弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成24年9月11日判決言渡
平成23年(行ケ)第10365号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成24年7月19日
判決
原告サラリー/デーエー
ナムローゼフェンノートシャップ
訴訟代理人弁理士岡部讓
同脇村善一
同臼井伸一
同齋藤正巳
被告特許庁長官
指定代理人平上悦司
同瀬良聡機
同芦葉松美
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日
と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2009-18403号事件について平成23年7月1日にした審
決を取り消す。
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯
原告は,平成15年8月25日,発明の名称を「消費に適する飲料を作るための
形状保持パッド」とする特許を出願した(パリ条約による優先権主張日2002年
(平成14年)8月23日オランダ国。以下「本願」という。)。原告は,平成2
0年5月12日付けで拒絶理由通知を受け,同年11月12日に手続補正書及び意
見書を提出したが,平成21年5月26日付けで拒絶査定を受けた。
原告は,平成21年9月30日,拒絶査定に対する不服の審判(不服2009-
18403号事件)を請求するとともに,手続補正書を提出し(本件補正),平成
22年9月13日発送の書面による審尋に対し,平成23年3月10日付けで回答
書を提出した。
特許庁は,平成23年7月1日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審
決をし,その謄本は,同月13日に原告に送達された。
2本件補正の内容
(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載(本願発明)
「消費に適する飲料を調製するための形状保持パッドであって,水性液体に可溶
性の物質を入れた少なくとも1つの第1カバーを備え,該カバーが,前記可溶性物
質を透過しない材料から作製された上側シート,および前記可溶性物質を透過させ
ないが,液体に溶解している物質を透過させる材料から作製された底側シートを有
し,該パッドが,前記上側シートおよび前記底側シート間に配置された形状規定補
剛体をさらに備え,前記上側シートおよび前記底側シートは少なくとも部分的に,
互いに,かつ表面にほぼ平行に延在し,前記補剛体が,前記上側シートに隣接した
上側面,および前記底側シートに隣接した底側面を有し,また,内部に仕切り壁構
造を設けることにより,前記上側面から前記底側面まで液体を透過させる格子構造
を有し,該構造内に前記可溶性物質の少なくとも一部分が収容され,また,前記壁
構造によって形成された各区画室が,前記壁構造,前記上側シートおよび前記底側
シートによって包囲されている,形状保持パッド。」
(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載(本願補正発明)
「飲料または飲料成分の調製において可溶性物質を提供するためのパッドであっ
て,該パッドは:
前記可溶性物質を透過させない上側シートおよび該上側シートに少なくとも部分
的に実質的に平行に延在する底側シートであって,前記可溶性物質を透過させない
が,溶解された前記可溶性物質を透過させる底側シートを有する第1カバー;およ

前記カバーの前記上側シートと前記底側シートとの間に収容され,前記上側シー
トから前記底側シートへ液体を透過させる複数の区画室を画定する壁構造を有する
補剛体
を含み,
使用するとき,該パッドは,前記可溶性物質を溶解するために,および調製され
た飲料または飲料成分を前記底側シートを通して前記複数の区画室から流出させる
ために,前記上側シートを通す前記複数の区画室への液体の流れを受け入れるよう
に適応され,そして
該パッドは,前記複数の区画室の少なくともいくつかの中に前記可溶性物質のみ
を含有する,ことを特徴とするパッド。」
3審決の理由
審決の理由は,別紙審決書写しのとおりであり,その要点は,次のとおりである。
(1)審決の理由の要点
ア本件補正は,本件補正前の請求項1における「形状保持パッド」を「パッ
ド」に変更し,本件補正前の請求項1における「前記補剛体が,前記上側シートに
隣接した上側面,および前記底側シートに隣接した底側面を有し,また,内部に仕
切り壁構造を設けることにより,前記上側面から前記底側面まで液体を透過させる
格子構造を有し,該構造内に前記可溶性物質の少なくとも一部分が収容され,また,
前記壁構造によって形成された各区画室が,前記壁構造,前記上側シートおよび前
記底側シートによって包囲されている」という発明特定事項を削除する補正を含む
ものであるから,本件補正後の請求項1におけるパッドは,格子構造を有していな
いものや,区画室が壁構造,上側シート及び底側シートによって包囲されていない
ものを含むことになるので,特許請求の範囲の減縮を目的とするものではなく,ま
た,請求項の削除,誤記の訂正,明瞭でない記載の釈明のいずれを目的とするもの
でもない。
したがって,本件補正は不適法であり,却下すべきものである。
イ仮に,本件補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとして
も,本件補正後の請求項1に記載された発明(本願補正発明)は,優先権の主張の
基礎となる出願の出願前に頒布された国際公開第00/51478号(甲4。以下
「引用例1」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)に,同じ
く本願の優先権の主張の基礎となる出願の出願前に頒布された特開平6-3154
37号公報(甲8。以下「引用例2」という。)に記載された発明を適用して当業
者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定によ
り,特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって,いずれにしても,本件補正は不適法であり,却下すべきものである。
ウ本件補正は却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,本件補正前の特
許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのもの(本願発
明)と認められる。本願発明は,引用発明に,引用例2に記載された発明を適用し
て当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規
定により特許を受けることができない。
したがって,本願は拒絶すべきものである。
(2)引用発明等
審決が,上記(1)イ,ウの結論を導くに当たって認定した引用発明及び引用例2
に記載された発明の内容,本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点,本願補
正発明と引用例2に記載された発明との一致点,本願発明と引用発明との一致点及
び相違点は,次のとおりである。
ア引用発明の内容
「温かい飲料を準備した温かい飲料マシンで使用される,使い捨ての抽出物質フ
ィルターカートリッジ1であって,
硬質または半硬質のリング形状のサポート20であって,内部をX形状のセパレ
ータ32,33によって4つの部分に区画され,各部分にコーヒーや茶からなる抽
出物質5が配され,該セパレータ32,33によってカートリッジ1を強固にする
サポート20と,
サポート20を完全に包む単一の袋となり,サポート20の上下に固着されるフ
ィルター材料10,11と,
を有し,
セパレータ32,33は,2つのフィルター材料10,11の間の距離に相当す
るサポート20の高さと実質的に同様の高さを有しかつ固着され,サポート20の
両側から横切って延びた内壁を形成しており,
カートリッジ1の上のチャンバ130内にお湯が注がれ,カートリッジ1を通過
することによって味が付いた,抽出されたお湯は,チャンバ130の下部の出口1
40で回収され,セパレータ32,33によって抽出物質5をより均等に分散させ
ることによって,さらによりよい抽出が可能であり,その結果,よりよい味を有す
る飲料を提供するカートリッジ1。」
イ引用例2に記載された発明の内容
「チョコレート粉末及びその味に従う粉末状ミルク,クリーマーまたは砂糖の1
又は2以上の飲料成分を含有し,水の流れが一様に配分される,上面,底面及び側
壁部分から構成される飲料パッケージ。」
ウ本願補正発明と引用発明との一致点
「飲料または飲料成分の調製において抽出物質を提供するためのパッドであって,
該パッドは:
上側シートおよび該上側シートに少なくとも部分的に実質的に平行に延在する底
側シートを有する第1カバー;および
前記カバーの前記上側シートと前記底側シートとの間に収容され,前記上側シー
トから前記底側シートへ液体を透過させる複数の区画室を画定する壁構造を有する
補剛体
を含み,
使用するとき,該パッドは,前記抽出物質より抽出するために,および調製され
た飲料または飲料成分を前記底側シートを通して前記複数の区画室から流出させる
ために,前記上側シートを通す前記複数の区画室への液体の流れを受け入れるよう
に適応され,そして
該パッドは,前記複数の区画室の少なくともいくつかの中に前記抽出物質を含有
する,パッド。」である点
エ本願補正発明と引用発明との相違点
本願補正発明では,可溶性物質を提供するためのパッドであって,前記可溶性物
質を透過させない上側シート及び前記可溶性物質を透過させないが溶解された前記
可溶性物質を透過させる底側シートを有しており,該パッドが前記可溶性物質を溶
解するために適応され,前記可溶性物質のみを含有しているのに対して,
引用発明では,コーヒーなどの抽出物質を提供するためのパッドであり,上記の
ような上側シート及び底側シートを有しておらず,該パッドは抽出物質より抽出す
るために適応され,抽出物質を含有させている点。
オ本願補正発明と引用例2に記載された発明との一致点
「可溶性物質を提供するためのパッドであって,
前記可溶性物質を透過させない上側シートおよび前記可溶性物質を透過させない
が,溶解された前記可溶性物質を透過させる底側シートを有する第1カバーを含み,
使用するとき,該パッドは,前記可溶性物質を溶解して,
該パッドは,前記可溶性物質のみを含有する,パッド。」である点。
カ本願発明と引用発明との一致点
「消費に適する飲料を調製するための形状保持パッドであって,抽出物質を入れ
た少なくとも1つの第1カバーを備え,該カバーが,上側シート,および底側シー
トを有し,該パッドが,前記上側シートおよび前記底側シート間に配置された形状
規定補剛体をさらに備え,前記上側シートおよび前記底側シートは少なくとも部分
的に,互いに,かつ表面にほぼ平行に延在し,前記補剛体が,前記上側シートに隣
接した上側面,および前記底側シートに隣接した底側面を有し,また,内部に仕切
り壁構造を設けることにより,前記上側面から前記底側面まで液体を透過させる格
子構造を有し,該構造内に前記抽出物質の少なくとも一部分が収容され,また,前
記壁構造によって形成された各区画室が,前記壁構造,前記上側シートおよび前記
底側シートによって包囲されている,形状保持パッド。」
キ本願発明と引用発明との相違点
本願発明では,第1カバーに入れられるのが水溶性液体に可溶性の物質であり,
前記可溶性物質を透過しない材料から作製された上側シート,および前記可溶性物
質を透過させないが,液体に溶解している物質を透過させる材料から作製された底
側シートを有し,格子構造内に前記可溶性物質の少なくとも一部分が収容されてい
るのに対して,
引用発明では,第1カバーに入れられるのがコーヒーなどの抽出物質であり,上
記のような上側シート及び底側シートを有しておらず,格子構造内に抽出物質が収
容されている点。
第3審決の取消事由に係る原告の主張
審決には,本件補正は特許請求の範囲の減縮,明瞭でない記載の釈明を目的とす
るものではないとした判断の誤り(取消事由1),本件補正発明は独立特許要件に
違反するものであるとした(進歩性を否定した)判断の誤り(取消事由2),本願
発明の進歩性を否定した判断の誤り(取消事由3)がある。これらの誤りは審決の
結論に影響するものであるから,審決は違法であり,取り消されるべきである。
1取消事由1(本件補正は特許請求の範囲の減縮,明瞭でない記載の釈明を目
的とするものではないとした判断の誤り)
(1)審決は,本件補正により,「補正後の請求項1におけるパッドは,格子構造
を有していないものや,区画室の壁構造,上側シート及び底側シートによって包囲
されていないものを含むことになる」と判断した。しかし,本件補正において,パ
ッドは,上側シートおよび底側シートを有する第1カバー;壁構造によって画定さ
れた複数の区画室を有する上側シートと底側シートとの間に収容された補剛体;お
よび液体に可溶な物質という要件を依然として含んでいる。それ以外の削除した事
項は,請求項の明瞭化のために補正した事項にすぎないものであり,より明瞭とな
った本件補正の表現に含まれている。
本願明細書(甲1)の全体の記載から,本件補正発明の「液体を透過させる複数
の区画室を画定する壁構造を有する補剛体」が,図2,3,12及び15に示すよ
うな格子構造を有するものであることは明確であり,さらに,段落【0044】に
も,「渦巻き202付近に多数の側壁204を任意に設けることができる」旨の記
載もあり,本願補正発明が複数の区画室を有する格子構造あるいは格子構造を有す
る補剛体を意図していることは明確である。
これに対し,被告は,本願明細書(甲1)の段落【0006】,【0044】及
び【図19a】を根拠に,本件補正後の請求項1の「液体を透過させる複数の区画
室を画定する壁構造を有する補剛体」にいう壁構造には,格子構造のみならず,渦
巻き形の壁構造など,液体を透過させる複数の区画室を画定するものであればあら
ゆる壁構造のものが含まれると解し得るとし,本件補正は,壁構造について,格子
構造を有していないものにまで拡張するものである旨主張する。
しかし,本件補正発明の「液体を透過させる複数の区画室を画定する壁構造を有
する補剛体」には,【図19a】における側壁204を全く有さない渦巻き形の補
剛体は含まれない。なぜなら,このような補剛体は,「複数の区画室」が存在する
ものではないからである。
したがって,本件補正は,壁構造について,格子構造を有していないものにまで
拡張するものではない。
また,本件補正において追加した,少なくともいくつかの区画室内に可溶性物質
を含有するパッドの特徴事項は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2)本件補正は,補正前の「形状保持パッド」を「パッド」に変更するものであ
るが,これは剛性を確保することが本願発明の主な目的ではないことを強調するた
めのものである。本願発明は,可溶性物質の改善された溶液を得ることを第一の目
的としているものであり,「形状保持パッド」を「パッド」としても,本願の請求
項1に係る発明の範囲は拡張されない。また,「補剛体」の用語により,「パッ
ド」が「形状保持」の特性を有することは当業者であれば読み取ることができる。
(3)よって,本件補正は,特許請求の範囲の減縮,明瞭でない記載の釈明のいず
れかを目的とするものである。
2取消事由2(本件補正発明は独立特許要件に違反するものであるとした(進
歩性を否定した)判断の誤り)
本願補正発明は,引用発明及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容
易に発明をすることができたものではない。その理由は次のとおりである。
(1)本願補正発明は,既知のパッドは,使用の際に水溶性物質が溶解しない割合
が相当高く,その結果,消費に適する飲料を作った後,物質が相当大きい割合で使
用されずにパッド内に残るという欠点(本願明細書(甲1号証)段落【000
3】)を解消すべく,消費に適する同一量の飲料を既知のパッド及び本発明に従っ
たパッドで調製するとき,消費に適する一定量の飲料を調製するときに溶解するこ
とができる物質の割合が,既知のパッドの場合より大きい(形状保持)パッドを提
供することを目的としている(同段落【0004】)。これに対し,引用発明は,
コーヒーやお茶などの抽出可能成分を含有するパッドのみに関する発明であり,可
溶性物質の溶解に伴う凝集物や塊の発生が問題とならない発明である。したがって,
引用発明からは,可溶性物質の溶解性に関するインセンティブは働かない。また,
引用例2に記載された発明は,可溶性クリーマーを含有するカートリッジを開示し,
凝集物や塊の現象や除去の問題点を教示していない。したがって,引用例2に記載
された発明からも,可溶性物質の溶解性に関するインセンティブは働かない。しか
も,引用発明は使い捨てフィルタに関する発明であるから,引用発明に引用例2に
記載された発明を組み合わせる動機付けはない。
(2)審決は,本願補正発明と引用例2に記載された発明とは,
「可溶性物質を提供するためのパッドであって,
前記可溶性物質を透過させない上側シートおよび前記可溶性物質を透過させない
が,溶解された前記可溶性物質を透過させる底側シートを有する第1カバーを含み,
使用するとき,該パッドは,前記可溶性物質を溶解して,
該パッドは,前記可溶性物質のみを含有する,パッド。」
である点で一致すると認定している。
しかし,引用例2においては,可溶性物質の溶解性に関して凝集物や塊を減少さ
せることや除去することの開示も示唆もないから,本願補正発明と引用例2記載の
発明とでは,「可溶性物質」が全く相違するものであり,上記の点で一致するもの
ではない。
(3)審決は,本願補正発明による効果も,当業者が予測し得た程度のものであっ
て,格別のものとはいえないと判断した。しかし,本願補正発明は,可溶性物質の
塊及び未溶解凝集物を防止する,あるいは少なくとも有意に減少させることを特徴
とするものであり,可溶性物質の塊及び未溶解凝集物を防止する技術的思想のない
粉末ミルク又はクリーマーで充填された引用例2に記載された発明よりもはるかに
優れた可溶性物質の改善された溶解性を示すものである。
したがって,引用発明,引用例2,乙第1号証及び同第2号証に接した当業者と
いえども,相違点に係る構成に想到することは容易になし得ないことである。
3取消事由3(本願発明の進歩性を否定した判断の誤り)
上記2で述べたところと同旨
第4被告の反論
1取消事由1(本件補正は特許請求の範囲の減縮,明瞭でない記載の釈明を目
的とするものではないとした判断の誤り)に対し
(1)壁構造に関する原告の主張について
本願明細書(甲1)には,「壁構造に関して,仕切り壁構造の少なくとも一部分
が,複数の区画室を形成する格子によって形成されることが好ましい」(段落【0
006】)との記載があるように,補剛体を構成する壁構造(仕切り壁構造)につ
いて,格子によるもの(格子構造)以外のものを含み得ることが示唆され,実施例
として,段落【0044】や図19aに記載されているような,格子構造ではない
渦巻き形の壁の例示がある。そうすると,本件補正後の請求項1の「液体を透過さ
せる複数の区画室を画定する壁構造を有する補剛体」について,その壁構造とは,
格子構造のみならず,渦巻き形の壁構造など,液体を透過させる複数の区画室を画
定するものであればあらゆる壁構造のものが含まれると解し得る。他方,本件補正
前の請求項1の補剛体の壁構造は,「内部に仕切り壁構造を設けることにより…液
体を透過させる格子構造を有し」とあるように,格子構造に限定されるものである。
よって,本件補正は,壁構造について,格子構造を有していないものにまで拡張
するものであるから,特許法17条の2第4項2号所定のいわゆる限定的減縮を目
的とする補正であるとはいえない。もちろん,このような発明特定事項を拡張する
ような補正は,明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるともいえない。
(2)形状保持パッドに関する原告の主張について
「形状保持パッド」とは,その文言どおり,パッドが形状保持の機能を有し,パ
ッド全体に曲げに対する充分な剛性を与えるものと解される。当該「形状保持」と
の用語を削除することは,パッドについて,形状保持機能を有しない範囲のものに
まで拡張するということであるから,このような削除をする補正は,いわゆる限定
的減縮であるとか,明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるということはで
きない。
2取消事由2(本件補正発明は独立特許要件に違反するものであるとした(進
歩性を否定した)判断の誤り)に対し
(1)審決の相違点の判断に誤りはないこと
引用発明における「サポート20の上下に固着されたフィルター材料10,1
1」は,抽出物質5を保持し,注がれたお湯を透過し,抽出物質5から抽出された
液体(味が付いた,抽出されたお湯)を通過させるものであるから,本願補正発明
の「上側シート及び底側シート」とは,透過させないものが抽出物質5か可溶性物
質か,また,透過させるものが抽出物質5から抽出された液体か溶解された可溶性
物質かの点で異なるものの,両者は同様の構成作用を有するものであり,実質的に
相違しない。したがって,本願補正発明と引用発明との実質的な相違点は,抽出物
質を提供するためのパッドか(引用発明),可溶性物質を提供するためのパッドか
(本願補正発明)の違いにすぎないといえる。
そして,抽出物質に代えて可溶性物質を用いることは,当該技術分野の技術常識
である。すなわち,引用例2には,上下のフィルタ材料を通して液体を流し飲料ま
たは飲料成分を調製するパッドにおいて,可溶性物質である「チョコレート粉末」
が引用発明と同じ「挽いたコーヒー豆」や「茶葉」と並列して掲げられており,ま
た,「それぞれの味に従い」とあるものの,「粉末状ミルク又はクリーマー,砂
糖」といったものを含むことができるとの記載もされている(段落【0040】)。
さらに,コーヒーを抽出するカセットに配置されているコーヒー豆粉末(抽出物
質)が,インスタントコーヒー,粉末ココア,粉末スープ,粉末紅茶,粉ミルク等
の可溶性物質と,パッド内に配置するものとして同視できる態様のものであること
は,引用例2に限らず,例えば乙1(段落【0022】)及び乙2(11頁8~1
6行)にも記載されているように,当該技術分野の技術常識である。したがって,
引用発明であるカートリッジ内に配置されているコーヒーなどの抽出物質について,
引用例2や乙第1号証,第2号証に接した当業者が,これを可溶性物質に代える程
度のことは,容易になし得たことである。
したがって,審決の相違点の判断に誤りはない。
(2)原告の主張について
ア原告は,引用発明と引用例2に記載された発明を組み合わせる動機付けはな
い旨主張するが,上記(1)で述べたとおり,引用発明のコーヒーや茶からなる抽出
物質について,これを可溶性物質に代えるようにすることは,本願の優先日当時,
当業者が普通に想起し得たことであるから,原告の上記主張は失当である。このこ
とは,引用発明について,可溶性物質の凝集物や塊が発生するといった問題がある
かどうか,また,引用発明が使い捨てフィルタに関する発明であるかどうかとは無
関係である。
イ原告は,本願補正発明は引用例2に記載された発明よりもはるかに優れた可
溶性物質の改善された溶解性を示す旨主張する。しかし,引用発明のセパレータ3
2,33は,抽出物質をより均等に分散させよりよい抽出を可能とする機能を有す
るものである(甲4の5頁19~24)から,引用発明の抽出物質(コーヒー)を
可溶性物質に代えて適用すれば,可溶性物質はセパレータによって均等に分散され
て配置されることになる。したがって,原告が主張するような本願補正発明の効果
は,引用発明及び引用例2に記載された発明から当業者が予測し得る程度のものに
すぎないといえる。
3取消事由3(本願発明の進歩性を否定した判断の誤り)に対し
上記2で述べたところと同旨
第5当裁判所の判断
1取消事由1(本件補正は特許請求の範囲の減縮,明瞭でない記載の釈明を目
的とするものではないとした判断の誤り)について
(1)本件補正は,本件補正前の請求項1における「形状保持パッド」を「パッ
ド」に変更し,本件補正前の請求項1における「…前記補剛体が,…液体を透過さ
せる格子構造を有し」を含む,本願発明の発明特定事項を削除する補正を含むもの
である。そうすると,本件補正後の請求項1における「パッド」は,形状保持機能
を有していないものや,補剛体が格子構造を有していないものを含むことになる。
したがって,本件補正は,特許請求の範囲を拡張するものといえる。
(2)原告は,本件補正は請求項の明瞭化のためにする補正であり,本件補正前の
請求項1におけるに「…前記補剛体が,…液体を透過させる格子構造を有し」を削
除しても,壁構造について,格子構造を有していないものにまで拡張するものでは
ない旨主張する。原告は,その理由として,本件補正後の請求項1の「液体を透過
させる複数の区画室を画定する壁構造を有する補剛体」が図2,3,12及び15
に示すような格子構造を有するものであることは明確であり,段落【0044】の
「渦巻き202付近に多数の側壁204を任意に設けることができる」との記載か
らも,本願補正発明が複数の区画室を有する格子構造あるいは格子構造を有する補
剛体を意図していることは明確である旨主張する。
しかし,本願明細書(甲1)の段落【0006】には,「壁構造に関して,仕切
り壁構造の少なくとも一部分が,複数の区画室を形成する格子によって形成される
ことが好ましい」との記載があり,この記載は,補剛体を構成する壁構造(仕切り
壁構造)として格子によるもの(格子構造)以外のものを含み得ることを示唆して
いる。また,段落【0044】には,「図19aおよび図19bを参照しながら後
述するように,渦巻き形の補剛体を得ることもできる。したがって,仕切り壁構造
の少なくとも一部分を渦巻き形の壁で形成することが可能である。そのような補剛
体200の一例が,図19aおよび図19bに示されており,たとえば,図1~図
10の形状保持パッドの各々に使用することができる。加えて,渦巻き202付近
に多数の側壁204を任意に設けることができ,その幾つかが図19aに点線で示
されている。しかし,これらの側壁を省略してもよい。」との記載があり,この記
載は,補剛体を構成する壁構造の実施例として渦巻き形の壁を明示している。これ
らの記載に照らすと,本件補正後の請求項1の「液体を透過させる複数の区画室を
画定する壁構造を有する補剛体」を構成する壁構造には,渦巻き形を含め,格子構
造を有していないものが含まれるものといえる。
この点について,原告は,【図19a】における側壁204を全く有しない渦巻
き形の補剛体は,本件補正発明の「液体を透過させる複数の区画室を画定する壁構
造を有する補剛体」には含まれない旨主張する。
なるほど,【図19a】における側壁204を全く有しない渦巻き形の補剛体は,
「複数の区画室」を画定する壁構造を有するものとはいえず,本願補正発明には含
まれないと解される。しかし,本願補正発明の補剛体は,「液体を透過させる複数
の区画室を画定する壁構造を有する補剛体」でさえあれば足り,【図19a】にお
ける側壁204を全く有しない渦巻き形のものである必要はなく,【図19a】に
おける側壁204を有する渦巻き形のものであってもよいし,渦巻き形でないもの,
例えば,互いに接していない複数の中空円柱形状からなるものであってもよい。な
ぜなら,前者の,【図19a】における側壁204を有する渦巻き形の補剛体は,
「複数の区画室」を画定する壁構造を有するものといえるが,格子構造を有するも
のとはいえないし,後者の,互いに接していない複数の中空円柱形状からなる補剛
体は,それぞれの円柱内に区画室を有しているので,「複数の区画室」を画定する
壁構造を有するものといえるが,各中空円柱は互いに接していないので,格子構造
を有するものとはいえないからである。
したがって,【図19a】における側壁204を全く有しない渦巻き形の補剛体
が本件補正発明に含まれないとしても,このことは,本件補正後の請求項1の「液
体を透過させる複数の区画室を画定する壁構造を有する補剛体」を構成する壁構造
に,渦巻き形を含め,格子構造を有していないものが含まれるとの前記判断を左右
するものではない。
以上によれば,本件補正後の請求項1の補剛体が格子構造を有していないものを
含むものであることは明らかである。他方,本件補正前の請求項1の補剛体は,格
子構造を有するものに限定されているであるから,本件補正が,壁構造について,
格子構造を有していないものにまで拡張するものであることは明らかである。
(3)原告は,本件補正により補正前の「形状保持パッド」を「パッド」に変更し
たのは,剛性を確保することが本願発明の主な目的ではないことを強調するためで
あり,「形状保持パッド」を「パッド」としても,本願の請求項1に係る発明の範
囲は拡張されない旨主張する。
しかし,「形状保持パッド」は,これを文言どおりに解釈すれば,形状保持機能
を有するパッドであって,パッド全体に曲げに対する剛性を与えるものと解される
から,「形状保持パッド」から「形状保持」の文言を削除すれば,形状保持機能を
有しないパッドを含むことになることは明らかである。
原告は,「補剛体」の用語により,「パッド」が「形状保持」の特性を有するこ
とは当業者であれば読み取ることができるとも主張する。しかし,本願補正発明の
補剛体は,「液体を透過させる複数の区画室を画定する壁構造を有する」ものとし
て特定されているにすぎないから,例えば,パッドの一部分に区画室を画定するよ
うなものであってもよい。このような,パッドの一部分に区画室を画定するような
補剛体の場合は,必ずしもパッド全体の形状を保持する機能を有するものとはいえ
ないから,補剛体によりパッドの形状が保持されるかどうかは明らかではない。し
たがって,原告の上記主張は理由がない。
(4)以上によれば,本件補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものではな
く,また,請求項の削除,誤記の訂正,明瞭でない記載の釈明のいずれを目的とす
るものではないから,審決の判断に誤りはない。
したがって,取消事由1に係る原告の主張は理由がない。
2取消事由2(本件補正発明は独立特許要件に違反するものであるとした(進
歩性を否定した)判断の誤り)について
前記1のとおり,本件補正は不適法であるから,本来であれば取消事由2につい
て検討する必要はなく,取消事由3(本願発明の進歩性を否定した判断の誤り)に
ついてのみ判断すれば足りる。しかし,審決は,取消事由2について判断した上,
これを取消事由3に係る判断に引用する方法で判断を示しており,当事者双方は,
このような審決の判断の方法に沿う形で主張を展開していることから,以下では,
まず,取消事由2について検討することとする。
(1)当裁判所も,本願補正発明は,引用発明に引用例2に記載された発明を適用
して当業者が容易に発明をすることができたものであると判断する。その理由は以
下のとおりである。
ア引用発明について
(ア)引用発明の内容,本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点は,前記
第2の3(2)ア,ウ及びエのとおりであると認められる(両当事者とも審決の認定
について誤りを指摘していない。)。
(イ)引用例1(甲4)には,「図3に示された本発明の好ましい実施例によれ
ば,カートリッジはさらにフィルター材料10,11の2つの層の間に,サポート
内に延びた分散手段30を含むことができる。分散手段30は,カートリッジ1内
の抽出物質5をより均等に分散させ,かつ/またはカートリッジ1を強固にするこ
とができる。抽出物質の分散は,さらによりよい抽出が可能であり,その結果,よ
りよい味を有する飲料を提供する。」(翻訳文3頁28行から32行),「図3に
示された好ましい実施例では,分散手段30は,サポート20の両側から横切って
延びた内壁を形成した2つのセパレータ32,33を含んでいる。」(翻訳文3頁
33行から34行)との記載がある。
上記記載事項によれば,引用発明のセパレータ32,33を含む分散手段30は,
カートリッジ1内の抽出物質5をより均等に分散させ,この抽出物質の分散は,さ
らによりよい抽出が可能であり,その結果,よりよい味を有する飲料を提供するも
のであることが認められる。
イ引用例2に記載された発明について
(ア)引用例2に記載された発明の内容は,前記第2の3(2)イのとおり,「チ
ョコレート粉末及びその味に従う粉末状ミルク,クリーマーまたは砂糖の1又は2
以上の飲料成分を含有し,水の流れが一様に配分される,上面,底面及び側壁部分
から構成される飲料パッケージ。」であると認められる(両当事者とも審決の認定
について誤りを指摘していない。)。
(イ)引用例2に記載された発明の「水の流れが一様に配分される」ことの技術
的意義について
引用例2(甲8)の段落【0009】には,「密に詰めた焙焼して挽いたコーヒー
豆を含有するカートリッジ又はカプセル及びティーバッグ又はコーヒーバッグのい
ずれも,該カートリッジ,カプセル又はバッグから適当な濃さの飲料を得るために
は,そこに含まれる茶葉又は焙焼して挽いたコーヒー豆の均一な抽出が起こるよう
に,茶葉又は焙焼して挽いたコーヒー豆が均一に浸潤することが必要であるという
欠点を有している。…該コーヒー豆床が均一に湿潤していなければこの状態には到
達しない。水の流れが乾燥コーヒー豆床の中に一様に配分されるような手段が講じ
られなければならない。」との記載があり,段落【0038】には,「該パッケー
ジに分離した区画25と26を設けることによって,該パッケージ内に含まれる飲
料成分が抽出されないで残るのを防ぐのに役立ち,また異なる区画に異なる飲料成
分を入れることもできる。」との記載がある。
上記記載事項によれば,水の流れが乾燥コーヒー豆床の中に一様に配分されるよ
うな手段が講じられなければならないのは,コーヒー豆床を均一に湿潤させ,焙焼
して挽いたコーヒー豆の均一な抽出を起こすためであるといえる。水の流れが一様
に配分されることで,コーヒー豆床が均一に湿潤されるためには,一様に配分され
る水が流れる場所に,コーヒー豆も均一に配分されている必要がある。なぜなら,
コーヒー豆が不均一に,例えば,特定の一部分に固まっていて,他の一部分にはご
く僅かなコーヒー豆しかなかったとすると,一様に水を配分しても,コーヒー豆が
固まっている一部分は,ごく僅かなコーヒー豆しかなかった部分よりも全てのコー
ヒー豆の湿潤が遅くなり,また,湿潤した後は,一部分に湿潤したコーヒー豆が多
いために,焙焼して挽いたコーヒー豆の均一な抽出が起こらないからである。
そうすると,引用例2に記載された発明において,「水の流れが一様に配分され
る」とは,コーヒー豆床が均一に湿潤するために,コーヒー豆が均一に配分されて
いる状態のところへ,水の流れが一様に配分されることであるといえる。
(ウ)引用例2に記載された発明について
引用例2の「水の流れが一様に配分される」の技術的意義が,コーヒー豆床が均
一に湿潤するために,コーヒー豆が均一に配分されている状態のところへ,水の流
れが一様に配分されることであるとすると,引用例2に記載された発明は,コーヒ
ー豆がパッケージ内で均一に配分されていることを前提とするものということがで
きる。
引用例2(甲8)には,引用例2に記載された発明の飲料パッケージとしてチョ
コレート粉末を含むものが挙げられているから(段落【0040】「本発明の飲料
パッケージは,あらゆる望ましい飲料成分,例えば,焙焼して挽いたコーヒー豆,
茶葉,チョコレート粉末,及びそれぞれの味に従い粉末状ミルク又はクリーマー,
砂糖及び/又は人工甘味料を含むことができる。」),引用例2には,コーヒー豆
のように抽出可能成分を含有するパッドだけでなく,チョコレート粉末のように可
溶性物質を含有するパッドにおいても,同発明の飲料パッケージが適用できること,
すなわち,チョコレート粉末などの可溶性物質が均一に配分されている状態に一様
に水を配分することで適当な濃さの飲料が得られるパッドが示唆されているという
ことができる。また,抽出可能成分は水に抽出されるのに対し,可溶性物質は水に
溶解するのであるから,このパッドは,可溶性物質を均一に溶解させることができ
るものであり,これにより可溶性物質の凝集物や塊の発生を防止しているというこ
とができる。
そして,引用例2に記載された発明は,「1又は2以上の飲料成分を含有する,
上面,底面及び側壁部分から構成される半硬質飲料パッケージであって,該上面及
び底面が同一又は異なる水透過性材料の1又は2以上の層からできており,…飲料
パッケージ。」(【請求項1】)であるところ,チョコレート粉末のような可溶性
物質の場合に,パッケージの上面又は底面の一方が,可溶性物質を透過せず,他方
が可溶性物質を透過させないが,溶解された可溶性物質を透過させるものであるこ
とは自明である。
以上によれば,引用例2に記載された発明は,「可溶性物質を提供するための飲
料パッケージであって,前記可溶性物質を透過させない上面又は底面のいずれか一
方と,可溶性物質を透過させないが,溶解された可溶性物質を透過させる上面又は
底面の他方を有し,使用されるときに一様に配分される水が流れる上面と底面の間
に,均一に配分された可溶性物質が収容された飲料パッケージ」であると認められ
る。
ウ引用発明に引用例2に記載された発明を組み合わせることの容易想到性
引用発明は,カートリッジ1内の抽出物質5をより均等に分散させるものであり
(上記ア),引用例2に記載された発明は,抽出可能成分や可溶性物質がパッケージ
内で均一に配分されていることを前提とするものであるから(上記イ),引用発明
に引用例2に記載された発明を適用し,引用発明を可溶性物質を提供するためのパ
ッドとし,可溶性物質を透過させない上側シートと可溶性物質を透過させないが溶
解された前記可溶性物質を透過させる底側シートとするとともに,パッドが可溶性
物質を溶解するために適応され,前記可溶性物質のみを含有しているパッドとする
ことは,当業者が容易に想到し得た事項であるといえる。
(2)原告の主張について
ア原告は,本願補正発明が水溶性物質を溶解することができる割合の大きいパ
ッドを提供することを目的としているのに対し,引用発明は可溶性物質の溶解に伴
う凝集物や塊の発生が問題とならない発明であり,引用例2に記載された発明も凝
集物や塊の現象や除去の問題点を教示していないから,両発明を組み合わせる動機
付けはない旨主張する。
しかし,前記(1)のとおり,引用発明は,内部セパレータの分散構造がカートリ
ッジ1内の抽出物質5をより均等に分散させるものであり,引用例2に記載された
発明も,抽出可能成分や可溶性物質が均一に配分されていることを前提とするもの
であるから,引用発明に引用例2に記載された発明を適用する動機付けはある。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
イ原告は,引用例2には,可溶性物質の溶解性に関して凝集物や塊を減少させ
ることや除去することの開示も示唆もないから,本願補正発明と引用例2に記載さ
れた発明とでは,「可溶性物質」が全く相違するとして,これを根拠に,審決によ
る本願補正発明と引用例2に記載された発明との一致点の認定は誤りである旨主張
する。
原告の上記主張は,本願補正発明の「可溶性物質」は凝集物や塊の発生が問題に
なる可溶性物質であるのに対し,引用例2に記載された発明の「可溶性物質」は凝
集物や塊の発生が問題にならない可溶性物質であって,両者は可溶性物質の特性を
異にする,という趣旨をいうものと解される。
しかし,本願の明細書(本件補正による補正はない。)の段落【0001】には,
「本発明は,消費(飲用)に適する飲料を作るためのパッドであって,水などの液
体に可溶性の粉乳/クリーマ,砂糖および同様の添加物などの物質を入れた…」と
の記載があり,引用例2の段落【0040】には,「本発明の飲料パッケージは,
あらゆる望ましい飲料成分,例えば,焙焼して挽いたコーヒー豆,茶葉,チョコレ
ート粉末,及びそれぞれの味に従い粉末状ミルク又はクリーマー,砂糖及び/又は
人工甘味料を含むことができる。」との記載があって,本願の明細書と引用例2と
において,「可溶性物質」として共通のもの(クリーマないしクリーマー,砂糖)
が挙げられてこそすれ,本願補正発明と引用例2に記載された発明とで,「可溶性
物質」の特性が異なるものであることを示す記載はない。
なお,引用例2には,可溶性物質の溶解性に関して凝集物や塊を減少させたり除
去することの開示ないし示唆はない。しかし,前記(1)イのとおり,引用例2に記
載されたパッドは,可溶性物質をパッケージ内で均一に溶解させることができるも
のであり,これにより可溶性物質の凝集物や塊の発生を防止しているということが
できるものであるから,上記の点が結論に影響を及ぼすものではない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
ウ原告は,本願補正発明は,引用例2に記載された発明よりもはるかに優れた
可溶性物質の改善された溶解性を示すものであると主張する。
しかし,引用発明の抽出物質を可溶性物質に代えて適用すれば,可溶性物質は,
引用発明のセパレータによって均等に分散されて配置されることになる。
したがって,本願補正発明における可溶性物質の溶解性は,引用発明及び引用例
2に記載された発明から当業者が予測し得る程度のものにすぎない。
(3)まとめ
以上によれば,本願補正発明は,引用発明に引用例2に記載された発明を適用し
て当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定に
より,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,審決の
判断に誤りはない。
したがって,取消事由2に係る原告の主張は理由がない。
3取消事由3(本願発明の進歩性を否定した判断の誤り)について
(1)本願発明と引用発明との相違点は,前記第2の3(2)キのとおり,
「本願発明では,第1カバーに入れられるのが水溶性液体に可溶性の物質であり,
前記可溶性物質を透過しない材料から作製された上側シート,および前記可溶性物
質を透過させないが,液体に溶解している物質を透過させる材料から作製された底
側シートを有し,格子構造内に前記可溶性物質の少なくとも一部分が収容されてい
るのに対して,
引用発明では,第1カバーに入れられるものがコーヒーなどの抽出物質であり,
上記のような上側シート及び底側シートを有しておらず,格子構造内に抽出物質が
収容されている点。」
である(なお,本願発明は,前記のとおり,壁構造が格子構造に限定されている点
で本願補正発明と異なっているが,この点は引用発明との相違点とはされていない
ので,以下の判断に影響はない。)。
前記2(1)において説示したところと同様の理由により,引用発明に引用例2に
記載された発明を適用して,パッドの内容物を可溶性物質とすることによって,第
1カバーに入れられるのが水溶液体に可溶性の物質であり,前記可溶性物質を透過
しない材料から作製された上側シート,および前記可溶性物質を透過させないが,
液体に溶解している物質を透過させる材料から作製された底側シートを有し,格子
構造内に前記可溶性物質の少なくとも一部分が収容されているようにすることは,
当業者が容易になし得る程度のものにすぎない。
また,本願発明の効果も,引用発明及び引用例2に記載された発明から当業者が
予測し得た程度のものである。
(2)前記2(2)において説示したところと同様の理由により,原告の主張はいず
れも理由がない。
(3)以上によれば,本願発明は,引用発明に引用例2に記載された発明を適用し
て当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定に
より特許を受けることができないものであるから,審決の判断に誤りはない。
したがって,取消事由3に係る原告の主張は理由がない。
4小括
以上のとおり,審決に取り消されるべき違法はない。
第6結論
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
芝田俊文
裁判官
西理香
裁判官
知野明

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛