弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
水戸地方法務局登記官が原告に対し平成22年3月11日付けでした原告の
登記の申請(同法務局平成22年2月5日受付第○○号)を却下する決定を取
り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,別紙物件目録記載1及び2の各土地(以下「本件各土地」
という。)の表題登記の申請(水戸法務局平成22年2月5日受付第○○号。
以下「本件申請」という。)をしたのに対し,同法務局登記官が不動産登記令
7条1項6号所定の添付情報の提供がないことを理由として不動産登記法25
条9号の規定により上記の申請を却下する決定(以下「本件処分」という。)
をしたことから,その取消しを求めた事案である。
1関係法令の定め
(1)不動産登記法
ア申請の却下
不動産登記法25条本文は,登記官は,次に掲げる場合には,理由を付
した決定で,登記の申請を却下しなければならない旨を,同条ただし書は,
当該申請の不備が補正することができるものである場合において,登記官
が定めた相当の期間内に,申請人がこれを補正したときは,この限りでな
い旨を定めている。
1号ないし8号(略)
9号同法22条本文若しくは61条の規定又はこの法律に基づく命令若
しくはその他の法令の規定により申請情報と併せて提供しなければな
らないものとされている情報が提供されないとき
10号ないし13号(略)
イ土地の表題登記の申請
不動産登記法36条は,新たに生じた土地又は表題登記がない土地の所
有権を取得した者は,その所有権の取得の日から1月以内に,表題登記を
申請しなければならない旨を定めている。
(2)不動産登記令
不動産登記令7条1項は,登記の申請をする場合には,次に掲げる情報を
その申請情報と併せて登記所に提供しなければならない旨を定め,別表の4
の項は,土地の表題登記の申請における添付情報について定めている。
1号ないし5号(略)
6号前各号に掲げるもののほか,別表の登記欄に掲げる登記を申請すると
きは,同表の添付情報欄に掲げる情報
(別表)
項登記添付情報
四土地の表題登記イ土地所在図
ロ地積測量図
ハ表題部所有者となる者が所有権を有する
ことを証する情報
ニ表題部所有者となる者の住所を証する市
町村長,登記官その他の公務員が職務上作成
した情報(公務員が職務上作成した情報がな
い場合にあっては,これに代わるべき情報)
2前提事実(争いのない事実,各項末尾に掲記の証拠及び弁論の全趣旨により
容易に認められる事実並びに当裁判所に顕著な事実)
(1)本件各土地
本件各土地については,旧土地台帳附属地図(いわゆる公図)には地番が
付されて表示されているものの,登記記録が存在していない。同地図におけ
る本件各土地及びその周辺の土地の位置関係の表示については,別紙図面の
とおりである。
(2)本件申請
原告は,平成22年2月5日,水戸地方法務局に対し,本件各土地につき
表題登記を申請する旨の本件申請をした。
この際に提出された本件申請の申請情報を記載した書面(甲1。以下「本
件申請書」という。)には,本件各土地の地積測量図(甲2の1及び2)及
び土地所在図(甲3)に加え,不動産登記令別表の4の項添付情報欄ハに定
める情報(以下「所有権証明情報」という。)を記載した書面として,平成
20年8月22日付け立会証明書(甲4の1。以下「立会証明書1」という。),
同年7月8日付け立会証明書(甲4の2。以下「立会証明書2」という。)
及び同月11日付け立会証明書(甲4の3。以下「立会証明書3」といい,
立会証明書1及び立会証明書2と併せて「各立会証明書」という。),原告
作成の同年10月3日付け上申書(甲5。以下「原告上申書」という。),
水戸市長作成の同年9月8日付け道路境界確認証明書(甲6。以下「水戸市
証明書」という。)並びに弁護士法23条の2所定のいわゆる弁護士会照会
制度による関東財務局水戸財務事務所に対する照会書とこれに対する同事務
所長の平成21年9月10日付け回答書等(甲7の1。以下「水戸財務事務
所回答書」という。),茨城県総務部管財課に対する照会書とこれに対する
同課長の同月16日付け回答書等(甲7の2。以下「茨城県回答書」という。)
及び水戸市役所総務部管財課に対する照会書とこれに対する同市長の同月2
9日付け回答書等(甲7の3。以下「水戸市回答書」といい,これらの所有
権証明情報を記載したものとして提出された書面を「本件各添付書類」とい
う。)が添付されていた。
(3)本件処分
水戸地方法務局登記官は,平成22年3月11日付けで,原告に対し,本
件申請に不動産登記令7条1項6号の添付情報がないとして,不動産登記法
25条9号の規定により,本件申請を却下する旨の本件処分をした。(甲8)
(4)本件訴えの提起
原告は,平成22年4月30日,本件訴えを提起した。(顕著な事実)
3争点及び当事者の主張
本件の争点は,本件申請において,本件申請書に添付された本件各添付書類
をもって所有権証明情報(不動産登記令7条1項6号及び別表4項の添付情報
ハ)が提供されたということができるか否かであり,この点についての当事者
の主張の要旨は,以下のとおりである。
(原告の主張の要旨)
(1)所有権証明情報について
所有権証明情報について,不動産登記令7条1項6号及び別表の4の項の
添付情報欄ハは,「所有権を有することを証する情報」と定め,これについ
て,不動産登記事務取扱手続準則71条1項は,「所有権の取得を証するに
足りる情報」としているだけであり,その文言上,被告の主張するような高
度の証明力を有するものまでは要求されていない。そして,被告が主張する
ところの高度の証明力なるものがどの程度の証明力をいうのかが明らかでは
なく,所有権証明情報について,申請人の土地の所有権を直接的に証明する
ものでなければならないものとし,間接的に証明するものでは足りないとし
て土地の表題登記を認めないというのでは,不動産登記法が不動産の取引の
安全とともにその目的としている不動産の取引の円滑という趣旨を,あまり
にも阻害することとなり,著しく不当である。上記の不動産登記令の規定等
は,申請人の土地の所有権を間接的に証明する書面により申請人の所有権を
推認することを何ら排除しておらず,添付書類を総合的に判断して,申請人
の所有権を推認することができる場合には,所有権証明情報が提供されたも
のというべきである。
(2)本件各添付書類等について
ア本件各土地に係る経緯
本件各土地については,原告の先祖の代より長きにわたり所有,管理,
利用をしてきており,原告の先代であるAは,昭和62年ころから,境界
ないし所有権境の確認のため,茨城県水戸土木事務所に対し,河川敷や水
路敷の境界確認を申請し,現地立会いを求め,周辺の土地の所有者等にも
立会いを求め,現状の把握に努めてきた。Aが死亡して原告が本件各土地
を相続した後の平成19年から,原告は,茨城県土木事務所,水戸市役所
等に境界確認の申請をするとともに,隣地の所有者等に立会いを求めてき
た。本件各土地を含む原告の所有地については,Aが有限会社B(以下「B」
という。)に資材置き場等として無償使用させてきたところ,原告は,B
に対し,平成3年1月1日から平成5年10月まで賃貸していた。このよ
うな経緯の下,本件各土地が原告の所有であることを争う者は全く存在し
ない。
そして,本件各土地に隣接する水戸市α×番1及び2の各土地(以下「×
番1及び2土地」という。),β××番1及び2の各土地(以下「××番
1及び2土地」という。)及びγ×××番の土地(以下「×××番土地」
という。)は,いずれも原告の所有地として登記がされているところ,平
成20年7月23日から同年8月22日にかけて,原告と本件各土地の西
側に隣接するγ△番1の土地(以下「△番1土地」という。)の共有管理
者6名との間で所有権界の確認がされ,また,同年9月8日,原告と水戸
市との間で水戸市が管理する本件各土地の北側に隣接する市道(水路)と
本件各土地との境界の確認がされている。このように,本件各土地の西側
の隣接地の共有管理者及び北側の市道の管理者である水戸市も,本件各土
地が原告の所有であることを全く争っていない。
さらに,原告は,弁護士法23条の2所定の弁護士会照会制度により,
関東財務局水戸財務事務所に対して照会をしたところ,同事務所から本件
各土地については国有財産台帳に登載されていない旨を回答した水戸財務
事務所回答書を,茨城県総務部管理課に対して照会したところ,本件各土
地については茨城県の所有地ではない旨を回答した茨城県回答書を,水戸
市役所総務部管財課に対して照会したところ,本件各土地については水戸
市の所有する土地ではない旨を回答した水戸市回答書を,それぞれ得てお
り,本件各土地については,国有地や公有地でないことが確認されている。
イ本件各添付書類
(ア)各立会証明書
立会証明書1によれば,本件各土地について,その西側の隣接地の共
有管理者との間で所有権界が確認されているところ,これは,同共有管
理者が,本件各土地について原告の所有であることを前提として,原告
との間で所有権界を確認したものであるから,各立会証明書は,本件各
土地が原告の所有であることを推認させる書面である。
(イ)水戸市証明書
水戸市証明書によれば,原告と水戸市との間において,本件各土地と
水戸市が管理する市道(水路)との所有権界の確認がされているところ,
水戸市も,本件各土地について原告の所有であることを前提としている
ことは明らかであるから,水戸市証明書も,本件各土地が原告の所有で
あることを推認させる書面である。
(ウ)水戸財務事務所回答書,茨城県回答書,水戸市回答書等
水戸財務事務所回答書,茨城県回答書及び水戸市回答書によれば,本
件各土地について国有地又は公有地でないことが確認されているほか,
これまでに自己の所有であると主張する者は全くおらず,このような状
況において,訴訟を提起しなければならないというのはあまりにも不合
理である。
なお,水戸財務事務所回答書には,本件各土地が国の所有である可能
性があるなどとは記載されていない。国有地については,国有財産法3
2条1項の規定により,同法38条の公共用財産を除き,国有財産台帳
への登録が義務付けられているところ,本件各土地については,旧土地
台帳附属地図において,地番(△△番及び△△△番)の付された土地で
あり,同法38条の公共用財産に該当しないのであるから,本件各土地
が国有地であるとすれば,当然に国有財産台帳に登載されているべきで
あり,これに登載されていないというのであるから,本件各土地が民有
地であると考えるのが合理的である。
(エ)賃貸借契約書等
前記アのとおり,原告は,Bに対して平成3年1月1日から平成5年
10月まで本件各土地を含む土地について賃貸しており,その賃貸借契
約書(甲9),これに付随する確認書(甲10)及び念書(甲11。以
下,これらの書面を併せて「賃貸借契約書等」という。)が存在すると
ころ,このような原告による本件各土地の利用は,本件各土地が原告の
所有であることを推認させるものである。
ウ小括
以上のとおり,本件申請書に添付された本件各添付書類に基づいて総合
的に判断するならば,本件各土地について原告の所有であると推認するこ
とができ,本件申請において,本件申請書に添付された本件各添付書類を
もって所有権証明情報が提供されたということができる。
したがって,不動産登記令7条1項6号の添付情報の提供がないとの理
由により本件申請を却下した本件処分は,明らかに理由がなく,違法であ
る。
(被告の主張の要旨)
(1)所有権証明情報について
不動産登記法は,不動産の取引の円滑のみならず,国民の権利の保全を図
ることをも目的としており(1条参照),国民の権利の保全を図り,もって
取引の安全と円滑に資するために公示制度を定めている。公示制度は,登記
が真に権利関係を示しているからこそ成立するものであり,また,国民の権
利の保全を図るためにも,真の権利者が登記における権利者として記載され
ていることが必要である。そして,土地の表題登記の申請に当たって所有権
証明情報の添付が要求されているのは,表題部における所有者の登記が権利
の登記の起点となる所有権保存登記の申請人となり得る重要な意義を有する
からであり(同法74条1項1号),このような表題登記の重要性に照らせ
ば,不真正な登記の作出を防止し真の所有者を把握して公示を制度的に担保
するという観点から,所有権証明情報とは,登記官において,申請人が所有
者であることの十分な心証を得ることができる程度のものでなければなら
ず,官公署の証明書のようにかなり高度の証明力を有するものをいうと解す
べきである。このような観点から,不動産登記法事務取扱手続準則71条1
項は,所有権証明情報について,公有水面埋立法22条の規定による竣功認
可書,官庁又は公署の証明書その他申請人の所有権の取得を証するに足りる
情報としている。
(2)本件各添付書類について
ア各立会証明書
各立会証明書は,×番1及び2土地,××番1及び2土地,×××番土
地並びに水戸市γ●番の土地(以下「●番土地」という。)について,原
告と隣地の所有者等との間で,筆界の確認されたことを示すもの,すなわ
ち,各立会証明書に署名した所有者等において,その所有者等自身が所有
している土地の筆界が,各立会証明書において確認された筆界であること
を確認したものにすぎず,その筆界の反対側の土地の所有者が原告である
ことを確認したものではない。
仮に,各立会証明書が所有権界を確認したものであるとしても,各立会
証明書に署名した所有者等において,その所有者等自身が所有している土
地の範囲が,各立会証明書において確認された境界までであることを確認
したにすぎず,その境界の反対側の土地が原告の所有であることを確認し
たものではない。
したがって,各立会証明書は,原告が本件各土地を所有していることを
証明するものではなく,これを推認させるものではない。
イ水戸市証明書
水戸市証明書は,原告と水戸市との間で,×番1及び2土地並びに●番
土地について境界の確認がされたことを示すものにすぎず,加えて,水戸
市証明書において水戸市が確認したのは,水戸市が所有又は管理している
市道の範囲であって,その境界線の反対側の土地が原告の所有であること
を確認したものではない。
したがって,水戸市証明書は,原告が本件各土地を所有していることを
証明するものではなく,これを推認させるものではない。
ウ水戸財務事務所回答書
水戸財務事務所回答書は,「当所所管の国有財産台帳に登載されており
ません。」とあるのみで,「国の所有する土地ではありません」というも
のではなく,加えて,一般的に,国有財産台帳に登載されていない国有地
というものも存在するのであるから,水戸財務事務所回答書は,本件各土
地が国の所有である可能性を否定するものではない。
水戸財務事務所回答書によれば,本件各土地が原告の所有である可能性
が否定されるものではないが,そうであるからといって,水戸財務事務所
回答書のみにより本件各土地が原告の所有であることが推認されるもので
はなく,水戸財務事務所回答書は,原告が本件各土地の所有権を有してい
ることを証明する他の情報とあいまって初めて意義を持つものである。
エ茨城県回答書及び水戸市回答書
茨城県回答書及び水戸市回答書は,本件各土地が茨城県又は水戸市の所
有でないことを示すものにすぎない。茨城県回答書及び水戸市回答書によ
れば,本件各土地が原告の所有である可能性が否定されるものではないが,
そうであるからといって,茨城県回答書及び水戸市回答書のみにより本件
各土地が原告の所有であることが推認されるものではなく,茨城県回答書
及び水戸市回答書は,原告が本件各土地の所有権を有していることを証明
する他の情報とあいまって初めて意義を持つものである。
オ賃貸借契約書等
原告とBとの間の賃貸借契約書等は,本件申請書に添付されたものでは
なく,これを基に本件処分の適否を判断することは相当ではない。
原告は,賃貸借契約書等をもって,平成3年1月1日から平成5年10
月まで本件各土地をBに対して賃貸していた事実を主張するが,賃貸借の
期間の始期として平成3年1月1日と記載されている賃貸借契約書は,平
成4年9月25日付けで作成されていること,確認書においては,原告と
Bとの間で,平成3年1月1日から平成4年9月30日までの未払賃料の
支払方法について確認されているものである。このような賃貸借契約書等
の体裁や記載の内容にかんがみると,原告とBとの間で,真に,平成3年
1月1日から平成5年10月までの期間,本件各土地の賃貸借契約が成立
していたものか,疑わしいというべきである。
カ小括
以上のとおり,本件申請書に添付された本件各添付書類は,いずれも官
公署が原告の所有権を証明するような書面ではなく,また,原告が本件各
土地の所有権を有していることを証明する情報ではなく,結局,登記官に
おいて,原告が本件各土地の所有者であることの十分な心証を得ることが
できる程度のものではない。
したがって,本件各添付書類の提出をもって所有権証明情報(不動産登
記令7条1項6号及び別表の4の項の添付情報欄ハ)が提供されたとはい
えない。
なお,本件各土地について,旧土地台帳附属地図に地番が付されている
のにもかかわらず,登記簿が存在しない理由,経緯については,不明とい
わざるを得ない。
第3当裁判所の判断
1所有権証明情報について
新たに生じた土地又は表題登記がない土地の所有権を取得した者は,表題登
記の申請をしなければならないものとされ(不動産登記法36条),土地の表
題登記がされる場合には,表題部に,その申請に係る土地の所有者の氏名又は
名称及び住所等が登記事項として記録されるところ(同法27条3号参照),
不動産登記令7条1項6号及び別表の4の項添付情報欄ハは,土地の表題登記
を申請するときは,申請人は「表題部所有者となる者が所有権を有することを
証する情報」(所有権証明情報)を不動産登記法18条所定の申請情報と併せ
て登記所に提供しなければならない旨を定めている。これは,所有権の登記が
ない不動産の登記記録の表題部に所有者として記録される表題部所有者(同法
2条10号)は,所有権を有することが確定判決によって確認された者(同法
74条1項2号)等と同様に,当然に所有権の保存の登記を申請することがで
きることから(同項1号),土地の表題登記を申請するに当たって添付情報と
して所有権証明情報の提供を要求することにより,土地の表題登記の申請人と
しての適格を確認し,表題部所有者が権利関係等の実態に即して正確に記録さ
れるようにする趣旨と解される。
そして,不動産登記法は,国民の権利の保全を図り,もって取引の安全と円
滑に資することを目的として,不動産の表示及び不動産に関する権利を公示す
るための登記に関する制度を定めており(同法1条参照),このような登記制
度の目的の達成のためには,その公示に係る権利関係等が真正なものであるこ
とが可能な限り担保されることが前提となるものであって,このことは,所有
権の登記がない土地の表題部所有者についても,その者に与えられた既に述べ
たような登記制度上の特別の地位等にかんがみると,異なって解すべき理由は
見当たらず,法制上も,このような前提に立って,その者を固定資産税の納税
義務者とする制度(地方税法343条2項)等が採用されているものと解され
る。
以上に述べたところのほか,所有権の登記がない土地であって表題登記がな
いもの(ただし,収用によって所有権の取得がされたもの除く。)について所
有権の保存の登記を申請するに当たっては,添付情報として所有権を有するこ
とが確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確認されたこと
を証する情報を提供することを要するとされていること(不動産登記令別表の
28の項添付情報欄ロ)との権衡を考慮すると,所有権の登記がない土地につ
いて表題登記の申請をするに当たって添付情報として提供することを要すると
される所有権証明情報については,土地の表題登記の申請人が当該申請に係る
土地の所有権を有することを裏付けるに足りる情報であって,登記官において,
そのことについて十分な心証を得ることができるものであることを要すると解
するのが相当である。このような観点から,不動産登記事務取扱手続準則(平
成17年2月25日法務省民二第456号通達)71条1項は,所有権証明情
報について,公有水面埋立法22条の規定による竣功認可書,官庁又は公署の
証明書その他申請人の所有権の取得を証するに足りる情報とする旨を定めてい
るものと解される。
2本件各添付書類について
前記1に述べた観点から,本件申請書に添付された本件各添付書類の提出を
もって所有権証明情報が提供されたということができるか否かについて検討す
る。
(1)各立会証明書
各立会証明書は,いずれも,「第11号様式(第23条4項関係)」によ
る「立会証明書」との表題のものであり,①立会証明書1(甲4の1)は,
×番1及び2土地,××番1及び2土地並びに×××番土地(なお,各立会
証明書には本件各土地についての記載又は表示はないが,原告としては,各
立会証明書に合てつされた現地調査図と別紙図面(旧土地台帳附属地図(公
図))との対照を基礎に対象とする土地に本件各土地が含まれるとする趣旨
と解される。)について,別紙図面上本件各土地の西側に隣接するものとし
て表示されている△番1土地の共有管理者6名を「隣接所有者」として,②
立会証明書2(甲4の2)は,別紙図面上本件各土地の南側に隣接するもの
として表示されている×××番土地及びその更に南側に隣接するものと表示
されている●番土地について,水戸市γ△番4及び同△番40の土地がそれ
らの西側に隣接するとして土地代表管理者を「隣接所有者」として,③立会
証明書3(甲4の3)は,●番土地について,水戸市δ●●番3及び同●●
●番2の各土地がそれらの南側に隣接するとして各所有者を「隣接所有者」
として,それぞれ,原告が,上記の①ないし③に掲げた各土地につき地積を
更正するに当たり,上記の各「隣接所有者と立会いし土地の筆界について異
議なく確認されたものである」とし,上記の各「隣接所有者」の署名及び押
印がされた上,C土地家屋調査士が上記の立会いの事実を確認し測量したも
のであることを証明する旨記載され,同人の記名及び押印がされたものであ
って,それぞれに合てつされた各現地調査図には赤線をもって確認されたと
される土地の筆界が表示されていることが認められる。このように,各立会
証明書は,その様式や文面からすると,原告の所有に係り既に登記記録が存
在する土地についての地積の更正の登記の申請に当たり添付すること等を目
的として,隣接する土地の所有者等が立会いの上でその所有等に係る土地の
筆界を確認したことを証明するために作成されたものであると認めるのが相
当であり,上記の所有者等において土地の筆界を確認したということを超え
て,登記記録が存在せず各立会証明書にも記載又は表示のない本件各土地を
含めて別表図面に表示されたとおり各土地が存在することの確認や,本件各
土地につき原告が所有権を有することの確認までをしたものであると認める
ことはできない。
これに対し,原告は,立会証明書1について,本件各土地の西側に隣接す
る△番1土地の共有管理者6名において,本件各土地の所有者が原告である
ことを前提として所有権界を確認したものであるから,本件各土地が原告の
所有であることを推認させる書面であると主張する。しかしながら,既に述
べたとおり,立会証明書1は,その様式や文面上,既に登記記録の存在する
×番1及び2土地等とその西側に隣接するとされる△番1土地の筆界を同土
地の共有管理者との間で確認したものにとどまることは明らかであり,仮に,
原告の主張するように,それぞれの所有権の範囲を確認する趣旨を含むとし
ても,立会証明書1には,本件各土地の記載又は表示及びそれらの所有者が
原告であることを確認した旨の記載はないのであるから,これをもって,上
記の共有管理者において,本件各土地につき原告が所有権を有することを確
認したものと認めることはできないといわざるを得ない。上記の原告の主張
は,採用することができない。
(2)水戸市証明書
水戸市証明書(甲6)は,水戸市が,原告の申請に基づき,×番1及び2
土地並びに●番土地について,市道路敷き(認定外道路及び水路号線)との
間の境界を確認したことを証明したものであること,同証明書には別紙図面
と同一の図面及び有限会社D作成の平成20年8月26日付け「水路,道路
境界確定図」が添付されていることが認められる。しかしながら,上記の申
請に当たり現地を測量した上で作成されたものと推認される後者の図面に
は,×番1及び2土地並びに●土地につき「申請地」との記載がされた上で,
それぞれ赤線の表示がされている一方で,本件各土地についての記載又は表
示はないこと,前者の図面には●番土地として表示されたものに赤線が付さ
れていないことからすると(甲6),水戸市による上記の確認は直接には後
者の図面に基づきされたものと認めるのが相当である。このように,水戸市
証明書においては,原告と水戸市との間で,既存の登記記録を前提に,原告
の所有する各土地と市道路敷きとの間の境界が確認されたことが示されてい
るにとどまり,それを超えて,水戸市において,登記記録が存在しない本件
各土地を含めて別紙図面に表示されたとおり各土地が存在することや,本件
各土地につき原告が所有権を有することまでを確認したものであると認める
ことはできない。
(3)水戸財務事務所回答書
水戸財務事務所回答書(甲7の1)は,弁護士法23条の2所定の弁護士
会照会制度による関東財務局水戸財務事務所を照会先とする本件各土地が同
事務所(国)の所有に属するか否かについての照会に対し,同事務所長にお
いて,本件各土地については「当所所管の国有財産台帳に登載されておりま
せん。」と回答したものであることが認められる。このように,水戸財務事
務所回答書は,同事務所所管の国有財産台帳に本件各土地についての記載等
がないことを示すものにすぎず,本件各土地が現に存在すること及びそれら
の所有者が原告であることを認める旨を回答したものでないことは明らかで
あり,このことは,本件各土地が国有地でないことの証明書が発行されてい
ないこと(甲5)からもうかがわれる。
(4)茨城県回答書
茨城県回答書(甲7の2)は,弁護士法23条の2所定の弁護士会照会制
度による茨城県総務部管財課を照会先とする本件各土地が同県の所有に属す
るか否かについての照会に対し,同課長において,本件各土地については「茨
城県の所有地ではありません。」と回答したものであることが認められる。
このように,茨城県回答書は,本件各土地が茨城県の所有するものでないこ
とを示すものにすぎず,本件各土地が現に存在すること及びそれらの所有者
が原告であることを認める旨を回答したものでないことは明らかである。
(5)水戸市回答書
水戸市回答書(甲7の3)は,弁護士法23条の2所定の弁護士会照会制
度による水戸市役所総務部管財課を照会先とする本件各土地が同市の所有に
属するか否かについての照会に対し,同市長において,本件各土地について
は「水戸市の所有する土地ではありません。」と回答したものであることが
認められる。このように,水戸市回答書は,本件各土地が水戸市の所有する
ものでないことを示すものにすぎず,本件各土地が現に存在すること及びそ
れらの所有者が原告であることを認める旨を回答したものでないことは明ら
かである。
(6)原告上申書
原告上申書(甲5)は,原告が,本件各土地等に係る調査の経過などにつ
いて説明したものであると認められるところ,このような内容に照らし,こ
れをもって,本件各土地につき原告が所有権を有することを客観的に裏付け
るものであるとはいえない。
(7)小括
以上に述べたところのほか,本件全証拠によっても本件各土地について旧
土地台帳附属地図上に表示があるにもかかわらず登記記録が存在しない理由
や経緯は明らかではないことや,本件各土地について原告の被相続人等が所
有権を取得した根拠等は明らかにされていないことをも考慮すると,本件各
添付情報は,そのいずれをもっても,それのみで本件各土地につき原告が所
有権を有することを裏付けに足りるものであるとはいえず,これらを総合し
ても,以上と異なる評価をすべきであるとはいえない。
なお,賃貸借契約書等(甲9~11)については,本件申請書に添付して
提出されたものではないのであるから,賃貸借契約書等の内容を踏まえて,
本件申請において,所有権証明情報が提供されたといえるか否かを検討する
ことは不適当である。
したがって,本件申請において,本件申請書に添付された本件各添付書類
の提出をもって所有権証明情報が提供されたということはできない。
3まとめ
以上のとおり,本件申請においては所有権証明情報が提供されたとはいえな
いのであるから,不動産登記令7条1項6号所定の添付情報の提供がないこと
を理由として不動産登記法25条9号の規定により本件申請を却下した本件処
分は,適法である。
第4結論
以上によれば,原告の請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の
負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとお
り判決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官八木一洋
裁判官田中一彦
裁判官髙橋信慶

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