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裁判例


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平成13年(行ケ)第574号 審決取消請求事件
平成14年10月29日口頭弁論終結
            判       決
      原      告    森下仁丹株式会社
      訴訟代理人弁理士  青 山   葆
      同         樋 口 豊 治
      同         大 西 育 子
      同         西 津 千 晶
      被      告    有限会社亜羅仁館
    訴訟代理人弁護士  清 水 三 郎
      同         吉 能   平
      同弁理士     水 野 善 夫
          主       文
    原告の請求を棄却する。
    訴訟費用は原告の負担とする。
        事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
(1)特許庁が平成11年審判第35679号事件について平成13年11月1
2日にした審決を取り消す。
(2)訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
  主文同旨
第2 特許庁における手続の経緯及び審決の理由
  以下は,当事者間に争いがなく,かつ,証拠(弁論の全趣旨を含む。)によ
って認定できる事実である。
1 特許庁における手続の経緯等
  登録第4185783号の商標(以下「本件商標」という。)は,「サラシ
ア」の片仮名文字を横書きして成るものであり,指定商品を第30類「茶」とし
て,平成8年8月12日,登録出願され(以下「本件出願」という。),平成10
年5月28日の査定(以下「本件査定」という。)を経て,同年9月11日に登録
された(以下「本件登録」という。)。本件登録当時の商標権者は,ランカアーユ
ルベーディックハーブ薬品株式会社(以下「原商標権者」という。)であった。本
件登録に係る商標権は,その後,コマニー株式会社に譲渡され,さらに,その後,
原告に譲渡され(いずれの譲渡についても,その登録は平成12年4月5日),今
日に至っている。
  被告は,平成11年11月19日,本件登録を無効にすることについて審判
の請求をした。特許庁は,これを平成11年審判第35679号として審理し,そ
の結果,平成13年11月12日,「登録第4185783号の登録を無効とす
る。」との審決をし,その謄本を,平成13年11月22日原告に送達した。
  その間,一部放棄により本件登録が一部抹消され,その結果,平成12年1
0月11日,指定商品を,第30類「サラシアレティキュラータ,サラシアオブロ
ンガ又はサラシアプリノイデスのエキスを主原料とする茶」とするとの登録がなさ
れた。
(甲第1号証及び第2号証,第28号証の1ないし3,第29号証の1ないし
3,弁論の全趣旨)
2 審決の理由
  審決の理由は,別紙審決書の写しのとおりである。要するに,「サラシア」
の語は造語ではなく,「スリランカの特定地域とインド南部に存在する藤の木のよ
うなツル性植物でその根と茎が糖尿病の治療に効果を有するサラシアレティキュラ
ータ」の略称であって,本件査定のころ,「健康食品,茶」等に関し,その商品の
原材料として使用されるものであることが,取引者・需要者間に広く知られていた
から,本件商標を,指定商品中「サラシアを原料とする茶」について用いるとき
は,単にその商品の品質,原材料を表示するものとなり,これ以外の「茶」に使用
するときは,その商品の品質について誤認を生ずるおそれがあるものとなって,本
件登録は,商標法3条1項3号及び4条1項16号に該当する,というものであ
る。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
  審決は,本件査定時における,「サラシアレティキュラータ,サラシアオブ
ロンガ,サラシアプリノイデス」という植物及びこれの略称としての「サラシア」
の文字の周知性,本件商標の自他商品識別力の存否,についての事実を誤認し,そ
のため,本件商標の商標法3条1項3号,4条1項16号該当性についての判断を
誤ったものである。
1 商標法3条1項3号該当性
(1)サラシアレティキュラータ,サラシアオブロンガ,サラシアプリノイデス
(以下「本件植物」ということもある。)という植物の薬効(腸内での糖の分解と
その吸収を阻止する作用)に着目し,これらを主材とする食品(茶等)を,平成1
0年3月に,日本で初めて製造,販売したのは,原告である(甲第3号証)。
(2)日本においては,原告が,本件植物を紹介するまで,一部の学識者のみが
それを知っていたに過ぎず,一般需要者,取引者が,「サラシア」の文字に接する
機会はなかった。
  本件査定時において,「サラシア」の文字が,植物の普通名称又は原材料
の表示として,日本の需要者の間で一般的に知られていた,ということはない。
(3)平成10年2月20日発行「健康の王国」(健康の王国愛読者クラブ発
行)(甲第4号証,審判甲第7号証)において,「サラシア」が,「サラシアレテ
ィキュラータ」という植物の名称の略称であるかのように使用されているのは,事
実である。しかし,これは,当該記事の執筆者の理解不足によるものである。
  このような誤りの他の例として,同じ上記「健康の王国」において,登録
商標である「ギムネマ」が,「ギムネマ・シルベスタ」という植物の略称であるか
のように使用されているものを挙げることができる(甲第4号証)。
  「健康の王国」に上記のような誤った記事が掲載されたとはいえ,この記
事の掲載後,本件査定時までには,わずか3か月と8日しかない。この間に,「サ
ラシア」という文字が,「サラシアレティキュラータ」の略称として一般需要者の
間に広まった,などということはない。
(4)平成10年5月25日発行「産経新聞」(甲第8号証,審判甲第8号証)
の広告は,原告自身が出したものであり,そこでも,「サラシア」という文字が,
本件植物の略称であるかのように使用されている。しかし,原告は,その後,「サ
ラシア」の文字の使用方法を是正した上,「サラシア」を普通名称であるかのよう
に使わないように注意を呼び掛けるなどして,本件商標の自他商品識別力喪失を防
止するための努力を続けている(甲第3号証,乙第15号証の2及び3)。
  本件査定日は上記広告のわずか3日後である。その間に,この広告によ
り,「サラシア」の文字が,「サラシアレティキュラータ」の略称として広く認識
されるに至ったなどということはあり得ない。
(5)甲第9号証ないし第13号証(審判甲第11号証,第12号証,第15号
証,第17号証,第18号証)の新聞,雑誌記事は,いずれも,本件査定時より後
のものである。
  のみならず,これらは,いずれも,A(以下「A」という。)を情報の発
信源とするものである。Aは,もと原告の取締役研究開発部長であり,その後,財
団法人生産開発科学研究所に籍を置いた。本件植物の研究は,原告が同研究所に委
託してさせたものである。
  Aは,前記研究を,同人が独自にしたものであるかのように,雑誌・新聞
に発表した上,それらにおいて,「サラシア」の語を,「サラシアレティキュラー
タ」の略称であるかのように誤用したものである。
  上記各証拠がこのようなものである以上,これらを,「サラシア」が本件
植物の略称として認識されていたと認定するための資料とすることはできない。
(6)甲第16号証(審判甲第16号証)は,平成11年2月18日発行の新聞
の記事であり,本件査定前に,本件植物を原材料とする茶が「サラシア茶」として
呼称されていたことを証明するものではない。
(7)本件査定当時,日本で刊行された辞典等で,「サラシア」という語を含む
ものは見当たらない(甲第17号証ないし第26号証)。
(8)以上のような状況の下で,「サラシア」の語は,本件査定当時,一部の学
識者の間において知られていたのを除き,植物の名称(略称を含む。)などとして
は,一般に知られておらず,したがって,本件商標の当時の指定商品「茶」につい
て自他識別力を有していた。
2 商標法4条1項16号該当性
  上記のとおり,本件商標は,本件査定当時,指定商品「茶」について自他商
品識別力を有していた。上記識別力は,その後も,原告の営業努力により拡大し続
けている。したがって,本件商標を,粉末又は顆粒状の乾燥した本件植物を主原料
とする茶以外の茶に使用しても,品質の誤認を生ずるおそれはない。
  なお,平成12年10月11日,本件登録は一部抹消され,指定商品は,
「サラシアレティキュラータ,サラシアオブロンガ又はサラシアプリノイデスのエ
キスを主原料とする茶」に減縮されている。
第4 被告の主張の要点
1 商標法3条1項3号該当性の主張に対して
(1)本件植物を原材料とする製品を,日本で初めて製造・販売したのは被告で
ある。
(2)特定の種類に属する植物を,その属名や独立性ある冠頭部分をもって略称
することは,一般に行われていることである(乙第19号証)。
  本件商標も,「サラシアレティキュラータ,サラシアオブロンガ,サラシ
アプリノイデス」の冠頭部分を流用し,あるいは省略したものにすぎない。
(3)原告自身,本件植物を原材料として製品の製造・販売を開始したとする平
成10年3月の時点で,「サラシア」を,本件植物の略称として使用していた(甲
第8号証)。
  原告は,本件植物についての「市場の先駆者」というのであるから,本件
植物の名称,性状,市場での認知状況について詳細で正確な情報を得ており,ま
た,いかなる名称で商品化するについても,十分な調査・準備をしていたはずであ
る。
  そのような原告が,「サラシア」を誤って普通名称として認識することは
あり得ない。
(4)甲第4号証(平成10年2月20日発行「健康の王国」の記事)の情報源
は,原告の営業部である。一般に,企業が記者の取材を受け,それが記事となると
きは,記事となる前に校訂をする機会があるものであるから,担当者が誤解して,
それがそのまま記事となったというのは不自然である。上記記事の内容は,その当
時における原告自身の認識・理解を示すものと認めるべきである。
  その内容は,その後,平成10年5月25日に発行された産経新聞の記事
とも類似している(甲第8号証)。原告は,平成11年6月に,マスコミに対し,
「サラシア」の文字の使用について是正を申し入れたにもかかわらず,その1年後
にも,「サラシア」が本件植物の略称であるかのように使用している(乙第15号
証の2,3,5,第16号証ないし第18号証)。これらのことからも,本当のと
ころは,原告自身も,「サラシア」が本件植物の略称であると理解していたものと
推認することができる。
(5)原告の主張によれば,Aは本件植物に関する専門的な知識を有している,
原告の関係者である。そのような人物が「サラシア」を植物の名称と認識している
ということは,そのような認識が一般的であったことを裏付けるものである。
(6)甲第9号証ないし第13号証は,本件査定後のものであるとはいえ,いず
れにおいても,「サラシア」が植物の名称として使用されている。これは,本件査
定時においても,「サラシア」が植物の名称として知られていたことを裏付ける事
実というべきである。
(7)以上のとおりであるから,「サラシア」は,本件査定当時,需要者に,本
件植物を示す名称ないし略称として知られていたものということができる。これ
が,「茶」について自他識別力を備えていたということはない。
2 商標法4条1項16号該当性の主張について
  「サラシア」という文字は,本件査定時において,本件植物の略称として一
般に使用され,かつ,これを原材料とする商品の品質・原材料を表示するものとし
て使用されてきた。原告自身,本件植物を材料としない商品に,本件商標を使用し
たことはない。
  したがって,本件商標を,「サラシアレティキュラータ,サラシアオブロン
ガ又はサラシアプリノイデスのエキスを原材料とする茶」以外の茶に使用すれば,
品質の誤認を生じることは明らかである。
第5 当裁判所の判断
1 本件植物の来歴等
(1)本件植物は,インドやスリランカに自生するニシキギ科の植物で,500
0年の歴史を持つインド古代伝承医学であるアーユルヴェーダ(サンスクリット語
の,"Ayrus"「生命」と"Veda"「科学・知識」の合成語)において,ぜんそく,淋
病,虫刺され,耳の疾患などに対する薬効を持つ生薬とされてきた。現在でも,イ
ンドやスリランカなどの生産地で薬として用いられているほか,後記のとおり,糖
尿病にも有効であるとの研究がなされてきている。
(2)下記のとおり,近時の研究で,本件植物の中に含まれる成分が,糖質の分
解を抑制し,その吸収を阻害するなどの作用を持つと考えられるようになり,糖尿
病の治療薬,ダイエット食品の原料として注目されている。
① 米国特許第5691386号(平成9年11月25日登録)において,
サラシア属("Salaciaspp.")の植物(サラシアオブロンガ,サラシアレティキュ
ラータ)から単離された,血糖低下作用のある組成物の精製物に関する特許が登録
されている。
  なお,この特許公報には,サラシアの血液浄化作用の研究結果が195
4年に,糖尿病に対する薬理作用の研究結果が1969年に,それぞれ公刊されて
いるとの記載がある。
② 原告に所属する研究グループ(一部の研究者は共通している。)は,次
のような論文を順次発表している。
ア 平成10年5月19日に,「スリランカ有用植物サラシア・レティキ
ュラータ(Salaciareticulata)水抽出物のラット及びヒトの食後過血糖に及ぼす
作用」と題する論文が,日本栄養・食糧学会に提出され,同学会誌51巻5号27
9頁以下に掲載されている。この論文では,「サラシア」より抽出した水エキスの
血糖抑制作用の作用特性,糖質の消化に関係する酵素に対する阻害作用等について
述べられている。
イ 食品衛生学雑誌40巻3号別冊(平成11年6月号)に,「ニシキギ
科植物サラシア幹抽出エキスの安全性」と題する論文(平成10年9月21日提
出)が掲載されている。この論文では,サラシア幹抽出エキスについて,ラットを
用いた実験に基づき,サラシアの急性毒性と変異原性に関する知見が述べられてい
る。
ウ 日本栄養・食糧学会誌53巻4号(平成12年発行)に,「サラシ
ア・レティキュラータ(Salaciareticulata)水抽出物のラットにおける高脂血症
予防作用」と題する論文(平成11年12月9日提出,平成12年7月8日受理)
が掲載されている。この論文では,サラシア幹抽出エキスについて,ラットを用い
た実験に基づく,血中トリグリセリド(TG)降下作用等について述べられてい
る。
(甲第4号証,第8号証,乙第1号証,第2号証,第3号証,第4号証,第5
号証,第8号証,第14号証,第16号証,第17号証,第18号証)
2 「サラシア」の文字の使用態様
(1)雑誌「健康の王国 ダイエット特集号」(平成10年2月20日発行)に
は,「「サラシア」はラテン名でサラシアレティキュラータ。スリランカの特定地
域とインド南部に存在し,分布は非常に限定されています。」,「「サラシア」っ
てどのような植物なのですか。」など,「サラシア」を,本件植物の名称ないし略
称のように使用した記載がある。「サラシア」の文字が,原告の商品に付された商
標であるかのように使用された記載はない。
(2)原告は,平成10年3月に,本件植物を原材料とした食品等を発売した。
ただし,本件査定時前に,「サラシア」の語をどのように用いて,商品の販売を展
開したかについて,これを具体的に示す証拠はない。
(3)平成10年5月25日発行の産経新聞には,「「サラシア」で健康ダイエ
ット」との表題で,本件植物及びこれを使用した食品の紹介がなされ,その中に
は,「森下仁丹では・・・「サラシア」に注目した。サラシアは,スリランカやイ
ンド南部の高地のごく一部に生える藤の木のようなツル性の植物。インドでは,そ
の葉を煎じたり,サラシアの幹で作ったカップに寝る前に水を入れ,・・・」な
ど,「サラシア」を,普通名称のように使用した記載がある。
  同記事の下欄には,原告の広告があり,その中には「「サラシア」とは耳
慣れないことばですが,インドやスリランカなど限定された地域にだけ原生するつ
る科の植物で,・・・」との記載がある。
  同記事の中には,「同社(判決注 原告を指す。)では・・・「サラシア
ダイエット茶」を開発した。」との部分があり,前記広告中には,「サラシアダイ
エット」との片仮名文字と「SALACIACARE」の欧文字等を組み合せたデザイン(図
案)の表示がある。
(4)平成10年5月18日発行及び同年11月24日発行の日経金融新聞は,
それぞれ,原告に関するものとして,「ダイエット用食品「サラシア」」も発
売」,「ダイエット用食品「サラシア」の販売を本格化」という,「サラシア」の
文字を商標として用いたと読める記載がある。
(5)原告は,平成11年6月に,「サラシア」の文字は,原商標権者と原告が
登録商標として共同で管理していることを挙げて,これを使用するときは,登録商
標であることを明記するように,マスコミなどに求めている。
  しかし,その後にも,原告自身,「サラシア水抽出物を1錠に40mg含む
錠剤」と,「サラシア」を,原告の製品ではなく原材料である本件植物を指すため
に用いたこともある。
(6)本件査定後も,雑誌等では,「サラシア」は,本件植物を示す普通名称な
いしその略称として用いられていることがある。
(甲第4号証,第8号証,第9号証,第11号証ないし第13号証,乙第1号
証,第15号証の1ないし5)  
3 判断
(1)本件植物の名称「サラシアレティキュラータ,サラシアオブロンガ及びサ
ラシアプリノイデス」は,共通の冠頭部分「サラシア」を有している。そうだとす
ると,本件植物が,サラシア属として分類され,その結果,学術上のみならず,一
般社会においても,「サラシア」と呼称されるということは,このような場合に一
般によくあることに照らして,いかにも生じやすいことということができる。現に
前記認定のとおり,その多くは本件査定後の事実であるとはいえ(一部には,本件
査定前のものもある。),本件植物は,しばしば「サラシア」として引用されてい
る。  
(2)本件植物そのもの,「サラシアレティキュラータ,サラシアオブロンガ,
サラシアプリノイデス」というその名称及びそれらが一定の薬効を持つことは,当
該分野の学識者の間では,古くから知られており,その薬効に関する近代的な研究
も,海外においてではあるものの,遅くとも,本件査定より約40年程度前からな
され,公表されていた。
  日本においても,原告の研究グループが,平成10年5月19日に,本件
植物の血糖抑制作用等に関する論文を学会誌に提出していることからすれば,原告
は,これより相当前に,本件植物に注目し,その研究を進めてきていたことが,明
らかである。
  以上のとおり,本件植物が古くから知られ,海外において,その薬効に関
する近代的な研究も積み重ねられ,日本においても,原告が,本件査定に先立ち本
件植物の研究をし,論文を作成し公表するまでに至っていることからは,本件査定
当時,この分野の学識者はもとより,原告を含めて,この種の健康食品の製造・販
売にかかわる取引者の間においても,本件植物は,その名称とともに,知られてい
たと認めることができる。
(3)上記状況の下では,本件査定当時,「サラシア」の語は,「茶」という商
品との関係においては,原材料を示すという意味を有する語であったということが
でき,本件商標は,商標法3条1項3号に該当するものであったというべきであ
る。
  原告は,商標法3条1項3号に該当するためには,「サラシア」の語が
「茶」の原材料を示すことが,学識者や取引者のみならず,一般需要者にも知られ
ていることが必要であることを前提に,論を進めている。
  しかしながら,少なくとも,本件植物との関係における「サラシア」のよ
うに,原材料が何であるかを一般需要者に示すための語として他のものを考えるこ
とが困難な語(あるいは,少なくとも,原材料が何であるかを示すのによく適して
いるといい得る語)については,査定当時,当該語がそのような意味を有するもの
として一般需要者に既に知られるに至っていることは,商標法3条1項3号に該当
するための要件とはならないというべきである。このような語は,まだ一般需要者
に知られていないにせよ,それは,当該語が示す物を用いた商品自体が知られてい
ないがゆえにほかならず,そのような商品が知られるに至れば,これの原材料を示
すものとして用いられることにならざるを得ない。このような語に商標権という形
で独占権を認めることになれば,当該語を用いた商標の独占の名の下に,当該語の
示す物を原材料に用いた商品自体の独占を許すことにもなりかねず(商標法26条
1項の存在は,これを防ぐに十分なものではない。),当該語が示す物を原材料と
した商品が一般に知られるに至れば,一番需要者の間でも,これを用いた商標の自
他識別力は失われ,商標としての当該語の使用は,混乱の原因となることがほとん
ど必定である。このような結果の発生を事前に防ぐことも,商標法3条1項3号の
目的の一つであるというべきである。
(4)仮に,原告の主張する上記前提が認められるとしても,本件査定の約3か
月前に雑誌,3日前に新聞で,本件植物及びその薬効が紹介され,かつ,そこで
は,「サラシア」の文字が,本件植物の普通名称ないし略称として用いられている
ことからは,「サラシア」は,本件査定当時,日本において,茶を含む食品の原材
料である本件植物を指すものとして相当に知られるに至っていたものと認めること
ができる。
  被告は,前記各雑誌,記事の公表から本件査定時までの期間は短く,需要
者に広く知られるに至ることはない旨主張する。
  しかし,前記のとおり,もともと,本件植物は,ダイエット食品の原材料
として,本件査定の前から取引者の間で注目されていたと認められる上,近時,健
康意識の高まりから,健康食品及びその素材は,日本において,多数の人から高い
関心を寄せられていることからすれば,甲第4号証のような健康に関する雑誌で3
か月以上前に紹介され,甲第8号証のような全国紙で3日前に紹介された「サラシ
ア」が,本件査定時までに相当に広く認識されるに至ることは,不自然なことでは
ない。
(5)次に,念のために,商標法3条2項の該当性について検討する。
  本件で,原告が提出する,本件商標の使用態様に関する証拠は,ほとんど
が本件査定後のものである。
  本件査定前の事情を証するものとして,甲第3号証及び第8号証(とりわ
け原告の広告部分)がある。しかし,これらにより,原告が,平成10年3月に,
本件植物を原材料とした健康食品の販売を開始したとの事実は認められるものの,
これらによっても,原告が,「サラシア」の文字を商標として明確に用いたことは
認められず,まして,それが自他商品識別力を備えていたと認めることはできな
い。
  甲第14号証も本件査定前のものであり,これは,「サラシア」の文字が
本件商標として使用されていると認識し得るものである。しかし,この日経金融新
聞の発行部数,購読者層が明らかでない上,少なくとも,甲第4号証及び甲第8号
証の記事の体裁と比較すると,読者への訴求力が明らかに劣るものであって,甲第
14号証(及び,本件査定後のものではあるが,同種の第15号証)からでは,本
件査定時において,本件商標が商標として認識され,自他商品の識別力を獲得して
いたと認めることはできない。
  本件査定後,原告は,本件商標の自他商品識別力を確保するため,種々の
努力を重ねている(甲第3号証,乙第15号証の2及び3)。しかし,他方,前記
のとおり「サラシア」が普通名称ないし本件植物の略称として用いられている例も
多々あり,結局,これらの事実を総合すると,本件商標が使用された結果,自他商
品の識別力を獲得するに至っていた,と認めることはできないということになる。
(6)なお,本件商標の指定商品は,平成12年10月11日,「サラシアレテ
ィキュラータ,サラシアオブロンガ又はサラシアプリノイデスのエキスを主原料と
する茶」と限定されているから,原材料について誤認混同を生ずることはなく,商
標法4条1項16号には該当しない。
  しかし,前記のとおり,同法3条1項3号に該当し,同条2項に該当しな
い以上,審決の結論は左右されない。
4 結論
 以上のとおりであるから,原告の主張の取消事由には理由がなく,その他,
審決には取消しの事由となるべき誤りは認められない。そこで,原告の本訴請求を
棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法6
1条を適用して,主文のとおり判決する。
           裁判長裁判官    山  下  和  明
              裁判官     阿  部  正  幸
 
              裁判官    高  瀬  順  久

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