弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告理由第一点について。
 本件の抗告審判及び訴訟において審判の対象となつているのは、原願の発明を六
箇に分割したうちの一の発明の出願を拒否したことが適法かどうかの点であつて、
原願につき拒絶査定をしたことが仮に違法であるとしても、そのことは、本件拒絶
査定及びこれを是認した審決を当然に違法ならしめる理由となるものではない。ま
た、原願と分割願とは別個の事件であるから、審査の段階において同一の審判官が
両者の審査に関与し、また審判の段階において同一の審判官が両者の審判に関与し
たとしても、そのことが所論の特許法の規定に違反するということはできない。さ
らに、抗告審の審判官が原願の分割を示唆したというだけで、ただちに同法九三条
の忌避理由があるといい得ないのはもとより、右示唆したことがただちに本件拒絶
査定及びこれを是認した審決を違法ならしめる理由となるものではない。違憲の主
張を含む所論は、右に反する独自の見解を前提とするものであつて、すべて採用の
かぎりでない。
 同第二点の(一)の(い)について。
 仮に原願の拒絶査定の理由として引用された特許第一七七一〇五号の発明が本件
発明(分割されたものの一つ)の拒絶査定の理由として引用された乙第一号証の発
明(特許一二一〇九〇号)と同一のものであるとすれば、そのことは、特許第一七
七一〇五号を無効ならしめる理由となるに過ぎず、そのことが、本件発明に対し特
許が付与さるべきことの理由(本件出願を拒絶したことが違法であることの理由)
となるものではない。所論は、理由のないものである。
 同第二点の(一)の(ろ)(は)、(二)の(い)(ろ)について。
 原審の判断によれば、引用例の発明においては、「レール板は、多数の溝を穿つ
た溝版を具えた台板の上面前後に並行して設けられ、溝蓋なく、かつ二本のレール
板は、……台板の上面に固着されている」というのであつて、上告人の出願にかか
る本件発明と右引用例の発明とは、要するに、「編物機において、ニードルベツト
(又はこれに相当する、中央部を溝版とした台板)にレールを固着せしめ、これに
よつてニードルベツトの垂下及びレールの湾曲を防止し溝蓋の必要性をなくした」
点において、根本的には、同一思想の発明に属するというのである。原審の右判断
は相当であつて、引用例の発明においても溝版が錻力板製のものでなければならな
い必然的理由はなく、耐用度を増すため必要に応じてこれを鋼板製のものとするこ
とは、引用例の発明においても予想されているところと解すべきであるから、本件
発明の目的が鋼板製のニードルベツトを使用することによつて耐久度を増すことに
あるとしても、それだけで右発明が新規性を含むものということはできない。原判
決も右趣旨の判断を含むものと解すべきであり、所論は、原判決を正解しないこと
に基くのでなければ、独自の見解を前提として同判決を攻撃するに過ぎず、すべて
採用のかぎりでない。
 同第二点の(三)について。
 原判決は、引用例の家庭編物機は、その全体の構造のうち「中央部を溝版とした
台板にレールを固着せしめた」考案部分に関するかぎり、上告人の出願にかかる本
件発明と同一思想の発明であるとした上、右考案部分が実施不可能のものでない旨
を判断したものである。右判断は相当であり、引用例の家庭編物機の全体が実施可
能のものであるかどうかは本件の判断のために必要ではないから、この点につき審
理判断しなかつたからといつて所論のような違法があるということはできない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    高   橋       潔

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