弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 弁護人木村一八郎、同木下郁及び被告人の各上告趣意について。
 職権をもつて調べてみると、本件被告人に対し第一審判決は、被告人が法定の貸
金業者でないのに昭和二五年五月一日頃より同二七年六月一四日頃までの間佐伯市
においてA外二二名に対し利息を徴して金銭の貸付をなし金貸業を行つたとの事実
のみを認定した上、被告人を罰金七万円に処したが、公訴事実中詐欺並に詐欺未遂
の点については孰れも無罪という言渡をしたところ、右判決全部に対する検察官控
訴により、原審は第一回公判期日において検察官の控訴趣意書のとおりの陳述、弁
護人の「控訴は理由がない」旨の陳述を聴いただけで、何ら事実の取調をすること
なく審理を終結し、訴訟記録及び第一審で取り調べた証拠だけで書面審理により第
一審判決が認定したとおりの前記貸金業等の取締に関する法律違反の事実を判示第
三として認定したほか、第一審判決が無罪を言い渡した詐欺並に詐欺未遂の各事実
に当る原判決判示第一の金五千八百円の詐欺、判示第二の金四万五千円の詐欺未遂
の各事実を認定した上、原判決を破棄し被告人を懲役一年及び罰金七万円に処する
判決を言い渡したことが認められる。しかし、本件のようにいわゆる書面審理のみ
により検察官より三個の併合罪として起訴せられた事実中の一事実について有罪を、
他の二事実について無罪を言い渡した第一審の判決を破棄し自判によつて一審無罪
の二事実について有罪を言い渡すことは違法であつて、この違法は判決に影響を及
ぼすべく、原判決を破棄しなければ著しく正義に反する場合に当ると解することは、
当裁判所大法廷判例の趣旨とするところである。(昭和二六年(あ)二四三六号同
三一年七月一八日判決集一〇巻七号一一四七頁参照。)従つて原判決は破棄を免れ
ない。
 よつて上告論旨について判断することを省略し、刑訴四一一条、四一三条本文に
従い原判決を破棄し原裁判所に差し戻すべきものとし、裁判官垂水克己の少数意見
を除く他の裁判官一致の意見により主文のとおり判決する。
 裁判官垂水克己の少数意見は次のとおりである。本件のように第一審が犯罪の証
明なしとして無罪を宣告した事実について控訴審が自判して有罪を宣告するにはそ
の事実の取調をしなければ違法であるということはできないこと、昭和二六年(あ)
二四三六号同三一年七月一八日宣告大法廷判決記載の刑訴四〇〇条但書の解釈に関
する裁判官田中耕太郎、同斎藤悠輔、同岩松三郎、同本村善太郎の少数意見のとお
りであるから、本件職権調査の点に関し、原審の審判に違法ありとすべきでない。
 検察官 馬場義続出席。
  昭和三年一二月二五日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三

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