弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原決定を取り消す。
     本件を旭川地方裁判所に移送する。
         理    由
 一、 抗告代理人は、主文同旨の決定を求めた。その抗告の理由は別紙記載のと
おりである。
 二、 当裁判所の判断。
 (一) 本件記録によると次のことが認められる。
 (1) 相手方は、全国各種商品取引所の指定仲買人であるが、抗告人と相手方
は、相手方の札幌支店旭川出張所を通じて、昭和三七年六月九日から同年九月一九
日までの間に、北海道大手芒、大阪大手芒、東京大手芒、および横浜生糸の先物取
引きをした。そして、これを手仕舞いしたところ、相手方の計算では、抗告人に対
し金二〇一万〇四〇円の債権を有することになつた。
 (2) 大阪大手芒の先物取引きは、大阪穀物取引所で、同取引所の受託契約準
則(以下単に準則というときは大阪穀物取引所のそれを指す)にしたがつてなされ
た。
 (3) 準則二八条には「委託者及び仲買人は、取引所における売買取引の受託
に関する訴訟については、取引所の所在地を管轄する裁判所によるものとする。」
と規定されているが、これは、商品取引所法九六条が、受託契約準則には、「売買
取引の受託に関する必要な事項」を定めるように規定していることにもとづく。相
手方が、本件を大阪地方裁判所に提訴したのは、右取引きのうち大阪大手芒の先物
取引きについて、準則二八条により同裁判所に管轄があり、他の先物取引きについ
て民訴二一条によつて、同裁判所に管轄があると判断したことによる。
 (二) 管轄は、多数ある裁判所に事件を分配して裁判権を行なわしめるについ
ての定めをいい、特定の事件からいえば、その事件について、裁判権を行使できる
のは、どの裁判所か、すなわち管轄裁判所はどれかの問題である。
 管轄はこれを生ずる原因によつて分けると、直接法律が定める法定管轄、当事者
の合意による合意管轄(民訴二五条)又は被告の態度によつて生ずる応訴管轄(民
訴二六条)などの当事者管轄および管轄不明の場合に定められる指定管轄(民訴二
四条)の三種類がある。
 法定管轄は、主として公益の必要上直接法律によつて規定される。民事裁判の手
続法である民訴に多くのそのような規定を見出だすことができる(民訴五条ないし
二一条)が、民訴以外にも、多くの法律によつて法定管轄に関する規定がなされて
いる(商法八八条、特許法一七八条、弁護士法六二条など)。しかし、法定管轄
は、法律上の明文の根拠規定を必要とし、法律の明文に根拠がなく、単なる政令、
規則、命令などによつて法定管轄を生ぜしめえないことは当然の事理であつて、多
言を要しない。
 ところで、商品取引所法には、管轄を定めた規定がないし、政令や規則などにそ
のことを委託する旨を規定した条文も見当らない。
 <要旨>相手方は、大阪穀物取引所は準則二八条に管轄の定めをしており、これ
は、同法九六条二項三号によるから、法定管轄にほかならないと主張するの
で考究する。
 同号は「前各号に掲げる事項の外売買取引の委託に関し必要な事項」を受託契約
準則に定めるよう規定している。
 今これを狭義に字義どおりに解すると、同号の売買取引きの委託に関し必要な事
項の中には、当然には取引所の取引委託に関する紛争についての裁判管轄まで入ら
ないことになる。なぜならば、管轄は、民事紛争に関し必要な事項であつても、売
買取引きの委託に関し必要な事項とはいえないからである。そうしてみると、準則
二八条は、商品取引所法九六条二項三号にもとづかないことになる。
 他方、これを広義に解し、同号の売買取引きの委託に関し必要な事項中に、裁判
管轄も入ると解しても、次に述べる理由で準則二八条は、法定管轄を定めるもので
はないと解するのが相当である。
 法律により命令に委任が許されるのは、法律が、命令制定権者に対し、特別の委
任すなわち、特定の事項を指定してこれを命令の規定に譲る場合だけであるが、右
商品取引所法九六条二項三号はさきにもふれたとおり、「売買取引の委託に関し必
要な事項」とあるだけで、「売買取引きの委託により生ずる民事紛争に関し必要な
事項」を受託契約準則に定めるよう特定して指定していないばかりか、商品取引所
は、内閣や各種委員会のように法律によつて命令や規則を制定する権限を与えられ
ていない。したがつて、受託契約準則は、商品取引所が、会員組織の取引所である
性質上制定する自治規則にすぎず、ただ、商品取引所法九六条三項には、受託契約
準則を変更したときは、主務大臣に届け出でることを義務づけて、その監督に服さ
せてはいるが、同法には、その制定についてまで、主務大臣に届け出でて、その指
導監督に服させる規定がない。
 このように観てくると、準則二八条の管轄の規定が、商品取引所法九六条二項三
号にもとづくからといつて、直ちに法定管轄を定めたものであるとは到底するわけ
にはいかないのであつて、このことは、同条三項の規定の有無によつてなんら変わ
るものではない。
 もつとも、同条二項三号の「売買取引きの委託に関し必要な事項」の中には、さ
きに説示したとおり、取引上の紛争から生じる争訟について予め裁判管轄を定めた
り、仲裁の方法を定めたりすることも入ると広く解することができるから、受託契
約準則の中に、そのようなことに関する定めをすることは勿論妨げないであとう。
しかし、その管轄の規定は、前の理由によつて、法定管轄を定めたことにはならな
いから、それは、たかだか、当事者管轄設定の手掛りになりうるだけである。すな
わち、この規定から直ちに合意管轄は生じないが、この規定のあることから、容易
に管轄の合意書が作成される場合があるであとうし、被告が応訴することも十分考
えられるわけである。
 (三) そうしてみると、相手方は、準則二八条を根拠に、本件を大阪地方裁判
所に提訴したが、同条は法定管轄の規定と解されない以上、準則二八条をその根拠
とするわけにはいかないし、相手方は、右のほか、本件が同裁判所の管轄に属する
理由を明らかにしていないばかりか、さきに認定した事実関係からは、本件が同裁
判所の管轄に属すると認められる管轄原因は見当らない。
 (四) 以上の次第で、同裁判所には、本件について管轄がなく、むしろ、抗告
人の普通裁判籍を管轄する裁判所である旭川地方裁判所に管轄があるわけであるか
ら、本件を同裁判所に移送するのが正当である。
 そこで右と異なる原決定を失当として取り消し、本件を同裁判所に移送すること
とし、民訴四一四条三八六条を適用して主文のとおり決定する。
 (裁判長判事 平峯隆 判事 日高敏夫 判事 古・慶長)

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