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裁判例


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         主    文
     第一審原告ら(別紙当事者目録の原告番号70、73、77、78、8
0、81、84、88、97ないし100、108、116、119、126に記
載の第一審原告ら)及び第一審被告の本件各控訴を棄却する(但し、原判決主文第
一項に引用された限度において原判決添付請求金額合計一覧表中原告番号35の氏
名、金員を「A二二円、B二二円、C二二円」と変更する。)。
     控訴費用は、第一項に記載の第一審原告らと第一審被告との間において
は、同第一審原告らの負担とし、第一審被告とその余の第一審原告らとの間におい
ては、第一審被告の負担とする。
         事    実
 第一審原告ら(別紙当事者目録の第一審原告番号70、73、77、78、8
0、81、84、88、97ないし100、108、126、119、126に記
載の第一審原告ら)代理人は、「原判決中右第一審原告ら敗訴の部分を取り消す。
第一審被告は右第一審原告らに対し第一審判決添付請求金額合計一覧表記載の金員
を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも第一審被告の負担とする。」旨の判決を求
め、第一審被告代理人は、右控訴棄却の判決を求め、「原判決中第一審被告敗訴の
部分を取り消す。別紙当事者目録の第一審原告番号1ないし8、10ないし16、
18、19、21ないし33、35ないし48、50ないし57、59ないし6
9、71、72、74、75、79、82、83、87、89、93ないし96、
101、102、104ないし107、110、111、113、115、11
7、118、121ないし124、128、129、9に記載の第一審原告らの請
求をすべて棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも右第一審原告らの負担とす
る。」旨の判決を求め、右第一審原告ら(但し、別紙当事者目録原告番号9に記載
の第一審原告Dを除く。)代理人は、右控訴棄却(主文第一項括弧内但書を含
む。)の判決を求めた。第一審原告Dは、公示送達による適式の呼出を受けながら
当審口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しなかつた。
 当事者双方の事実上の主張並びに証拠の提出、援用及び認否は、次に附加するほ
か、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
 一 第一審被告代理人は、次のように述べた。
 別紙当事者目録原告番号35に記載のEは昭和四四年六月一二日に死亡し、同人
の妻A、長女B、長男Cがその相続人となつた。
 二 第一審原告ら(但し、前記第一審原告Dを除く)代理人は、次のように述べ
た。
 別紙当事者目録原告番号35に記載のEが昭和四四年六月一二日に死亡し、同人
の妻A、長女B、長男Cがその相続人となつたことを認める。
 三 証拠(省略)
         理    由
 一 各第一審原告と第一審被告との労働契約の締結
 第一審被告が、船積貨物の積み込みまたは陸揚げを行なうに際してする貨物の個
数の計算または受け渡しの証明(検数業務)および輸入穀物等の重量検査、輸入木
材の材積算出(検量業務)を業とする社団法人であること、第一審原告らのうち別
紙当事者目録の原告番号1ないし8、10ないし16、18、19、21ないし3
3、35ないし48、50ないし57、59ないし69、71、72、74、7
5、79、82、83、87、89、93ないし96、101、102、104な
いし107、110、111、113、115、117、118、121ないし1
24、128、129、9に記載の第一審原告ら(別紙当事者目録の原告番号35
に関してはA、B、Cではなく、当初の原告Eを指す。以下、「第一群の第一審原
告ら」という。)が、もと協和検数株式会社(旧商号東都検数株式会社、以下、
「協和検数」という。)の従業員であり、昭和四一年三月三一日協和検数が解散し
たのち、同年四月一日第一審被告の従業員として採用されたこと、別紙当事者目録
記載の第一審原告らのうち第一群の第一審原告らを除くその余の第一審原告らすな
わち別紙当事者目録の第一審原告番号70、73、77、78、80、81、8
4、88、97ないし100、108、116、119、126に記載の第一審原
告ら一六名(以下、「第二群の第一審原告ら」という。)がいずれも昭和四二年六
月一日以降第一審被告の従業員として採用されたものであること、第一群および第
二群の第一審原告らのうち別紙当事者目録原告番号61に記載のFが事務員であ
り、その他の第一審原告らがいずれも検数員であること、
 以上の事実は、当事者間に争いがないから、第一群または第二群の第一審原告ら
に属する各第一審原告と第一審被告とはそれぞれその採用の際労働契約を締結して
いると認められる。
 二 昭和四二年六月一日前の第一群の各第一審原告と第一審被告との間の賃金計
算方法
 1 第一審被告協会において、昭和四二年六月一日前には、昭和三七年六月一日
改正された旧就業規則及びこれと一体をなす給与規定が施行されていたこと、これ
らによれば、従業員の給与は月極めで、原則として月給制であつたことは、いずれ
も当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一、二号証、原審における第一審
原告Gの供述(第一回)によれば、前記就業規則五二条は、賃金計算につき「給与
に関しては別に定める給与規定による。」と規定し、前記給与規定二条一項は、右
五二条を承けて、「給料は原則として月給制とする。ただし、日給者の欠勤日数に
対しては給料を支払わない。」旨規定し、同じく前記給与規定六条は、「新たに雇
入れられた従業員の給与は発令の当日から日割計算で支払う。」旨規定し、おそく
とも昭和四一年四月当時以降前記原則に対する例外として第一審被告従業員中臨時
検数員、傭員については日給制を採り、傭員のみについては昭和四二年六月一日以
降毎月一定額の基本給に所定の日額を上乗せすることとしたことが認められる。
 2 第一審被告において昭和四二年六月一日前に行われていた1に前記した旧就
業規則及びこれと一体をなす給与規定のうちには遅刻、早退、欠勤(組合休を含
む。)を理由に賃金を差し引く旨を定めた規定のないこと、第一群に属する第一審
原告らが前叙のように昭和四一年四月一日第一審被告に従業員として採用された
後、右第一審原告らが所属していた全日本港湾労働組合関東地方東京支部(以下、
「全港湾東京支部」という。)と第一審被告とは右第一審原告らの給与組替えにつ
き同年六月七日付で協定を締結し、第一審被告は右第一審原告らに対し同年四月一
日当時同被告協会内で施行されていた旧就業規則、給与規定を含む諸規定および給
与制度を同日に遡つて適用し、全港湾東京支部はこれを承認する旨約したことはい
ずれも当事者間に争いがない。
 3 原審証人Hの供述によつて成立を認める乙第一八号証の一、二によれば、第
一審被告協会においては、病休、組合休、その他届出、無届の欠勤をあわせ欠勤人
員の稼働人員(昭和三六年一、五三六人、昭和四二年二、七九六人)中に占める一
日平均の百分率は、昭和三六年四・八八%、同三七年五・二二%、同三八年四・九
二%、同三九年五・三〇%、同四〇年五・二〇%、同四一年四・九〇%、同四二年
四・四七%で、連年一日平均四・四七%ないし五・三〇%に及ぶ欠勤者があつたこ
とが認められるが、第一審被告が昭和一七年以来昭和四二年五月まで遅刻、早退、
欠勤(組合休を含む。)により賃金を控除したことがないこと、第一群の第一審原
告らに対しても昭和四一年四月一日から同四二年五月末日まで遅刻、早退、欠勤
(組合休を含む。)により賃金を控除したことがないことは、当事者間に争いがな
い。
 <要旨第一>以上の事実関係のもとにおいて、第一群の第一審原告らのうち、第一
審原告Fが傭員であり、その余の各第一審原告が臨時検数員であるとの
主張立証がなく、特別の事情が認められない本件においては、第一審被告と第一群
の各第一審原告との間では、おそくとも昭和四二年五月末日当時労働契約上の賃金
は月給として計算される定めであり、また、労働者の自己都合による遅刻、早退、
欠勤(組合休を含む。)があり、債務の本旨に従つた労務の提供がなかつた場合に
も、遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)を理由に提供のなかつた労務に対応する
賃金部分を控除することをしない(当該部分の賃金が不発生であると構成するとす
れば労務不提供により減縮した賃金額に減縮賃金部分相当額の手当を加算した額を
賃金として計算することとなる。)定めであつたと推認すべきである。第一審被告
は、同被告が遅刻、早退、欠勤(組合休による場合を含む。)により賃金を差し引
かなかつた理由は、労使間に、従業員側では使用者がその経営事情から労働基準法
所定の計算方法によつた場合より金額の下回る時間外賃金を支払うことを認め、そ
の代りとして使用者側では従業員に遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)があつて
も作業の正常な運営に支障を来す程度が少ない限り賃金の控除をしない旨の了解が
あつたからであつて、労働契約上、遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)を理由に
賃金を差し引かないで計算される定めであつたのではないと主張する。なるほど、
成立に争いのない乙第二〇号証の一、原審証人Iの第一回供述及びこれによつて成
立を認める乙第六号証、乙第八号証の一ないし三、乙第二〇号証の二、三、乙第九
号証の二ならびに弁論の全趣旨によれば、昭和二六年五月第一審被告は、当時の同
被告従業員の代表組織である全日本港湾労働組合日本貨物検数東京支部労働組合と
の間で従業員の給与ベースを一万四、四二〇円と協定する際、時間外賃金の計算基
準につき労働法三七条によることなく本人給と技能給との合計額の五割を基準額と
することにしたこと、その趣旨は、労働者の生活安定のためには固定賃金を引き上
げるべきであるが、夜間作業が重要な部分を占める検数業では、時間外賃金が賃金
の主要部分を占め、固定賃金引き上げの結果は、大幅な時間外賃金の増加をきたす
ので、労基法所定の計算方法により算出した額を下回る時間外賃金を支払うことを
従業員側に了解させることにより第一審被告協会の経営が危殆に陥ることを避ける
にあつたこと、これに対し協会側では従業員の遅刻、早退、欠勤(組合休を含
む。)があつても賃金を差し引き計算せず、厳密にいえば、その時間も勤務したも
のとして賃金を支払う旨の了解が労使双方の間にできたこと、もつとも、時間外賃
金の割増基準については労働基準監督署の是正勧告を受けたこともあつて、昭和四
〇年五月下旬労基法所定の計算方法により算出した時間外賃金を支払う取扱いに改
められたことが認められる。しかし、前顕乙第一八号証の一、二、成立に争いのな
い甲第一七号証、原審証人Hの供述ならびに弁論の全趣旨によれば、昭和一七年第
一審被告協会設立当初から従業員に遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)のあつた
ことが推認され、労使間に前記了解ができたのは、はるか後である昭和二六年であ
り、その後も昭和三六年から昭和四二年まで連年一日平均従業員中四ないし五%が
遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)をしているにもかかわらず、第一審被告がそ
のため賃金を差し引いて計算した例が当初からなかつたことは前叙のとおりであ
り、しかも、この間昭和四〇年五月には既に時間外賃金の割増基準も労基法所定の
計算方法によることに改められているのである。さすれば、時間外賃金の計算方法
が労働基準法所定のとおりに改められれば、賃金差引計算をしない取扱いも当然こ
れとともに廃止されるべき了解であつたとみることはできない。かえつて、前顕甲
第一七号証、原審における第一審原告Gの第一回供述ならびに弁論の全趣旨によれ
ば、第一審被告協会における月給制は主として検数労働者の社会的地位の向上を図
るため同協会の設立とともに採用された制度であり、一か月を超える欠勤またはこ
れと同程度に業務の正常な運営に支障を生じない限り賃金の差し引き計算をしない
のがこの制度の趣旨、目的に沿うものとして関係者に理解、運用されできたこと、
第一群の第一審原告らが第一審被告に従業員として採用された後もその月給制の内
容はそのようなものとして当事者に理解運用されていたことが認められるから、第
一審被告の右主張は採用することができない。
 さらに、第一審被告は、同被告が全港湾東京支部との昭和四一年六月七日協定を
締結するに至つた協議の過程において、同支部に対し同被告と日本検数労働組合
(以下、「日検労」という。)との間に、将来就業規則を改正して遅刻、早退、欠
勤(組合休を含む。)等による賃金差し引きをする旨了解ができていると述べたと
主張し、原審証人Iの第一回供述によれば、当時第一群の第一審原告らと給与組替
えの交渉に当つた第一審被告総務部次長Iは、第一群の第一審原告らを代表するG
に対し「今のところは遅刻、早退、欠勤につき賃金控除をしないけれども、就業規
則を改定して賃金を差し引くようにする準備中である。」と告げたことが認められ
る。原審における第一審原告Gの第一、二回供述中右認定に反する部分は採用する
ことができない。しかし、第一審被告の旧就業規則および給与規定(賃金差し引き
の規定のないもの)が第一群の第一審原告らに対して昭和四一年四月一日に遡つて
適用されることになつたことはさきに認定したとおりであり、遅刻、早退、欠勤
(組合休を含む。)による賃金差し引きを前提として給与組替の合意が結ばれたと
認めるだけの証拠はないから、遅刻、早退、欠勤につき賃金差し引きを準備中であ
るとの発言があつたからといつて、遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)を理由に
賃金を差し引かないで計算する定めでなかつたとはいえない。
 さすれば、第一群の各第一審原告と第一審被告との間ではおそくとも昭和四二年
五月末日当時、労働契約上の賃金は月給として計算される定めであり、かつ、遅
刻、早退、欠勤(組合休を含む。)を理由に賃金を差し引かないで計算される定め
であつたといわなければならない。
 三 第一群の各第一審原告と第一審被告との間の昭和四二年六月一日前の賃金計
算方法はその後変更されたか。
 1 就業規則および給与規定の改訂
 第一審被告が旧就業規則改訂案およびこれと一体をなす給与規定改訂案を作成
し、これにつき同被告協会従業員所属の労働組合である日検労と全港湾東京支部の
意見を徴し、日検労からは昭和四二年四月五日付で、全港湾東京支部からは同月二
〇日付で各意見書の送付を受け、就業規則、給与規定につきそれぞれ経営協議会で
の協議を経たうえ、昭和四二年六月一日、就業規則を改訂し、新規則を施行すると
同時に給与規定をも改訂し、新規定を施行したこと、欠勤の場合無届欠勤のときに
は一日につき本給の二五分の一を、届出欠勤のときには一日つき本給の五〇分の一
を減額し、但し、休務を必要とする診断書を提出したときには本給の五〇分の一を
減額し同額の病休扶助を支給する旨の賃金計算規定が新就業規則付属の新給与規定
中に定められ、遅刻、早退の場合につき新就業規則二八条には「遅刻・早退すると
きはその時間を不就業として取り扱う。」と規定され、新給与規定三四条には「遅
刻・早退は、所定の方法により、その不就労時間に当たる本給を控除する。」と規
定され、新給与規定三〇条三項には「月極め賃金につき日割計算の必要を生じたと
きは別に定める場合のほかは当該手当を二五日で除した額をもつて日額とする。」
と規定されたこと、新給与規定三四条にいう「所定の方法」とは次のとおりの内容
であること、すなわち、「遅刻について、始業時(午前七時三〇分―〇七三〇、以
下、時間の表示は同じ要領による。―)より一〇分間(〇七四〇まで)は、遅刻扱
いとはするが、この間に出勤すれば賃金を控除することはせず、〇七四一―〇七五
〇に出勤した者には〇七三〇―〇七四〇の十分を、〇七五一―〇八〇〇に出勤した
者には〇七三〇―〇七五〇の二〇分を、〇八〇一―〇八一〇に出勤した者には〇七
三〇―〇八〇〇の三〇分を各控除対象とし、〇八一一以降に出勤した者についても
右に準じて控除対象時分を算出し、右の方法で日々記録した控除対象時分を賃金締
切期に月間集計して三〇分単位に賃金を差し引き端数を切り捨てるものとする。早
退による不就業時間の賃金控除は一時間当りの単価を本給の四〇〇分の一とす
る。」以上、「所定の方法」の内容を第一審被告が新就業規則および新給与規定実
施と同時に同被告協会事業所に掲示したこと、右の事実はいずれも当事者間に争い
がない。
 2 改訂された就業規則(新就業規則)、給与規定(新給与規定)等の施行に伴
い第一群の各第一審原告
 (昭和四二年六月一日前に採用された者)と第一審被告との間の賃金計算方法は
変更されたか。
 労基法九三条は、労働契約上の労働条件が就業規則で定める基準に達しないとき
には、労働契約のその労働条件を定める部分を無効とし、無効となつた部分は就業
規則で定める基準によると定めている。もし、第一群の各第一審原告と第一審被告
との昭和四二年六月一日前の労働契約上の労働条件が改訂された就業規則に定める
基準に達しなければ、第一審被告協会の事業場に使用される労働者側の同意の有無
にかかわらず、改訂された就業規則に定める基準によつて昭和四二年六月一日前の
労働契約上の労働条件は引き上げられることとなつたであろう。
 前記1の改訂された就業規則ならびにこれと一体をなす改訂された給与規定およ
びその三四条にいう「所定の方法」の内容を示した掲示の各記載をあわせれば、改
訂された就業規則、給与規定のもとでの第一群の各第一審原告らの賃金計算方法
は、賃金は月極め賃金であるが、賃金締切期ごとに、欠勤の場合には不就労一日に
つき無届のときには本給の二五分の一を、届出欠勤のときにも本給の五〇分の一を
減額され、遅刻の場合には、月極め手当の二五分の一を日額とし、最後の一〇分未
満の端数を切り捨てた控除対象遅刻時分を三〇分単位に月間集計し端数を切り捨
て、よつて得た集計遅刻時間に応じて減額され、また早退の場合には一時間につき
本給の四〇〇分の一を減額されることとなることが認められる。これを前記二の昭
和四二年六月一日前の賃金計算方法と対比すれば、改訂された賃金計算方法は、
「月給制」すなわち賃金の支払時期を示す意味においてではなく、賃金の計算基準
を示す意味で、「通常、本給が一月を単位として定められ、休日、休暇、欠勤、遅
刻または早退の場合でも不就労の労働日について賃金を差し引かれない」制度とい
う意味での月給制を、日給月給制すなわち「本給が一日を単位として定められた日
給のたとえば二五倍の額で月により定められ、遅刻、欠勤等の不就労日の取扱いは
月給者に準ずるものと日給者に準ずるものとがある」制度のうち「不就労日の賃金
計算方法を日給者についてのそれに準ずる日給月給制」に改め、あらたに、遅刻、
早退によるそれぞれ一定の割合の賃金の当然減縮を加えたものであつて、継続的契
約関係において通常の労働者につき遅刻・欠勤・早退が免れ難いことを思えば、改
訂された就業規則、給与規定等所定の賃金算定方法による賃金額は、すくなくとも
第一群の第一審原告らについては昭和四二年六月一日前の賃金算定方法による賃金
額を下廻るものであり、第一群の各第一審原告と第一審被告との間の労働契約所定
の賃金が改訂された就業規則、給与規定の定める賃金の基準に達しないとはいえな
い。したがつて、第一群の各第一審原告と第一審被告との間の労働契約上の労働条
件が改訂された就業規則の定める基準に達しないとして、改訂就業規則の施行とと
もに賃金計算方法が変更されたということはできない。
 就業規則は、使用者が一方的に変更し得るものである。しかし、それがその使用
者の経営する事業場に使用される労働者の労働契約上の既得権を奪う内容のもので
ある場合には、その内容である労働条件の変更にその労働者の所属する労働組合が
同意すると否とを問わず、その労働者が同意しないときには、右就業規則の変更が
行われてもその労働者の既得権は奪われない。これに反し、就業規則が、事業場に
使用される労働者の労働条件を労働者の不利益に変更する内容のものである場合に
はその不利益変更にその労働者が同意しなくてもその所属する労働組合が労働協約
を締結して同意するときには右労働者は就業規則に効力の優先する協約が締結され
たことにより新しい不利益な労働条件を甘受しなければならないと解する余地はあ
ろう。そしてこれを本件について見るのに、労働契約上の賃金計算方法が遅刻、早
退、欠勤(組合休を含む。)により減額しない月給制であることは、その月給の支
払いを受けている労働者が既得の権利を有することを意味するものではなく、その
労働者の労働条件の一部をなすに過ぎず、その労働者の属する労働組合がその組合
員の労働条件の不利益変更に同意したときには、その労働者自身がこれに同意した
ときと同様月極め賃金の支払いを受けている労働者について労働契約上の賃金計算
方法が不利益に変更されると解する余地がある。しかし、第一審被告において前記
就業規則及びこれと一体をなす給与規定の各改訂につき第一群の各第一審原告及び
その所属する労働組合の同意を得ていないことは当事者間に争いがなく、右の事実
に弁論の全趣旨をあわせると、第一群の各第一審原告所属の労働組合が右就業規
則、給与規定の改訂による労働条件の不利益変更に協約を締結することにより同意
した事実はないと認められるから、本件は、以上のように解釈すべき場合には該当
しない。
 <要旨第二>労働者またはその所属する、労働組合の同意がないのに使用者が就業
規則の一方的変更によつて労働者に不利益な労働条件を一方的に課する
ことは、原則として許されないと解すべきである。もつとも、労働条件の統一的か
つ画一的な処理のため、たとえば、賃金締切期日が一か月二回であつたのを一回と
するような賃金計算方法の変更などはそれが労使関係において合理的なものである
かぎり許される余地もあろう。
 <要旨第三>しかし、賃金計算方法の変更であつても、継続的契約関係としての労
働契約関係上、通常の労働者にとつて免かれい欠勤の場合に本給の減少
を伴い、同じく遅刻の場合に原則として月極め手当の減少を伴い、同じく早退の場
合に本給の減少を伴い、長期的に実質賃金の低下を生ずる本件のような賃金計算方
法の変更は、労働条件のうちでも労使の利害が真向から対立する賃金額を左右する
ものであるから、たとえそれが使用者にとつて合理的にみえても、原則に立ちかえ
つて考え、許されないと解すべきである。そして、欠勤の場合、医師が休務を必要
と認め、その旨の診断書が提出されたときにかぎつて、本給減額分と同額の病休扶
助が支払われることがあわせて改訂された賃金支払方法の内容とされている本件に
ついても、その理は異ならない。病休扶助は、本給と異なり、「臨時に支払われた
賃金」(労基法一二条四項)であつて、「平均賃金」(同条一項)に算入されず、
解雇手当(同法二〇条)、休業手当(同法二六条)、有給休暇の期間につき支払う
賃金(同法三九条)計算の基礎とならないからである。いわゆる秋北バス事件につ
いての最高裁昭和四三年一二月二五日大法廷判決民集二二巻一三号三四五九頁、三
四六四頁は、新たに停年制を採用した改正就業規則の効力が争われた事案に関する
ものであるが、新たな停年制の採用が労働者にとつて不利益な変更といえるか否か
の判断が留保されているから、必ずしも本件に適切であるとはいえない。
 さすれば、改訂された就業規則、給与規定およびその三四条にいう「所定の方
法」の内容を示す掲示の施行によつても第一群の各第一審原告と第一審被告との間
の労働契約上の賃金計算方法は変更されず、ほかにこれが変更されたことの主張立
証はないから、遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)があつても賃金を差し引かな
いという第一群の各第一審原告と第一審被告との間の労働契約上の賃金計算方法の
定めは、依然として変更されていないといわなければならない。
 四 第二群の各第一審原告と第一審被告との間の労働契約上の賃金計算方法
 民法五三六条一項は、特定物に関する物権の設定または移転以外の事項を目的と
する双務契約につき当事者のいずれの責にも帰すべからざる事由により履行不能が
生じた場合の危険を債務者に負担させる債務者主義の原則を採るから、別段の合意
がない限り、労働契約上の月極め賃金を請求する権利も労務の給付が不能となつた
部分に相応する部分だけ当然に縮減して発生しないのが原則であると解すべきであ
る。ところが、第二群の各第一審原告がいずれも検数員であることは当事者間に争
いがなく、右各第一審原告が臨時検数員であることの主張立証のない本件におい
て、第二群の各第一審原告と第一審被告との間では労働契約上の賃金は、前認定に
照らし、月極めで賃金の支払時期の意味における月給として支払われる定めであつ
たことが認められる。ところが、第二群の各第一審原告と第一審被告との間の労働
契約上、遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)により賃金「控除」、厳格には縮減
した賃金不発生部分の差し引きをしない賃金計算方法の定めがあつたことを認める
だけの証拠はない。かえつて、改訂された就業規則、給与規定および同規定三四条
にいう「所定の方法」の内容を示した掲示が昭和四二年六月一日から施行され、遅
刻、早退、欠勤(組合休を含む。)の場合には、原則として、賃金を「控除」する
ように改められたことは前叙のとおりであり、第二群の各第一審原告が同日より後
に第一審被告に従業員として採用されたことは当事者間に争がなく、第一審被告が
その主張の当時同被告協会の事業場にその主張の賃金「控除」の所定の方法を掲示
して従業員に周知させたことは前叙のとおりである。そして、成立に争いのない乙
第二二号証の一、二、同号証の六ないし八、同号証の一〇ないし一三、同号証の一
五、同号証の一七、一八、原審証人Iの第二回供述及び右供述によつて成立を認め
る乙第二二号証の四、五、一四、一九および弁論の全趣旨によれば、第一審被告
は、第二群の各第一審原告を従業員として採用する際、改訂就業規則およびこれと
一体をなす給与規定等を示して、これに従うことを第一審被告に対して誓約する旨
の誓約書を提出させていたことが認められ、甲第四七号証の一ないし一七中右認定
に反する部分は原審証人Iの第二回供述に照らして採用することができない。
 第二群の第一審原告らは、旧就業規則を労働者側の同意なしに変更してもその効
力を生じないと主張するが、改訂就業規則の施行された後に採用され、その際右就
業規則を示された従業員に改訂された就業規則が適用されるのは当然であるから、
第二群の第一審原告らの右主張は採用できない。その他、改訂就業規則および給与
規定を無効であると見る根拠はない。また、不就労時間に相当する賃金額の算出方
法の合理性についての第一審被告の主張は、これを是認することができないではな
い。
 さすれば、第二群の各第一審原告と第一審被告との間の労働契約上の賃金は、前
叙したところから推してその労働者に遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)があつ
た場合には、遅刻が始業時以降一〇分以内に止まるときを除き、月極め賃金から前
叙第一審被告主張の方式に従いいわゆる賃金控除が行われる定めであつたと認めら
れるから、いわゆる控除部分は、月極め賃金中不就労時間に対応すると定められた
約定不発生部分であると解するのが相当である。
 五 本件訴訟において各第一審原告が請求した金額といわゆる賃金控除分との関

 第一審原告らが昭和四二年六月から昭和四四年九月までの間原判決添付請求金額
内訳一覧表記載のとおり遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)をしたほかは所定の
勤務をしたこと、第一審原告らに右遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)がなかつ
たならば、原判決添付請求金額合計一覧表記載の金額が第一審原告らに支払わるべ
き金額であることは当事者間に争いがない。
 さすれば、第一審各原告が請求した金額がいわゆる賃金控除分と対応しているこ
ともまた当事者間に争いがないわけである。
 六 昭和四二年六月一日前に第一審被告の従業員として採用された各第一審原告
と第一審被告との間では、改訂就業規則、給与規定、右規定三四条にいう「所定の
方法」の内容を示した掲示が施行された後も労働契約上の賃金計算方法の定めは変
更されていないのであるから、遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)を理由にいわ
ゆる賃金控除すなわち不就労時間に対応する月極め賃金部分の当然不発生扱いをさ
れる筋合はなく、第一群の第一審原告ら中原告番号35Eが昭和四四年六月二二日
に死亡し、同人の妻A、長女B、長男Cがその相続人となつたことは関係当事者間
に争がなく、右三名は各相続分に応じ故Eの「控除」分に相当する未払賃金債権六
六円を二二円ずつ相続し、当審において右Eの訴訟を承継したものであるから、第
一審被告に対し第一群の右Eを除く各第一審原告がその「控除」分に相当する未払
賃金を請求し、被控訴人A、同B、同Cがその相続した第一審原告Eの未払賃金各
二二円を請求する本件各請求はいずれも正当である。
 しかし、昭和四二年六月一日以後に第一審被告の従業員として採用された第二群
の各第一審原告と第一審被告との間では、改訂された就業規則、給与規定および右
規定三四条にいう「所定の方法」の内容を示した掲示が施行された後に採用され、
採用の際改訂就業規則、給与規定等を示された従業員が、その遅刻、早退、欠勤
(組合休を含む。)により右就業規則、給与規定等に所定のいわゆる賃金控除すな
わち月極め賃金中不就労時間に対応すると定められた不発生部分の支払を拒否され
るべきことは当然であるから、右控除分相当額を未払賃金として請求する第二群の
各第一審原告の本件請求はいずれも失当である。
 よつて、原審口頭弁論終結前、訴訟代理人がある間に死亡した第一審原告E名義
で、訴訟承継前の相続人A、同B、C三名が後に本件訴訟において請求した未払賃
金合計額六六円の請求を、第一群のEを除く各第一審原告の請求とともに認容した
原判決は相当であつて、これに対する第一審被告の控訴は理由がなく、第二群の各
第一審原告の請求を棄却した原判決は相当であつて、これに対する第二群の各第一
審原告の控訴は理由がないから、第一審被告及び第二群の各第一審原告の本件各控
訴を民訴法三八四条一項により棄却し(但し、当審における訴訟承継によつて、第
一審判決が第一審原告に対して支払いを命じた未払賃金合計額は第一審被告から新
当事者である被控訴人Aら前記三名に対し均分してなされるべきものとなつたか
ら、原判決主文第一項中関係部分を主文第一項括弧内但書のとおり変更することと
する。)、控訴費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項を適用して、主文のと
おり判決する。
 (裁判長裁判官 吉岡進 裁判官 園部秀信 裁判官 兼子徹夫)

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