弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

判決言渡平成19年4月5日
平成18年(ネ)第10036号著作権差止等・著作権損害賠償請求控訴事件(原
審・東京地裁平成17年(ワ)第3646号〔第1事件,同第20463号〔第3〕
事件)〕
口頭弁論終結日平成19年1月25日
判決
控訴人サクラインターナショナル株式会社
訴訟代理人弁護士横松昌典
被控訴人株式会社ファーストリテイリング
被控訴人株式会社ユニクロ
上記両名訴訟代理人弁護士千葉尚路
同中村勝彦
同五十嵐敦
同柴野相雄
同尾形和哉
主文
1第1事件に係る部分につき
控訴人の当審における請求をいずれも棄却する。
2第3事件に係る部分につき
(1)原判決中,第3事件に係る部分を次のとおり変更する。
(2)控訴人の主位的請求(不法行為に基づく損害賠償請求部分)を
棄却する。
(3)ア被控訴人株式会社ファーストリテイリング及び被控訴人株式
会社ユニクロは,控訴人に対し,連帯して金19万5162円及
びこれに対する平成18年6月21日から支払済みまで年5分の
割合による金員を支払え。
イ控訴人のその余の予備的請求(実施料〔ロイヤリティ〕請求部
分)を棄却する。
3訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを5000分し,その1を被
控訴人らの負担とし,その余を控訴人の負担とする。
4この判決は,第2項(3)アに限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1控訴人の求めた裁判
1第1事件に係る部分につき
注.一審原告たる控訴人は,第1事件に係る部分につき当審において訴
えを交換的に変更したので,当審における審理の対象は,以下に述べ
る新請求である。
なお,原判決のうち東京地裁平成17年(ワ)第7908号事件(第
2事件)については,控訴が提起されていない。
(1)1次的請求
ア控訴人と被控訴人らとの間で,控訴人と被控訴人株式会社ファーストリ
テイリング(以下「被控訴人ファーストリテイリング」という)とが平。
成14年(2002年)12月31日付けで締結した,控訴人が管理する,
アメリカ合衆国ニューヨーク州に存在する財団である「TheEstateofKe
ithHaring」(以下「キース・エステイト」という。)の著作物「KEITHHARI
NG(以下「本件プロパティ」という)に含まれるところの著作権等に」。
基づく商品化権に関するライセンス契約(以下「本件サブライセンス契
約」という)に関し,控訴人による平成17年2月4日付けの契約解除。
の意思表示により,同日以降,被控訴人らの控訴人に対する,同契約に基
づく本件プロパティに関する商品化権を被控訴人らの製造・販売する商品
(以下「本商品」という)に使用することの許諾を請求する権利,同許。
諾請求権に基づき被控訴人両名が日本国内において同人らが経営し又はフ
ランチャイズする店舗において本商品を販売する権利,本商品のデザイン
の承認を請求する権利,本商品のサンプルを作成しその承認を請求する権
利,本商品を製造・販売する権利,控訴人から本件プロパティの原稿の貸
与を受けこれを使用する権利,本件プロパティを販売促進・広告宣伝等本
商品以外に使用することの承認を請求する権利,本商品に対しキース・エ
ステイトの所有する著作権を表示する権利,本契約の期間満了後12か月
間被控訴人らが経営し又はフランチャイズする店舗において存在する在庫
品を販売する権利,その他本件サブライセンス契約に基づき本件プロパテ
ィを使用しその使用の許諾を請求する一切の権利,並びに本件サブライセ
ンス契約の更新を請求する権利(以下「本件各権利」という)がいずれ。
も存在しないことを確認する。
イ被控訴人らは控訴人に対し,連帯して13億5055万9455円及び
これに対する平成17年2月4日から支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。
ウ(上記イに対する予備的請求)
仮に上記イが認められないとしても,被控訴人らは控訴人に対し,連帯
して12億2410万4360円及びこれに対する平成17年2月4日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
エ(上記ウに対する予備的請求)
仮に上記ウが認められないとしても,被控訴人らは控訴人に対し,連帯
して9億5099万7411円及びこれに対する平成17年2月4日から
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)2次的請求
ア控訴人と被控訴人らとの間で,本件サブライセンス契約に関し,控訴人
による平成17年10月1日付けの契約解除の意思表示により,同日以降,
被控訴人らの控訴人に対する同契約に基づく本件各権利がいずれも存在し
ないことを確認する。
イ被控訴人らは控訴人に対し,連帯して5億8924万8220円及びこ
れに対する平成17年4月29日から支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。
ウ被控訴人らは控訴人に対し,連帯して5714万1297円及びこれに
対する平成17年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を
支払え。
エ(上記ウに対する予備的請求)
仮に上記ウが認められないとしても,被控訴人らは控訴人に対し,連帯
して5584万3082円及びこれに対する平成17年10月1日から支
払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
オ(上記エに対する予備的請求)
仮に上記エが認められないとしても,被控訴人らは控訴人に対し,連帯
して4338万4068円及びこれに対する平成17年10月1日から支
払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)3次的請求
ア控訴人と被控訴人らとの間で,本件サブライセンス契約に関し,平成1
7年12月31日の経過により,平成18年1月1日以降,被控訴人らの
控訴人に対する同契約に基づく本件各権利がいずれも存在しないことを確
認する。
イ被控訴人らは控訴人に対し,連帯して522万8962円及びこれに対
する平成18年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
ウ(上記イに対する予備的請求)
仮に上記イが認められないとしても,被控訴人らは控訴人に対し,連帯
して537万3257円及びこれに対する平成18年1月1日から支払済
みまで年5分の割合による金員を支払え。
エ(上記ウに対する予備的請求)
仮に上記ウが認められないとしても,被控訴人らは控訴人に対し,連帯
して417万4443円及びこれに対する平成18年1月1日から支払済
みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)4次的請求
控訴人と被控訴人らとの間で,本件サブライセンス契約に関し,平成17
年12月31日の経過により,被控訴人らが控訴人に対し同契約に基づき同
契約の平成18年1月1日以降の契約更新を請求する権利が存在しないこと
を確認する。
2第3事件に係る部分につき
(1)原判決中,第3事件に係る部分を取り消す。
(2)被控訴人らは控訴人に対し,連帯して1億円及びこれに対する平成17
年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3訴訟費用は,第1,2審を通じて,被控訴人らの負担とする。
4仮執行宣言
第2事案の概要
(以下,原判決の略称を用いる)。
1TheEstateofKeithHaring(キース・エステイト)は,キース・へリング
の遺言によりその財産を一時的に管理する団体であるところ,一審原告である
控訴人は,平成14年12月23日にキース・エステイトとの間で,キース・
へリングの創作に係る原判決別紙商品目録及び物品目録記載のイラスト・図柄
・文字・デザイン等(本件プロパティ)につき,本件マスターライセンス契約
を締結していたところ,その後,一審被告である被控訴人ファーストリテイリ
ングとの間で,平成14年12月31日付けで同被控訴人が本件プロパティを
使用すること等を内容とする本件サブライセンス契約を締結し,平成15年1
月1日からその契約関係が開始された。
ところが,被控訴人ファーストリテイリングが債務不履行をしているのでは
ないかとして,控訴人と同被控訴人との間で紛争が発生し,控訴人は同被控訴
人に対し,①平成17年2月4日付けで契約解除(第1次解除)の意思表示を,
次いで②平成17年10月1日付けでも契約解除(第2次解除)の意思表示を
行ったことから,その有効性等を巡り,本件訴訟が提起されることとなった。
なお,被控訴人株式会社ユニクロ(旧商号サンロード株式会社。以下「被
控訴人ユニクロ」という)は,平成17年11月1日,被控訴人ファースト。
リテイリングの営業の一部を吸収分割により承継し,本件に関する権利義務を
承継した〔平成17年法律第87号105条,商法374条の26第2項。〕
2一審原告たる控訴人が一審被告たる被控訴人両名等に対し提起した原審訴訟
は,①平成17年(ワ)第3646号事件(第1事件,②平成17年(ワ)第7)
908号事件(第2事件,③平成17年(ワ)第20463号事件(第3事)
件)から成る。
第1事件は,控訴人が被控訴人両名に対し,控訴人が本件プロパティにつき
有する独占的通常使用権等に基づき,当該著作物と商標の使用差止め・商品の
保管状況等の報告・廃棄及び損害賠償等を求めた事案である。
第2事件は,控訴人が,被控訴人両名に対し,被控訴人ファーストリテイリ
ングが控訴人の信用を毀損する虚偽の事実を告知・流布したとして,不正競争
防止法2条1項14号,4条及び7条に基づき,損害賠償と謝罪広告等を求め
たほか,商品の輸入等を扱い又はそのフランチャイジーである双日株式会社ほ
か13名に対し,控訴人の前記独占的通常使用権等に基づき,当該著作物と商
標の使用差止め等を求めた事案である。
第3事件は,被控訴人ファーストリテイリングが平成17年4月28日に本
件サブライセンス契約につき更新の意思表示をして平成18年1月1日以降も
商品の販売を継続する旨宣言し,かつ同被控訴人が平成17年6月29日付け
で本件サブライセンス契約の被許諾者の地位にあることを仮に定める旨の仮処
分決定(東京地裁平成17年(ヨ)第22017号)を得たことにより,平成1
8年1月1日以降に他者とサブライセンス契約を締結するための営業活動等を
行うことが不可能となったとして,被控訴人両名に対し,主位的には損害賠償,
予備的には本件サブライセンス契約に基づく実施料(ミニマムロイヤリティ)
の支払を求めた事案である。
平成18年3月17日に言い渡された原判決は,被控訴人ファーストリテイ
リングには本件サブライセンス契約の継続を困難ならしめるような背信行為の
存在等のやむを得ない事由が存在すると認めることはできない等として,第1
ないし第3事件につき,控訴人の請求をいずれも棄却した。
そこで,上記判決に不服の控訴人が,第1事件と第3事件につき本件控訴を
提起した(第2事件については,控訴が提起されていない。)
3(1)控訴人が当審において求めた裁判は,平成18年3月31日に提出され
た控訴状においては原判決の取消しのほか原審におけるのと同一であったが,
その後,平成18年5月18日付けの控訴の趣旨変更申立書において,第1
事件に係る部分につき被控訴人らに対する訴えを交換的に変更し,更に平成
18年8月10日付け控訴の趣旨変更申立書及び平成18年9月11日付け
控訴の趣旨変更申立書において,その内容を変更した。第1事件に係る控訴
人の被控訴人両名に対する訴訟上の請求の内容は,前記第1,1記載のとお
りである。因みに,前記第1,1,(1)の1次的請求は,第1次解除(平成1
7年2月4日)が有効であることを前提とする請求である。前記第1,1,
(2)の2次的請求は,仮に第1次解除が無効であるとしても,第2次解除
(平成17年10月1日)が有効であり,かつ,いわゆる不安の抗弁(後述
する)が認められず,解除の効力が同日から発生することを前提とする請求
である。前記第1,1,(3)の3次的請求は,仮に第1次解除が無効であると
しても,第2次解除(平成17年10月1日)が有効であることを前提とし,
かつ,仮に不安の抗弁が認められた場合であっても平成18年1月1日には
上記解除の効力が発生することを前提とする請求である。前記第1,1,(4)
の4次的請求は,仮に第1次解除及び第2次解除がいずれも無効(第2次解
除については不安の抗弁が成立し解除の効力が発生しない)であるとした場
合の請求である。
(2)因みに,第1事件について控訴人が当審において新たに請求することに
なった内容は,下記のとおりである。
ア1次的請求について
(ア)1次的請求ア(不存在確認請求)
被控訴人ファーストリテイリングと本件サブライセンス契約を締結し
ていた控訴人が,中国問題等に関する同被控訴人の債務不履行を理由と
して,平成17年2月4日同契約を解除(第1次解除)したので,被控
訴人ファーストリテイリング及び被控訴人ユニクロに対し,同解除日以
降,同契約に基づく本件各権利がいずれも存在しないことの確認を求め
たものである。
(イ)1次的請求イ・ウ・エ(金銭支払請求)
前記解除日以降,被控訴人ファーストリテイリングが本件プロパティ
が付された商品を販売したことが控訴人の著作権(複製権)侵害,商標
権侵害又は不正競争防止法違反に当たるとして,被控訴人ファーストリ
テイリング及び被控訴人ユニクロに対し,損害賠償金(被控訴人利益,
控訴人利益,実施料,弁護士費用)等の連帯支払を求めたものである
(詳細は後述。)
イ2次的請求について
(ア)2次的請求ア(不存在確認請求)
上記(ア)の第1次解除が無効であるとしても,控訴人は,被控訴人フ
ァーストリテイリングによるライセンス料不払いの債務不履行を理由と
して,平成17年10月1日同契約を解除(第2次解除)したので,被
控訴人ファーストリテイリング及び被控訴人ユニクロに対し,同解除日
以降,同契約に基づく本件各権利がいずれも存在しないことの確認を求
めたものである。
(イ)2次的請求イ・ウ・エ・オ(金員支払請求)
前記解除日以降,被控訴人ファーストリテイリングが本件プロパティ
が付された商品を販売したことが控訴人の著作権(複製権)侵害,商標
権侵害又は不正競争防止法違反に当たるとして,被控訴人ファーストリ
テイリング及び被控訴人ユニクロに対し損害賠償金(被控訴人利益,控
訴人利益,実施料,弁護士費用)等の連帯支払を求めたものである(詳
細は後述。)
ウ3次的請求について
(ア)3次的請求ア(不存在確認請求)
被控訴人ファーストリテイリングと本件サブライセンス契約を締結し
ていた控訴人が,同被控訴人によるライセンス料不払いの債務不履行を
理由として,平成17年10月1日同契約を解除(第2次解除)し,平
成17年12月31日の経過をもって同解除の効力が発生したから,被
控訴人ファーストリテイリング及び被控訴人ユニクロに対し,平成18
年1月1日以降,同契約に基づく本件各権利がいずれも存在しないこと
の確認を求めたものである。
(イ)3次的請求イ・ウ・エ(金員支払請求)
前記解除により平成18年1月1日以降,被控訴人ファーストリテイ
リングが本件プロパティが付された商品を販売したことが著作権(複製
権)侵害,商標権侵害又は不正競争防止法違反に当たるとして,被控訴
人ファーストリテイリング及び被控訴人ユニクロに対し損害賠償金(被
控訴人利益,控訴人利益,実施料,弁護士費用)等の連帯支払を求めた
ものである(詳細は後述。)
エ4次的請求(不存在確認請求)について
被控訴人ファーストリテイリングと本件サブライセンス契約を締結して
いた控訴人が,同被控訴人の債務不履行を理由として,本件サブライセン
ス契約を解除したので,同被控訴人には平成18年の更新請求権は存在し
ないとして,被控訴人ファーストリテイリング及び被控訴人ユニクロに対
しその不存在確認を求めたものである。
(3)第3事件について控訴人が求めた裁判は,原審におけるのと同一(主位
的には不法行為に基づく損害賠償請求,予備的には本件サブライセンス契約
に基づく実施料〔ロイヤリティ〕等の請求)である。
第3当事者双方の主張
1当事者双方の主張は,次に付加するほか,略称も含め,原判決の「事実及び
理由」欄の第2「事案の概要」のとおりであるから,これを引用する。
2控訴人
(1)訴え変更後の当審における新たな請求についての請求原因事実(第1事
件)
ア1次的請求について
(ア)1次的請求ア(不存在確認請求)
①キース・エステイトは,本件プロパティにつき著作権又は商標権を
有する。
②TheEstateofKeithHaring(キース・エステイト)は,平成14
年12月23日,控訴人との間で,本件プロパティにつき,本件マス
ターライセンス契約を締結した。
③控訴人は,平成14年12月31日,被控訴人ファーストリテイリ
ングとの間で,本件プロパティにつき,本件サブライセンス契約を締
結した。
④控訴人は,中国問題等に関する同被控訴人の債務不履行を理由とし
て,平成17年2月4日本件サブライセンス契約を解除した(第1次
解除。)
⑤被控訴人ユニクロは,平成17年11月1日,被控訴人ファースト
リテイリングから,ユニクロブランドにて展開する衣料品及び衣料雑
貨品の日本国内における企画,生産及び販売に関する営業,中華人民
共和国上海市における衣料品等の生産管理に関する営業並びに被控訴
人ファーストリテイリングの海外の子会社及び関連会社の商流過程に
おける衣料品等の卸売に関する営業を吸収分割によって承継し,本件
に関する権利義務を承継した。
⑥被控訴人らは,第1次解除の有効性の有無を争っている。
⑦よって,控訴人は被控訴人らに対し,本件サブライセンス契約の第
1次解除により,同解除日以降,本件サブライセンス契約に基づく本
件各権利がいずれも存在しないことの確認を求める。
(イ)1次的請求イ・ウ・エ(金銭支払請求)
①上記(ア)①∼⑤と同じ
②被控訴人ファーストリテイリング又は被控訴人ユニクロは,第1次
解除が有効であることを知りながら,平成17年2月4日以降,本件
商品を販売した。
③上記②の販売に係る被控訴人利益は13億5055万9455円,
控訴人利益は12億2410万4360円,実施料相当額は9億50
99万7411円である。
④よって,控訴人は被控訴人らに対し,本件マスターライセンス契約
に基づく独占的通常使用権の侵害による損害賠償請求として,又は同
独占的通常使用権を根拠とするキース・エステイトの著作権侵害,商
標権侵害,不正競争防止法違反による損害賠償請求権の代位行使とし
て,又は本件サブライセンス契約の解除による損害賠償請求として,
被控訴人らが連帯して以下の金員を支払うことを求める。
a1次的請求イ
13億5055万9455円及びこれに対する第1次解除の日で
ある平成17年2月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合
による遅延損害金。
なお,上記金額の一部が認められないときは,弁護士費用を認容
額の10%でかつ上記金額を限度として請求する。
b1次的請求ウ
12億2410万4360円及びこれに対する第1次解除の日で
ある平成17年2月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合
による遅延損害金。
なお,上記金額の一部が認められないときは,弁護士費用を認容
額の10%でかつ上記aの金額を限度として請求する。
c1次的請求エ
9億5099万7411円及びこれに対する第1次解除の日であ
る平成17年2月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合に
よる遅延損害金。
なお,上記金額の一部が認められないときは,弁護士費用を認容
額の10%でかつ上記aの金額を限度として請求する。
イ2次的請求について
(ア)2次的請求ア
①上記ア(ア)①∼③,⑤と同じ。
②被控訴人ファーストリテイリングは,平成17年9月30日,平成
18年(2006年)度のミニマムロイヤリティの支払をしなかった。
③控訴人は,被控訴人ファーストリテイリングに対し,平成17年1
0月1日,上記②のミニマムロイヤリティの不払を理由に,本件サブ
ライセンス契約を予備的に解除した(第2次解除。)
④被控訴人らは,第2次解除の有効性を争っている。
⑤よって,控訴人は被控訴人らに対し,本件サブライセンス契約の第
2次解除により,同解除日以降,本件サブライセンス契約に基づく本
件各権利がいずれも存在しないことの確認を求める。
なお,上記金額の一部が認められないときは,弁護士費用を認容額
の10%でかつ上記ア(イ)④aの金額を限度として請求する。
(イ)2次的請求イ
①上記ア(ア)①∼③,⑤,上記イ(ア)②,③と同じ。
②被控訴人ファーストリテイリングは,真実は更新請求の意思がなか
ったにもかかわらず,控訴人に対し,平成17年4月28日,本件サ
ブライセンス契約の更新の意思表示を行った。
③被控訴人ファーストリテイリングは,第1次解除が有効であること
を知りながら,平成17年4月29日から平成17年9月30日まで
の間,本件商品を販売した。
④上記③の販売に係る被控訴人利益は5億8924万8220円であ
る。
⑤よって,控訴人は被控訴人らに対し,本件マスターライセンス契約
に基づく独占的通常使用権の侵害による損害賠償請求として,又は同
独占的通常使用権を根拠とするキース・エステイトの著作権侵害,商
標権侵害,不正競争防止法違反による損害賠償請求権の代位行使とし
て,又は本件サブライセンス契約の解除による損害賠償請求として,
被控訴人らが連帯して5億8924万8220円及びこれに対する上
記②の更新の意思表示の日の翌日である平成17年4月29日から支
払済みまで民法所定の年5分の割合による金員の支払を求める。
(ウ)2次的請求ウ・エ・オ
①上記(ア)①∼③と同じ。
②被控訴人ファーストリテイリングは,第2次解除が有効であること
を知りながら,平成17年10月1日以降,本件商品を販売した。
③上記②の販売に係る被控訴人利益は5714万1297円,控訴人
利益は5584万3082円,実施料相当額は4338万4068円
である。
④よって,控訴人は被控訴人らに対し,本件マスターライセンス契約
に基づく独占的通常使用権の侵害による損害賠償請求として,又は同
独占的通常使用権を根拠とするキース・エステイトの著作権侵害,商
標権侵害,不正競争防止法違反による損害賠償請求権の代位行使とし
て,又は本件サブライセンス契約の解除による損害賠償請求として,
被控訴人らが連帯して以下の金員を支払うことを求める。
a2次的請求ウ
5714万1297円及びこれに対する第2次解除の日である平
成17年10月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合によ
る遅延損害金。
なお,上記金額の一部が認められないときは,弁護士費用を認容
額の10%でかつ上記ア(イ)④aの金額を限度として請求する。
b2次的請求エ
5584万3082円及びこれに対する第2次解除の日である平
成17年10月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合によ
る遅延損害金。
なお,上記金額の一部が認められないときは,弁護士費用を認容
額の10%でかつ上記ア(イ)④aの金額を限度として請求する。
c2次的請求オ
4338万4068円及びこれに対する第2次解除の日である平
成17年10月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合によ
る遅延損害金。
なお,上記金額の一部が認められないときは,弁護士費用を認容
額の10%でかつ上記ア(イ)④aの金額を限度として請求する。
ウ3次的請求について
(ア)3次的請求ア
①上記イ(ア)①∼④と同じ。
②よって,控訴人は被控訴人らに対し,本件サブライセンス契約の第
2次解除により,同解除の効力が発生した平成18年1月1日以降,
本件サブライセンス契約に基づく本件各権利がいずれも存在しないこ
との確認を求める。
(イ)3次的請求イ・ウ・エ
①上記イ(ウ)①と同じ。
②被控訴人ファーストリテイリングは,第2次解除が有効であり,そ
の効力が平成18年1月1日に発生したことを知りながら,平成18
年1月1日以降,本件商品を販売した。
③上記②の販売に係る被控訴人利益は522万8962円,控訴人利
益は537万3257円,実施料相当額は417万4443円である。
④よって,控訴人は被控訴人らに対し,本件マスターライセンス契約
に基づく独占的通常使用権の侵害による損害賠償請求として,又は同
独占的通常使用権を根拠とするキース・エステイトの著作権侵害,商
標権侵害,不正競争防止法違反による損害賠償請求権の代位行使とし
て,又は本件サブライセンス契約の解除による損害賠償請求として,
被控訴人らが連帯して以下の金員を支払うことを求める。
a3次的請求イ
522万8962円及びこれに対する第2次解除の効力が発生し
た日である平成18年1月1日から支払済みまで民法所定の年5分
の割合による遅延損害金。
なお,上記金額の一部が認められないときは,弁護士費用を認容
額の10%でかつ上記ア(イ)④aの金額を限度として請求する。
b3次的請求ウ
537万3257円及びこれに対する第2次解除の効力が発生し
た日である平成18年1月1日から支払済みまで民法所定の年5分
の割合による遅延損害金。
なお,上記金額の一部が認められないときは,弁護士費用を認容
額の10%でかつ上記ア(イ)④aの金額を限度として請求する。
c3次的請求エ
417万4443円及びこれに対する第2次解除の効力が発生し
た日である平成18年1月1日から支払済みまで民法所定の年5分
の割合による遅延損害金。
なお,上記金額の一部が認められないときは,弁護士費用を認容
額の10%でかつ上記ア(イ)④aの金額を限度として請求する。
エ4次的請求について
(ア)上記ウ(ア)①と同じ。
(イ)控訴人は,平成17年12月24日,デザインアプルーブについて
条件付きで承認することを明示するなど自己の各債務を履行する旨示し
ていたにもかかわらず被控訴人らは,平成17年12月31日までに平
成18年(2006年)度のミニマムロイヤリティの支払をしなかった。
(ウ)よって,控訴人は被控訴人らに対し,本件サブライセンス契約の第
2次解除により,少なくとも平成17年12月31日の経過をもって契
約更新を請求する権利を失ったから,被控訴人らは控訴人に対し,同契
約に基づく同契約の平成18年1月1日以降の契約更新を請求する権利
が存在しないことの確認を求める。
(2)訴えの適法性について
ア本件各権利の不存在確認請求
(ア)上記各請求については,各解除日以降の本件各権利の不存在確認
等を求めている点で,厳密には現時点以前の過去の権利の不存在確認
を求めることになる。しかし,本件においては被控訴人ファーストリ
テイリングが一貫して解除の効力を争い,本商品の販売を継続し,一
方で仮の地位を定める仮処分を提起して,控訴人が解除の有効性や正
当性を主張し公表する手段を奪うという挙に出たものであるから,い
つの時点での解除が有効と判断されたかを明らかにする必要があり,
過去の解除時点以降現在に至るまでの権利の不存在を確認する利益が
存在する。
(イ)また,本件マスターライセンス契約が更新されておらず,同契約
によってキース・エステイトから控訴人に許諾された独占的通常使用
権が平成17年12月31日をもって終了しているとしても,本件サ
ブライセンス契約上の本件各権利が終了することにはならない。
イ損害賠償請求
(ア)①第1次解除(平成17年2月4日)を理由とする同解除以降
の販売に対する損害賠償請求,②第2次解除(平成17年10月1
日)を理由とする同解除以降の販売に対する損害賠償請求,③第2
次解除の効力が平成18年1月1日に発生することを理由とする損害
賠償請求は,順次,主位的請求と予備的請求の関係に立ちうる。例え
ば,①と②とは,第1次解除が無効である場合に第2次解除を論じれ
ばよいという意味で主位的・予備的の関係に立ち,たとえ平成17年
10月1日以降の販売に対する損害部分は,経済的には包含関係にあ
ると言っても,法的には,上記の意味で主位的・予備的関係が成り立
ちうる。
(イ)控訴人は,上記①∼③それぞれにつき,著作権法114条2項・
商標法38条2項・不正競争防止法5条2項により算定した損害額
(被控訴人利益,著作権法114条1項・商標法38条1項・不正競)
争防止法5条1項により算定した損害額(控訴人利益,著作権法11)
4条3項・商標法38条3項・不正競争防止法5条3項により算定し
た損害額(実施料)を請求しうる。
(ウ)被控訴人らは,第1事件の主位的請求と第3事件の主位的請求が
非両立であり,損害賠償の二重取りであるなど主張する。しかし,両
請求は損害の発生原因の点において異なり,さらにはその対象期間も
異にするものであり,損害賠償の二重取りには当たらない。
(3)本件サブライセンス契約の第1次解除に理由があることについて
ア原判決は「…被告ファーストリテイリングが平成16年に中国国内に,
おいて本件商品を販売したことを認めるに足りる証拠はない(40頁下。」
2行∼下1行)とするが,誤りである。
(ア)ロゴ釦付きポロシャツの販売
①中国において被控訴人ユニクロらが,少なくともロゴ釦付きポロシ
ャツを販売していたこと
a甲A155の1∼2は,被控訴人ファーストリテイリングが中国
において販売した,キース・ヘリングのロゴ釦付きポロシャツ
(濃紺)を,控訴人が平成18年6月に入手し,購入者からその
現物の提供を受け,購入時の状況を聴取した経過を,上海市の公
証役場において公正証書にまとめたものであり,上記ポロシャツ
の写真4枚,購入者が記入した購入経緯についての調査票,雑誌
酷蹦(Coupon:クーポン(2006年6月刊)の抜粋が添付され)
ている。
入手方法は,控訴人において,中国の雑誌「酷蹦」に懸賞金広
告を掲載し,2004(平成16)年3月から8月までに上海ユ
ニクロ店舗で購入したポロシャツの提供を呼びかけたところ,購
入者が応じてきたものである。
甲A155の2の和訳にあるとおり,上海市のM弁護士事務所
が平成18年(2006年)7月10日に証拠保全の公証を申請
し,上記弁護士事務所の申請人代理人が,購入者に対し,上記ポ
ロシャツの購入過程について質問している。
bこのポロシャツは,公正証書に添付された写真のとおり,ボタ
ンに「KEITHHARING」の文字刻印が存在し,いわゆ
るロゴ釦が付いているものである。
襟ネームは「150/72」のサイズ表示のみがあり,日本の
販売品とは異なる。すなわち日本の販売品の衿ネームは,甲A1
7の1(駅ポスターのうちキース・ヘリングポロシャツを実寸サ
イズで表示したもの)などにあるように,キース・ヘリングの著
作物であるスケートボードに乗る人の絵が描かれ,その下に著作
権表示の文字と「−130−」とサイズ表示がされている。また,,
ユニクロ一般キッズ商品について日本販売品と中国販売品の衿ネ
ーム表記を比較すると、日本販売品は「○の中に150」と身長
サイズのみが表示されているが、中国販売品は「150/72」、
と身長サイズ/胸囲サイズが併記されている。これらの事実は、
同商品が中国ユニクロ販売品であることを間接的に裏付けている。
c調査票によれば,購入者は「L」という1983年生まれの女
性であり,中国ユニクロ「優衣庫」淮海店で購入し,購入時期は
平成16年(2004年)7月,価格は29元というものである。
当時同じポロシャツの色違いが4∼5色あり,100枚程度置か
れていたとの記憶である。
なお購入者はボタンにロゴが付いていることを認識して買って
いる。また洗濯ネームは,中国では顕著に見られる現象だが、着
心地がよくなるように,購入後切り取ったとのことである。
d被控訴人らは,本件プロパティを使用した「本商品が被控訴人
により中国で販売されたことは一切ない」などと否定し(例えば
答弁書8頁,控訴人が,乙A39の仕様書などの記載を指摘して,)
「少なくともロゴ釦がつけられたことを裏付けている(控訴理由」
書8頁21行∼22行)と指摘したのに対しても「勝手な憶測に,
基づく主張や,些細な消し忘れを捉えた針小棒大な主張」などと
否定してきた。
しかしながら,ロゴ釦付きポロシャツが販売されていたことは,
仕様書等の記載の矛盾が単なる「消し忘れ」ではないことを裏付
けている。
また,消し忘れがあったとしても工場とのコミュニケーション
が良好だったから本件プロパティの付された商品が製造されると
いうことなどなかったなどとする,P証人の説明や被控訴人らの
主張の根拠もないことが明らかである。
②ロゴ釦付きポロシャツが販売されていたことをP総経理をはじめ
被控訴人らが知っていたこと
a以上のとおり,少なくとも「KEITHHARING」のロ
ゴ釦付きポロシャツが中国で販売されていたことは明らかになっ
たが,この事実をP総経理や被控訴人らが知らなかったなどとい
うことは到底考えられない。
b購入者Lは調査票において,上海市の店舗において購入した際,
同じ衣類が4∼5色,100枚前後あったと述べており,ロゴ釦
付きポロシャツが一枚だけ製造されることはありえない。
cロゴ釦付きポロシャツは,中国の販売子会社である「迅銷(江
蘇)服飾有限公司(総経理はP,マーチャンダイジング担当は」
C)が被控訴人ファーストリテイリング(日本ユニクロ)の上海
事務所(生産担当はD,その部下がE)に生産を依頼し,同上海
事務所が仕様書,アクセサリー指示書,畳み指示書などの指図書
類を,下請け生産工場である「申洲針職集団有限公司」に提示し
て生産を依頼し,生産された商品が指図書類通りに製造されたか
どうかを管理し,その上で「迅銷(江蘇)服飾有限公司」に納品
し,同有限公司が各店舗で販売したものである。
生産工場は指図書類に従って製品を作る以上,指図書類にない
ロゴ釦を勝手に使用することはない。また,被控訴人ファースト
リテイリング上海事務所が商品サンプルを点検する段階で,ロゴ
釦付きであることに気づかないことはあり得ない。さらに商品が
中国子会社に納品された段階でも,子会社がロゴ釦付きであるこ
とに気が付かないこともあり得ない。そして,店頭で販売する店
員たちも,ロゴ釦付きの商品かどうかに気づかないこともあり得
ない。
すなわち,被控訴人ファーストリテイリング上海事務所が作成
した指図書類にはロゴ釦を使用することが最初から明確に指示さ
れており,これに従って生産工場が製作し,被控訴人ファースト
リテイリングもその通りの製造を確認し,子会社はロゴ釦付きで
あることを認識して販売していたものである。
③仕様書が2種類存在したと考えられること
a乙A39の仕様書は,胸のドッグワッペンこそ削除されているも
のの,ロゴ釦が明白に付着している。
一方,乙A40のアクセサリーシートは,ドッグワッペン及び
ロゴ釦がともに「工場手配」と明記されており,ドッグワッペン,
及びロゴ釦がともに製品に装着されることを明確に指示している。
また乙A41の畳み指示書は「ワッペンの下で折る」と明記さ,
れているなど,ドッグワッペンの付着が前提となっている。
このように,仕様書,アクセサリーシート,畳み指示書の記載
が一致していなかったとすれば,それを工場が見逃して生産や出
荷を行なうことはあり得ず,今に至るまで,これらが訂正されて
いないということ自体が考えられないのであるから,仕様書とア
クセサリーシートは一致しており,工場側には何ら混乱が生じな
かった製品が存在したとしか考えられない。
bそうすると,論理的に,ワッペンもロゴ釦も装着した製品と,
ワッペンは削除されたがロゴ釦は装着された製品の2種類が存在
したことが考えられる。
そして,乙A39ないし乙A41が書類間に矛盾なく,また,
事後の意図的加筆なくかつ工場が何の矛盾もなく商品を生産でき
たとしたら,実際には2つの製品AとBが存在した事になる。製品A
は,ワッペンあり,ロゴ釦あり,製品Bは,ワッペンなし,ロゴ釦
ありというものである。そして,被控訴人らにより法廷へ提出さ
れた証拠は,二つの別個の製品の書類が間違って組み合わせられ
て提出されたと考えれば,それぞれの製品の書類間の矛盾および
事後の加筆なしで説明できる。
c甲A156の1∼2は,上海M法律事務所調査員による調査レポー
トとその和訳である。なお,和訳は平成18年(2006年)8月
28日に翻訳会社より納品され,調査レポートの原本は,ロゴ釦付
きポロシャツ等の原本入りの公正証書と共に,同年9月5日に日本
に送付された。
同調査員は,平成18年(2006年)7月6日,キース・ヘ
リングロゴ釦付きポロシャツを,中国ユニクロ上海中聯店に持参
し,その副店長代理である,Fらから事情を聴取した。
Fは,キース・ヘリングロゴ釦付きポロシャツについて「今は,
もう有りません,この服なら私も持っていますよ」と認め,29。
元という価格について「そのときはセール期間中だったんで,
す「ずいぶん遅くなってお買いあげになったんですね」などと。」。
発言し,売れ行きについても「ええ,とても良かったですね。お
客様が買ったのは,遅かったですよ「そうですね,3∼4種類。」
の色がありました」などと述べている。。
このように侵害商品が中国で販売されたことについて,上記副
店長代理は否定していないどころか「この服なら私ももってい,
る」と,本件プロパティを付した本商品の存在を別途認めており,。
ポロシャツのロゴ釦についても強く認識していたことが分かる。
④契約違反の程度の重大性
以上に照らし,販売許諾地域外で「KEITHHARING」のロゴ釦を使
用した商品を販売することは,本件プロパティそのものを付した商
品の販売と同様に,その契約違反の程度は極めて強い。しかも,同
ロゴ釦付きポロシャツが販売されていたことについて,被控訴人ら
が把握していなかったことはあり得ないのに,この事実を認めよう
とせず隠蔽していたことは,重大な背信行為である。
(イ)本件プロパティが付されたポロシャツの販売
本件においては,被控訴人ファーストリテイリングは,本件プロパテ
ィが付されたポロシャツを販売したと認めるべきである。
①甲A14の1∼2,15の1∼4,72,98によれば,中国向けのホ
ームページに,定価59元のキース・へリングポロシャツを売価29
元に値引きして販売しているとの広告があり,これを見れば,その商
品が現在,その値引き価格で店頭販売されていると理解するのが普通
である。鑑定意見書(甲A100)も,5か月間もウェブ上で価格を
掲載した広告を出し,地下鉄等でも広告を掲示している以上,中国国
内の店舗でキース・へリング商品を販売していたと考えるほうが自然
であると述べている。
②原判決は「同被告が原告主張のような販売を行ったのであれば,,
同被告の店頭で販売の事実を確認したり,販売された商品を入手する
ことはさほど困難なことではないと考えられる…(41頁1行∼3」
行)と述べるが,根拠がない。
すなわち,問題のポロシャツは春夏物であり,通常8月中旬には販
売が終了するところ,原告がホームページ画像に気が付いた平成16
年(2004年)8月10日(甲A139)はほぼ販売が終了する時
期であった。しかも,定価59元のキース・へリングポロシャツを半
額以下の定価29元に値引きして販売するという広告であるから,半
値以下の廉価販売により品薄状態にある。
また,甲A139の4頁にあるとおり,北京在住の控訴人関係者の
知人が,上海ユニクロ准海店に,ホームページを見て胸にワッペンの
付いたポロシャツを買いたいと申し入れたが,インターネットでは販
売していないと思うので本部に確認するとの回答で終わっている。そ
の後平成16年8月12日にはホームページからポロシャツ画像は削
除されていた。
このように,当時実際に入手しようとしてもできなかったのであり,
また,同年8月12日にホームページ画像を削除しながら控訴人に何
の報告もなかったことからすれば,それ以降,店頭で販売事実を確認
しようとしても不可能であったことは容易に推測しうる。
③原判決は「…「アポロシャツHP」については,商品販売の宣,
伝広告として理解され,…(42頁14行∼15行)と認定しなが」
ら,販売事実を推定せず,認定していないという自己矛盾に陥ってい
る。
④原判決は「…中国向けホームページ(甲A14の1及び2)に本,
件ポロシャツ画像が価格の記載とともに掲載されている。しかしなが
ら,…中国で本件プロパティの付されていないポロシャツの販売を企
画したが,日本側と中国側とで品番に基づき画像データのやり取りを
するに当たって,誤って本件プロパティの付された商品の画像を中国
側に送付し,中国側担当者も,本件プロパティが小さかったため同プ
ロパティが付されていることを見落とし,当該画像をそのままホーム
ページに掲載してしまったとの証人Pの証言(乙A38を含む)を。
不自然なものとして排斥することはできない(41頁4行∼13。」
行)と述べる。
しかし,原判決の上記説示は,証人Pの証言を鵜呑みにしたもので
あり,原判決自身が「…当該ポロシャツに付されたワッペンは,特,
に本件ポロシャツ画像の拡大画像(甲A15の1∼4)により,その形
状等を明確に認識し得るものである(42頁15行∼17行)とし。」
ていることとも矛盾する。すなわち,商品販売の宣伝広告のために企
業がホームページ制作を依頼した場合,これをホームページ上に掲載
する前に,必ず,予め制作画像の詳細を点検・チェックするはずであ
り,その段階で,クリックして大きくなった画像に気付かないとか,
これに本件プロパティが付されていることを見落とすなど,到底あり
得ない。
また,日本商品と中国商品は,本体が同じ体裁の商品でも,付属物
の表示等が異なるため,同一品番ということはあり得ない。さらに,
Pによれば,中国の担当者は日本の担当者に,キッズのボーダーポロ
シャツについては品番によって商品画像を要求したということである
(P調書19頁)が,これを前提にすると,日本のものは本件プロパ
ティが使用されており,中国での販売予定のものは本件プロパティを
使用できないという強い認識があったはずであるから,品番によって
画像を要求しても,キッズボーダーポロシャツ分については使用でき
ない画像が届いてしまうことを当然理解していたはずであり,445
6−002,あるいは国番号を除いても456−002の画像につい
ては,使用できないから除くか,画像からプロパティを削除する作業
を行うという指示を最初から出すはずである。
すなわち,中国ホームページの画像は,見落としなどではなく,日
本から画像を取り寄せれば本件プロパティを付した画像が届くことを
Pらは当然認識していた。Pらは,意図的に本件プロパティを付した
ポロシャツ画像の販売広告を行い,現に販売を行ったものと認定する
のが合理的である。
⑤原判決は「…被告ファーストリテイリングから製造工場に送付さ,
れた仕様書(乙A39,アクセサリーシート(乙A40)及び畳み)
指示書(乙A41)によれば,アクセサリーシートに一部「BARKING
DOG」のワッペンを付すことを前提とするかのような記載が存在する
が,仕様書においては当該ワッペンを付すべき旨の指示はなく,また,
畳み指示書においても,ポロシャツの図面にはワッペンの表示は存在
しない。これらの記載を総合的に見れば,流用した日本向け製品の仕
様書等に一部削除・修正の漏れている部分はあるが「BARKINGDOG」,
のワッペンを付していない製品の製造が指示されたものであることが
明確に理解し得るところである。よって,仕様書等によっても,本件
プロパティを付した製品が製造されたものと推認することはできな
い(41頁14行∼下3行)と述べるが,以下のとおり誤りである。。」
a仕様書(乙A39,45,甲A130)
仕様書においては,ワッペンに関する部分のみが何者かにより修
正液で消されているが,工場に渡すべき仕様書が修正液で消されて
作成されているということ自体が不自然である。また,仕様書にお
いて「ロゴ釦11.5㎝」との記載があり「ロゴ釦」とは「KE,,
ITHHARING」という英字のロゴが釦に円環状に刻印され
たものであることを意味しているから,これだけでも立派なプロパ
ティの使用であり,商標の使用である。また「KEITHHA,
RING」というロゴ釦が付けられているのであれば,同じく本件
プロパティが付されているとしても全く不自然ではない。さらに,
仕様書の記載は,後述するアクセサリーシートの記載とセットで解
釈すべきところ,そのアクセサリーシートでも,犬のワッペンが付
されていることが明記されている。
bアクセサリーシート(乙A41,45,甲A131)
(a)原判決は「…アクセサリーシートに一部「BARKINGDOG」の,
ワッペンを付すことを前提とするかのような記載が存在する
が(41頁下11行∼下9行)などと片付けるが,アクセサリ,」
ーシート記載のほぼすべての部分がワッペンを付けることを前提
としており,ロゴ釦も付ける前提となっているものである。
(b)すなわち,まずこのアクセサリーシートは,工場に渡され,
「工場はこのとおり,これに従って生産する」ものであり(P調
書27頁,口頭ではなく,この書面により指示がなされるもの)
である(P調書3頁。そして,真ん中の「ACCESSORIES」欄の)
左下に「DESCRIPTION(=種類)の欄があるが,上から1番目」
の「DOGWP1」と2番目の「ボタン/SET-10011.5㎜」は「SUP,
PLIER(供給者)の島田商事(上海島田商事有限公司)に×印」
がついて工場手配となっている。そして「DOGWP1」の右にSIZE,
(サイズ)欄があるが「110∼160:1pcs」とある。サ,
イズ110から160について,いずれも1個ずつワッペンを付
けるという意味になる。また,その右の「PARTS」欄で,ワッペ
ンの場所は「LEFTCHEST,つまり左胸につけることになってい」
る。さらに,ワッペンの「COLORWAY,すなわち色(の使い」
方)については,#BLE=ブルー,#RED=赤,#GREEN=緑,#L
BL=ライトブルーの4種類と指定されている。
以上のとおり,中国品番4456−002のポロシャツについ
ては,ドッグのワッペンは工場手配して,上記のサイズで,上記
の位置に上記の色で付けるという指示が明確になされている(P
調書28頁も参照。)
(c)そして,ドッグワッペンと共に工場手配される「ボタン/S
ET-10011.5㎝」は,このアクセサリーシートだけでは,ロゴ
入りのボタンになるのかどうかは分からないが,後述のとおり,
仕様書(乙A39,甲A130)では「ロゴ釦11.5cm」と
明記されており,ロゴ入りボタンであること,色は「WHITE」
(白)又は「DKBROWN(ダークブラウン)と指示され」
ている。その下の「EMBROIDERYTHREAD」とは刺繍糸のことで
あり,ワッペンの刺繍糸を意味する。右側の「PARTS」欄をみる
と「LEFTCHEST,すなわちワッペンと同じ左胸の位置に使用,」
し,右側の「COLORWAY(色の使い方)については「MATCHING」,
TOTHEEMBROIDERYCOL」つまりワッペンの色に一致させる,
という意味であり,ワッペンの刺繍糸は工場手配となっている
(P調書28頁も参照。アクセサリーシートの「童装横条翻領)
T恤」欄の下に「キースへリング」とあるのも,P調書8頁が
述べるような「消し忘れ」などではない。
したがってこのアクセサリーシートに従えば,本件プロパティ
であるワッペン,ロゴ釦を使用した「KIDS」の「キースヘリ
ング「ボーダー「ポロシャツ」が出来上がるというべきであ」」
る。
(d)P調書8頁は,左下の「HANGTAG/LABELS」欄で,バッテ
ンを付けているから間違って作られることはありえないと供述す
る。
しかし,ハングタグ(紐でつるされるタグ)やケアラベル(洗
濯方法の注意書きラベル)は,もともと日本語表記のものは中国
国内で使えないため変更する必要があるから,この部分が一部削
除されていたからといって,ワッペンやロゴ釦使用を否定する根
拠にはならない。また,仮にタグやラベルで「キースヘリング」
という文字や注意書きを使用していなくても,中国ホームページ
画像や店頭広告,地下鉄等の広告がそうであるように,本件プロ
パティを使用した製品を作っていれば,キースヘリングプロパテ
ィの著作権や商標権を侵害したことに変わりはない。
そして,アクセサリーシートの「工場手配」とは,申洲の工場
のことであり,被控訴人ファーストリテイリングの控訴人への届
け出によれば「寧波申洲針織集団有限公司(ニンボー申洲の,」
有限公司)である。そして,日本のキースヘリングポロシャツも
同じ工場で制作しているから,島田商事=「上海島田商事有限公
司」により制作されたワッペンはこの工場に持ち込まれる。しか
るに,日本のキースヘリングポロシャツは,被控訴人ファースト
リテイリングから控訴人への届け出によれば,約14万枚制作し
ており,その生産に際し,ワッペンやボタンなどの付属品につい
ては,ポロシャツの枚数通りではなく数パーセント余分に制作し
て工場に供給するのが通常であるから,2196枚程度分の付属
品を工場手配で供給することは優に可能である。
c畳み指示書(乙A41,45,甲A132)
原判決は「…畳み指示書においても,ポロシャツの図面にはワ,
ッペンの表示は存在しない(41頁下8行∼下7行)とする。。」
しかし,畳み指示書は,P調書7頁によれば「工場で出荷する,
前に,こういうふうに畳んでください」という指示,すなわち,
「工場で商品を箱詰めする段階での,畳みの指示に関する仕様書」
である。ポロシャツの畳み方には2種類存在し、ユニクロではその
どちらかを畳み指示書に記載している。
すなわち,ワッペンのないものは,折り返し場所が下の方になる
が,ワッペンつきのものは乙A41(甲A132)に表示されてい
るとおり、畳み位置をワッペンのすぐ下とする。これは店頭で棚に
重ねたとき、顧客からワッペン(ここではドッグのマーク)が付い
ていることをすぐ分かるようにするためである。そして,乙A41
(甲A132)の⑥では「ワッペンの下で折る」という指示が明,
記されている。ワッペンがついていなければ,このような畳み指示
とはならない。この点,乙A39∼41の修正については,押印の
あるE以外の者が後から行った可能性がある。
d仕様書,アクセサリーシート,畳み指示書は一致していなければ
ならない。
すなわち,ワッペン部分は削除され,ロゴ釦部分がそのままの仕
様書と,ワッペンもロゴ釦も付けるとされたアクセサリーシート,
ワッペンのところで折るとの畳み指示書とが工場に送られれば,工
場は必ず混乱し,被控訴人ファーストリテイリングに対し問い合わ
せるはずであり,被控訴人ファーストリテイリングはその段階で,
アクセサリーシートの削除が不十分・不徹底であったことに気付き,
仕様書やアクセサリーシートの原本自体が訂正されていなければな
らない。
したがって,仕様書,アクセサリーシート,畳み指示書の記載が
一致していないことや,それを工場が見逃して生産や出荷を行なう
ことはあり得ず,今に至るまで,これらが修正されていないという
こと自体が考えられない。
そうすると,仕様書とアクセサリーシートは一致しており,工場
側には何ら混乱が生じなかったとしか考えられず,論理的に,ワッ
ペンもロゴ釦もいずれも削除されていなかったか,ワッペンもロゴ
釦もいずれも削除されていたかの2つしかありえない。しかし,い
ったん削除したものを乙A39ないし乙A41でもとに戻っている
ということはありえないから,これと矛盾する乙A39のワッペン
部分の修正は,何者かにより意図的に,後からなされたものと言わ
ざるを得ない。
e原審P証人は,畳み指示書の「ワッペンの下で折る」との記載に
ついて「多分,これは担当者が消し忘れたか何かだと思いま,
す「上海事務所の生産関与の担当も,…いつも工場に行くんで。」,
すよね。…そういった日常的なコミュニケーションもしてますので。
だから,そういうことから推測して,起こりえないことじゃないか
と思います」など述べるが,日常的なコミュニケーションをして。
いるのであればなおさら,生産に入る前に,各書面の矛盾と間違い
にすぐに気付くはずであり,Pの供述は信用性に欠ける。
f「発注書(乙A42,甲A133)につき」
原審P証人は,乙A42,甲A133を発注書であると主張する
が,発注書にしては,わずか2196枚という少量で中途半端な数
となっており,これはむしろアソート指示書(組合せ指示書)とい
うべきであるし,平成17年(2005年)9月16日にプリント
アウトされており,当時の原本とはいえない。また,胸前の刺繍ロ
ゴ取消という意味の文言が入力されているが,後から加工可能な電
子データであり,信用性に欠ける。
g被控訴人ファーストリテイリングは,乙A41∼43の「仕様
書」や「発注書」について,控訴人から再三にわたり任意提出や文
書提出命令の申立までされた結果,ようやく提出してきたという経
過がある。控訴人は,被控訴人ファーストリテイリング提出の仕様
書類が修正・削除されていたという事実自体を争うものであるが,
仮に被控訴人ファーストリテイリング提出の仕様書類によって製造
が行われたとしても,本件プロパティが付された商品が作られるこ
とは明らかである。
イ原判決は,その余の中国問題についても解除原因となることを否定する
が,いずれも誤りである。
(ア)被控訴人ファーストリテイリングの行為が本件サブライセンス契約
5条に違反すること
原判決が,被控訴人ファーストリテイリングの,ポロシャツHP,T
SHOW震撼上市HP,店内タペストリー,地下鉄コルトン,テレビコ
マーシャルの使用が,本件サブライセンス契約5条に違反するとしたの
は正当であるが,被控訴人ファーストリテイリングの各広告のほとんど
を,企業イメージの広告などと決めつけた上で,契約違反の程度が小さ
いと判断したことは誤りである。
(イ)ポロシャツHPにつき
企業は,商品販売の宣伝広告のためにホームページ制作を依頼した場
合,これをホームページ上に掲載する前に,必ず,予め制作画像の詳細
を点検・チェックするはずであり,その段階で,クリックして大きくな
った画像に気付かないとか,これに本件プロパティが付されていること
を見落とすことなどあり得ない。したがって,ポロシャツHPは,当初
から意図的に本件プロパティを付して制作されたものと考えざるを得な
い。
(ウ)TSHOW震撼上市HPにつき
原判決は「イTSHOW震撼上市HP」については,その閲,「
覧に使用するディスプレイ等の性能による面があるが,多数掲載されて
いるTシャツ及びポロシャツの中から本件商品を判別することは相当困
難であるし,当該商品に付されている本件プロパティの形状を明確に認
識することは,更に困難であると認められる(42頁下8行∼下5。」
行「しかも,本件TSHOW画像は,100種類以上…のデザイン),
のTシャツの画像を用いて作成されたものであり,そのうち本件商品は
部分的に掲載されているものも含めて6点が含まれるにすぎず,…本件
TSHOW画像は,これを見た者に対し,ユニクロは200点以上と
いう豊富な品数のデザインや配色の異なるTシャツ・ポロシャツを販売
していることを訴求するものであり,一種の企業イメージの広告として
の性格を有するものと認められる(42頁下4行∼43頁5行)と。」
する。
しかし,企業イメージの広告とする趣旨は全く不明確であるし,そう
であるからと言って,契約違反の程度が小さいなどとする根拠にはなり
得ない。しかも,本件は,抽象的イメージの広告や,取扱商品と関係な
い広告ではなく,実際に販売しているTシャツ・ポロシャツを多数集め
ているという画像であり,その中に,本件プロパティが付されたポロシ
ャツが含まれているということに問題の本質がある。すなわち,販売商
品の紹介の中に,本件プロパティの認識可能な商品が含まれている限り,
この広告は,単なる企業イメージの広告ではなく,少なくとも本件プロ
パティが付されたポロシャツの販売広告としての性格を併せ持った広告
というべきである。
(エ)店内タペストリーに使用された本件TSHOW画像につき
上記画像についても,上記(ウ)と同様である。しかも,HP画像と異
なり,Tシャツやポロシャツが具体的に販売されている店内のタペスト
リー画像については,より一層販売広告性が明確になるというべきであ
り,本件サブライセンス契約5条が,販売地域を制限している以上,価
格を付しているかどうかにかかわらず「販売している」ことを前提と,
する宣伝広告の中に「販売商品」の一つとして本件プロパティを使用す
ることは,まさに販売広告として重大な契約違反というべきである。
(オ)店内タペストリーに使用された本件子供画像につき
原判決は「…本件子供画像を用いたタペストリーには,これを構成,
する個々の商品の販売価格の表示や当該商品がキース・へリングの創作
した著作物をプリント等したものである旨を窺わせる表示はないから,
本件子供画像を用いたタペストリーも,一種の企業イメージの広告とし
ての性格を有するものと認められる(43頁下11行∼下8行)と。」
する。
しかし,販売価格の表示がなくても販売広告に該当することは,上記
(エ)記載のとおりであり,また,本件プロパティそのものが使用されて
いる以上「当該商品がキース・へリングの創作した著作物をプリント,
等したものである旨を窺わせる表示」は明確にある。すなわち,本件プ
ロパティが付された商品を販売しているという広告であれば,一種の販
売広告であることは明らかであり「キース・へリングの著作物を使用,
しています」などといったコメントがあるかどうかは,本質的な問題。
ではない。
(カ)地下鉄コルトンのTSHOW画像につき
原判決は,本件TSHOW画像を使用した地下鉄コルトンも,一種
の企業イメージの広告としての性格を有するものであるとする。しかし,
地下鉄各駅でのTSHOW画像も,そこに掲載されたTシャツやポロ
シャツを被控訴人ファーストリテイリングが販売していることを宣伝し,
これを見た者をして,各販売店舗に誘引する効果を意図したものである
から,やはり販売広告としての性格を有することは明らかである。
(キ)テレビコマーシャルのTSHOW画像につき
原判決は「オテレビコマーシャル」に使用されていた本件TS,「
HOW画像については,…1回当たりの放映時間がごく限られているこ
とから,多数回放映されたことを考慮しても,一般の視聴者が当該画像
に本件商品が含まれていること及び当該商品に本件プロパティが付され
ていることを認識することはほとんど不可能というべきである(原告代
表者も,この点を認めている。甲A140。そして,本件TSHO)
W画像を使用したテレビコマーシャルも,一種の企業イメージの広告と
しての性格を有するものである(43頁下2行∼44頁6行)とす。」
る。
しかし,控訴人(原告)代表者が認めているのは,このテレビコマー
シャル画像だけを取り出して議論した場合のことに過ぎない。すなわち,
テレビコマーシャルだけでなく,ホームページ,店頭・店内,地下鉄各
駅というように,様々な場所と態様において同種同様のものが掲載され
ており,いわゆるマルチメディア・メディアミックスの方法により,数
ヶ月間にわたり,あるいは短期間集中的に,本件プロパティが付された
商品の販売広告が,他のオリジナル商品の販売広告とともに実施された
ものである(甲A87参照。)
(ク)上記のとおり,本件各広告は,本件ポロシャツのHP画像に限らず,
個別的にも全体的にも販売広告と評価すべきであるし,仮に部分的に企
業イメージ広告としての性格を有するものがあるとしても,企業イメー
ジ広告か否かにかかわらず,本件サブライセンス契約第5条違反である。
さらに,仮に当初は見落としがあったとしても,以下に照らせば,少な
くとも途中からは故意に継続されたものであることは明らかである。
①Pは,各広告に本件プロパティが使用されていることに気付いてい
た。
すなわちPは,平成16年(2004年)5月前後の頃,週に一日
は上海の各店舗を回り,一つの店で30分前後店の様子を確認してい
る(P調書21,24頁。それにもかかわらず,P調書24頁は,)
本件プロパティが付されていることに「気が付かない「意識もなか」
った」などとするが,これらのポスターやタペストリー,コルトンを
何回も目にして,これに本件プロパティが付された商品が使用されて
いることに気が付かないことはあり得ない。
また,被控訴人らは,甲A18の1の画像が小さかったため,本件
プロパティが付されていることに気が付かなかったなどと弁明するが,
被控訴人ファーストリテイリングにおいて実際にタペストリーを制作
する過程においてやりとりされたメール及び添付画像の資料(甲A8
2)によれば,被控訴人ファーストリテイリングは画像を確認しなが
らタペストリーを制作しており,制作終了までに出来あがりを確認し
ないなどということは考えられない。
さらに,控訴人が,中国ユニクロ店舗内展示物や地下鉄駅展示物内
の本件プロパティである「BARKINGDOG」の使用個数を検証したとこ
ろ,店舗内は6店舗合計140個,地下鉄では3駅42個の同プロパ
ティを使用しており,合計で182個もの本件プロパティが露出され
ていたものである(甲A86の2,甲A99。)
②商品番号が同一だからという言い訳は破綻している。
すなわち,Pは,店頭で売っていない商品の画像が掲載された理由
として,日本で販売している本件プロパティが付されたボーダーポロ
シャツと中国で売ろうとしてるボーダーポロシャツの品番が同一だっ
たからと述べ(乙A38,P調書19頁は,商品番号と画像番号が)
自動的にリンクすることによる偶発ミスであるなどと述べるが,全く
理由になっていない。
まず,日本商品と中国商品とは本体が同じ体裁の商品でも,付属物
の表示などが異なるため,同一品番ということはあり得ず,現に日本
の品番は1456−002,中国の品番は4456−002であり,
最初の一桁が違い,同一品番ではない。商品番号と画像番号が自動的
にリンクするのであればなおさら,違う品番の画像にリンクするとい
うことはあり得ないはずである。
また,Pの供述を前提にしても,キッズのボーダーポロシャツにつ
いては,日本のものは本件プロパティが使用されており,中国での販
売予定のものは本件プロパティを使用できないという認識があったは
ずであるから,品番によって画像を要求しても,キッズのボーダーポ
ロシャツ分については,使用できないことを当然理解していたはずで
ある。
③本件プロパティが付された商品を広告に使用し続けたことだけでも
解除に値する。すなわち,中国での販売事実の有無にかかわらず,こ
のような販売促進広告は,中国で被控訴人ファーストリテイリングが
本件プロパティが付された商品の販売の承認を受けて販売している外
観を作出していることに変わりはない。被控訴人ファーストリテイリ
ングの説明は矛盾だらけであるが,仮に事実だった場合でも,販売も
許容されていない商品について,価格まで付して販売促進を図るホー
ムページ画像や,店頭,地下鉄等での露出を継続し,あるいは既に行
ったことについての報告も謝罪もしてこなかったこと自体,著しい背
信行為であり,優に解除に値する。
④原判決は「本件サブライセンス契約6条は,生産関係者による本,
件プロパティ又は本件商品の流出があった場合に被告ファーストリテ
イリングが責任を負う旨定めるところ,同条は,生産工場・輸出入者
又は生産管理者等本件商品の生産に関わるすべての個人及び法人につ
いての被告ファーストリテイリングの原告に対する事前申請義務を前
提とするものであり,同条にいう「生産関係者」に被告ファーストリ
テイリング自身は含まれないことは明らかである(44頁7行∼。」
12行)とする。
しかし,被控訴人ファーストリテイリングは仕様書や発注書等の書
類により,中国子会社を通じて生産に関する指示を出している本商品
の輸出入の実質的な当事者であるから,被控訴人ファーストリテイリ
ングも中国子会社も,本件サブライセンス契約6条に生産関係者に当
たることは明白である。
⑤原判決は「…本件サブライセンス契約8条は,「販売促進・広告,
宣伝等或いは,本件プロパティを本商品以外に使用する場合は事前に
原告の承認を必要とする。」と規定する。…販売地域の制限(5条)に
反した企業イメージの広告を含む販売促進は,原告の事前の承認を問
題とするまでもなく同契約に違反することから…,8条は,販売地域
の制限が遵守されている場合を前提とするものと考えられる(4。」
4頁下11行∼下4行)とする。
しかし,販売地域制限違反か否かにかかわらず,企業イメージの広
告だとしても,事前承認がない広告は,8条違反に該当する。結局,
中国における本件各広告は,本件サブライセンス契約5条にも8条に
も重畳的に違反すると解すれば必要かつ十分であり,かつその違反の
程度は,仮に企業イメージ広告の性格を一部有していたとしても,重
大である。
原判決は,ことさらに8条違反には該当しないと結論付けることに
よって,結果的に5条違反のみとして契約違反の重大性をあいまいに
し,5条違反ではあるが販売広告に該当するのは本件ポロシャツHP
画像のみなどと限定することによって,重大な契約違反性を更に薄め
ようとするものであって,誤りである。
⑥原判決は「本件サブライセンス契約13条は,本件プロパティに,
ついての著作権及び商標権に対する第三者による侵害の事実を把握し
た場合の被告ファーストリテイリングの原告に対する報告義務を定め
るものであり,被告ファーストリテイリング自らが侵害した場合につ
いては想定されていないものと解される(44頁下1行∼45頁。」
3行「被告ファーストリテイリングは,原告の要求に応じて逐次),
報告を行ってきたこと,その報告内容は,原告の要求する報告事項が
極めて詳細かつ多数にわたることもあって,要求された期日までにす
べての報告を完了したとはいえないものの,時間的制約も考えると十
分と認められる程度のものといえることなどを考えると,実質的に見
ても,同被告は原告に対する報告を誠実に実施したものと認められる。
…(47頁9行∼14行)とする。」
aしかし,本件サブライセンス契約13条は,第三者による侵害事
実を把握した場合の報告義務を定めることによって,サブライセン
サーたる控訴人が,著作権や商標権の侵害事実を的確に把握し,こ
れに適切に対処するとともに,マスターライセンサーに対しても適
正に報告することができるようにするためのものである。この点は,
被控訴人ファーストリテイリング以外の第三者が侵害した場合でも,
被控訴人ファーストリテイリングが侵害した場合でも,何ら変わり
はない。契約上に第三者と表現されているのは,被控訴人ファース
トリテイリング自身が自ら著作権及び商標権を侵害してはならない
ことは自明のことであるから,あえては書いていないだけのことに
過ぎない。
b被控訴人ファーストリテイリングないし中国子会社は,遅くとも
平成16年(2004年)8月12日の時点では,ホームページ画
像に本件プロパティを無断使用したことに気付いたのであるから,
その時点で速やかに控訴人に事実報告をすべきであったのにこれを
怠り,控訴人が指摘するまでその事実を隠蔽し続け,現在に至るま
で侵害行為の詳細説明を拒否し続けており,本件サブライセンス契
約13条違反は明らかである。
c被控訴人ファーストリテイリングが,控訴人に対する報告を誠実
に実施したというのは誤りである。すなわち,例えば甲A14,1
5の中国ホームページ画像について,控訴人は,再三にわたり画像
自体の提供を求めてきたが,被控訴人ファーストリテイリングはこ
れが存在しないと主張し続けた。しかるに,甲A14の1,2,15
の1∼4の画像は,平成16年7月30日時点で,甲A14の1,2,
15の1∼4のとおりのコンテンツとしてインターネット上のホーム
ページ内に存在し,平成17年4月8日まで,外部からアクセス可
能だった(甲A14の1,2,15の1∼4,54の1,2,73∼74,
75の1,2,76,乙A5。したがって,被控訴人ファーストリ)
テイリングが,これらの画像が完全にホームページ上から削除され
ていたと説明していたこと自体が虚偽であったというべきである。
⑦原判決は「原告は,平成16年8月10日,同被告の中国向けホ,
ームページ中の取扱商品紹介ページに,「BARKINGDOG」のワッペン等
を付した子供向けボーダーポロシャツ(4色)の画像(甲A14の1及
び2)を発見したが,同被告に対しては,上記①の「重大な契約違反
行為に対する通告書」(甲A3)で,その事実を初めて指摘した。原告
代表者(甲A67を含む。)は,そのような遅延は証拠の確保のためで
あった旨供述するが,証拠確保の目的だけで4か月近くの遅れを説明
することはできない(47頁2行∼7行)とする。。」
しかし,控訴人は,平成16年8月10日,著作権・商標権侵害の
事実を把握した後,まず,最大の侵害行為である価格付きホームペー
ジ画像による宣伝広告行為を直ちに止めさせる応急措置がとれたこと
を確認した上で,引き続いて侵害行為の有無や内容を性格に把握する
ため必要な調査を行っていたのであり,その間4か月程度を要したか
らといって,何ら非難されるものではない(甲A78の1,2参照。)
⑧原判決は「…原告側の態度は,いずれの問題についても過剰とも,
いえるほどに強硬であったと評価せざるを得ない…(47頁下9行」
∼下8行)とするが,知的財産権の侵害の重大性について無理解であ
る。
⑨被控訴人ファーストリテイリングの販売地域制限違反行為は,本件
プロパティの商品化事業の根幹に関わる違反行為であり,それ自体重
大な契約違反である(甲A100の「意見書」参照。)
とりわけ控訴人は,中国での本件各広告が掲示・掲載された当時の
平成16年(2004年)3月30日頃,中国での同ブランドの高価
格での販売政策を展開すべく,中国国際服装服飾博覧会に日本からア
パレルとして唯一出店していた(甲A24,27の1∼3など。とこ)
ろが,その一方で被控訴人ファーストリテイリングは,同年3月22
日頃から,本件ポロシャツ画像をホームページに掲載し始め,しかも
甲A14の1,2にあるとおり,定価59元のキースヘリングポロシャ
ツを売価29元に値引きして販売するという,低価格値下げ路線のイ
メージを蔓延させていたのであり,このような被控訴人ファーストリ
テイリングの行為は,中国地域において独占的通常使用権を許諾され
ている控訴人の販売政策に対し,直接的かつ決定的なダメージを与え
たものというべきである(甲A80。)
ウ100円販売問題
(ア)原判決は「…本件のような知的財産権のライセンス契約における,
ライセンサーによるライセンシーの販売価格の拘束は,ライセンシーの
価格決定の自由を制限するものとして,私的独占の禁止及び公正取引の
確保に関する法律(独占禁止法)19条において禁止される不公正な取
引方法のうち拘束条件付取引(一般指定13項)に該当し,違法となる
可能性があり,この点を併せ考えると,本件サブライセンス契約3条の
承認権限は,実際の販売価格の設定には及ばないものと認められる」。
(48頁7行∼12行「…季節落ち商品や在庫数が乏しくなり魅力的),
な展示ができなくなったために販売力の低下した商品等を売り切る目的
で値下げ販売することは,売り切らずに保管ないし廃棄する場合のコス
ト等をも考慮すると「正当な理由」があるものと評価される…(48,」
頁下6行∼下3行)とするが,誤りである。
(イ)独占禁止法21条の規定の解釈につき
まず,独占禁止法21条は「この法律の規定は,著作権法,…商標,
法による権利の行使と認められる行為にはこれを適用しない」と定め。
るが,何が具体的に「権利の行使」として許容されるかという点につい
ては必ずしも明らかでない。したがって,価格に関する制限行為といえ
ども,あらゆる行為がおよそ一般的に「権利の行使」に該当しないと解
するべきではない。
(ウ)ブランドイメージの維持向上の重要性
本件で,控訴人が解除原因との関係で問題としているのは,一般的な
価格制限の権限の有無ではなく,具体的に,定価1000円∼1900
円(税抜き)の商品を税込み100円というような極端な価格でのブラ
ンド商品を販売することの制限が許されないのか,という点である。
(エ)不当廉売を正当化する理由がないこと
被控訴人ファーストリテイリングは,当該商品(1万1746枚)を
税込み100円(税抜き96円)で販売することによって,わずか10
0万円程度の利益を上げたに過ぎない一方,上記販売の対象となった合
計30品番につき,それまでに合計約53万枚を販売し,総売上4億3
000万円,総粗利2億7000万円を上げている(甲A149。)
すなわち,それまで各品番の商品を多数販売し,既に2億7000万
円の利益を得ておきながら,その270分の1程度の利益を得るために,
ブランドイメージを大きく損なってまで販売しなければならない合理性
はない。B品でもない正価1000円∼1900円の商品について,原
価を大きく下回り,正価の10分の1から20分の1近くの売価で販売
することによるブランドイメージの低下は図り知れない。
(オ)中止合意違反や虚偽報告による販売継続
被控訴人ファーストリテイリングは,100円販売の事実が発覚後,
控訴人側と協議し,100円販売行為はブランドイメージを低下させる
おそれがあることを自認した上でその販売中止を約束したにもかかわら
ず,虚偽の報告を繰り返して販売を継続し,100円販売の経緯自体に
ついても虚偽の報告を繰り返して,両者の信頼関係を破壊した。
すなわち,控訴人が100円販売に気付いて釈明を求めたのに対し,
Gは,H取締役と協議した上で,その指示に基づき「売価変更申請書,
類にキースへリングの商品が入っていることをきちんと確認できていな
かった為,承認者が見落としてしまったのが原因です(甲A29)と」
虚偽の説明をし,これに対し,控訴人が甲A2の通告書で,紛れ込んで
しまった単純ミスというGの説明は虚偽ではないかと指摘したのに対し
ても,I代表取締役,H取締役が連名で「報告した内容に相違ござい,
ません」などと虚偽の説明を繰り返した。
1900円のものを100円で売ることは,A品をB品以下の価値で
売って,その商品の価値を,さらにはブランド全体の価値を否定する行
為であることを自ら認識していたからこそ,I,Hら被控訴人ファース
トリテイリングの役員は,控訴人に何らの事前協議も行わず,事後に虚
偽報告を行うことを指示したものである。
(カ)被控訴人ファーストリテイリングは,ブランドイメージの低下を認
め,販売中止を合意した。すなわち,被控訴人ファーストリテイリング
のGは,平成16年8月31日のメール(甲A29)において,税込1
00円販売は,ブランドイメージを低下させるおそれがあることを認め,
税込100円販売の中止を約束した。
被控訴人らは,平成16年9月22日のHメール(甲A55)が「キ
ースへリングのブランドイメージを毀損したという認識はございませ
ん」としているから,被控訴人ファーストリテイリングにはかかる認識
はなかったと主張する。しかし,これは,9月22日に「該当商品の一
次引き上げが完了した(乙A12)ということを前提として,引き上」
げは完了したからブランドイメージを毀損しなくて済んだという主張を
しているものに過ぎず,引き上げを行わずに税込100円販売を継続す
ればブランドイメージを低下させると認めていたことと矛盾しない(証
人G調書8頁,13頁∼14頁参照。)
(キ)被控訴人ファーストリテイリングのGは,証人尋問において,本件
プロパティが付された商品を税込100円,税別96円で販売したこと
は,平成16年8月が初めてだったと証言したが,甲A135の1∼3に
照らし,かかる証言も虚偽である。
エB品販売問題
(ア)原判決は「…被告ファーストリテイリングが意図的に製造上のB,
品を販売したことや,B品として販売されたものの中で製造上のB品の
割合が相当高いことを認めるに足りる証拠はない(50頁下10行∼。」
下8行)とする。しかし,キースへリング商品,ジラード商品,バスキ
ア商品について,B品が販売されていた状況と,その写真撮影物をまと
めたものである甲A95によれば,糸のほつれやキズなどの縫製不良,
キースへリングプロパティのワッペン内の汚れ,ミシンのダブりなど,
明らかに製造段階でのB品も含めて販売されている。すなわち,製造段
階,販売段階などという区別は,控訴人からB品販売を指摘されて初め
て持ち出してきた議論であり,実際は,このような区別なくB品が販売
されていたことは明らかである。
(イ)原判決は「販売過程において発生したB品…は,製造され店舗に,
並べられた段階では不良な点はなかったものであり,不良の程度にも様
々なものがあるところ,本件サブライセンス契約4条は,同被告は原告
の承認したサンプルに限り本件商品を製造・販売し得る旨を定めている
にすぎないから,販売上のB品の販売が本件サブライセンス契約4条に
違反すると認めることはできない(50頁下7行∼下2行)とする。。」
しかし,そもそも消費者にとっては,製造段階か販売段階かにかかわ
らずB品に変わりはなく,キース・へリングというブランド商品にB品
が混じっており,これが100円その他の低価格で売られたという点で
は同じである(証人G調書8頁,23頁∼24頁,甲A80参照。ま)
た,本件サブライセンス契約4条は,被控訴人ファーストリテイリング
は控訴人の承認したサンプルに限り本商品を製造・販売することができ
ると明記しているところ,このいわゆるサンプルアプルーブは,商品の
デザイン画だけでなく,ブランドにふさわしい品質を備えているかどう
かもチェックするために行われるものである(甲A35の1∼20,36
の1∼10,37の1∼4参照。)
(ウ)原判決は「…販売上のB品の販売が本件サブライセンス契約4条,
に違反すると認めることはできない。このように解することは,平成1
7年1月3日の協議の際,原告代表者自身「販売上のB品については,
何の取り決めもない」旨発言したこと(甲A140)とも合致する」。
(50頁下4行∼51頁1行)とする。
しかし,そうであるからと言って,販売上のB品の販売が許容される
ことにはならない。ブランド商品のB品販売自体が,当該ブランドの品
質保証機能を損ない,ブランドイメージの低下につながり,ライセンサ
ーの信用や利益を害することになるものであり,また,控訴人から指摘
された後も,被控訴人ファーストリテイリングは,各店舗に対し,B品
販売の有無も,製造段階のB品か販売段階のB品かの区別も何ら行って
いない。
オ無承認チラシ問題
(ア)原判決は「…本件サブライセンス契約8条は,実質的な価格拘束,
につながるおそれがある販売価格のみを理由とするチラシの不承認を許
容していないものと解すべきである(51頁下13行∼下11行)と。」
する。
しかし,本件サブライセンス契約8条には,正当な理由なく承認を拒
否してはならないなどの限定文言は一切ないから,控訴人は,理由のい
かんを問わず,広告宣伝への本件プロパティ使用を拒否できるものであ
り,一定の条件や基準を設け,その条件を満たさない場合は,広告宣伝
を承認しないということも,当然に許容される。
(イ)原判決は「…本件チラシについての原告の不承認は,本件サブラ,
イセンス契約8条の許容していない理由に基づくものであり,被告ファ
ーストリテイリングによる本件チラシの配布は本件サブライセンス契約
8条に違反しないか,原告が本件チラシが原告の承認を得ていないこと
を主張することは信義則に反すると認めるべきである(51頁下10。」
行∼下6行)とするが,誤りである。
①本件の事実関係は,以下のとおりである。
a平成16年9月17日,被控訴人ファーストリテイリング担当者
から控訴人担当者に対し,本件商品の長袖Tシャツにつき,販売開
始後間もない10月2日から1週間,当初計画の売価1500円を
変更して790円で限定販売するとのチラシ掲載の許可申請があっ
た(甲A39。)
b控訴人は,平成16年9月21日,ブランド価値維持の観点から,
当初計画どおり,前年の同時期と同じく,990円での限定販売価
格であればチラシへのプロパティ掲載を承認するが,790円での
チラシ掲載は承認しない旨の回答をした(甲A40,41。)
c控訴人は,甲A40のやりとりの後,甲A41において「6)1,
0/2レギュラーウラキースユニセックスロンT欄(016395-003
/016395-002/016395-004/016415-001/016415-00210/8まで限定価
格790円」について「下記のG様とのやりとりのごとく承認でき),
ません」とし,また「7)10/2レギュラーウラバスキアユニ。,
セックスロンT欄(016551-001/016551-002/016551-004/016551-0
0610/8まで限定価格790円」についても「下記のG様とのやり),
とりのごとく承認できません」としており,当該商品及び本件プ。
ロパティを露出した「欄」ごと承認できないことをはっきりと伝え
た。
dしかし,被控訴人ファーストリテイリングは,控訴人が上記の通
り,790円でのチラシ掲載欄部分を明確に拒否したにもかかわ
らず,無許可のままで10月2日にチラシ配布を強行し,全国6
71店舗に関し,合計約4000万部のチラシを配布した。控訴
人の抗議に対して被控訴人ファーストリテイリングは,控訴人の
承認をとるような問題ではないと回答した。
②以上の事実を踏まえて検討するに,被控訴人ファーストリテイリン
グは全国670店舗を擁し,数千万枚単位でチラシを配布するもの
であるから,このような状況において,ブランド商品につき,シー
ズン開始早々に半額程度に値下げするとか,限定期間の販売価格と
称しながら,これを短い期間に繰り返すなどといった販売方法をチ
ラシ宣伝する場合は,ブランドイメージの低下につながりかねない。
特に,当該チラシ(甲A56)は,単に本商品を掲載するだけでは
なく,本件プロパティそのものをピックアップして,これと「超お
買得価格「超目玉」といったイメージ文言とセットで強調している。」
したがって,ブランドイメージにそぐわないような販売価格・販
売方法に関しては,控訴人がブランド使用許諾者としてこれに意見
を述べ,修正を要請することは独占禁止法違反ではない。そして,
当該価格でのチラシ掲載を拒否することは,当該価格での販売その
ものの拒否とは異なるから,独占禁止法違反とはならない。現に被
控訴人ファーストリテイリングは,この控訴人の承認権限があるこ
とを認めて事前に控訴人の承諾を求め,控訴人がブランドイメージ
を損うような価格設定での販売チラシを承認しないときは,掲載を
見合わせるという扱いをしていた(甲A42。)
カ商品見本提供問題
(ア)原判決は「…商品見本提供義務に違反する行為があったが,商品,
見本の提供の遅れは改善されてきていたものである(52頁4行∼。」
5行)とする。しかし,平成16年(2004年)7月8日のGメー
ル(乙A44)をめぐるやりとりにおいて,控訴人代表者がGに対し,
電話において「今後きちんと最終商品見本提供義務を履行するのであ,
れば,今回規定数が足りないものについて,再生産までしなくてい
い」と述べたのは,あくまで,今後の最終商品見本提供義務の遵守が
前提であった。それにもかかわらず,その電話による協議の後も被控
訴人ファーストリテイリングは,甲A97にあるとおり,最終商品見
本提供を懈怠し,懈怠期間が1ヶ月以上に及ぶものが存在したのであ
り,改善がなされていた,などとは全く評価できない。
(イ)原判決は「…原告と協議の上最終的には送付する必要はないとさ,
れた物等についても,被告ファーストリテイリングに本件サブライセ
ンス契約9条に違反する事態があったことは事実であり,この点は,
継続的取引契約の解除の可否の判断に当たり,一事情として考慮され
るべきである(52頁6行∼9行)とするが,実際には一事情どこ。」
ろか全く考慮されていない。
キ上記ア∼カを前提とする第1次解除理由の有無につき
(ア)原判決は「…被告ファーストリテイリングには,組織のすみずみ,
まで本件サブライセンス契約の趣旨が徹底されておらず,同契約に違
反する点が多々あったものであるが,その違反の内容,程度,その後
の再発防止の努力等その他一切の事情を総合考慮すると,本件サブラ
イセンス契約の継続を困難ならしめるような背信行為の存在等やむを
得ない事由が存在するとはいえず,本件サブライセンス契約の第1次
解除は無効であるといわざるを得ない(52頁下9行∼下4行)と。」
する。
(イ)しかし,上記ア∼カに照らせば,被控訴人ファーストリテイリング
の違反の内容,程度は重大なものであり,被控訴人が再発防止の努力
をしたことも認められない。すなわち,控訴人と被控訴人ファースト
リテイリング間のジラード契約において,本件サブライセンス契約8
条と同旨の条項に違反する行為があったところ,被控訴人ファースト
リテイリングは,中国HPにおいても日本HPにおいても,商品画像
データを掲載する際には控訴人の承認が必要であること,これを怠る
ことは本契約と同じ規定である第8条に違反する重大な事項であるこ
とを表明し,今後,控訴人に事前承認を申請する体制を徹底すること
を約束した(甲A22の1∼4,23の1,2。それにもかかわらず,被)
控訴人ファーストリテイリングは,中国での販売すら許容されていな
い本件商品の販売広告が,ホームページ上に掲載され,なおかつ,メ
ディアミックス手法により,中国中に露出し続けていたのであり,故
意または少なくとも重過失により,重大な契約違反行為を継続してい
たものであり,背信行為の存在は明らかである。
(ウ)甲A153のJ教授意見書によっても,本件で問題とされている被
控訴人の中国での宣伝行為等が,本件サブライセンス契約の基礎をなす
信頼関係を破壊するものであることが明らかである。
(4)本件サブライセンス契約の第2次解除に理由があることについて
ア原判決は「原告は,被告ファーストリテイリングからデザイン等に関,
する承認申請があったときは,暫定的承認であることの注意書を付した上
で承認する予定であった旨主張するが,…原告は,本件仮処分命令の発令
後も,原告の主張する中国問題の解決条件に同意しない限り,宣伝広告に
関する承認申請に限らず,デザイン等に関する承認申請に対しても承認を
与えることはない旨を断固として示していたことは明らか…(53頁6」
行∼11行「本件において,原告は,本件サブライセンス契約成立後で),
ある平成16年12月ころから,被告ファーストリテイリングからの宣伝
広告及びデザイン等に関する承認申請に承認を与えないことを明示し,そ
の後もその態度を保持し続けた…(53頁下3行∼下1行)とするが,」
誤りである。
(ア)原判決は,控訴人がチラシの承認のみについて拒絶を表明したにす
ぎないのに対し,宣伝広告全般を拒否したかのように認定し,さらには
デザイン等に関する承認申請も拒否したかのように認定しているのは誤
りである。
(イ)商品のデザイン等に関する承認申請の問題と,宣伝広告のうちチラ
シの承認申請の問題とは,明確に区別すべきである。
①aデザイン等に関する承認申請について「平成16年12月ころか
ら「承認を与えないことを明示し」たなどという事実は全くない。」
現に平成16年(2004年)12月6日以降も,平成17年
(2005年)2月4日の第1次解除までの間,被控訴人ファー
ストリテイリングから10回以上のデザイン等承認申請がなされ
ており,控訴人はその承認手続を行っている。
bデザイン等に関する承認申請は,デザインに関する承認申請と,
サンプルに関する承認申請とに大きく分けられる。
そして,平成17年(2005年)秋冬物については,既にデ
ザインアプルーブはなされていたが,被控訴人ファーストリテイ
リングは,サンプルを提出しその承認申請をした事実はない。
また,被控訴人ファーストリテイリングは,第1次解除日以降,
平成17年5月23日付けでチラシアプルーブを申請したことは
あるが,デザインアプルーブを申請したことは一度もない。
②aチラシについては,控訴人は被控訴人ファーストリテイリングに
対し,平成16年(2004年)12月6日のメールにおいて,
「御社に別途通告しております中国著作物無断使用問題が解決する
までは、12/7(火)以降のチラシに関して、当社が貴社に対し
過去に承認したか否かの事実に関わらず、チラシの掲載を一切禁止
致します」と通知したが,被控訴人ファーストリテイリングもこ。
れを容認してきた(甲A136,乙B4。)
b本件サブライセンス契約において,チラシの承認を含めた販売促
進・宣伝広告に関しては,何ら承認・不承認の権限行使に制約は規
定されていない。すなわち,本件サブライセンス契約8条自身が,
被控訴人ファーストリテイリングのチラシ申請に対する控訴人の不
許可という事態,すなわちこの点に関する反対給付の危殆化に関す
るリスクを契約で引き受けているものである。したがって,何ら制
約を設けていないチラシ承認に関する拒絶を理由として,不安の抗
弁権行使の合理的理由とすることはできない。
c本件サブライセンス契約において,チラシの承認権が控訴人にあ
ることは明らかであり,また本件プロパティを無断使用した広告が
行われたことから,その問題が解決するまではチラシ掲載を禁止す
るとの措置は当然かつ妥当な措置である。
d平成17年4月28日の更新の意思表示後,被控訴人ファースト
リテイリングがチラシアプルーブを申請し控訴人がこれを拒否した
のは,6/4号の一度だけに過ぎない(乙B4。)
(ウ)控訴人は,第1次解除後も,被控訴人ファーストリテイリングから
デザイン等に関する承認申請があったときは,暫定的承認であることの
注意書を付した上で承認する予定であった(甲A137,146,15
0,甲B5,乙B3∼4,6,8。)
イ甲A152の1のJ教授意見書によっても,被控訴人ファーストリテイ
リングの行った100円販売,B品販売,未承認チラシ掲載をもって,本
件サブライセンス契約の解除事由となることは明らかである。
ウ原判決は「…同被告は,不安の抗弁権により,先履行義務を負う20,
06年度のミニマムロイヤリティ1億円の支払を拒むことができるという
べきである(54頁1行∼2行)とする。。」
しかし,平成18年1月1日以降の準備は,被控訴人ファーストリテイ
リング自身,平成17年5月16日付けのメールにおいて「更新に関し,
ての貴社のお考えをお聞かせいただきたい」理由として「来期に向けた,
準備もございますので」と述べていることからも明らかなように,更新の
意思表示以降平成17年12月31日までの間に行うものである。そうす
ると,被控訴人ファーストリテイリングは,平成17年4月28日の更新
オプション権の行使により,平成17年9月30日に最低保証料不払いが
確定するまでの約5か月間,同被控訴人の「平成18年(2006年)独
占販売のための独占準備権」を享受しているというべきであり,平成17
年9月30日の最低保証料支払期限の前に,既に反対債務の履行を受けて
いるというべきであるから,被控訴人ファーストリテイリングらの平成1
7年9月30日の平成18年(2006年)分最低保証料の支払義務は,
そもそも,被控訴人ファーストリテイリングらの先履行義務でなく,不安
の抗弁は成立しない。
(5)第3事件について
上記(3),(4)に照らせば,第1次解除,第2次解除ともに有効というべき
であるから,第3事件についても控訴人の請求には理由がある。
(6)損害額について
ア上記第1の1(1)(1次的請求)記載の各請求につき
上記はいずれも,第1次解除(平成17年2月4日)が有効であること
を前提とする請求である。
(ア)同イ記載の請求(被控訴人利益)
第1次解除以降平成18年5月7日までの本件プロパティが付された
商品の総売上枚数は116万1169枚であり,上代販売金額合計は1
6億5670万3090円である。しかるに,解除時における当該商品
の簿価は0円に相当するのであるから,原価を差し引くべきでなく,実
際に販売した価格(適正実売価格)が被侵害利益というべきである。そ
して,その適正実売価格は上代の77.64%であるから,適正実売価
格合計は12億8624万7100円であり,これに消費税5%を加算
した13億5055万9455円が被控訴人利益の額であり,控訴人の
被った損害額である。
(イ)同ウ記載の請求(控訴人利益)
第1次解除以降平成18年5月7日までの本件プロパティが付された
商品の総売上枚数は116万1169枚であり,控訴人の粗利益は,商
品1枚当たり1004円である(甲A157)から,これらを乗じて消
費税5%を加算した12億2410万4360円が控訴人利益の額であ
り,控訴人が被った損害額である。
(ウ)同エ記載の請求(実施料)
本件の場合,もともと契約上は,解除時点での在庫品はすべて廃棄し
なければならないという特殊な状況における相当な対価の算定が問題と
なっている。そして,平成16年の本件プロパティが付された1500
円(当初設定上代)Tシャツの平均実売価格が1230円(対上代82
%)であり,かかる平均販売価格1230円から原価450円を差し引
いた780円を1枚当たりの実施料と考えるべきである。したがって,
これに,第1次解除以降平成18年5月7日までの本件プロパティが付
された商品の総売上枚数116万1169枚を乗じて消費税5%を加算
した9億5099万7411円が実施料額であり,控訴人が被った損害
額である。
イ上記第1の1(2)(2次的請求)記載の各請求につき
上記はいずれも,仮に第1次解除が無効であるとしても,第2次解除
(平成17年10月1日)が有効であり,かつ,不安の抗弁が認められず,
解除の効力が同日から発生することを前提とする請求である。
(ア)同イ記載の請求(被控訴人利益)
第2次解除の効力を,信義則上,解除日(平成17年10月1日)か
ら平成17年4月29日まで遡らせた分の請求である。
すなわち,平成17年4月29日から平成17年9月30日までの本
件プロパティが付された商品の総売上枚数は50万3072枚であり,
上代販売金額合計は7億0773万5557円である。しかるに,解除
時における当該商品の簿価は0円に相当するのであるから,原価を差し
引くべきでなく,実際に販売した価格(適正実売価格)が被侵害利益と
いうべきである。そして,その適正実売価格は上代の79.29%であ
るから,適正実売価格合計は5億6118万8781円であり,これに
消費税5%を加算した5億8924万8220円が被控訴人利益の額で
あり,控訴人が被った損害額である。
(イ)同ウ記載の請求(被控訴人利益)
第2次解除以降平成18年5月7日までの本件プロパティが付された
商品の総売上枚数は5万2972枚であり,上代販売金額合計は700
6万8425円である。そして,上記ア(ア)記載のとおり,実際に販売
した価格(適正実売価格)が被侵害利益というべきであり,適正実売価
格は上代の77.67%である。したがって,適正実売価格合計は54
42万0283円であり,これに消費税5%を加算した5714万12
97円が被控訴人利益の額であり,控訴人が被った損害額である。
(ウ)同エ記載の請求(控訴人利益)について
第2次解除以降平成18年5月7日までの本件プロパティが付された
商品の総売上枚数は5万2972枚であり,控訴人の粗利益は,商品1
枚当たり1004円である(甲A157)から,これらを乗じて消費税
5%を加算した5584万3082円が控訴人利益の額であり,控訴人
が被った損害額である。
(エ)同オ記載の請求(実施料)について
上記ア(ウ)記載のとおり,商品1枚当たりの実施料は780円と考え
るべきであるから,これに,第2次解除以降平成18年5月7日までの
本件プロパティが付された商品の総売上枚数5万2972枚を乗じて消
費税5%を加算した4338万4068円が実施料額であり,控訴人が
被った損害額である。
ウ上記第1の2(3)(3次的請求)記載の各請求につき
上記はいずれも,仮に第1次解除が無効であるとしても,第2次解除
(平成17年10月1日)が有効であることを前提とし,かつ,仮に不安
の抗弁が認められた場合であっても平成18年1月1日には上記解除の効
力が発生することを前提とする請求である。
(ア)同イ記載の請求(被控訴人利益)
平成18年1月1日から平成18年5月7日までの本件プロパティが
付された商品の総売上枚数は5097枚であり,上代販売金額合計は6
50万5421円である。そして,上記ア(ア)記載のとおり,実際に販
売した価格(適正実売価格)が被侵害利益というべきであり,適正実売
価格は上代の76.55%である。したがって,適正実売価格合計は4
97万9964円であり,これに消費税5%を加算した522万896
2円が被控訴人利益の額であり,控訴人が被った損害額である。
(イ)同ウ記載の請求(控訴人利益)
平成18年1月1日から平成18年5月7日までの本件プロパティが
付された商品の総売上枚数は5097枚であり,控訴人の粗利益は,商
品1枚当たり1004円である(甲A157)から,これらを乗じて消
費税5%を加算した537万3257円が控訴人利益の額であり,控訴
人が被った損害額である。
(ウ)同エ記載の請求(実施料)
上記ア(ウ)記載のとおり,商品1枚当たりの実施料は780円と考え
るべきであるから,これに,平成18年1月1日から平成18年5月7
日までの本件プロパティが付された商品の総売上枚数は5097枚を乗
じて消費税5%を加算した417万4443円が実施料額であり,控訴
人が被った損害額である。
エ上記第1の2記載の請求につき
(ア)第1次解除(平成17年2月4日)が有効の場合,上記第1の1
(1)イ記載の,解除後の販売によって生じた損害のほかに,被控訴人フ
ァーストリテイリングが平成17年4月28日に本件サブライセンス契
約につき更新の意思表示を行い,平成18年1月1日以降も商品の販売
を継続することを宣言し,かつ,同被控訴人が本件サブライセンス契約
の被許諾者の地位にあることを仮に定める旨の仮処分命令の発令を得た
ことにより,控訴人が平成18年1月1日以降に直接生産・販売するた
めの営業活動及び他者とライセンス契約を締結するための営業活動を行
うことが不可能となったという損害が控訴人に発生している。その損害
額は1億円である。
(イ)仮に第1次解除が無効であるとしても,本件サブライセンス契約に
基づき,控訴人は被控訴人らに対し,平成17年9月30日が支払期限
と定められたミニマムロイヤリティを請求することができ,その額は1
億円である。
オ控訴人は,上記ア∼ウの各請求の認容額の10%の割合の弁護士費用相
当額(ただし認容額と弁護士費用相当額の合計が各請求金額を上回るとき
は,同金額に満つるまでの額)の損害を被った。
(7)本件における被控訴人らの行為は,不正競争防止法2条1項1号の周知
表示混同惹起行為等にも該当するものである。
3被控訴人ら
(1)新たな請求原因事実に対する認否
ア1次的請求について
(ア)1次的請求ア(不存在確認請求)
請求原因①は不知,②,③は認め,④は解除の意思表示がされたこと
は認めるが解除の有効性については争い,⑤,⑥は認める。
(イ)1次的請求イ・ウ・エ(金銭支払請求)
請求原因①は上記(ア)に記載した認否と同じ。同②,③は否認する。
イ2次的請求について
(ア)2次的請求ア(不存在確認請求)
請求原因①は上記ア(ア)に記載した認否と同じ。同②,④は認め,③
は解除の意思表示がされたことは認めるが解除の有効性については争う。
(イ)2次的請求イ(金銭支払請求)
請求原因①は上記ア(ア),イ(ア)に記載した認否と同じ。同②∼④は
否認する。
(ウ)2次的請求ウ・エ・オ(金銭支払請求)
請求原因①は上記(ア)に記載した認否と同じ。同②,③は否認する。
ウ3次的請求について
(ア)3次的請求ア(不存在確認請求)
請求原因①は上記イ(ア)に記載した認否と同じ。
(イ)3次的請求イ・ウ・エ(金銭支払請求)
請求原因①は上記イ(ア)に記載した認否と同じ。同②,③は否認する。
エ4次的請求について
請求原因(ア)は上記イ(ア)に記載した認否と同じ。同(イ)は否認する。
(2)訴えの不適法について
ア本件各権利の不存在確認請求につき
(ア)控訴人の上記請求は,その請求内容からみて,いずれも,現在の法
律関係の確認ではなく,過去の法律関係,すなわち過去に控訴人が行っ
た解除の意思表示や被控訴人ファーストリテイリングが行った更新の意
思表示の有効性の判断を求めるものと言わざるを得ず,不適法である。
(イ)しかも,確認の訴えは,原告の権利又は法律的地位に危険・不安が
現存し,その危険・不安を除去する方法として確認判決することが有効
適切である場合に認められるものであるところ,控訴人は,既に平成1
7年12月31日にマスターライセンシーの地位を喪失しているから
(平成18年8月10日付け控訴人第2準備書面5頁を参照,キース)
・へリングの著作物等を管理する権限を有しておらず,その使用につい
て許諾を与える立場にもない。したがって,管理権限を失っている控訴
人には,確認訴訟を認めなければならない危険や不安は存在せず,確認
の利益はない。
(ウ)控訴人は,被控訴人ファーストリテイリングとの関係で本件各権利
の不存在確認請求をするものであるが,被控訴人ファーストリテイリン
グはユニクロ事業に関する権利義務を吸収分割により被控訴人ユニクロ
に承継させているので,確認訴訟における当事者選択の適否という点か
らも訴えは不適法である。
イ損害賠償請求につき
(ア)控訴人は,第1事件の各損害賠償請求につき,あえて1次的請求,
2次的請求,3次的請求として請求するところ,その内容からして,1
次的請求と称する損害賠償金額の一部を2次的ないし3次的請求と考え
て請求しているようである。しかし,民事訴訟法上,このような包含関
係にある請求は請求が両立し得ない関係とは言い難いから,主位的請求
・予備的請求の関係に立ち得ない。このように,損害賠償に順位を付け
ること自体,訴訟法上許されない。
(イ)第1事件の各損害賠償請求と第3事件の各損害賠償請求は,解除以
降の商品の販売行為につき複数の損害賠償請求を同時に行っているもの
であるから,いずれも両立し得ない関係にある。したがって,両者を単
純併合のまま請求することは不適法である。
(3)本件サブライセンス契約の第1次解除に理由がないこと
控訴人の主張はすべて争う。主な反論は下記のとおりである。
アロゴ釦付きポロシャツの販売につき
(ア)販売の事実の有無
控訴人は,中国において被控訴人ユニクロらが,少なくともロゴ釦付
きポロシャツを販売していたと主張し,甲A155の1∼2,156の1
∼2等を提出し,当審における検証において釦付きポロシャツを提示す
るが,以下の(ア)∼(ウ)に照らし,甲A155の1∼2,156の1∼2の
信用性は極めて低く,また,控訴人が検証において提示する釦付きポロ
シャツが偽造品である可能性も否定できない。
①すなわち,甲A156の1∼2(調査報告書)は,控訴人の依頼した
調査員が,キース・へリングの文字が刻印された釦付きのキッズボー
ダーポロシャツが中国で販売されていたか否かに関し,中国にあるユ
ニクロの上海中聯店の店長代行及びレジを担当していた店員等から調
査した内容を録音し,それを反訳し,さらに日本語に翻訳したものと
のことである。
しかし,店長代行において,本件プロパティを付した商品の存在を
認めた事実は一切なく,また,控訴人が提出した上記調査報告書には,
重要な部分で記載されていない発言が存在したり,本来存在しない発
言があえて挿入されたりしている。つまり,控訴人の調査員の「KE
ITHHARING」との発言は,会話中一度のみで,しかもほと
んど聞き取れず(乙A53,55∼56,上記調査報告書中に,発)
言がないにもかかわらず括弧書きで「…ボタンの文字(KEITH
HARING)…」と記載しており,また,調査の手法自体,店長代
行らの錯誤を巧みに利用するものであり,さらに,調査員は,店長代
行らに対して,持参したボーダーポロシャツを明確に提示もしていな
い。
②甲A155の1∼2(中国公正証書)は,控訴人が中国で行った懸賞
金広告を端緒に,Lなる者が控訴人に提出したポロシャツの購入経緯
等について,公証人の面前でLの供述をまとめたものとのことである。
しかし,そもそもLなる者が実在するのか,Lなる者の供述内容が
真実であるのかといった点については何ら吟味されていないし,たと
え甲A155の1が中国の公証人の面前で作成されたものであったと
しても,内容の真実性が担保されるものではない。
③釦付きポロシャツ自体,領収書等のような客観的な証拠が提出され
ておらず,しかも,一般的に製造業者の名前や連絡先,商品の材質及
び洗濯表示等の情報が記載されているタグが切り取られている状況に
ある。また,控訴人は,キース・へリングの著作物である図柄が使用
されていないデザインの商品をも懸賞金の対象としている(甲A15
5の1∼2)から,上海ユニクロで販売されていたポロシャツを入手し
て,取り替えやすい釦についてのみ,日本で販売されていたキース・
へリングのポロシャツの釦と交換した可能性も完全には払拭できない。
(イ)契約違反該当性の有無
仮に,被控訴人ファーストリテイリングの子会社が釦付きポロシャツ
を中国で販売していたとしても,以下の①∼⑤に照らせば,本件サブラ
イセンス契約はあくまで著作物のライセンス契約であって,著作物に該
当しないものの使用を規律するものではないというべきである。したが
って,単に標準文字で釦の表面に小さく「KEITHHARING」
と刻印されているに過ぎない釦付きポロシャツの製造販売を,本件サブ
ライセンス契約の違反に当たるということはできない。
①キース・へリングはあくまで画家であって服飾デザイナーではなく,
需要者を引きつけるものはあくまでキース・へリングの作品であって,
キース・へリングの氏名そのものが顧客誘引力を有しているわけでは
ない。したがって,キース・へリングに関して顧客誘引力を有するの
は「KEITHHARING」という名称ではなく,キース・へ,
リングの著作物である。
②キース・へリングに関して商標登録がなされていたのは,キース・
へリングの著作物に関するもののみであって「KEITHHAR,
ING」という名称については全く商標登録はなされていない(乙A
61。なお,キース・へリングのサイン文字(K.HARING))
をデザイン・ロゴ化した商標があるが,これについても,日本におけ
る商標登録出願は,本件サブライセンス契約締結から1年近く経過し
た後である(乙A62。)
③本件サブライセンス契約の締結に先立ち,平成14年7月29日付
」,けで,控訴人と被控訴人との間で締結された「覚書(乙A63)も
そのライセンス対象を,キース・へリングの著作物であるキャラクタ
ーのみとしている。
④上記覚書を前提として締結された本件サブライセンス契約(乙A
1)も,第1条において「甲(判決注,控訴人)は乙(判決注,被,
控訴人ファーストリテイリング)に対し,甲が管理するアメリカ合衆
国ニューヨーク州に存立するTheEstateofKeithHaringの著作物
「KEITHHARING(以下「プロパティ」という)に含ま」。
れるところの著作権等に基づく商品化権」を「第6条に定めた乙の製
造・販売する商品(以下「本商品」という)に使用する事を各条項。
に従い許諾する」と定めており,第15条においても,著作権の表示
に関するいわゆるマルC表示(<C>)が要求されているのみで,登録
商標に関するいわゆるマルR表示(<R>)は何ら要求されていない。
⑤控訴人が作成したプレスリリース書面(乙A34,平成17年)
(2005年)2月26日付け西日本新聞夕刊(乙A35)を対比す
れば,控訴人が新聞記者からの取材に対し自ら「イラスト付き商品」
という言葉を用いて回答したことが推測される。
(ウ)契約違反の程度
仮に,被控訴人又は被控訴人子会社が釦付きポロシャツを中国で製造
・販売し,これが形式的に本件サブライセンス契約に違反するとしても,
以下に照らし,当該違反の程度は軽微であるから,解除原因たり得ない。
①本件サブライセンス契約の本質は,上記(イ)①∼⑤に照らせば,あ
くまでキース・へリングの著作物のライセンス契約であることは明ら
かであるところ,釦付きポロシャツには,キース・へリングの著作物
は使用されていない。
②被控訴人又は被控訴人子会社は,故意にキース・へリングの文字が
刻印された釦だけを付けてその著作物である「BARKINGDO
G」のワッペンを外したポロシャツを製造・販売する意味がなく,仮
に同釦付きポロシャツを製造・販売していたとしても,あくまで過失
によるものである。
③釦付きポロシャツ自体,釦の上に,ほとんどだれも気付かない程度
に小さく,デザイン化・ロゴ化されていない標準文字で「KEITH
HARING」と表記されているに過ぎないから,キース・へリン
グのブランドが有する顧客誘引力を利用したとはいえない。
(エ)解除原因となり得ないこと
キース・へリングの文字が刻印された釦付きポロシャツを中国で販売
することが本件サブライセンス契約の解除原因たり得るとしても,新た
な解除原因であり,過去に行われた本件解除を遡って正当化する解除原
因とはなり得ない。
イ本件プロパティが付されたポロシャツの販売につき
(ア)控訴人は,中国におけるキース・へリング制作による著作物が付さ
れたポロシャツ(本件プロパティ付きポロシャツ)の販売に関し,被控
訴人ファーストリテイリングが事実を隠蔽し,販売事実を明らかにしな
いと主張する。
しかし,被控訴人らは,これまでも一貫して述べてきたとおり,中国
で本件プロパティ付きポロシャツを販売したことはなく,従って,事実
の隠蔽などということはありえない。また,控訴人が中国で行った大掛
かりな懸賞金広告や調査をもってしても,本件プロパティ付きポロシャ
ツが1枚も出てきていない事実こそ,被控訴人がこのようなポロシャツ
を中国で販売していないことを裏付けるものであり,本件プロパティ付
きポロシャツの販売に関する控訴人の主張は,もはや無意味である。
(イ)また控訴人は,原判決が「アポロシャツHP」については,商,「
品販売の宣伝広告として理解され」と認定しながら(42頁14行∼1
5行,本商品の中国における販売事実を認定しないことは矛盾である)
と主張する。
しかし,原判決は,42頁のd(b)以下で認定している「イTS
HOW震撼上市HP」等の広告が,一種の企業イメージとしての性格
を有することとの対比において「商品販売の宣伝広告」との文言を用い
ているに過ぎない。また仮に「商品」の意味が,本件プロパティ付き,
ポロシャツを指すとしても,被控訴人が,本件プロパティ付きポロシャ
ツの画像がホームページ等で使用された経緯について不注意に基づくも
のであることを十分に主張立証している以上,これをもって直ちに本商
品の販売と推定することはできない。
(ウ)また控訴人は,P証言について,国番号は異なるが他の番号が同じ
だから使用してもよい画像と間違えるなどということはありえないと主
張するが,商品画像の使用経緯に照らし不自然とはいえない。
(エ)また控訴人は,乙A39∼41の修正について,E以外の者が修正
した可能性があると主張するが,たとえ実際に修正した者がE自身でな
いとしてもEの意思に基づく修正であれば問題となる余地はない。
(オ)また控訴人は,仕様書,アクセサリーシート,畳み指示書(乙A3
9∼41)の記載が一致していなかったとすれば,実際には,ワッペン
あり,ロゴ釦ありのものと,ワッペンなし,ロゴ釦なしのものがあるこ
とになると主張する。
しかし,控訴人は,当初は文字ボタンが付いていて著作物が利用され
ていないような商品が販売されることは理論的にあり得ないとしていた
にもかかわらず,本件釦付きポロシャツを入手した後は,ワッペンもロ
ゴ釦もいずれも削除されておらずこれに従った製品が製造されたか,ワ
ッペンは削除されたがロゴ釦は削除されておらず,これに従った製品が
製造されたかの2つが考えられるなどと,これまでと明らかに矛盾する
主張を行っており,信用性に欠ける。
(カ)また控訴人は,本件プロパティ付きポロシャツの画像が中国向けホ
ームページ等の広告で使用されたことが本件サブライセンス契約5条に
違反すると主張する。しかし,そもそも本件サブライセンス契約5条は,
その文言からしても明らかに商品の販売地域を限定する規定に過ぎず,
他方,広告に関する規制は本件サブライセンス契約では8条に規定され
ているのであるから,広告への商品の掲載を理由に本件サブライセンス
契約5条違反を主張するのは誤りである。本件プロパティ付きポロシャ
ツが,被控訴人らの関係会社等を通じて中国において販売された事実は
一切ない以上,本件サブライセンス契約5条違反の問題が生ずる余地は
ないのであるから,同5条につき「宣伝広告の実施地域を日本国内のみ
に限定する趣旨を含んでいるものと解せられる」と判断した原判決は,
この点においては正しくない。
(キ)また控訴人は,本件プロパティ付きポロシャツの画像が,明白にプ
ロパティが認識できる個別商品の販売広告の形態で,5か月間意図的に
掲載されたと主張する。
しかし,そもそも上述のとおり,本件プロパティ付きポロシャツが中
国において販売されていないことは明らかであり,販売していない商品
を意図的にウェブサイトに掲載することなどあり得ない。また,同画像
において,明白にプロパティを認識することはできないし「5か月,
間」という掲載期間は,あくまで控訴人の推測に過ぎず,掲載期間中,
当該商品の注文等の問合せは一切なかった。
(ク)また控訴人は「TSHOW震撼上市」画像の中からピックアッ,
プされたポロシャツ画像が,同じウェブサイト上に定価と販売価格付き
で「形状等を明確に認識し得る」形で掲載されていた以上,これらを,
見る一般人からすれば,キース・ヘリングのポロシャツを含めて多数の
Tシャツやポロシャツを販売しているのだという理解をするのが通常で
ある旨主張する。
しかし,定価と販売価格付きで掲載されている本件プロパティ付き画
像も,わざわざ拡大しない限り,本件プロパティの形状は全く認識でき
ない(甲A14の1∼2)上,仮に,わざわざ当該画像を拡大して本件プ
ロパティの形状をある程度認識し得たとしても「TSHOW震撼上,
市」画像において本件プロパティの形状を認識することが無理なのであ
るから,かかる二つの画像をことさらに結びつけて「キース・ヘリン,
グのポロシャツを含めて多数のTシャツやポロシャツを販売しているの
だ」という理解を一般人がするとは到底考えられない。そもそも,中国
におけるキース・ヘリングの認知度の低さ(甲A155の1∼2,乙A5
5∼56)からすれば,本件プロパティの形状を明確に認識できたとし
ても,キースヘリングのポロシャツなどと認識することは全く想定でき
ない。
(ケ)また控訴人は,企業イメージの広告と解することで,直ちに著作物
や商標の使用に該当しないということはできないと主張するが,この問
題と著作物や商標の使用の該当性の問題とは全く無関係である。
(コ)また控訴人は,原判決が,遅くとも平成16年8月12日の時点で,
中国向けホームページに本件プロパティ付きポロシャツ画像が掲載され
ていることに被控訴人ファーストリテイリングが気付いたにもかかわら
ず,これを控訴人に報告しなかったと認定していることを指摘し,同被
控訴人が,同年12月に控訴人から指摘されるまで,その事実を報告せ
ずに隠蔽したと主張する。
しかし,同被控訴人が,遅くとも平成16年8月12日の時点で,そ
の中国向けのホームページに本件プロパティ付きポロシャツ画像が掲載
されていることに気付いたとの事実は,証拠上認定できない。そもそも,
本件プロパティ付きポロシャツ画像が中国向けホームページ上で使用さ
れていた事実を,控訴人が同被控訴人に指摘したという事実すら定かで
ない(原告代表者調書22頁∼24頁)上に,同被控訴人においても,
かかる事実の指摘を控訴人から受けたことの認識がない(P調書9頁∼
10頁。)
なお,控訴人は,この問題を知りながらから4か月もそれを放置して
いたものであり,控訴人が,真に「中国におけるユニクロの販売広告,
行為は,その内容において我々の戦略とは全くかけ離れたものとなって
おり,高級品イメージでの展開を検討し進めていた我々の戦略と投資を
無にする,いや,マイナスにさえする傍若無人な行為といわざるをえま
せん(乙A66の2頁)とまで考えていたのなら,早期に同被控訴人」
に警告等して,同種の行為を行わせない措置を採るのが当然である。そ
のような措置を採らなかったのは,控訴人にとって都合のよいときに指
摘し,損害賠償等の交渉に有利に利用しようとする控訴人の不当な意図
が読み取れる。
(サ)また控訴人は,甲A153のJ教授意見書(以下「J意見書Ⅱ」,
という)に基づき,本件で問題とされている被控訴人ファーストリテ。
イリングの中国での宣伝行為等が,本件サブライセンス契約の基礎をな
す信頼関係を破壊するものであると主張するが,J意見書Ⅱには以下の
①∼④のような問題点があり,控訴人の主張の根拠とはなり得ない。
①本件サブライセンス契約を商標権に関するライセンス契約と捉えて
いること
本件サブライセンス契約はあくまでも著作物のライセンス契約であ
って,契約書上も「著作権等に基づく商品化権」と記載されていると
おり,少なくとも,その本質が著作権に関する契約であり,商標権の
ライセンス契約でないことは疑いがない。しかるに,J意見書Ⅱは,
「簡単のため,専ら商標権など営業標識に関する権利を念頭に置き,
著作権は考慮外に置くことと」し,本件サブライセンス契約を「本件
商標等の使用を許諾する」旨の契約と捉えており,事実誤認である。
J意見書Ⅱは,このような誤った前提に基づき,本件サブライセンス
契約の販売地域制限条項(第5条)について「単に「販売」を制限,
するだけでなく,それと同視すべき行為によって許諾者たるXに営業
標識法上の不利益を与えないことをも,Yに義務づけていると解すべ
きである」と述べているが,前提が明らかに誤っている以上,そこか
ら導かれる解釈も誤ったものである。
なお「営業標識法上の不利益」とは,おそらく商標法上の不利益,
を意味すると考えられるが,本件サブライセンス契約に基づき,キー
ス・ヘリングが制作した約200種に及ぶ著作物が使用されたにもか
かわらず,商標登録されたものはわずか5種類程度の図柄であって,
それらもあくまで著作権による保護を補完しようとする副次的なもの
に過ぎない。このような状況であるにもかかわらず「営業標識法上,
の不利益」云々を議論することは明らかに的外れの議論と言わざるを
得ない。
②その他の事実関係においても明らかに事実に反している事項を前提
としていること
J意見書Ⅱにおいては,上記以外にも,同被控訴人が中国の子会社
を通じて「販売のため本件商品を店頭に展示した」ということを,
「前提となる事実関係」として挙げている(3頁7行)が,このよう
な事実は一切ない。さらに,J意見書Ⅱは,中国においては,日常的
にインターネットにアクセスする階層というのは,中国社会の流行を
リードする層ということがあり得ると想定し,かかる想定に基づき,
そうだとすれば同被控訴人がインターネット上に本件商品を表示した
行為による控訴人の中国ビジネスへの影響は深刻なものであると述べ
ている(16頁10行目以下)が,例えば,インターネットで調べれ
ば,中国では既にインターネットの利用人口が1億人を超えているこ
と(乙A67)は直ちに判明する事項である。
③米国商標法に関する判例に基づき立論していること
仮に本件サブライセンス契約を商標権のライセンス契約であること
を前提にしたとしても,J意見書Ⅱにおいて検討対象とされている同
被控訴人の宣伝行為は中国におけるものであるから,中国の商標法に
関する判例等に基づいて立論すべきであって,米国商標法に関する判
例に基づく議論によって,このような中国における宣伝行為の法的評
価を行なうべきでない。
④「関心惹起による混同」理論につき
さらに,仮に本件において米国の商標法に関する判例理論が本件の
参考になるとしても,J意見書Ⅱが立論の基礎とする「関心惹起によ
る混同」理論は,以下に照らせば,本件には全く該当しない。
すなわち,まず,キース・ヘリングは,中国の一般的な需要者にお
いてはほとんど知られていない(甲A155の1,2,156の1,2,
乙A55∼56。また,問題となっている宣伝広告を見ても,ポロ)
シャツに本件プロパティが付いていることに気づくことはほとんどあ
り得ない程度のものが多く,さらに,そのほとんどが,一種の企業イ
メージの広告にすぎず,特定の商品の販売の促進のためのものではな
い。これらからすれば,当該宣伝広告に使用されているキース・ヘリ
ングの著作物によって需要者の関心が惹起されることはあり得ない。
ウ100円販売問題,B品販売問題,チラシ無断掲載問題等につき
控訴人は,甲A152の1のJ教授意見書(以下「J意見書I」とい
う)に基づき,被控訴人ファーストリテイリングの行ったキース商品の。
100円販売,B品販売,チラシ掲載をもって,本件サブライセンス契約
の契約解除事由となる,と主張するが,J意見書Ⅰは,以下に照らせば,
前述したJ意見書Ⅱと同様に問題点が多数あり,控訴人の主張の根拠とは
なり得ない。
(ア)J意見書Ⅱにつき前述したのと同様に,J意見書Ⅰも,本件サブラ
イセンス契約を商標権に関するライセンス契約と捉えており,誤ってい
る。
(イ)①J意見書Ⅰは「事実関係」において「商品上代(販売価格)に,,
ついてもXの承認を要すること」とし,あたかも販売する商品の実際
の販売価格の決定について,控訴人による承認を要する契約であるか
のように記載する。しかし,本件サブライセンス契約の契約書第3条
が,商品上代につき控訴人の承認が必要とされているのは,ロイヤリ
ティ算定の基礎として商品上代を決めなければならないという必要に
基づくものに過ぎず,被控訴人らがキース商品を販売する際の実際の
売価についてまで,控訴人による承認や制限が認められるものではな
い。
②またJ意見書Ⅰは,本件商品の100円販売の「事実関係」として,
「Xの強い抗議にもかかわらず,結局二ヵ月半の間,計約1万200
0着の本件商品を当該価格(判決注,100円)で販売した」として
いる。しかし,実際は,被控訴人ファーストリテイリングは,売価変
更要請に応じる義務はないにもかかわらず,ライセンサーである控訴
人の意向を尊重して,100円販売についての最初の中止要請を受け
た平成16年8月30日の2日後には,本件商品の在庫を保有する各
店舗に当該商品の引き上げを指示(ストック指示)するなど誠実かつ
迅速に対応したものである。
③さらにJ意見書Ⅰは「事実関係」において,790円の価格で表,
示したチラシについて「本件商品の取引開始後間もない平成16年,
10月」に行ったものとしているが,本件サブライセンス契約が開始
されたのは,平成15年1月1日であり,これを「本件商品の取引開
始後間もない」と表現することも誤りである。
(ウ)J意見書Ⅰにおいて展開されるブランド論は「シャネル(CHA,
NEL「エルメス(HERMES」といったいわゆる高級ブランド)」,)
や「パナソニック(Panasonic「iPOD」といった世界,)」,
的に著名なブランドを前提とした議論であって,本件サブライセンス契
約には当てはまらない。すなわち「CHANEL」等のブランドの場,
合と異なり,キース・ヘリングのイラスト等を見た消費者が当該イラス
トによって出所を識別したり,当該商品の品質への信頼を寄せるような
ことは通常想定できず,そうである以上,キース・へリングのイラスト
等が商標登録されているからといって,実際の取引現場においては「商
,,標」として機能しているとはいえず「商標」として機能しているのは
あくまでも「UNIQLO」というブランドである。
(エ)そもそもブランドイメージは,一般的に,当該商品の品質,販売方
法や広告方法その他一切の事情を含めて総合的に判断されるものであり,
販売価格を安価にしたことをもって直ちにブランドイメージを毀損する
ものではない。また,通常,アパレル業界においては,シーズンが終わ
るなどした,季節落ちの商品については,低価格において売り切ること
は通常行われている(乙A69の1∼5)ところ,被控訴人らは「フ,
ァッション性のある高品質なベイシックカジュアルを市場最低価格で継
続的に提供する」とのポリシーをもって,衣料品などを市場に供給して
いる会社であり(乙A70「ローコスト経営に徹」していること(乙),
A70)も含め,その企業イメージは消費者などに広く定着している。
このような被控訴人らにおいて,さらに,季節落ち商品や在庫の数が少
なくなって魅力的な展示ができなくなった商品について1店舗あたり2
・3点程度のわずかな量を,100円などに値引いて低価格で販売した
としても,それを見た消費者が品質の悪い安物であると考えるとはいえ
ない。
(オ)J意見書Ⅰは,チラシ広告について,ヨーロッパ裁判所におけるパ
ルファン・クリスチャン・ディオールという高級ブランドに関する裁判
例を引用し「権利者が営々として築きあげてきた商標のイメージを深,
刻に傷つける」場合には商標権侵害とする,と指摘する(18頁。し)
かし,同裁判例は,パルファン・クリスチャン・ディオールという高級
ブランドについてでさえ,商標のイメージを「深刻に傷つける」場合に
のみ,商標権侵害になる,と商標権侵害に該当する場合を限定しており
(乙A68,しかも,商標のイメージを深刻に傷つけたことについて)
は,商標権侵害を主張する側に立証責任があるものとしている。
この点,被控訴人ファーストリテイリングによるチラシ掲載(790
円)により,キース・ヘリングのブランドイメージを「深刻に傷つけ」
たものか否かについて,控訴人は一切立証していないが,その訴訟態度
自体が,チラシ掲載についてなんらの本件サブライセンス契約の解除原
因とならないことを裏付けるものである。
さらに,この裁判例が3項で認定しているとおり,ディオールはいわ
ゆる「選択的流通システム(selectivedistributionsystem」を採用)
しているものだが,商品の再販売を承認された販売業者間または最終消
費者との間に限定することを認めるこのシステムにおいても,販売価格
を拘束することは競争法上違法行為と考えられている(乙A72)。した
がって,上記裁判例においても,商標のイメージを「深刻に傷つけ」る
ものとして商標権者が規制できる行為の中に,最低販売価格の拘束を行
うことが含まれていないことを前提としているのであるから,上記欧州
の裁判例が販売価格の拘束が問題となっている本件の参考となるような
ものでないことは明らかである。
(カ)またJ意見書Ⅰは,①本件サブライセンス契約のような垂直的取
引制限には独占禁止法は適用されない,②本件サブライセンス契約につ
いては「契約当事者のいずれか一方のみに販売価格の決定権が属」す,
るものではないとして,これに反する判断をした原判決を不当であると
する。
しかし,今日の日本における公正取引委員会による特許・ノウハウラ
イセンス契約に関する独占禁止法上の指針(平成11年7月30日)に
おいても,ライセンサーがライセンシーに対して,特許製品の国内にお
ける再販売価格や販売価格を制限させることは,原則として不公正な取
引方法に該当し違法となる(一般指定第13項(拘束条件付取引)に該
当)とされ(乙A73,この特許・ノウハウライセンス契約に関する)
ガイドラインにおける再販売価格の制限についての考え方は,商標の使
用許諾についても準用される(公正取引研究会編著実務解説独占禁止法
6174頁。乙A74。そして,著作権のライセンス契約における販)
売価格の制限についても,同じように独占禁止法19条で禁止する一般
定第13項(拘束条件付取引)に該当すると解すべきものである。
また,J意見書Ⅰが引用する米国裁判例も,あくまで「最高価格制限」
に関するものでしかなく,最低販売価格を含めた販売価格自体を広く制
限していくことを認めたものではない。また,米国における垂直的取引
制限論に関しても欧州等で支持されている見解ではなく,米国独自とも
いうべき議論である(乙A75∼77。)
(キ)さらにJ意見書Ⅰは,継続的契約についての解除を制限すべきと
する考え方に対し,関係特殊的投資,即ち当該取引関係が断絶すること
により著しく価値を減じるような投資を行った当事者の利益を保護すべ
きとする。しかし被控訴人ファーストリテイリングは,本件サブライセ
ンス契約の更新に先立って,ミニマムロイヤリティ金1億円を控訴人に
支払い,キース・ヘリング商品の製造を行うために生産工場も増設し,
キース・ヘリング商品について多額の宣伝・広告費を既に投入している。
にもかかわらず,契約期間の途中で契約が解除させられた場合,アドバ
ンスとして支払ったミニマムロイヤリティ金1億円が一切返還されず莫
大な損害が生じるおそれが高く,その他の投資についても当初計画して
いた契約期間が短縮されてしまうことにより,大きな損害が生じる。J
意見書Ⅰは,このような被控訴人側の関係特殊的投資の事実を一切捨象
して論じており,本件サブライセンス契約について,契約解除を制限す
べきでないとする根拠になりえない。
(4)本件サブライセンス契約の第2次解除に理由がないこと
控訴人の主張はすべて争う。主な反論は下記のとおりである。
ア控訴人は,原判決が「原告は,被告ファーストリテイリングからデ
ザイン等に関する承認申請があったときは,暫定的承認であることの
注意書を付した上で承認する予定であった旨主張するが,上記当事者
間に争いのない事実によれば,原告は,本件仮処分命令の発令後も,
原告の主張する中国問題の解決条件に同意しない限り,宣伝広告に関
する承認申請に限らず,デザイン等に関する承認申請に対しても承認
を与えることはない旨を断固として示していたことは明らか(53頁」
6行∼11行)と認定した点,及び「本件において,原告は,本件サ,
ブライセンス契約成立後である平成16年12月ころから,被告ファ
ーストリテイリングからの宣伝広告及びデザイン等に関する承認申請
に承認を与えないことを明示し,その後もその態度を保持し続けた」
(53頁下3行∼下1行)と認定した点について,重大な事実誤認が
ある,と主張する。
この根拠として,控訴人は,①デザイン等に関する承認申請の問題
と,②宣伝広告のうちチラシの承認申請問題とは区別して議論すべき
である,としている。そのうえで,前者(①)については,控訴人は
承認を拒否すると通告したことはなく,暫定的アプルーブを行う意思
があったこと,後者(②)については,控訴人のチラシ承認・不承認
の権限には何らの制約はないから,チラシ不承認拒絶自体は不当では
なく,被控訴人らにおいてもこれを受け入れていた旨主張する。
イ(ア)しかし,まず①については,控訴人は,控訴人自身が控訴理由
書51頁で述べているとおり,平成17年5月31日に開かれた期
日での,被控訴人ファーストリテイリングの控訴人に対する「デザ
イン等に関する承認申請を行えば通常どおりの基準で承認してもら
えるのか」との質問に対して,控訴人は「出せばわかる」などと回
答し,承認を行うと明言することを明確に拒否している。また,同
被控訴人の控訴人に対する,デザイン等の承認申請に応じることを
求めた平成17年6月7日付け通知書(乙B5)に対して,控訴人
は,同月10日付け回答書において,回答の期限の猶予を求める一
方で,裁判長の示唆があったとして,同被控訴人が通常の2ないし
3倍のロイヤリティを暫定的に支払う,ないしは同被控訴人が控訴
人に保証金を預託することが,控訴人がアプルーバルを暫定的に出
すことの前提条件となるかのようなことを示唆した(乙B6。そ)
こで,同被控訴人は,同月13日付けの通知書により,控訴人が示
唆するような金銭の支払を条件とするような合意は出来ないことを
予め控訴人に伝えたところ(乙B7,控訴人は,同月17日付け)
回答書により,契約を暫定的に継続させる意思が存するか否か
さえ示すことなく同被控訴人からのデザインアプルーバル申
請には応じないとする趣旨の回答を行っている(乙B8。さ)
らにその後の同月29日に,同被控訴人が本件マスターライセンス
契約上のライセンシーとしての権利を有する地位にある事を認める
仮処分決定が下されたことから,同被控訴人は,再度,同年7月1
3日付けで,控訴人に対して「本訴訟が確定するまでは,…仮処分,
決定を前提に,…商品のデザイン等に関するアプルーバル申請や宣
伝広告についてのアプルーバル申請について誠実に対応して頂くこ
と,特に,宣伝広告のアプルーバル申請については,中国問題の解
決及び損害の賠償を条件とするようなことを行わ」ないでもらいた
い旨要請すると共に,契約更新の具体的な条件についても話し合い
の機会を設けたい旨求めた(乙B9。これに対して,控訴人は,同)
月20日付けで,同被控訴人から「誠意ある」条件が提示されてい
ない等の不合理な理由で同被控訴人の上記提案を一方的に拒絶して
いる。その後も同被控訴人が,再三に亘り,控訴人に対して,本商
品のデザイン等についてのアプルーバル申請や宣伝広告についての
アプルーバル申請に誠実に対応することを求めてきたにも拘らず,
控訴人は,仮処分決定を軽視した態度を採り,不十分な対応に終始
している。
控訴人は,あたかも暫定デザインアプルーブをする準備があった
かのように主張するが,上述したような控訴人の態度からすれば,
暫定デザインアプルーブを行うとの主張は何ら信用し得るものでは
なく,原判決が認定しているとおり「デザイン等に関する承認申請,
に対しても承認を与えることはない旨を断固として示していたこと
は明らか」であり,原判決の当該認定にはなんらの事実誤認も存し
ない。
(イ)また,②についても,控訴人の本件サブライセンス契約8条に
より認められる広告宣伝物についての事前承認権は「プロパティ・,
イメージの向上と調和をはかるため(本件サブライセンス契約8」
条)に認められるにすぎず,プロパティ・イメージを侵害しないも
のまで承認を留保することは承認権の濫用として認められるもので
はない。にもかかわらず,平成17年5月31日に開かれた期日に
おいて控訴人代表者は「仮に契約解除が無効であるとしても,チラ,
シについてアプルーバルをする義務は原告にはないのであるから,
中国問題が解決しなければ拒絶するつもりである」旨述べるなど,。
控訴人は一貫して,本契約の控訴人による解除の無効が確定した場
合であっても,中国での著作物使用・無断宣伝問題が損害賠償も含
めて解決しない限り,チラシ掲載の承諾はできない,との態度をと
っている(乙B4,12。)
このようなチラシを用いた宣伝を行わせないとする控訴人の態度
は,チラシによる広告宣伝により大きく増加する利益を前提に商品
上代を決定している被控訴人らの利益を大幅に,かつ不当に奪い,
実質的に本件商品の製造・販売を不能に追い込むものであり,被控
,訴人らの本件商品の販売権そのものを侵害するに等しい。すなわち
控訴人によるチラシの承認申請を拒絶するとの態度それ自体が,被
控訴人らの本件サブライセンス契約の履行及び更新権を侵害してい
るものである。
ウ不安の抗弁が認められることにつき
原判決は「継続的取引契約により当事者の一方が先履行義務を負担し,,
他方が後履行義務を負担する関係にある場合に,契約成立後,後履行義務
者による後履行義務の履行が危殆化された場合には,後履行義務の履行が
確保されるなど危殆化をもたらした事由を解消すべき事由のない限り,先
履行義務者が履行期に履行を拒絶したとしても違法性はないものとするこ
とが,取引上の信義則及び契約当事者間の公平に合致するものと解される。
後履行義務の履行が危殆化された場合としては,契約締結当時予想されな
かった後履行義務者の財産状態の著しい悪化のほか,後履行義務者が履行
の意思を全く有しないことが契約締結後に判明したような場合も含まれる
と解するのが相当である(53頁下12行∼下4行)とするところ(以。」
下,上記のように,履行義務者が履行期に履行を拒絶しても違法性がない
場合を「不安の抗弁権」ということがある,控訴人は,原判決が被控。)
訴人について「不安の抗弁権により,先履行義務を負う2006年度
のミニマムロイヤリティ1億円の支払いを拒むことができる(54頁」
1行∼2行)としている点について,2006年度のミニマムロイヤ
リティの支払義務を「先履行義務」としている点を不当とする。その
根拠として,控訴人は,被控訴人ファーストリテイリングによるミニ
マムロイヤリティの支払いの前に同被控訴人に来期販売準備権が認め
られ,控訴人においてこれを承認する義務がある,とする。
しかし,平成18年(2006年)度のミニマムロイヤリティは,
平成18年(2006年)度において①同被控訴人が日本国内におい
て,第三者から妨害されることなく,本件プロパティを使用して,当
該プロパティの付された商品を独占的に販売することを可能とする権
利を適法に許諾する控訴人の義務(本件サブライセンス契約1条,4
条,13条,及び,②本商品及び広告に関するアプルーバル申請に適)
切に対応し,不合理に承認を拒絶してはならない控訴人の義務(本件
サブライセンス契約8条)の対価として支払われるものである。した
がって,平成18年(2006年)度の販売よりも先である平成17
年(2005年)9月30日までに履行期が到来する平成18年(2
006年)度のミニマムロイヤリティ支払義務は,控訴人の負担する
①②の義務の履行よりも先履行義務であることは明らかである。にも
拘らず,控訴人が,ミニマムロイヤリティ支払義務に先行する同被控
訴人の権利(販売準備権)とそれに対する控訴人の義務の存在を主張
することは,荒唐無稽なものと言わざるを得ない。
しかも,そもそも控訴人は,中国問題が解決するまではチラシの承
認をしないと宣言し,被控訴人らの来期の販売準備を実質的に不能な
らしめているのであるから,被控訴人らに対して平成18年(200
6年)度のミニマムロイヤリティの支払を請求できる立場ではない。
したがって,原判決が,被控訴人らについて「不安の抗弁により,,
先履行義務を負う2006年度のミニマムロイヤリティ1億円の支払
を拒むことができる」としたことは正当であり,控訴人の主張はいず
れも不当である。
エ控訴人の不正競争防止法に基づく主張に対し
控訴人は,被控訴人ファーストリテイリングの行為が不正競争防止法2
条1項1号の周知表示混同惹起行為等に当たると主張する。しかし,かか
る主張は時機に後れた攻撃方法として却下されるべきものである(民訴法
157条1項。また,控訴人は,いかなる表示が不正競争防止法2条1)
項1号に定める「商品等表示」に該当するのか具体的に特定しておらず,
周知性に関する主張立証も何ら行っていない。
(5)第3事件について理由がないこと
控訴人は,第1次解除が有効であることを前提に,被控訴人ファーストリ
テイリングの行為が違法でないとした原判決が誤りであるとする。しかし,
既に述べたとおり第1次解除は無効であるから,控訴人の主張は前提を欠く
ものである。また,平成17年12月31日に控訴人とキース・エステイト
との間のマスターライセンス契約が終了しているから,控訴人が平成18年
において本件商品の製造・販売する権利が害されたということはできず,控
訴人に損害も発生していない。
また控訴人は,被控訴人らによる不安の抗弁権によるミニマムロイヤリテ
ィの支払拒絶が認められないことを前提に,予備的に契約更新に基づくミニ
マムロイヤリティの支払を求めている。しかし,既に述べたとおり被控訴人
らには不安の抗弁権が成立するから,控訴人の主張は前提を欠くものである。
(6)損害額の主張に対し
いずれも争う。なお,マスターライセンス契約が終了した後である平成1
8年1月1日以降は,控訴人には損害が発生していない。
第4当裁判所の判断
1本件における基礎的事実関係
証拠(甲A2,4,6,8,14の1,2,15の1∼4,16の1,2,17の
1,2,18の1∼9,33,39∼41,43の1∼27,45の1∼6,46,4
7の1∼6,48,54の1,2,56,59,67,95,97,99,140,
144の1,145の1,甲B5,7∼9,10の1,乙A1,3,5,6,1
4,15,28,44,原審証人G,同P,原審原告代表者)及び弁論の全趣
旨を総合すると,本件における基本的事実関係は,次のとおりであったことが
認められる。
(1)控訴人(一審原告)は,衣料用繊維製品等の販売,衣料品等の輸出入及
び販売等並びにこれらに関連する業務を目的とする株式会社である。
被控訴人(一審被告)ファーストリテイリングは,衣料品の販売等を目的
とする株式会社であり,一方,被控訴人(一審被告)ユニクロは,平成17
年11月1日,被控訴人ファーストリテイリングから,ユニクロブランドに
て展開する衣料品及び衣料雑貨品の日本国内における企画,生産及び販売に
関する営業,中華人民共和国上海市における衣料品等の生産管理に関する営
業並びに被控訴人ファーストリテイリングの海外の子会社及び関連会社の商
流過程における衣料品等の卸売に関する営業を吸収分割によって承継し,本
件に関する権利義務を承継した。したがって,被控訴人ファーストリテイリ
ングは,商法374条の26第2項により,被控訴人ユニクロの債務につき
弁済の義務があることになる。
(2)TheEstateofKeithHaring(キース・エステイト)は,キース・へリ
ングの遺言によりその遺産を一時的に管理する団体であり,KeithHaringF
oundationInc.(キース・ファウンデイション)は,同人の遺言に基づく残
余財産の受益者であるところ,キース・へリングの遺産は,順次キース・エ
ステイトからキース・ファウンデイションに移転されているが,その過程に
おいては,キース・エステイト及びキース・ファウンデイションは,一体と
してその有する権利を行使し得る地位にある。そして,キース・エステイト
は,キース・へリングの創作に係る原判決別紙商品目録の原判決別紙商品デ
ザイン図並びに原判決別紙物品目録の別紙キース・へリング付属絵型,商品
イラスト等一覧表及び付属物イラスト等一覧表記載の各イラスト,図柄,文
字,写真及びデザインにつき著作権を有するとともに,原判決別紙標章一覧
表記載の各標章につき商標権を有する。
(3)控訴人は,平成14年(2002年)12月23日にキース・エステイ
トから,キース・へリングの著作物である本件プロパティにつき,その使用
等をすることの許諾を受け(本件マスターライセンス契約)た上,平成14
年(2002年)12月31日付けで被控訴人ファーストリテイリングとの
間で,下記内容を主内容とする本件サブライセンス契約(乙A1)を締結し
た。

ア第1条(権利の確認)
甲(控訴人)は乙(被控訴人ファーストリテイリング)に対し,甲が管
理するキース・エステイトの著作物「」に含まれるところKEITHHARING
の著作権等に基づく商品化権を
2003年(平成15年)1月1日より2005年(平成17年)12
月31日の期間
第6条に定めた乙の製造・販売する商品に使用する事を各条項に従い許諾
する。
イ第3条(使用料等の支払い)
乙は甲に対し,本商品の商品化権の使用料として,甲の承認を得た商品
上代(以下「商品上代」という)の3%の計算により算出した金額を,入荷日
を基準とし,当月1日から当月末日迄の一ヶ月分を翌月7日迄に報告する。
又,最低使用料(ミニマムロイヤリティ)は,各年度下記とし,各年度下記
指定期日迄に甲の指定する金融機関に振込送金にて支払う。
尚,ミニマムロイヤリティを超えた月より,月末締め翌月20日迄に現
金にて甲の指定する金融機関に振込送金にて支払う。
初年度(2003年1月1日より2003年12月31日の期間)
ミニマムロイヤリティ:1億円
支払指定期日:乙よりの預り金1億円を充当するものとする。
2年度(2004年1月1日より2004年12月31日の期間)
ミニマムロイヤリティ:1億円
支払指定期日:2003年9月30日
3年度(2005年1月1日より2005年12月31日の期間)
ミニマムロイヤリティ:1億円
支払指定期日:2004年9月30日
ウ第4条(実施許諾商品・独占権)
乙はプロパティを次の商品にのみ使用する事ができる。
1)衣料品全般(メンズ/ウィメンズ/キッズ/ベイビー)
2)帽子
3)靴下
4)バッグ・ポーチ
5)タオル
6)ハンカチ・バンダナ
7)サンダル
その他上記に記載なき商品に関しては,甲乙別途協議する。
上記1)に関しては,乙は販売地域内において衣料品全般において独占
的販売の権利を有する。
上記2)から7)に関しては,乙は販売地域内において特定のイメージに
ついて独占的販売の権利を有する。
但し上記商品のアイテムは,製造前に甲の指定する書式にて乙は甲にデ
ザイン画その他を提出し,甲の承認したものに限りサンプルの作成をする
事ができる。又,乙は甲の承認したサンプルに限り本商品を製造・販売す
ることができる。
エ第5条(販売地域・販売先)
本商品の販売地域は日本国内のみに限定する。但し,販売先については,
乙の経営及びフランチャイズする全店舗とし,乙はあらかじめ甲に対し,
甲の指定する書式にて店名/住所/その他の情報を提供しなければならな
い。又,直接・間接を問わず本商品を輸出してはならない。
オ第6条(生産地域)
本商品の生産地域は全世界とし,生産工場・輸出入者・生産管理者等本
商品生産に関わるすべての個人・法人(以下「生産関係者」という)について
は,乙は全ての生産関係者を,甲に事前に申請し甲の確認を得なければな
らない。尚,生産関係者によるプロパティ又は本商品の流出があった場合
は理由の如何を問わず,乙はこの責任を負わなければならない。
カ第7条(デザイン)
乙が本商品の製造に使用するプロパティの原稿は甲が提供した資料に限
るものとし,基礎原稿は甲が貸与し他に乙が必要とする資料は乙の負担と
する。尚,プロパティの制作にあたって乙は本商品に使用する前に甲に報
告し,必ず甲の監修を受けなければならない。
また,乙が製作したプロパティはすべて甲に帰属するものとし,本契約
終了後は乙はいかなる場合でも,これらプロパティを使用することはでき
ない。
キ第8条(質的向上と調和)
本商品のグッドクオリティを目指し,プロパティ・イメージの向上と調
和をはかるため,販売促進・広告宣伝等或いは,本件プロパティを本商品
以外に使用する場合は事前に甲の承認を必要とする。
ク第9条(商品見本の提供)
乙が本商品を発売・宣伝する前に,甲に商品見本として無償で各品番2
7個を甲に提供しなければならない。
ケ第13条(権利侵害)
乙は乙の本商品化権又は甲の管理する著作権等が第三者によって侵害さ
れ,又は侵害の疑いがある事を知った時は,速やかにそれを甲に報告し,
甲の管理下において甲と協力して侵害を阻止するために努力する。
コ第17条(契約の解除)
次の各号に該当する場合,乙は甲に対し債務を直ちに支払わなければな
らない。又,甲は催告をしないで,或いは,自己の債務を提供しないで本
契約を解除することができる。
1.乙が本契約上の支払債務その他一切の債務につき履行を怠ったとき。
(中略)
4.乙が本契約の各条項の一つにでも違反したとき。
5.乙が甲の信用や利益を害したとき。
サ第21条(契約の更新)
乙が本契約の更新を希望するときは,本契約の契約期間満了の8ヶ月前
までに,甲に書面にて通知し,1年単位で本契約と同条件にて更新できる
ものとする。次年度以降も同様とする。但し,更新は4回(4年)を限度と
する。
()ところが,平成16年(2004年)3月頃から,控訴人と被控訴人フ4
ァーストリテイリングとの間で,原判決15頁∼20頁にいう中国問題(ポ
ロシャツHP,TSHOW震撼上市HP,店内タペストリー,地下鉄コル
),トン,テレビコマーシャルを巡る紛争,100円販売問題,B品販売問題
無承認チラシ問題,商品見本提供問題等が頻発し,その結果,控訴人は被控
訴人ファーストリテイリングに対し,平成17年(2005年)2月4日付
けで,本件サブライセンス契約17条に基づき同契約を解除する旨の意思表
示をした(第1次解除。)
(5)その後控訴人は,平成17年(2005年)2月25日に至り,原審に
第1事件の訴訟を提起した。そこで被控訴人ファーストリテイリングは控訴
人に対し,同年2月28日付けで同被控訴人が本件サブライセンス契約の被
許諾者の地位にあることを仮に定めること等を求める仮処分(東京地裁平成
17年(ヨ)第22017号)を申し立てるとともに,同年4月28日本件サ
ブライセンス契約21条に基づき同契約の更新の意思表示を行った。
上記仮処分申立てに対し東京地裁は,同年6月29日,400万円の担保
を供させた上,これを認容する決定をした。
()平成17年(2005年)分のロイヤリティは前年の9月30日までに6
支払われたが,翌平成18年(2006年)度のミニマムロイヤリティの支
払期限は前年の平成17年9月30日であるところ,被控訴人ファーストリ
テイリングは,同日,控訴人に対し,本件仮処分命令の発令後においても,
依然として不誠実な対応が継続されており,このような控訴人の対応により,
被控訴人ファーストリテイリングの更新権が実質的に不能なものになってい
ることを理由に,更新後のミニマムロイヤリティ1億円を支払わない旨を通
知し,同金員の支払をしなかった。
()そこで控訴人は,被控訴人ファーストリテイリングに対し,平成17年7
(2005年)10月1日,上記()の更新後のミニマムロイヤリティの不6
払を理由に,本件サブライセンス契約を予備的に解除する旨の意思表示をし
た(第2次解除。)
()なお,控訴人とキース・エステイトとの間の本件マスターライセンス契8
約は,平成17年(2005年)12月31日の経過をもって終了し,控訴
人は平成18年1月1日以降,本件プロパティに関する権利を概ね喪失した。
2訴えの適法性について
控訴人は,当審に至ってから第1事件についての訴えを交換的に変更したが,
被控訴人らは変更後の訴えは不適法なものであると争うので,まずその適否に
ついて判断する。
(1)本件各権利の不存在確認請求(前記第1,1,(1)ア,(2)ア,(3)ア,(4))
ア被控訴人らは,控訴人の上記請求は,その請求内容からみて,いずれも,
現在の法律関係の確認ではなく,過去の法律関係,すなわち過去に控訴人
が行った解除の意思表示や被控訴人ファーストリテイリングが行った更新
の意思表示の有効性の判断を求めるものと言わざるを得ず,不適法である
と主張する。
確かに,本件各権利の不存在確認請求は,解除日以降において本件各権
利が存在しないことや,平成18年1月1日以降契約更新を請求する権利
が存在しないことの確認を求めているという点で過去の法律関係を含むも
のである。しかし,継続的法律関係である本件サブライセンス契約の当事
者間において,いつの時点から本件各権利が不存在なのかを確認すること
は紛争を適切に解決するために必要であると解されるから,かかる請求も
適法というべきである。
以上によれば,被控訴人らの上記主張は採用することができない。
イ被控訴人らは,控訴人は,キース・エステイトとの間で既に平成17年
12月31日にマスターライセンシーの地位を喪失しているから,そのよ
うな管理権限を失っている控訴人には,確認訴訟を認めなければならない
危険や不安は存在せず,確認の利益はないと主張する。
しかし,控訴人が平成17年12月31日にマスターライセンシーの地
位を喪失しているとしても,本件サブライセンス契約が当然に終了するも
のとはいえず,そうである以上,本件サブライセンス契約の当事者である
控訴人に確認の利益がないということはできない。
以上によれば,被控訴人らの上記主張は採用することができない。
ウ被控訴人らは,被控訴人ファーストリテイリングはユニクロ事業に関す
る権利義務を被控訴人ユニクロに吸収分割により承継させているので,確
認訴訟における当事者選択の適否という点からも訴えは不適法であると主
張する。
しかし,被控訴人ファーストリテイリングがユニクロ事業に関する権利
義務を被控訴人ユニクロに承継させたとしても,被控訴人ファーストリテ
イリングは,平成17年8月4日に分割契約書が作成された吸収分割であ
るため平成17年法律第87号105条の規定によりなお従前の例による
ものとされている上記法律第87号による改正前の商法374条の26第
2項によって,吸収分割による上記承継後も一定の限度において弁済の責
任を負っているから,同被控訴人に対する訴えが確認訴訟における当事者
選択の適否という点から不適法であるとはいえない。
以上によれば,被控訴人らの上記主張は採用することができない。
(2)損害賠償請求
ア被控訴人らは,控訴人の第1事件の各損害賠償請求は,あえて1次的請
求,2次的請求,3次的請求として請求するところ,民事訴訟法上,包含
関係にある請求は請求が両立し得ない関係とは言い難く,損害賠償に順位
を付けること自体,訴訟法上許されないと主張する。
しかし,包含関係にある互いに両立し得る請求であっても,これに順位
を付けることが直ちに不適法とはいえないと解するのが相当である(最高
裁昭和39年4月7日第三小法廷判決・民集18巻4号520頁参照)か
ら,被控訴人らの上記主張は採用することができない。
イ被控訴人らは,第1事件の各損害賠償請求と第3事件の各損害賠償請求
は,解除以降の商品の販売行為につき複数の損害賠償請求を同時に行って
いるものであるから,いずれも両立し得ない関係にあり,両者を単純併合
のまま請求することは不適法であると主張する。
しかし,第1事件の各損害賠償請求は,解除日以降の本件商品の販売が
不法行為に該当するとしたものであるのに対し,第3事件の主位的請求は,
本件サブライセンス契約の更新の意思表示をして平成18年1月1日以降
も商品の販売を継続する旨宣言しかつ本件サブライセンス契約の被許諾者
の地位にあることを仮に定める旨の仮処分命令の発令を得た行為が不法行
為に該当するとしたものであるから,それぞれ不法行為の態様が異なる請
求であり,損害賠償請求としては互いに別個の請求として観念し得るとい
うべきである。したがって,これらの併合態様を単純併合としても直ちに
不適法とはいえない。また,第3事件の予備的請求は本件サブライセンス
契約に基づく実施料の請求であり,これも第1事件の各損害賠償請求とは
別個の請求として観念し得るというべきであるから,併合態様を単純併合
とすることが誤りとはいえない。
以上によれば,被控訴人らの上記主張は採用することができない。
3本件サブライセンス契約の第1次解除の有効性の有無
(1)ロゴ釦付きポロシャツの販売について
ア販売の有無
(ア)控訴人は,中国において被控訴人らが,少なくともロゴ釦付きポロ
シャツを販売していたと主張し,甲A155の1∼2,156の1∼5,1
60の1∼2,161の1∼2を提出するところ,被控訴人らは,上記各証
拠の信用性は極めて低く,控訴人が検証において提示する釦付きポロシ
ャツが偽造品である可能性も否定できないと主張する。
確かに甲A156の1∼5,160の1∼2,161の1∼2を見ても,そ
の方法は,控訴人が依頼した調査員が客を装って店長代行らと会話した
内容を一方的に録音するという調査手法であり,その内容自体からして,
これのみから当然にキース・へリングの文字が刻印された釦付きのキッ
ズボーダーポロシャツの販売がされていたと認めることは困難である。
しかし,甲A155の1∼2(中国公正証書,検証の結果及び弁論の全)
趣旨によれば,控訴人が,中国の雑誌「COUPON酷蹦6月」にお
いて,本件プロパティ等が付されたポロシャツの懸賞広告を掲載したと
ころ,2006年(平成18年)7月「L」という1983年生まれ,
の女性が,2004年(平成16年)8月に中国ユニクロ「優衣庫」淮
海店で,価格29元で購入したものであるとして紺色のポロシャツ1枚
を持参したこと,同ポロシャツは,青と白の縞模様であり「150/,
72」と記載された襟ネームが付され「KEITHHARING」,
という文字が円環状に刻印された釦が2つあり茶色の糸で留められてい
ること,表裏ともにキース・へリングの図柄等は付されていないこと,
左脇腹の辺りに「UNIQLO」というタグが付いており,その真下
に別のタグが切り取られた跡があること,がそれぞれ認められる。
これらを総合すれば,被控訴人ファーストリテイリングは,2004
(平成16)年8月頃「KEITHHARING」という文字が円,
環状に刻印された釦が付されたポロシャツ(以下「本件釦付きポロシャ
ツ」という)を販売したというべきである。。
(イ)被控訴人らは,甲A155の1∼2(中国公正証書)については,そ
もそもLなる者が実在するのか,Lなる者の供述内容が真実であるのか
といった点については何ら吟味されておらず,たとえ甲A155の1が
中国の公証人の面前で作成されたものであったとしても,内容の真実性
が担保されるものではないと主張する。しかし,甲A155の1∼2(中
国公正証書)自体に不自然な点はなく,本件全証拠をみてもLなる者の
実在性やその供述内容の真実性に疑いを差し挟むべき具体的事情が窺わ
れないから,上記のように甲A155の1∼2(中国公正証書)に記載さ
れた事実を認定することは可能であるというべきである。
また被控訴人らは,本件釦付きポロシャツ自体に,領収書等のような
客観的な証拠が付されておらず,しかも,一般的に製造業者の名前や連
絡先,商品の材質及び洗濯表示等の情報が記載されているタグが切り取
られていると主張する。しかし,領収書等が提出されておらず洗濯表示
等のタグが切り取られているとしても,購入時(2004年8月)から
持参時(2006年7月)まで約2年が経過していることに照らせば,
Lなる者の実在性やその供述内容の真実性に疑いを差し挟むべき具体的
事情があるとまでは言い難く,上記と同様,甲A155の1∼2(中国公
正証書)に記載された事実を認定することは可能というべきである。
さらに被控訴人らは,控訴人が,キース・へリングの著作物である図
柄が使用されていないデザインの商品をも懸賞金の対象としている(甲
A155の1∼2)から,上海ユニクロで販売されていたポロシャツを入
手して,取り替えやすい釦についてのみ,日本で販売されていたキース
・へリングのポロシャツの釦と交換した可能性も完全には払拭できない
と主張する。しかし,控訴人がかかる行為を行ったことの客観的な裏付
けはないから,上記は被控訴人らの推測に過ぎないというほかなく,仮
に上記の可能性を完全に払拭できないとしても,甲A155の1∼2(中
国公正証書)に記載された事実を認定することはいまだ妨げられないと
いうべきである。
以上によれば,被控訴人らの上記主張はいずれも採用することができ
ない。
イ契約違反該当性
(ア)控訴人は,本件釦付きポロシャツの販売は重大な契約違反に該当す
ると主張するので検討する。
本件マスターライセンス契約,本件サブライセンス契約の各条項をみ
ると,以下のとおりである。
①本件マスターライセンス契約(甲A62の1,2)
【1.権利の許諾】
1.1権利
許諾者は,ライセンシーに対し,本契約期間…中,本地域…内にお
いて,本契約に定める条件に基づき下記権利を許諾する。
(a)…許諾者が認める範囲においてキース・ヘリングが制作した
画像…を複製して付属書類A記載の製品(ポロシャツ等。以下「本製
品」という。)を制作,製造,頒布,マーケティング,販売および販売
促進を行う権利,
(b)本製品の製造,包装,ラベリング,広告,販売促進,販売お
よび頒布のために本マーク…を使用する権利,ならびに
(c)…上記権利を第三者にサブライセンスする権利。
②本件サブライセンス契約(甲A58,乙A1)
【第1条(権利の確認)】
甲(控訴人)は乙(被控訴人ファーストリテイリング)に対し,甲
が管理する…キース・エステイトの著作物「KEITHHARING」に含まれる
ところの著作権等に基づく商品化権を
2003年(平成15年)1月1日より2005年12月31日の
期間
…乙の製造・販売する商品…に使用する事を各条項に従い許諾する。
(イ)本件サブライセンス契約は,あくまで本件マスターライセンス契約
により許諾された権利に基づくものというべきであるから,本件マスタ
ーライセンス契約が複製の許諾対象をキース・ヘリングが制作した画像
と規定している以上,本件サブライセンス契約の使用許諾の対象も,こ
れ以上のものを規定しているとは言い難い。また,本件サブライセンス
契約が規定する,控訴人が管理するキース・エステイトの著作物「KEITH
HARING」に含まれるところの著作権等に基づく商品化権との文言をみて
も,著作物「KEITHHARING」との規定ぶりであって,「KEITHHARING」の文
字が対象になっていると読むことはできない。さらに,本件サブライセ
ンス契約の上記文言自体が必ずしも明確であるとはいえず,その外延は
不明確と言わざるを得ないから,販売許諾地域外で「KEITHHARING」の
小さな標準文字を円環状に彫った釦を使用した商品を販売することが,
本件サブライセンス契約の文言上当然に使用許諾対象に含まれていると
みることは困難である。
以上によれば,本件釦付きポロシャツの釦に彫られた「KEITHHARING」
との円環状の小さな標準文字は,本件サブライセンス契約がその使用を
許諾した対象とは認めがたいというべきであるから,被控訴人ファース
トリテイリングが本件釦付きポロシャツを販売したことが,本件サブラ
イセンス契約に違反するということはできない。
(ウ)①以上のように,本件釦付きポロシャツの販売は本件サブライセン
ス契約に違反するとはいえないものであるが,念のため仮に本件釦付
きポロシャツの販売が本件サブライセンス契約に違反するとした場合
の違反の程度について検討する。
証拠(甲A130∼132,乙A38∼41,45の①−1∼4,②
−1∼3,③−1∼2,46の1∼2,原審証人P)及び弁論の全趣旨によ
れば,以下の事実が認められる。
a中国の上海には,被控訴人ファーストリテイリングの上海事務所
と,同被控訴人の中国子会社である迅銷(江蘇)服飾有限公司の支
店である上海分公司とがある。被控訴人ファーストリテイリングの
上海事務所は生産の管理を担当しており,上海分公司は販売の管理
を担当している。原審証人であるPは,平成13年に上記迅銷(江
蘇)服飾有限公司の董事兼総経理に就任し,被控訴人ファーストリ
テイリングの中国事業の責任者の立場にあったほか,平成14年に
被控訴人ファーストリテイリングの取締役にも就任していた。
b上記迅銷(江蘇)服飾有限公司においては,事業の効率化,コス
ト削減のため,できる限り,日本で使用している仕様書や発注書,
商品の画像データ等を再利用するようにしていた。Pは,日本で毎
シーズン行われる商品会議に出席した際,被控訴人ファーストリテ
イリングの商品関係の担当取締役Hらから,中国でキース・へリン
グ商品が販売できないことを聞いていたため,日本品番1456−
002の商品(中国品番4456−002)については,本件プロ
パティが付された商品が製造されることがないように,被控訴人フ
ァーストリテイリングの上海事務所において,日本で使用している
仕様書,アクセサリーシート,畳み指示書を修正した上,生産を担
当する工場に送って商品の製造に当たらせていた。
c上記において,Pを含む被控訴人ファーストリテイリングの中国
側担当者は,仕様書,アクセサリーシート,畳み指示書において,
以下の部分を含んだ修正をなしたが,修正されずに残った部分もあ
った。
(a)仕様書(乙A39,45の①−1∼4,46の1,甲A13
0)
・図示されたポロシャツにおける,胸付近のワッペンや,ピス
ネームが消されている。
・「ワッペン叩き付け」との記載が消されている。
。・「ピスネーム(キース)挟み込み」との記載が消されている
・「各サイズワッペンがボーダーの真中に来る様にして下さ
い」との記載が消されている。。
・「DESCRIPTION」の欄が「Kキースへリングボーダーポロシ,
ャツ(S」から「童装横条翻領丁恤(キッズボーダーポロ),」
シャツの意味の語)に訂正されている。
・「STYLENO.」の欄が「1456−002」から「445,,
6−002」に訂正されている。
・ただし「ロゴ釦11.5cm」の記載は,修正されずに残ってい,
る。
,(b)アクセサリーシート(乙A40,45の③−1∼2,46の2
甲A131)
・「DESCRIPTION」の欄が「Kキースへリングボーダーポロシ,
ャツ(S」から「童装横条翻領丁恤(キッズボーダーポロ),」
シャツの意味の語)に訂正されている。
・「STYLENO.」の欄が「1456−002」から「445,,
6−002」に訂正されている。
・「ACCESSORIES」の欄中「DESCRIPTION」の欄に「その他/,,
DOGWP1「ボタン/SET-10011.5mm」とあり,それぞれに対応」
する「SUPPLIER」の欄にいずれも「島田商事」とあったのが,
「その他/DOGWP1「ボタン/SET-10011.5mm」の部分は残っ」
ているが「島田商事」の部分がバッテンで消され,横に「工,
場手配」と記載されている。
・「HANGTAG/LABELS」の欄中「DESCRIPTION」の欄に「C,「,
-SL-804(KEITHKIDSサイズ入り衿ネーム「899(KEITHHARING」
ポロシャツ用「ピスネーム/C-PL-806」とある部分が傍線で消さ),
れ,また「SUPPLIER」の欄に「ナカムラレーベル」とあるのが斜線,
で消され,横にNと記載されている。
(c)畳み指示書(乙A41,45の②−1∼3,甲A132)
・「DESCRIPTION「SAMPLENO.「STYLENO.「SUPPLIER」の」」」
欄が「童装横条翻領丁恤(キッズボーダーポロシャツの意,」
味の語「145N1004「4456−002「申州」と)」」
修正されている。
・図示されたポロシャツにおける胸付近のワッペンが消されて
いる。
・「ワッペンの下で折る」との記載が残っている。。
②上記①a∼cによれば,Pは,中国で本件プロパティを付したポロ
シャツを販売できないとの認識を踏まえて,中国において同プロパテ
ィが付されていないほかは同一のポロシャツの販売を企画したこと,
そしてPは,日本品番1456−002の商品(中国品番4456−
002)につき,日本で使用している仕様書,アクセサリーシート,
畳み指示書を一部修正して中国の生産工場に送付することにしたこと,
こうした経緯に基づいて,実際に,上記仕様書,アクセサリーシート,
畳み指示書において,本件プロパティが付されることを指示する記載
や,これを前提とする記載の多くが削除・訂正されたこと,がそれぞ
れ認められる。
以上によれば,本件釦付きポロシャツの販売は,上記仕様書等にお
ける削除・訂正漏れの記載に基づいて誤って製造された商品に係るも
のとみるのが合理的である。
③この点につき控訴人は,ロゴ釦付きポロシャツが販売されていたこ
とをPをはじめ被控訴人ファーストリテイリングが知らなかったなど
ということは到底考えられず,仕様書は2種類存在していたと考えら
れ,販売許諾地域外で「KEITHHARING」のロゴ釦を使用した商品を販
売することは本件プロパティそのものを付した商品の販売と同様にそ
の契約違反の程度は極めて強いと主張する。
しかし,上記②の事実経過に不自然な点はなく,本件プロパティが
付されることを指示する記載や,これを前提とする記載の多くが削除
・訂正されたものの「ロゴ釦11.5cm」の記載が修正されずに残ってい
たことは,本件釦付きポロシャツが販売されたとの上記認定とも整合
するものである。しかして,被控訴人ファーストリテイリングが本件
釦付きポロシャツの販売を知りながら行うこと,及び,仕様書を2種
類作成することは,上記②の事実経過にも沿わず,これらを認めるに
足りる客観的な裏付けもない以上,控訴人の推測の域を出ないものと
言わざるを得ない。
そして,継続的取引契約である本件サブライセンス契約の解除の可
否の判断に当たっては,契約違反に該当する行為があったことが直ち
に解除原因になると認められるものとはいえず,違反に至った経緯や
違反の程度を踏まえて実質的に判断すべきであるところ,上記に照ら
せば,仮に本件釦付きポロシャツの販売が本件サブライセンス契約に
違反するとしても,その違反の程度が解除原因に該当するほど強いも
のと評価することはできず,控訴人の主張を採用することはできない。
(2)本件プロパティが付されたポロシャツの販売について
控訴人は,被控訴人ファーストリテイリングが本件プロパティが付された
ポロシャツを販売したと認めるべきである旨を述べ,これに沿わない原判決
の説示は誤りであると主張するので,以下検討する。
ア控訴人は,中国向けのホームページに,定価59元のキース・へリング
ポロシャツを売価29元に値引きして販売しているとの広告があり,これ
を見れば,その商品が現在,その値引価格で店頭販売されていると理解す
るのが普通であると主張する。
確かに,甲A4,14の1∼2,15の1∼4,72,98,100等によ
れば,このポロシャツHPは,原判決42頁14行∼17行に説示すると
おり,商品販売の宣伝広告として理解され,当該ポロシャツに付されたワ
ッペンは,特に本件ポロシャツ画像の拡大画像(甲A15の1∼4)により,
その形状等を明確に認識し得るものといえる。
しかし,上記(1)のように本件釦付きポロシャツを購入した者が持参し
たと認められ,客観的証拠(乙A39∼41)とも整合する場合とは異な
り,ポロシャツHPは,あくまで本件プロパティが付されたポロシャツの
販売を間接的に裏付ける一資料に過ぎず,下記イ以降の説示に照らしても,
これから本件プロパティが付されたポロシャツの販売を認めるには,いま
だ十分とはいえない。
イ控訴人は,原判決が,店頭で販売の事実を確認したり,販売された商品
を入手することはさほど困難なことではないと指摘したのに対し,控訴人
がホームページ画像に気が付いた平成16年8月10日(甲A139)は
春夏物である本件ポロシャツはほぼ販売が終了する時期であったため,当
時実際に入手しようとしてもできなかったものであり,また,平成16年
8月12日にホームページ画像を削除しながら控訴人に何の報告もなかっ
たことからすれば,それ以降,店頭で販売事実を確認しようとしても不可
能であったことは容易に推測しうる,と主張する。
しかし,控訴人がホームページ画像に気が付いた時期がたまたま春夏物
の販売がほぼ終了する時期であったり,被控訴人ファーストリテイリング
が平成16年8月12日にホームページ画像を削除したが控訴人にその事
実を連絡しなかったことが仮にあったとしても,それは,控訴人が,自ら
商品を入手できなかった事情について述べたに過ぎず,実際に本件プロパ
ティ付きのポロシャツが販売されていたのであれば,通常は,控訴人が店
頭で販売の事実を確認したり,販売された商品を入手することがさほど困
難なことと言えないことに変わりはない。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
ウ控訴人は,原判決は「…「アポロシャツHP」については,商品販,
売の宣伝広告として理解され,…(42頁14行∼15行)と認定しな」
がら,販売事実を推定せず,認定していないという自己矛盾に陥っている
と主張するが,上記アに説示したとおりであるから,同主張は採用するこ
とができない。
エ控訴人は,原判決の説示は原審証人Pの証言を鵜呑みにしたものである,
商品販売の宣伝広告のために企業がホームページ制作を依頼した場合,こ
れをホームページ上に掲載する前に,必ず,予め制作画像の詳細を点検・
チェックするはずである,中国の担当者が日本の担当者に対し品番によっ
て画像を要求しても,キッズボーダーポロシャツ分については使用できな
い画像が届いてしまうことを当然理解していたはずである,すなわち,中
国ホームページの画像は,見落としなどではなく,Pらは,意図的に本件
プロパティを付したポロシャツ画像の販売広告を行い,現に販売を行った
ものと認定するのが合理的である,と主張する。
しかし原判決は,日本での品番と中国での品番とが国別番号の部分を除
き共通することを考えると,日本側と中国側とで品番に基づき画像データ
のやり取りをするに当たって,中国側担当者が本件プロパティが小さかっ
たため同プロパティが付されていることを見落とした旨の原審証人Pの証
言について,これを不自然なものとして排斥することはできないと説示し
たに止まるものである。そして,上記(1)イ(ウ)②に説示したとおり,実
際に,仕様書,アクセサリーシート,畳み指示書において,本件プロパテ
ィが付されることを指示する記載や,これを前提とする記載の多くが削除
・訂正されたことに鑑みると,控訴人が指摘する上記事情のみに基づいて,
Pらが意図的に本件プロパティを付したポロシャツ画像の販売広告を行い,
現に販売を行ったものであると認めるにはいまだ客観的な裏付けが乏しく
困難というべきである。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
オ(ア)控訴人は,工場に渡すべき仕様書が修正液で消されて作成されてい
るということ自体が不自然であり,押印しているE以外の者が後から修
正した可能性がある,仕様書において「ロゴ釦11.5㎝」との記載が
あり,これだけでも立派なプロパティの使用であるし,ロゴ釦が付けら
れているのであれば,同じく本件プロパティが付されているとしても全
く不自然ではない,仕様書の記載は,アクセサリーシートの記載とセッ
トで解釈すべきところ,そのアクセサリーシートでも,犬のワッペンが
付されていることが明記されている,と主張する。
しかし,工場に渡すべき仕様書が修正液で消されて作成されていたり,
押印者以外の者が実際の記入をしていたことを前提としたとしても,上
記(1)イ(ウ)③に説示したように,本件プロパティが付されることを指
示する記載や,これを前提とする記載の多くが削除・訂正された一方
「ロゴ釦11.5cm」の記載が修正されずに残っていたことは,本件釦付き
ポロシャツが販売されたとの認定とも整合するところである。また,本
件釦付きポロシャツの販売が本件サブライセンス契約違反に当たらない
ことは,上記(1)イ(イ)に説示したとおりであり,本件釦付きポロシャ
ツが販売されたことから直ちに本件プロパティが付されているポロシャ
ツの販売を推認することにも無理があるし,アクセサリーシートの記載
についても,下記(イ)①∼④で説示するとおり,意図的なものとみるこ
とは困難である。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
(イ)①控訴人は,真ん中の「ACCESSORIES」欄の左下に「DESCRIPTION」
(=種類)の欄があり,その上から1番目に「DOGWP1」とあり,その
供給者(工場手配,サイズ,場所,色等も明確に指示されている旨)
指摘し,アクセサリーシートはワッペンを付けることを前提としてい
る旨主張する。しかし,控訴人は,結局は「DOGWP1」の記載がそのま
まとなっていることを指摘するものであるところ,アクセサリーシー
トの全体の削除,訂正の状況は,上記(1)イ(ウ)①に認定したとおり
であり,特に「HANGTAG/LABELS」欄の「…KEITH…「…KEITHH,」
ARING…」の箇所が傍線で消されているのであるから「DOGWP1」の,
記載が消し忘れであるとしても不自然とまではいえず,アクセサリー
シートが,キース・へリングのワッペンを付けることを前提としたも
のとまでいうことはできない。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
②控訴人は,ドッグワッペンと共に工場手配される「ボタン/SET-10
011.5㎝」は,仕様書と併せればロゴ入り釦であると主張するが,
釦付きポロシャツの販売が本件サブライセンス契約違反に当たらない
ことは,上記(1)イ(イ)に説示したとおりである。
③控訴人は,アクセサリーシートの「童装横条翻領T恤」欄の下に
「キースへリング」とあるのも「消し忘れ」などではないと主張する
が,上記①に照らし,消し忘れとしても不自然とまではいえない。
④控訴人は,原審証人Pが,左下の「HANGTAG/LABELS」欄で,バ
ッテンを付けているから間違って作られることはありえないと供述す
るのに対し,ハングタグ(紐でつるされるタグ)やケアラベル(洗濯
方法の注意書ラベル)は,もともと日本語表記のものは中国国内で使
えないため変更する必要があるから,この部分が一部削除されていた
からといって,ワッペンやロゴ釦使用を否定する根拠にはならないと
主張する。
しかし,ハングタグやケアラベルにつき,もともと日本語表記のも
のが中国国内で使えないため変更する必要があるとしても「HANGT,
AG/LABELS」欄の「ブランドネーム/…「ケアラベル/WC…」の部分は消さ」
れずに残っているのであるから,傍線で消去されたことをもともと日
本語表記のものを中国国内で使えないことからすべて説明することに
は無理があるし「…KEITH…「…KEITHHARING…」の箇所が傍線で,」
消されていることにも変わりはない。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
⑤控訴人は,乙A41(甲A132)の⑥では「ワッペンの下で折,
る」という指示が明記されていると主張する。しかし,畳み指示書に
おいては,上記(1)イ(ウ)①に認定したとおり「DESCRIPTION「SAMP,」
LENO.「STYLENO.「SUPPLIER」の欄が「童装横条翻領丁恤(キ」」,」
ッズボーダーポロシャツの意味の語「145N1004「445)」
6−002「申州」と修正され,図示されたポロシャツにおける胸」
付近のワッペンが消されているのであるから,これらに照らせば,
「ワッペンの下で折る」という記載が残っていることのみから,畳み
指示書が,本件プロパティを付することを指示したものとみることは
できない。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
⑥控訴人は,ワッペン部分は削除され,ロゴ釦部分がそのままの仕様
書と,ワッペンもロゴ釦も付けるとされたアクセサリーシート,ワッ
ペンのところで折るとの畳み指示書とが工場に送られれば,工場は必
ず混乱し,被控訴人ファーストリテイリングに対し問い合わせるはず
である,したがって,仕様書とアクセサリーシートは一致しており,
工場側には何ら混乱が生じなかったとしか考えられず,論理的に,ワ
ッペンもロゴ釦もいずれも削除されていなかったか,ワッペンもロゴ
釦もいずれも削除されていたかの2つしかありえない,しかし,いっ
たん削除したものを乙A39∼41でもとに戻っているということは
ありえないから,これと矛盾する乙A39のワッペン部分の修正は,
何者かにより意図的に,後からなされたものと言わざるを得ない,日
常的なコミュニケーションをしているのであればなおさら,生産に入
る前に,各書面の矛盾と間違いにすぐに気付くはずであり,原審証人
Pの供述は信用性に欠けると主張する。
しかし,上記(1)イ(ウ)②に説示したように,仕様書,アクセサリ
ーシート,畳み指示書において,本件プロパティが付されることを指
示する記載や,これを前提とする記載の多くが削除・訂正されており,
削除・訂正されなかった記載はむしろ少ないというべきことによれば,
この程度の事項は,被控訴人ファーストリテイリング上海事務所と生
産工場との間の日常的なコミュニケーションにより対処できたものと
みても不自然とはいえないというべきであり,少なくとも本件プロパ
ティを付すかどうかという根幹的な事項については,被控訴人ファー
ストリテイリングの生産工場に対する指示において不明確な点はなく,
両者の認識に齟齬はなかったというべきである。そして,乙A39の
ワッペン部分の修正が,何者かにより意図的に,後からなされたこと
を客観的に裏付けるに足りる証拠はない。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
⑦控訴人は「発注書(乙A42,甲A133)はアソート指示書,」
(組合せ指示書)というべきで,しかも2005(平成17)年9月
16日にプリントアウトされている上,胸前の刺繍ロゴ取消という意
味の文言は後から加工可能な電子データであり,信用性に欠けると主
張する。
しかし,かかる「発注書(乙A42,甲A133)の存在は,上」
記(1)イ(ウ)②に説示したように,仕様書,アクセサリーシート,畳
み指示書において,本件プロパティが付されることを指示する記載や,
これを前提とする記載の多くが削除・訂正されていることに整合する
ものであるから,その信用性を認めることができるというべきである。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
⑧控訴人は,被控訴人ファーストリテイリングは,乙A41∼43の
「仕様書」や「発注書」について,控訴人から再三にわたり任意提出
や文書提出命令の申立までされた結果,ようやく提出してきたという
経過がある,控訴人は,被控訴人ファーストリテイリング提出の仕様
書類が修正・削除されていたという事実自体を争うものであるが,仮
に被控訴人ファーストリテイリング提出の仕様書類によって製造が行
われたとしても,本件プロパティが付された商品が作られることは明
らかである。と主張する。
しかし,控訴人が指摘する事情があったとしても,上記①∼⑦の説
示に照らし,被控訴人ファーストリテイリングが当時において削除・
訂正したと認定できることが左右されるには至らない。また,上記
(1)イ(ウ)②に説示したように,仕様書,アクセサリーシート,畳み
指示書において,本件プロパティが付されることを指示する記載や,
これを前提とする記載の多くが削除・訂正されていることに照らせば,
これらの書類に基づいて本件プロパティが付された商品が製造される
ということは困難である。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
(3)その余の中国問題について
ア控訴人は,原判決がポロシャツHP,TSHOW震撼上市HP,店内タ
ペストリー,地下鉄コルトン,テレビコマーシャルの使用が,本件サブラ
イセンス契約5条に違反するとしたのは正当であるが,被控訴人ファース
トリテイリングの各広告のほとんどを企業イメージの広告などと決めつけ
た上で,契約違反の程度が小さいと判断し,本件サブライセンス契約の解
除原因に当たらないとしたのは誤りであると主張するのに対し,被控訴人
らは,本件サブライセンス契約5条はその文言からしても明らかに商品の
販売地域を限定する規定に過ぎず,他方,広告に関する規制は本件サブラ
イセンス契約では8条に規定されているのであるから,広告への商品の掲
載を理由に本件サブライセンス契約5条違反を主張するのは誤りであると
主張する。
確かに,本件サブライセンス契約5条は,その販売地域について「本商
品の販売地域は日本国内のみに限定する。…」とのみ規定し,広告につい
ては文言として規定していない。しかし,広告宣伝は販売行為に密接に関
連し,これと有機的一体性を有する行為と位置づけられるものであって,
原判決も説示するとおり,本件サブライセンス契約5条は,個別商品につ
いての広告か企業イメージの広告かを問わず,宣伝広告の実施地域を日本
国内のみに限定する趣旨を含んでいるものと解するのが相当であるから,
ポロシャツHP,TSHOW震撼上市HP,店内タペストリー,地下鉄コ
ルトン,テレビコマーシャルの使用は本件サブライセンス契約5条に違反
するというべきである。
ただし,上記(1)イ(ウ)③に説示したとおり,継続的取引契約である本
件サブライセンス契約の解除の可否の判断に当たっては,契約違反に該当
する行為があったことが直ちに解除原因になると認められるものとはいえ
ず,違反に至った経緯や違反の程度を踏まえて実質的に判断すべきである
から,以下,被控訴人ファーストリテイリングの上記各行為が継続的取引
契約である本件サブライセンス契約の解除原因に当たるほどの行為といえ
るかどうかを検討することとする。
イポロシャツHPにつき
控訴人は,企業が,商品販売の宣伝広告のためにホームページ制作を依
頼した場合,これをホームページ上に掲載する前に,必ず,予め制作画像
の詳細を点検・チェックするはずであり,その段階で,クリックして大き
くなった画像に気付かないとか,これに本件プロパティが付されているこ
とを見落とすことなどあり得ない,したがって,ポロシャツHPは,当初
から意図的に本件プロパティを付して制作されたものと考えざるを得ない
と主張する。
しかし,上記(1)イ(ウ)②,(2)エに説示したとおり,実際に,仕様書,
アクセサリーシート,畳み指示書において,本件プロパティが付されるこ
とを指示する記載や,これを前提とする記載の多くが削除・訂正されたこ
とに鑑みると,控訴人が指摘する上記事情のみに基づいて,ポロシャツH
Pが,当初から意図的に本件プロパティを付して制作されたものというに
はいまだ客観的な裏付けが乏しく困難というべきである。
ウTSHOW震撼上市HPにつき
控訴人は,TSHOW震撼上市HP(本件TSHOW画像)を企業
イメージの広告とする趣旨は全く不明確であるし,そうであるからと言っ
て,契約違反の程度が小さいなどとする根拠にはなり得ない,本件は,抽
象的イメージの広告や,取扱商品と関係ない広告ではなく,実際に販売し
ているTシャツ・ポロシャツを多数集めているという画像であり,その中
に,本件プロパティが付されたポロシャツが含まれているということに問
題の本質がある,すなわち,販売商品の紹介の中に,本件プロパティの認
識可能な商品が含まれている限り,この広告は,単なる企業イメージの広
告ではなく,少なくとも本件プロパティが付されたポロシャツの販売広告
としての性格を併せ持った広告というべきである,と主張する。
しかし,本件TSHOW震撼上市HPの構成からすれば,同HPが,
これを見た者に対し,被控訴人ファーストリテイリングが200点以上と
いう豊富な品数のデザインや配色の異なるTシャツ・ポロシャツを販売し
ていることをアピールするものであり,主として一種の企業イメージの広
告としての性格を有するものと認められることは明らかである。そして,
同HPが実際に販売しているTシャツ・ポロシャツを多数集めているとい
う画像であり,その中に,本件プロパティが付されたポロシャツが含まれ
ているとしても,価格の記載その他の宣伝文言の記載が一切なく,単に1
00種類以上のデザインのTシャツの画像を集めたものを一覧できるよう
な一画面が作成されているという同HPの構成や,そのうち本件プロパテ
ィが付されたポロシャツが6つであることなどからすれば,これを見る一
般消費者の通常の受け取り方としては,全体として被控訴人ファーストリ
テイリングの企業イメージをアピールするものと捉えることは明らかであ
る。本件TSHOW震撼上市HPが同ポロシャツの販売広告の意味を有
していることが全くないとまではいえないものの,主として一種の企業イ
メージの広告としての性格を有することは何ら左右されるものではない。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
エ店内タペストリーに使用された本件TSHOW画像につき
控訴人は,上記画像についても,上記ウと同様であり,Tシャツやポロ
シャツが具体的に販売されている店内のタペストリー画像については,H
P画像より一層販売広告性が明確になると主張する。
しかし,本件TSHOW画像が主として一種の企業イメージの広告と
しての性格を有するものであることは上記ウで説示したとおりである。す
なわち,価格の記載その他の宣伝文言の記載が一切なく,単に100種類
以上のデザインのTシャツの画像を集めたものを一覧できるように作成さ
れているという同タペストリーの構成や,そのうち本件プロパティが付さ
れたポロシャツが6つであることに変わりはないから,これがHPでなく
店内タペストリーであるからと言って直ちに販売広告性が明確になるもの
とはいえない。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
オ店内タペストリーに使用された本件子供画像につき
控訴人は,販売価格の表示がなくても販売広告に該当し,また,本件プ
ロパティが付された商品を販売しているという広告である以上,一種の販
売広告であることは明らかであり「キース・へリングの著作物を使用し,
ています」などといったコメントがあるかどうかは,本質的な問題では。
ないと主張する。
しかし,本件子供画像は,販売価格の表示がないだけでなく,宣伝文言
の記載が一切ない画像のみから構成されているから,たとえ本件プロパテ
ィが使用されていることを判別し得る程度のサイズのものが使用されてい
るとしても,これを見る一般来店者の通常の受け取り方としては,全体と
して被控訴人ファーストリテイリングの企業イメージをアピールするもの
と捉えることは明らかであり,販売広告であることが明らかとはいえない。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
カ地下鉄コルトンの本件TSHOW画像につき
控訴人は,地下鉄各駅での本件TSHOW画像は,そこに掲載された
Tシャツやポロシャツを被控訴人ファーストリテイリングが販売している
ことを宣伝し,これを見た者をして,各販売店舗に誘引する効果を意図し
たものであるから,販売広告としての性格を有することは明らかであると
主張する。
しかし,上記イ∼エに説示したのと同様に,本件TSHOW画像は,
価格の記載その他の宣伝文言の記載が一切なく,単に100種類以上のデ
ザインのTシャツの画像を集めたものを一覧できるように作成され,その
うち本件プロパティが付されたポロシャツが6つあるに過ぎないから,地
下鉄コルトンの本件TSHOW画像が,主として一種の企業イメージの
広告としての性格を有することは明らかである。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
キテレビコマーシャルのTSHOW画像につき
控訴人は,テレビコマーシャルのTSHOW画像のほか,ホームペー
ジ,店頭・店内,地下鉄各駅というように,様々な場所と態様において同
種同様のものが掲載されており,いわゆるマルチメディア・メディアミッ
クスの方法により,数ヶ月間にわたり,あるいは短期間集中的に,本件プ
ロパティが付された商品の販売広告が,他のオリジナル商品の販売広告と
ともに実施されたものである(甲A87参照)と主張する。
しかし,ホームページ,店頭・店内,地下鉄各駅において上記ア∼カに
説示するような性格を有する各広告が存在するからと言って,テレビコマ
ーシャルの本件TSHOW画像において本件プロパティが付されている
ことを認識することはほとんど不可能であることに変わりはなく(乙A5
参照,またこれらを総合しても,解除原因となり得るほどの契約違反行)
為と認めることができないことは,後述するとおりである。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
ク控訴人は,仮に当初は見落としがあったとしても,少なくとも途中から
は故意に継続されたものであることは明らかであると主張するので,以下
検討する。
(ア)控訴人は,Pは,各広告に本件プロパティが使用されていることに
気付いていたと主張し,Pが平成16年5月前後の頃,週に一日は上海
の各店舗を回り,一つの店で30分前後店の様子を確認していること,
被控訴人ファーストリテイリングは画像を確認しながらタペストリーを
制作しており(甲A82,制作終了までに出来あがりを確認しないな)
どということは考えられないこと,中国ユニクロ店舗内展示物や地下鉄
駅展示物内の本件プロパティである「BARKINGDOG」の使用個数を見る
と,店舗内は6店舗合計140個,地下鉄では3駅42個の同プロパテ
ィを使用しており,合計で182個もの本件プロパティが露出されてい
たものであること(甲A86の2,甲A99)を指摘する。
しかし,上記ア∼カの説示に照らせば,明確な販売広告の画像といえ
るものはポロシャツHPのみであり,その他はすべて主として一種の企
業イメージの広告との印象を受ける態様で使用されていたものであるこ
とに照らせば,たとえ控訴人が指摘するような諸事情が存在したとして
も,それらから当然に,Pが各広告に本件プロパティが使用されている
ことに途中で気付きながら故意にこれを継続させたと認めるのは困難で
ある。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
(イ)控訴人は,商品番号が同一だからという言い訳は破綻していると主
張し,現に日本の品番は1456−002,中国の品番は4456−0
02であり,最初の一桁が違い,同一品番ではないのに違う品番の画像
にリンクするということはあり得ない,Pの供述を前提にしても,キッ
ズのボーダーポロシャツについては,日本のものは本件プロパティが使
用されており,中国での販売予定のものは本件プロパティを使用できな
いという認識があったはずであるから,品番によって画像を要求しても,
中国側担当者は,キッズのボーダーポロシャツ分については,使用でき
ないことを当然理解していたはずであると主張する。
しかし,日本の品番は1456−002,中国の品番は4456−0
02であるとしても,国番号を示す最初の一桁のみが異なるものであれ
ば,これを同一品番として画像を要求したと表現したとしてもあながち
,誤りとまでは言えないし,上記(1)イ(ウ)②に説示したとおり,実際に
仕様書,アクセサリーシート,畳み指示書において,本件プロパティが
付されることを指示する記載や,これを前提とする記載の多くが削除・
訂正されたことに鑑みると,控訴人が指摘する上記事情のみに基づいて,
被控訴人ファーストリテイリングの中国側担当者が,単なる見落としで
はなく故意に本件プロパティをHPに使用したとまではいえない。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
(ウ)控訴人は,本件プロパティが付された商品を広告に使用し続けたこ
とだけでも,このような販売促進広告は,中国で被控訴人ファーストリ
テイリングが本件プロパティが付された商品の販売の承認を受けて販売
している外観を作出していることに変わりはなく,販売も許容されてい
ない商品について,価格まで付して販売促進を図るホームページ画像や,
店頭,地下鉄等での露出を継続し,あるいは既に行ったことについての
報告も謝罪もしてこなかったこと自体,著しい背信行為であり,優に解
除に値すると主張する。
しかし,本件プロパティが付された商品を広告に使用していたことが,
控訴人から販売の承認を受けて販売している外観を作出しているという
要素があり得るとしても,当該広告の性質や態様等を検討することなく
直ちに継続的契約において解除をなし得る要件である背信性が基礎付け
られることにはならない。また,報告や謝罪の有無については,本件に
おいて解除事由となるような背信性が認めがたいことは,後記(カ)で説
示するとおりである。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
(エ)控訴人は,原判決が本件サブライセンス契約6条にいう「生産関係
者」には被控訴人ファーストリテイリング自身は含まれないとしたのに
対し,被控訴人ファーストリテイリングは仕様書や発注書等の書類によ
り,中国子会社を通じて生産に関する指示を出している本商品の輸出入
の実質的な当事者であるから,被控訴人ファーストリテイリングも中国
子会社も,本件サブライセンス契約6条に生産関係者に当たることは明
白であると主張する。
しかし,本件サブライセンス契約6条は,生産関係者による本件プロ
パティ又は本件商品の流出があった場合に被控訴人ファーストリテイリ
ングが責任を負う旨定めるところ,原判決が説示するように,同条は,
生産工場・輸出入者又は生産管理者等本件商品の生産に関わるすべての
個人及び法人についての被控訴人ファーストリテイリングの控訴人に対
する事前申請義務を前提とするものであることからすると,同条にいう
「生産関係者」に被控訴人ファーストリテイリング自身やその中国子会
社が含まれないことは明らかというべきである。したがって,控訴人が
主張するような上記事情のみをもって当然に,被控訴人ファーストリテ
イリングも中国子会社も,本件サブライセンス契約6条の生産関係者に
当たることは明らかということはできない。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
(オ)控訴人は,原判決はことさらに被控訴人ファーストリテイリングの
行為は本件サブライセンス契約8条違反には該当しないと結論付けるこ
とによって,結果的に5条違反のみとして契約違反の重大性をあいまい
にし,5条違反ではあるが販売広告に該当するのは本件ポロシャツHP
画像のみなどと限定することによって,重大な契約違反性を更に薄めよ
うとするものであると主張する。
しかし原判決は,本件サブライセンス契約5条の販売地域の制限につ
き,企業イメージの広告を含む販売促進も対象に含まれると広く解した
ことを踏まえ,これと整合するように8条の条文を解釈したに過ぎず,
かかる解釈を施したからと言って,これが具体的な行為態様の認定に影
響するものではない以上,契約違反性の程度の認定に結びつくものとも
いえない。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
(カ)①控訴人は,本件サブライセンス契約13条に「第三者」と表現さ
れているのは,被控訴人ファーストリテイリング自身が自ら著作権及
び商標権を侵害してはならないことは自明のことであるから,あえて
は書いていないだけのことに過ぎないと主張するが,文言上「第三
者」と明確に規定されている以上,かかる文言に契約当事者である被
控訴人ファーストリテイリングも含まれると解するのは相当ではない。
②控訴人は,被控訴人ファーストリテイリングないし中国子会社は,
遅くとも平成16年8月12日の時点ではホームページ画像に本件プ
ロパティを無断使用したことに気付いたのであるから,その時点で速
やかに控訴人に事実報告をすべきであったのにこれを怠り,控訴人が
指摘するまでその事実を隠蔽し続け,現在に至るまで侵害行為の詳細
説明を拒否し続けており,本件サブライセンス契約13条違反は明ら
かであると主張する。
しかし,原判決が説示するとおり,仮に中国における本件ポロシャ
ツ画像等の掲載が報告義務の対象となるとした場合,平成16年8月
12日の時点でその中国向けホームページに本件ポロシャツ画像が掲
載されていることに気付いたにもかかわらずこれを控訴人に報告しな
かった被控訴人ファーストリテイリングの行為は本件サブライセンス
契約13条に違反している可能性があるが,控訴人が平成16年12
月6日付け「重大な契約違反行為に対する通告書(甲A3)におい」
て,初めて中国問題について指摘してからは,実質的に見て,控訴人
に対する報告を誠実に実施したものと認められるところである(これ
に反する控訴人の主張が採用できないことは,後記③で説示するとお
りである。そうすると,被控訴人ファーストリテイリングが現在。)
に至るまで侵害行為の詳細説明を拒否し続けているということはでき
ない。さらに,原判決が認定するとおり,控訴人自身も,既に平成1
6年8月10日の時点で上記本件ポロシャツ画像等の掲載を発見して
把握していたこと,それにもかかわらず,それを初めて指摘したのが
上記のように平成16年12月6日付け「重大な契約違反行為に対す
る通告書(甲A3)であることも併せ考慮すると,平成16年8月」
12日の時点でその中国向けホームページに本件ポロシャツ画像が掲
載されていることに気付いた後これを控訴人に報告しなかった被控訴
人ファーストリテイリングの行為のみを捉えて,その契約違反の程度
が重大なものと評価することはできない。
以上によれば,控訴人の上記主張は上記説示に反する限り採用する
ことができない。
③控訴人は,被控訴人ファーストリテイリングが,控訴人に対する報
告を誠実に実施したというのは誤りである,例えば甲A14の1,2,
15の1∼4の中国ホームページ画像について,控訴人は,再三にわた
り画像自体の提供を求め,被控訴人ファーストリテイリングはこれが
存在しないと主張し続けたにもかかわらず,甲A14の1,2,15の
1∼4の画像は,平成16年7月30日時点で,甲A14の1,2,15
の1∼4のとおりのコンテンツとしてインターネット上のホームページ
内に存在し,平成17年4月8日まで,外部からアクセス可能だった
(甲A14の1,2,15の1∼4,54の1∼2,73∼74,75の1
∼2,76,乙A5)と主張する。
しかし,原判決の認定した控訴人の平成16年12月6日付け「重
大な契約違反行為に対する通告書(甲A3)の送付以降の被控訴人」
ファーストリテイリングの対応を総合的に見れば,被控訴人ファース
トリテイリングは,控訴人に対し,控訴人の要求する極めて詳細かつ
多数にわたる報告事項に対し,すべての事項について報告したとはい
えないものの,時間的制約も考えると十分と認められる程度の内容の
報告を行っているものである。したがって,仮に控訴人の指摘するよ
うな上記事情が存したことを前提としても,全体の過程を踏まえて総
合的に評価するならば,被控訴人ファーストリテイリングは控訴人に
対し誠実に対応してきたと十分認めることができる。
(キ)控訴人は,平成16年8月10日,著作権・商標権侵害の事実を把
握した後,まず,最大の侵害行為である価格付きホームページ画像によ
る宣伝広告行為を直ちに止めさせる応急措置がとれたことを確認した上
で,引き続いて侵害行為の有無や内容を性格に把握するため必要な調査
を行っていたのであり,その間4か月程度を要したからといって,何ら
非難されるものではない(甲A78の1∼2参照)と主張する。
しかし,控訴人の指摘する事情を前提としても,原判決の説示すると
おり,客観的に見て,証拠確保の目的だけで4か月近くの遅れを説明す
ることはできないというべきである。
(ク)控訴人は,原判決が「…原告側の態度は,いずれの問題についても
過剰ともいえるほどに強硬であったと評価せざるを得ない…(47頁」
下9行∼下8行)としたことについて,知的財産権の侵害の重大性につ
いて無理解であると主張する。しかし,本判決に説示するように,控訴
人の各請求はいずれも結論として理由がないことを踏まえて考えれば,
控訴人の主張は失当と言わなければならない。
(ケ)控訴人は,被控訴人ファーストリテイリングの販売地域制限違反行
為は,本件プロパティの商品化事業の根幹に関わる違反行為であり,そ
れ自体重大な契約違反である(甲A100の「意見書」参照)と主張し,
控訴人が,平成16年(2004年)3月30日頃,中国での同ブラン
ドの高価格での販売政策を展開すべく,中国国際服装服飾博覧会に日本
からアパレルとして唯一出店していた(甲A24,27の1∼3など)こ
とを指摘する。
しかし,控訴人が指摘する上記事情があったとしても,契約違反該当
行為のほとんどは企業イメージの広告の性格を有すると受け取られるも
のであるなど上記各説示を踏まえれば,被控訴人ファーストリテイリン
グの行為を本件サブライセンス契約の解除事由に該当するほどのものと
評価することはできないことに変わりはない。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
(4)100円販売問題について
ア控訴人は,価格に関する制限行為といえども,あらゆる行為がおよそ一
般的に「権利の行使(独占禁止法21条)に該当しないと解するべきで」
はない,そして,本件で,控訴人が解除原因との関係で問題としているの
は,一般的な価格制限の権限の有無ではなく,具体的に,定価1000円
∼1900円(税抜き)の商品を税込み100円というような極端な価格
でのブランド商品を販売することの制限が許されないのか,という点であ
ると主張する。
しかし,価格に関する制限行為は,そもそも本件サブライセンス契約が
予定しないところである。すなわち,本件サブライセンス契約3条は,
「使用料等の支払い」との題の下に「乙は甲に対し,本商品の商品化権,
の使用料として,甲の承認を得た商品上代(以下「商品上代」という)の3%
の計算により算出した金額…を,入荷日を基準とし,当月1日から当月末
日迄の一ヶ月分を翌月7日迄に…報告する。又,最低使用料(ミニマムロ
イヤリティ)は,各年度下記…とし,各年度下記指定期日迄に控訴人の指
定する金融機関に振込送金にて支払う。…」と規定しており,あくまでロ
イヤリティの計算の前提として商品上代の承認を要するとしたものに過ぎ
ず,具体的な個別の販売価格の承認を要する旨定めたものと読むことはで
きない。このことは,公正取引委員会による「特許・ノウハウライセンス
」,契約に関する独占禁止法上の指針(平成11年7月30日)においても
ライセンサーがライセンシーに対して,ライセンシーが販売価格を決定す
るに当たって,事前にライセンサーの承認を得ることを義務づけるものは,
特段の正当化事由のない限り不公正な取引方法に該当するとされ(乙A7
3,この考え方は商標にも準用できるとされる(乙A74)こととも整)
合するものである。
そして,本件においては,確かに正価1000円∼1900円の商品を
100円で販売したものであるが,被控訴人ファーストリテイリングは,
季節商品である本件商品の在庫数が1店舗平均で各品番当たり多くても3
点程度になっていたため,この程度の在庫数では魅力的な展示ができない
ことなどを理由に販売価格を下げて売切りを図ったものと認められること
(乙A6,甲A91,証人G)にも鑑みれば,これをもって本件に上記特
段の正当化事由があるということまでは困難である。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
イ控訴人は,不当廉売を正当化する理由がない旨述べ,被控訴人ファース
トリテイリングがそれまで各品番の商品を多数販売し,既に2億7000
万円もの粗利益を得ておきながら,その270分の1程度の利益を得るた
めに,ブランドイメージを大きく損なってまで販売しなければならない合
理性はないと主張する。
しかし,確かに正価1000円∼1900円の商品を100円で販売す
ることは,原価を著しく下回る対価で商品の供給を行う行為と捉えること
ができるが,原判決が説示するとおり,これが「正当な理由がな」く又は
「不当に」販売されたか否かは,具体的な場合における行為の意図・目的,
態様,競争関係の実態及び市場の状況等を総合考慮して判断すべきである。
そして,季節落ち商品や在庫数が乏しくなり魅力的な展示ができなくなっ
たために販売力の低下した商品等を売り切る目的で値下げ販売することは,
売り切らずに保管ないし廃棄する場合のコスト等を考慮すると「正当な,
理由」があるものと評価されるところ,上記アに説示したとおり,本件に
おける在庫数が1店舗平均で各品番当たり多くても3点程度になっていた
こと(乙A6,甲A91,証人G)などからすると,この程度の在庫数で
は魅力的な展示ができないことなどを理由に販売価格を下げ,売切りを図
るという販売政策に合理性がないとはいえないとした原判決の説示は相当
としてこれを是認することができる。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
ウ控訴人は,被控訴人ファーストリテイリングは,100円販売の事実が
発覚後,控訴人側と協議し,100円販売行為はブランドイメージを低下
させるおそれがあることを自認した上でその販売中止を約束したにもかか
わらず,虚偽の報告を繰り返して販売を継続し,100円販売の経緯自体
についても虚偽の報告を繰り返し,両者の信頼関係を破壊したと主張する。
しかし,証拠(甲A29∼30,57,乙A6∼10,11の1∼2,1
2∼13,証人G)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人ファーストリテ
イリングは,控訴人が100円販売の事実に抗議したことに対応して直ち
にその販売中止を約束し,中止の通知が被控訴人ファーストリテイリング
の全ての店舗に直ちに徹底しなかった側面はあるものの,比較的短期間の
間に再三同通知を行ってその徹底を図るなどできる限りの対応を行ったと
認められる。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
エ控訴人は,平成16年9月22日のHメール(甲A55)が「キースへ
リングのブランドイメージを毀損したという認識はございません」として
いるのは,9月22日に「該当商品の一次引き上げが完了した(乙A1」
2)ということを前提として,引き上げは完了したからブランドイメージ
を毀損しなくて済んだという主張をしているものに過ぎないと主張する。
しかし,被控訴人ファーストリテイリングの取締役名で出された同メー
ルは,その内容を普通に読めば,商品の引き上げが完了したからブランド
イメージを毀損しなくて済んだという意味にとることは困難であるから,
控訴人の上記主張は採用することができない。
オ控訴人は,被控訴人ファーストリテイリングのGは,原審証人尋問にお
いて,本件プロパティが付された商品を税込100円,税別96円で販売
したことは,平成16年8月が初めてだったと証言したが,甲A135の
1∼3に照らし,かかる証言も虚偽であると主張する。しかし,100円販
売の事実が平成16年8月以前にも存在したことを前提としても,原判決
の説示及び上記イ∼エの説示に照らせば,100円販売問題が本件サブラ
イセンス契約3条に該当するとして解除事由に当たるとはいえないという
原判決の説示を左右するものではない。
(5)B品販売問題について
ア控訴人は,糸のほつれやキズなどの縫製不良,キースへリングプロパテ
ィのワッペン内の汚れ,ミシンのダブりなど,明らかに製造段階でのB品
も含めて販売されている(甲A95)から,実際は,このような区別なく
B品が販売されていたことは明らかであると主張する。
しかし,かかる製造段階でのB品も含めて販売されていたことがあるか
らと言って,直ちに,被控訴人ファーストリテイリングが意図的に製造上
のB品を販売したとか,B品として販売されたものの中で製造上のB品の
割合が相当高いということにはならないから,控訴人の上記主張は採用す
ることができない。
イ控訴人は,そもそも消費者にとっては,製造段階か販売段階かにかかわ
らずB品に変わりはないし,また本件サブライセンス契約4条は,被控訴
人ファーストリテイリングは控訴人の承認したサンプルに限り本商品を製
造・販売することができると明記しているところ,このいわゆるサンプル
アプルーブは,商品のデザイン画だけでなく,ブランドにふさわしい品質
を備えているかどうかもチェックするために行われるものである(甲A3
5の1∼20,36の1∼10,37の1∼4参照)と主張する。
しかし,原判決も説示するとおり,販売段階のB品は,製造され店舗に
並べられた段階では不良な点はなかったものであるから,被控訴人ファー
ストリテイリングに責められるべき点はなく,またサンプルアプルーブの
趣旨自体はブランドにふさわしい品質を備えているかどうかをチェックす
るために行われるものであるとしても,本件サブライセンス契約4条は,
被控訴人ファーストリテイリングが控訴人の承認したサンプルに限り製造
・販売し得る旨を定めているに過ぎないものであるから,かかるサンプル
アプルーブが,製造され店舗に並べられた後の段階で不良な点が生じたこ
とにより及ばなくなるものと言うことは困難である。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
ウ控訴人は,ブランド商品のB品販売自体が,当該ブランドの品質保証機
能を損ない,ブランドイメージの低下につながり,ライセンサーの信用や
利益を害することになるものであり,また,控訴人から指摘された後も,
被控訴人ファーストリテイリングは,各店舗に対し,B品販売の有無も,
製造段階のB品か販売段階のB品かの区別も何ら行っていないと主張する。
しかし,ブランド商品のB品販売自体が,控訴人の指摘するような事態
を生ずる可能性があるとしても,本件サブライセンス契約4条の規定は,
あくまで,被控訴人ファーストリテイリングが控訴人の承認したサンプル
に限り製造・販売し得る旨を定めているに過ぎないものであって,控訴人
の主張するようなブランド商品のB品販売自体を禁止する規定と読むこと
はできない。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
(6)無承認チラシ問題について
ア控訴人は,原判決が,本件サブライセンス契約8条につき,実質的な価
格拘束につながるおそれがある販売価格を理由とするチラシの不承認を許
容していないものと解すべきとしたのに対し,同8条には正当な理由なく
承認を拒否してはならないなどの限定文言は一切ないから,控訴人は,理
由のいかんを問わず,広告宣伝への本件プロパティ使用を拒否できるもの
であり,一定の条件や基準を設け,その条件を満たさない場合は,広告宣
伝を承認しないということも,当然に許容されると主張する。
しかし,上記(4)アに説示したのと同様に,価格に関する制限行為は,
そもそも本件サブライセンス契約が予定しないところであり,本件サブラ
イセンス契約3条も,あくまでロイヤリティの計算の前提として商品上代
の承認を要するとしたものに過ぎず,具体的な個別の販売価格の承認を要
する旨定めたものと読むことはできない。そしてかかる理解が,公正取引
委員会による「特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法上の指
針(平成11年7月30日)とも整合する(乙A73,74)ことも踏」
まえて当事者の意思を合理的に解釈すれば,本件サブライセンス契約8条
の「本商品のグッドクオリティを目指し,プロパティ・イメージの向上と
調和をはかるため,販売促進・広告宣伝等或いは,本件プロパティを本商
。,品以外に使用する場合は事前に控訴人の承認を必要とする」との規定も
本件プロパティをチラシに使用するに際しての使用態様等を控訴人の承認
にかからしめるものに過ぎず,具体的な個別の販売価格のみを理由とする
場合にまで控訴人の承認を必要としたものではないと解するのが相当であ
る。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
イ控訴人は,ブランドイメージにそぐわないような販売価格・販売方法に
関しては,控訴人がブランド使用許諾者としてこれに意見を述べ,修正を
要請することは独占禁止法違反ではない,当該価格でのチラシ掲載を拒否
することは,当該価格での販売そのもの拒否とは異なるから,独占禁止法
違反とはならないし,現に被控訴人ファーストリテイリングは,この控訴
人の承認権限があることを認めて事前に控訴人の承諾を求め,控訴人がブ
ランドイメージを損なうような価格設定での販売チラシを承認しないとき
は,掲載を見合わせるという扱いをしていた(甲A42)と主張する。
しかし,原判決は,控訴人が意見を述べ,修正を要請することを独占禁
止法違反としたものではない。また,たとえ当該価格でのチラシ掲載を拒
否することが当該価格での販売そのものを拒否することとは異なるとして
も,上記アに説示したとおり,当事者の意思を合理的に解釈すれば,本件
サブライセンス契約8条の規定も,具体的な個別の販売価格のみを理由と
する場合にまで控訴人の承認を必要としたものではないと解するのが相当
であるから,当該価格でのチラシ掲載を拒否すること自体,本件サブライ
センス契約8条に規定された控訴人の権限ということができないものであ
る。さらに,当事者の合理的意思解釈の見地から本件サブライセンス契約
8条が上記のように解されることに照らせば,被控訴人ファーストリテイ
リングが事前に控訴人の承諾を求めていたことがあったとしても,それは
取引関係を円滑に維持する見地から事実上なされたものというほかない。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
(7)商品見本提供問題について
ア控訴人は,平成16年(2004年)7月8日のGメール(乙A44)
をめぐるやりとりにおいて,控訴人代表者がGに対し,電話において,
「今後きちんと最終商品見本提供義務を履行するのであれば,今回規定数
が足りないものについて,再生産までしなくていい」と述べたのは,あく
まで,今後の最終商品見本提供義務の遵守が前提であった,それにもかか
わらず,その電話による協議の後も被控訴人ファーストリテイリングは,
甲A97にあるとおり,最終商品見本提供を懈怠し,懈怠期間が1ヶ月以
上に及ぶものが存在したのであり,改善がなされていた,などとは全く評
価できないと主張する。
しかし,原判決の説示するとおり,平成16年7月中の控訴人と被控訴
人ファーストリテイリングとのやりとりの中で,一部在庫分が規定数に不
足する商品の取り扱いについては,控訴人と協議の上,最終的には送付す
る必要はないものとされたと認められ,これに反する原審控訴人代表者の
供述は,反対趣旨の原審証人Gの証言に照らし,採用することができない。
また,甲A97によっても,平成16年中,被控訴人ファーストリテイリ
ングが販売開始後に商品見本を提供する事態が続いたが,平成16年12
月初め頃からは,商品見本が販売前に到着するか,数日の遅れで到着する
ようになったものであるから,改善がなされていたとの評価ができないと
はいえない。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
イ控訴人は,原判決が本件サブライセンス契約9条違反の事態を全く考慮
していないと主張するが,同条違反の事態が存在したことが直ちに同契約
の解除事由に該当するものではなく,下記(8)に説示するとおり総合判断
の結果解除事由の有無が決せられるものであり,原判決もこれと同旨であ
る。
(8)第1次解除の理由の有無について
控訴人は,被控訴人ファーストリテイリングの違反の内容,程度は重大な
ものであり,被控訴人が再発防止の努力をしたことも認められない,すなわ
ち,被控訴人ファーストリテイリングは,ジラード契約において本件サブラ
イセンス契約8条と同旨の条項に違反する行為があり,その際,控訴人に事
前承認を申請する体制を徹底することを約束した(甲A22の1∼4,23の
1,2)にもかかわらず,中国での販売すら許容されていない本件商品の販売
広告が,ホームページ上に掲載され,なおかつ,メディアミックス手法によ
り,中国中に露出し続けていたのであり,故意または少なくとも重過失によ
り,重大な契約違反行為を継続していたものであり,背信行為の存在は明ら
かであると主張する。
しかし,被控訴人ファーストリテイリングにおいて本件サブライセンス契
約違反に該当する行為も一部認められるものの,本件プロパティが使用され
た宣伝広告のほとんどは,主として一種の企業イメージの広告の性格を有す
ると認められ,意図的に行ったものと認められないこと,商品見本提供問題
についても改善がなされていたものであることなど上記(1)∼(7)に説示した
一切の事情に照らせば,控訴人が故意または重過失により本件サブライセン
ス契約に違反した事実を認めるには足りず,いまだ信義則上取引関係の継続
を困難ならしめるような背信行為の存在等やむを得ない事由が存在するとい
うことはできない。したがって,かかる判断に結論として反するJ意見書Ⅰ,
Ⅱ(甲A152の1,153)は採用の限りでない。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
4本件サブライセンス契約の第2次解除の有効性の有無
(1)控訴人は,原判決は,控訴人がチラシの承認のみについて拒絶を表明し
たにすぎないのに対し,宣伝広告全般を拒否したかのように認定し,さらに
はデザイン等に関する承認申請も拒否したかのように認定しているのは誤り
である,商品のデザイン等に関する承認申請の問題と,宣伝広告のうちチラ
シの承認申請の問題とは明確に区別すべきであると主張する。
継続的取引契約により当事者の一方が先履行義務を負担し,他方が後履行
義務を負担する関係にある場合に,契約成立後,後履行義務者による後履行
義務の履行が危殆化された場合には,後履行義務の履行が確保されるなど危
殆化をもたらした事由を解消すべき事由のない限り,先履行義務者が履行期
に履行を拒絶したとしても違法性はないものとすることが,取引上の信義則
及び契約当事者間の公平に合致するものと解される。いわゆる不安の抗弁権
とは,かかる意味において自己の先履行義務の履行が拒絶できることである
と言うことができる。そして,後履行義務の履行が危殆化された場合として
は,契約締結当時予想されなかった後履行義務者の財産状態の著しい悪化の
ほか,後履行義務者が履行の意思を全く有しないことが契約締結後に判明し
たような場合も含まれると解するのが相当である。
しかるに,控訴人がチラシの承認申請を拒否したことは,本件のような衣
料品等について,チラシへの掲載の有無によって商品の顧客に対する訴求力
ないし顧客誘引力に大きな差が生じ得ると考えられることに鑑みれば,それ
自体,被控訴人ファーストリテイリングが本件サブライセンス契約に基づい
て行う販売を実質的に阻害するものと評価すべきであるし,そうした中で,
控訴人が第1次解除の意思表示を行ったことも,被控訴人ファーストリテイ
リングに対し一切の許諾をしない旨を明確に表示したものといえる。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用できず,第2次解除に対するいわ
ゆる不安の抗弁権は理由がある。
(2)控訴人は,被控訴人ファーストリテイリングは,平成17年4月28日
の更新オプション権の行使により,平成17年9月30日に最低保証料不払
いが確定するまでの約5か月間,同被控訴人の「2006年(平成18年)
独占販売のための独占準備権」を享受しており,平成17年9月30日の最
低保証料支払期限の前に,既に反対債務の履行を受けているというべきであ
るから,被控訴人ファーストリテイリングらの平成17年9月30日の平成
18年(2006年)分最低保証料の支払義務は,そもそも,被控訴人ファ
ーストリテイリングらの先履行義務でなく,不安の抗弁は成立しないと主張
する。
しかし,控訴人の指摘する「2006年(平成18年)独占販売のための
独占準備権」は,そもそも本件サブライセンス契約に規定されていない事項
であり,たとえ被控訴人ファーストリテイリングがかかる利益を事実上享受
することがあり得るとしても,これはいわば事実上の反射的利益に過ぎない
というべきであって,本件サブライセンス契約により生じる契約上の権利と
いうことはできない。そうすると,本件サブライセンス契約上,平成18年
1月1日からの販売権に対し,平成17年9月30日が支払期限である平成
18年分最低保証料の支払義務が被控訴人ファーストリテイリングの先履行
義務になっていることは明らかであるから不安の抗弁権が成立しないという
ことはできない。
以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。
5第3事件について
(1)主位的請求につき
以上の1∼4の説示に照らせば,控訴人の第1次解除は無効であり,また,
被控訴人ファーストリテイリングにつきいわゆる不安の抗弁権が成立するた
めミニマムロイヤリティ1億円の支払義務不履行は違法性を欠くというべき
であるから,控訴人の第2次解除も理由がない。
そうすると,本件サブライセンス契約は継続していると考えられるから,
被控訴人ファーストリテイリングが平成17年4月28日に本件サブライセ
ンス契約につき更新の意思表示をして平成18年1月1日以降も商品の販売
を継続する旨宣言し,かつ,同被控訴人が本件サブライセンス契約の被許諾
者の地位にあることを仮に定める旨の仮処分命令の発令を得たとしても,本
件サブライセンス契約の一方当事者の行動としてこれを違法ということはで
きず,控訴人が,平成18年1月1日以降に他者とライセンス契約を締結す
るための営業活動を行うことが不可能になり損害を受けたということはでき
ない。
したがって,控訴人の主位的請求に理由はない。
(2)予備的請求につき
ア上記(1)に説示したように,被控訴人ファーストリテイリングにつきい
わゆる不安の抗弁権が成立するから,被控訴人らは,控訴人によるミニマ
ムロイヤリティ1億円の支払請求については,これを拒むことができると
いうべきである。
イしかし,証拠(甲A154)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人ファ
ーストリテイリングを吸収分割によりその権利義務を承継した被控訴人ユ
ニクロは,平成18年1月1日から同年5月7日までの間に本件プロパテ
ィを付した商品を販売したこと,その上代販売金額合計は650万542
1円であること,これに本件サブライセンス契約3条に規定される3%を
乗じると19万5162円(小数点以下切り捨て)となること,がそれぞ
れ認められる。
そして本件サブライセンス契約3条は,その趣旨に鑑みれば,このよう
な場合も,最低限,実際に販売した分については実施料率3%の割合の実
施料が請求できる旨定めたものと解される。そうすると,上記のように同
被控訴人が実際に販売を行った以上,控訴人は,本件サブライセンス契約
3条に基づきこれに対応する分の実施料を請求できるというべきであり,
また,実施料率3%の割合の実施料の支払期限を翌月20日と定めている
趣旨に照らせば,平成18年5月7日までの間に行われた上記販売の実施
料請求権は,少なくともその翌月20日である平成18年6月20日の経
過により遅滞に陥っているというべきである。
以上によれば,控訴人は被控訴人らに対し,実施料(ロイヤリティ)1
9万5162円及びこれに対する平成18年6月21日から支払済みまで
民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求できるというべきである。
ウ被控訴人らは,本件マスターライセンス契約が終了した後である平成1
8年1月1日以降は,控訴人には損害が発生していないと主張する。
しかし,上記2(1)イに説示したように,控訴人が平成17年12月3
1日にマスターライセンサーの地位を喪失しているとしても,本件サブラ
イセンス契約が当然に終了するものとはいえないから(当然終了するとの
明示の規定もない,控訴人は被控訴人ファーストリテイリング及び被控)
訴人ユニクロに対し,本件サブライセンスに基づき上記実施料の支払を求
めることができるというべきである。
したがって,被控訴人らの上記主張は採用することができない。
6結論
以上のとおりであるから,訴え変更後の第1事件については,その余の点に
つき判断するまでもなく,控訴人の本訴請求は理由がない。
また,第3事件については,主位的請求は理由がなく,予備的請求は上記5
(2)記載の限度で理由があり,その余は理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官森義之
裁判官田中孝一

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛