弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件非常上告を棄却する。
         理    由
 本件非常上告趣意について。
 被告人らは、本件略式命令に事実として記載された第一ないし第三の所為につき、
臘虎膃肭獣猟獲取締法一条、五条、同法施行規則(昭和一七年農林省令四六号)四
条、らつこ又はおつとせいの獣皮及びその製品の製造等の制限に関する省令(昭和
二五年農林省令一一一号)六条、刑法四五条前段四八条二項(被告人A、同Bのみ)
一八条、臘虎膃肭獣猟獲取締法六条前段を適用されて、略式命令を受け、該命令は
既に確定したことは明白である。
 ところで、検察官の本件非常上告申立書に申立の理由として記載されたところに
よれば、所論は、右略式命令は、本件所為につき前記農林省令一一一号二条、四条
をも適用したものであるとし、これを前提として同略式命令の違法を主張し、また
本件は被告人らが、おつとせいの獣皮を買受けて所持した事実を起訴し、原審裁判
所はこの事実を有罪として刑罰を科しているのであるが、本件起訴当時においては、
前記農林省令一一一号六条の規定のうち、右おつとせいの獣皮の所持そのものを処
罰する部分はすでに失効し、従つて罪とならない事実を起訴しているのであるから、
無罪の言渡をすべきであつた旨主張するのであるが、本件略式命令は、所論農林省
令一一一号二条、四条はこれを適用していないのであつて、このことは、右略式命
令の挙示した適条においても前記二条、四条は掲記せられず、却つて、臘虎膃肭獣
猟獲取締法施行規則四条(不法猟獲)を適用しているところからみれば、右略式命
令は、所論のように、製造したおつとせいの獣皮を所持したという犯罪事実を認定
して前記農林省令一一一号六条後段を適用処罰したものではなく、不法に猟獲した
おつとせいを所持したという犯罪事実を認定して右農林省令六条前段等に問擬した
ものと解するを相当とする。従つて所論は、この点において前提を欠く主張である
のみならず、被告人らの本件所為は、記録によれば、航海の途上海上でおつとせい
を密猟獲し、船内で直ちに皮を剥ぎ塩漬にして船内に隠匿している船舶の船員らか
ら前記のごとき塩漬にしたおつとせいの原皮を買受け所持していたものであつたこ
とが窺えるのであつて、このように、海上で密猟獲後直ちに皮を剥ぎ、塩漬にした
に止まる原皮は、未だ右農林省令六条後段にいう製造した獣皮に該当すると解すべ
きではなく、密猟獲したおつとせい自体の一部分であると解するを相当とする。さ
れば本件所為は、右農林省令六条前段に該当する犯行というべきであり、これに同
規定を適用して所罰した本件略式命令には何ら所論の違法は誤められない。(なお、
右農林省令六条前段の規定は、所論昭和二七年法律三〇六号地方自治法の一部を改
正する法律とは関係なく有効であつたことは、所論もこれを認めているところであ
る。そして右農林省令は昭和三一年一二月二〇日をもつて、昭和三一年農林省令六
三―号臘虎膃肭獣猟獲取締法施行規則の一部を改正する省令―の附則二項により廃
止されたが、同附則三項によつて「この省令施行前にした行為に対する罰則の適用
については、この省令施行後も、なお従前の例による」こととせられ、その限度に
おいて、前記農林省令六条前段の規定は、なおその効力を有するものである。)
 よつて刑訴四五七条により、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
 検察官 安平政吉公判出席
  昭和三三年一月一六日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    下 飯 坂   潤   夫

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