弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
       事   実
 原告は、「一、原告と被告間において、被告が原告になした昭和五四年七月九日
付解雇通知に基づく解雇は無効であることを確認する。二、被告は原告に対し、直
ちに、就労させると共に昭和五四年七月一五日から本判決確定に至るまで一日金
七、三〇二円の割合による金員を支払え。三、訴訟費用は被告の負担とする。」旨
の判決を求め、その請求原因として要旨次のとおり陳述した。
一 原告は、被告会社の労働者として雇傭せられ、昭和五四年二月一二日から一日
平均賃金金七、三〇二円の割合で嫁働していたものであるが、同年五月一二日嫁働
中右足を骨折したので訴外長南病院及び同矢野医院へ通院加療をつづけた。
二 同年七月五日、前項負傷も癒えたので、被告会社へ仕事の有無を電話で問合わ
せたところ、同被告からは仕事がないので休業して欲しいとの返事があつた。
 そこで、翌六日確認のためあらためて被告に対し右問合わせに対する文書による
回答を求めたところ、被告は同年七月九日付で原告を解雇する旨の予告及び予告期
間中も就業を拒否する旨の文書を送付してきたので、原告はその後被告会社で就業
できない状態が続いている。
三 原告は、被告主張のように負傷後会社へ遊びに行つたことはない。
 前記負傷後も被告会社では病院へ連れて行つてくれないので原告は、負傷の翌
日、訴外長南病院へ友人に連れて行つてもらい受診したが、大したことはないとい
われたのでその翌々日に被告会社へ働きに出た。
 五月一八日の飲酒運転というのも、被告会社の従業員が警察へ虚偽の申告をした
ため原告が取調べをうけたに過ぎず、右申告は被告代表者と被告会社の従業員が共
謀してなした疑いが強い。何れにしても、原告には何ら解雇される理由はなく、被
告の前記解雇通知には理由をふしておらず、原告の右負傷は同年七月一四日治癒と
診断されたので、その前の解雇の通知は労働基準法第一九条に照らし許されない。
四 よつて、被告の前記解雇通知は無効であるからこのことの確認と原告の即時就
労及び前記負傷が治癒したと診断された日の翌日である昭和五四年七月一五日から
本裁判確定に至るまで前記一日金七、三〇二円の割合による賃金の支払の裁判を求
める。
被告訴訟代理人は「主文同旨」の判決を求め、その答弁として次のとおり陳述し
た。
一 原告請求原因事実一は、平均賃金、通院加療の点を除き認める。原告の負傷は
軽微なもので、原告は同月一八日には被告会社の資材をダンプで東京へ運搬する作
業に従事しており、訴外矢野医院での初診は同年五月二二日である。
二 同二は、認める。原告主張の解雇通知は被告会社の就業規則に基づくもので、
右通知には予告期間中の賃金を支払う旨を付記しておいた。
三 同三及び四は争う。原告は前記受傷数日後に浴衣掛で被告会社の労務現場へ遊
びに来るというようなことをしたので被告会社の責任者から速やかに医師の手当を
うけるように注意した。同年五月一八日に原告は飲酒運転の被疑者として警察の取
調べをうけたし、前記七月六日付の内容証明郵便を送つてくる等したので、被告会
社としては原告が試用期間(六ケ月)中の労務者でもあるので引きつづき従業員と
して勤務させることは不適当と考え、同年七月九日付でそのころ到達した内容証明
郵便で引きつづき使用する意思なき旨告知したので、原・被告間の雇傭関係は法定
の期間の経過によつて既に終了している。
 すなわち、被告は、原告の受傷が治癒したものと思つて前記通知を発したのであ
るが、本訴請求をうけて診断書(乙第二号証)にそれが同年七月一四日とされてい
ることを知つた。何れにしても治癒後三〇日の経過をもつて解雇する旨の予告であ
るから右期間が経過した同年八月一四日解雇の効力は生じた。
 さらに、被告は、右解雇効力問題を慮つて、予備的意味において同年九月二日到
達の内容証明郵便によつて再度被告に対し解雇の通知をした。従つて、同日から三
〇日の経過によつて右解雇の効力が発生しているから何れにしても原・被告間には
雇傭関係はない。
証拠(省略)
       理   由
一 原告がその主張のとおり(平均賃金を除く)被告に雇傭されて就労中足の負傷
をし、その治療のため休業していたが原告から被告に対し、負傷が治つたので就労
したいとの申出がなされこれについて両者の間に原告主張どおりの応待がなされ、
被告から原告主張どおりの解雇の通知がなされたことは何れも当事者間に争いがな
い。
二 原告は、就労可能であるとの右申出をしておきながら、就労可能でないときに
解雇通知がなされたのであるから被告の右解雇通知は労働基準法第一九条に違反し
無効であるといい、被告はその主張のごとき理由でその通知は、予告期間中の賃金
を支払うことを含み(付記)解雇予告にとどまるから有効である旨争うのであるか
ら以下この点を中心として検討する。
(一) まず、原告の負傷が何時治癒したか、すなわち、原告が就労の申出をした
時点か、診断書(乙第二号証)記載の時点かであるが、成立に争いのない乙第二号
証及び原告本人尋問の結果を総合すれば、原告は、前記五月一二日負傷後、翌日訴
外長南病院で受診したところ肉離れであり大したことはないと診断されたので、そ
の後二日間ぐらい被告会社で就労したが痛みがあるため、その後家で休み同五月一
八日に就労し被告会社から東京までダンプを運転して資材を運び、会社へ戻つてか
ら他の従業員といさかいをし、自己の車で帰宅したが、右いさかいが絡んで被告主
張(飲酒運転)の取調べがあつたこと、同五月二二日になつて足が腫れたので訴外
矢野医院で受診した結果骨折(右下腿腓骨々幹部骨折)と診断され、その後殆んど
自宅で休養し(原告本人は家で休んでいたと供述し、診断書には、通院加療をつづ
けたとの記載がある)ているうちに、同七月五日になつて治癒したので就労しよう
と思い、原告主張事実二のごとき電話をし、翌日問合せの文書を発し、これに対し
同七月九日被告からの応答文書を受取つたこと(右主張事実二は当事者間に争いが
ない)、同七月一四日右矢野医院へ行つて治癒の診断をうけ同七月一九日本訴を提
起するに至つた(本訴提起時点は本件記録上明らか)ことがそれぞれ認められるの
で以上の事実を総合すると原告の受傷は、遅くとも原告が就労の申出をした時点で
完治していたもので、診断書(乙第二号証)記載の七月一四日は最終診断日を示す
ものに他ならず、原告が就労申出同日に受診すればその日でも(また、その前で
も)治癒の診断があつたものと推認でき、労働基準法一九条の定めは、その定めの
期間中における解雇の予告を禁ずる趣旨でなく、同期間中の解雇そのものを禁ずる
趣旨であると解せられるからこのことと後記解雇予告の内容等に照らすと右解雇予
告は有効であるとするのが相当と認める。
(二) ところで、何れも成立について争いのない甲第一号証、乙第四号証の一・
二を総合すれば、被告から原告への解雇通知内容は、被告は原告が、解雇予告期間
中出勤をしなくともその間の賃金(三〇日分以上)を支払うことを約したものであ
り、負傷治癒時期が診断書どおりだとすればその治癒後から予告期間を算定すると
いう通知であることが認められ、これによれば、右予告期間は三〇日以上(七月九
日から八月一四日まで)確保されており原告は、右通知を受けた後直ちに他に就労
することが可能だしそうしても別に三〇日分以上の賃金を被告からうけうることが
できるという意味において再就職について有利に取扱われているというべく、その
他原告本人尋問の結果によつて認められる原告が現実になした再就職時期、前記争
いのない原告の被告会社における就労期間、前示認定の原告負傷後のその言動と照
らし併せると被告の右通知は、原告を恣意的に、また、特別な害意をもつて再就職
を妨げようとしてなしたものではなく原告も物心何れの面でも右通知によつて特別
な不利益(勿論他へ再就職の要があるという意味における不利益はある)を受けた
ことはないと認められ、右通知を不当とする事由は見当らない。
三 以上の次第で、前記原告に対する被告の解雇(予告)通知は有効であるのに原
告の本訴請求は、これを無効とし、前示被告が通知内容としている三〇日分以上の
賃金受領を拒否し、これとは別異の賃金支払請求等をしているのであるからそれは
失当である。
 よつて、原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の
負担については民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 喜田芳文)

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