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裁判例


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○ 主文
原告の被告陸上自衛隊第三二普通科連隊長に対する訴を却下する。
原告の被告国に対する請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨(原告)
1 被告陸上自衛隊三二二普通科連隊長Aが原告に対し昭和五三年一月二九日付を
もつてした継続任用拒否処分を取消す。
2 原告が陸上自衛隊自衛官陸士長たる地位を有することを確認する。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
二 本案前の答弁(被告)
1 本件訴をいずれも却下する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
三 請求の趣旨に対する答弁(被告)
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求の原因(原告)
1 原告は、昭和四七年三月高等学校を卒業し、同四九年一月三〇日陸上自衛隊第
一教団第一一七教育大隊に二等陸士として入隊し、同日付で前期教育として同大隊
三三一共通教育中隊に、同年四月後期教育として市ヶ谷駐とん地第三二普通科連隊
教育隊に、次いで同年六月同連隊第四中隊にそれぞれ配属され、同五三年一月二九
日まで同中隊において勤務し、その間、同五〇年一月一日一等陸士に、同五一年一
月一日陸士長にそれぞれ昇任し、かつ、同月三〇日付をもつて自衛隊法第三六条第
四項の規定に基づい今いて継続任用された。原告は、同五三年一月二九日付をもつ
て同条所定の二年の任用期間が経過するため、同五二年一二月三日同条第四項の規
定に基づいて任免権者である被告陸上自衛隊第三二普通科連隊長A(以下「被告連
隊長」という。)に対し継続任用を志願する旨の意思表示をしたところ、同被告
は、同五三年一月二九日付をもつて原告の継続任用を拒否する処分をし、継続任用
の意思表示をしない。
2 自衛隊法第三六条第一項は「陸士長等は二年を任用期間として採用されるもの
とする。」旨、同条第四項は「長官は、陸士長等の任用期間が満了した場合におい
て、当該陸士長等が志願したときは、引き続き二年を任用期間としてこれを任用す
ることができる。」旨規定しており、これを受けて陸士の任用期間に関する訓令
(以下「訓令」という。)第六条第四号及び陸士の継続任用に関する達(以下
「達」という。)第七条は右継続任用の拒否基準を設けているところ、右規定の解
釈にあたつては現行法体系と右規定の運用の実態とに照らして考察する必要があ
る。
自衛官もまた一職業であるから、その任用期間の定めその他勤務条件は他の職業と
の関連において解釈され、決定されるべきであるところ、一般職の国家公務員につ
いては、任用期間を定めずに任用されるのが常例であつて、合理的な理由のある場
合に限り、例外的に任用期間を定めて任用されるにすぎないが、この点については
特別職の国家公務員である自衛官についてもこれと異なつた取扱いをすべきなんら
の合理的理由がない。すなわち、一般職の国家公務員の場合には、工事人夫とか用
務員のようにその職務内容が単純な肉体的労務の提供にすぎない者についてはその
期限付任用の合理性が認められるわけであるが、自衛官については、勤務内容がそ
のような単純な肉体的労働ではないから、任用期間の定めを置く特段の事由が存し
ない。
また、自衛官と同じ権力的な作用を営む職務である警察官、消防官及び監獄職員に
ついても任用期間の定めがないから、自衛官についてのみ任用期間を定める合理性
は全く存しない。
更に、前記規定の運用の実態においても、自衛官の間では、任用期間は自由な退職
を制限する期間であつて、同期間の満了により任意退職をすることができる効果が
付与されているものと理解されており、また、「訓令」第六条各号に該当する陸士
長が継続任用を志願する場合には、任免権者はこれを拒みえないものとして運用さ
れ、自衛官の入隊案内書にも、「永続勤務の希望者は特別の支障がない限り継続し
て任用される」等と記載され、原告もかかる永続勤務が可能であると信じて志願し
たものである。
したがつて、自衛隊法第三六条第一項にいう任用期間は、自衛官が任意退職を制限
される期間と解すべきであり、陸士長等と国間の雇用契約は、陸士長等が継続任用
を志願する場合には、「訓令」第六条第四項及び「達」第七条所定の継続任用を不
適当と認める基準に該当しない限り、同契約は継続するという意味において期限の
定めのない契約として成立しているものというべきである。換言すれば、陸士長と
国との間には、期限の定めのない雇用契約が成立しており、「訓令」第六条第四号
及び「達」第七条所定の継続任用拒否基準は国側が右雇用契約を一方的に終了させ
ることのできる事由すなわち解雇事由を規定したものというべきである。原告の場
合には、被告国との雇用契約が昭和五一年一月三〇日付をもつて継続任用されたこ
とにより明確に期限の定めのない雇用契約となつたものというべきであるところ、
前記継続任用拒否処分には次のようなかしがある。
(一) 被告連隊長は原告を反戦自衛官であると認定し、右継続任用拒否処分をし
たものである。すなわち、
昭和五二年七月八日ころ原告の同僚である訴外B三曹が依願退職するに当り、隊員
が国旗に寄書をした際、原告が「闘争と前進あるのみ」と記したところ、原告が所
属する第四中隊長訴外Cがこれを見とがめ、数日後、右記載の意味について原告の
釈明を求め、「ずい分過激な言葉だがどういう意味かね。」としつようにただし
た。
更に、同五二年八月二七日付発行の「不屈の旗第九号」(自衛隊当局は「不屈の
旗」をもつて反戦自衛官の機関紙とみなしている。)に「我々は弾よけではな
い!」という投書が掲載されたところ、右C中隊長は、右投書文の用語及び内容が
原告の入隊直後に書かれた「入隊所見」の用語及び内容と類似していると称して、
同年九月一五日ころ同投書文を示しながら「これは君が書いたものだろう。」「既
に調べはついている。」「意見があるならペンネームで投書するなど卑劣なことを
せず、堂々と言つたらどうだ。」などと激しい口調で詰問し、「継続任用を控え、
こんなことをするとはいい度胸だ。」と暗に継続任用拒否処分をにおわせる発言を
した。
また、同五二年一一月末ころから度々原告に対する尾行が行われ、また、原告の弟
の勤務先及び下宿先にも原告に関する聞き込みが行われるようになつた。
したがつて、被告連隊長は原告を反戦自衛官であると認定して前記継続任用拒否処
分をしたものであり、同処分は解雇処分といえるから、これは憲法第一四条及び第
一九条に違反する。
(二) 被告連隊長は、右継続拒否処分の理由として、原告に帰隊遅延、交通違反
等若干の服務規律違反のあつたことを挙げているが、仮にかかる事実があつたとし
ても、いずれも解雇事由には相当しない軽微な規律違反にすぎないから、「訓令」
第六条第四号及び「達」第七条所定の継続任用拒否基準には該当しない。したがつ
て、被告連隊長は原告を引き続いて任用する義務があるにもかかわらず、任用期間
が満了したことを理由に原告の自衛官たる地位を失わせる行為は、国民の労動権を
侵害し、憲法第二七条に違反する。
3 よつて、被告連隊長のした前記継続任用拒否処分は違法、無効であるから、請
求の趣旨記載の判決を求めるため本訴請求に及んだ。
二 請求原因に対する認否(被告ら)
1 同1記載の事実のうち、原告が継続任用を志願する旨の意思表示をしたのは昭
和五二年一〇月一九日であり、被告連隊長が原告に対し継続任用をしない旨通告し
たが、これが拒否処分であることは争い、その余の事実は認める。なお、原告は同
五三年一月二九日付をもつて任期満了により陸上自衛隊を退職したものである。
2 同2記載の事実のうち、原告主張の自衛隊法、「訓令」及び「達」に関する規
定が存在すること、被告連隊長が継続任用をしないことの理由の一として、原告の
帰隊遅延、交通違反等の服務規律違反の事実を挙げたこと、訴外B三曹が依願退職
するに当たり、隊員が国旗に寄書をした際、原告が「闘争と前進あるのみ」と記し
たこと、原告とC中隊長がその寄書について会話を交したことは認めるが、その余
は否認ないし争う。
なお、陸士長等の任用期間は自衛隊法第三六条の規定に基づいて二年をもつて終了
し、その継続任用については、任免権者が任用期間の満了した陸士長等につき同条
第四項の規定に基づいて継続任用をするものである旨定められており、その継続任
用のための基準として、自衛官の採用手続に代えて、原告主張の「訓令」及び
「達」などが設けられている。また、右任用期間についても、自衛官は同期間中に
おいても自由に退職することが認められている。
三 抗弁(被告ら)
(本案前の抗弁)
1 継続任用とは、任用期間の定めのある隊員を任用期間が満了した場合、引き続
いて隊員に任命することをいうから、継続任用をしないということは、任期満了に
よつて隊員の地位が当然に消滅することを通告するにすぎずなんらの処分性を有す
るものではない。原告は、被告連隊長のした継続任用しない旨の通告を拒否処分と
してとらえ、その取消を求めているが、原告の陸士長としての任用期間は、右通告
に関わりなく、昭和五三年一月二九日付をもつて任期満了により終了したのである
から、被告連隊長のした右継続任用をしない旨の通告は取消訴訟の対象となる行政
処分には当たらず、請求の趣旨第一項にかかる訴は却下を免れない。
2 原告は被告国に対し陸上自衛隊自衛官陸士長たる地位を有することの確認を求
めているが、仮に請求の趣旨第一項が認容されると、結局その目的が達せられるの
であるから更に請求の趣旨第二項においてその地位の確認を求める利益はないもの
というべきである。
第三 証拠関係(省略)
○ 理由
一 原告が昭和四九年一月三〇日陸上自衛隊第一教団第一一七教育大隊に二等陸士
として入隊し、同年六月第三二普通科連隊第四中隊に配属され、同五〇年一月一日
一等陸士に、同五一年一月一日陸士長にそれぞれ昇任し、同月三〇日付をもつて自
衛隊法第三六条第四項の規定に基づいて継続任用され、同五三年一月二九日まで同
中隊において勤務していたが、同日付をもつて同条所定の二年の任用期間が経過す
るため、同五二年末ころ同条第四項の規定に基づき任免権者である被告連隊長に対
し継続任用を志願する旨の意思表示をしたところ、同被告は同五三年一月二九日付
をもつて原告に対し継続任用をしない旨の通告をしたが、継続任用をする旨の意思
表示をしていないことは当事者間に争いがない。
二 原告の被告連隊長に対する継続任用拒否処分の取消を求める請求について。
1 被告連隊長のした前記継続任用をしない旨の通告が行政事件訴訟法第三条第二
項にいう取消処分の対象である行政庁の処分その他の公権力の行使に当たる行為に
該当するか否かについて検討する。
(一) 原告は、陸士長等については任用期間の定めがない旨主張するので、この
点について判断する。
(1) 自衛隊の主たる任務がわが国の平和と独立を守り、国の安全を保つため直
接侵略及び間接侵略に対しわが国を防衛することにあるため(自衛隊法第三条第一
項参照)、隊員についてもこれを特別職の国家公務員とし、一般職の国家公務員に
適用される国家公務員法の規定の適用が排除され(国家公務員法第二条第三項一六
号、第五項参照)、自衛隊法第五章(第三一条以下)に定める規定が適用されるか
ら、自衛官として任用された者の地位は同規定によつて定められることになる。自
衛官の任用期間をどのように定めるべきであるかは立法政策の問題であるというべ
きところ、同法第三六条第一項は、陸士長、一等陸士、二等陸士及び三等陸士(以
下「陸士長等」という。)の任用期間を二年と定めている。同法第四〇条の規定は
自衛官が任用期間中に任意退職することを認めていることは疑いがないから、右任
用期間をもつて、自衛官の任意退職を制限し、同期間の満了によつて自衛官が任意
退職をすることができる効果が付与されているものと解することは相当でない。
したがつて、陸士長等の任用期間は二年であると解すべきであり、採用の日から二
年間に限り自衛官としての地位を取得し、同期間の満了により当然にその地位を失
うものであるといわざるをえない。
(2) 陸士長等の継続任用については、同法第三六条第四項は、「長官は、陸士
長等の任用期間が満了した場合において、陸士長等が志願したときは、引き続き二
年を任用期間としてこれを任用することができる。この場合における任用期間の起
算日は、引き続いて任用された日とする。」旨定めており、更に、成立について当
事者間に争いのない乙第一ないし第三号証によれば、自衛隊法第三一条第二項の規
定に基づいて防衛庁長官の制定した「隊員の任免等の人事管理の一般的基準に関す
る訓令」において、「継続任用」とは「法第三六条第四項の規定に基づき、任用期
間の定めのある隊員を任用期間が満了した場合引き続いて隊員に任命すること」と
定め(第三条三号参照)、かつ、継続任用の発令方法についても、任用期間の定め
のある隊員の採用の場合と全く同様の方法がとられていること(第一八条二号参
照)、更に、右継続任用手続の運用に関し、防衛庁長官の「訓令」及び陸上幕僚長
の「達」が制定されていること、「訓令」第六条及び「達」第四ないし第七条は、
採用の際の選抜試験に代え、継続任用に際し適任者を選抜するための基準を定め、
「達」第二条は右基準に該当する者のうちから適任者を選抜し、任用する旨定め、
また「訓令」第一〇、第一一条は、任免権者は、継続任用選考審査会議の意見を徴
したうえ継続任用者を決定し、発令する旨定めていることが認められる。
自衛隊法第三六条第四項の規定の趣旨及び右認定事実によれば、陸士長等の継続任
用は、自衛官の採用の場合と同様に、任用期間の満了した陸士長等に引き続き任用
された日から二年間自衛官たる地位を設定する行政処分であり、また、「訓令」第
六条及び「達」第七条所定の基準は右継続任用において適任者を選抜するための基
準であると解するのが相当である。
(3) 以上の次第であつて、原告の陸士長等の任用期間の定めがない旨の主張は
理由がなく、これを前提とするその他の主張は判断するまでもなく、採用すること
ができない。
(二) 原告は、継続任用を志願した陸士長等が「訓令」第六条四号及び「達」第
七条所定の選抜基準に該当する限り、任免権者はこれを継続任用する義務がある旨
主張するが、前記のとおり継続任用は任免権者の行政処分であるから、最終的に志
願者を採用するか否かを決定することは任免権者の裁量に委ねられているのであつ
て、志願者が右選抜基準に該当するからといつて、直ちに、任免権者がこれを継続
任用する義務を負うものでないことは明らかである。
したがつて、原告の右主張を前提とするその他の主張については判断するまでもな
く、採用することができない。
(三) 原告が昭和五一年一月三〇日付をもつて自衛隊法第三六条第四項の規定に
基づいて継続任用され、同五二年末ころ任免権者である被告連隊長に対し同項の規
定に基づき継続任用の志願をしたが、同被告は原告に対し同五三年一月二九日付を
もつて継続任用をしない旨の通告をしたが、継続任用をする旨の意思表示をしてい
ないことは前記のとおりである。
そうすると、原告は、被告連隊長の継続任用をしない旨の通告とは関わりなく、同
五三年一月二九日付をもつて任用期間満了により陸上自衛隊自衛官陸士長たる地位
を失うことになるのであつて、右通告は原告の法律上の地位にはなんらの変更をき
たすものでないから、右通告をもつて行政庁の処分ということができないものとい
わざるをえない。
2 以上の次第であつて、原告主張の継続任用拒否処分は、行政事件訴訟法第三条
第二項にいう取消訴訟の対象にはならないものと解するのが相当であるから、原告
の被告連隊長に対する継続任用拒否処分の取消を求める訴は、その他の点について
判断するまでもなく、不適法である。
三 原告の被告国に対する陸上自衛隊自衛官陸士長たる地位の確認を求める請求に
ついて。
原告の右請求が行政事件訴訟法第四条にいう公法上の法律関係に関する訴訟に当た
ることは明らかであるところ、被告国が原告の陸上自衛隊自衛官陸士長たる地位を
争つている以上、原告が被告連隊長に対する継続任用拒否処分の取消を求めている
からといつて、直ちに、原告の右地位の確認を求める訴の利益を否定することはで
きないものというべきである。したがつて、被告国の原告の請求は訴の利益を欠く
旨の本案前の抗弁は失当であるといわざるをえない。
しかし、前記のとおり、原告は昭和五三年一月二九日付をもつて陸上自衛隊自衛官
陸士長たる地位を失つたものであり、その後同地位を取得したことについては、原
告においてなんら主張するところがない。
したがつて、原告の右請求は理由がない。
四 結論
叙上の次第であつて、原告の被告連隊長に対する継続任用拒否処分の取消を求める
請求にかかる訴は不適法であるから、これを却下することとし、また、原告の被告
国に対する請求は失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につ
いて民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 古館清吾 古本徹也 牧 弘二)
別紙 代理人目録(省略)

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