弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人A同B両名弁護人水上孝正の上告趣意および被告人A本人の上告趣意は、
末尾に添えた書面記載のとおりである。
 弁護人水上孝正の上告趣意第一、二点について。
 論旨第一点の主張は弁護人において撤回したので、これに対しては判断を与えな
い。論旨第二点の所論は、原判示第二の(一)(二)の詐欺恐喝の事実について原
審が証拠とした被害者らの始末書の証拠力を争い、原審が被害者らを証人として訊
問しなかつたことは審理不尽であるというのである。しかし、証拠の取捨判断なら
びに証拠調の限度をどう決めるかは、事実審たる原審に委ねられている自由裁量の
問題であつて、被告人ならびに弁護人は原審公判において所論始末書の作成者の訊
問を請求しなかつたのであるから、原審がその作成者を訊問しないで右始末書を証
拠として採用したことには何らの違法はなく、また原審には所論のような審理不尽
の違法もない。なお、論旨は原判示恐喝の事実につき被害者Cの始末書の証拠力を
非難しているが、原審は右始末書のみを証拠としたものではなく第一審公判調書に
おける被告人の判示同趣旨の供述記載をも証拠としているのであつて、これらの証
拠によれば原判示の恐喝の事実を肯認し得られるのである。さらにまた、原判示に
よれば、所論のペニシリンはDの保管にかかるものを同人の妻Eが直接所持してい
た趣旨がわかるのであるから、原判決には所論のような被害者不明の点もない。そ
れゆえ、論旨は理由がない。
 同第三点について。
 公判調書や判決書の冒頭に被告事件名を記載したり、裁判長が公判審理を開始す
るに当つて被告事件名を告知することは、審判される事件を簡明に表示するために
行われている実例であるが、別段に訴訟法上の要請に基くものではなく、またこれ
によつて審判の対象となる被告事件の内容範囲が決定するものでもない。審判の対
象は、判決書においてはその理由中に明記され、公判廷においては起訴状に記載さ
れた公訴事実と検察官のする被告事件の陳述とによつて決定されるのである。それ
ゆえ、被告事件名と審判の対象となつた事件とは必ずしも常に符合しなければなら
ないものではなく、従つてこの点に過誤があつたとしても審判手続に違法があつた
ものと即断することはできない。本件記録を調べてみると、原判決の基本となつた
審理の行われた第六回公判期日には検察官は第一審判決摘示の犯罪事実と同旨の公
訴事実を陳述し、原審は右の事実につき審判したことが明らかであるから、原判決
には所論のような違法はない。
 同第四点について。
 所論の兇器のうち日本刀及び短刀が被告人に属し拳銃及び実包が共犯者たるFに
属することの証拠は、記録中に存在するので(被告人Bの警察並びに原審公判廷に
おける供述及びGの警察における供述参照)、原審はこれらの証拠から本件の兇器
が犯人以外の者に属しないものと認めて被告人からこれを没収したものと思われる。
弁護人はこれらの兇器につき証拠調をしないでこれを証拠としかつ没収した違法が
あると主張しているが、原審は犯罪事実認定の証拠としてこれらの兇器を採用して
いないし、また原審第六回公判調書記載の証拠調の部には「各証拠品を示し、その
都度意見弁解の有無を問う」とあるので、本件の兇器については証拠調の行われた
ことは明らかであるばかりでなく、没収を言渡すには必ずしもその目的物につき証
拠調を行うことを要するものではないから論旨は理由がない。
 同第五点について。
 記録によると、論旨援用のような診断書があるし、原審第一回、第三回および第
四回公判調書には被告人が病気のため出頭しなかつた旨の記載があるから、当時被
告人が病状にあつたことはこれを推認することができる。しかし、被告人は原審第
六回公判期日には弁護人列席の上審判を受けたのであつて、同期日には被告人なら
びに弁護人から公判審理に堪えない旨の申出もなく審理が行われているところがら
見ると、当時被告人が病状にあつたというだけのことで当日の公判廷における自白
を目して強要された不利益な供述であるとか、強制、拷問、脅迫による自白である
とか即断することはできないし、またかかる事実が認められる証拠は記録上少しも
存しない。それゆえ、憲法第三八条違反の問題を生ずる余地がないので論旨は理由
がない。
 被告人A本人の上告趣意について。
 所論は、被告人の心情その他を細々と述べて恐喝および詐欺について事実の誤認
を訴え寛大な処置を求めるというのであるが、このような主張は上告の適法な理由
ではないから採用することができない。
 よつて、旧刑訴法第四四六条に従い主文のとおり判決する。
 この判決は当小法廷裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 長部謹吾関与
  昭和二五年七月一一日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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