弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決及び第一審判決中被告人両名に関する部分を破棄する。
     本件を長崎地方裁判所に差し戻す。
         理    由
 被告人Aの弁護人安藤一二夫の上告趣意第一点について。
 所論は、本件船舶Bは、被告人等の所有ではなく、被告人等が、内国航路に使用
する旨使途を偽つて所有者より借受けたもので、所有者においては、右船舶を密輸
出行為に使用することは全く知つていないものである。かゝる船舶を単に犯人たる
被告人の占有にあるとして没収することを許す旧関税法八三条一項は、憲法二九条
に違反するというのである。
 しかし本件犯行当時の旧関税法(昭和二三年法律第一〇七号により改正されたも
の)八三条一項は、同条所定の貨物又は船舶が犯人以外の第三者の所有に属し、犯
人は単にこれを占有しているに過ぎない場合には、右所有者たる第三者において、
貨物について同条所定の犯罪行為が行われること又は船舶が同条所定の犯罪行為の
用に供せられることをあらかじめ知つており、その犯罪が行われた時から引きつゞ
き右貨物又は船舶を所有していた場合に限り、右貨物又は船舶につき没収のなされ
ることを規定したものと解すべきであつて、かく解すれば、右条項は何ら憲法二九
条に違反しないことは、当裁判所大法廷の判例とするところである。(昭和二六年
(あ)第一八九七号同三二年一一月二七日言渡判決参照)。
 しかし本件においては、第一審判決は、被告人等の密輸出幇助の犯罪行為の用に
使用した船舶Bの所有者において、右船舶が本件犯罪行為の用に供せられることを、
あらかじめ知つていたか否かの知情の点については、何らこれを明確にしないで、
たやすく右船舶を被告人等から没収する旨言渡しており、原判決も亦所論の如く判
示して所論控訴趣意を退け、第一審判決を支持したのは、結局右関税法八三条一項
の解釈適用を誤り、ひいて右船舶没収の前提要件たる知情の事実を確定しない審理
不尽の違法があるものであつて、原判決及び第一審判決は、爾余の論旨に対する判
断をするまでもなく、既にこの点において、これを破棄しなければ、著しく正義に
反するものである。
 なお右破棄の理由は、上告をした共同被告人Cに共通であるから同被告人の上告
趣意についての判断を省略し、刑訴四一四条、四〇一条、四一一条一号により、原
判決及び第一審判決中被告人両名に関する部分を破棄し、同四一三条に則り本件を
第一審裁判所長崎地方裁判所に差し戻すべきものとし、裁判官全員一致の意見によ
り主文のとおり判決する。
 検察官 福島幸夫出席。
  昭和三三年一月二八日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    垂   水   克   己

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