弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
       原判決中上告人の敗訴部分を破棄する。
       前項の部分につき,本件を広島高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 第1 事案の概要
 1 原審が確定した事実関係等は,次のとおりである。
 (1) 食料品の卸売を業とする上告人は,平成2年1月23日,金銭の貸付けを
業とする被上告人との間で,次の内容の継続的手形貸付契約(以下「本件貸付契約」
という。)を締結した。
 ア 元本極度額 300万円。なお,上告人と被上告人は,元本極度額を平成4
年2月7日600万円に,平成5年7月19日1000万円に,それぞれ増額した。
 イ 支払方法等 手形面記載の満期日に,手形面記載の支払場所で,手形決済の
方法による。
 ウ 特約 上告人振出しの手形が不渡りとなったときは,上告人は,被上告人に
対する一切の債務について当然に期限の利益を喪失する。
 エ 損害金 期限の利益の喪失の日の翌日から年率37%の割合とする。
 (2) 被上告人は,本件貸付契約に基づき,上告人に対し,平成2年1月23日
から平成10年12月4日までの間,手形貸付けの方法で,第1審判決別紙被告主
張計算書記載のとおり,利息制限法(以下「法」という。)1条1項所定の制限利
率を超える利率で反復継続して金員を貸し付けた(以下,上記一連の取引を「本件
取引」という。)。
 ただし,被上告人は,このうち,平成3年7月16日以降の貸付けについては,
被上告人に対する利息,調査料及び取立料のほか,D信用保証株式会社(以下「D
信用保証」という。)に対する保証料及び事務手数料(以下「保証料等」という。)
を天引きしていたが,平成10年7月9日以降の貸付けについては,これらの金員
の天引きをせずに,後払いとすることとした。
 (3) 被上告人の受ける調査料及び取立料は,法3条所定のみなし利息に当たる
(以下,利息とみなし利息を合わせて「利息等」という。)。
 (4) D信用保証は,被上告人の貸付金取引の借主に対する信用保証を行うため
に,被上告人が100%出資して設立した子会社であり,被上告人と役員の一部が
共通している。D信用保証は,被上告人の貸付けに限って保証しており,被上告人
の手形貸付けについては,D信用保証の保証を付けることが条件とされている。D
信用保証の受ける保証料等の割合は銀行等の系列信用保証会社の受ける保証料等の
割合に比べて非常に高く,D信用保証の設立後,被上告人は貸付利率の引下げ等を
行ったが,D信用保証の受ける保証料等の割合と被上告人の受ける利息等の割合と
の合計はD信用保証を設立する以前に被上告人が受けていた利息等の割合とほぼ同
程度であった。D信用保証は,被上告人の借主との間の保証委託契約の締結業務及
び保証料徴収業務を被上告人に委託しており,信用調査業務についても被上告人が
主体となって行い,債権回収業務も被上告人が相当程度代行していた。
 (5) 本件貸付契約に基づき上告人が振り出した手形のうち,平成10年4月1
5日までの間の貸付けに係る手形は,いずれもその満期日に決済され,各貸付金は
いずれも弁済されたが,同年6月8日から同年12月4日までの間の貸付けに係る
手形7通は,不渡り又は決済未了となっている。
 2 本件本訴請求事件は,上告人が被上告人に対し,本件取引につき法所定の制
限を超える利息等として支払った部分を元本に充当すると過払金が生じているなど
として,過払金の不当利得返還を請求する事案であり,本件反訴請求事件は,被上
告人が上告人に対し,本件取引に基づく貸金残額の返還を請求する事案である。
 第2 上告代理人三枝久の上告受理申立て理由について
 1 原審の判断は,次のとおりである。
 被上告人とD信用保証とは緊密な関係があることは認められるが,被上告人が借
主から徴収した保証料等を毎月2回D信用保証に対して支払っていること,D信用
保証が被上告人に対して代位弁済する場合には,実際にD信用保証から被上告人に
対して小切手による支払がされていることに照らせば,収支の点で両者が混同して
いる状態にあるとはいえない。D信用保証が被上告人の100%子会社であり,役
員の一部が共通しているとはいえ,D信用保証の法人格が完全に形がい化し,実体
的な評価として被上告人と一体であるとまでいうことはできない。そうすると,D
信用保証の受ける保証料等は法3条所定のみなし利息に当たるということはできな
い。
 また,本件取引上の各貸付けに対する弁済によって生じた過払金を他の借入金債
務に充当する場合,上告人が期限までの利息を支払う必要があること,各過払金を
他の借入金債務に当然充当する旨の合意がされたことをうかがわせる事情は見いだ
せないことに照らせば,各貸付けに対する弁済によって生じた過払金は,他の借入
金債務には充当されないというべきである。
 2 しかしながら,原審の上記判断はいずれも是認することができない。その理
由は,次のとおりである。
 【要旨1】本件の事実関係の下においては,D信用保証の受ける保証料等は,本
件取引に関し被上告人の受ける法3条所定のみなし利息に当たるというべきである
(最高裁平成13年(受)第1032号,第1033号同15年7月18日第二小
法廷判決・裁判所時報1343号6頁〔編注:民集57巻7号895頁〕参照)。
 また,【要旨2】同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが
繰り返される金銭消費貸借取引において,借主がそのうちの一つの借入金債務につ
き法所定の制限を超える利息を任意に支払い,この制限超過部分を残元本に充当し
てもなお過払金が存する場合,この過払金は,当事者間に充当に関する特約が存在
するなど特段の事情のない限り,民法489条及び491条の規定に従って,弁済
当時存在する他の借入金債務に充当され,当該他の借入金債務の利率が法所定の制
限を超える場合には,貸主は充当されるべき元本に対する約定の期限までの利息を
取得することができないと解するのが相当である(前掲最高裁平成15年7月18
日第二小法廷判決参照)。
 これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反が
あり,原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。
 第3 結論
 以上のとおりであるから,原判決中上告人の敗訴部分を破棄し,更に審理を尽く
させるため,同部分につき,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 濱田邦夫 裁判官 金谷利廣 裁判官 上田豊三 裁判官 藤田
宙靖)

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