弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
香川県警察本部長が原告に対し,平成19年3月30日付け「保有個人情報
一部開示決定通知書」でなした,不開示決定処分を取り消す。
第2事案の概要
1請求の要旨
原告は,自らが香川県警察(以下「県警」という。)から受けたストーカー
行為等規制法に基づく警告について,これが申告者であるAの虚偽情報に基づ
くものであることを明らかにするため,平成19年3月16日,Aが県警に対
して行った原告に関する警察総合相談の内容がわかる情報等の情報について,
香川県個人情報保護条例14条に基づき,情報公開の請求をしたところ,同月
30日付けで,その一部を不開示とする処分がなされたことから,同不開示決
定処分が違法であるとして,その取消しを求めた。
2前提事実(以下の事実は,当事者間に争いがないか,各掲記の証拠によって
容易に認められる。)
1当事者()
ア原告は,香川県に住居を有する者である。
イ被告は,保有個人情報の開示を定めた香川県個人情報保護条例(平成1
6年12月21日香川県条例第57号,以下「本件条例」という。)を制
定している地方公共団体である。
2保有個人情報の開示義務()
本件条例には,次のような定めがある(乙1)。ただし,抜粋である。
(開示請求権)
14条何人も,実施機関に対し,当該実施機関の保有する自己を本人と
する保有個人情報の開示の請求(以下「開示請求」という。)をするこ
とができる。
(保有個人情報の開示義務)
16条実施機関は,開示請求があったときは,開示請求に係る保有個人
情報に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれ
かが含まれている場合を除き,開示請求者に対し,当該保有個人情報を
開示しなければならない。
2号開示請求者以外の個人に関する情報であって,開示することによ
り,当該個人の権利利益を害するおそれがあるもの。ただし,人の生
命,健康,生活又は財産を保護するため,開示することが必要である
と認められる情報を除く。
5号県の機関,国の機関,県以外の地方公共団体,独立行政法人等又
は地方独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって,開示
することにより,次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上,
当該事務又は事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあるも

ア監査,検査,取締り,試験又は租税の賦課若しくは徴収に係る事
務に関し,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは
不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれ
イ契約,交渉又は争訟に係る事務に関し,県,国,県以外の地方公
共団体,独立行政法人等又は地方独立行政法人の財産上の利益又は
当事者としての地位を不当に害するおそれ
ウ調査研究に係る事務に関し,その公正かつ能率的な遂行を不当に
阻害するおそれ
エ人事管理に係る事務に関し,公正かつ円滑な人事の確保に支障を
及ぼすおそれ
オ県,国若しくは県以外の地方公共団体が経営する企業,独立行政
法人等又は地方独立行政法人に係る事業に関し,その経営上の不当
な利益を害するおそれ
7号開示することにより,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持,
刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれが
あると実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報
10号警察職員が従事する事務又は事業の遂行に係る情報に含まれる
警察職員の氏名であって,開示することにより,その氏名の開示に
係る警察職員が従事する事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼす
おそれがあるものとして実施機関が定めるもの
(裁量的開示)
18条実施機関は,開示請求に係る保有個人情報に不開示情報が含まれ
ている場合であっても,個人の権利利益を保護するため特に必要がある
と認めるときは,開示請求者に対し,当該保有個人情報を開示すること
ができる。
(保有個人情報の存否に関する情報)
19条開示請求に対し,当該開示請求に係る保有個人情報が存在してい
るか否かを答えるだけで,不開示情報を開示することとなるときは,実
施機関は,当該保有個人情報の存否を明らかにしないで,当該開示請求
を拒否することができる。
(第三者に対する意見書提出の機会の付与等)
24条開示請求に係る保有個人情報に開示請求者以外の個人又は法人等
(以下「第三者」という。)に関する情報が含まれているときは,実施
機関は,開示決定等をするに当たって,当該情報に係る第三者に対し,
当該第三者に関する情報の内容その他実施機関が定める事項を通知して,
意見書を提出する機会を与えることができる。
3原告の開示請求(甲1)()
原告は,平成19年3月16日,被告実施機関である県警本部長に対し,
本件条例14条に基づき,①Aが県警に対して行った原告に関する警察総合
相談の内容がわかる情報,②原告がストーカー規制法の規定により,警告を
受けたことについての香川県公安委員会(以下「公安委員会」という。)に
対する報告内容,③原告が平成18年5月23日に高松北警察署(以下「高
松北署」という。)において,同署署員のB警部補,県警のC警部補,D巡
査長から警告の話を聞かされた時の状況が分かるもの,④原告が警察官と接
触(面談,電話連絡を含む。)をした状況が記載された情報,について開示
請求をした。
4保有個人情報の一部不開示決定(甲2)()
県警本部長は,平成19年3月30日,前記開示請求に対し,次のとおり
一部開示の決定をし(以下「本件処分」という。),原告に通知した。その
うち,本件開示請求に係る決定内容は,次のとおりである。
ア開示する部分(甲3,ただし,黒塗り部分を除く。)
起案用紙(会議資料(ストーカー行為等の規制等に関する法律に基づく
警告の実施について)の作成について),警告実施報告書,事情聴取報告
書,調査等報告書2通及び電話通信用紙2通に記載された開示請求に係る
請求者の個人情報
イ開示しない部分(甲3黒塗り部分)
警察電話番号(以下「本件情報(ア)」という。)(ア)
取扱者及び作成者の所属及び官職(以下「本件情報(イ)という。)(イ)
取扱者及び作成者の氏名及び印影(以下「本件情報(ウ)」という。)(ウ)
警告申出書受理番号(以下「本件情報(エ)」という。)(エ)
事情聴取報告書の聴取者の氏名(以下「本件情報(オ)」という。)(オ)
事情聴取報告書の内容の一部(以下「本件情報(カ)」という。)(カ)
調査等報告書の内容の一部(以下「本件情報(キ)」という。)(キ)
電話通信用紙の一部(以下「本件情報(ク)」という。)(ク)
本件情報(ア)ないし(ク)を開示しない理由は,(ア)は本件条例16条5
号の事務又は事業に関する情報に,(イ),(オ),(カ)は同条2号の本人以
外の個人に関する情報に,(ウ)は同条10号の警察職員の氏名に,(エ)は
同条5号の事務又は事業に関する情報及び7号の公共の安全情報に,(キ)
は同条2号の本人以外の個人に関する情報,同条5号の事務若しくは事業
に関する情報又は同条7号の公共の安全情報に,(ク)は同条5号の事務若
しくは事業に関する情報又は同条10号の警察職員の氏名に,それぞれ該
当するためであるとされた(以下これらの不開示情報をあわせて「本件各
情報」という。)。
なお,請求内容のうち,「Aが県警に対して行った原告に関する警察総
合相談の内容がわかる情報」については,当該情報が存在しているかどう
かを答えるだけで,不開示情報を開示することとなるので,本件条例19
条により開示請求を拒否するとされた(以下これを「本件開示請求拒否」
という。)。
5原告の審査請求等()
原告は,平成19年5月26日,本件処分を不服として,香川県公安委員
会に対し,審査請求をしたが,同委員会は,香川県個人情報保護審議会に諮
問した上,平成20年4月11日付けで,同審査請求を棄却する旨の決定を
し,同月14日,原告に対して同決定を送付した(甲4ないし6,弁論の全
趣旨)。原告は,同決定を同月21日に受領した(弁論の全趣旨)。
6本件訴訟提起()
原告は,同年10月21日,本件処分の取消しを求めて,本件訴訟を提起
した(当裁判所に顕著な事実)。
第3争点及び争点に対する当事者の主張
1争点
本件の争点は,本件処分が適法かどうか,具体的には,(1)本件開示請求拒
否は適法か,(2)本件各情報が本件条例の不開示情報に該当するか,(3)本件各
情報の裁量的開示をしなかったことは適法か,との点である。
2争点に対する当事者の主張
1本件開示請求拒否は適法かについて()
(被告の主張)
警察が行う警察安全相談業務(以下「相談」という。)は,生命,身体,
財産上の問題等で不安を抱える住民が,その解決のために警察にアクセスす
ることを容易にし,もって,住民の生活上の不安の解消等を目的とするもの
である。相談に関する秘密が守られなければ,相談しようとする者が,警察
に相談したことや相談内容を関係者に知られてしまうのではないかという不
安を抱き,警察へ相談に行くことをちゅうちょし,結果として生活上の不安
の解消を図れないなど,相談本来の目的を達成できない。したがって,原告
が開示を求める情報のうち「①Aが県警に対して行った原告に関する警察総
合相談の内容がわかる情報」については,開示することにより業務の適正な
遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあり,本件条例16条5号の不開示情報
に当たる。
また,相談は,特定人が警察に生命,身体,財産上の問題等の相談を行っ
たことを内容とするため,これが開示されると当該特定人のプライバシー権
等個人の権利利益を侵害するおそれがあり,本件条例16条2号本文の不開
示情報にも当たる。
原告が開示を求める情報のうち「①Aが県警に対して行った原告に関する
警察総合相談の内容がわかる情報」については,それが存在しているかを答
えるだけで,特定人が警察に相談をしたか否かが分かることになり,不開示
情報を開示したのと同じことになるから,本件条例19条により,情報の存
否を明らかにせずに開示請求を拒否することができる。
(原告の主張)
被告は,不開示情報に該当するとしつつ,存否応答拒否情報に該当すると
しているが,不開示情報に該当すると主張した時点で,情報の存在を認めて
いることになるから,存否応答拒否の意味をなさない。本件開示請求拒否は,
存否応答拒否制度の濫用である。
2本件各情報が本件条例の不開示情報に該当するかについて()
(被告の主張)
ア起案用紙下部(甲3・1頁)黒塗り部分
標記不開示部分は,警察電話の番号である。警察電話は,本来的に機密
性が要求される警察業務の特殊性から,内部でのみ利用することを目的と
して設置された警察独自の情報通信網の一つであり,その番号は同通信網
構成上の固有情報であり,一般に公表されていないものである。これが明
らかになると,警察業務運営上著しい支障を及ぼすおそれがあることから,
本件条例16条5号の不開示情報に当たる。
イ警告実施報告書(甲3・3頁)黒塗り部分
標記不開示部分は,取扱者の官職,氏名及びその印影である。
まず,取扱者の氏名と印影については,警察職員の氏名であり,取扱者
個人の特定を可能とするものであって,これを明らかにすると,当該職員
個人が警告書の記載事項や警告自体を逆恨みした被警告者の攻撃の対象と
なるおそれがあり,業務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるから,
本件条例16条10号の不開示情報に当たる。
次に,取扱者の官職については,これを明らかにすると所属署,所属課
と照合することにより(事件関与者にはこれが不可能とはいえない。),
取扱者個人の特定が可能となり,本件条例16条10号により不開示情報
に当たる。
また,取扱者の特定により,当該職員が攻撃の対象になるおそれがある
ことにかんがみると,当該職員の権利利益を害するおそれがあるといえ,
本件条例16条2号の不開示情報にも当たる。
ウ事情聴取報告書(甲3・7頁)上部黒塗り部分
標記不開示部分は,事情聴取書を作成した所属,官職,氏名である。
報告者の氏名たる警察職員の氏名については,本件条例16条10号に
より不開示情報にあたる。
報告者の所属や官職については,実際に事情聴取を受けた供述者からし
てみれば,報告書の記載から,誰が報告書を作成したのか所属や官職と照
合することによって当該作成者を特定することが可能であり,本件条例1
6条10号により不開示情報に当たる。
また,報告事項に報告者の価値判断が記載されていることから,供述者
が報告者に対して不信感や誤解を抱き,報告者を攻撃の対象とするおそれ
があることにかんがみると,当該職員の権利利益を害するおそれがあると
いえ,本件条例16条2号の不開示情報にも当たる。
エ事情聴取報告書(甲3・7頁)警告申出書番号欄黒塗り部分
標記不開示部分は,警告申出書の受理番号である。これは法に基づく被
害者からの受理件数等が明らかになる内部管理にかかる情報であり,一般
には公表されていないものである。かかる内部で独自に利用している情報
が明らかになると,警察や一般人に対する成りすましに利用される等,警
察の事務又は事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあり,本件
条例16条5号の不開示情報に該当する。また,公共の安全と秩序の維持
に支障を及ぼすおそれがあるから,本件条例16条7号の不開示情報にも
あたる。
オ事情聴取報告書(甲3・7頁)聴取者黒塗り部分,同書(甲3・7ない
し9頁)丸型黒塗り部分
標記不開示部分は,警察職員の氏名,印影であり本件条例16条10号
の不開示情報に当たる。
カ事情聴取報告書(甲3・9頁)本文黒塗り部分
標記不開示部分は,原告以外の個人に関する情報が記載されており,こ
れを明らかにすることにより当該個人の権利利益を害するおそれがあるか
ら,本件条例16条2号の不開示情報に当たる。
キ調査等報告書(甲3・10ないし19頁)黒塗り部分
標記不開示部分は,報告者の所属,官職,氏名と印影,警告申出書受理
番号及び原告以外の個人に関する情報,警察職員に関する情報,調査の手
法等に関する情報である。
このうち,報告者の所属,官職,氏名と印影,警告申出受理番号につい
ては,前記ウないしオのとおり不開示情報に当たる。
原告以外の個人に関する情報については,警察職員が職務に基づき調査
等を実施した内容を記載したもので,プライバシー権にかかわる等,これ
を明らかにすれば,当該個人の権利利益を害するおそれがあり,本件条例
16条2号の不開示情報に当たる。
警察職員に関する情報については,これが明らかになると当該警察職員
が特定され,被調査者の攻撃の対象になる等,当該警察職員の権利利益を
侵害するおそれがあり,本件条例16条2号の不開示情報に当たる。
調査の手法等に関する情報について,これが明らかになると,ストーカ
ー行為の規制における調査項目や要点等を明らかにすることになり,その
結果,ストーカー行為の規制のための調査や予防等,公共の安全と秩序を
維持するための警察活動に重大な支障を及ぼすおそれがあり,本件条例1
6条7号の不開示情報に当たる。
ク電話通信用紙(甲3・20頁,21頁)黒塗り部分
標記不開示部分は,取扱者の氏名,印影,警察電話の番号であり,前記
ア,イのとおり不開示情報に当たる。
(原告の主張)
ア原告以外の個人に関する情報について
被告は,警察への相談内容については,開示されると,当該個人の権利
利益を侵害するおそれがあると主張するが,相談内容については,A自身
が別件の民事裁判において,証拠書類として提出し,開示している。これ
らの情報は,Aにとって不利益な情報ではないし,プライバシー権に関わ
る情報でもない。本件条例24条に定める第三者に対する意見書の提出の
機会の付与の規定に基づき,Aに対し,開示への意見書を提出するよう申
し入れて意見を聴取することも考えられた。
また,仮に標記の情報が,本件条例16条2号本文に当たるとしても,
原告は,Aによる原告がストーカーであるとの虚偽申告により,人格権,
名誉という財産及び平穏な生活を侵害され,甚大な損害を被っていること
から,原告の健康,生活又は財産を保護するため,同号ただし書きにより
開示することが必要である。
イ警察職員に関する情報について
被告は,警察職員に関する情報を公開すると原告が当該職員を感情的に
攻撃するかのような主張をするが,原告は,警察全体に対しては抗議して
いるものの,警察職員個人を攻撃対象としたり逆恨みしたりしたことはな
く,被告が主張するおそれについては全く現実性がないものである。
ウ調査の手法等に関する情報について
ストーカー犯罪は未然に要点を調べてから行おうとする種類の犯罪では
ないし,現在のストーカー犯罪の調査,捜査手法は,当時とは大きく異な
っているから,調査項目や要点が明らかになったとしても,犯罪の予防や
警察活動等に支障を及ぼすものではなく,本件条例16条7号には当たら
ない。
3本件各情報の裁量的開示をしなかったことは適法か()
(原告の主張)
本件各情報のうち原告以外の個人に関する情報が,本件条例16条2号本
文により不開示情報に当たるとされた場合であっても,Aによる虚偽申告と
いう犯罪が行われたことは明らかであり,不開示により保護される虚偽申告
者であるAの権利利益より,被害者である原告の権利利益の方が保護される
べきであり,本件条例18条を適用して,裁量的に開示すべきである。
第4当裁判所の判断
1本件開示請求拒否は適法かについて
1前記第2・2(前提事実)(2)のとおり,本件条例19条は,「開示請求()
に対し,当該開示請求に係る保有個人情報が存在しているか否かを答えるだ
けで,不開示情報を開示することとなるときは,実施機関は,当該保有個人
情報の存否を明らかにしないで,当該開示請求を拒否することができる。」
と規定する。
この開示請求拒否は,開示請求に係る保有個人情報の存否自体を明らかに
することによって,不開示情報の規定により保護しようとしている利益が損
なわれる場合に開示請求自体を拒否することができることを認めたものであ
り,不開示情報の範囲を拡大するものではないから,開示請求拒否できるの
は,仮に保有個人情報が存在する場合に不開示情報に該当することが前提と
なる。
2これを本件についてみるに,警察が行う相談は,生命,身体,財産上の問()
題等で不安を抱える住民が,その解決のために警察にアクセスすることを容
易にし,もって,住民の生活上の不安の解消等を目的とするものであるとこ
ろ,相談に関する秘密が守られなければ,相談しようとする者が,警察に相
談したことや相談内容を関係者に知られてしまうのではないかという不安を
抱き,警察へ相談に行くことをちゅうちょし,結果として生活上の不安の解
消を図れないなど,相談本来の目的を達成できないこととなる。したがって,
原告が開示を求める情報のうち「①Aが県警に対して行った原告に関する警
察総合相談の内容がわかる情報」については,仮に当該保有個人情報が存在
するとしても,開示することにより業務の適正な遂行に著しい支障を及ぼす
おそれがあり,本件条例16条5号の不開示情報に当たる。
また,相談は,特定人が警察に生命,身体,財産上の問題等の相談を行っ
たことを内容とするため,上記と同様,仮に同保有個人情報が存在するとし
ても,これが開示されると当該特定人のプライバシー権等個人の権利利益を
侵害するおそれがあり,本件条例16条2号本文の不開示情報にも当たる。
3以上のとおり,原告が開示を求める情報のうち「①Aが県警に対して行っ()
た原告に関する警察総合相談の内容がわかる情報」については,仮に当該保
有個人情報が存在するとしても,不開示情報に該当すると解されるところ,
同情報については,それが存在しているかを答えるだけで,特定人が警察に
相談をしたか否かが分かることになり,不開示情報を開示したのと同じこと
になるため,不開示情報の規定により保護しようとしている利益が損なわれ
ることになる場合に当たると解されるから,本件条例19条により,情報の
存否を明らかにせずに開示請求を拒否することができるといえる。
したがって,本件開示請求拒否は適法であると認められ,この点に関する
原告の主張には理由がない。
2本件各情報が本件条例の不開示情報に該当するかについて
1前記第2・2(前提事実)(2)のとおり,本件条例14条には,何人も,()
実施機関である県警本部長に対し,同実施機関の保有する個人情報の開示の
請求をすることができる旨の定めがある一方で,個人のプライバシー保護や
実施機関等の事業の適正な遂行などとの調整を図るため,例外的に,本件条
例16条各号に定める情報(不開示情報)が含まれている場合には,その情
報を不開示とすることにより,その調整を図っている。
本件において,被告は,本件各情報は,本件条例16条2号本文,5号,
7号,10号に掲げる不開示情報に該当すると主張し,原告は,これらに該
当しないし,仮に16条2号本文の不開示情報に該当したとしても,同号た
だし書きに該当すると主張しているから,本件各情報がこれらの情報に該当
するか否かを検討する。
ア起案用紙下部(甲3・1頁)黒塗り部分
標記不開示部分は,警察電話の番号であり,本件情報(ア)に当たる。警
察電話は,本来的に機密性が要求される警察業務の特殊性から,内部での
み利用することを目的として設置された警察独自の情報通信網の一つであ
り,その番号は同通信網構成上の固有情報であり,一般に公表されていな
いものである。これが明らかになると,警察業務運営上著しい支障を及ぼ
すおそれがあることから,本件条例16条5号の不開示情報に当たる。
イ警告実施報告書(甲3・3頁)黒塗り部分
標記不開示部分は,取扱者の官職,氏名及びその印影であり,本件情報
(イ),(ウ)に当たる。
まず,取扱者の氏名と印影については,警察職員の氏名であり,取扱者
個人の特定を可能とするものであって,これを明らかにすると,当該職員
個人が警告書の記載事項や警告自体を逆恨みした被警告者の攻撃の対象と
なるおそれがあり,業務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるから,
本件条例16条10号の不開示情報に当たる。
次に,取扱者の官職については,これを明らかにすると所属署,所属課
と照合することにより,取扱者個人の特定が可能となるから,本件条例1
6条10号の不開示情報に当たる。
また,取扱者の特定により,当該職員が攻撃の対象になるおそれがある
ことにかんがみると,当該職員の権利利益を害するおそれがあるといえ,
本件条例16条2号本文の不開示情報にも当たる。そして,取扱者の官職,
氏名及びその印影を不開示とすることにより保護される利益よりも同情報
を開示することにより保護される原告の利益の方が優越するとも認められ
ないから,本件条例16条2号ただし書きの情報には当たらない。
ウ事情聴取報告書(甲3・7頁)上部黒塗り部分
標記不開示部分は,事情聴取書を作成した者の所属,官職,氏名であり,
本件情報(オ)に当たる。
まず,報告者の氏名たる警察職員の氏名については,前記イと同様,本
件条例16条10号の不開示情報に当たる。
次に,報告者の所属や官職については,実際に事情聴取を受けた供述者
からしてみれば,報告書の記載から,誰が報告書を作成したのか所属や官
職と照合することによって当該作成者を特定することが可能であるから,
本件条例16条10号の不開示情報に当たる。
また,報告事項に報告者の価値判断が記載されていることから,供述者
が報告者に対して不信感や誤解を抱き,報告者を攻撃の対象とするおそれ
があることにかんがみると,当該職員の権利利益を害するおそれがあると
いえ,本件条例16条2号本文の不開示情報にも当たる。そして,報告者
の所属,官職,氏名を不開示とすることにより保護される利益よりも同情
報を開示することにより保護される原告の利益の方が優越するとも認めら
れないから,本件条例16条2号ただし書きの情報には当たらない。
エ事情聴取報告書(甲3・7頁)警告申出書番号欄黒塗り部分
標記不開示部分は,警告申出書の受理番号であり,本件情報(エ)に当た
る。これは法に基づく被害者からの受理件数等が明らかになる内部管理に
かかる情報であり,一般には公表されていないものである。かかる内部で
独自に利用している情報が明らかになると,警察や一般人に対する成りす
ましに利用される等,警察の事務又は事業の適正な遂行に著しい支障を及
ぼすおそれがあるから,本件条例16条5号の不開示情報に当たる。また,
公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると認められるから,
本件条例16条7号の不開示情報にも当たる。
オ事情聴取報告書(甲3・7頁)聴取者黒塗り部分,同書(甲3・7ない
し9頁)丸型黒塗り部分
標記不開示部分は,事情聴取報告書の内容の一部であり,警察職員の氏
名,印影である(本件情報(ウ),(オ),(カ))ところ,前記イと同様,本
件条例16条10号の不開示情報に当たる。
カ事情聴取報告書(甲3・9頁)本文黒塗り部分
標記不開示部分は,事情聴取報告書の内容の一部であり,本件情報(カ)
に当たるところ,原告以外の個人に関する情報が記載されており,これを
明らかにすることにより当該個人の権利利益を害するおそれがあるから,
本件条例16条2号本文の不開示情報に当たる。そして,原告以外の個人
に関する情報を不開示とすることにより保護される利益よりも同情報を開
示することにより保護される原告の利益の方が優越するとも認められない
から,本件条例16条2号ただし書きの情報には当たらない。
キ調査等報告書(甲3・10ないし19頁)黒塗り部分
標記不開示部分は,報告者の所属,官職,氏名と印影,警告申出書受理
番号,原告以外の個人に関する情報,警察職員に関する情報,調査の手法
等に関する情報であり,本件情報(イ),(ウ),(エ),(キ)に当たる。
まず,報告者の所属,官職,氏名と印影,警告申出受理番号については,
前記ウないしオのとおり本件条例16条2号本文(同号ただし書きには当
たらない),5号,7号,10号の不開示情報に当たる。
次に,原告以外の個人に関する情報については,警察職員が職務に基づ
き調査等を実施した内容を記載したもので,プライバシー権にかかわる等,
これを明らかにすれば,当該個人の権利利益を害するおそれがあり,本件
条例16条2号本文の不開示情報に当たる。原告は,開示される内容につ
き記載されたA自身が別件の民事裁判において証拠書類として提出して開
示している旨主張するが,民事裁判の証拠書類として提出したことをもっ
て,プライバシー権を放棄したものと解されるものではないから,原告の
主張には理由がない。そして,原告以外の個人に関する情報を不開示とす
ることにより保護される利益よりも同情報を開示することにより保護され
る原告の利益の方が優越するとも認められないから,本件条例16条2号
ただし書きの情報には当たらない。
また,警察職員に関する情報については,これが明らかになると当該警
察職員が特定され,被調査者の攻撃の対象になる等,当該警察職員の権利
利益を侵害するおそれがあるから,本件条例16条2号本文の不開示情報
に当たる。そして,警察職員に関する情報を不開示とすることにより保護
される利益よりも同情報を開示することにより保護される原告の利益の方
が優越するとも認められないから,本件条例16条2号ただし書きの情報
には当たらない。
さらに,調査の手法等に関する情報について,これが明らかになると,
ストーカー行為の規制における調査項目や要点等を明らかにすることにな
り,その結果,ストーカー行為の規制のための調査や予防等,公共の安全
と秩序を維持するための警察活動に重大な支障を及ぼすおそれがあるから,
本件条例16条7号の不開示情報に当たる。この認定に反する原告の主張
は採用しない。
ク電話通信用紙(甲3・20頁,21頁)黒塗り部分
標記不開示部分は,取扱者の氏名,印影,警察電話の番号であり本件情
報(ア)ないし(ウ)に当たるところ,これらの情報については,前記ア,イ
のとおり本件条例16条2号本文(同号ただし書きには当たらない),5
号,10号の不開示情報に当たる。
2原告は,原告とAとのトラブルやこれに付随する警察相談の対応状況等に()
ついてるる主張し,甲7ないし12及び甲14ないし42を提出するところ,
情報の不開示情報性は当該情報自体から客観的に評価,判断されるものであ
るから,上記判断を左右するものではない。
3本件各情報の裁量的開示をしなかったことは適法かについて
1原告は,本件各情報のうち原告以外の個人に関する情報が,本件条例16()
条2号本文により不開示情報に当たるとされた場合であっても,本件条例1
8条を適用して,裁量的に開示すべきである旨主張するので,本件各情報の
裁量的開示をしなかったことが適法かについて検討する。
2前記第2・2(前提事実)(2)記載のとおり,本件条例18条は,「実施()
機関は,開示請求に係る保有個人情報に不開示情報が含まれている場合であ
っても,個人の権利利益を保護するため特に必要があると認めるときは,開
示請求者に対し,当該保有個人情報を開示することができる。」旨規定する。
これは,本件条例16条により開示が禁止される情報について,実施機関
の高度な行政的判断により裁量的に開示を行うことができることを明確にし
たものである。
前記2記載のとおり,本件各情報は,本件条例16条2号本文,5号,7
号,10号所定の非開示情報に該当し,これを開示すると上記各号所定の不
利益が生じるおそれがあると認められるところ,本件全証拠によるも,本件
各情報を開示した場合に生じる上記不利益を考慮してもなお開示すべき原告
の権利利益が存するとは認められない。
3したがって,実施機関が本件条例18条に基づき本件各情報を開示しなか()
ったことについて,裁量権の逸脱,濫用は認められず,原告の上記主張は理
由がない。
第5結論
以上のとおり,原告が開示を求める情報のうち,Aが県警に対して行った原
告に関する警察総合相談の内容がわかる情報について開示請求を拒否し,その
他の本件各情報について不開示とした本件処分が違法であるとは認められず,
原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
高松地方裁判所民事部
吉田肇裁判長裁判官
大野昭子裁判官
長尾崇裁判官

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛