸屋根,傾斜路,バルコニーおよび
他の工業建築物のような鉄筋コンクリート建造物を被覆するのに用い
る発明のポリウレタンエラストマーは,USP−3723163やD
E−A2051956に記述されている緩やかに硬化するポリウレタ
ンコンビネーションのように,多層構造を重ねる作業に労力がかかっ
て,天候にも非常に依存しがちな従来の材料に比べて,特別な利点を
示す。」(甲1の6頁59行∼下1行)ものである。
上記「キャピラリー」は,Kapillarbildungの訳で,直訳すると毛
細管構造(毛細管組織)となる。
したがって,引用発明は,急速固化の性質を利用して,ウレタン防
水膜に毛細管構造のようなピンホールが生じない,完全シール型の防
水膜を形成する施工方法を開示しているものである。換言すれば,引
用発明で想定される具体的な防水膜施工方法は,完全シール型の防水
膜を形成しうる方法であり,逆に不完全なシール性しか有さない「透
湿性のある」防水膜を形成する具体的な防水膜施工方法は想定外であ
り,もっと言えば,除外されるべきものである。
bこれに対して,本件発明1においては,2液混合タイプの高速硬化
ウレタン樹脂における高速固化の性質の利用原理が,引用発明とは根
本的に異なっている。すなわち,本件発明1においては,主剤液と硬
化剤液との充分な混合が行われた混合液をスタティック混合部の流出
口において,ノズルより圧縮エアの流れに乗せて噴出させ,混合液滴
相互間にエアが包み込まれるようにして,被施工物表面に達したとき
には混合液滴が積層されつつすでに内包されたエアを逃がさない(こ
れにより連続気孔が形成され,最終的にはエアは外部に逃げる)程度
まで固化しているという高速固化の性質を利用して,「水は透過しな
いが,水蒸気は透過する」(透湿性のある)ウレタン防水膜を被施工
物の表面に形成することに成功したのである。このような連続気孔が
存在しなければ,どうして水蒸気が透過しうるのかの説明ができな
い。
c本件発明1の方法によった場合は「ふくれ現象」が生じないのに対
し,そうでない場合は「ふくれ現象」が生ずる。このような違いは,
連続気孔の存否によるものである。甲11(Dほか報告「ジェット
スプレー工法を用いて塗膜形成した超速硬化性ポリウレタンのコンク
リート表面被覆材の性質」コンクリート工学年次論文集Vol.2
9,No.2,2007)によると,本件発明1の方法によって形成
された超速硬化性ポリウレタン膜の透湿度は,87.6であるのに対
し,一般のポリウレタン膜の透湿度は34.5であり,その差が「ふ
くれ現象」を生ずるかどうかの差になっている。
(イ)引用例3(特開平1−187264号公報)には,透湿性のある防
水膜としての連続多孔質ポリテトラフルオロエチレンフイルム1が,コ
ンクリート施工面に接合された例が開示されている。
引用例4(特開平1−295950号公報)には,鉄筋コンクリート
壁面1の外面に硬質ポリウレタンフォームを吹き付けて,透湿性のある
硬質ポリウレタンフォームの層4を形成することが記載されている。
引用例5(特開昭63−181858号公報)には,透湿性のある連
通体2を補強用の裏打ち材として,これに表裏,両面を繊維層4,5で
補強した通気性の樹脂皮膜(透湿性のあるポリウレタン製のものが例示
されている。)1で表面を被覆させたコンクリート型枠が開示されてい
る。
上記引用例3,5に示されるものは,工場で製造される防水シートや
コンクリート型枠に係る工場製造物に関するものであり,防水膜施工方
法とは全く関係の無いものである。
上記引用例4に示される硬質ポリウレタンフォームの層4は,壁仕上
げにおける外断熱工法に関するものであり,防水膜とはいえないもので
ある。
そしてこれら引用例のいずれにおいても,2液混合タイプの高速硬化
ウレタン樹脂を用いて防水膜を施工形成すること,この混合液をスタテ
ィック混合部の流出口においてノズルより圧縮エアの流れに乗せて噴出
させことにより透湿性のある防水膜を形成することについて,一切言及
しておらず,また示唆を与えるような記述も一切無いのである。
(ウ)したがって,引用発明を「透湿性のある」防水膜を形成するために
用いようとする考えは,当業者といえども容易には想起できない。引用
発明と引用例3∼5記載の発明とを組み合わせようとする契機となるも
のは無く,両者の組み合わせそのものが容易ではない。
(エ)審決は,相違点5について,「透湿性のあるウレタン防水膜は,上
記引用例3∼5に記載され,しかも本件発明1の利用分野と同様,コン
クリート表面に適用されるものであるので,ウレタン防水膜に『透湿性
のある』の限定を付し,上記相違点5に係る本件発明1の限定を付すこ
とは,当業者にとって困難性はない。」(11頁4行∼7行)と判断し
ているが,本件発明1のポイントが,発明の方法で得られた防水膜の技
術的価値にあるのではなく,既にその価値を認められている「透湿性の
ある」防水膜をいかにして形成するかにあることを考慮したとき,上記
引用例3∼5を参酌したとしても,引用発明から本件発明1に至ること
は,容易ではない。
(オ)なお,被告が行ったとする財団法人化学物質評価研究機構における
透湿試験(乙3。後記3(1)ウ)に用いられた防水膜のうち,原告らか
ら提供されたとされている防水膜は,原告らが提供したものではない。
なぜなら,原告らが提供したものは厚さが約2mmのものであったが,
上記試験に用いられた防水膜は厚さが約4mmのものであったからであ
る。
原告らが本件発明1の方法により作成した防水膜について財団法人化
学物質評価研究機構において試験を行ったところ,透湿度の平均値は7
9g/m・24hとなり(甲13),乙3記載の透湿度の平均値32g/m・24h22
と大きく異なる。
また,原告らが上記試験に用いた防水膜と同材質のポリウレタン膜を
押し出し工法によって施工したところ,その透湿度の平均は57g/m・2
24hであった。このことは,工法によって透湿度が大きく異なることを
示している。
(カ)したがって,審決の相違点5に関する上記判断は失当である。
イ取消事由2(相違点4についての判断の誤り)
(ア)引用例2(実願平1−148710号のマイクロフイルム)には,
2液型塗料の混合液を,スタティック混合部(混合官5)の流出口(出
口10)において,スタティック混合部とこれを覆う外筒(エア導入管
6)との間に形成されるエア経路を流れてくる圧縮エアの流れに乗せて
ノズル部(エアノズル11)から噴出させる塗布装置が開示されてい
る。
しかし引用例2には,そこに示される塗布装置を,「透湿性のある」
防水膜を形成するために用いることについての記載,あるいはそれを示
唆する記載は一切無い。また引用例2には,高速硬化型ウレタン樹脂を
用いることについての記載も無い。
(イ)上記アにおいて相違点5について検討したように,引用発明を「透
湿性のある」防水膜を形成するために用いようとする考えは,当業者と
いえども容易に想到できるものではなく,ましてや,上記アで述べたよ
うな「高速硬化の利用原理」に基づく〈相違点4〉に示される本件発明
1の構成に想到することは,高速硬化型ウレタン樹脂に全く触れず,
「透湿性のある」防水膜の形成についても全く言及していない引用例2
を参照しても,容易ではない。
(ウ)審決は,相違点4について,「…引用発明に,引用例2に記載され
た発明を適用することにより,上記相違点4に係る本件発明1の限定を
付すことは,当業者にとって困難性は無い。」(10頁下10行∼下8
行)と判断しているが,引用発明と引用例2記載の発明とを組み合わせ
るための動機付けとなるものはなく,しかも引用発明は「透湿性のあ
る」防水膜を想定外とするものであることからも,上記審決の判断は失
当である。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。
3被告の反論
(1)取消事由1に対し
ア原告らは,透湿性のある防水膜は本件発明1の施工方法により連続気孔
が形成されるとし,その形成過程として,①混合液滴に空気を包み込ませ
る,②空気を内包した「液滴が積層」し「連続気孔が形成され」ると主張
する。すなわち,連続気孔の形成過程は,比喩的にいえばウレタン樹脂に
シャボン玉のように液滴に空気を内包させ,それらのシャボン玉のような
液滴が積み重なって連続気孔,つまり管が形成されるという趣旨と解され
る。
しかし,本件発明1の施工方法により,原告らが主張するような過程を
経て,ウレタン防水膜を貫通する管が形成されることは到底考えられな
い。
まず液滴は噴射直後から強い表面張力により微小な球形になっており,
そのため液滴内部圧力は表面張力により大気圧より高圧となっているか
ら,これにエアを含ませるためには,これら微小な液滴中に高圧でエアを
注入し,更に液滴の表面張力に逆らって液滴を膨張させなければならない
が,このような変形は自然に生起するものではない。よって,①は形成し
得ない。
また,圧縮エアは噴出時,爆発的に断熱膨張して,大気中に拡散し速度
を失う。一方,液滴は空気とは比較にならないほど慣性が大きく,噴射後
は高速度で空気中を飛翔し,被加工面に激突し,一体化する。よって,②
もあり得ない。
また,仮に本件発明1の施工方法によってウレタン防水膜を貫通する管
が形成されるとすれば,その管を通じて水が浸入することになるのでウレ
タン防水膜はおよそ防水性能を有しないこととなり,本件発明1は産業上
の利用可能性のない発明となる。なぜなら,ウレタン樹脂と水との接触角
(静止液体の自由表面が固体壁面と接触する位置で,液面と固体表面のな
す角)は鋭角であり,そのため,水はウレタン樹脂の表面を濡らすが,こ
のような場合,ウレタン樹脂膜に孔が開いていては,開口に水が触れると
その水は急速に穴内に侵入するから,そのようなウレタン樹脂膜は防水の
役に立たないからである。
イ原告らは,本件発明1が透湿性のある防水膜を形成することを意図して
いるのに対し,引用発明がこれを意図していないという点で本件発明1と
引用発明が相違すると主張する。
しかし,引用発明においても「更にコンクリート平屋根,コンクリート
床面の防水塗装については,特に濡れた部分(金ゴテ押さえ仕上げ面)で
は,考慮する価値がある。」(甲1の訳文2頁下5行∼下4行)として,
コンクリート面の防水に利用することが想定されている。コンクリートは
打設後徐々に硬化するが,その際,水分を蒸散させていくのであり,引用
発明がそうしたコンクリート面への防水施工を前提としている以上,透湿
性のある防水膜については当然予定されていたのであって,ましてやそれ
を除外する意図は一切ない。
引用発明がなされる前の,硬化に時間のかかるウレタン樹脂による防水
膜施工においては,硬化期間中に発生する水蒸気により樹脂皮膜が剥離す
るのを回避するため,コンクリート打設後,コンクリートが充分乾燥する
まで長期間施工を待つ必要があったが,引用発明によるときは,ある程度
乾燥すれば(施工時の温度にもよるが,概ね含水率10%程度まで乾燥す
れば)施工が可能となるので,待ち時間を大幅に短縮できるものである。
防水膜が透湿性を有しなければ,このようなことは実現できるものではな
い。
ウウレタン樹脂防水膜の「透湿性」は,原告らがいうような連続気泡など
によってもたらされるものでなく,ウレタン樹脂自体の天賦の物性である
「吸湿性」に由来するものである。
湿り空気中に置かれたウレタン樹脂は,完全なガスバリア性を有する特
別なものを除き,それが存在する空気中の水分と平衡する水分を吸収,保
有しているものである。長時間一定の温度,湿度の空気中に保持されたウ
レタン樹脂の含水率は,周囲空気の水蒸気張力,すなわち湿度と温度に応
じて定められる一定の値となり,このときウレタン樹脂中の水分は外気の
水分と平衡状態になる。また,含水率は,高湿度の空気中では高くなり,
乾燥した空気中では低くなる。このときの水分含有率を平衡含水率という
こととする。樹脂フィルムの一面(以下,「A面」という。)が高湿度の
湿った空気と接し,他の一面(以下,「B面」という。)が低湿度の乾燥
した空気と接するようにすると,樹脂フィルム内のA面近傍の部分では含
水率が高くなり,B面近傍の部分は含水率が低くなる。このため,樹脂フ
ィルム内部に含水率の勾配が生じ,含水率の高いところから低いところに
向かって,水分の移動が生じる。そうすると,樹脂フィルム一方の面近傍
の部分で含水率の低下が生じ,含水率は平衡含水率以下となるので,A面
側では外気からの湿気の吸収が起こる。同時に,B面側では含水率が平衡
含水率以上に高まるので,B面においては湿気の放散が生じ,これにより
湿気が樹脂フィルムを透過することになる。これが樹脂フィルムの「透湿
性」と呼ばれる性質である。
このように,樹脂フィルムの「透湿性」は,樹脂フィルムそのものの属
性であって,フィルムに孔が開いていることによるものではない。
被告は,原告らから提供された防水膜(以下「原告防水膜」という。)
と被告施工にかかる防水膜(以下「被告防水膜」という。)につき,財団
法人化学物質評価研究機構において透湿試験を実施したところ,原告防水
膜の透湿度の平均値が32g/m・24hであるのに対し,被告防水膜の透湿度2
の平均値は79g/m・24h(吹付け工法)と59g/m・24h(押出し工法)で22
あったから,被告防水膜は原告防水膜と同等かそれ以上の透湿性を有する
ことが確認された(乙3)。また,原告防水膜と被告防水膜の断面の電子
顕微鏡撮影を行ったところ,同様に気泡が交じっていた(乙4)。したが
って,原告防水膜と被告防水膜は透湿性において同等であり,断面の様子
も同様である。
原告らが主張する甲11(Dほかの報告)の結果の違い(前記(4)ア(ア
)c)は,工法によるものではなく,ウレタン樹脂の化学構造や密度の差
によるものである。
エ原告らは,引用例3∼5と本件発明1は技術分野が異なると主張する
が,引用例3∼5は,コンクリート表面に適用される,透湿性のあるウレ
タン防水膜が記載されたものであり,コンクリートから長期間にわたって
水分が発散させることについては周知であるから,引用発明と共通してい
る。
(2)取消事由2に対し
原告らの主張は,連続気孔による透湿性を前提とするものであるが,上記
(1)のとおり前提に誤りがあり,失当である。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審
決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2取消事由について
(1)本件発明1の意義
ア本件訂正後の明細書(甲9の特許公報を甲10の特許決定公報記載のと
おり訂正したもの)には,「特許請求の範囲」として前記第3,1(2)の
とおり記載されているほか,「発明の詳細な説明」として次の記載があ
る。
(ア)産業上の利用分野
「本発明は,コンクリートビルの屋上やプールの底・側面などにウレ
タン防水膜を形成する防水膜施工方法に関するものである。」(段落【
0001】)
(イ)従来の技術
「コンクリートビルの屋上などに防水膜を形成する方法として,高速
硬化ウレタン樹脂主剤液とその硬化剤液とを吹きつけ中に衝突混合させ
て,施工物表面にウレタン防水膜を形成する方法は従来より知られてい
る。」(段落【0002】)
(ウ)発明が解決しようとする課題
「ところが,従来の方法でコンクリートやモルタルの被施工物表面に
ウレタン防水膜を形成すると,コンクリート等の内部から時間をかけて
蒸散する水蒸気がウレタン防水膜裏面に閉じ込められて,その圧力でウ
レタン防水膜のところどころが盛り上がるフクレ現象が見られた。この
フクレ現象を防止するために,図8に示すように,コンクリート等から
なる被施工物91とウレタン防水膜92との間にガラスメッシュなどの
通気用スペーサ93を設けると共に,通気用スペーサ93に連通する脱
気筒90を設け,ウレタン防水膜92の裏面に水蒸気が溜まらないよう
にしている。しかし,このような工法は煩雑でコスト高となるばかり
か,ウレタン防水膜92と被施工物91との間の密着強度を低下させ,
また,プールなどの防水膜には利用されないという問題点があった。」
(段落【0003】)
「また,従来の方法では,1回の吹きつけでは所定の厚みのウレタン
防水膜を形成することが困難で,数回の吹きつけが必要であったため,
作業能率が悪かった。」(段落【0004】)
「さらに従来の方法ではウレタン防水膜と被施工物との間の密着強度
が不十分であると問題点もあった。」(段落【0005】)
「本発明は上記従来の方法の問題点を解消することを課題とする。」
(段落【0006】)
(エ)課題を解決するための手段
「本発明は上記の課題を解決するために,混合すると5∼15秒で硬
化する高速硬化ウレタン樹脂主剤液とその硬化剤液とをスクリューガイ
ドで形成されているスタティック混合部に圧送し,これら2液をスタテ
ィック混合部で混合した後,この混合液をスタティック混合部の流出口
において,スタティック混合部とこれを覆う外筒との間に形成されるエ
ア経路を流れてくる圧縮エアの流れに乗せてノズル部から噴出させ,被
施工物に吹きつけてその表面に透湿性のあるウレタン防水膜を形成する
ことを特徴とする。」(段落【0007】)
(オ)作用
「本発明によれば,高速硬化ウレタン樹脂主剤液とその硬化剤液とを
スクリューガイドで形成されているスタティック混合部で十分に混合さ
せた後に,スタティック混合部の流出口において,ノズルより圧縮エア
の流れに乗せて混合液を噴出させるように構成した結果,水は透過しな
いが,水蒸気は透過するウレタン防水膜を被加工物の表面に形成するこ
とに成功した。」(段落【0010】)
「その理由は必ずしも明らかではないが,主剤液と硬化剤液との十分
な混合が行われ,硬化を始めつつある混合液滴が圧縮エアに乗ってノズ
ルより噴出することによって,混合液滴が比較的大きな粒径,すなわ
ち,1.0∼3.0μmの粒径を有するとともに,均質な材質のものと
なり(従来の方法では混合液滴の粒径は0.2∼0.5μm位で,不均
一な材質のものとなっていた。),その混合液滴が被施工物表面上で積
層されてウレタン防水膜を形成する際,比較的大きくて,つぶされにく
い気孔が形成され,これら気孔が連続する確率が高くなる結果,水は透
過しないが,水蒸気は透過するウレタン防水膜が形成されるものと推測
される。」(段落【0011】)
「また,混合液滴の硬化が早期に開始されている結果,被施工物表面
上での混合液滴の積層が容易になされるので,2∼3mm程度の肉厚の
ウレタン防水膜の形成は1回の吹きつけで可能となる。」(段落【00
12】)
「さらに,混合液滴の材質を均一のものとすることができると共に,
半硬化状態となっている混合液滴の被施工物に対する衝突時のエネルギ
ーが大となっているため,高品質で密着強度の大きなウレタン防水膜を
形成することができる。」(段落【0013】)
イ以上の明細書の記載によると,本件発明1は,「混合すると5∼15秒
で硬化する高速硬化ウレタン樹脂主剤液とその硬化剤液とをスクリューガ
イドで形成されているスタティック混合部に圧送し,これら2液をスタテ
ィック混合部で混合した後,この混合液をスタティック混合部の流出口に
おいて,スタティック混合部とこれを覆う外筒との間に形成されるエア経
路を流れてくる圧縮エアの流れに乗せてノズル部から噴出させ,被施工物
に吹きつけること」により,水は透過しないが水蒸気は透過するウレタン
防水膜が形成されるとともに,2∼3mm程度の肉厚のウレタン防水膜の
形成が1回の吹きつけで可能となり,また,高品質で密着強度の大きなウ
レタン防水膜を形成することができる,というものであることが認められ
る。
(2)引用発明と本件発明1との対比
ア引用例1(欧州特許第81729号明細書[1987年7月29日発行
]。甲1)には,次の記載がある(訳文は,原告ら提出の訳文によ
る。)。
(ア)「本発明に係るポリウレタン形成液の攪拌は,2液型,混合・攪拌
機械を使用して行うのが実用的である。その場合反応する2液は別々に
ミキシングガンに送り込まれ,スタティックミキサーか,逆方向注入に
よって攪拌され,最終的にはエアーを使って,あるいはエアーを使わな
いで吹き付けられる。反応する2液の配合はたいていの場合,歯車ポン
プか,往復動ピストンポンプによって行われる。ピストンポンプをスタ
ティックミキサーと共に使用する場合,反応する混合液は,材料の圧力
が高いのでこの吹き付け方法では,エアーの助けがなくても吹き付けを
行うことができる(エアレス)。反応液は吹き付け後約10−12秒で
硬化する。垂直面に吹き付ける場合でも,材料の特性から円滑に作業す
ることが要求される。普通に使用すれば硬化中に垂れることはない。
本発明の係る材料は,金属,合成樹脂,場合によっては多孔性合成樹
脂,あるいはまたコンクリート,金ゴテ押さえ仕上げ面,木材,壁,自
然石の上に,磨耗に強く,防水性,耐蝕性,弾力性のある皮膜,塗装,
中塗り層,下塗り層,あるいは防水層を作るために使用される。
合成樹脂としては,例えばポリウレタン,ポリスチロール,ポリエチ
レン,あるいはポリアミドをベースとする,ポリエチレン,ポリプロピ
レン,EPDM,ポリスチロール,ABS−重合体のような重合体,あ
るいはポリアミド,ポリエステル,ポリ硫化物,あるいはポリエーテル
のような重縮合体,あるいはフェノールフォルムアルデヒド樹脂,アミ
ンフォルムアルデヒド樹脂,エポキシ樹脂,UP−樹脂,またフォーム
プラスチックなどが適している。
適用例としては,広い面積の金属部分の塗装,場合によっては防水と
して,例えばスチール矢板壁,船のデッキ,貨物倉口の塗装,ワゴン,
ばら荷船倉,トロッコ,自在雨どいの側面,浮遊液分離器(ハイドロサ
イクロン),シュート,排水側溝,全ての種類のタンク(例えば腐食性
のある液体やばら荷の輸送用),ごみ収集車のドラムの防音用外壁塗
装,生コン輸送車の排出用溝の耐磨耗性塗装,ブリキ屋根,平らな屋根
の塗装などがある。
重要なのはパイプの内壁,外壁塗装に使用できることである。充填剤
を入れた材料は,例えば,はしご,船のデッキ,作業台などにアンチス
リップ塗装としても使用できる。
ポリウレタンフォームプラスチックあるいはポリエチレンフォームプ
ラスチックは,例えば外面被覆に利用できる。
特に重要なのは,吹き付け工法により,金ゴテ押え仕上げ面や(鉄
筋)コンクリートの上に,目地のない,弾力性のある防水層を作るため
のポリウレタン形成液を施工することである。それにより強力な腐食性
のある物質が浸入するのを防ぐことができる。本発明に係るポリウレタ
ン弾性プラスチックは高い弾力性と伸びがあるので,比較的広い外気温
度の範囲で,温度変化が激しい所でも防水作用が保証されている。更に
反応混合物が早く固まるので,下地から昇ってくるガス(空気,水蒸
気)による毛細管が発生しない。このような特性により,本発明に係る
ポリウレタン弾性プラスチックは,例えば平屋根,丸屋根,高速道路な
どの進入路,バルコニー,工業用建造物などの鉄筋コンクリート建造物
の防水用として,例えばUS-PS3723163やDE-A2051956に記載されて
いるような,硬化時間が長いポリウレタンーコンビネーションのよう
に,塗装作業の工程が多く手間暇がかかり,天候に左右され易い従来の
材料と比較して,特に利点がある。
更にコンクリート平屋根,コンクリート床面の防水塗装については,
特に濡れた部分(金ゴテ押さえ仕上げ面)では,考慮する価値があ
る。」(6頁25行∼7頁2行,訳文1頁下11行∼2頁下4行)
(イ)「例1
・コンポーネントA)
1)プロピレン酸化物とエチレン酸化物(80:20)を添加する
ことにより,トリメチロールプロパン(分子量約4800)で発生す
るポリエーテル80部。そしてその中で予めグラフト重合という条件の
もとでスチロール/アクリルニトリルの混合物が重量比で20:80で
変換され,それにより20部のグラフトが発生する。そのように変態し
たポリオールの粘度は,20℃で3000mPa,CH−数28。
2)3,5−ジエチル−3’,5’−ジイソプロピル−4,4’−
ジアミノジフェニールメタン,3,3’5’,5’−テトラエチルー
4,4’−ジアミノジフェニールメタン,3,3’,5,5’−テトラ
イソプロピルー4,4’−ジアミノジフェニールメタン(56:22:
22)からなる異性体混合物20部。
3)4−ジアザー(2,2,2)−二環式オクタン0.1部。
コンポーネントA/1−3を混合する。
・コンポーネントB)
コンポーネントB)は,NCO−プレアダクト(粘度は20℃にお
いて3100mPa.s)で,それは,ポリイソシアナート{アニリン
とフォルムアルデヒド(2,4’−異性体40部,31.5部のNCO
−含有量,粘度は20℃において50mPa.s)からなる縮合物のホ
スゲン化により作られる}62部と,
プロプレン酸化物の添加によって,プロプレングリコール(分子量
2,000)で作り出されるポリオール100部,及び,NCO−プレ
アダクト中に含まれるイソシアナート10部が発生する。
コンポーネントB)4部を
コンポーネントA)100部とよく混合する。
この混合液は,その目的に適したように,二液型配量混合マシンによ
って混合される。その場合,反応液は別々に混合ピストルの中に入れら
れ,その中ではミキサーあるいはスタティックミキサーによって攪拌さ
れ,最終的に外に出される。反応混合液は混合液が塗布されてから15
秒で固まる。水平な金属面に吹きつける場合,材料は滑らかに流れ,普
通に使用すれば硬化時間内では,たれは発生しない。
機械的特性は表を参照のこと。」(7頁4行∼39行,訳文2頁下3
行∼3頁下9行)
イ以上の引用例1記載の発明(引用発明)と本件発明1とを対比すると,
前記第3の1(3)イの審決が認定するとおりの一致点,相違点があるが,
相違点1∼3は実質的な相違点ということができない(審決8頁18行∼
10頁18行。以上の点は当事者間に争いがない。)
(3)取消事由1(相違点5についての判断の誤り)につき
ア(ア)原告らは,引用発明で想定される具体的な防水膜施工方法は,完全
シール型の防水膜を形成しうる方法であり,逆に不完全なシール性しか
有さない「透湿性のある」防水膜を形成する具体的な防水膜施工方法は
想定外であり,もっと言えば,除外されるべきものである,と主張す
る。
(イ)しかし,引用例1には,前記(2)ア(イ)のとおり,ウレタン防水膜
に,下地から昇ってくるガスによる毛細管が生じないことは記載されて
いるものの,完全シールの「透湿性のない」防水膜を形成することが記
載されているとは認められない。
(ウ)証拠(甲13[試験報告書],乙3[試験報告書],8[被告ホー
ムページ])及び弁論の全趣旨によれば,①被告が原告らから提供を受
けた本件発明1の方法によって施工した防水膜(原告防水膜)並びに被
告が吹き付け工法によって施工した防水膜及び被告が押し出し工法によ
って施工した防水膜について,被告の依頼によって財団法人化学物質評
価研究機構が透湿度の試験をしたところ,原告防水膜の透湿度の平均値
が32g/m・24hであるのに対し,被告が吹き付け工法によって施工した2
防水膜の透湿度の平均値は79g/m・24h,被告が押し出し工法によって2
施工した防水膜の透湿度の平均値は59g/m・24hであったこと,②原告2
らが提供した本件発明1の方法によって施工した防水膜及びそれと材質
は同じであるが押し出し工法によって施工した防水膜について,原告ら
の依頼によって財団法人化学物質評価研究機構が透湿度の試験をしたと
ころ透湿度の平均値は,本件発明1の方法によるものが79g/m・24h,2
押し出し工法によるものが57g/m・24hであったことが認められる。2
この点について,原告らは,上記①の被告の依頼による試験には,原
告らが提供した防水膜は用いられていないと主張し,その根拠として,
原告らが提供したものは厚さが約2mmのものであったが,上記試験に
用いられた防水膜は厚さが約4mmのものであった,と主張する。しか
し,弁論の全趣旨によれば,原告らが提供した防水膜は,厚さが一様で
なく,厚さが約4mmの部分もあったと認められるから,原告らの主張
は根拠を欠くものであり,その他,上記①の被告の依頼による試験に原
告らが提供したものが用いられなかったことを疑わせる事情はないか
ら,上記①の被告の依頼による試験には,上記認定のとおり,原告らが
提供した防水膜が用いられたものと認められる。
また,証拠(乙4の1[試験報告書],4の2∼20[写真],5[
試験報告書])及び弁論の全趣旨によれば,吹き付け工法を採用してい
る場合には,被告が原告らから提供を受けた本件発明1の方法によって
施工した防水膜(原告防水膜)でも,被告が吹き付け工法によって施工
した防水膜でも,同様に気泡が形成されていること,これに対して,被
告が押し出し工法によって施工した防水膜には気泡は形成されていない
ことが認められる。そして,上記①,②のいずれの試験においても,押
し出し工法によって施工したものは,吹き付け工法によって施工したも
のよりも透湿性が劣ることからすると,この気泡の存在が透湿性に影響
を与えていると考えられる。
以上によると,ウレタン防水膜の透湿性は,押し出し工法によって施
工するか,吹き付け工法によって施工するかによって差があるものの,
いずれの方法によって施工したものでも透湿性があることが認められ
る。
(エ)以上の(イ)(ウ)で述べたところからすると,吹き付け工法を用いて
いる引用発明について,「引用発明で想定される具体的な防水膜施工方
法は,完全シール型の防水膜を形成しうる方法であり,『透湿性のある
』防水膜を形成する防水膜施工方法は想定外であり,もっと言えば,除
外されるべきものである」との原告らの主張を採用することはできな
い。
イ原告らは,本件発明1においては,主剤液と硬化剤液との充分な混合が
行われた混合液をスタティック混合部の流出口において,ノズルより圧縮
エアの流れに乗せて噴出させ,混合液滴相互間にエアが包み込まれるよう
にして,被施工物表面に達したときには混合液滴が積層されつつすでに内
包されたエアを逃がさない(これにより連続気孔が形成され,最終的には
エアは外部に逃げる)程度まで固化しているという高速固化の性質を利用
して,「水は透過しないが,水蒸気は透過する」(透湿性のある)ウレタ
ン防水膜を被施工物の表面に形成することに成功した,と主張する。
また,本件訂正後の明細書(甲9,10)には,前記(1)ア(オ)のとお
り,「混合液滴が比較的大きな粒径,すなわち,1.0∼3.0μmの粒
径を有するとともに,均質な材質のものとなり…,その混合液滴が被施工
物表面上で積層されてウレタン防水膜を形成する際,比較的大きくて,つ
ぶされにくい気孔が形成され,これら気孔が連続する確率が高くなる結
果,水は透過しないが,水蒸気は透過するウレタン防水膜が形成されるも
のと推測される。」(段落【0011】)との記載がある。
しかし,上記アで述べたとおり,吹き付け工法によって施工したもの
は,押し出し工法によって施工したものより透湿性が優れているのであっ
て,原告らが主張する本件発明1において透湿性が優れているという効果
も,吹き付け工法を用いたということを超えるものとは認められない。
甲11(Dほか報告「ジェットスプレー工法を用いて塗膜形成した超
速硬化性ポリウレタンのコンクリート表面被覆材の性質」コンクリート工
学年次論文集Vol.29,No.2,2007)には,ジェットスプレ
ー工法(噴射直前に主剤と硬化剤を攪拌混合した超速硬化性ポリウレタン
を圧縮空気により吹き付け,被覆面に塗膜形成する工法)によって施工し
た場合には,透湿度が一般のポリウレタン樹脂よりも高いことが記載され
ている。このジェットスプレー工法が本件発明1の方法を意味するとして
も,同じ吹き付け工法でも,本件発明1の構成を採用した場合には他の工
法よりも透湿性が高いことまでが記載されているわけではない。
そのほか,同じ吹き付け工法でも,本件発明1の構成を採用した場合に
は,原告らが主張するような本件発明1特有の作用効果が生ずることを裏
付ける実験結果や文献があるとは認められない。
そうすると,本件発明1の構成を採用した場合には,原告らが主張する
ような本件発明1特有の作用効果が生じて,「水は透過しないが,水蒸気
は透過する」(透湿性のある)ウレタン防水膜が被施工物の表面に形成さ
れるとは認められない。
ウ原告らは,本件発明1の方法によった場合は,「ふくれ現象」が生じな
いのに対し,そうでない場合は,「ふくれ現象」が生ずる,と主張する。
しかし,上記イのとおり,同じ吹き付け工法でも,本件発明1の構成を
採用した場合に他の方法よりも透湿性が高いとは認められないから,本件
発明1の方法によった場合は「ふくれ現象」が生じないのに対し,そうで
ない場合は「ふくれ現象」が生ずると認めることもできない。
エ原告らは,引用発明と引用例3∼5記載の発明とを組み合わせようとす
る契機となるものは無く,両者の組み合わせそのものが容易ではない,と
主張するので,以下,検討する。
(ア)引用例3(特開平1−187264号公報。甲3)について
a引用例3には,次の記載がある。
(a)特許請求の範囲
「4.最大孔径が15μm以下の連続多孔質ポリテトラフルオロ
エチレンフィルムのコンクリート施工面と接する裏面に透湿性とク
ッション性を有する発泡組織材…を接着したことを特徴とするコン
クリート施工面用シート防水材。」(1頁左欄下2行∼右欄4行)
(b)発明の詳細な説明
α発明が解決しようとする課題
「上記した従来一般のシート防水材においては外部からの水分
附着侵入を防止し得ることは明かであるが,このような防水シー
ト材は透湿性がないのでコンクリート層内から水分を気散するこ
とができない。即ち上記のようなコンクリート(モルタルをも含
む。以下同じ)においては,成形,充填のための適切な流動性な
いしワーカビリティを得るため,該混合物における水和反応に必
要とされる水分量よりそれなりに過剰の水を添加混練して調整し
施工することが普通であり,斯うした過剰な配合水は施工後にお
いてブリージング水として表面に浮上分離することとなるが,こ
のようなブリージング水が防水シートによって気散されないこと
となるのでコンクリート面に溜り,あるいはコンクリート面とシ
ート防水材との間に膨れや剥がれを生ぜしめて折角の仕上げ表面
を劣化し,場合によっては漏水事故の原因となる。」(2頁左上
欄16行∼右上欄12行)
β作用
「上記した連続多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムの
コンクリート施工面と接する裏面に発泡組織材…のようなクッシ
ョン性を有するシートを接着することによってアルカリ骨材反応
などによりコンクリートに発生したクラックによる歪みを吸収し
吸水性を維持せしめる。」(3頁左上欄13行∼18行)
γ実施例
「更に本発明によるものがクラックなどに対する追従性をも要
求される場合においては第6図に示すようにコンクリート施工面
4に接する面にクッションシート3を接着したものとする。該ク
ッションシート3としては発泡ポリウレタン…を採用することが
できる。(3頁右下欄下1行∼4頁左上欄9行)
b以上の記載によると,引用例3には,コンクリート施工面と接する
面に施工される「透湿性を有する発泡ポリウレタン」が記載されてい
る。もっとも,この「透湿性を有する発泡ポリウレタン」は,コンク
リート施工面に接する面にクッションシートとして施工されるもので
あって,それ自体が防水膜といえるかどうかは明らかでない。
(イ)引用例4(特開平1−295950号公報。甲4)について
a引用例4の「発明の詳細な説明」には,次の記載がある。
(a)産業上の利用分野
「本発明は,建築における発泡ウレタンフォームによる外断熱工
法,特に外断熱で外壁仕上げ材との間に空気層を形成した外断熱工
法に関するものである。」(1頁右欄9行∼12行)
(b)実施例
「第1工程∼
処理を所望する鉄筋コンクリート壁面1に所定間隔をもってドラ
イブピン2…を打設する。
第2工程∼
上記ドライブピン2に断熱ボルト3を螺合する。
第3工程∼
上記鉄筋コンクリート壁面1の外面に,上記ドライブピン2と断
熱ボルト3との螺合部分を覆う厚さに(約30mm∼50mm)
に,硬質ポリウレタンフォーム4A(ソフラン∼商標∼日本ソフラ
ン建材株式会社)を吹き付け,硬質ポリウレタンフォームの層4を
形成する。
第4工程∼
上記断熱ボルト3の中間位置に断熱ナット5を螺合させ,当該断
熱ナット5を上記硬質ポリウレタンフォームの層4の外面に当接さ
せる。
第5工程∼
上記断熱ボルト3の先端に間柱6を連結し,断熱ナット7で緊縮
する。
第6工程∼
上記間柱6に上記硬質ポリウレタンフォームの層4とは,空気層
8を存して継目胴縁9を当該間柱6の長手方向とは直交方向をもっ
て張設する。
第7工程∼
上記間柱6と上記継目胴縁9の外側に,外壁仕上10を張設す
る。」(2頁左下欄13行∼3頁左欄2行)
(c)発明の効果
「本発明は,上述の通り構成されているので次に記載する効果を
奏する。
A.ウレタンフォームを透湿した湿度が,空気層に取り込まれ
る。」(3頁左欄9行∼12行)
b以上の記載によると,引用例4には,建築における発泡ウレタンフ
ォームによる外断熱工法について「透湿性を有するウレタンフォー
ム」が記載されていると認められる。もっとも,この「透湿性を有す
るウレタンフォーム」は,それ自体が防水膜といえるかどうかは明ら
かでない。
(ウ)引用例5(特開昭63−181858号公報。甲5)について
a引用例5の「発明の詳細な説明」には,次の記載がある。
(a)産業上の利用分野
「本発明は,コンクリート構造物を構築する際に用いる型枠に関
する。」(1頁左欄11行∼12行)
(b)問題点を解決するための手段
「本発明の型枠は,連通体(ここでいう連通体とは水を侵出・透
過できる連通孔を有する部材を指す)を補強用の裏打ち材としてこ
れに表裏,両面を繊維層で補強した通気性の樹脂皮膜で表面を被覆
させた型枠を用いることによってコンクリート中の含水分のうち水
蒸気として発生する水分のみを外部に放出して,打設コンクリート
の硬化を早めて工期の短縮を図る型枠を提供するものである。
以下に本発明を詳記する。
本発明に使用する通気性樹脂皮膜は最近開発されたもので,…あ
る。
これらの通気性樹脂皮膜としては…ポリウレタン製等が知られて
おり,これらの皮膜の耐水性は通常,耐水圧で500mmHO2
(JIS−L−1092・A法・静止圧法)である。また,通気性
は通常,透湿度で100−10000g/m・atm・24hr2
(ASTM−E−96−66,32,2℃・内100%PH/外5
0%PH)であり,云い換えると水は通さないが水蒸気は通すとい
う特性を有する樹脂皮膜である。
この通気性の樹脂皮膜は通常5−500μmの薄い膜であって,
これを単体としてコンクリート型枠とするためには剛性も強度も不
足する。そこで予め通気性の樹脂皮膜の表裏両面に繊維層を積層し
て補強しさらに剛性の高い材料を裏打ち材とすることになるが,こ
の裏打材として鉄板や樹脂製の型枠を用いるものでは前述の如く通
気性がないので,通気性が阻害され目的が達しえない。
そこで,本発明者らは通気性皮膜の表裏両面に…ポリウレタン等
の樹脂の繊維材の織布,不織布を積層形成し,裏打用材としてハニ
カム構造体,木材,ベニヤ合板等の連通性のある厚い層を介在させ
ることによって解決した。」(1頁右欄下3行∼2頁右上欄下2
行)
(c)本発明の効果
「本発明のコンクリート型枠では打設されたコンクリートは繊維
層を通して通気性の樹脂皮膜と接触するので余剰水分は日中気温の
上昇と共に皮膜を通じて水蒸気の形で連通体をへて外部に放出され
るが水硬性としてのセメントの硬化に必要な水分はコンクリート中
に残留するため,コンクリートの硬化を早め工期の短縮が期待で
き,工期の短い北国での構築施工に極めて有利でありしかもコンク
リートの硬化後の強度においてもコンクリート中の余剰水のみを放
出するので問題はない。」(3頁左下欄1行∼11行)
b以上の記載によると,引用例5には,コンクリート構造物を構築す
る際に用いる型枠に「防水性と透湿性を有するポリウレタン」を樹脂
皮膜として用いることが記載されていると認められる
(エ)上記のとおり,引用例3に示されるものは防水シートであり,引
用例4に示されるものは建築における外断熱工法に関するものであり,
引用例5に示されるものはコンクリート型枠である。また,引用例3∼
5には,2液混合タイプの高速硬化ウレタン樹脂を用いて防水膜を施工
形成すること,この混合液をスタティック混合部の流出口において,ノ
ズルより圧縮エアの流れに乗せて噴出させことにより透湿性のある防水
膜を形成することは,記載されていない。しかし,そうであるとして
も,上記のとおり,引用例3及び4には「透湿性のあるウレタン」が,
引用例5には「防水性と透湿性を有するウレタン」がそれぞれ記載され
ているから,「透湿性のあるウレタン又は透湿性のあるウレタン防水
膜」が本件特許出願(平成6年6月13日)前に知られていたことを認
定するために用いることは妨げられないというべきである。
オ以上を総合すると,本件発明1の「水は透過しないが,水蒸気は透過す
る」(透湿性のある)ウレタン防水膜が被施工物の表面に形成されるとの
作用効果は,格別のものということはできず,当業者(その発明の属する
技術の分野における通常の知識を有する者)は,引用発明に,引用例3∼
5に記載された発明を適用して,相違点5(ウレタン防水膜が「透湿性の
ある」ものであること)を容易に想到することができたというべきであ
る。
カ以上述べたとおり,「…ウレタン防水膜に『透湿性のある』の限定を付
し,上記相違点5に係る本件発明1の限定を付すことは,当業者にとって
困難性はない。」(11頁6行∼7行)とした審決の判断に誤りはないか
ら,取消事由1は理由がない。
(4)取消事由2(相違点4についての判断の誤り)につき
ア引用例2(実願平1−148710号[実開平3−90649号]のマ
イクロフィルム[甲2])には,次の記載がある。
(ア)従来の技術
「2液型塗料塗布装置には高圧微粒化方式によるスプレーガン,およ
び低圧で被塗布物に滴下してコテやハケなどで伸ばすフローガンを用い
るのが一般的である。
高圧微粒化によるスプレーガン方式は,2液型塗料のそれぞれを,高
圧の定量ポンプによって計量した後,管内に混合装置を設けた静止型管
内混合管(以下単に混合管と称する。)又は,その他のインラインミキ
サーで混合してスプレーガンによって微粒化し塗布する。
この方法は高圧の液圧で行うため夫々の構成機器が高価であり,また
2液型硬化塗料を塗布する場合にはその塗布作業を中断するときには,
そのポットライフ以内に配管などの洗浄を行なわなければならない。し
かし実作業においては,しばしばこの作業をおこたり,高価なスプレー
ガン,混合管,又はその他のインラインミキサーおよび配管などの内部
で塗料を硬化させて再使用不可能にしてしまう欠点がある。
また混合攪拌された2液型塗料を低圧にて被塗布物に滴下後コテ又は
ハケなどで伸ばすフローガン方式はそのために人手を要する欠点があ
る。」(1頁下6行∼2頁16行)
(イ)課題を解決するための手段
「この考案は前記の従来の欠点を解消するために,管内に混合要素を
設けた静止型管内混合管の混合液吐出部の周囲に,その外壁との間にエ
アノズルを形成するような内壁を持ったエア導入管を,該混合管の外側
に着脱可能に取り付けたことを特徴とする2液型塗料塗布装置を得たも
のである。」(2頁下3行∼3頁3行)
(ウ)実施例
「…2液型塗料は,夫々の塗料を入れた容器21,22から夫々の定
量ポンプ19,20により,夫々必要な比率に定量され,夫々の供給管
24,25を通ってマニホルド3に供給される。混合管5がロックナッ
ト4によって取りつけられ,さらに混合管5の外部にセットボルト7に
よってエア導入管6が取りつけられ塗布装置30を構成している。…」
(3頁10行∼17行)
「高圧空気はエアコンプレッサ16から圧縮空気供給管23,エア開
閉弁15を経て,エア入口9からエア導入管6に導入される。」(3頁
下1行∼4頁2行)
「マニホルド3の出口側には混合管5がロックナット4で取りつけら
れている。そして混合管5の出口側にはエアの入口9及び出口12を設
けたエア導入管6がセットボルト7で取り付けられている。」(4頁下
9行∼下5行)
「混合管5の内部には混合要素8が設けられており,混合管5の出口
10の周囲には,混合管の外壁14とエア導入管6の内壁13により,
エアノズル11が形成されている。」(4頁下4行∼下1行)
(エ)作用
「エアコンプレッサー16から…送られてきた圧縮空気は各実施例の
エア入口9からエア導入管6に入り,エアノズル11から圧縮空気が噴
射される。一方,混合管出口10からは混合された2液型塗料が吐出さ
れてきて,空気の速度と急激な拡散作用により微粒化され,被塗布物上
に均一に塗布される。」(5頁下7行∼下1行)
イ以上の引用例2の記載によると,引用例2には,①2液型塗料の混合管
5の内部に混合要素8が設けられており,②混合管5の出口10の周囲
に,混合管の外壁14とエア導入管6の内壁13により,エアノズル11
が形成されており,③混合管5の出口10から吐出される混合された2液
型塗料を,エアノズル11から噴射される圧縮空気の流れに乗せて被施工
物に塗布する,2液型塗料塗布装置が記載されているものと認められる。
引用例2には,高速硬化型ウレタン樹脂を用いることについての記載は
なく,「透湿性のある」防水膜の形成についての記載もないが,2液を混
合部で混合して噴出させ,被施工物に吹き付ける点では,引用例2記載の
発明は引用発明と同じであるから,当業者にとって,引用発明に,引用例
2記載の構成を適用して,相違点4に係る構成(「スタティック混合部の
流出口において,スタティック混合部とこれを覆う外筒との間に形成され
るエア経路を流れてくる圧縮エアの流れに乗せてノズル部から噴出さ
せ,」の構成)を採用することは容易であるものと認められる。
ウ原告らは,引用発明を「透湿性のある」防水膜を形成するために用いよ
うとする考えは,当業者といえども容易に想到できるものではなく,まし
てや,「高速硬化の利用原理」に基づく〈相違点4〉に示される本件発明
1の構成に想到することは,高速硬化型ウレタン樹脂に全く触れず,「透
湿性のある」防水膜の形成についても全く言及していない引用例2を参照
しても容易ではない,と主張する。しかし,前記(3)のとおり,本件発明
1の「水は透過しないが,水蒸気は透過する」(透湿性のある)ウレタン
防水膜が被施工物の表面に形成されるとの作用効果は,格別のものという
ことはできず,また,引用発明を「透湿性のある」防水膜を形成するため
に用いようとする考えは,当業者といえども容易に想到できるものではな
いとの原告らの主張を採用することはできないのであって,引用例2に
は,高速硬化型ウレタン樹脂を用いることについての記載はなく,「透湿
性のある」防水膜の形成についての記載がないとしても,上記のとおり,
引用発明に,引用例2記載の構成を適用して,相違点4に係る構成を採用
することは容易であると認められる。
エ以上述べたとおり,「…引用発明に,引用例2に記載された発明を適用
することにより,上記相違点4に係る本件発明1の限定を付すことは,当
業者にとって困難性はない。」(10頁下10行∼下8行)とした審決の
判断に誤りはないから,取消事由2も理由がない。
3結論
以上のとおり,原告ら主張の取消事由はすべて理由がない。
よって,原告らの請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官森義之
裁判官澁谷勝海

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