弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
弁護人樋渡道一の上告趣意のうち、憲法二一条違反をいう点について。
 所論について判断する前に、職権によつて調査すると、第一審判決は、罪となる
べき事実として、被告人らは、昭和四二年四月二八日施行の函館市長選挙に立候補
したAの選挙運動者であり、かつ、被告人Bは、C社を経営し、月刊新聞「C」の
編集発行をしているものであるが、第一の(一)、Aに当選を得しめる目的をもつ
て、共謀のうえ、いまだ立候補の届出のない同年三月下旬ごろ、被告人BのCに対
する前記の地位を利用して、その第一三〇号の紙上に、Aの市長としての業績をた
たえ、自由民主党が同人の四選を阻止するため立候補断念工作をしているが、多数
の函館市民は同人を支持している旨の選挙に関する報道および評論を掲載して、立
候補届出前の選挙運動をし、第三、共謀のうえ、同年四月上旬ごろ、Eから、同人
が、前記Aに当選を得しめる目的をもつて、被告人らがした第一の(一)記載の選
挙運動の報酬として供与するものであることを知りながら、現金一〇万円の供与を
受けたものであるとの事実を認定し、前者について公職選挙法一四八条の二第三項、
二三五条の二第三号、一二九条、二三九条一号、刑法六〇条、五四条一項前段を、
後者について公職選挙法二二一条一項三号、四号、刑法六〇条をそれぞれ適用し、
両者を併合罪として処断しているのである。ところで、右第一審判決中、被告人お
よび弁護人の主張に対する判断の二項の部分、ならびに原判決中、被告人Bについ
ての控訴趣意第二点および被告人Fについての控訴趣意に対する各判断部分による
と、被告人らは、Eから、現金一〇万円の供与の申込を受けてこれを承諾し、前記
第一の(一)のとおり選挙に関する報道および評論を掲載し、ついで前記第三のと
おり現金一〇万円の供与を受けたものであることが明らかであるから、両者は、合
わせて一個の公職選挙法一四八条の二第二項に違反する同法二二三条の二第一号の
罪、およびこれと一所為数法の関係に立つ同法一二九条に違反する同法二三九条一
号の罪を構成するものといわなければならない。そうすると、これと異なる見地に
立つて、前記のような法令を適用した第一審判決およびこれを是認した原判決には、
法令の解釈適用を誤つた違法があるが、本件は被告人のみの上告にかかるものであ
り、刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない。
 ところで、右公職選挙法一四八条の二第二項、第三項は、新聞雑誌の選挙に関す
る報道および評論が選挙人に及ぼす影響力にかんがみ、それが、新聞雑誌に対する
編集その他経営上の特殊の地位を有する者によつて、特定人の選挙運動のために利
用されるときは、選挙の自由公正を害し、その公明を維持しがたい結果をきたすお
それがあると認め、これを防止するために設けられた規定であり、その報道の真否、
評論の当否、掲載の動機のいかんなどは問わない趣旨と解すべきである。そして、
この程度の規制が、公共の福祉のために許された必要かつ、合理的なものとして、
憲法二一条に違反するものでないことは、当裁判所大法廷の判例(昭和三〇年二月
一六日判決・刑集九巻二号三〇五頁、同三〇年三月三〇日判決・刑集九巻三号六三
五頁、同三〇年四月六日判決・刑集九巻四号八一九頁)の趣旨に照らして明らかで
ある。所論は採ることができない。
 同上告趣意のうち、その余の論旨について。
 所論は、単なる法令違反、事実誤認の主張であつて、上告適法の理由にあたらな
い。
 よつて、刑訴法四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決す
る。
  昭和四四年六月一二日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    大   隅   健 一 郎

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