弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
原判決を破棄する。
本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人田中裕司の上告受理申立て理由第3について
1原審の確定した事実関係の概要は次のとおりである。
(1)被上告人は,損害保険業を目的とする株式会社である。
(2)上告人は,平成12年11月ころ,それまで所有していた車両の下取価格
を60万円とし,これに加えて頭金80万円,割賦支払金263万5500円を支
払う約定で,自家用普通乗用自動車(トヨタセルシオ。以下「本件車両」とい
う。)を購入し,平成14年7月にその代金を完済した。
(3)本件車両には,盗難防止装置の一種であるイモビライザーが搭載されてい
た。
(4)上告人は,平成13年11月12日,被上告人との間で,次のとおりの車
両保険契約(本件保険契約)を締結した。
ア保険の種類家庭用総合自動車保険
イ保険期間平成13年11月12日午後4時から平成14年11月
12日午後4時まで
ウ被保険自動車本件車両
エ被保険者(被保険自動車の所有者)上告人
オ保険金額450万円
(5)本件保険契約に適用される家庭用総合自動車保険約款(以下「本件約款」
という。)には,次の定めがある。
ア被上告人は,「衝突,接触,墜落,転覆,物の飛来,物の落下,火災,爆
発,台風,こう水,高潮その他偶然な事故」によって被保険自動車に生じた損害及
び「被保険自動車の盗難」による損害に対して,被保険者に保険金を支払う(第6
章車両条項第1条1項。以下「本件条項1」という。)。
イ被上告人は,保険契約者,被保険者,保険金を受け取るべき者,所有権留保
条項付売買契約に基づく被保険自動車の買主等(以下「保険契約者,被保険者等」
という。)の故意により生じた損害に対しては,保険金を支払わない(同章第4条
(1)。以下「本件条項2」という。)。
(6)上告人は,平成14年10月12日午後1時ころ,上告人の肩書住所地の
マンション1階にある駐車場に本件車両を駐車し,福岡空港から同日午後4時発の
便でフィリピンに出発し,同月22日午後3時ころ,フィリピンから帰国した。
(7)本件車両は,平成14年10月12日午後7時21分ころ,上告人以外の
何者かによって,上記駐車場から持ち去られた(以下,これを「本件車両持ち去
り」という。)。本件車両持ち去りの状況は,上記駐車場に設置された防犯ビデオ
により撮影されていた。
2本件は,上告人が,本件車両の盗難により損害を被ったと主張して,被上告
人に対し,本件保険契約に基づき保険金の支払を求める事案である。
3原審は,次のとおり判示して,上告人の請求を棄却すべきものとした。
本件保険契約に基づき保険金を請求する者は,被保険自動車の盗難その他偶然な
事故の発生を主張,立証すべき責任を負担するものと解される。本件の具体的事情
を総合すれば,本件車両を持ち去った人物が被保険者である上告人と全く無関係の
第三者としてこれを窃取したものではなく,上告人と意を通じていたのではないか
との疑念を払拭することができない。したがって,上告人は,本件車両持ち去りが
盗難その他偶然な事故によるものであることを証明するに至っていない。
4しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
(1)商法629条が損害保険契約の保険事故を「偶然ナル一定ノ事故」と規定
したのは,損害保険契約は保険契約成立時においては発生するかどうか不確定な事
故によって損害が生じた場合にその損害をてん補することを約束するものであり,
保険契約成立時において保険事故が発生すること又は発生しないことが確定してい
る場合には,保険契約が成立しないということを明らかにしたものと解すべきであ
る。同法641条は,保険契約者又は被保険者の悪意又は重過失によって生じた損
害については,保険者はこれをてん補する責任を有しない旨規定しているが,これ
は,保険事故の偶然性について規定したものではなく,保険契約者又は被保険者が
故意又は重過失によって保険事故を発生させたことを保険金請求権の発生を妨げる
免責事由として規定したものと解される。
本件条項1は,「衝突,接触,墜落,転覆,物の飛来,物の落下,火災,爆発,
台風,こう水,高潮その他偶然な事故」及び「被保険自動車の盗難」を保険事故と
して規定しているが,これは,保険契約成立時に発生するかどうかが不確定な事故
を「被保険自動車の盗難」も含めてすべて保険事故とすることを明らかにしたもの
で,商法629条にいう「偶然ナル一定ノ事故」を本件保険契約に即して規定した
ものというべきである。そして,本件条項2は,保険契約者,被保険者等が故意に
よって保険事故を発生させたことを,同法641条と同様に免責事由として規定し
たものというべきである(最高裁平成17年(受)第1206号同18年6月1日
第一小法廷判決・民集60巻5号1887頁,最高裁平成17年(受)第2058
号同18年6月6日第三小法廷判決・裁判集民事220号391頁参照)。本件条
項1では「被保険自動車の盗難」が他の保険事故と区別して記載されているが,
「被保険自動車の盗難」についても他の保険事故と同じく本件条項2が適用される
のであるから,「被保険自動車の盗難」が他の保険事故と区別して記載されている
のは,本件約款が保険事故として「被保険自動車の盗難」を含むものであることを
保険契約者や被保険者に対して明確にするためのものと解すべきであり,少なくと
も保険事故の発生や免責事由について他の保険事故と異なる主張立証責任を定めた
ものと解することはできない。
そして,一般に盗難とは,占有者の意に反する第三者による財物の占有の移転で
あると解することができるが,上記のとおり,被保険自動車の盗難という保険事故
が保険契約者,被保険者等の意思に基づいて発生したことは,本件条項2により保
険者において免責事由として主張,立証すべき事項であるから,被保険自動車の盗
難という保険事故が発生したとして本件条項1に基づいて車両保険金の支払を請求
する者は,「被保険者以外の者が被保険者の占有に係る被保険自動車をその所在場
所から持ち去ったこと」という外形的な事実を主張,立証すれば足り,被保険自動
車の持ち去りが被保険者の意思に基づかないものであることを主張,立証すべき責
任を負わないというべきである。
(2)原審は,本件条項1に基づいて車両保険金の支払を請求する者は被保険自
動車の持ち去りが被保険者の意思に基づかないものであることにつき主張立証責任
を負うと解した上,本件においてはその証明がないとして,上告人の被上告人に対
する請求を棄却したものである。しかし,前記事実関係によれば,被保険者である
上告人以外の者が本件車両をその所在場所から持ち去ったことは明らかになってい
るというべきであるから,保険事故の発生が立証されていないとして上告人の請求
を棄却することはできない。
5原審の前記判断には法令の解釈を誤った違法があり,この違法が判決に影響
を及ぼすことは明らかである。これと同旨をいう論旨は理由があり,原判決は破棄
を免れない。そして,被上告人は,本件車両持ち去りが上告人の意思に基づくもの
であるという免責事由の主張をしているから,これについて更に審理を尽くさせる
ため,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官上田豊三裁判官藤田宙靖裁判官堀籠幸男裁判官
那須弘平裁判官田原睦夫)

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