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平成20年6月26日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成19年第3485号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成20年4月14日
判決
原告株式会社ラインセンス&プロパティコントロール
訴訟代理人弁護士村林一
井上裕史
被告スズキ鋳鉄工業株式会社
訴訟代理人弁護士古井戸康雄
主文
1被告は,原告に対し,330万5000円及びこれに対する平成19年4月6日
から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用はこれを10分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とす
る。
4この判決の第1項は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,368万円及びこれに対する平成19年4月6日(訴状送
達の日の翌日)から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,原告と被告との間で締結された通常実施権許諾契約に定められた製造委
託義務を被告が怠ったとして,原告が被告に対し,債務不履行に基づく損害賠償
(訴状送達の日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害
金を含む)を請求した事案である。。
1争いのない事実
当事者
原告は,知的財産権の保有,運用等を業とする株式会社である。
被告は,上下水道用鋳物鉄蓋製造販売等を業とする株式会社である。
平成17年度契約
原告は被告との間で,平成17年6月24日,原告が保有する特許権等の通常
実施権の許諾に係る「基本契約書(甲1)を交わして基本契約を締結し,同月」
27日,同基本契約に基づく「合意書(甲2)を交わした。」
上記基本契約書及び合意書による原被告の合意(以下「平成17年度契約」と
いう)の内容は,次のとおりである。。
ア契約期間
契約締結の日から翌年3月末まで
イ対価及び製造委託義務
許諾数量の範囲内は無償とし,許諾数量を超過する部分につき被告は原告に
製造を委託する。許諾数量を定めない局契(入札等の方式により自治体が業者
から直接製品を購入する形態の取引)の場合,被告は受注数量の25%を原告
に製造委託する。
ウ許諾数量
別紙1「被告製品製造販売目録」の「許諾数量」欄記載のとおり
エ対象権利
別紙2「知的財産権目録」記載のとおり
オ損害賠償
上記イの製造委託義務に違反して製造販売した場合,被告は原告に対し,そ
の数量(以下「違反数量」という)に下記の製品タイプごとの損害賠償単価。
を乗じて算出した額を支払う。
(製品タイプ)(損害賠償単価)
GM2万5000円
防護1万円
被告の製造販売数量の超過
ア被告は,平成17年4月20日から平成18年3月31日までの間に,別紙
1「被告製品製造販売目録」の「製造販売数量」欄記載の数量の,上記対象権
利の実施品(以下「本件製品」という)を製造販売した。。
イ被告は,原告に対し,同目録の「委託数量」欄記載の数量の本件製品を製造
委託した。
2争点及び争点に関する当事者の主張
原告の損害算定の基礎となる違反数量は,製造販売数量から許諾数量と委託数量
の合計を差し引いた数量か(原告の主張,それとも,原告主張の違反数量からさ)
らに平成17年度の期首在庫数量を減じた数量か(被告の主張)
【原告の主張】
原告の損害算定の基礎となる違反数量は,製造販売数量から許諾数量と委託数
量の合計を差し引いた数量である。
被告は,平成17年度期首に保有していた在庫製品を平成17年度中に販売し
たとしても損害賠償責任を負う理由はない旨主張する。しかし,被告と日之出水
道機器株式会社(以下「日之出」という)が平成16年度に締結していた通常。
実施権許諾契約(以下「平成16年度契約」という)は「本契約の有効期間内。,
に製造し,販売することのできる本製品の数量(甲3の1,第4条。以下「1」
6年度契約第4条」という)を定めたものにすぎない。すなわち,平成16年。
度に製造した本件製品を,その契約の有効期間経過後の平成17年度に販売する
ことが許されているわけではない。
仮に,被告の上記主張が認められるとしても,被告の主張する在庫は平成17
年度期首に存在していないから,被告の主張には理由がない。
被告は「本契約の有効期間内に製造し,販売することのできる本製品の数,
量」の解釈は,有効期間内に「製造」され,かつ「販売」できる数量を規定した
ものであって,有効期間外で「製造」され有効期間外で「販売」する場合及び有
効期間外で「製造」され有効期間内で「販売」する場合を含まないと主張すると
ころ,原告はこれを有利に援用する。すなわち,被告は,前記基本契約書(甲
。,1)第4条(以下「平成17年度契約第4条」という)の範囲内においてのみ
同契約書に記載された本産業財産権を実施することが許諾されているのであるか
ら,平成17年度契約第4条の範囲を逸脱する行為は,本産業財産権を無許諾で
実施する行為である。なお,平成17年度契約第4条の解釈は被告の主張すると
おりであるが,原告としては,被許諾者が当該有効期間内に販売した製品の数量
が許諾数量内であれば,それが当該期間内に製造されたものであっても,それ以
前の時期に販売されたものであっても特に問題としていない。
また,平成16年度契約第4条も「本契約の有効期間内に製造し,販売する,
ことのできる本製品の数量」となっているから,同条が平成17年度契約で許諾
された「許諾数量」とは無関係に平成16年度内に製造した製品を平成17年度
に販売することを許諾するものでないことは明らかである。
以上のとおりであるから,平成17年度に被告が販売した製品に,仮に平成1
6年度内に製造した製品が含まれていたとしても,平成17年度に,平成17年
度契約第4条で規定された「許諾数量」を超過して製品を販売する行為は,同条
に違反するものであることは明らかである。
【被告の主張】
被告は,日之出から正当に許諾を受け,又はOEMによって正当に製造してい
た本件製品を,平成17年度期首において別紙1「被告製品製造販売目録」の
「平成17年度期首在庫数」記載の数量だけ在庫として保有していた。したがっ
て,この在庫製品を平成17年度中に販売したとしても,被告が損害賠償責任を
負う理由はない。
被告が日之出との間で締結していた平成16年度契約第4条の「本契約の有効
期間内に製造し,販売することのできる本製品の数量」の解釈は,有効期間内に
「製造」され,かつ「販売」できる数量を規定したものであって,有効期間外で
「製造」され有効期間外で「販売」する場合及び有効期間外で「製造」され有効
期間内で「販売」する場合を含まない。よって,他年度に製造された在庫を本年
度に販売しても何ら同条に違反するものではない。
したがって,原告の損害算定の基礎となる違反数量は,製造販売数量から許諾
数量と委託数量の合計を差し引いた数量(原告主張の違反数量)から,さらに平
成17年度の期首在庫数量を減じた数量である。
第3争点に対する判断
1証拠(甲1,3の1∼5)によれば,次の事実が認められる。
ア平成17年度契約第4条第1項は,次のとおり定めている。
「甲(判決注:原告を指す)は,甲が前条第1項の通常実施権を乙(判決注。
:被告を指す)に許諾するにあたり,乙が指定業者となった対象事業を,一。
契約期間ごとに確認するとともに,該当対象事業(地方公共団体との直接の契
約(以下「局契」という)によって本製品(判決注:本件製品を指す)を受。。
注した場合を除く)ごとに,乙が当該契約期間内に製造し,販売することの。
できる本製品の数量(以下「許諾数量」という)について決定するものとす。
る」。
イ被告は,平成16年度(4月1日から翌年3月31日まで)において,日之出
との間で「通常実施権許諾契約書(甲3の1∼5はその例)を交わして通常実,」
施権許諾契約(平成16年度契約)を締結し,本件製品の製造販売をしていた。
平成16年度契約第4条1項は,次のとおり定めている。
「乙(判決注:被告を指す)が本契約の有効期間内に製造し,販売すること。
のできる本製品(判決注:本件製品を指す)の数量(以下「許諾数量」とい。
う)は,○○組(判決注:○○は契約によって異なる)を上限とする」。。。
上記「有効期間」は,平成16年度4月1日以降の特定の日(契約によって異
なる)から翌年3月末までとされている。。
2被告は,平成17年度期首に保有していた在庫製品を平成17年度中に販売した
としても損害賠償責任を負わないから,違反数量から平成17年度期首在庫数量を
差し引いて損害額を算定すべきであると主張する。しかし,被告が平成17年度契
約によって原告から許諾されているのは,平成17年度の契約期間内に,前記認定
の対象権利に係る特許発明等を実施すること,すなわち,あくまで上記期間内にお
いて本件製品を製造し,販売することであって,平成16年度以前に製造した本件
製品を平成17年度中に販売することが平成17年度契約によって許諾されている
ものでないことは明らかである。
同様に,被告が平成16年度契約によって日之出から許諾されていたのは,平成
16年度の契約期間内において,同契約の対象権利の実施品である本件製品を製造
し,販売することであって,平成16年度に製造した本件製品を平成17年度中に
販売することは,平成16年度契約によって許諾されているものではない。
したがって,仮に被告が平成17年度期首に在庫製品を保有していたとしても,
同製品を平成17年度中に販売する行為は,平成17年度契約の定める許諾の範囲
を逸脱する行為であり,また,平成16年度契約の定める許諾の範囲を逸脱する行
為でもあって,各契約の対象権利を侵害する行為である。
3被告は,平成16年度契約第4条の「本契約の有効期間内に製造し,販売するこ
とのできる本製品の数量」の解釈について,有効期間内に「製造」され,かつ「販
売」できる数量を規定したものであって,有効期間外で「製造」され有効期間外で
「販売」する場合及び有効期間外で「製造」され有効期間内で「販売」する場合を
含まないと主張するところ,同条と同趣旨の平成17年度契約第4条についても,
同様の解釈をとるものと解される。
しかし,このような解釈は,本来実施許諾契約の定める許諾の範囲内においての
み当該権利を実施することが許され,その範囲を逸脱する行為は当該権利を無許諾
で実施する行為であるのに,これとは逆に,実施許諾契約の定める許諾の範囲外に
おいては,自由に当該権利を実施することができると言うに等しいものであり,採
用できない。
したがって,仮に平成17年度中に被告が販売した製品に平成16年度以前に製
造した製品が含まれていたとしても,平成17年度において,平成17年度契約第
4条で定められた許諾数量を超過して製品を販売する行為は,同条に違反するもの
というべきであるから,原告の損害額算定の基礎となる違反数量は,製造販売数量
から許諾数量と委託数量を合計したものを差し引いた数量となる。
4そうすると,原告の損害額は,違反数量に製品タイプごとの損害賠償単価を乗じ
て算出した額,すなわち,
GM129個×2万5000円=322万5000円
防護8個×1万円=8万円
の合計330万5000円となる。
なお,原告の損害額が,請求額よりも小さいのは,原告が,佐賀県江北町の①
「防護」の製造販売数量を,当初60と主張していたのを40と改め,②「GM」
の委託数量を,当初0と主張していたのを20と改めたが,請求の減縮をしていな
いためである。
5以上によれば,原告の請求は,債務不履行による損害賠償金330万5000円
及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成19年4月6日から支払済みまで
商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから
これを認容し,その余は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判
決する。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官田中俊次
裁判官西理香
裁判官北岡裕章

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