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平成28年(う)第5号窃盗被告事件
平成28年7月14日仙台高等裁判所第1刑事部判決
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役1年に処する。
この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。
理由
1本件控訴の趣意は,弁護人中野竜河作成の控訴趣意書に記載さ
れたとおりであるから,これを引用する。論旨は,事実誤認の主
張である。
2職権判断
論旨に対する判断に先立ち,まず職権をもって判断する。
原判決は,罪となるべき事実として,「被告人は,預かり保管
中のA名義のB農業協同組合C支店発行のキャッシュカードを使
用して現金を窃取しようと考え」との記載に続き,「第1」ない
し「第5」として,平成25年6月16日から同年7月10日ま
での間,5回にわたり,宮城県白石市内又は角田市内の現金自動
預払機に前記キャッシュカードを挿入して作動させ,金融機関が
管理する現金合計18万5000円を引き出してそれぞれ窃取し
たと認定し,窃盗罪の法条を適用している。
一般的に,キャッシュカードは金融機関の利用規約等によって
他者への貸与等が禁じられているが,家族等が同意を得て口座名
義人に代わり現金自動預払機からキャッシュカードを用いて現金
を引き出すことは社会的にしばしばみられるところであり,金融
機関としても,口座名義人以外の者による現金引き出しが口座名
義人の真摯な依頼等に基づくものであればやむを得ないものとし
て認容しているとみるべきであるから,そのような引き出しが金
融機関の意思に反するとまではいえない。
そして,現金自動預払機に真正なキャッシュカードを挿入し暗
証番号を入力して現金を引き出す行為は,外形的には口座名義人
の真摯な依頼を受けた者による現金の引出行為と変わらない。し
たがって,窃盗罪の罪となるべき事実の記載について,このよう
な外形的事実を記載しただけでは現金の占有が金融機関の意思に
反して移転したのか否かは判然とせず,その記載としては不十分
であり,キャッシュカードを不正な手段で入手したことや,口座
名義人の意思に反してされたことなど,当該引き出しが正当な権
限に基づかず,現金の占有移転が金融機関の意思に反するもので
あることを明らかにする必要があるというべきである。
ところが,原判決は,前記のとおり,被告人が預かり保管中の
A名義のキャッシュカードを使用してそれぞれ現金を引き出した
旨を判示したに止まり,その引出行為が正当な権限に基づかない
ものであることを判示していない(なお,起訴状記載の公訴事実
も同旨である。)から,窃盗罪の「罪となるべき事実」の判示と
しては不十分であって,原判決には判決理由の重要部分を遺脱し
た誤りがあり,その誤りは刑訴法378条4号前段所定の理由不
備に該当するといわざるを得ず,破棄を免れない。
3破棄自判
以上の次第で,原判決には理由不備の違法があるから,その全
部について破棄を免れない。そこで,控訴趣意に対する判断を省
略し,刑訴法397条1項,378条4号前段により原判決を破
棄し,同法400条ただし書により,当審段階で追加された予備
的訴因に基づき,当裁判所において被告事件について更に次のと
おり判決することとする。
(当裁判所が認定した罪となるべき事実)
原判決の「罪となるべき事実」中,「被告人は,預かり保管中
のA名義のB農業協同組合C支店発行のキャッシュカードを使用
して現金を窃取しようと考え」とあるのを,「被告人は,預かり
保管中に返還を求められたA名義のB農業協同組合C支店発行の
キャッシュカードを不正に使用して現金を窃取しようと考え」と
改めるほかは,原判決記載のとおりである。
(証拠の標目)
原判決と同一である。
(事実認定の補足説明)
⑴原審で,被告人は,本件各引き出しの外形的事実は争わな
いが盗もうという意識はなかったと述べ,当審でも,所論は,
原審でのAの証言は信用できず,被告人の供述は信用できる
から,本件各引き出しにはAの承諾があった,仮に承諾がな
かったとしても被告人は承諾があると誤信していたので窃盗
の故意がない,などと主張するので,以下補足して説明する。
⑵関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。
ア被告人は,平成24年9月頃,Aと知り合って交際を開
始し,平成25年2月頃からはA方で生活するようになり,
同年5月7日,当時の夫との離婚届を提出するとともに,
A方への転居届を提出した。その頃,Aは被告人に本件カ
ード及びD信用金庫のキャッシュカードを預け,それぞれ
暗証番号を教えた上で,預金の引き出しの際には少なくと
も事後報告をするように求めた。
イ同月26日,被告人は,Aとの関係が険悪となり,A方
を出て元夫方に戻り,同日付の転居届を数日後に提出した。
この頃,被告人は,D信用金庫のキャッシュカードは返還
したものの,本件カードは返還しなかった。被告人とAは
その後も週一,二回程度会って交際を続け,性的関係も持
っていた。
ウ同年6月16日から7月10日までの間,原判示のとお
り,被告人が5回にわたりA名義の本件カードを使用して
現金自動預払機から現金合計18万5000円を引き出し
た。
エ同年11月6日頃までに,Aは,父らを伴って被告人方
を訪れ,被告人に対し,本件の引き出しの事実等を追及し,
二人の交際が終了した。
⑶Aは,原審公判で,本件各犯行前に被告人に本件カードの
返還を求め,それ以降は預金の引き出しを承諾していないと
証言しているところ,Aが被告人の元交際相手で,別れ話と
金銭トラブルが関係していることや,自律神経痛で失神する
ことがあり,記憶がないと証言する部分があるなど,信用性
を慎重に判断すべき点があることを踏まえても,結婚を前提
とした同棲中に関係が悪化して被告人が元夫のところに帰っ
たことや,その後本件各犯行前に被告人がD信用金庫のキャ
ッシュカードを返還したことなどは,被告人の供述とも整合
しているところ,そのような状況で被告人による預金の引き
出しを真摯に承諾することは通常考えられないから,本件カ
ードの返還を求め,それ以降は預金の引き出しを承諾してい
ないという証言の核心部分は極めて自然で合理的というべき
である。所論が縷々指摘する諸点を踏まえて検討しても,こ
の点についてのAの証言の信用性は左右されない。
⑷他方で,被告人は,自分の借金返済のために本件カードで
現金を引き出すことをAが許容していると思っていたなどと
供述するが,前記のとおりの同棲の解消という客観的状況に
照らして不自然不合理であることに加え,被告人自身,本件
カードを使用して預金を引き出す際には報告を求められてい
たと思うが本件各引き出しについては報告しなかった,D信
用金庫のキャッシュカードを返還した後本件カードも返さな
ければならないと考えていた,などと供述していることも併
せ考えれば,本件各引き出しについてAの承諾があったとい
う点はもとより,そのように誤信していたとする点も含め,
被告人の供述は到底信用することができない。
⑸以上によれば,被告人による本件各引き出しは,正当な権
限に基づくものでなかったことは明らかであって,窃盗の客
観的構成要件に該当し,故意及び不法領得の意思にも欠ける
ところはないから,いずれについても窃盗罪が成立する。
(法令の適用)
当裁判所が認定した罪となるべき事実に刑種の選択及び併合罪
の処理を含めて原判決と同一の法令を適用し(ただし,原判決が
罰条として単に「刑法235条」と,刑種の選択として単に「懲
役刑を選択」と記載しているのは,罰条として「いずれも刑法2
35条」と,刑種の選択として「いずれも懲役刑を選択」と改め
る。),その処断刑期の範囲内で被告人を懲役1年に処し,刑の
執行猶予につき刑法25条1項を,原審及び当審における訴訟費
用の不負担につき刑訴法181条1項ただし書をそれぞれ適用し
て,主文のとおり判決する。
(量刑の理由)
被害合計額が18万5000円で決して少額とはいえないこと,
借金の返済に窮したなどという動機に酌むべき事情がないこと,
Aがキャッシュカードの返還を求めているのに応じず現金の引き
出しを繰り返したという犯行態様が悪質であることからすれば,
Aが被告人と交際していて被告人の現金引き出しを容認したこと
もあったという経緯を考慮しても,被告人の刑事責任を軽くみる
ことはできない。
他方で,既に被害の全額を弁償していること,前科前歴がな
いことなど,酌むべき事情も認められる。
そこで,被告人を主文のとおりの刑に処した上,今回に限っ
てその刑の執行を猶予するのが相当と判断した。
よって,主文のとおり判決する。
(原審における求刑懲役1年)
平成28年7月14日
仙台高等裁判所第1刑事部
裁判長裁判官嶋原文雄
裁判官行方美和
裁判官根崎修一

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