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奈良地裁平成20・10・31
316条の20第1項一部開示命令
主文
1検察官に対し,株式会社A社及び同社関係者に対する取調べ及び捜索等の捜査経緯が記
載された捜査報告書を開示することを命じる。
2その余の本件請求を棄却する。
理由
第1本件請求の趣旨及び理由
本件請求の趣旨及び理由は,弁護人3名共同作成に係る裁定請求書,同補充書(平成20
年9月12日付け),同補充書2(同年10月7日付け)及び「裁定請求書(補充書3)兼釈明書」
(同月9日付け)各記載のとおりであり,これに対する検察官の意見は,検察官B作成の
意見書及び補充意見書各記載のとおりである。
本件請求は,要するに,弁護人が検察官に対し,その主張に関連する証拠として別紙記
載の各証拠の開示を求めたが,検察官がこれを拒否したので,同証拠の開示命令の発令を
求めるというものである。
第2当裁判所の判断
1本件基本事件の公訴事実の要旨は,医師である被告人が,Cに対する現住建造物等放
火・殺人等保護事件に関し,D家庭裁判所からCの精神鑑定を命ぜられ,同裁判所から鑑
定資料としてC及びその実父Eらの供述調書等の写しを交付されていたが,正当な理由が
ないのに,3回にわたり,FにCらの供述調書等を閲覧させるなどし,その業務上取り扱
ったことについて知り得たC及びEの秘密を漏らしたというものである。
2本件基本事件における弁護人の主張は多岐にわたるが,本件請求との関係では,[1]C・
Eが本件基本事件の告訴権者であるとしても,その告訴は,同人らが本件に関する説明等
を受けていなかったか,検察官や代理人弁護士の働きかけ等により真意に基づかずにされ
た無効なものである,[2]本件公訴の提起は,検察官以外の者の実質的決定等によるもの
か,C・Eに告訴を働きかけるなどしたか,あるいは,犯罪報道規制を主たる目的とし,
批判を回避するために捜査・起訴の対象を被告人に限定するなどした結果,国策によって
行われたのであるから,公訴権を濫用した無効なものである,[3]本件基本事件において
秘密漏示罪が成立するとしても,被害者であるC・Eの被害感情はしゅんれつではない旨
の各主張([1][2]は,弁護人3名の共同作成に係る平成20年9月1日付け予定主張記載書面
(2)記載の2及び3の各主張。[3]は同年10月7日付け予定事実記載書面(3)記載の主張)の全
部又は一部に関連するとして,別紙記載の各証拠の開示を求めている。
3そこで,本件基本事件記録と,当裁判所が刑訴法316条の27第1項・第2項により検察官
に提示を命じた別紙2の証拠及び同5ないし7の各証拠に関する証拠標目一覧表に基づき,
本件請求の当否について順次検討する。
(1)別紙1の証拠について
弁護人は,上記証拠は前記2の主張(以下「予定主張」という。)の[1]ないし[3]
に関連するものであるが,告訴権者の真意に基づく告訴があったか否か,及び本件公
訴提起が違法であるか否かを判断するためには,その告訴や,本件に係る捜査の開始
から起訴に至るまでの経緯を明らかにすることが必要不可欠であり,また,Cらの被
害感情にかかわるとして,その開示が必要である旨主張する。
しかし,検察官は,別紙1の証拠はその保管する証拠中に存在しないと回答してい
るので,同証拠に係る弁護人の開示請求は,その前提を欠くというべきである(この
点は,検察官の回答に依拠せざるを得ないが,仮に存在していたとしても,前記予定
主張との関連性の程度は低く,開示の必要性も乏しいと考えられる。)。
(2)別紙2の証拠について
弁護人は,上記証拠は予定主張[1]及び[3]に関連するものであり,告訴権者の真意
に基づく告訴があったか否かを判断するためには,その告訴経緯が明らかにならなけ
ればならず,また,Cらの被害感情にかかわるから,その開示が必要であると主張す
る。
Cらやその代理人が告訴以前に検察官と接触した事実の有無については,予定主張
[1]と一応の関連性があるといえるが,同[3]については,別紙2の証拠との具体的関
連性が不明である。また,C・Eの告訴状及び同人らの各検察官調書は,検察官が証
拠として請求し,弁護人はその開示を受けているのであるから,Cらの告訴経緯はこ
れらの証拠により判明していることが推測されるし(告訴状は一部同意されているが,
取調べ未了であり,Cらの検察官調書は不同意となっている。),本件では,検察官
及び弁護人が,Eやその代理人である弁護士らを証人として請求していることにかん
がみれば,更に被告人の防御の準備のために別紙2の証拠の開示を認める必要性に乏
しいものというべきである。なお,検察官から提示された上記証拠の内容をみても,
その開示の必要性の程度は極めて低いと認められる。
したがって,別紙2の証拠の開示請求は,理由がない。
(3)別紙3及び同4の各証拠について
ア弁護人は,上記各証拠は予定主張[1]ないし[3]と関連し,告訴権者の真意に基づ
く告訴があったか否か,及び本件公訴提起が違法であるか否かを判断するため,そ
の告訴や捜査等の経緯を明らかにすることが必要不可欠であり,Cらの被害感情に
かかわるとして,その開示が必要である旨主張する。
イこれに対し,検察官は,弁護人の予定主張[2]を前提としても,これが本件公訴
の提起が職務犯罪を構成するような極限的場合に当たらないことは明らかであり,
刑訴法316条の17第1項所定の「主張」に該当しないから,そもそも証拠開示の前提
となる関連性及び必要性がないし,別紙3の証拠に当たる書類が存在したとしても,
それ自体は立証対象となる事実の存否のこん跡という証拠としての本質を欠き,開
示対象にならず,同4は保管証拠中にない旨主張する。
ウそこで検討すると,予定主張[2]は個々の事情を挙げて明示されているものであ
る上,公訴権の濫用に係る主張それ自体は,刑訴法316条の17第1項所定の「事実上
及び法律上の主張」に当たらないとはいえないから,この点に関する検察官の主張
は採用し難い。これに対し,予定主張[3]については,別紙3及び同4の各証拠との
具体的関連性が不明であり,同主張による開示請求を認めることができない。
しかし,上記各証拠に該当する書面は,これが存在するとしても,その標題から
うかがわれるように,行政機関である検察当局において専ら内部的に用いられる行
政文書と解されるのであり,捜査の過程で通常作成され,検察官において保管する
ことが予定される捜査関係書類とは異なるから,刑訴法316条の20第1項所定の証拠
に当たるといえるか疑問である上,予定主張[2]の内容に照らしても,これらの書
面の開示を認めるべき具体的な関連性及び必要性が明らかであるとは認め難い。
エしたがって,別紙3及び同4の各証拠の開示請求は,理由がないというべきである。
(4)別紙5の証拠について
弁護人は,上記証拠は予定主張[1]ないし[3]と関連するとし,前記(3)アと同様に
その開示の必要性がある旨主張するのに対し,検察官は,同証拠は予定主張[1]及び
[3]との関連性及び必要性が認められず,同[2]は刑訴法316条の17第1項の主張には当
たらないから,関連性が認められないなどと主張する。
予定主張[2]が刑訴法316条の17第1項所定の主張に当たらないとの点が採用し難い
ことは,前記(3)ウで説示したとおりである。しかし,別紙5の証拠に関し,検察官が
提示した証拠標目一覧表の内容に照らすと,弁護人が各予定主張で掲げる個々の事情
との関連性を認めることができない。
したがって,別紙5の証拠の開示請求は,理由がない。
(5)別紙6の証拠について
弁護人は,上記証拠は予定主張[2]と関連するとし,特に,Fは被告訴人であるに
もかかわらず逮捕されなかったこと等を問題として,開示の必要性がある旨主張する。
これに対し,検察官は,予定主張[2]は刑訴法316条の17第1項所定の主張に当たら
ないほか,同主張を前提としても,任意捜査が原則であり,強制捜査の必要がないと
判断した人物をその対象から外すのは当然であること,捜査機関の判断は,法律と証
拠に基づいてされるもので,公訴提起と捜査情報のリークとは無関係であること,秘
密漏示罪は真正身分犯であるから,非身分者に同罪が成立するには刑法65条1項等の
要件を満たす必要があるところ,捜査の結果,非身分者につきその要件を満たさない
と判断された場合,その者を起訴しないのは当然であること等から,主張との関連性
及び必要性は認められない旨主張する。
そこで検討すると,弁護人がFに対する取調べ状況に関連した主張をしていること
にかんがみれば,別紙6の証拠がその主張に関連するものとはいえる。しかし,本件
では,既にFの検察官調書等が証拠として請求され,さらに,検察官及び弁護人双方
がFを証人として請求していることにかんがみれば,被告人の防御の準備のため,更
に別紙6の証拠を開示すべき必要性があるとは認められない。同証拠の開示請求は,
理由がない。
(6)別紙7の証拠について
弁護人は,上記証拠は予定主張[2]と関連し,開示の必要性がある旨主張するが,検
察官は,前記(5)と同様に,同証拠と主張との関連性及び開示の必要性はない旨主張
する。
しかし,株式会社A社及び同社関係者に対する捜査の状況に関する予定主張[2]の
内容からすれば,別紙7の証拠はこれと関連性を有するものといえるし,検察官は,
冒頭陳述において,Fが被告人から閲覧を受けるなどしたCらの供述調書等を基に,
A社から書籍を出版することとした経緯を具体的に主張していることにかんがみれ
ば,被告人の防御の準備のための必要性も認められる。そして,検察官が提示した証
拠標目一覧表によれば,その内容は客観的事実に関するものであることがうかがわれ,
これを弁護人に開示することによって特段の弊害が生じるとも認め難い(検察官は,
弊害につき何ら主張していない。)。
以上によれば,別紙7の証拠のうち,A社及び同社関係者に対する取調べ及び捜索
等の捜査経緯が記載された捜査報告書については,その開示を命ずるのが相当である
(同一覧表によれば,その余の証拠は存在しないものと認められる。)。
第3結論
以上のとおり,弁護人の本件裁定請求は,主文に掲げる証拠の開示を命じる限度で理由
があるが,その余の証拠については,開示を認める理由がない。
よって,刑事訴訟法316条の26第1項により,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官石川恭司,裁判官松井修,裁判官船戸容子)
別紙
1平成19年7月12日付けでG法務局長からFに対して勧告がされた人権侵犯事件につき,
少年あるいはその父からの人権救済申立書謄本
2本件告訴(平成19年6月21日付け)以前のD地方検察庁検察官(検察事務官も含む。)
と少年,少年の父,告訴代理人3名との接触状況を内容とする捜査報告書等の書類
3本件起訴日までに,最高検察庁,H高等検察庁,D地方検察庁,法務省等の間でされた
本件に関する照会・報告を内容とする書類
4(1)D地方検察庁以外の検察庁に所属する検察官が本件捜査に関与することになった
経緯が記載された書類
(2)最高検察庁・H高等検察庁・法務省等が応援の検察官を派遣することを命令ないし
促した書類
(3)応援の依頼等の検察庁間でのやり取りが記載された書類
5(1)Fの夫,Fが所属する事務所の関係者の供述録取書
(2)これらの者の供述状況を内容とする捜査報告書
(3)これらの者に対する取調べ・捜索等の捜査経緯が記載された捜査報告書
6(1)Fの供述状況を内容とする捜査報告書等(特に,捜査機関の有する情報をリークし
た人物が記載されたもの)
(2)Fに対する取調べ・捜索等の捜査経緯が記載された捜査報告書
7(1)株式会社A社関係者の供述録取書
(2)A社関係者の供述状況を内容とする捜査報告書
(3)A社及び同社関係者に対する取調べ・捜索等の捜査経緯が記載された捜査報告書
(4)A社及び同社関係者と検察官とのやり取りが記載された書類,並びにこれらのやり
取りに関する捜査報告書等

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