弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人は,控訴人らに対し,別紙補償金請求目録記載の各控訴人らに対応
する金員及びこれらに対する平成19年10月23日から支払済みまで年5分
の割合による金員を支払え。
3訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
4仮執行宣言
第2事案の概要
本件は,都道α線道路整備工事(以下「本件事業」という。)の起業地(西
東京市β地内)にマンションを所有する控訴人らが,その敷地の一部が収用さ
れたことに伴い,東京都収用委員会が収用裁決において定めた損失補償の額が
不服であるとして,土地収用法(以下「法」という。)133条2項に基づき,
被控訴人に対し,上記補償額の増額変更(追加補償金及びこれに対する権利取
得日である平成19年10月23日からの民法所定の割合による遅延損害金の
支払)を求める事案である。
原審は,別紙補償金請求目録記載の95番ないし101番の控訴人ら(以下
「本件控訴人ら7名」という。)に係る訴えを却下し,その余の控訴人らの請
求を棄却した。そこで,控訴人らが控訴し,原審における主張を維持するほか,
当審において,甲第23号証を提出し,それに依拠して別紙補償金請求目録記
載のとおり請求を減縮した。
1争いのない事実等,争点及び争点に関する当事者の主張は,当審における控
訴人らの追加主張を次項に記載し,原判決の該当部分について次のとおり補正
するほか,その「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」の1ないし3に記
載のとおりであるから,これを引用する(なお,原判決引用部分中「原告」を
「控訴人」,「本件原告ら7名」を「本件控訴人ら7名」,「被告」を「被控
訴人」とそれぞれ読み替える。以下の引用部分において同じ。)。
()3頁13行目と14行目の間に次のとおり加える。1
ウ補償金の額は、上記本件対象地の補償額と残地補償額のそれぞれ
に権利取得裁決時までの法71条に基づき算出された修正率を乗じ
て得た額の合計額である。
()4頁14行目の「力」の次に「(行政行為の公定力と意味内容においてさ2
したる差異のないもの)」を加える。
()5頁5行目末尾に「法45条の3第1項は,「裁決手続開始の登記があ3
った後において,同登記が抹消されるまでの間」と規定していないから,上
記登記が抹消された後は同条項の適用がないとする控訴人らの主張は独自の
解釈にすぎない。」を加え,12行目と13行目の間に次のとおり加える。
また,収用委員会は,争いのある私法上の権利関係を確定する権限を
有する司法機関ではないから,その裁決に既判力は生じない。
2当審における控訴人らの追加主張
()争点2について1
本件のように一区画の敷地の一部が収用された場合の代替地は,同敷地の
境界線に接する隣地でなければならない。三方道路に囲まれた本件マンショ
ンの敷地にあっては,代替地は東側に隣接する土地に限られ,平成19年9
月14日に取得したその土地の価格は1m当たり39万4000円(甲22
4)であったから,これに所得控除1500万円及び取得のための諸経費を
勘案すると,代替地購入に必要な金額は2億0068万8499円となる。
そして,代替地が購入できない場合,本件収用によって残地に建つ本件マン
ションの市場価格の低落価額及び本件収用によって既存不適格となった本件
マンションを適格建物とするために必要な費用を総合考慮すると,本件マン
ションの区分所有者全員への補償額は2億4700万円(甲23)となり,こ
れから代替地取得に支出した金額を控除した残額のうち控訴人らに配分され
るものに限定した合計は1億6438万5121円となる。
なお,算定時期について,法71条がいう「認定の告示の時」というのは,
起業者の示す補償金額に問題のない場合のことであり,問題がある場合には
権利取得裁決の時とすべきであり,補償額は,その時点における近傍類地を
取得し得る額とすべきである。
()争点3について2
残地に建つ本件マンションは,建築基準法の既存不適格となったので,平
成19年10月23日の権利取得裁決時に適格建物とするための除却費用等
の損失を受けたが,それを前提に損失額を算定すると甲第23号証のとおり
となる。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,減縮後の請求のうち,本件控訴人ら7名に係る訴えは不適法で
あるからいずれも却下し,その余の控訴人らの請求は理由がないからいずれも
棄却すべきものと判断する。その理由は,当審における控訴人らの追加主張に
ついて次項で判断し,原判決の該当部分について次のとおり補正するほか,そ
の「事実及び理由」欄の「第3争点に対する判断」の1ないし3に記載のと
おりであるから,これを引用する。
()8頁25行目の「とき」を「時」に改め,9頁25行目の「し難い」の1
次に「(なお,控訴人らは,上記既判力を公定力と差異のないものと捉えて
いるが,行政行為の公定力は,当該処分が取り消されるまでは,仮に違法で
あっても何人もその効力を否定できないとの法効果を指すものであり,確定
した終局判決の判断内容が後訴で当事者及び既判力の及ぶ第三者間並びに後
訴裁判所を拘束する既判力とは異なるものと解される。)」を加える。
()10頁3行目と4行目の間に次のとおり加える。2
さらに,控訴人ら7名は,平成16年法律第84号による改正後の行
政事件訴訟法には,9条2項が新設され,原告適格を広く認め,処分や
裁決の名宛人以外にも当事者適格を認めることとしたから,形式的当事
者訴訟である本訴にも同項が適用ないし準用されるべきであると主張す
る。しかしながら,形式的当事者訴訟は,「当事者間の法律関係を確認
し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律
関係の当事者の一方を被告とするもの」(行政事件訴訟法4条前段)と
して,上記改正後も同法41条において,依然として同法9条の規定を
準用していない上,前記説示のとおり,法133条及び法45条の3の
規定の性質及び趣旨等を考慮すれば,本件開始登記時の所有者にのみ当
事者適格を認めるのが相当であって,控訴人ら7名の上記主張は失当で
ある。
()12頁3行目の「認められる。」を「認められる(乙第5号証の2ない3
し4の3つの鑑定とも更地価格主義に依拠している。)。」に改め,13頁
19行目の「住宅地域」の前に「一般住宅及び共同住宅等が混在する」を加
える。
()14頁21行目及び16頁6行目の各「(キ)」の次に「本件対象地の鑑4
定評価額」をいずれも加えて改行する。
2当審における控訴人らの追加主張について
()争点1について1
控訴人らは,本件対象地の代替地として平成19年9月14日に取得した
東側に隣接する土地の取得代金の1m単価(39万4000円)に所得控2
除等を考慮した価格から補償額を算出すべき旨主張する。しかしながら,控
訴人らの依拠する甲第23号証の算出方法は,法及び細目政令に基づかない
独自のものであるから,到底採用することができない。なお,控訴人らは,
本件では算定の時期及び価格が権利取得裁決時における近傍類地を取得し得
る額とすべきであると主張するが,法71条は,従前,「損失は,収用委員
会の収用又は使用の時の価格によって算定しなければならない。」と定めて
いたのを,昭和42年法律第74号の改正によって,「収用する土地又はそ
の土地に関する所有権以外の権利に対する補償金の額は,近傍類地の取引価
格等を考慮して算定した事業の認定の告示の時における相当な価格に,権利
取得裁決の時までの物価の変動に応ずる修正率を乗じて得た額とする。この
場合においては,その修正率は,政令で定める方法によって算定するものと
する。」としたことにかんがみれば,控訴人らの主張は,独自の見解であっ
て,採用できない(最高裁平成14年6月11日第三小法廷判決・民集56
巻5号958頁参照)。
()争点2について2
控訴人らは,残地に建つ本件マンションが建築基準法上既存不適格になっ
たので,適格建物にするための除却費用等も損失額に当たると主張し,それ
を前提に平成19年10月23日の権利取得裁決時点における損失額を算定
する(甲23)が,同法86条の9によれば,法3条各号の公共事業による
土地収用の結果,建築物の面積が一部減少することで敷地面積に関する規定
に適合しなくても,既存不適格として扱われるにすぎず,本件マンションを
除却しなければならないという根拠を見出せないから,これを基に損失額を
算定する甲第23号証の算出方法は,その前提に誤りがあり,採用すること
ができない。
()控訴人らは,本訴において損失補償額の増額変更を求めるものであると3
ころ,その実質が損失補償請求権を形成する利益処分をより有利に変更する
ことを求めるものであること,違法な行為によって財産権を侵害された場合
については侵害者が財産価格を立証するが,収用裁決という適法な行為によ
り財産権を侵害された場合をこれと別異に解する根拠が見出し難いことなど
から,その主張に係る損失補償額の立証責任は控訴人らにあるというべきと
ころ,当審において,それを立証するために甲第23号証を提出するが,そ
の算定時期及び方法自体が法71条の規定に反するほかその前提にも誤りが
あるので,それに依拠することはできず,さりとて他にその主張に係る損失
補償額を認めるに足る証拠はないので,結局,控訴人らの請求は理由がない
ことに帰着する。
3そうすると,控訴人らの減縮後の請求は,本件控訴人ら7名に係る訴えは不
適法であるからいずれも却下し,その余の控訴人らの請求は理由がないからい
ずれも棄却すべきである。よって,原判決は相当であり,本件控訴は理由がな
いからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第24民事部
裁判長裁判官都築弘
裁判官比佐和枝
裁判官平林慶一は,転補のため,署名押印することができない。
裁判長裁判官都築弘

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