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平成24年9月6日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成23年(ワ)第23260号商標権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成24年6月7日
判決
東京都渋谷区<以下略>
原告株式会社ブランク
同訴訟代理人弁護士山上芳和
藤井圭子
笹岡優隆
本多諭
同訴訟代理人弁理士齋藤晴男
東京都墨田区<以下略>
被告株式会社ピート
同訴訟代理人弁護士豊島真
渡邊望美
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,シャツに別紙1被告標章目録記載の標章を付してはならない。
2被告は,別紙1被告標章目録記載の標章を付したシャツを譲渡し,引き渡し,
譲渡若しくは引渡しのために展示し,又は輸入してはならない。
3被告は,前項のシャツを廃棄せよ。
4被告は,原告に対し,186万7320円及びこれに対する平成23年7月
28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,別紙2原告商標目録記載の登録商標の商標権を有する原告が,被告
が指定商品に含まれるシャツに別紙1被告標章目録記載の標章を付する行為が
原告の商標権を侵害すると主張して,被告に対し,商標法36条1項に基づき,
シャツに上記標章を付することや上記標章を付したシャツの譲渡,引渡し等を
することの差止めを求めるとともに,同条2項に基づき,上記シャツの廃棄を
求め,さらに,民法709条に基づき,損害金186万7320円及びこれに
対する訴状送達の日の翌日である平成23年7月28日から支払済みまで民法
所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1前提事実(当事者間に争いがない。)
(1)原告と被告は,いずれも被服その他のアパレル製品の企画,製造,販売
を業とする株式会社である。
(2)原告は,以下の商標権を有している(以下「本件商標権」といい,その
登録商標を「本件登録商標」という。)。
登録番号第4865480号
登録年月日平成17年5月20日
指定商品第18類かばん金具,がま口口金,皮革製包装用容器,愛
玩動物用被服類,かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ,傘,ステッキ,
つえ,つえ金具,つえの柄,乗馬用具,革ひも,原革,原皮,なめし皮,
毛皮
第25類洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,
水泳着,水泳帽,和服,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製
ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用
おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフ
ラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽子,
ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,靴類(「靴合わせ
くぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。),靴合
わせくぎ,靴くぎ,靴の引き手,靴びょう,靴保護金具,げた,草履類,
仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。),
乗馬靴
登録商標別紙2原告商標目録記載のとおり
(3)被告は,遅くとも平成23年3月から,別紙1被告標章目録記載の標章
(以下「被告標章」という。)を付したTシャツ(以下「被告商品」とい
う。)を製造し,日本国内において販売している。
(4)被告商品は,本件商標権の指定商品の「ワイシャツ類」に含まれる。
2争点
(1)被告標章の使用が本来の商標としての使用(商標的使用)といえるかど
うか
(2)被告標章が本件登録商標に類似するかどうか
(3)本件商標権の効力が被告標章に及ばないかどうか
(4)本件商標権に係る商標登録が審判により無効にされるべきものと認めら
れるかどうか
(5)原告の本訴請求が権利の濫用に当たるかどうか
(6)原告の損害額
3争点に関する当事者の主張
(1)争点(1)(被告標章の使用が商標的使用といえるかどうか)について
(原告)
ア被告標章は,被告商品の胸元に目立つように表示されているところ,商
標が織ネームやタグだけでなく胸元に付された商品は数多く存在するから,
胸元に表示されていること自体から,被告標章の使用が商標的使用でない
とはいえないし,むしろ,周辺の文字等とは区別して,「SURF'S
UP」という文字が明確に認識しうる態様で表現され,被告商品に接する
需要者は商品選択に当たり必ず当該文字部分を目にするから,一つの模様
として装飾的に使用されているだけではなく,出所識別機能をも有するも
のとして使用されているというべきである。
イ商品自体に商標を付することは,商標の使用に当たるところ,その際,
商品のどの部分にそれを付するかは当該使用者の自由であり,その商標を
強くアピールしたい場合には,その商品を手にする需要者の最も目に付き
やすい個所に付するのが当然である。Tシャツの場合に需要者が最も注視
するのは正面の胸元であるから,そこに商標を配したデザインとすること
はしばしば行われている。そして,襟ネームや商品タグには当該使用者の
統一ブランドが表示されるのが一般で,被告商品もこのような使用形態で
あるといえる。商標をデザインの一部に取り込むことは,特に,アパレル
や靴類の分野において一般的に行われていることであり,その際に,他の
商標と併用されることも少なくないが,その場合は,各商標がそれぞれ商
標的機能を果たし得る。被告標章においても,「SURF'SUP」の
文字のほかに,文字及び図形の商標的要素を含んでいると考えられるが,
それらの存在が「SURF'SUP」の商標的機能を喪失させるもので
はない。
(被告)
ア標章が出所識別機能を果たすかどうかは,それが付された位置や他の商
標と組み合わされて使用されている状況など,その標章の具体的使用態様
に基づき,標章自体の有する識別力の強さの程度を考慮して,客観的に判
断されるべきである。そして,そうした識別力の強弱は,その標章がもと
もと世の中に存在していたものか,標章使用者が独自に創り出したオリジ
ナルのものか,その標章が使用されることにより特定の出所を示すものと
して需要者の間で認識されるようになったか等の要素を総合的に判断して
決せられる。
イ被告標章は,「SURF'SUP」の文字を含んでいるが,単純に
「SURF'SUP」の文字からなるわけではなく,「SURF'S」の
部分までは刺繍感,立体感を持たせたデザインで,「UP」の部分は文字
を少し小さくした平面的なゴシック体である。この「P」の部分に,白
(黄色)抜きで,別紙3被告商標目録記載1(1)の商標(以下「GOTC
HA商標1」という。)が表示され,「UP」の上部に,同目録記載3の
商標(以下「Gマーク商標」という。)及び「78」という数字を含んだ
デザインが施されている。
そして,「SURF'SUP」の文字は胸元にあるだけで他の位置に
はなく,商標が通常付される襟ネーム及び商品タグには被告の商標として
周知であるGOTCHA商標1,同目録記載2の商標(以下「キャラクタ
ー商標」という。)及びGマーク商標が表示され,商品タグにはこれらに
加え被告の会社名や電話番号が記載されていること,襟ネームの下方部分
には「GOTCHA」の文字及びキャラクター商標が表示されていること,
前身頃左下の黒いタグには同目録記載1(2)の商標(以下「GOTCHA
商標2」という。)及びGマーク商標が表示されていること,前身頃右下
の黒いタグの表にはキャラクター商標が,裏にはGマーク商標が表示され
ていること,背面側右上にはキャラクター商標が表示され,中央にはGO
TCHA商標2が<R>の表記とともに表示されていることに加え,後記エ
のとおり,「SURF'SUP」の出所識別力が極めて弱いことからす
れば,被告商品を見た需要者は,「SURF'SUP」の表示を出所表
示としてではなく,デザインとして認識する。さらに,この「SURF'
SUP」の表記も単純な文字ではなく,上記のようなデザインが施され
たもので,かつ,そのデザインの中にも被告の商標が組み込まれているか
ら,この胸部の表示に接した需要者は,「SURF'SUP」の部分で
はなく,GOTCHA商標及びGマーク商標の部分を出所表示として認識
する。商品の胸部に付された標章を構成する文字又は図柄の一部が,識別
標識としての商標が通常付される襟ネーム及び商品タグに表示された商標
と合致する場合,需要者は,この合致する商標(「GOTCHA」の文字
及び「Gマーク」)を出所表示と理解するのであって,シャツの胸部だけ
に表示された「SURF'SUP」を出所表示であると認識することは
ない。
また,被告商品は,被告及びその関連会社の直営店でのみ販売されてい
るところ,これらの店舗では他社の商品は販売されていないから,これら
の店舗において被告商品を購入する需要者は,それが被告の商品であるこ
とを認識しながら購入するのであり,こうした取引の実態からしても,他
社の商品との誤認混同が生ずるとは考えられない。
ウ「GOTCHA」は,1978年(昭和53年)に著名なプロサーファ
ーが米国で立ち上げたサーフブランドであり,それ以降,全世界において,
広く「GOTCHA」の商標が付されたサーフィン用品や衣料品等が販売
されてきた。「GOTCHA」は,日本では被告が取り扱っており,被告
による積極的な広告,宣伝の効果もあって,日本国内でも広く人気のある
ブランドとして認知されている。具体的には,被告は,サーフブランドで
ある「GOTCHA」の広告,宣伝等の目的で,日本プロサーフィン連盟
が主催する公式ツアーのスポンサーとなり,「GOTCHA」の名を冠し
た大会を毎年開催しているし,日本のトッププロサーファーのスポンサー
にもなっている。こうした被告の活動により,「GOTCHA」は,サー
フィンをする者の間では知らない者はないほどの知名度を有するブランド
となっている。さらに,多数のファッション雑誌において,ほぼ毎月「G
OTCHA」の広告やタイアップ記事の掲載がされ,その数は,直近の1
0年間のみでも数百件に上る。特に,被告が頻繁に広告を掲載している雑
誌「Fine」は,女性と男性の双方が読者で,発行部数は約14万部に
及び,「GOTCHA」の商品の主な購買層である10代半ばから20代
半ばの消費者が雑誌を購入することの多いコンビニエンスストアに置かれ,
しかも被告が掲載する広告には著名な芸能人を起用しているため,その訴
求効果は非常に高い。また,被告は,平成21年から平成22年にかけて
テレビ放送された「侍戦隊シンケンジャー」の主人公の一人からの申入れ
を受けて,「GOTCHA」の衣料品を提供した。
こうした被告の広告,宣伝の期間,量及び態様からして,「GOTCH
A」は,若年層を中心としたサーフブランドの衣料品の購買層にはもちろ
んのこと,広く一般の消費者にも認知されていることは明らかである。被
告は,現在では40店舗もの直営店で「GOTCHA」の商品を販売して
いるが,被告又はその子会社である株式会社ガッチャ・ジャパンは,「G
OTCHA」に関連して別紙3被告商標目録記載の各商標を含む複数の商
標を使用し,「GOTCHA」の商品には必ずこれらの商標が付される結
果,これらの商標は一般にも広く認知され,需要者は,これらの商標によ
り,容易に「GOTCHA」の商品か否かを識別することができるのであ
る。
なお,被告商品の小売価格(3990円)と原告の商品の小売価格(2
900円~3900円)が近く,いずれもサーフブランドのアパレル商品
であることからすると,原告の商品の購買層と被告商品の購買層,すなわ
ち需要者層は概ね重なる。
エ「SURF'SUP」は,造語などではなく,「主語+述語」からな
る一つの文であって,「いい波が来た」という意味を持つありふれた一般
的な英語表現である。日本においても,特にサーフィンや海等を想起させ
る言葉として,ザ・ビーチ・ボーイズのアルバムや曲のタイトル,アニメ
映画のタイトル,サーフィン関連のラジオ番組やオンラインゲームの各タ
イトルとして「SURF'SUP」が用いられ,著名なバッグのブラン
ドであるレスポートサックから「SURF'SUP」というシリーズの
バッグが販売されているほか,サーフブランドが製造,販売するTシャツ
等はもとより,それ以外でも,サーフィンや海等に関連した図柄とともに
しばしば「SURF'SUP」の文字からなる標章が洋服等に頻繁に付
され,原告以外の多数の会社によって販売されている。検索エンジン「G
oogle」で「SURF'SUP」というキーワードで検索してみる
と,上記アルバムのCDやアニメ映画のウェブサイト,個人のブログや
「SURF'SUP」と名称のついた製品を販売するオンラインショッ
プのウェブサイトなど,様々なものがヒットする。このような状況の下,
需要者が,「SURF'SUP」という言葉自体から,それが何らかの
出所を表示するものだと認識することは考え難く,それのみから出所を認
識するのは不可能であって,「SURF'SUP」の識別力は極めて弱
い。
(原告の再反論)
ア原告が問題としているのは,被告が被告商品に「SURF'SUP」
の文字を使用していることであって,これが本件商標権の侵害となること
と「GOTCHA」が周知であることとは直接の関係はない。そして,そ
もそも「GOTCHA」が周知であるとは認められないし,仮に被告の商
標として周知であるとしても,被告による「SURF'SUP」の使用
行為が本件商標権の侵害を免れることにはならない。
イ「SURF'SUP」が「いい波が来た」を意味する語としてありふ
れているという事実はなく,このことは,この言葉が一般的な英和辞典に
載っていないことからも明らかである。被服である原告の商品及び被告商
品の販売は,サーファーに限定されているわけではなく,一般需要者をも
対象とするものであるから,「SURF'SUP」がありふれた一般的
用語か否かは,あくまで一般需要者を基準にして考察すべきである。「S
URF'SUP」という言葉はサーフィン関係のものであり,一部のサ
ーファーはその意味を理解しているかもしれないが,サーファーであれば
誰でもその意味を正確に理解しているというものではない。一般人の中で
サーファーはごく一部であり,その中でも「SURF'SUP」の意味
を正確に理解している者が限られているとなると,「SURF'SU
P」という言葉の意味が「いい波が来た」であることを理解する者は極め
て少数ということになるから,ありふれた一般的な英語表現であるという
ことはできない。しかも,「いい波が来た」という表現は,被服とは全く
関連性がない。
また,「SURF'SUP」が「いい波が来た」を意味する語として
サーファーの間で知られているとしても,このことは,「SURF'S
UP」の文字をデザインとしてシャツの胸部に使用することが商標的使用
に該当するか否かを判断する上で,直接影響を及ぼすものではない。
ウ商標は,自他商品を識別するために用いられるものであるから,商標と
しての識別力を具備しているか否かは,あくまでもその商標が用いられる
商品との関係で論じられるべきものであって,本件の場合は,被服につい
て考察されなければならず,被服以外での使用例を集めてみたところで意
味はない。そして,市場に出回っている「SURF'SUP」の語を付
したTシャツのほとんどは,「SURF'SUP」の文字だけではなく,
前身頃に商品の出所の識別標識として強く支配的な印象を与えるキャラク
ターの絵柄に「SURF'SUP」の文字を付記したタイプのものであ
り,それらを除けば「SURF'SUP」が識別力のない態様で使用さ
れているとはいえないし,被告標章に上記キャラクターの絵柄に相当する
要素は含まれていない。なお,被告が挙げる他社の商品は,いずれも被告
商品と同様,本件商標権を侵害するものであり,そうした使用例があるか
らといって,被告の行為が正当化されるわけではない。
エ仮に被告標章の使用形態は商標的使用に該当しないとする被告の主張が
許されるのであれば,自社の登録商標を使用してさえいれば,他社の登録
商標をシャツの胸元に大きく目立つようにデザインしても問題ないことに
なるが,その場合,需要者が出所を混同する事態が発生することは必至で
あり,それが商標使用者の利益と共に需要者の利益を保護しようとする商
標法の理念に反することは明らかである。
(2)争点(2)(被告標章が本件登録商標に類似するかどうか)について
(原告)
ア本件登録商標は,英大文字の「SURF'SUP」とカタカナの「サ
ーフズアップ」とを2段に横書きしたものであり,被告標章は,英大文字
の「SURF'SUP」を横書きし,その「UP」の文字の上に,波と
思しき図形上に白抜きで数字の「78」を表現した図形を配し,「P」の
文字中に縦に白抜きで「GOTCHA」(Cは左右反転)の文字を配した
ものである。
イ被告標章中の要部は「SURF'SUP」であるところ,これと本件
登録商標とを対比すると,英文字部分の文字配列が共通であるから,外観
が類似する。被告標章は,「P」の文字中に「GOTCHA」の文字を配
し,波の図形上に「78」を表現した図形を配しているが,このような点
は,被告標章全体から見ると微細であり,それらによって「SURF'S
UP」の外観が失われたり損なわれたりするわけではないから,本件登録
商標と被告標章とが外観上類似するとの結論は動かない。
また,被告標章は,他の構成要素に比して際立っている「SURF'S
UP」の部分によって,「サーフズアップ」の称呼が生じるから,本件登
録商標と被告標章の称呼は一致する。
そして,本件登録商標の「SURF'SUP」と被告標章の要部であ
る「SURF'SUP」から共通の観念が生ずるのは当然であり,本件
登録商標と被告標章とは,等しく「いい波が来た」という観念を生ずる。
したがって,外観,称呼及び観念のいずれにおいても類似しているから,
被告標章は本件登録商標に類似する。
(被告)
ア被告標章は,まず,最も大きいサイズで「SURF'S」との文字(刺
繍部分)があり,その右側には小さめのサイズで「UP」の文字(プリン
ト)が置かれ,「P」の文字中に縦に白抜きで被告商標である「GOTC
HA」(Cは左右反転)の文字を配し,「UP」の文字のすぐ上には波を
表現した図形を配し,その波に重なって白抜きで「78」との数字が記載
されている。また,波の描く弧の中に入り込む形で,被告商標である「G
マーク」が置かれている。
これら「SURF’S」,「UP」,「GOTCHA」,「波」,「7
8」及び「Gマーク」は,全ての要素が一つの長方形に収まるように配置
され,全体として一体の表示として構成されているから,類否の判断は,
この一体となっている被告標章と本件登録商標との間で行うこととなる。
被告標章のうち,「SURF’SUP」の文字のみが要部であり,その
他は付加的部分であるという関係にはなく,また,「SURF'SU
P」の文字は,ありふれた一般的な言葉であり,市場に出回っている多く
のシャツに付されていて,その文字自体には自他商品識別機能はないから,
「SURF'SUP」のみを取り出して類否の判断をするのは不当であ
る。
そして,標章の類似性を判断するに当たっては,外観,称呼,観念を切
り離して考察するのではなく,全体として出所混同のおそれがあるかとい
う観点から総合的に考察すべきであり,また,取引の実情を考慮すること
も許されるものであって,取引の実情等において,商品相互間で誤認混同
を生ずるおそれがない場合には,類似の商標とは解されない。
イ被告標章から生じる称呼は,「サーフズアップ」ではなく,「サーフズ
アップガッチャセブンティーエイトジー」か,その略称であるとし
ても「ガッチャ」であるから,本件登録商標と被告標章は,称呼において
大きく異なる。
観念については,被告標章から生じる観念は,「『いい波が来たぞ』及
び『被告のブランド』」か,「『何かサーフィンや海に関する言葉』及び
『被告のブランド』」であるが,「GOTCHA」がサーフブランドとし
て知れ渡っていることも考慮すると,被告標章から生じる観念は,結局は,
被告のブランドである「GOTCHA」そのものであるといえる。したが
って,本件登録商標と被告標章は,観念においても大きく異なる。
外観については,本件登録商標が,上段に英大文字の「SURF'S
UP」,下段にカタカナの「サーフズアップ」と横書きで記載した2段の
文字によって構成されているのに対し,被告標章は,「SURF'SU
P」の文字に加え,「P」の字に重なる「GOTCHA」の文字,波の図
柄,「78」の数字及び「Gマーク」等が一体として配置されているもの
であるから,外観においても大きく異なる。
そして,「SURF'SUP」は,ありふれた一般的な語句で,広く
衣料品に付されているのであり,その文字のみから需要者が出所を判断す
ることはなく,被告商品が被告又はその関連会社の直営店でのみ販売され
ているという取引の態様から考えると,需要者が,被告商品を原告の商品
と誤認混同するおそれはない。
以上によれば,被告標章は,本件登録商標に類似しない。
(3)争点(3)(本件商標権の効力が被告標章に及ばないかどうか)について
(被告)
「SURF'SUP」という言葉自体は,前記のとおり,サーフィンや
海等を想起させるものとして広く慣用されているから,これをサーフィンや
海を想起させるために使用する,とりわけ被告商品のようなサーフブランド
製品に使用するときは,慣用商標として,本件商標権の効力は及ばない。
(原告)
「SURF'SUP」は,審決又は判決において慣用商標と認定された
事例におけるような,「歴史のある広く知れ渡った標章であって,慣用的に
使用されていることに,何ら疑念を差し挟む余地がないもの」に該当しない
し,一般向けの新聞,雑誌や辞典等に掲載されておらず,また,多数のシャ
ツに付されるなどにより広く知れ渡っているという事実もない。そして,被
服取扱業者間において慣用化されたとの共通認識があるとも認められないか
ら,慣用商標ではない。
(4)争点(4)(本件商標権に係る商標登録が審判により無効にされるべきもの
と認められるかどうか)について
(被告)
サーフィンや海といえば「SURF'SUP」であり,「SURF'S
UP」の標章は,サーフブランドを中心に,衣料品全般について慣用されて
いる商標であり,仮にそういえないとしても,「SURF'SUP」とい
う言葉は,サーフィンや海等を想起させる,いわばキャッチフレーズのよう
なものに過ぎず,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識するこ
とができない商標であるから,本件商標権に係る商標登録は,審判により無
効にされるべきものと認められる。
(原告)
「SURF'SUP」は,前記のとおり,慣用商標ではないし,ある商
標がキャッチフレーズとして商標法3条1項6号に該当するとされるのは,
その商標が,比較的冗長で宣伝文句として認識されるとか,長年大規模なキ
ャンペーンを展開していたとかいった事情がある場合であり,「SURF'
SUP」は,そのような事情がないから,キャッチフレーズとはいえない。
(5)争点(5)(原告の本訴請求が権利の濫用に当たるかどうか)について
(被告)
原告は,本件登録商標を付したTシャツを,平成20年4月から平成21
年5月までの約1年間という短期間に,株式会社ライトオンに対し合計99
枚程度販売したにとどまり,原告による本件登録商標の使用は限定的である。
そうすると,原告は,自ら本件登録商標を使用するよりも,むしろ類似の
商標を使用する者に対して権利を行使して,経済的利益を得ることを主たる
目的として,本件商標権に係る商標登録を得たものであり,平成23年にお
ける本件登録商標の使用は,商標登録の取消審判が提起されるのを防ぐため
に,前回の使用から3年が経過する前に形式的に使用したと推認せざるを得
ないのであって,原告による本訴請求は,権利の濫用に当たり許されない。
(原告)
原告は,本件登録商標を付した商品を継続的に販売してきている。
(6)争点(6)(原告の損害)について
(原告)
被告は,遅くとも平成23年3月から,その直営店舗39店において,被
告商品の販売を開始した。被告商品の種類は,少なくとも男物S,M,L,
XLのサイズでそれぞれ白,黄,黒の3色があり,各店舗にはそれぞれの種
類が最低5枚は納入されていると考えられるから,その総生産数量は少なく
とも2340枚(=4サイズ×3色×5枚×39店舗)になり,その販売価
格は3990円であるから,総販売価格は933万6600円を下らない。
そして,被告商品の製造,販売等における固定費を除いた被告の利益率は,
20%を下らないから,被告が本件商標権を侵害したことにより原告の受け
た損害の額は,少なくとも186万7320円を下らない。
(被告)
原告は,商標法38条2項に基づき,被告商品により被告が得た利益が原
告の損害になると主張するようであるが,商標権者による対象商標の使用が
限定的であり,かかる使用から生じる利益がわずかである場合には,同項の
定める推定は覆されるべきであり,被告商品による利益は原告の損害になら
ない。
第3当裁判所の判断
1争点(1)(被告標章の使用が商標的使用といえるかどうか)について
(1)前記前提事実に各項末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,次
の事実を認めることができる。
ア被告商品の概要
(ア)被告商品は,木綿製の白地ないしは生成りのTシャツであり,その
胸元には,別紙2被告標章目録記載のとおり被告標章が目立つように付
されている。すなわち,赤色の糸で最も大きく「SURF'S」と刺繍
がなされ,その隣に少し小さく赤色で「UP」とプリントされており,
その「P」の字の縦棒部分は斜体文字状に「GOTCHA」(Cは左右
反転)と白抜きされ,「UP」の上部には,赤色で波形の図形がプリン
トされているが,その内側は「78」と白抜きされ,また,波の描く弧
(いわゆるチューブ)の部分に赤色でGマーク商標が幾分右下がりにプ
リントされている。そして,これらは,概ね横長の長方形を形成するよ
うな形で一体として表示されている。
被告標章の下方には,「SURF'SUP」等の文字よりかなり小
さい文字で,灰色で,概ね被告標章と同程度の幅で横一列に「BASH
TAKETHEDROPORTAKETHEPAIN」と
プリントされている。
なお,被告商品には,上記の赤色の糸による刺繍と赤色プリントがな
されたもののほか,紺色の糸による刺繍と青色プリントのなされた色違
いのものがある。また,被告商品において,「SURF'SUP」の
表示があるのは上記胸元部分のみである。
(イ)襟内側(項側)の襟ネーム部分は,上部が赤色,下部が青色の帯状
に染色され,その上に,GOTCHA商標1,キャラクター商標及びG
マーク商標がそれぞれ白色でプリントされている。その下方には黒色様
の単色プリントで,円形の中にキャラクター商標と当該商品のサイズが
表示されており,その更に直下に,同色で「GOTCHA」と「INT
ERNATIONAL」の文字が上下2段に等幅でプリントされている。
なお,上記襟ネーム部分の直下には,商品タグが取り付けられている
ところ,その表面には「GOTCHA」の文字やGマーク商標が記載さ
れているほか,「SINCE1978」等の記載があり,その裏面に
は,サイズや素材に関する表記のほか,「APPROVEDBYG
OTCHAINTERNATIONALL.P.」,「PEET
CO.,LTD.」等の記載がなされている。
(ウ)前身頃の正面向かって左下の裾付近には黒色タグが縫い付けられ,
同タグにはGマーク商標とGOTCHA商標2が白色の糸で刺繍されて
いる(ただし,いずれも「<R>」は省略されている。)。
また,正面向かって右下の裾部分には黒色タグが縫い付けられ,同タ
グの表側にはキャラクター商標が,裏側にはGマーク商標(ただし,
「<R>」は省略されている。)がそれぞれ金色の糸で刺繍されている。
(エ)背面側の上部には,赤色若しくは青色プリントで「DRIVEC
ARVE」と目立つように表記され,これに続いて,それらの文字より
多少大きめに同色のキャラクター商標がプリントされ,それらの少し下
の方には,GOTCHA商標2が同色でプリントされている。
(甲3,乙14の1ないし8)
イ被告は,「GOTCHA」の衣料品を,その直営店(「GOTCHA」
の関連商品のみを取り扱う「G-LAND」と,「GOTCHA」の関連
商品及び被告関連会社の商品を取り扱う「G-LANDEXTREM
E」等,全国に三十数店舗ある。)並びに被告関連会社の直営店で販売し
ており,それらの店舗では,被告又は被告関連会社のもの以外の衣料品は
販売していない。また,上記のうち「GOTCHA」の関連商品以外の商
品を取り扱う店舗においても,「GOTCHA」の関連商品については,
その陳列場所付近にGOTCHA商標1やGマーク商標を掲示するなどし
て,「GOTCHA」の関連商品であることを明示し,その旨判別できる
ようにしている。
被告は,遅くとも平成23年3月から,上記各店舗において被告商品を
3990円で販売していた。
(甲4,乙12,74ないし84)
ウ日本プロサーフィン連盟は,遅くとも平成19年以降,「GOTCH
A・G-LANDカップ」と称するプロサーフィンの大会を開催している
が,被告は,これを特別協賛していて,同大会の会場には,GOTCHA
商標1やGマーク商標,キャラクター商標等をあしらった看板や幟等が多
数立てられ,出場する選手たちも「GOTCHA」の文字等がプリントさ
れたTシャツ等を着用しており,同大会の模様はCSテレビで放映されて
いる。また,被告は,「GOTCHA」としてプロサーファーのスポンサ
ーにもなっている。
(乙1,2,62ないし69,86,88)
エ被告は,遅くとも平成13年ころ以降,「BOYSRUSH」,「C
OOLTRANS」,「Fine」,「FINEBOYS」,「me
n’segg」,「SamuraiELO」,「Samuraim
agazine」といった10代から20代の若者向けのファッション雑
誌等に,俳優・歌手等の人気タレントが「GOTCHA」の衣料を着用す
る等のタイアップ記事や,「GOTCHA」の広告を,多数回にわたり掲
載してきた。そうした記事,広告においては,「GOTCHA」の商品が
掲載されるほか,「GOTCHA」,「ガッチャ」といった表示やGOT
CHA商標1,Gマーク商標,キャラクター商標等が随所に使用されてい
る。
(乙3ないし11,42,44ないし51,58ないし61,70)
オ「SURF'SUP」は,「SURFISUP」の略であり,直
訳すれば,「波が高くなっている」などとなるが,サーフィン関係の言葉
として「いい波が来た」といった意味で用いられる。
「SURF'SUP」は,ザ・ビーチ・ボーイズの1970年代のア
ルバムタイトルや曲名に使用されたほか,ペンギンがサーフィンをするア
ニメ映画,サーフィン情報に関するラジオ番組,サーフィンのオンライン
ゲームのタイトルに用いられるなど,サーフィンに関連する様々な事項に
おいて用いられている。
また,「SURF'SUP」(「SURFSUP」,「Surf's
Up」等を含む。)の標章は,少なくとも平成23年以降において,原告
及び被告が使用するもの以外に,20種類を超える多数のシャツ,Tシャ
ツの胸元,背面部等に使用され,それらの多くは,サーフィンや海に関す
る図柄と共に「SURF'SUP」が用いられている。
(乙15ないし18,20ないし32の各1ないし3,33ないし40,
71,89ないし92)
(2)被告標章は,胸元に目立つように表示され,その中でも「SURF'S
UP」の部分が大きく表示されているが,「SURF'SUP」は,原
告の造語などではなく,サーフィン関連のものとして,一般にも,また,T
シャツ等にもしばしば使用されるありふれた表現であり,需要者がその標章
により原告の商品であると認識するなど,それが原告の商標として周知又は
著名であると認めるに足りる証拠もないから,それ自体が有する出所識別力
はもともと弱いものということができる。
そして,被告標章は,「SURF'SUP」のみからなるものではなく,
その「P」の縦棒部分には,白抜きで「GOTCHA」の文字が「C」を左
右反転させた人目を引く形態で配され,また,「UP」の上部には波の図や
Gマーク商標が配され,これらが一体として表示されているものである。T
シャツの出所が一般に表示される襟ネームや前身頃の裾付近に付された2か
所のタグには,胸元に付された「GOTCHA」の文字やGマーク商標に対
応するGOTCHA商標やGマーク商標等が付され,襟ネームの下方にも
「GOTCHA」の文字が記載され,背面側にもGOTCHA商標2等が表
示されていて,商品タグにも「GOTCHA」の文字やGマーク商標が記載
されている。これに対し,「SURF'SUP」は上記の胸元部分以外に
は表示されていない。こうした表示態様に照らすと,被告商品に接した需要
者は,被告商品を,「SURF'SUP」なるブランドのものとしてでは
なく,むしろ「GOTCHA」というブランドのものと認識するものと考え
られる。とりわけ,被告が,「GOTCHA」の名を冠したサーフィンの大
会を協賛し,雑誌にも「GOTCHA」や被告の各商標を頻繁に掲載してい
ることからすると,被告の「GOTCHA」や被告の各商標は,サーフィン
愛好家はもちろんのこと,被告商品の需要者と考えられる10代から20代
の若者の間においても相当程度周知性を有すると推認される上,被告商品は,
被告やその関連会社の直営店で,「GOTCHA」と明示される態様で販売
され,かつ,それらの店舗では被告やその関連会社以外の商品は取り扱われ
ていないから,被告商品の胸元に「SURF'SUP」が目立つように表
示されているとしても,被告商品に接した需要者は,「SURF'SU
P」ではなく,むしろ「GOTCHA」によってその出所を識別するのが普
通であると考えられる。
そうすると,被告標章における「SURF'SUP」の表示は,商品の
出所識別機能を果たす態様で使用されていると認めることはできないから,
被告標章の使用は本来の商標としての使用には当たらないというべきである。
(3)原告は,「SURF'SUP」が被告商品の胸元に目立つように,しか
も周辺の文字等とは区別して明確に認識し得る態様で表現されているから,
出所識別機能をも有するものとして使用されていると主張をする。確かに,
胸元にブランド名等を目立つように表示した衣料品も日常的に目にするとこ
ろではあるが,衣料品のデザインは,通例,その装飾性やファッション性と
切り離し難いものであり,胸元に目立つように表示されたものであるからと
いって,当然にそれが出所識別機能を有するものであるということはできな
い。そして,被告標章においては,「GOTCHA」の文字が「SURF'
SUP」の「P」を白抜きし,しかも「C」を左右反転させた目立つ形態
で使用されるなどしているから,被告商品に接する需要者は,胸元のみなら
ず襟ネームやタグ等にも記載されている「GOTCHA」がその商品の出所
を表示するものと認識するというべきである。
また,原告は,「GOTCHA」が周知であるとは認められないし,仮に
被告の商標として周知であるとしても,被告による「SURF'SUP」
の使用行為が本件商標権の侵害を免れることにはならないと主張する。しか
しながら,前記(2)の認定事実によれば,「GOTCHA」は,被告商品を
はじめとする被告の取扱商品の需要者に対して相当程度の周知性を獲得して
いると考えられるのであって,そうであれば,需要者が,当該商品の出所を
「GOTCHA」であると認識することは当然というべきである。
さらに,原告は,「SURF'SUP」は英和辞典に載っていないし,
「いい波が来た」との意味を理解する者は極めて少数であるから,ありふれ
た一般的な英語表現であるということはできないと主張する。しかしながら,
被告商品の需要者が「SURF'SUP」の意味を理解しているかどうか
にかかわらず,サーフィンに関連して「SURF'SUP」がしばしば用
いられていることに鑑みると,その表現はありふれたものであって,出所識
別力が弱いことは否定することができない。この点に関連して,原告は,
「SURF'SUP」の語を付したTシャツのほとんどが,商品の出所の
識別標識として強く支配的な印象を与えるキャラクターの絵柄に「SURF
'SUP」の文字を付記したタイプのものであり,それらを除けば,識別
力のない態様で使用されているとはいえないと主張するが,このような主張
自体,「SURF'SUP」が出所識別力のない態様で使用される場合が
あることを自認するものであり,この点を措くとしても,出所識別機能との
関係で重要なことは,「SURF'SUP」が多数のTシャツに表示され
ているという事実であって,この事実は,「SURF'SUP」の出所識
別力が弱いことを裏付けるものといえる(なお,キャラクターと共に使用さ
れているのは10点程度(乙20ないし24,33,36,38,71,8
9)にとどまり,それ以外の商品の多くも襟ネームや商品タグ等にそれぞれ
のブランド名等の表示をしている(乙25ないし32等)。)。
原告は,その他るる主張するが,原告の主張は,以上の判示と異なる独自
の見解に基づくものであって,これを採用することはできない。
2以上のとおりであって,被告標章の使用は,本来の商標としての使用に当た
らず,本件商標権を侵害するものとは認められないから,その余の点につき検
討するまでもなく,原告の請求は理由がない。
3よって,原告の請求を全て棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官高野輝久
裁判官三井大有
裁判官小川卓逸
(別紙1)
被告標章目録
(別紙2)
原告商標目録
(別紙3)
被告商標目録
1GOTCHA商標
(1)
(2)
2キャラクター商標
3Gマーク商標

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