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平成19年12月26日判決言渡
平成19年(行ケ)第10040号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成19年11月26日
判決
原告エヨトゲーエムベーハー
ウントツェーオーカーゲー
訴訟代理人弁理士川上肇
同萩島良則
被告特許庁長官
肥塚雅博
指定代理人町田隆志
同村本佳史
同亀丸広司
同高木彰
同大場義則
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を3
0日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2005−1702号事件について平成18年9月25日に
した審決を取り消す。
第2争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,平成10年7月28日,発明の名称を「タッピンねじを備えた固
定ねじ」とする発明につき国際出願(パリ条約による優先権主張・1997
年7月29日,1997年11月11日,独国。特願平11−510509
号。以下「本願」という。)をした。
特許庁は,平成16年12月17日,本願につき拒絶査定をし,これに対
し原告は,平成17年2月1日,不服審判請求(不服2005−1702号
事件)をし,その係属中,同月28日付け手続補正書をもって本願に係る明
細書について特許請求の範囲の補正(以下「本件補正」という。)をした(
以下,本件補正後の明細書を,願書に添付した図面と併せて「本願明細書」
という。)。
そして,特許庁は,平成18年9月25日,本件補正を却下した上,「本
件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)を
し,その謄本は同年10月6日原告に送達された。
2特許請求の範囲の記載
(1)本件補正前
本件補正前の特許請求の範囲の「1.」,「2.」の記載は,次のとお
りである(以下,「1.」に係る発明を「本願発明」という。)。
「1.冷間転造により形成され,特に熱可塑性樹脂にねじ込むため,ほぼ
一貫した円筒状のねじ底(8)および一貫して同じ高さの頂点を有す
るねじ山(10)を備え,隣り合うねじ山(10)間の自由空間はタ
ッピンねじ(2,11)に沿って均一に形成された固定ねじにおい
て,
1.ねじの外径Doおよび谷径Dkが形成する式Q1=Do/Dkが
1.2から1.4の大きさであること,
2.隣り合うねじ山の軸方向間隔Pおよびねじ山高さHとで形成する
式Q2=P/Hが2.75と2.9の間にあること,
3.ねじ山の頂角が約30度であること,
の特徴を組み合わせてなるタッピンねじを備えた固定ねじ(1)。」
「2.冷間転造により形成され,特に熱可塑性樹脂にねじ込むため,ほぼ
一貫した円筒状のねじ底(8)および一貫して同じ高さの頂点を有す
るねじ山(10)を備え,隣り合うねじ山(10)間の自由空間はタ
ッピンねじ(2,11)に沿って均一に形成された固定ねじにおい
て,
1.ねじの外径Doおよび谷径Dkが形成する式Q1=Do/Dkが
1.25から1.65の大きさであること,
2.隣り合うねじ山の軸方向間隔Pおよびねじ山高さHとで形成する
式Q2=P/Hが2.35と2.7の間にあること,
3.ねじ山の頂角が約30度であること,
の特徴を組み合わせてなるタッピンねじを備えた固定ねじ(2
1)。」
(2)本件補正後
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1,2の記載は,次のとおりであ
る(下線部は本件補正による補正箇所。以下,本件補正後の請求項1に係
る発明を「本願補正発明」という。)。
「【請求項1】冷間転造により形成され,特に熱可塑性樹脂にねじ込むた
め,一貫した円筒状のねじ底(8)および一貫して同じ高さの頂点を有す
るねじ山(10)を備え,隣り合うねじ山(10)間の自由空間は一重ね
じのタッピンねじ(2)に沿って均一に形成された固定ねじ(1)におい
て,
1.ねじの外径Doおよび谷径Dkが形成する式Q1=Do/Dkが1.
2から1.4の大きさであること,
2.隣り合うねじ山の軸方向間隔Pおよびねじ山高さHとで形成する式Q
2=P/Hが2.75と2.9の間にあること,
3.ねじ山の頂角が約30度であること,
の特徴を組み合わせてなるタッピンねじを備えた固定ねじ。」
「【請求項2】冷間転造により形成され,特に熱可塑性樹脂にねじ込む
ため,一貫した円筒状のねじ底(28)および一貫して同じ高さの頂点
を有するねじ山(30)を備え,隣り合うねじ山(30)間の自由空間
は一重ねじのタッピンねじ(22)に沿って均一に形成された固定ね
じ(21)において,
1.ねじの外径Doおよび谷径Dkが形成する式Q1=Do/Dkが
1.25から1.46の大きさであること,
2.隣り合うねじ山の軸方向間隔Pおよびねじ山高さHとで形成する式
Q2=P/Hが2.35と2.7の間にあること,
3.ねじ山の頂角が約30度であること,
の特徴を組み合わせてなるタッピンねじを備えた固定ねじ。」
3審決の内容
審決の内容は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願補正発明
は,刊行物1(特開昭59−131014号公報。甲1)に記載された発
明(以下「引用発明」という。)に,刊行物2(特開平7−269542号
公報。甲2)に記載された技術的事項及び周知技術を加味することにより当
業者が容易に発明することができたものであって,特許出願の際独立して特
許を受けることができないものであるから,本件補正は却下すべきものであ
ると判断し,その上で,本願発明は,刊行物1,刊行物2に記載されるもの
及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであ
るから,本願は拒絶すべきであると判断したものである。
なお,審決は,本願補正発明と引用発明との間には,次のとおりの一致点
及び相違点があると認定した。
(一致点)
「冷間加工により形成され,特に熱可塑性樹脂にねじ込むため,一貫した
ねじ底および一貫して同じ高さを有するねじ山を備え,隣り合うねじ山間の
自由空間はタッピンねじに沿って均一に形成された固定ねじにおいて,
2.隣り合うねじ山の軸方向間隔Pおよびねじ山高さHとで形成する式Q2
=P/Hが2.75と2.9の間にあること,
3.ねじ山の頂角が約30度であること,
の特徴を組み合わせてなるタッピンねじを備えた固定ねじ。」である点。
(相違点1)
加工に関して,本願補正発明が「冷間転造」であるのに対して,引用発明
は「冷間圧造」である点。
(相違点2)
ねじ山に関して,本願補正発明が「頂点」を有するのに対して,引用発明
は「ねじ外周面」を有する点。
(相違点3)
ねじ底に関して,本願補正発明が「円筒状」であるのに対して,引用発明
は「減径部を有するもの」である点。
(相違点4)
タッピンねじに関して,本願補正発明が「一重ねじ」としているのに対
し,引用発明は「条数の特定をしていない」点。
(相違点5)
一条ねじの数値限定に関して,本願補正発明が,「ねじの外径Doおよび
谷径Dkが形成する式Q1=Do/Dkが1.2から1.4の大きさである
こと,」としているのに対して,引用発明は,2条ねじの数値限定として「
ねじの外周直径(dA)と芯径(dK)との比(dA/dK)が1.5より
も小さく,かつ1.2よりも大きく,即ち,ねじの外径Doおよび谷径Dk
が形成する式Q1=Do/Dk(ただし,谷径Dkは芯径dKで定義)が
1.2から1.5の大きさであること,」としている点。
第3当事者の主張
1取消事由についての原告の主張
審決には,一致点の認定の誤り(取消事由1),相違点2の容易想到性の
判断の誤り(取消事由2),相違点3の容易想到性の判断の誤り(取消事由
3),相違点5の容易想到性の判断の誤り(取消事由4),本願補正発明の
顕著な作用効果の看過(取消事由5)があり,その結果,本願補正発明は,
当業者が容易に発明することができたものであると誤って判断し,本件補正
を却下した違法がある。
(1)一致点の認定の誤り(取消事由1)
引用発明のねじ山は,山頂の外周面が有意の幅を有し,頂点が存在しな
いので,「頂角」を具備するものではないから,本願補正発明と引用発明
とが「3.ねじ山の頂角が約30度である」点において,一致するとした
審決の認定は誤りである。
すなわち,「頂角」とは,幾何学的表示であり,「頂点」において交差
する多角形の辺の交角である。ねじ山の両側面が交差する角度は,「ねじ
山の角度」であり,「頂角」とはいわない(甲10)。「頂点」を有する
ねじ山は,山頂幅が有意ではなく微小であるから,両側面は山頂において
交差するので,その「ねじ山の角度」が「頂角」である。
これに対し,「外周面」を有するねじ山は,山頂幅が有意であるから,
両側面は山頂より高い位置において交差するので,その「ねじ山の角度」
を「頂角」と解することはできない。
そして,本願補正発明のねじ山は,軸線を含む断面形状が,ねじ底を底
辺とする「頂角」約30度の「三角形」の構成を有するのに対し,引用発
明のねじ山は,Fig.2(甲1)に記載されているように,軸線を含む
断面形状が,圧縮側フランク角度を27度,遊び側フランク角度を3度と
する非対称な「二段台形」であり,山頂の「外周面」がねじ山の高さの1
0%∼20%の有意な幅を有するから,「頂角」を備えていない。
したがって,審決の上記一致点の認定は誤りである。
(2)相違点2の容易想到性の判断の誤り(取消事由2)
審決は,「相違点2の構成は,・・・実願昭55−61919号(実開
昭56−162310号)のマイクロフィルムにも記載されるように,周
知であるから,「ねじ外周面」を有する形状のものを「頂点」を有する形
状のものに変更する程度の改変は当業者が容易になし得る設計変更の域を
出でないものであ」る(審決書5頁26行∼30行)と判断した。
しかし,審決の判断は,以下のとおり誤りである。
ア審決が周知例として挙げる甲3(実願昭55−61919号(実開昭
56−162310号)のマイクロフィルム)に記載されているタッピ
ンねじのねじ山は,30度の頂角を有する点において本願補正発明のも
のと一致するが,根元にアール部を形成した撥形である点において本願
補正発明とは構成が有意に異なる。
したがって,引用発明の非対称な二段台形のねじ山を,甲3に記載さ
れた根元にアール部を形成した撥形のねじ山に基づいて,「頂点」を有
する形状のもの(相違点2に係る本願補正発明の構成)に変更すること
は,当業者が容易になし得る設計変更の域を超えるといえるから,審決
の相違点2の容易想到性の判断には誤りがある。
イなお,乙3(特開昭56−73212号公報)のタッピンねじのねじ
山は,先端部に,技術的に有意な最大0.1mm又は0.15mm幅(
ねじ山の高さの15%∼20%)の外周面を有しており,「頂点」を有
せず,「頂角」も有していないから,周知例とはいえない。
(3)相違点3の容易想到性の判断の誤り(取消事由3)
審決は,「相違点3に係る構成も,刊行物2に記載されるようにねじ底
を「円筒状」とすることも「減径部を有するもの」とすることも,共に発
明を表す実施例として表現されているから,本願補正発明において「円筒
状」を採用する程度のことは当業者が容易になし得る設計事項に過ぎな
い。」(審決書5頁30行∼34行)と判断した。
しかし,審決の判断は,以下のとおり誤りである。
ア刊行物2(甲2)には,「さらに,本タッピンねじ1におけるねじ部
1bの軸線に対する横断面形状は図2に示すように曲率半径の大きい曲
面と曲率半径の小さい曲面を交互に連続して配した略三角形状を成して
いる。」(3頁3欄33行∼36行)との記載があり,図2において,
図示されたタッピンねじ(1)のねじ部(1b)は,軸に垂直な断面の
形状が「略三角形状」である。
刊行物2の上記記載に照らすならば,刊行物2に記載されたねじ底
は,「1つの平面部からなるねじ谷部2cを有するもの」ではあるが,
決して「円筒状」ではなく,横断面が「略三角形状」のものである。
したがって,刊行物2の実施例においてねじ底が「円筒状」のものが
記載されているとの審決の認定は誤りである。
イ以上のとおり,刊行物2の実施例にねじ底が「円筒状」のものが記載
されているとはいえないから,相違点3に係る本願補正発明の構成(ね
じ底を「円筒状」とする構成)が刊行物2に実施例として記載されてい
ることを前提に,「円筒状」を採用する程度のことは当業者が容易にな
し得る設計事項にすぎないとした審決の判断は誤りである。
(4)相違点5の容易想到性の判断の誤り(取消事由4)
審決は,「相違点5は谷径Dkに対するねじの外径Doの比に関わるも
のであるから,数値が大きい程谷径Dkに対するねじ山の高さが高いこと
を意味し,数値が小さい程谷径Dkに対するねじ山の高さが低いことを意
味するものである。」(審決書6頁3行∼6行)とした上で,「引用発明
における2条ねじのデータであるねじの外周直径dAと芯径dKとの比,
即ちQ1=Do/Dkの値を見れば,これを本願補正発明の相違点5に係
る構成に転用する程度のことは,当業者にとって格別の困難性を伴う事な
くなし得る技術的事項であると認めるのが相当である。」(同6頁12行
∼16行)と判断した。
しかし,審決の判断は,以下のとおり誤りである。
アタッピンねじのねじ山の「有効断面積」は,樹脂材の孔にねじ込んだ
タッピンねじの軸心に沿う断面において,ねじ山の輪郭とタッピンねじ
がねじ込まれる前の孔の内面により囲まれた面積であり,タッピンねじ
が樹脂材に開けた孔にねじ込まれるとき,ねじ山が排除する樹脂量は,
ねじ山の「有効断面積」が大きい程多く,小さい程少ない。ねじ山が排
除した樹脂材は,ねじ山の根元近くの孔の内面に移動してその部分の孔
の内径を縮小させ,内径の縮小は排除される樹脂量によるので,ねじ山
の「有効断面積」が小さい程,排除される樹脂量が少なく,ねじ山根元
近くの孔の縮小部分の内径は大きくなる。タッピンねじの谷径,すなわ
ち「軸断面積」は,この縮小部分の孔の内径により決まるから,ねじ山
の「有効断面積」が小さい程大きくすることができる。
本願補正発明のタッピンねじは,一貫した「円筒状」のねじ底及び一
貫した同じ高さの「頂点」を有するねじ山を備え,ねじ山の「頂角が約
30度」であるという構成を有することにより,ねじ山の有効高さ(孔
内面からの高さ)が同一である場合,引用発明のタッピンねじより
も,「有効断面積」が常に小さく,タッピンねじの樹脂材にねじ込まれ
たときの樹脂材からの排出量と樹脂材の変形量は常に少ないので(甲1
1),本願補正発明のタッピンねじは,常に大きい谷径すなわち「軸断
面積」を有することが可能である。このようにタッピンねじのねじ山の
高さを決定することは,樹脂材にねじ込まれたときの樹脂材からの排出
量と樹脂材の変形量,ねじ込み性,締め付け性等のねじ性能を勘案して
実施する技術的事項である。
イそして,当業者であれば,ねじ山の角度と高さとピッチが同じである
ときも,ねじ性能が技術的に有意に異なることを考慮するから,引用発
明のねじ山の高さに関する数値すなわちdA/dKの比を,本願補正発
明の高さに関する数値すなわちDo/Dkの比としてそのまま転用する
ことはあり得ない。
したがって,相違点5に係る本願補正発明の構成を容易に想到し得た
とした審決の判断は誤りである。
(5)本願補正発明の顕著な作用効果の看過(取消事由5)
審決は,本願補正発明の作用効果について,「その奏する作用効果につ
いて見ても,刊行物1,2に記載されるもの及び周知・慣用の技術が奏す
るそれの総和を上回るものと認めることができない。」(審決書6頁17
行∼19行)と判断した。
しかし,審決の判断は,以下のとおり誤りである。
ア本願補正発明は,ねじ山の「有効断面積」が小さく,ねじ底の「軸断
面積」が大きいことにより,材質が同じであれば,タッピンねじの軸破
断事故を低減し,軸強度が同じであれば,製造コストが低減するという
顕著な作用効果を奏するものである。
すなわち,前記(4)アのとおり,タッピンねじのねじ山の「有効断面
積」が小さい程,排除される樹脂量が多く,ねじ山根元近くの孔の縮小
部分の内径は大きくなり,タッピンねじの谷径すなわち「軸断面積」
は,この縮小部分の孔の内径により決まるから,ねじ山の「有効断面
積」が小さい程大きくすることができる。そして,タッピンねじは,孔
の内径によりねじ山の外径が決まり,ねじ山の谷径すなわち軸断面によ
り軸強度が決まる。
本願補正発明のタッピンねじは,一貫した「円筒状」のねじ底及び一
貫した同じ高さの「頂点」を有するねじ山を備え,ねじ山の「頂角が約
30度」であるという構成を有することにより,ねじ山の有効高さ(孔
内面からの高さ)が同一であるとき,刊行物1(甲1),刊行物2(甲
2),甲3及び乙1ないし3のいずれのタッピンねじのものよりも常に
大きい谷径すなわち「軸断面積」を有することが可能である(甲11,
12)。このように本願補正発明のタッピンねじは,甲号各証及び乙号
各証のものより常に大きな「軸断面積」を有することが可能となり,材
質が同じであれば,軸強度が増加するので,タッピンねじの軸破断事故
を低減し,また,軸強度が同じであれば,材質の調整により,製造コス
トが低減する。
なお,本願補正発明のタッピンねじは,根元に樹脂部材の孔の内面を
大きく変形させる有意なアール部が存在しないため,タッピンねじの谷
径を,円筒状のねじ底と樹脂部材の孔の内面の間には比較的狭い空間だ
けが残るように設定し,谷径を大きくして軸断面を従来のものよりも太
くすることが可能であるのに対し,甲3に記載されたタッピンねじは,
ねじ山の根元に有意なアール部を有するため,谷径を大きくすると,樹
脂材を排除する断面積が増大し,樹脂部材の孔の内面を大きく変形させ
て孔径を収縮させ,ねじ込みに支障を来すから,谷径を大きくして軸断
面積を大きく設定することができない。したがって,甲3に記載された
発明に,本願補正発明が奏するようなタッピンねじ破断事故低減の作用
効果を期待することはできない。
イ以上によれば,本願補正発明におけるタッピンねじの作用効果は,刊
行物1(甲1),刊行物(甲2)に記載されたもの及び周知・慣用技術
がそれぞれ固有に有するものの総和を上回る顕著なものである。
したがって,このような本願補正発明の顕著な作用効果を看過した審
決の判断は誤りである。
2被告の反論
(1)取消事由1に対し
アねじの特性に照らすならば,「頂角」は,ねじ山側面の延長線同士の
なす角度を意味すると解すべきである。すなわち,「頂点」を有するね
じの場合は,「頂点」における角度であり,「頂点」を有しないねじ(
例えば「ねじ外周面」を有するねじ)の場合は,ねじの側面の延長線同
士がなす仮想の「交点」における角度であると解すべきである。
また,本願明細書(甲4)においても,「ドイツ特許公報第2754
870号」(乙1)記載の外周面を有するタッピンねじについて頂角を
有するとの記載(4頁8行∼9行)がある。審決は,「頂角」を「ねじ
山の角度」といった意味で用いており,「頂点」の有無を相違点2とし
て挙げている。
イしたがって,引用発明のねじ山は,ねじ外周面を有し,「頂角」を具
備するものであるから,本願補正発明と引用発明とが「3.ねじ山の頂
角が約30度である」点において,一致するとした審決の認定に誤りは
ない。
(2)取消事由2に対し
本願の優先権主張日当時,タッピンねじのねじ山が「頂点」を有する形
状のものも(例えば,甲3,乙3),「外周面」を有する形状のものも(
例えば,乙1,2),いずれも周知である。また,「頂点」を有する形状
のものは,「木ねじ」のねじ山によく見られるように,ありふれた形状で
ある。
上記のとおり,ねじ山に「頂点」を有するものも,「外周面」を有する
ものも共に周知であることに照らすならば,当業者にとっては,材料の硬
さの程度を考慮して,それらを適宜選択することは,容易になし得る設計
変更の域を出ないものである。したがって,審決の相違点2の容易想到性
の判断に誤りはない。
(3)取消事由4に対し
ねじ山の高さとねじ山の角度は一定であることを前提に,ねじ山の有効
高さ(樹脂材を排除する部分のねじ山頂部からの高さ)は樹脂部材に開け
た孔の径に依存するとした場合,断面形状が三角形のねじ山の有効断面積
は,二等辺三角形のものが最小であり,左右非対称の三角形のものはその
非対称の度合いが強くなる程断面積は大きくなる。このことは,断面形状
が台形のものにも,同様にあてはまる。また,非対称の度合いが共に同様
な三角形と台形とを比べれば,三角形の断面積は台形の断面積よりも互い
に重ねた際にできる平行四辺形の面積分だけ小さく,その度合いは,面積
差(平行四辺形の面積)=(ねじ山の高さ*ねじ外周面の長さ)と表すこ
とができる。つまり,上記一定条件下で見れば三角形の面積は台形の面積
よりも小さいが,ねじ山の高さが一定との条件下で見れば,その面積差
は,「ねじ外周面の長さ」のみに依存することとなる。
ところで,「ねじ外周面の長さ」は種々考えられるから,三角形に限り
なく近い台形もあれば,台形に限りなく近い三角形も存在することは自明
であり,両者の峻別は難しい。したがって,有効断面積に上記のような特
性があるからといって,原告が主張するように,ねじ山の断面形状が台形
のもの(引用発明)のねじに関する数値限定を,ねじ山の断面形状が三角
形のものに転用できないとする理由はなく,引用発明(ねじ山の断面形状
が台形のもの)に基づいて,相違点5に係る本願補正発明の構成を容易に
想到し得たとした審決の判断に誤りはない。
(4)取消事由5に対し
ア本願補正発明は,タッピンねじの谷径を大きくし得たことにより,「
タッピンねじの破断事故を低減する」という原告主張の作用効果は,引
用発明との比較において,本願補正発明がねじ底を「円筒状」としたこ
とに基づく効果であるから,刊行物2のものが有する作用効果と相違は
ない。確かに引用発明のものはねじ底に「減径部」を有しているから,
その減径した分だけねじ軸の強度が低下するが,その点は,審決におい
て,ねじ底部に関する相違点3として検討している。
本願補正発明と,刊行物1,刊行物2,甲3,乙1ないし3に記載さ
れたものから原告が独自に抽出した発明(甲11に記載のもの)とを比
較すれば,本願補正発明の有効断面積が有意に小さい。そして,その点
は,刊行物1のものの断面形状が台形であること,刊行物2のものの断
面形状が二段台形であること,甲3のものが根元アール部を有するこ
と,乙1ないし3のものが,頂角を40度に設定されていることに由来
する。しかし,本願補正発明のものが,上記各引用例を組み合わせたも
のに比較して,常に,谷径すなわち軸断面積を常に大きく設定すること
ができるとはいえない。引用発明に,ねじ底形状として刊行物2のもの
を適用すると共に,ねじ山に頂点を持たせる甲3の周知のものを適用す
れば,ねじ山の有効断面積も,軸断面積も本願補正発明と同一になるか
らである。
イタッピンねじにおいて,有効断面積を検討するに当たっては,樹脂部
材に開けた孔の径との関連において,ねじ山の断面形状のみならず,ね
じ山の有効高さを考慮する必要がある。本願補正発明のようなねじ底
が「円筒状」のタッピンねじで,最大の有効断面積すべてを樹脂材にね
じ込むような場合には,ねじにより排除される樹脂材の逃げ場所を考慮
する必要があると同時に,有効断面積が小さいことによるタッピンねじ
が抜けに弱くなる点の問題を考慮する必要がある。
原告は,「有効断面積」が「軸断面積」のみと関連することを前提に
主張するが,「有効断面積」は,むしろ特許請求の範囲には特定されて
いない「樹脂材に開けた孔の径」とも関連しており,「樹脂材に開けた
孔の径」が特定されない限り,「有効断面積」と「軸断面積」との関連
性を正確に規定することはできない。
ウ以上によれば,本願補正発明の作用効果は,刊行物1,刊行物2に記
載されるもの及び周知・慣用の技術が奏するそれの総和を上回るもので
はなく,本願補正発明の作用効果は顕著とはいえないから,審決の判断
に誤りはない。
第4当裁判所の判断
1取消事由1(一致点の認定の誤り)について
(1)原告は,引用発明のねじ山は,山頂の外周面が有意の幅を有し,頂点が
存在しないので,「頂角」を具備するものではないから,本願補正発明と
引用発明とが「3.ねじ山の頂角が約30度である」点において,一致す
るとした審決の認定は誤りであると主張する。
しかし,①本願明細書(甲4)には,「樹脂に対するこの種の頂角は,
例えばドイツ公報第2754780号に示されているように既知であ
る。」(4頁8行∼9行)との記載があること,②本願明細書が引用し
た「ドイツ公報第2754780号」(乙1)のFig2,Fig3に
は,頂点を有せず,山頂が平坦なねじ山が図示されていることに照らすな
らば,本願明細書においては,頂点を有しないねじ山の各側面(フランク
面)の延長線の交点が形成する「ねじ山の角度」についても,「頂角」の
用語を用いていることが認められる。
そうすると,本願補正発明の特許請求の範囲(請求項1)記載の「頂
角」は,頂点を有するか否かを問わず,「ねじ山の角度」を意味するもの
と解される。
(2)したがって,頂点が存在しない引用発明の「ねじ山の角度」も「頂角」
といって差し支えないから,引用発明は「頂角」を具備しないことを理由
に,本願補正発明と引用発明との一致点の認定を誤りをいう原告の主張(
取消事由1)は理由がない。
2取消事由2(相違点2の容易想到性の判断の誤り)について
(1)容易想到性の有無
アタッピンねじにおいて,ねじ山が頂点を有する形状(相違点2に係る
本願補正発明の構成)のものは,本願の優先権主張日当時,周知であっ
たことが認められる(例えば,甲3の第2図,乙3の第5図(a),(b
))。
イ刊行物1(甲1)には,①「ねじの確実な座りを得るためには,タッ
ピングの終了時に,タッピングトルクより大きい締付けトルクが得られ
なければならない。この締付けトルクはいかなる場合も雌ねじ山を破損
しない程度の大きさでなければならない。雌ねじ山を破損するほど大き
なトルクを過剰トルクと呼ぶ。・・・滑らかな壁を有する孔内に雌ねじ
山を形成するためには,ねじ山の薄い,要するにねじ山の角度の小さな
ねじが特に適する。なんとなれば材料をわずかに押のけ又は切削すれば
よく,かつ軟性材料例えばプラスチック内へ比較的大きく喰込むからで
ある。」(2頁左下欄16行∼右下欄末行),②「本発明の課題は,同
じねじ山の角度を有する公知のねじに比較して,締付けトルクが同じな
らばねじ山の軸力が減少するような・・・タッピンねじを提供すること
にある。」(3頁左上欄6行∼9行),③「ねじ山の角度は有利には4
5°より小さく,有利にほぼ30°である。ねじ山の角度が小さいと孔
壁の材料内へのねじ山のタッピングが容易となる。本発明は特にねじ山
の角度が小さいことに関連して重要である。なんとなれば,一般にはね
じ山の角度が小さくかつねじ山が対称的に形成される場合にはフランク
角が小さくなってしまうが,本発明の如くねじ山が非対称的に形成され
ていれば,・・・圧力側フランクのフランク角を著しく増大させること
ができるからである。過剰トルクの増大は本発明による非対称的な構成
によって,山の倒れが大きいほど改善される。」(3頁右上欄6行∼1
9行),④「圧力側フランク4のフランク角が遊び側のフランク角5に
比して大きくなるようにねじ山の断面形を非対称的に構成したことによ
って,要するにこのような山の倒れによって,薄い断面形(小さなねじ
山の角度)でも過剰トルクが大きくなる。この非対称性の構造は・・・
公知の非対称性の構造とは異なり,その逆の構造となっている。」(4
頁右下欄4行∼14行)との記載がある。
上記記載と図面(甲1)によれば,刊行物1には,引用発明は,圧力
側フランクのフランク角が遊び側のフランクのフランク角に比して大き
くなるようにねじ山の断面形を非対称的に構成したことによって,薄い
断面形のねじ山(ねじ山の角度が小さなもの。例えば,ほぼ30°のも
の)においても,従来のタッピンねじに比して過剰トルクを増大させら
れる技術が開示されていることが認められる。
ウ上記イ認定のとおり,引用発明は,圧力側フランクのフランク角が遊
び側のフランクのフランク角に比して大きくなるようにねじ山の断面形
を非対称的に構成したことにより,薄い断面形のねじ山であっても過剰
トルクを増大させられる点に特徴があるといえる。そして,引用発明に
おいて,ねじ山が,頂点を有しない,「ねじ外周面」を有する形状のも
のであることに特段の技術的意義は存しないものといえるから,引用発
明のねじ山の形状を,本願の優先権主張日当時周知であった「頂点」を
有する形状(相違点2に係る本願補正発明の構成)のものに変更するこ
とは,当業者が容易になし得る設計変更の域を出でないものであり,容
易に想到し得たものと認められる。これと同旨の審決の判断に誤りはな
い。
(2)原告の主張に対する判断
原告は,審決が周知例として挙げる甲3に記載されているタッピンねじ
のねじ山は,根元にアール部を形成した撥形である点において本願補正発
明とは構成が有意に異なるので,引用発明の非対称な二段台形のねじ山
を,甲3に記載されたねじ山に基づいて,「頂点」を有する形状のものに
変更することは,当業者が容易になし得る設計変更の域を超えるものであ
る,また,乙3記載のタッピンねじのねじ山は,「頂点」を有しないなど
と主張する。
しかし,①審決は,甲3は,本願の優先権主張日当時,タッピンねじの
ねじ山に「頂点」を有する形状のものが周知であったことの例示として引
用しているのであり,甲3に記載されたねじ山に基づいて,「頂点」を有
する形状のものに変更することが当業者が容易になし得たかどうかを判断
しているものではないこと,②甲3に記載されているタッピンねじのねじ
山の根元の形状は,ねじ山に「頂点」を有する形状のものが周知であった
との認定を左右するものでもないことに照らすならば,原告の主張は,審
決を正解しないものであって失当である。
また,前記(1)ア認定のとおり,乙3には,タッピンねじのねじ山に「頂
点」を有する形状のものが記載されており,この点においても原告の主張
は失当である。
したがって,原告主張の取消事由2は理由がない。
3取消事由3(相違点3の容易想到性の判断の誤り)について
(1)容易想到性の有無
ア刊行物2(甲2)には,①「図1において1は本発明に係る一実施例
のタッピンねじであり,・・・ねじ部1bに形成されるねじ山2は,図
3に示すようにねじ軸線に沿った断面形状が,傾斜角度の異なる2つの
フランク面を連続的に重ね,これを対称配置した形状であり・・・即
ち,・・・フランク角が15°に設定された第1フランク面2bと,こ
の第1フランク面2bに連続してねじ谷部を2cに達する高さを有し,
そのフランク角は20°である第2フランク面2dとを連続的に連ね,
これを対象配置した形状である。」(段落【0011】,【0012
】)との記載があること,②図3には,「ねじ谷部2c」のねじ軸線に
沿った断面形状が,平坦な形状であることが示されていること,③「図
5において5は本発明に係るタッピンねじの他の実施例であり,・・・
ただし,このタッピン5におけるねじ谷部7はねじ軸線に沿った断面形
状が図6に示すようにV字状をなしており,その開度は155°に設定
されている。」(段落【0018】,【0019】)との記載があるこ
と,④図6には,「ねじ谷部7」のねじ軸線に沿った断面形状が,V字
状であることが示されていることが認められる。
上記認定事実によれば,刊行物2(甲2)には,タッピンねじの一実
施例として,ねじ底(ねじ谷部)が,減径部を設けていない平坦な形状
のもの(図3の「ねじ谷部2c」)と,他の実施例として,ねじ底(ね
じ谷部)が,減径部を設けたV字状のもの(図6の「ねじ谷部7」)が
開示されていることが認められる。
イ前記2(1)ウのとおり,引用発明は,圧力側フランクのフランク角が遊
び側のフランクのフランク角に比して大きくなるようにねじ山の断面形
を非対称的に構成したことにより,薄い断面形のねじ山であっても過剰
トルクを増大させられる点に特徴があるから,当業者であれば,引用発
明のねじ底の形状が減径部を設けたものであることに特段の技術的意義
を有するものでないと理解し,引用発明のねじ底の形状を,刊行物2に
実施例の一つとして記載された減径部を設けていない平坦な形状のもの
に変更し,その結果,「円筒状」のねじ底の構成(相違点3に係る本願
補正の構成)とすることは,格別困難なことではなく,適宜に採用し得
る設計的事項であるものと認められる。
(2)原告の主張に対する判断
原告は,刊行物2の「さらに,本タッピンねじ1におけるねじ部1bの
軸線に対する横断面形状は図2に示すように曲率半径の大きい曲面と曲率
半径の小さい曲面を交互に連続して配した略三角形状を成している。」(
3頁3欄33行∼36行)との記載,及び図2において軸に垂直な断面の
形状が「略三角形状」のタッピンねじが図示されていることに照らすなら
ば,刊行物2の実施例にねじ底が「円筒状」のものが記載されているとは
いえないから,相違点3に係る本願補正発明の構成(ねじ底を「円筒状」
とする構成)を採用することは当業者が容易になし得る設計事項とはいえ
ないと主張する。
確かに,原告の主張する刊行物2の上記記載及び図2に照らすならば,
刊行物2の実施例のタッピンねじのねじ底は,ねじ軸線に垂直な断面形状
をみる限り,「円筒状」とはいい難く,「略三角形状の筒状」のものであ
ると認められるから,審決の「刊行物2に記載されるようにねじ底を「円
筒状」とすることも「減径部を有するもの」とすることも,共に発明を表
す実施例として表現されている」(審決書5頁30行∼32行)との認定
部分は適切ではないといえる。
しかし,審決の上記認定部分は,刊行物2の他の記載(前記(1)ア)を併
せ考慮すると,刊行物2には,実施例として,減径部を設けていない平坦
な形状のもの(図3の「ねじ谷部2c」)と,減径部を有するもの(図6
の「ねじ谷部7」)の両者が開示されていることを説示したものと理解す
ることができる。そして,前記(1)イのとおり,刊行物1及び刊行物2に接
した当業者であれば,引用発明のねじ底の形状を,相違点3に係る本願補
正の構成とすることは,適宜に採用し得る設計的事項であるものと認めら
れるから,原告主張の審決の認定の不適切な点は,相違点3の容易想到性
の判断を左右するものとはいえない。
したがって,原告主張の取消事由3は理由がない。
4取消事由4(相違点5の容易想到性の判断の誤り)について
(1)原告は,当業者であれば,ねじ山の角度と高さとピッチが同じであると
きも,ねじ性能が技術的に有意に異なることを考慮するから,引用発明の
ねじ山の高さに関する数値すなわちdA/dKの比を,本願補正発明の高
さに関する数値すなわちDo/Dkの比としてそのまま転用することはあ
り得ないことであるから,相違点5に係る本願補正発明の構成を容易に想
到し得たとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
ア審決認定の相違点5は,一条ねじの数値限定に関して,本願補正発明
が,「ねじの外径Doおよび谷径Dkが形成する式Q1=Do/Dkが
1.2から1.4の大きさであること,」としているのに対して,引用
発明は,2条ねじの数値限定として「ねじの外周直径(dA)と芯径(
dK)との比(dA/dK)が1.5よりも小さく,かつ1.2よりも
大きく,即ち,ねじの外径Doおよび谷径Dkが形成する式Q1=Do
/Dk(ただし,谷径Dkは芯径dKで定義)が1.2から1.5の大
きさであること,」としている点で,相違するというものである。こ
の「Q1=ねじの外径Do/谷径Dk」の比率は,谷径に対するねじ山
の高さを規定するものであり,本願補正発明の数値(1.2∼1.4)
と引用発明の数値(1.2から1.5)は大部分が重複している。
イそして,上記数値は,本願補正発明が「一条ねじ」のものであるのに
対し,引用発明が「2条ねじ」のものである点で差異があるが,審決が
認定するように,「一条ねじ」は,「最もありふれたねじの形態」(審
決書5頁35行)であることに照らすならば,引用発明を「一条ねじ」
の構成とし,その際に,「2条ねじ」における上記数値を適用して,相
違点5に係る本願補正発明の構成(「Q1=ねじの外径Do/谷径D
k」の比率1.2∼1.4)とすることは,当業者であれば,何ら困難
なことではなく,容易に想到し得たものと認められる。これと同旨の審
決の判断に誤りはない。
(2)したがって,原告主張の取消事由4は理由がない。
5取消事由5(本願補正発明の顕著な作用効果の看過)について
(1)原告は,本願補正発明は,ねじ山の「有効断面積」が小さく,ねじ底
の「軸断面積」が大きいことにより,材質が同じであれば,タッピンねじ
の軸破断事故を低減し,軸強度が同じであれば,製造コストが低減すると
いう顕著な作用効果を奏するものであるにもかかわらず,審決が,本願補
正発明の作用効果について,「その奏する作用効果について見ても,刊行
物1,2に記載されるもの及び周知・慣用の技術が奏するそれの総和を上
回るものと認めることができない。」(審決書6頁17行∼19行)と判
断したのは誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
ア本願明細書(甲4)には,「本発明は,特に熱可塑性樹脂に対するね
じ込み時の移動ねじの効果と逆に固定の目的に特に適したねじを提供す
るものである。」(1頁16行∼17行),「本発明のねじの寸法関係
によれば,外径に比して比較的大きなねじ断面(例えば図1に一見して
明らかにに示される)が得られる。従って,本発明によるねじは断面の
形状によって従来のねじに比べて相当高いねじりモーメントおよび軸力
に耐えることができる。このことから本発明によるねじは従来のねじに
比べて低い強度の材料から製作できるようになり,軽度の焼き入れのた
め拡散による吸収の傾向がなく,それによる脆性破壊のおそれのない材
料を使用することができる。」(5頁10行∼17行)との記載があ
る。
上記記載は,本願補正発明の構成を採用することにより,外径に比し
て比較的大きな「ねじ断面」(原告主張のねじ山の「有効断面積」が小
さく,ねじ底の「軸断面積」が大きいものに相当)が得られ,これによ
り従来のねじに比べて低い強度の材料から製作できるようになったこと
が示されているものと理解できる。
イ一方,刊行物1には,「滑らかな壁を有する孔内に雌ねじ山を形成す
るために,ねじ山の薄い,要するにねじ山の角度の小さなねじが特に適
する。なんとなれば材料をわずかに押のけ又は切削すればよく,かつ軟
性材料例えばプラスチック内へ比較的大きく喰込むからである。」(前
記2(1)イ①)との記載があることに照らすならば,刊行物1において
も,本願明細書と同様に,「ねじ山の薄い」タッピンねじ,すなわち,
原告主張のねじ山の「有効断面積」が小さいものは,「軟性材料例えば
プラスチック」に使用するのに特に適していることが示唆されているこ
とを理解することができる。
加えて,先に説示したとおり,本願補正発明に係る相違点2の構成(
ねじ山が頂点を有する形状)は本件出願の優先権主張日当時,周知であ
ったこと(前記2(1)ア),同相違点3の構成が示すねじ底が減径部を有
しない平坦な形状の構成は,刊行物2の実施例に開示されていること(
前記3(1)ア),同相違点5の構成の数値範囲(Q1=Do/Dkが1.
2∼1.4)自体は,引用発明のものと大部分が重複し,「一条ね
じ」(本願補正発明)か,「2条ねじ」(引用発明)の差異にすぎない
こと(前記4(1))に照らすならば,本願補正発明が奏する作用効果は,
刊行物1,刊行物2及び周知技術から予想される範囲内のものであって
格別顕著なものとは認められない。
(2)したがって,原告主張の取消事由5は理由がない。
6結論
以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。他に審決を取
り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主
文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官大鷹一郎
裁判官嶋末和秀

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