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平成25年(オ)第918号不当利得返還請求本訴,貸金請求反訴事件
平成27年12月14日第一小法廷判決
主文
1原判決のうち被上告人の反訴請求を認容した部分を
破棄する。
2前項の部分につき,本件を東京高等裁判所に差し戻
す。
3上告人のその余の上告を棄却する。
4前項に関する上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人岡林俊夫ほかの上告理由について
1本件本訴は,上告人が,貸金業者である被上告人との間で,平成8年6月5
日から平成21年11月24日までの間,第1審判決別紙計算書1の「借入金額」
欄及び「弁済額」欄記載のとおり行われた継続的な金銭消費貸借取引(以下「本件
取引」という。)について,平成8年6月5日から平成12年7月17日までの取
引(以下「第1取引」という。)と平成14年4月15日から平成21年11月2
4日までの取引(以下「第2取引」という。)を一連のものとみて,各弁済金のう
ち利息制限法(平成18年法律第115号による改正前のもの)1条1項所定の制
限を超えて利息として支払った部分を元本に充当すると過払金が発生しているなど
と主張して,被上告人に対し,不当利得返還請求権に基づき,上記過払金の返還等
を求める事案である。
本件反訴は,被上告人が,上告人に対し,第2取引に基づく貸金の返還等を求め
る事案である。
2被上告人は,本件本訴において,本件取引は一連のものではなく,第1取引
に基づく上告人の過払金の返還請求権は時効により消滅したと主張し,消滅時効を
援用した。これに対し,上告人は,本件本訴において上記過払金の返還請求権が時
効により消滅したと判断される場合には,本件反訴において,予備的に同請求権を
自働債権とし,第2取引に基づく被上告人の貸金債権を受働債権として対当額で相
殺すると主張し,原判決も,これを本件反訴における上告人の抗弁として摘示して
いる。
3原審は,本件取引は一連のものとはいえず,第1取引に基づく過払金の返還
請求権は時効により消滅したと判断したが,上記2の相殺の抗弁につき何ら判断す
ることなく,被上告人の反訴請求のうち第2取引に基づく貸金返還請求等を認容し
た。
4そこで,まず,上記2の相殺の抗弁が民訴法142条の趣旨に反して許され
ないものか否かについて判断する。
係属中の別訴において訴訟物となっている債権を自働債権として他の訴訟におい
て相殺の抗弁を主張することは,重複起訴を禁じた民訴法142条の趣旨に反し,
許されない(最高裁昭和62年(オ)第1385号平成3年12月17日第三小法
廷判決・民集45巻9号1435頁参照)。
しかし,本訴において訴訟物となっている債権の全部又は一部が時効により消滅
したと判断されることを条件として,反訴において,当該債権のうち時効により消
滅した部分を自働債権として相殺の抗弁を主張することは許されると解するのが相
当である。その理由は,次のとおりである。
時効により消滅し,履行の請求ができなくなった債権であっても,その消滅以前
に相殺に適するようになっていた場合には,これを自働債権として相殺をすること
ができるところ,本訴において訴訟物となっている債権の全部又は一部が時効によ
り消滅したと判断される場合には,その判断を前提に,同時に審判される反訴にお
いて,当該債権のうち時効により消滅した部分を自働債権とする相殺の抗弁につき
判断をしても,当該債権の存否に係る本訴における判断と矛盾抵触することはな
く,審理が重複することもない。したがって,反訴において上記相殺の抗弁を主張
することは,重複起訴を禁じた民訴法142条の趣旨に反するものとはいえない。
このように解することは,民法508条が,時効により消滅した債権であっても,
一定の場合にはこれを自働債権として相殺をすることができるとして,公平の見地
から当事者の相殺に対する期待を保護することとした趣旨にもかなうものである。
5そうすると,原判決のうち被上告人の反訴請求を認容した部分は,上記2の
相殺の抗弁についての判断がないため,主文を導き出すための理由の一部が欠けて
いるといわざるを得ず,民訴法312条2項6号に掲げる理由の不備がある。これ
と同旨をいう論旨は理由があり,原判決のうち上記部分は破棄を免れない。そし
て,上記2の相殺の抗弁につき,更に審理を尽くした上で必要な判断をさせるた
め,上記部分につき本件を原審に差し戻すこととする。
その余の上告理由は,違憲及び理由の不備をいうが,その実質は事実誤認又は単
なる法令違反を主張するものであって,民訴法312条1項及び2項に規定する事
由のいずれにも該当しない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官池上政幸裁判官櫻井龍子裁判官山浦善樹裁判官
大谷直人)

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