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平成19年12月26日判決言渡
平成19年(行ケ)第10109号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成19年11月14日
判決
原告角商株式会社
訴訟代理人弁理士石井良和
被告特許庁長官
肥塚雅博
指定代理人中島成
同阿部寛
同山本章裕
同大場義則
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2004−3022号事件について平成19年1月30日に
した審決を取り消す。
第2争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,平成10年4月30日,発明の名称を「アレスター」とする発明
につき特許出願(特願平10−121147号。以下「本願」という。)を
し,平成15年10月20日付け手続補正書をもって本願に係る明細書につ
いて特許請求の範囲等の補正をした。
特許庁は,平成16年1月7日,本願につき拒絶査定をし,これに対し原
告は,同年2月16日,不服審判請求(不服2004−3022号事件)を
し,その係属中,平成18年11月10日付け手続補正書をもって本願に係
る明細書について特許請求の範囲の補正をした(以下,この補正後の明細書
を,願書に添付された図面と併せて「本願明細書」という。)。
そして,特許庁は,平成19年1月30日,「本件審判の請求は,成り立
たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は同年2月2
6日原告に送達された。
2特許請求の範囲の記載
本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以
下,請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。
「【請求項1】平行電極板をガラス管内に熱融着で封止したアレスターに
おいて,絶縁ボールがスペーサとして平行電極板の両方に直接接している
アレスター。」
3審決の内容
審決の内容は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,
刊行物1(特開昭62−283583号公報。甲1)に記載された発明(以
下「刊行物1発明」という。)及び刊行物2(特開平6−61018号公
報。甲2)に開示された技術思想に基づいて当業者が容易に発明をすること
ができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けること
ができないというものである。
審決は,本願発明と刊行物1発明との間には,次のとおりの一致点及び相
違点があると認定した。
(一致点)
「平行電極板をガラス管内に封止したアレスターにおいて,絶縁スペーサ
が平行電極板の両方に直接接しているアレスター。」である点。
(相違点1)
平行電極のガラス管内への封止手段について,本願発明では熱融着を用い
るのに対して,刊行物1発明ではこれが特定されていない点。
(相違点2)
絶縁スペーサとして,本願発明では絶縁ボールを用いているのに対して,
刊行物1発明では断面長方形状のスペーサ31を用いている点。
第3当事者の主張
1取消事由についての原告の主張
審決がした本願発明と刊行物1発明との一致点,相違点1及び相違点2の
認定に誤りがないことは認める。
しかし,審決には,本願発明の顕著な作用効果を認めずに,本願発明は当
業者が容易に発明をすることができたと誤って判断し,本願発明の進歩性を
否定した違法がある。
(1)本願発明の顕著な作用効果の看過
ア本願発明(請求項1)は,「絶縁ボールがスペーサとして平行電極板
の両方に直接接している」構成を採用することにより,「絶縁ボール」
は幾何学的に電極に点接触し,電極の放電面を覆う面積は極めて小さな
ものとなるため,放電が阻害されず,安定的な放電が行われ,かつ,電
極板の間隔は設定した距離に保持することができる。すなわち,平行電
極間の電位差が大きくなるにつれて,電荷が電極に接している「絶縁ボ
ール」に蓄積され,更に電極間の電位差が大きくなって電極間の絶縁が
破壊されるとボールの表面に沿って電流が流れるので,ボールがない場
合の空間中を放電するのに比較して安定的な放電が行われる。
他方,刊行物2のアレスターは,導電性皮膜を有する絶縁円筒を用
い,導電性皮膜を切って形成したギャップの間で放電させる点で本願発
明とは異なり,電極間の距離が大きくならざるを得ず,安定的な放電が
行われない。しかも,刊行物2のアレスターは,球体が一方の電極にし
か接触しておらず,また,ガラス管内に残存する空気と不活性ガスの置
換時に,球体が円筒体の一端をボール弁のごとく作用して閉塞するため
にセラミック円筒体内部の空気の完全な置換ができず,残留空気が放電
現象に大きな影響を与えるものである。
さらに,本願発明は,単純な構成とすることによって,安定的な放電
と,低コストでの製造を可能にした点において,刊行物2のアレスター
よりも優れている。
刊行物2記載の発明は,平成8年5月10日に特許権の設定登録(特
許第2050233号)がされたが,平成16年8月9日に同特許権が
消滅している(甲8)。これは,刊行物2記載の発明が,間隔を保持す
るためには,スペーサが使えるという,机上の思いつきによって考え出
されたものであり,現実には効果がなかったことを示している。
イ原告は,本件審判手続で提出した,平成18年11月10日付け意見
書(甲6の1)及び手続補足書(甲6の2)において,本願発明が従来
のアレスターと比べて優れた電気的特性を有する点について,以下のと
おり記載した。
すなわち,本願発明の製品(「NVP−301−3.1」)と刊行物
2記載の発明の特許出願人(三菱マテリアル株式会社。以下「三菱マテ
リアル」という。)のマイクロギャップ方式サージ吸収素子製品(「D
SS−301L」。以下「対照製品」という。)について,立ち上がり
時間1.2μsec,50%までの放電時間50μsec,到達電圧1
0KVのパルス波を印加し,応答開始電圧,規格電圧(300V)に達
するまでの時間を測定した結果(オシロスコープ映像図)によれば,「
応答開始電圧」は,本願発明の製品が700.6Vであるのに対し,対
照製品が870.8Vであり,「規格電圧(300V)への到達時間」
は,本願発明の製品が0.6μsecであるのに対し,対照製品が4.
8μsecであり,格段に本願発明の製品が良好であった。
また,三菱マテリアル作成のパンフレット(甲6の1・2の参考資料
1)によれば,対照製品は,「サージ耐量は500A(8×20μ
s)」であるが,本願発明の製品は,「試験電流が1.5KA及び3K
A(8×20μs)でも異常なし」と判定されており(甲6の1・2の
参考資料4(東京都立産業技術研究所作成の成績書)),格段に改善さ
れている。
ウまとめ
以上のとおり,本願発明には顕著な作用効果があるのに,これを認め
ずに,本願発明は当業者が容易に発明をすることができたとした審決の
判断は誤りである。
(2)意見書及び補足書の記載内容を無視した違法
審決は,本願明細書に明示的に記載のないことを理由に,原告の提出し
た平成18年11月10日付け意見書(甲6の1)及び同日付け手続補足
書(甲6の2)記載の本願発明の顕著な作用効果を無視している。
すなわち,審決は,「出願当初の明細書の段落【0010】に記載され
る本願発明の作用効果についても,刊行物1発明及び刊行物2に開示され
る上記技術思想から当業者が予測できる範囲のものにすぎない。」(審決
書4頁10行∼12行),「なお,請求人は,平成18年11月10日に
提出した意見書及び手続補足書において,本願発明の電気的特性には予想
外の効果がある旨主張しているが,当該予想外の効果については出願当初
の明細書又は図面において何ら開示されておらず,しかも,同明細書の段
落【0010】に『【発明の効果】・・・また,絶縁物を介在させて
も,放電特性には影響はあらわれず,パッシェンの曲線に従って放電電圧
を定める従来の手法が採用できる。』と記載されるように,本願出願時
に,本願発明が上記電気的特性に係る予想外の効果を有するとの認識は全
くなかったものと推認されるので,上記主張は進歩性の判断を覆すに足る
ものとは認められない。」(同4頁13行∼21行)と判断した。
しかし,自然現象の原因と結果が不可分である以上,特許請求の範囲記
載の発明の構成と一体不可分な作用効果は,明細書に明示的に記載されて
いなくとも考慮すべきであるのに,これを無視した審決の判断は違法であ
る。
2被告の反論
本願発明は,刊行物1発明及び刊行物2に開示される技術思想に基づいて
当業者が容易に発明をすることができたとの審決の判断に誤りはない。
原告が本願発明の顕著な作用効果であると主張する本願発明の特性は,高
電圧が作用してから放電開始までの時間及び規格電圧に降下するまでの時間
が従来品に比して短いというものであるが,このような特性は,本願明細書
の実施例にも記載されていない,特定の寸法,形状等を有する特定構造のア
レスター(「NVP−301−3.1」)において得られるにすぎないもの
である。このように原告主張の上記特性は,本願明細書の記載に基づかない
ものであり,当業者が明細書又は図面の記載から推論できるものでもない。
また,原告主張の上記特性は,原告が主張するように本願発明の特許請求の
範囲の記載によって特定される幾何学的構造と一体不可分のものであるとす
る根拠にも乏しい。
したがって,本願発明は上記特性を有するものとはいえないから,審決に
は本願発明の顕著な作用効果を看過したとの原告の主張は失当である。
第4当裁判所の判断
1相違点2に係る本願発明の構成の容易想到性について
当裁判所は,以下のとおり,相違点2に係る本願発明の構成は,刊行物1
発明及び刊行物2記載の技術事項に基づいて容易に想到することができたも
のと判断する。
(1)刊行物1の記載及び内容
ア刊行物1(甲1)には,①「<従来の技術>従来から,各種の電子回
路に過渡的に印加されるサージ電圧から電子回路を保護するのに,サー
ジ吸収素子が使用されている。そして,このようなサージ吸収素子とし
て,第4図に示すような断面構造のものがある。」,「このサージ吸収
素子は,一対のスラグ30.30と,両スラグ30.30間に介装され
て放電ギャップを確保するスペーサ31とが,ガラスなどからなる封止
管32の内部に配設された構造となっている。なお,スペーサ31の外
周部と封止管32の内面とにより形成される空隙部33には,アルゴン
ガスなどの不活性ガスが封入されている。・・・このようなサージ吸収
素子においては,リード線34.34間に規定以上の電圧が印加される
と,両スラグ30.30の内面同士の間で放電を生じ,この放電により
サージ電圧を吸収する。」(1頁左欄18行∼右欄16行)との記載が
あり,②第4図に,「断面長方形状のスペーサ31」がスラグ30.3
0(平行電極板に相当)に直接接し,「断面長方形状のスペーサ31」
の外周部と封止管32の内面とにより空隙部33が形成されていること
が図示されていることが認められる。
イ上記アの認定事実に照らすならば,刊行物1の第4図のアレスター(
サージ吸収素子)は,平行電極板放電型のアレスターであって,平行電
極板の両方に直接接している「断面長方形状のスペーサ31」により,
電極間のギャップ(「空隙部33」)を所定の間隔に保持していること
を理解できる。
(2)刊行物2の記載及び内容
ア刊行物2(甲2)には,次のような記載がある。
(ア)「本発明の目的は,複雑で熟練を要するレーザ加工によらずにギャ
ップを形成し,簡便に効率よく製造し得るサージ吸収素子を提供する
ことにある。また本発明の別の目的は,短小に製造し得るサージ吸収
素子を提供することにある。」(段落【0005】)
(イ)「【課題を解決するための手段】・・・本発明の構成を図1及び図
2に基づいて説明する。本発明のサージ吸収素子19は,導電性皮膜
12aで被包されたセラミック円筒体12と,この円筒体12の片側
に配置され円筒体12の内径より大きい直径を有する絶縁性セラミッ
ク球体11と,セラミック円筒体12の外径と実質的に同一の外径を
有し配置されたセラミック円筒体12とセラミック球体11とを挾持
する一対の電極16,17と,この電極に挾持されたセラミック円筒
体12とセラミック球体11とを包みかつ不活性ガスを満たして電極
の外周に封着された絶縁性管体18とを備えたものである。」(段落
【0006】)
(ウ)「【作用】電極16,17にサージ電圧が印加されると,絶縁性セ
ラミック球体11によって形成されたギャップを介して導電性皮膜1
2aと電極17との間でアーク放電する。絶縁性セラミック球体11
がセラミック円筒体12の中空端部に着座するため,セラミック球体
11の挾持位置は一定し安定な放電空間が確保される。セラミック球
体11の外表部と絶縁性管体18の内壁とのクリアランスは大きいの
で,比較的大きなサージに耐えることができる。」(段落【0010
】)
(エ)「<実施例>図1及び図2に示すように,直径0.5mmのジルコ
ニアからなる絶縁性セラミック球体11をチタンからなる導電性皮膜
12aで被包されたセラミック円筒体12の中空端部に着座させる。
これによりセラミック球体11の球面がセラミック円筒体12の端部
に当接する。・・・電極16がセラミック円筒体12の外面に,・・
・電極17が絶縁性セラミック球体11の球面にそれぞれ当接され
る。・・・ガラス管18の中でセラミック円筒体12と絶縁性セラミ
ック球体11が電極16,17で挾持され,この状態でアルゴンガス
で満たして絶縁性管体18が電極16,17の外周に封着される。ガ
ラス管18は外径が2mm,内径が1.1mm,及び長さが4mmで
ある。」(段落【0011】)
(オ)「<静電気寿命試験>・・・実施例及び比較例のサージ吸収素子に
1000回ずつ繰返し上記静電気を印加して,各サージ吸収素子の試
験前後の放電開始電圧,絶縁抵抗,静電容量をそれぞれ測定した。そ
の結果,・・・試験後に測定したところ,実施例と比較例のサージ吸
収素子は放電開始電圧がそれぞれ平均411V,平均400Vであっ
て,絶縁抵抗値が10Ω以上で静電容量は0.5pFであり,各値11
に変化がなかった。」(段落【0013】),「<疑似サージ応答試
験>実施例と比較例のサージ吸収素子に(1.2×50)μsec−
2kVの電圧サージを100回ずつ繰返し印加し,その動作電圧を測
定した。・・・比較例のサージ吸収素子が平均610Vで放電を開始
し,その標準偏差が50Vであったのに対して,実施例のサージ吸収
素子は平均650Vで放電を開始し,その標準偏差が71Vであっ
た。以上のことから,実施例のサージ吸収素子は比較例のサージ吸収
素子と比較して耐久性及びサージ吸収特性において劣らないことが判
った。」(段落【0014】)
(カ)「【発明の効果】以上述べたように,本発明のサージ吸収素子は,
従来のレーザ加工によらずにマイクロギャップを形成するため,簡便
に効率よく製造することができ,しかも従来のサージ吸収素子と同等
の電気的特性を有する。・・・」(段落【0015】)
イ上記アの認定事実と図1(甲2)に照らすならば,刊行物2の実施
例(図1)記載のアレスター(サージ吸収素子)においては,導電性皮
膜12aで被包されたセラミック円筒体12と絶縁性セラミック球体1
1とが電極16,電極17に挾持され,絶縁性セラミック球体11の球
面が,電極17と直接接し,かつ,電極16に接するセラミック円筒体
12の中空端部に接し,絶縁性セラミック球体11によって所定のギャ
ップが形成され,このギャップを介して放電することにより放電空間が
確保されている技術が開示されていると解される。そうすると,刊行物
2のアレスターの絶縁性セラミック球体11は,絶縁スペーサとして電
極間のギャップを所定の間隔に保持していることが認められる。
(3)本願発明の構成の容易想到性の有無
前記(1),(2)の認定事実に照らすならば,刊行物1及び2に接した当業
者にとっては,刊行物1のアレスターの「断面長方形状のスペーサ31」
と刊行物2のアレスターの絶縁性セラミック球体11は,いずれも絶縁ス
ペーサとして電極間のギャップを所定の間隔に保持する機能を持つことは
自明であって,刊行物1のアレスターにおいて,平行電極板の両方に直接
接している「断面長方形状のスペーサ」の形状を,刊行物2で開示された
球体形状のものに代えることに,格別困難な点はなく,適宜に採用し得る
設計的事項であると認められる。
したがって,当業者が,刊行物1発明において相違点2に係る本願発明
の構成(「絶縁スペーサとして,絶縁ボールを用いる」構成)とすること
を容易に想到し得たとした審決の判断に誤りはない。
2本願発明の顕著な作用効果について
これに対し,原告は,本願発明には顕著な作用効果があるにもかかわら
ず,審決は,その点を看過して,本願発明は当業者が容易に発明をすること
ができたと判断した点に違法があると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
(1)本願明細書記載の作用効果
ア本願明細書(甲3ないし5)には,以下の記載がある。
(ア)「【請求項1】平行電極板をガラス管内に熱融着で封止したアレ
スターにおいて,絶縁ボールがスペーサとして平行電極板の両方に直
接接しているアレスター。」
(イ)「【発明の属する技術分野】本発明は,過電圧を放電によって吸収
する放電型のアレスターに関する。更に詳しくは,平行電極板放電を
利用したアレスターに関する。」(段落【0001】)
(ウ)「【発明が解決しようとする課題】平行電極板を利用したアレスタ
ーは,ガラス管内に電極板を所定のギャップで対向保持し,ガラス管
を融着しているが,電極自体が微小であるので所定のギャップに保持
するのが困難であった。」(段落【0003】),「本発明は,平行
電極板放電型のアレスターの電極間のギャップを所定間隔に保持する
ことを目的とするものである。」(段落【0004】)
(エ)「【課題を解決するための手段】平行電極板の間に所要ギャップの
間隙を得るに必要なセラミック,アルミナ,またはシリコンなどの絶
縁物を介在させることにより,所定の電極間ギャップを簡単に得られ
るようにしたものである。」(段落【0005】)
(オ)「【発明の実施の形態】図に基づいて本発明のアレスターを説明す
る。図1に示すように,直径300μmのアルミナボール1をガラス
管2内に設置し,電極板3をアルミナボール1に接触させ,アルミナ
ボール1をスペーサとし,電極板3を所定の間隔にする。電極板には
リード4を設ける。」(段落【0006】),「・・・目標の放電電
圧で放電を開始させるには,まず,ギャップを定め,パッシェンの曲
線を用いて目標の放電電圧から,封入気体の封入圧力を求める。そし
て,目標の放電電圧で放電するかを試験し,適正な不活性ガスの封入
圧力を選定する。」(段落【0008】),「このようにして製造し
たアレスターの放電特性を調べたところ,安定的に放電するのが目視
によって確認された。そして,その放電電圧は平均値で230Vであ
った。」(段落【0009】)
(カ)「【発明の効果】以上のように平行電極間に絶縁物を介在させたの
で所定のギャップが正確にかつ簡単に得ることができる。絶縁物ボー
ルは入手が容易であり,アレスターの製造方法も従来の製法を変える
必要がない。また,絶縁物を介在させても,放電特性には影響はあら
われず,パッシェンの曲線に従って放電電圧を定める従来の手法が採
用できる。」(段落【0010】)
イ上記アの認定事実及び図1(甲3)によれば,本願明細書には,①平
行電極板放電型のアレスターにおいて,電極自体が微小であるため電極
間のギャップを所定の間隔に保持することが困難であるという課題があ
ったこと,②その課題を解決する手段として,本願発明は,「絶縁ボー
ルがスペーサとして平行電極板の両方に直接接している」(請求項1)
構成を採用し,これにより,従来のアレスターの製法を変えることな
く,所定のギャップを正確にかつ簡単に得ることができる効果を奏する
こと,③本願発明の実施例として,直径300μmのアルミナボールを
用いてアレスターを製造し,その放電特性を調べたところ,「安定的に
放電するのが目視によって確認」され,その「放電電圧は平均値で23
0V」であったことが記載されていることが認められる。
しかし,本願明細書には,上記③以外の実施例の記載はなく,また,
放電特性については,「絶縁物を介在させても,放電特性には影響はあ
らわれず」との記載(前記ア(カ))があるにとどまり,絶縁物の形状を
球形(絶縁ボール)とすることにより,放電特性が優れたものとなるこ
との記載や示唆はない。
ウ上記イの認定事実によれば,本願明細書で開示された本願発明の作用
効果は,平行電極板放電型のアレスターにおいて,「絶縁ボールがスペ
ーサとして平行電極板の両方に直接接している」(請求項1)構成を採
用することにより,所定の電極間のギャップを正確にかつ簡単に得るこ
とができることにあることが認められる。
そして,前記1(1)及び(2)認定のとおり,刊行物1には,電極板放電
型のアレスター(第4図)が,平行電極板の両方に直接接している「断
面長方形状のスペーサ31」により,電極間のギャップ(「空隙部3
3」)を所定の間隔に保持していることが開示され,また,刊行物2に
は,刊行物2のアレスターの絶縁性セラミック球体11は,絶縁スペー
サとして電極間のギャップを所定の間隔に保持していることが開示され
ていることに照らすならば,本願明細書で開示された本願発明の作用効
果は,刊行物1及び2で開示された上記各アレスターの作用効果と格別
異なるものではなく,また,刊行物1のアレスターにおいて,平行電極
板の両方に直接接している「断面長方形状のスペーサ」の形状を,刊行
物2で開示された球体形状のものに代える構成とする場合に,予想され
る範囲のものであることが認められる。
したがって,本願明細書で開示された本願発明の作用効果は顕著なも
のとは認められない。
(2)原告主張に係る意見書等記載の作用効果について
ア原告は,平成18年11月10日付け意見書(甲6の1)及び手続補
足書(甲6の2)に記載のとおり,本願発明の製品(「NVP−301
−3.1」)は,刊行物2記載の発明の特許出願人(三菱マテリアル)
の対照製品(「DSS−301L」)と比べて,「応答開始電圧」が低
く(高電圧が作用してから放電開始までの時間が短い),「規格電圧(
300V)への到達時間」が短いなど,電気的特性が格段に優れている
ことが実験で確認されたものであり,これは,本願発明は,「絶縁ボー
ルがスペーサとして平行電極板の両方に直接接している」構成を採用す
ることにより,「絶縁ボール」は幾何学的に電極に点接触し,電極の放
電面を覆う面積は極めて小さなものとなるため,放電が阻害されず,安
定的な放電が行われ,かつ,電極板の間隔は設定した距離に保持するこ
とができることによるもので,本願発明の特許請求の範囲の構成と一体
不可分な顕著な作用効果である旨主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
すなわち,①本願発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,「平
行電極板をガラス管内に熱融着で封止したアレスターにおいて,絶縁ボ
ールがスペーサとして平行電極板の両方に直接接しているアレスタ
ー。」というものであり,アレスターを構成する「平行電極板」,「絶
縁ボール」,「ガラス管」の寸法・構造,「絶縁ボール」が「平行電極
板」に接する位置等を特に規定していないこと,②本願明細書には,実
施例として「直径300μmのアルミナボール1」を用いたアレスター
の記載があるが(前記(1)ア(オ)),「平行電極板」,「ガラス管」の寸
法・構造等についての記載はなく,本願明細書を参酌しても,特許請求
の範囲記載の「平行電極板」,「絶縁ボール」,「ガラス管」が特定の
寸法・構造等を前提とするものであるとは窺われないこと,③「応答開
始電圧」,「規格電圧(300V)への到達時間」は,アレスターを構
成する「平行電極板」,「絶縁ボール」,「ガラス管」の寸法・構
造,「絶縁ボール」が「平行電極板」に接する位置等や,これらによっ
て形成される電極間のギャップの大きさ等の条件如何によって変動し得
ることに照らすならば,特定の寸法・構造の「平行電極板」,「ガラス
管」,「絶縁ボール」等で構成された,本願発明の製品(「NVP−3
01−3.1」)が,対照製品と比べて「応答開始電圧」,「規格電
圧(300V)への到達時間」等の電気的特性が優れているとの実験結
果があるからといって,それが,本願発明の特許請求の範囲の構成を採
用することにより必然的に生じるものとまではいえない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
イまた,原告は,審決が,本願明細書に明示的に記載のないことを理由
として,平成18年11月10日付け意見書(甲6の1)及び同日付け
手続補足書(甲6の2)記載の本願発明の顕著な作用効果を無視した点
に誤りがあると主張する。
しかし,前記アのとおり,上記意見書及び手続補足書記載の本願発明
の製品の実験結果が示す電気的特性は,本願発明の特許請求の範囲の構
成を採用することにより必然的に生じるものとはいえず,したがって,
上記電気的特性をもって本願発明の顕著な作用効果であるということは
できないから,審決の判断手法の誤りをいう原告の主張は,その前提を
欠き,採用することができない。
(3)小括
以上によれば,本願発明の作用効果は,顕著なものとは認められず,相
違点2に係る本願発明の構成を容易に想到し得たとの前記1の判断を揺る
がすものとはいえないから,本願発明に顕著な作用効果があることを前提
に,審決の進歩性の判断の誤りをいう原告主張の取消事由は理由がない。
3結論
以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がない。原告は他に縷々主張す
るが,いずれも審決を取り消すべき瑕疵に当たらない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主
文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官大鷹一郎
裁判官嶋末和秀

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