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平成26年10月6日判決言渡
平成26年(行ケ)第10109号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成26年9月17日
判決
原告X
被告特許庁長官
指定代理人田中秀人
辻本泰隆
稲葉和生
堀内仁子
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告が求めた判決
特許庁が不服2013-20271号事件について平成26年3月17日にした
審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,特許出願に対する拒絶査定不服審判不成立審決の取消訴訟である。争点
は,進歩性判断の誤りの有無である。
1特許庁における手続の経緯
原告は,名称を「処理実行プログラム,および処理実行装置」とする発明につき,
平成25年4月15日に特許出願をしたが(特願2013-85266号,請求項
の数6),平成25年8月9日付けで拒絶査定を受けたので,同年10月18日,不
服審判請求をし(不服2013-20271号),同年11月18日付けで拒絶理由
通知を受け,平成26年1月10日付けで手続補正をした(請求項の数4)。
特許庁は,平成26年3月17日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審
決をし,その謄本は,同年4月1日に原告に送達された。
(甲1,2,4,5,乙1)
2本願発明の要旨
上記平成26年1月10日付け手続補正書による補正後の請求項3の発明(本願
発明)に係る特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(分説及び項番号は,当
裁判所で付した。)。(乙1)
【A】複数の呼び出し用プログラムと,各呼び出し用プログラムの役割を表したロ
ール情報とを関連付けて記録した記録装置から,前記呼び出し用プログラム
を呼び出して実行する処理実行装置であって,
【B】実行する処理を特定するための処理特定情報,及び前記処理に用いる入力デ
ータの入力を受け付ける受付手段と,
【C】前記受付手段によって受け付けられた前記処理特定情報に基づいて,実行す
る処理を特定し,該処理を実行するために必要な前記ロール情報を特定する
ロール情報特定手段と,
【D】前記受付手段によって受け付けられた前記処理特定情報に基づいて,前記ロ
ール情報特定手段によって特定された前記ロール情報が関連付けられている
前記呼び出し用プログラムの呼び出し順序を決定する呼び出し順序決定手段
と,
【E】前記呼び出し順序決定手段によって決定された前記呼び出し順序で,前記ロ
ール情報特定手段によって特定された前記ロール情報が関連付けられている
前記呼び出し用プログラムを記録装置から呼び出して実行する呼び出し用プ
ログラム実行手段とを備え,
【F】前記呼び出し用プログラム実行手段は,前記ロール情報特定手段によって特
定された前記ロール情報に,処理において同じ役割を担う複数の呼び出し用
プログラムが関連付けられている場合には,該ロール情報に対する呼び出し
用プログラムの呼び出し順序よりも前に実行した呼び出し用プログラムから
出力された情報に基づいて,前記複数の呼び出し用プログラムの中から実行
対象とする1つの呼び出し用プログラムを選択することを特徴とする
【G】処理実行装置。
3審決の理由の要点
(1)引用発明
特開2010-182228号公報(引用文献〔乙2〕)には,次の発明(引用発
明)が記載されている(項番号は当裁判所で付した。)。
【a】複数の保守プログラムと,各保守プログラムを識別するための保守プログラ
ム識別子を記録した記憶装置から,前記保守プログラムを選択して実行する
保守制御システムであって,
【b】保守対象装置を保守する際の条件である保守条件を受け付ける保守条件受付
部と,
【c】前記保守条件受付部が受け付けた前記保守条件に基づいて,実行する保守内
容を特定し,前記保守プログラムを選択する保守プログラム選択部と,
【d】前記保守プログラム選択部で選択した前記保守プログラムの実行順序を決定
する実行順序決定部と,
【e】前記実行順序決定部で決定した実行順序で,前記保守プログラムを選択して
実行する保守プログラム実行部とを備えることを特徴とする
【g】保守制御システム。」
(2)一致点
本願発明と引用発明との一致点は,次のとおりである。
【A】複数の呼び出し用プログラムと,各呼び出し用プログラムの役割を表したロ
ール情報とを関連付けて記録した記録装置から,前記呼び出し用プログラムを
呼び出して実行する処理実行装置であって,
【B】実行する処理を特定するための処理特定情報,及び前記処理に用いる入力デ
ータの入力を受け付ける受付手段と,
【D´】前記受付手段によって受け付けられた前記処理特定情報に基づいて,実行す
る処理を特定し,該処理を実行するために必要な前記呼び出し用プログラムの
呼び出し順序を決定する呼び出し用プログラム決定手段と,
【E´】前記呼び出し用プログラム決定手段によって決定された呼び出し順序で,前
記呼び出し用プログラムを記録装置から呼び出して実行する呼び出し用プロ
グラム実行手段とを備えることを特徴とする
【G】処理実行装置。」
(3)相違点
本願発明と引用発明との相違点は,次のとおりである。
ア相違点1
実行する処理を特定し,当該処理を実行するプログラムの順序を決定するに際し
て,本願発明が,構成C(ロール情報特定手段)及び構成D(呼び出し順序決定手
段)によって行われるものであるのに対し,引用発明は,構成c(保守プログラム
選択部)及び構成d(実行順序決定部)によって行われる点。
イ相違点2
プログラムの実行に際して,本願発明が,構成Fのようにして呼び出し用プログ
ラムを選択するものであるのに対し,引用発明は,プログラムの実行をどのように
行うか,格別の記載がされていない点。
(4)相違点の判断
ア相違点1について
①引用発明の構成c(保守プログラム選択部)及び構成d(実行順序決定部)
とは,全体として,「保守条件受付部によって受け付けられた保守条件から実行する
保守を特定し,該保守を実行するために必要な保守プログラムを特定し,特定され
た保守プログラムの順序を決定する」ものである。
②引用文献の段落【0048】に「リストにおいて,保守プログラムはプログ
ラム名や識別符号等の保守プログラム識別子により識別されている」と記載される
ように,保守プログラムの特定は「保守プログラム識別子」(本願発明の「ロール情
報」に相当)によって行われるものである。
③してみると,引用発明の構成c及び構成dは,「保守条件受付部によって受け
付けられた保守条件から実行する保守を特定し,該保守を実行するために必要な保
守プログラム識別子を特定し,前記特定された保守プログラム識別子によって識別
される前記保守プログラムの順序を決定する」ものであるといえる。
④そうすると,引用発明の構成c及び構成dと,本願発明の構成C(ロール情
報特定手段)及び構成D(呼び出し順序決定手段)とは,「受付手段によって受け付
けられた処理特定情報に基づいて,実行する処理を特定し,該処理を実行するため
に必要なロール情報を特定し,前記特定されたロール情報が関連付けられている呼
び出し用プログラムの呼び出し順序を決定する」点で共通している。
⑤そして,共通した一連の処理を,どのような手段に実行させるかについては,
当業者が必要に応じて,適宜採用し得る設計的事項にすぎない。
⑥よって,相違点1は,実質的な相違点とはいえず,引用発明においても,本
願発明と同様の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
イ相違点2について
①複数のプログラムを連続して実行する際に,前に実行した処理結果に基づい
て,後続の処理を行うことは,情報処理の技術分野における常套手段にすぎない。
②また,引用文献の段落【0022】に「保守プログラム実行部104は,上
記保守プログラムを実行するとともに,保守対象装置102の稼働情報(稼働時間,
印刷枚数等の稼働量,各種センサの検出値及び異常の発生の有無,管理センターへ
の通知の有無等の情報)を保守制御装置100に対して送信する」と記載されるよ
うに,引用発明においても,実行した処理結果を出力するものである。
③そして,引用文献の段落【0048】に「図6(a)には,保守プログラムの
リストとして4つの紙詰まり検出プログラムA,B,C,Dが例示」と記載され,
【図6(a)】には,保守プログラム識別子の例として「紙詰まり」が示され,「紙詰
まり」用の保守プログラムとして,4つの保守プログラムが例示されるように,引
用発明においても,同じ保守プログラム識別子を有する(本願発明の「同じ役割を
担う」に相当)複数の保守プログラムの中から,状況に応じて最適な保守プログラ
ムを選択して実行するものと解される。
④してみると,引用発明においても,実行する保守プログラムの選択に際して,
前に実行した保守プログラムから出力された情報に基づいて,同じ保守プログラム
識別子を有する複数の保守プログラムの中から実行する保守プログラムを選択する
ように構成すること,すなわち,上記相違点2に係る構成とすることは,当業者が
容易に想到し得たことである。
よって,相違点2は格別なものではない。
ウ作用効果
相違点1及び相違点2を総合的に勘案しても,本願発明の奏する作用効果は,引
用発明の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものと
いうことはできない。
(5)審決判断のまとめ
本願発明は,引用発明に基づいて,容易に発明できたものである。
第3原告主張の審決取消事由
1取消事由1(引用適格の認定誤り)
本願発明の実施形態において消費税計算が挙げられているように,本願発明は,
企業情報システムのソフトウェア開発の分野の技術であり,ソフトウェア自身がユ
ーザと直接対話しながら実行されていくものである。すなわち,どの実行装置でも
使用可能であり,引用発明よりも広い範囲で適用が可能である。
一方,引用発明の実施形態においてコピー機の制御ソフトウェアが挙げられてい
るように,引用発明は,機械制御システムのソフトウェア開発の分野の技術であり,
ソフトウェアが対象装置に組み込まれて機械の動きを制御している。引用発明は,
いわば,ハードウェアを提供する業者に関するもので,その適用もその分野に限定
される。
両技術分野のソフトウェア業界は明白に分かれているにもかかわらず,審決は,
この全く異なる2つの発明を対比した上で,本願発明が引用発明に基づいて容易に
想到できるとしたものである。
したがって,審決の認定判断には,誤りがある。
2取消事由2(引用発明の認定誤り)
本願発明は,処理実行装置上で動作するソフトウェアに関する発明であり,引用
発明の保守対象装置に対応する装置は存在しない。
一方,引用発明は,制御システムのソフトウェアに関する発明であり,保守対象
装置とそれを制御する保守制御装置とを要するシステムにおける保守制御装置のソ
フトウェアに関する発明であって,たとえ,保守制御装置が保守対象装置の内部に
あってもよいとしても,保守対象装置のない形態は考えられない。
それにもかかわらず,審決は,これを看過している。
したがって,審決の認定には,誤りがある。
第4取消事由に対する被告の反論
1取消事由1(引用適格の認定誤り)に対して
本願発明の処理実行装置には,適用分野の限定はなく,ユーザとの対話方式で実
行されていくとの限定もなく,本願発明が企業情報システムのソフトウエア開発の
分野に係る発明との前提はない。かえって,本願明細書には,本願発明の背景技術
として,電子部品の電子制御装置用の制御ソフトウエアを例示し(【0002】),本
願発明の変形例として,消費税計算以外の処理にも本発明が適用できる旨が記載さ
れている。また,引用発明の保守条件受付部は,対話方式で実行されるものを含む
(【0033】)。
一般に,ソフトウェア開発業者は,様々な業種のプログラム開発を行っており,
ソフトウエア開発における生産性向上のために,ソフトウエアの再利用性を意識し
てソフトウエアを開発することが通常であるといえる。したがって,引用発明の保
守制御システムで用いられている構成c(保守プログラム選択部),構成d(実行順
序決定部)及び構成e(保守プログラム実行部)に係る手段を,他のプログラム開
発に応用することは,当業者が普通に行うことである。
2取消事由2(引用発明の認定誤り)に対して
引用文献には,「なお、保守制御装置100を保守対象装置102内に設置する構
成としてもよい。この場合には、通信手段106は不要となる。」(【0025】),「…
これには限定されない。例えば、保守制御装置100が保守対象装置102内に設
置されている場合には、保守対象装置102内部のバスラインを介して送信するこ
とができる。」(【0036】)との記載があるとおり,引用文献は,複数の装置を用
いたシステム構成のみならず,通信手段を介さないひとつの装置としてシステムを
構成することも開示している。
仮に,相違点2を実質的な相違点としても,一般に,情報処理装置の制御部と被
制御部とを一体とするか否かは,コストやスピード等を考慮して当業者が装置の実
装において適宜選択すべき設計的事項にすぎない。
したがって,審決に認定は,誤りはない。
第5当裁判所の判断
1認定事実
(1)本願発明について
出願当初の明細書及び平成26年1月10日付け手続補正書による補正後の明細
書(併せて本願明細書)には,次の記載がある。(甲1,乙1)
ア技術分野
「本発明は,処理実行プログラム,および処理実行装置に関する(【0001】)。」
イ背景技術
「次のようなコンピュータシステムが知られている。このコンピュータシステムは,製品に
備えられる電子部品の型式情報に基づいて電子制御装置の仕様を決定し,決定した仕様に応じ
て,電子制御装置で用いられる制御ソフトウェアを生成する(【0002】)」
ウ発明が解決しようとする課題
「しかしながら,従来のコンピュータシステムでは,記録装置に標準モジュールと差分モジ
ュールを記録しておき,これらの中から仕様に応じたモジュールを選択して読み出すことによ
って制御ソフトウェアを生成していた。このため,制御ソフトウェアを生成するためには,仕
様ごとにどのモジュールを選択するかを示す選択パターンをあらかじめ定義しておく必要があ
り,仕様が変更になった場合や仕様が追加された場合には,標準モジュールや差分モジュール
を新たに追加し,これらを選択するための選択パターンを新たに定義する必要があるため,仕
様の変更や追加に柔軟に対応することが困難であった(【0004】)。」
エ発明の効果
「本発明によれば,ロール情報を用いて処理に用いる呼び出し用プログラムを特定して実行
するため,呼び出し用プログラムを追加した場合でも,追加した呼び出し用プログラムにその
プログラムの役割を示す既存のロール情報を関連付けて記録しておくだけで,追加した呼び出
し用プログラムも実行対象にすることができる(【0006】)。」
オ発明を実施するための形態
「本実施の形態における処理実行装置100では,ユーザは,あらかじめ複数の呼び出し用
プログラムと,各呼び出し用プログラムの役割を表し,各呼び出し用プログラムによる実行結
果のデータを取り出す機能を有するロールを特定するためのロール情報とを関連付けて記録装
置103に記録しておく。そして,ユーザは,これらの呼び出し用プログラムをロール情報を
用いて呼び出して実行させる処理実行プログラムの実行を指示することにより,ユーザが入力
したデータに対して,呼び出し用プログラムによる演算を行って,出力データを得ることがで
きる(【0013】)。呼び出し用プログラムは,ユーザがどのような入力データを入力し,それ
に対してどのような出力データを得たいかによって設計され,そのための処理を実行するため
の呼び出し用プログラムが作成されている。作成された呼び出し用プログラムのデータは,記
録装置103に記録され,それぞれの呼び出し用プログラムには,上述したロール情報が関連
付けられて記録されている(【0014】)。ここで,ユーザが仕入取引や売上取引といった取引
における取引金額を入力して消費税の計算を指示する場合を想定し,この処理のために記録さ
れる呼び出し用プログラム,および関連付けられるロール情報の具体例について,図2を用い
て説明する(【0015】)。」
「ユーザが仕入取引における消費税計算を指示したときに,仕入取引における消費税計算を
開始するための呼び出し用プログラムとして仕入取引用プログラム2bが記録され,この仕入
取引用プログラム2bには,仕入取引用プログラム2bによる実行結果のデータを取り出して
メモリに記録する機能を有するロールを特定するための『仕入取引』2aというロール情報が
関連付けられる(【0016】)。」
「ユーザが入力した取引先コードに基づいて,仕入取引における取引先を特定し,特定した
取引先に対して設定されている消費税の計算ルールを特定するための呼び出し用プログラムと
して仕入先特定用プログラム2fが記録される。また,ユーザが入力した取引先コードに基づ
いて,売上取引における取引先を特定し,特定した取引先に対して設定されている消費税の計
算ルールを特定するための呼び出し用プログラムとして売上先特定用プログラム2gが記録さ
れる。そして,この仕入先特定用プログラム2fと売上先特定用プログラム2gとには,これ
らの呼び出し用プログラムによる実行結果のデータを取り出してメモリに記録する機能を有す
るロールを特定するための『取引先』2eというロール情報が関連付けられる。このように,
本実施の形態では,処理において取引先の特定という同じ役割を担う2つの呼び出し用プログ
ラムに対して,同じロール情報を関連付けることもできる(【0018】)。」
「さらに,上記の呼び出し用プログラムを呼び出して実行するための消費税計算用の処理実
行プログラムが記録装置103に記録されており,ユーザは,仕入取引や売上取引といった取
引の種別,取引先を特定するための取引先コード,取引金額等の処理の実行に必要なデータを
入力した上で,消費税計算用の処理実行プログラムの実行を指示することにより,出力データ
として消費税額を得ることができる(【0021】)。以下に,消費税計算用の処理実行プログラ
ムがユーザの指示を受け付けて,消費税額を出力する場合の処理を例に,本実施の形態におけ
る処理実行装置100の処理の詳細について説明する(【0022】)。制御装置102は,ユー
ザによって,不図示のデータ入力画面上で,実行する処理を特定するための処理特定情報と,
処理に用いる入力データの入力を受け付ける。本実施の形態では,制御装置102は,ユーザ
からの指示に基づいて表示装置104に消費税計算に必要な情報を入力するためのデータ入力
画面を表示する。そして,制御装置102は,該データ入力画面上で,実行する処理が消費税
計算処理であることを示す処理特定情報と,仕入取引や売上取引といった取引の種別,取引先
を特定するための取引先コード,取引金額といった入力データとの入力を受け付ける。その後,
制御装置102は,データ入力画面上でユーザによって処理実行ボタンが押下されて消費税の
計算開始が指示された場合には,記録装置103から消費税計算用の処理実行プログラムをメ
モリ上に読み出す。この消費税計算用の処理実行プログラムは,ユーザによって入力された処
理特定情報に基づいて,記録装置103から呼び出す呼び出し用プログラムと,呼び出し用プ
ログラムの呼び出し順序を決定する(【0023】)。入力データに基づいて記録装置103から
呼び出す呼び出し用プログラムと呼び出し用プログラムの呼び出し順序は,ロール情報を用い
てあらかじめ定義されて記録装置103に記録されている。例えば,ユーザによって指定され
た取引の種別が仕入取引である場合には,ロール情報が『仕入取引』2a,『取引先』2e,『消
費税計算』2h,『端数計算』2kであるロールがこの順序で呼び出し用プログラムから実行結
果を取り出すように定義されている(【0024】)。」
「制御装置102は,この定義情報を用いて呼び出し対象の呼び出し用プログラム,および
その呼び出し順序を特定する(【0025】)。」
「そして,制御装置102は,図4に示すように,図3に示した順序で設定された呼び出し
順序で,データ入力画面上でユーザによって入力されたデータに応じた呼び出し用プログラム
を記録装置103から呼び出して実行する。図4に示す例では,ユーザによって指定された取
引の種別が仕入取引であるため,制御装置102は,『仕入取引』2aというロール情報が関連
付けられた仕入取引用プログラム2bと,『取引先』2eというロール情報が関連付けられた呼
び出し用プログラムのうちの仕入先特定用プログラム2fとを呼び出し対象としている。また,
制御装置102は,『消費税計算』2hというロール情報が関連付けられた消費税外税計算用プ
ログラム2iと消費税内税計算用プログラム2jのうちの消費税の計算ルールに合ったいずれ
か一方の呼び出し用プログラムと,『端数計算』2kというロール情報が関連付けられた端数四
捨五入用プログラム2lと端数切り捨て用プログラム2mと端数切り上げ用プログラム2nの
うちの消費税の計算ルールに合ったいずれか一つの呼び出し用プログラムとを呼び出し対象と
する(【0026】)。」
「図5は,本実施の形態における処理実行プログラムによって実行される処理の流れを示す
フローチャートである。図5に示す処理は,操作部材101が操作されて,不図示のデータ入
力画面上で,仕入取引や売上取引といった取引の種別,取引先を特定するための取引先コード,
取引金額といった入力データが入力されて,処理実行ボタンが押下されたことを検出すると起
動するプログラムとして,制御装置102によって実行される(【0032】)。」
「ステップS10では,制御装置102は,上述したように,あらかじめ記録装置103に
記録されている定義情報に基づいて,ユーザによって実行が指示された処理の内容に応じた,
呼び出し用プログラムを呼び出す対象とするロール情報を特定する。その後,ステップS20
へ進む(【0033】)。ステップS20では,制御装置102は,上述したように,定義情報に
基づいて,ユーザによって実行が指示された処理の内容に応じた呼び出し用プログラムの呼び
出し順序をロール情報を用いて決定する。その後,ステップS30へ進む(【0034】)。ステ
ップS30では,制御装置102は,記録装置103からステップS10で特定したロール情
報に関連付けられている呼び出し用プログラムを,ステップS20で決定した呼び出し順序に
従って呼び出す。その後,ステップS40へ進む(【0035】)。ステップS40では,制御装
置102は,ステップS30で呼び出した呼び出し用プログラムを実行する。これによって,
上述したように,各呼び出し用プログラム間でパラメータの受け渡しが行われながら処理が実
行される。その後,ステップS50へ進む(【0036】)。」
「ステップS60では,制御装置102は,メモリに記録されている処理結果,例えば上述
した消費税額の計算結果を不図示の結果出力画面へ表示する。その後,処理を終了する(【00
38】)。」
(2)引用文献の記載
引用文献(乙2)には,次の記載がある。
ア技術分野
「本発明は,保守制御装置,保守制御システム及び保守制御プログラムに関する(【000
1】)。」
イ背景技術
「近年,スキャナ,印刷装置,複写機,ファクシミリ等の機能を有する複合機その他の画像
処理装置が,ネットワーク環境を利用し,多種多様なデータを扱うことが一般的となりつつあ
る。このような高度な機能を画像処理装置が備えるにともない,使用者の使用目的や使用環境
に特化した専門的な使われ方をする事例も増えている。従って,画像処理装置等の保守対象装
置の状態を適正に保つための保守や調整の作業も同様に複雑化する傾向にある。このため,一
旦故障が発生すると原因の調査や復旧に時間を要することになる。このような状況を未然に回
避するため,保守対象装置を遠隔監視しながら保守診断を行う技術が従来から用いられている。
…(【0002】)。また,以上に述べた事情は,携帯電話機や家庭用電気製品など機器の制御に
電子プログラムを用いる装置の分野においても同様である(【0003】)。」
ウ発明が解決しようとする課題
「本発明の目的は,保守対象装置の使用目的や使用環境に応じた保守を行える保守制御装置,
保守制御システム及び保守制御プログラムを提供することにある(【0005】)。」
エ発明の効果
「請求項1,…の発明によれば,保守対象装置の使用目的や使用環境に応じた保守を行うこ
とができる(【0014】)。請求項2記載の発明によれば,保守プログラムに応じた最適な順序
で保守プログラムを実行することができる(【0015】)。請求項3記載の発明によれば,機能
の高い保守プログラムを選択対象として残すことができる(【0016】)。請求項4記載の発明
によれば,保守対象装置の使用目的や使用環境に応じて保守プログラムを変更することができ
る(【0017】)。」
オ発明を実施するための形態
「図1には,本実施形態にかかる保守制御システムの構成例が示される。図1において,保
守制御システムは,保守制御装置100,保守対象装置102及び保守プログラム実行部10
4を含んで構成されている(【0022】)。」
「保守制御装置100は,保守対象装置102の保守を行うための保守プログラムを選択し,
保守対象装置102に出力する。この場合,保守制御装置100は,保守対象装置102の稼
働状況,稼動履歴,設置環境,使用者の要望等が含まれる保守条件に基づいて,保守対象装置
102の使用目的や使用環境に応じた保守プログラムを選択し,その実行順序を決定する。こ
こで,保守とは,保守対象装置102の不具合の監視,診断,通知等をいう。このような保守
を行うための動作(以後保守動作という)は,後述する保守プログラムを実行することにより
行う。保守プログラムとは,保守対象装置102の各保守動作を実行する実行単位としてのプ
ログラムであり,保守対象装置102に設けられた動作状態に関する情報を検出する各種セン
サからの出力に基づいて保守対象装置102の不具合の監視,診断,消耗品の寿命予測等を行
い,異常の発生の有無等を管理センターその他の管理部門に通知する。上記センサは,保守対
象装置102に設置され,例えば複合機等の複写量,印刷量,スキャン回数,トナー残量,紙
詰まりの発生の有無,温度,湿度等,携帯電話の電池残量等,家庭用電気製品の場合に動作の
異常停止等を検出する。なお,センサはこれらに限定されるものではない。また,保守プログ
ラムは,保守対象装置102に設けられた保守プログラム実行部104により,保守制御装置
100が決定した実行順序に基づいて実行される。保守プログラム実行部104は,上記保守
プログラムを実行するとともに,保守対象装置102の稼働情報(稼働時間,印刷枚数等の稼
働量,各種センサの検出値及び異常の発生の有無,管理センターへの通知の有無等の情報)を
保守制御装置100に対して送信する(【0023】)。保守対象装置102は,複合機その他の
画像処理装置,冷蔵庫,洗濯機その他の家庭用電気製品,携帯電話機等の,保守の対象となる
装置である(【0024】)。上述した保守制御装置100及び保守対象装置102は,ネットワ
ーク等の通信手段106により接続され,保守プログラムその他の情報をやり取りする。なお,
保守制御装置100を保守対象装置102内に設置する構成としてもよい。この場合には,通
信手段106は不要となる。…(【0025】)。」
「図3には,本実施形態にかかる保守制御装置100の機能ブロック図が示される。図3に
おいて,保守制御装置100は,保守条件受付部28,保守プログラム選択部30,実行順序
決定部32,保守プログラム変更部34,保守プログラム評価部36及び履歴情報収集部38
を含んで構成されている。これらの機能は例えばCPU10とCPU10の処理動作を制御す
るプログラムとにより実現される(【0032】)。保守条件受付部28は,保守対象装置102
を保守する際の条件である保守条件を受け付ける。ここで,保守条件には,保守対象装置10
2の稼働状況,稼動履歴,設置環境,使用者の要望等が含まれる。例えば稼働状況には,複合
機等における複写量,印刷量,カラーまたは白黒等の印刷の種類,スキャン回数等が含まれる。
この稼働状況は,予め使用者が入力装置18から入力しておくことができる。また,稼働履歴
は,後述する履歴情報収集部38が収集する保守対象装置102の稼働状況,異常発生の有無
等に関する履歴である。また,設置環境は,保守対象装置102が設置された場所の温度,湿
度等の動作に影響を与える環境に関する情報である。この設置環境は,温度計,湿度計等の適
宜なセンサにより検出してもよいし,予め使用者が入力装置18から入力してもよい。また,
使用者の要望には,保守結果の通知頻度,通知する動作異常を決定するための閾値(例えば,
紙詰まりの発生回数が何回になったときに管理センターに通知するかを決定するための閾値)
等が含まれ,予め使用者が入力装置18から入力しておくことができる。以上の稼働状況,設
置環境,使用者の要望等を入力装置18から入力する際には,表示装置20にそれぞれの入力
用画面を表示し,使用者がこの入力用画面を参照しながら入力する構成としてもよい(【003
3】)。保守プログラム選択部30は,保守条件受付部28が受け付けた保守条件に基づいて,
保守対象装置102の保守に使用する保守プログラムを選択する。ここで,選択対象となる保
守プログラムのリストは,予めハードディスク装置22に格納しておいてもよいし,通信装置
16を介して他のサーバ等から取得してもよい。また,保守プログラム選択部30は,上記保
守条件に基づいて保守プログラムを選択するための選択規則を使用する。この選択規則は,上
記保守条件の各項目毎に,保守プログラムを対応付けたものである。例えば,稼働状況がカラ
ーまたは白黒の印刷である場合には,トナーの残量監視プログラム及びトナー切れ等の異常発
生を管理センター等に通報する通報プログラムが対応付けられ,設置環境における湿度が適宜
な閾値を越えている場合には,紙詰まり監視プログラム及び紙詰まり発生を管理センター等に
通報する通報プログラムが対応付けられる。…(【0034】)。実行順序決定部32は,保守プ
ログラムの接続順序を規定する接続規則に基づいて保守プログラム選択部30が選択した保守
プログラムの実行順序を決定する。接続規則では,ある保守プログラムに接続可能な保守プロ
グラム群,接続の優先順位等が予め決められており,実行順序決定部32は,これに基づいて
保守プログラム選択部30が選択した保守プログラム接続順序,すなわち実行順序を決定する。
…(【0035】)。以上に述べた保守プログラム選択部30が選択した保守プログラム,及び実
行順序決定部32が決定した当該保守プログラムの実行順序に関する情報は,保守対象装置1
02の保守プログラム実行部104に渡され,保守プログラム実行部104によって実行され
る。なお,保守プログラム及びその実行順序は,例えば通信装置16及び通信手段106を介
して保守プログラム実行部104に送信することができるが,これには限定されない。例えば,
保守制御装置100が保守対象装置102内に設置されている場合には,保守対象装置102
内部のバスラインを介して送信することができる(【0036】)。保守プログラム変更部34は,
使用者が入力装置18から入力した指示情報,履歴情報収集部38が収集する保守対象装置1
02の稼働履歴等に基づいて,保守プログラム実行部104が実行する保守プログラムを変更
する。変更処理の内容としては,保守プログラムの追加,削除,パラメータの変更等がある。
例えば,紙詰まりの発生回数が予め定めた閾値を超えた場合に,保守プログラムのパラメータ
として設定されている管理センターへの通知頻度を高くしたり(例えば,紙詰まり5回毎の通
知を3回毎の通知に変更する),紙詰まりに関連する他の保守プログラム,例えば湿度監視プロ
グラム(湿度の高さと紙詰まりには関連性があるので)を追加する等の処理が例示できる。ま
た,紙詰まりその他の異常発生に対して保守対象装置102のダウンタイム(不稼働時間)が
少ない等の使用者にとって好ましい結果が得られている保守プログラムを予めリストアップし
ておき,これらの保守プログラムに置き換える処理を行ってもよい。このリストアップは,後
述する保守プログラム評価部36の評価に基づいて行ってもよい(【0037】)。保守プログラ
ム評価部36は,保守プログラムを提供するサーバ装置または保守対象装置102のハードデ
ィスク装置22等に格納された保守プログラムの中に,類似する機能を有する複数の保守プロ
グラムがある場合に,これらの保守プログラムの機能の高さを予め定めた評価基準に基づいて
評価する。この評価基準は,予めハードディスク装置22に格納しておいてもよいし,通信装
置16を介して他のサーバ等から取得してもよい。ここで,類似する機能を有する保守プログ
ラムとは,当該保守プログラムに対応付けられた保守条件が同一または類似しており,例えば
監視動作なのか通知動作なのか等の動作内容とパラメータが同一または類似しているものをい
う。また,評価基準としては,ダウンタイムの長さ等が例示される。また,評価対象となる保
守プログラムの動作結果は,後述する履歴情報収集部38が収集した保守対象装置102の履
歴情報から抽出し,保守プログラム評価部36は,この動作結果を評価基準に基づいて評価す
る。なお,保守プログラム評価部36は,上記評価結果に基づいて,サーバ装置等に保守プロ
グラムとして残すものと削除するものを決定してもよい。このときに,残された保守プログラ
ムが,上記保守プログラム選択部30の選択処理で使用される(【0038】)。履歴情報収集部
38は,保守対象装置102の稼動履歴(コピー枚数,印刷枚数等),保守対象装置102に付
属する各種センサから取得できる値の履歴,異常発生の履歴,管理センターへの通知履歴,異
常発生により不稼働であった時間の履歴等を収集し,ハードディスク装置22等に格納する。
これらの履歴情報は,保守プログラム実行部104が保守制御装置100に対して送信する保
守対象装置102の稼働情報から収集する。なお,この履歴情報収集機能は,保守プログラム
に含ませてもよい。また,上記保守プログラム評価部36が,履歴情報収集部38が収集した
履歴情報に基づいて保守プログラムを評価してもよい(【0039】)。」
「図4には,本実施形態にかかる保守制御装置100の動作例のフローが示される。図4に
おいて,保守条件受付部28が,使用者が入力した稼働状況,設置環境,使用者の要望等,ま
たは履歴情報収集部38が収集した履歴情報を保守条件として受け付けると(S101),保守
プログラム選択部30が,上記保守条件と選択規則とに基づいて保守対象装置102に設けら
れた保守プログラム実行部104に渡す保守プログラムを選択する(S102)。また,実行順
序決定部32は,接続規則に基づいて保守プログラム選択部30が選択した保守プログラムの
実行順序を決定する(S103)。」(【0040】)

「以上のステップにより選択した保守プログラム及びその実行順序は,通信装置16及び通
信手段106等を介して保守プログラム実行部104に送信する(S104)(【0041】)。
次に,保守プログラム変更部34は,使用者が入力装置18から入力した指示情報,履歴情報
収集部38が収集する保守対象装置102の稼働履歴等に基づいて,保守プログラム実行部1
04が実行する保守プログラムを変更する必要があるか否かを判断する(S105)。S105
において,保守プログラムを変更する必要があると判断した場合には,保守プログラム変更部
34が保守プログラムの追加,削除,パラメータの変更等の変更処理を行う(S106)(【0
042】)。なお,図4の各ステップに示された動作は,保守対象装置102の稼働中に動作す
ることもでき,保守プログラムの選択,実行,変更のために特別の時間を設ける必要がない(【0
043】)。」
「図5には,本実施形態にかかる保守制御装置100の他の動作例のフローが示される。図
5は,保守プログラム評価部36の評価処理の例である。また,図6(a),(b)には,保守プロ
グラム評価部36の評価に基づいて保守プログラムのリストを変更する処理の説明図が示され
る(【0044】)。」
「図5において,保守プログラム評価部36が,履歴情報収集部38が収集した保守対象装
置102の履歴情報を取得する(S201)。また,保守プログラム評価部36は,保守プログ
ラムを提供するサーバ装置または保守対象装置102のハードディスク装置22等に格納され
た保守プログラムを,類似した機能毎に取得する(S202)。なお,保守プログラムは,複数
の異なるサーバ装置または複数の異なる保守対象装置102のハードディスク装置22から取
得してもよい(【0045】)。次に,保守プログラム評価部36は,上記履歴情報を解析し,評
価対象となる保守プログラムの動作結果から当該保守プログラムの機能の高さを予め定めた評
価基準に基づいて評価する。例えば,履歴情報に含まれる『異常発生により不稼働であった時
間の履歴』を,当該異常を検出する,あるいは管理センターに通知する保守プログラム毎に抽
出し,不稼働であった時間(ダウンタイム)の長短により当該保守プログラムの評価を行うこ
とができる。保守プログラム評価部36は,この評価結果に基づいて保守プログラムに機能の
高さの順位付けを行う(S203)。この順位付けがなされた保守プログラムのリストは,保守
プログラム選択部30による選択の対象とすることができる(【0046】)。次に,保守プログ
ラム評価部36は,S203において行われた順位付けに基づいて,保守プログラムのリスト
を更新する(S204)。この更新処理により,機能の高い保守プログラムをリストに残し,機
能の低い保守プログラムをリストから削除する(【0047】)。」
「図6(a)には,保守プログラムのリストとして4つの紙詰まり検出プログラムA,B,C,
Dが例示されており,保守プログラム評価部36が履歴情報から抽出したダウンタイムが各保
守プログラム毎に示されている。なお,上記リストにおいて,保守プログラムはプログラム名
や識別符号等の保守プログラム識別子により識別されている。図6(a)の例では,ダウンタイム
の短い順に順位付け(優先度)がなされており,C→B→A→Dの順にダウンタイムが長く(保
守プログラムの機能が低く)なっている。このように,ダウンタイムに差が生じるのは,例え
ば紙詰まりの検出アルゴリズム,または発生した紙詰まりに関連する診断データを収集する,
通知する等の差による使用機能制限の差や,管理センターに通知する情報種別や情報量に基づ
く保守作業にかかる時間に基づくものである。」(【0048】)
2本願発明の進歩性について
(1)引用発明の認定
ア構成aについて
保守対象装置102の保守動作を実行する実行単位としての複数の保守プログラ
ム(【0023】)は,監視動作や通知動作等の動作内容が類似する機能ごとに評価
されており(【0038】),プログラム名や識別符号等の保守プログラム識別子を付
与した保守プログラムリスト(【0048】)ととともに,記憶装置に記憶されてい
て(【0026】【0031】),複数の保守プログラムから1つの保守プログラムを
選択して実行している(【0023】【0034】)。
例えば,保守プログラム識別子が「紙詰まり」(【図6】)である保守プログラムリ
ストの例として,4つの紙詰まり検出プログラムがダウンタイムの短い順に順位付
けされており(【0048】),保守プログラム選択部30によって選択の対象とされ
ること(【0046】)が記載されている。
そうすると,引用発明は,「複数の保守プログラムと,各保守プログラムを識別す
るための保守プログラム識別子を記録した記憶装置から,前記保守プログラムを選
択して実行する保守制御システム」といえる。
イ構成bについて
保守条件受付部28は,保守対象装置102を保守する際の条件である保守条件
を受け付けている(【0033】)。
保守条件には,例えば,複合機等における複写量,印刷量,カラー又は白黒等の
印刷の種類,スキャン回数等の稼働状況や,保守対象装置102が設置された場所
の温度,湿度等の動作に影響を与える環境に関する情報である設置環境が挙げられ
ている(【0033】)。なお,引用文献には,「稼働状況,設置環境,使用者の要望
等を入力装置18から入力する際には,表示装置20にそれぞれの入力用画面を表
示し,使用者がこの入力用画面を参照しながら入力する構成としてもよい。」(【00
33】)との記載もある。
そうすると,引用発明は,「保守対象装置を保守する際の条件である保守条件を受
け付ける保守条件受付部」を備えている。
ウ構成cについて
保守プログラム選択部30は,保守条件受付部28が受け付けた保守条件に基づ
いて,保守対象装置102の保守に使用する保守プログラムを選択する(【003
4】)。
例えば,保守条件が稼働状況であれば,監視動作の機能であるトナーの残量監視
プログラムと通報動作の機能である通報プログラムが選択され,保守条件が設置環
境であれば,監視動作の機能である紙詰まり監視プログラムと通報動作の機能であ
る通報プログラムが選択される(【0034】)。
そうすると,引用発明は,「保守条件受付部が受け付けた前記保守条件に基づいて,
実行する保守内容を特定し,前記保守プログラムを選択する保守プログラム選択部」
を備えている。
エ構成dについて
実行順序決定部32は,保守プログラム選択部30が選択した保守プログラムの
実行順序を決定する(【0035】)。
そうすると,引用発明は,「保守プログラム選択部で選択した前記保守プログラム
の実行順序を決定する実行順序決定部」を備えている。
オ構成eについて
保守プログラム実行部104は,保守プログラム選択部30が選択した保守プロ
グラム,及び実行順序決定部32が決定した当該保守プログラムの実行順序に関す
る情報に基づいて実行される(【0036】)。
そうすると,引用発明は,「実行順序決定部で決定した実行順序で,前記保守プロ
グラムを選択して実行する保守プログラム実行部」を備えている。
カ小括
引用発明が,保守制御システムであることは明らかであるから,以上ア~オのと
おり,引用発明は,構成a~e,gを備えるものであり,審決の引用発明の認定に
は,誤りはない。
(2)一致点及び相違点の認定
ア対比
①引用発明の「保守プログラム」は,保守プログラム実行部に呼び出されて実
行されることは明らかであるから,「呼び出し用プログラム」といえる。
②引用発明の「保守プログラム識別子」は,上記(1)ア及び同ウのとおり,監視
動作の機能であるプログラム(トナーの残量監視プログラム,紙詰まり監視プログ
ラム)や通知動作の機能であるプログラム(通報プログラム)等の動作内容が類似
する機能ごとに付与されているものであって,「トナーの残量」「紙詰まり」及び「通
報」等は,各保守プログラムの役割を表しているといえるから,本願発明の「ロー
ル情報」に相当する。
③引用発明の「保守条件」は,実行する保守処理を特定する情報であるといえ
るから,本願発明の「処理特定情報」に相当する。
そして,上記(1)イのとおり,引用文献には,保守条件(本願発明の「処理特定情
報」に相当する。)である「稼働状況,設置環境,使用者の要望等」を入力装置18
から入力することが記載されているから,引用発明の「保守条件受付部」もそのよ
うな入力データを受付け可能であることは明らかである。
そうすると,引用発明の「保守条件受付部」は,本願発明の「受付手段」に相当
する。
④さらに,引用発明の「保守プログラム選択部」は,保守条件(本願発明の「処
理特定情報」に相当する。)に基づいて,実行する保守内容を特定して,保守プログ
ラム(本願発明の「呼び出し用プログラム」に相当する。)を選択し,実行順序決定
部は,保守プログラムの実行順序を決定するものである。
そして,上記(1)アのとおり,引用発明において,保守プログラム選択部30が選
択する保守プログラムは,保守プログラム識別子(本願発明の「ロール情報」に相
当する。)が付与された保守プログラムリストから選択されていると解されるから,
引用発明の「保守プログラム選択部」は,保守プログラム識別子(本願発明の「ロ
ール情報」に相当する。)を特定しているといえる。
これに対し,本願発明の「ロール情報特定手段」は,処理特定情報に基づいて,
実行する処理を特定し,該処理を実行するために必要なロール情報を特定するもの
であり,「呼び出し順序決定手段」は,ロール情報が関連付けられている呼び出し用
プログラムの呼び出し順序を決定するものである。
そうすると,引用発明の「保守プログラム選択部」及び「実行順序決定部」は,
それぞれ,本願発明の「ロール情報特定手段」及び「呼び出し順序決定手段」に相
当する。
⑤引用発明の「保守プログラム実行部」は,保守プログラム(本願発明の「呼
び出し用プログラム」に相当する。)を実行するものであるから,「呼び出し用プロ
グラム実行手段」といえる。
⑥引用発明の「保守制御システム」は,保守処理を行うために,保守プログラ
ムを実行するものであるから,「処理実行装置」といえる。
イ一致点
上記アによれば,本願発明と引用発明とは,次の点において一致する。
【A】複数の呼び出し用プログラムと,各呼び出し用プログラムの役割を表したロ
ール情報とを関連付けて記録した記録装置から,前記呼び出し用プログラムを
呼び出して実行する処理実行装置であって,
【B】実行する処理を特定するための処理特定情報,及び前記処理に用いる入力デ
ータの入力を受け付ける受付手段と,
【C】前記受付手段によって受け付けられた前記処理特定情報に基づいて,実行す
る処理を特定し,該処理を実行するために必要な前記ロール情報を特定するロ
ール情報特定手段と,
【D】前記受付手段によって受け付けられた前記処理特定情報に基づいて,前記ロ
ール情報特定手段によって特定された前記ロール情報が関連付けられている
前記呼び出し用プログラムの呼び出し順序を決定する呼び出し順序決定手段
と,
【E】前記呼び出し順序決定手段によって決定された前記呼び出し順序で,前記ロ
ール情報特定手段によって特定された前記ロール情報が関連付けられている
前記呼び出し用プログラムを記録装置から呼び出して実行する呼び出し用プ
ログラム実行手段とを備える
【G】処理実行装置。
ウ相違点
呼び出し用プログラム実行手段について,本願発明は,構成Fのとおりに呼び出
し用プログラムを選択するものであるのに対し,引用発明は,そのような特定がな
い点(相違点A)。
(3)相違点の判断
引用発明の「ロール情報」(保守プログラム識別子)は,前記ア②のとおり,監視
動作の機能であるプログラム(トナーの残量監視プログラム,紙詰まり監視プログ
ラム)や通知動作の機能であるプログラム(通報プログラム)等の動作内容が類似
する機能ごとに付与されているものであり,「トナーの残量」「紙詰まり」及び「通
報」等は,各保守プログラムの役割を表しているといえる。
また,前記(1)アのとおり,「ロール情報」(保守プログラム識別子)が「紙詰まり」
である場合の保守プログラムリストの例として,4つ(複数)の紙詰まり検出プロ
グラムがダウンタイムの短い順に順位付けされており,保守プログラム選択部30
によって選択の対象とされるものである。
そして,情報処理の技術分野において,複数のプログラムを連続して実行する際
に,前に実行した処理結果(情報)に基づいて,後続の処理を行うことは技術常識
であると認められる。
そうすると,「紙詰まり」というロール情報(保守プログラム識別子)に,複数の
呼び出し用プログラム(保守プログラム)が関連付けられており,その複数の呼び
出し用プログラム(保守プログラム)から1つの呼び出し用プログラム(保守プロ
グラム)を選択して実行する引用発明において,「紙詰まり」に対する呼び出し用プ
ログラム(保守プログラム)の呼び出し順序よりも前に実行する呼び出し用プログ
ラム(保守プログラム)がある場合に,その呼び出し用プログラム(保守プログラ
ム)から出力された情報に基づいて,実行対象とする1つの呼び出し用プログラム
(保守プログラム)を選択するように構成することは,当業者であれば容易に想到
し得るものである。
そうすると,相違点Aに係る構成は,容易想到である。
(4)まとめ
以上のとおりであり,相違点1を実質的な相違点とはいえないとした審決の認定
判断は,実質的に当裁判所による本願発明と引用発明との対比に係る認定判断と異
ならず,相違点2を容易想到とした審決の認定判断は,当裁判所の相違点Aに係る
認定判断と同旨といえるから,審決は,結論において相当というべきである。
3原告の主張に対して
(1)取消事由1(引用適格の認定誤り)について
原告は,引用発明は,本願発明とはその適用する分野を異にし,対比すべき発明
とすることはできない旨を主張する。
しかしながら,原告が自認し,そして,本願明細書の段落【0001】に「本発
明は,処理実行プログラム,および処理実行装置に関する。」と記載されているとお
り,本願発明の適用範囲は,原告の主張する特定の技術分野に限定されたものでは
なく,引用発明の技術分野と重なることが明らかである。
原告の主張は,その前提を欠くものであり,採用することはできない。
(2)取消事由2(引用発明の認定誤り)について
原告の主張は,引用発明において,ソフトウェアが動作する保守制御装置100
を保守対象装置102内にあるように構成しても,保守対象装置102は依然とし
て存在するのに対し,本願発明は,引用発明の保守対象装置102に対応する装置
は存在しないから,本願発明と対比する引用発明の認定として誤りである,という
ものと解される。
しかしながら,保守制御装置100を保守対象装置102内にあるように構成し
た場合,保守制御装置100で動作するソフトウェアは,保守対象装置102でも
動作しているといえることは明らかである。
そうすると,引用発明においては,保守対象装置102上でソフトウェアが動作
し,処理を実行することになるから,引用発明の保守対象装置102は,処理実行
装置といえる。
したがって,審決が認定した引用発明に誤りはなく,原告の上記主張は,採用す
ることができない。
第6結論
よって,審決の結論は正当であって,取消事由は理由がないから,原告の請求を
棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
清水節
裁判官
中村恭
裁判官
中武由紀

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