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平成24年11月28日判決言渡
平成24年(行コ)第448号衆議院議員総選挙公示差止等請求控訴事件
主文
1本件控訴をいずれも棄却する。
2控訴費用は,控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2(1)主位的請求
内閣は,天皇に対し,平成24年11月16日の衆議院解散に基づく総選
挙の施行の公示に係る助言と承認をしてはならない。
(2)予備的請求
仮に上記アの選挙の施行の公示がされたときは,内閣は,中央選挙管理会
及び各都道府県の選挙管理委員会に対し,上記アの選挙につき公職選挙法別
表第1に定める選挙区割りに基づく選挙事務の管理をさせてはならない。
3内閣は,国会に対し,公職選挙法別表第1につき1人別枠方式を廃止し人口
に比例して議員定数を配分する法律案を提出せよ。
4訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
第2事案の概要(略称は原判決のものを用いる。)
1平成24年11月16日の衆議院の解散に伴い,衆議院議員総選挙(本件選
挙)が,同年12月4日に公示され,同月16日に施行される予定とされてい
る。
本件は,本件選挙の選挙人である控訴人らが,従前の選挙区割りに基づいて
本件選挙が施行されると,投票価値の平等が害されたまま投票を行わざるを得
ないという重大な損害を被ることになるとして,行政事件訴訟法(以下「行訴
法」という。)5条の民衆訴訟として,主位的に,同法3条7項の趣旨を類推
し,内閣が天皇に対し本件選挙の施行の公示に係る助言と承認をすることの差
止めを,予備的に,同項の趣旨を類推し,本件選挙の施行の公示がされたとき
は,内閣が中央選挙管理会及び各都道府県の選挙管理委員会に対し本件選挙に
つき公職選挙法別表第1に定める選挙区割りに基づく選挙事務の管理をさせる
ことの差止めを求め,さらに,同条6項1号の趣旨を類推し,内閣が国会に対
し公職選挙法別表第1につき1人別枠方式を廃止し人口に比例して議員定数を
配分する法律案を提出することの義務付けを求めた事案である。
原審は,現行の法制度の下における解釈論として,差止めの訴えや義務付け
の訴えを民衆訴訟として提起することは許されず,本件各訴えはいずれも不適
法であり,かつ,その不備はその性質上これを補正することができないとして,
行訴法7条,民事訴訟法140条を適用して,口頭弁論を経ることなく本件各
訴えをいずれも却下した。
これに対し,控訴人らが控訴した。
2本件における本件大法廷判決の判示,控訴人らの主張は,下記3に控訴人ら
の当審における主張を付加ないし補足するほかは,原判決の「事実及び理由」
欄の2項⑵及び⑶(原判決2頁25行目から同3頁12行目まで)に記載のと
おりであるから,これを引用する。
3控訴人らの当審における主張
最高裁判所昭和51年4月14日大法廷判決・民集30巻3号223頁(以
下「昭和51年大法廷判決」という。)は実質的に新たな民衆訴訟の類型を創
設したものであり,この考え方を推し進めれば,事後の選挙無効訴訟では償う
ことができない損害が生ずる場合に事前の差止め及び義務付けを認めることは
憲法の趣旨に合致するものである。また,差止め及び義務付けの訴えが抗告訴
訟の一類型として規定されているのは事前救済の機会を保障する必要性が特に
高いことによるものであって,現行配分規定のままで総選挙が行われると民意
を反映しない国会による国政を国民が受忍せざるを得ないという重大な損害が
継続するなど権利救済の必要性が高く,さらに,事前差止め又は義務付けを認
めた場合を上回る予測不可能な混乱が生ずることからすると,抗告訴訟に関す
る差止め及び義務付けの規定を本件各訴えに類推適用すべきである。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,控訴人らの本件各訴えはいずれも不適法でその不備を補正する
ことができないものと判断する。その理由は,下記2に控訴人らの当審におけ
る主張についての判断を補足するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の3項
⑴及び⑵(原判決3頁14行目から同6頁23行目まで)に記載のとおりであ
るから,これを引用する。
2控訴人らの当審における主張について
控訴人らは,昭和51年大法廷判決の考え方を推し進めれば事前の差止め及
び義務付けを認めることが憲法の趣旨に合致すること,現行配分規定のままで
総選挙が行われると,国民に重大な損害が生じることなどから権利救済の必要
性が高く,予測不可能な混乱が生ずることからすると,抗告訴訟に関する差止
め及び義務付けの規定を本件各訴えに類推適用すべきである旨主張する。
しかし,民衆訴訟は,国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正
を求める訴訟で,選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資
格で提起するもの(行訴法5条)であって,法律上の争訟たる性質を有さない
ものであることから,抗告訴訟や当事者訴訟のように一定の要件が備われば当
然に訴訟提起ができるものではなく,法律に定める場合において,法律に定め
る者に限り,提起することができるものとされている(同法42条)。
このような民衆訴訟は,国民個人の個別的な権利又は法律上の利益の保護を
目的とする法律上の争訟たる抗告訴訟とは本質的に異なるものであることは明
らかであるところ,差止め及び義務付けの訴えは抗告訴訟の一類型として設け
られているものである。また,民衆訴訟として,差止め及び義務付けの訴えと
類似する訴訟類型は法律上設けられておらず,他方で,選挙の施行後における
当該選挙の効力に関する訴訟が設けられており,これを提起することにより選
挙の効力を訴訟上争うことが制度上予定されていることからすると,現行法上,
議員定数を是正しないまま選挙を実施することにより生じるであろう混乱や国
民が被る不利益は,当該選挙の効力に関する訴訟を通じて是正されることが予
定されているものと解するのが相当である。
以上によれば,権利救済の必要性,総選挙が実施された場合の混乱等の控訴
人らの主張を考慮しても,抗告訴訟に関する差止め及び義務付けの訴えに関す
る規定を民衆訴訟に類推して適用することは解釈論の限界を超えるものといわ
ざるを得ず,したがって,控訴人らの主張は採用することができない。
3以上によれば,控訴人らの本件各訴えはいずれも不適法でその不備を補正す
ることができないから,口頭弁論を経ることなくいずれも却下すべきであり,
これと同旨の原判決は相当であって,本件控訴は理由がないからいずれもこれ
を棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第9民事部
裁判長裁判官下田文男
裁判官脇由紀
裁判官鈴木昭洋

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