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平成19年12月26日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成18年(ワ)第7746号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成19年10月1日
判決
東京都港区〈以下省略〉
原告AGCセラミックス株式会社
(旧商号旭硝子セラミックス)
同訴訟代理人弁護士小池豊
同櫻井彰人
同訴訟復代理人弁護士寺下誠司
同補佐人弁理士泉名謙治
北九州市〈以下省略〉
被告黒崎播磨株式会社
同訴訟代理人弁護士飯田秀郷
同栗宇一樹
同早稲本和徳
同七字賢彦
同鈴木英之
同大友良浩
同隈部泰正
同戸谷由布子
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙物件目録1及び同2記載の符号で示される不定形耐火物用粉体
組成物を製造し,譲渡し,又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。
2被告は,前項の組成物を廃棄せよ。
3被告は,原告に対して,金2億7806万円及び内金1億0775万円に対
する平成15年1月1日から,内金1億7031万円に対する平成18年3月
1日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,不定形耐火物の吹付け施工方法に関する特許権を有する原告が,被
告に対して,被告の製造,販売する別紙物件目録1記載の不定形耐火物用粉体
組成物(以下「被告製品1」と総称し,個別の製品を示すときは同目録中の製
品番号を末尾に付記して「被告製品1−1」などと表記する。)及び同目録2
記載の不定形耐火物用粉体組成物(以下「被告製品2」とし,個別の製品を示
すときは同目録中の製品番号を末尾に付記して「被告製品2−1」などと表記
する。また,被告製品1と被告製品2とを併せて「被告製品」という。)を使
用して実施する不定形耐火物の吹付け施工方法が上記特許権に係る発明の技術
的範囲に属すると主張して,①被告製品の製造,販売行為について,同行為は,
特許法101条5号の間接侵害に当たるとして,特許法100条に基づき,被
告製品の製造,譲渡等の差止めを,②平成15年1月1日から平成16年3月
11日までにされた被告製品の製造,販売行為について,同行為は,平成18
年法律第55号による改正前の特許法101条4号(以下「旧特許法101条
4号」という。)の間接侵害に当たるとして,民法709条,特許法102条
3項に基づき,損害賠償(1億7031万円及びこれに対する不法行為の後で
ある平成18年3月1日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金)を,
③平成12年12月8日から平成14年12月31日までにされた被告製品の
販売行為について,同行為は,被告製品を購入した者が,被告製品を使用して
吹付け施工方法を実施すること(実際に被告製品を購入した者が被告製品を使
用して行っている吹付け施工法を,以下「被告方法」という。)の教唆行為に
当たり,被告は,これにより,法律上の原因なく,実施料相当額の利益を受け
たとして,民法703条又は704条に基づき,不当利得返還(1億0775
万円及びこれに対する平成15年1月1日から民法所定の年5分の割合による
遅延損害金)を,それぞれ求めている事案である。
1争いのない事実等(争いのない事実以外は,証拠等を末尾に記載する。)
()原告の特許権1
原告は,次の各特許(以下「本件各特許」という。)に係る特許権(以下,
後記アの特許権を「本件A特許権」といい,その特許請求の範囲請求項1の
発明を「本件A発明」という。本件A特許権に係る特許公報(甲2)掲載の
明細書を「本件A明細書」という。後記イの特許権を「本件B特許権」とい
い,その特許請求の範囲請求項1の発明を「本件B発明」という。本件B特
許権に係る特許決定公報(甲5)掲載の特許訂正明細書を「本件B明細書」
という。また,本件A特許権と本件B特許権を併せて「本件各特許権」とい
い,本件A発明と本件B発明を併せて「本件各発明」という。)を有してい
る。
ア登録番号第3531702号
発明の名称不定形耐火物の吹付け施工方法
出願年月日平成8年5月10日(特願平8−116621
号)
優先日平成7年5月11日
登録年月日平成16年3月12日
特許請求の範囲
請求項1
「耐火性骨材,アルミナ及び/又はヒュームドシリカからなる平均粒
径10μm以下の耐火性超微粉を含む耐火性粉末,アルミナセメント,
並びに少量の分散剤を含む不定形耐火物用粉体組成物に水を加えて混
練されてなり,かつ上端内径50mm,下端内径100mm,高さ1
50mmで上下端が開口した円錐台形状のコーン型に混練直後の坏土
を流し込んで充たしコーン型を上方に抜き取って60秒間静置したと
きの広がり直径が180mm以上となる自己流動性を有する坏土を,
圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し,圧縮空気と急結剤
を前記坏土中に注入し,かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹
付けることを特徴とする不定形耐火物の吹付け施工方法」
イ登録番号第3137625号
発明の名称不定形耐火物の吹付け施工方法
出願年月日平成8年5月10日(特願2000−44051
号)
分割の表示特願平8−116621号の分割
優先日平成7年5月11日
登録年月日平成12年12月8日
特許請求の範囲
請求項1
「耐火性骨材,平均粒径30μm以下のアルミナセメント,平均粒径
30μm以下の耐火性粉末(アルミナセメントを除く)及び少量の分
散剤を含む不定形耐火物用粉体組成物100重量部に対して,水を7
重量部以上15重量部以下加えて混練されてなり,かつ,上端内径5
0mm,下端内径100mm,高さ150mmで上下端が開口した円
錐台形のコーン型に混練直後の坏土を流し込んで充たし,該コーン型
を上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径が200mm
以上である自己流動性を有する坏土を,圧送ポンプと圧送配管によっ
て施工現場に圧送し,圧縮空気と急結剤を前記坏土に注入し,かかる
坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹付けることを特徴とする不定形
耐火物の吹付け施工方法」
()構成要件の分説2
ア本件A発明を構成要件に分説すると,次のとおりとなる。
A−a①耐火性骨材,
②アルミナ及び/又はヒュームドシリカからなる平均粒径10μ
m以下の耐火性超微粉を含む耐火性粉末,
③アルミナセメント,並びに
④少量の分散剤
を含む不定形耐火物用粉体組成物に
A−b水を加えて混練されてなり,
A−cかつ上端内径50mm,下端内径100mm,高さ150mmで
上下端が開口した円錐台形状のコーン型に混練直後の坏土を流し込
んで充たしコーン型を上方に抜き取って60秒間静置したときの広
がり直径が180mm以上となる自己流動性を有する坏土を,
A−d圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し,圧縮空気と急
結剤を前記坏土中に注入し,
A−eかかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹付ける
A−fことを特徴とする不定形耐火物の吹付け施工方法
イ本件B発明を構成要件に分説すると,次のとおりとなる。
B−a①耐火性骨材,
②平均粒径30μm以下のアルミナセメント,
③平均粒径30μm以下の耐火性粉末(アルミナセメントを除
く)及び
④少量の分散剤
を含む不定形耐火物用粉体組成物
B−b(不定形耐火物用粉体組成物)100重量部に対して,水を7重
量部以上15重量部以下加えて混練されてなり,
B−cかつ,上端内径50mm,下端内径100mm,高さ150mm
で上下端が開口した円錐台形のコーン型に混練直後の坏土を流し込
んで充たし,該コーン型を上方に抜き取って60秒間静置したとき
の広がり直径が200mm以上である自己流動性を有する坏土を,
B−d圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し,圧縮空気と急
結剤を前記坏土に注入し,
B−eかかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹付ける
B−fことを特徴とする不定形耐火物の吹付け施工方法
()被告の行為3
被告は,業として,被告製品を製造,販売している。被告から被告製品を
購入した者は,被告製品に水を加えて混練して得られた材料を使用して被告
方法を実施している。
2争点
()被告方法の構成1
()被告方法は,本件各発明の技術的範囲に属するか2
()特許法101条5号及び旧特許法101条4号の間接侵害の成否3
()被告が,被告製品を本件各発明を実施する施工者に販売することは,本4
件各特許権の直接侵害行為者である上記施工者に対する教唆に当たるとして,
原告は,被告に対して,不当利得返還請求権を有するか
()本件各特許は,特許無効審判により無効にされるべきものか5
()損害額6
3争点に対する当事者の主張
()被告方法の構成(争点())について11
(原告)
本件A発明に対応する被告方法の構成は,別紙「施工方法説明書(A)」
のとおりであり,本件B発明に対応する被告方法の構成は,別紙「施工方法
説明書(B)」のとおりである。
(被告)
争う。
()被告方法は,本件各発明の技術的範囲に属するか(争点())について22
(原告)
ア本件各発明の技術的範囲に属すること
(ア)対比
被告製品の構成を,本件A発明と対応する形で示せば,別紙「被告製
品の構成説明書(A)」記載のとおりであり,本件B発明と対応する形
で示せば,別紙「被告製品の構成説明書(B)」記載のとおりである。
(イ)本件A発明の構成要件A−c及び本件B発明の構成要件B−cの充
足性
a被告方法においては,上端内径50mm,下端内径100mm,高
さ150mmで上下端が開口した円錐台形状のコーン型に,混練直後
の被告製品である不定形耐火物用粉体組成物を流し込んで充たし,コ
ーン型を上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径が20
0mm以上(このようにして測定した直径の数値を「フロー値」又は
「自己流動性値」という。)となる自己流動性を有する坏土を使用す
る。
したがって,被告方法は,本件A発明の構成要件A−c及び本件B
発明の構成要件B−cを充足する。
bこの点,被告は,被告製品のユーザーにおける施工条件(水分量)
に従って(ユーザーの施工時の水分量を把握できない製品については,
被告の施工要領書記載の上限と下限の2つの水分量に従って),試料
を調整して行った実験(以下「乙49実験」という。)の結果によれ
ば,被告方法が上記構成要件を充足しないか,又は被告製品の製造販
売が本件各特許権の間接侵害に当たらない旨主張するが,乙49実験
で施工条件として選択した水分量は,特定のユーザーから回答された
という1つの数値でしかない。他方,被告が被告製品と共にユーザー
に交付する施工要領書は,被告製品を最も最適に使用すべく,製品の
メーカーとしての被告がユーザーに教授する使用方法が記載されたも
のである。したがって,被告製品の使用方法は施工要領書が基準とな
るべきものであり,間接侵害の成否を論ずるに当たっては,被告作成
の施工要領書も考慮の対象とすべきである。
なお,乙49実験の結果によっても,被告製品1−4ないし1−6,
1−10ないし1−14,1−16,2−4ないし2−7,2−11
ないし2−17,2−19ないし2−22は,構成要件A−c及び構
成要件B−cを充足する(被告製品1−10,1−11は,施工要領
書の上限の水分値での実験結果のみ充足する。)。また,施工要領書
の数値を基に行った実験(乙59)の結果によれば,被告製品2−8
ないし2−10,2−24を,施工要領書の上限の水分値によって調
整したもののフロー値は,上記の構成要件を充足する。さらに,被告
の製品カタログ記載の水分値を基に行った実験(乙62)の結果によ
れば,被告製品1−1,1−9を,上記カタログ記載の上限の水分値
によって調整したもののフロー値は,上記の構成要件を充足する。
(ウ)その他の構成要件の充足性
a本件A発明の技術的範囲に属すること
(a)構成要件a(不定形耐火物用粉体組成物)との対比
構成要件A−a①との対比ⅰ
被告製品は,耐火性骨材を含むものであり,構成要件A−a①
(耐火性骨材)を充足する。
構成要件A−a②との対比ⅱ
被告製品における平均粒径10μ以下のヒュームドシリカm
又はアルミナは,構成要件A−a②のアルミナ及び/又はヒュー
ムドシリカからなる平均粒径10μ以下の耐火性超微粉を含m
む耐火性粉末に該当し,被告製品は,構成要件A−a②を充足す
る。
構成要件A−a③との対比ⅲ
被告製品におけるアルミナセメントは,構成要件A−a③のア
ルミナセメントであるから,被告製品は,構成要件A−a③を充
足する。
構成要件A−a④との対比ⅳ
被告製品における分散剤は,構成要件A−a④に該当するので,
被告製品は,構成要件A−a④を充足する。
被告製品は,以上のとおり,構成要件A−a①ないしA−a④ⅴ
を含む不定形耐火物用粉体組成物であるから,構成要件A−aを
充足する。
(b)構成要件A−b(水の添加と混練)との対比
被告方法は,被告製品に水を加えて混練されるものであるから,
構成要件A−bを充足する。
(c)構成要件A−d(圧送及び圧縮空気と急結剤の注入)との対比
被告方法は,自己流動性を有する坏土を,圧送ポンプと圧送配管
によって施工現場に圧送し,エアコンプレッサーからの圧縮空気と
急結剤を前記坏土中に注入するものであるから,構成要件A−dを
充足する。
(d)構成要件A−eとの対比
被告方法は,前記坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹き付ける
ものであるから,構成要件A−eを充足する。
(e)構成要件A−f(不定形耐火物の吹付け施工方法)との対比
被告方法は,以上のとおり,構成要件A−aないしA−eを充足
することから,構成要件A−fも充足する。
b本件B発明の技術的範囲に属すること
(a)構成要件B−a(不定形耐火物用粉体組成物)との対比
構成要件B−a①との対比ⅰ
被告製品は,耐火性骨材を含むものであり,構成要件B−a①
(耐火性骨材)を充足する。
構成要件B−a②との対比ⅱ
被告製品における平均粒径が30μ以下のアルミナセメンm
トは,構成要件B−a②の平均粒径30μ以下のアルミナセm
メントであるから,被告製品は,構成要件B−a②を充足する。
構成要件B−a③との対比ⅲ
被告製品における平均粒径30μ以下のヒュームドシリカm
又はアルミナは,構成要件B−a③の平均粒径30μ以下のm
耐火性粉末に該当するから,被告製品は,構成要件B−a③を充
足する。
構成要件B−a④との対比ⅳ
被告製品における少量の分散剤は,構成要件B−a④に該当す
るので,被告製品は,構成要件B−a④を充足する。
被告製品は,以上のとおり,構成要件B−a①ないしB−a④ⅴ
を含む不定形耐火物用粉体組成物であるから,構成要件B−aを
充足する。
(b)構成要件B−b(水の添加と混練)との対比
被告方法は,不定形耐火物用粉体組成物である被告製品に水を7
重量部以上15重量部以下加えて混練されるものであるから,構成
要件B−bを充足する。
(c)構成要件B−d(圧送及び圧縮空気と急結剤の注入)との対比
被告方法は,自己流動性を有する坏土を,圧送ポンプと圧送配管
によって施工現場に圧送し,エアコンプレッサーから圧縮空気と急
結剤を前記坏土中に注入するものであるから,構成要件B−dを充
足する。
(d)構成要件B−eとの対比
被告方法は,前記坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹き付ける
ものであるから,構成要件B−eを充足する。
(e)構成要件B−f(不定形耐火物の吹付け施工方法)との対比
被告方法は,以上のとおり,構成要件B−aないしB−eを充足
する不定形耐火物の吹付け施工方法であるから,構成要件B−fも
充足する。
イ被告の主張に対する反論
被告は,被告製品が,本件各発明の作用効果を奏しないから,本件各特
許権を侵害しないと主張するが,被告のこの主張は,特許権侵害の有無が
特許請求の範囲の記載を離れて,作用効果の観点のみから判断できるとい
うものであり,特許法70条を無視した議論であり,失当である。
(被告)
ア本件A発明の充足性について
(ア)構成要件A−cの充足性
a被告は,被告製品の施工方法に関し,原則として,施工要領書を交
付して標準の仕様をユーザーに提示しているが,ユーザーが,水分量
などを適宜調整するのが一般的であるため,実際の施工現場で水と混
練される材料の配合割合や,水分量,自己流動性は一義的に決定でき
ない。そして,本件訴訟では間接侵害の主張がされているため,本件
A発明の構成要件A−cの充足性の判断は,実際に本件A発明を実施
している施工者の施工条件に基づいて行われるべきである。
そこで,被告は,乙49実験をした。
b乙49実験の結果は,別紙「乙49実験結果(被告製品1)」及び
同「乙49実験結果(被告製品2)」のとおりである。
これによれば,被告製品1−1,9,2−1ないし2−3,2−8
ないし2−10,2−18,2−24,2−25,2−27は,その
自己流動性値が180mmを下回るから,同製品を使用した施工方法
は,構成要件A−cを充足しない。
また,被告製品1−10,1−11は,施工要領書の下限の水分量
で施工した場合の自己流動性値が180mmを下回るから,同製品は
本件A発明による課題の解決に不可欠なものではなく,同製品の製造,
販売は,本件A特許権の間接侵害とはならない。
(イ)作用効果不奏功
特許発明は,何らかの技術上の課題を解決することを目的とし,その
発明の構成が有機的に結合することによって特有の作用効果を奏する。
したがって,被告製品が特許発明の技術的範囲に属するか否かの判断に
当たっては,作用効果の比較も重要である。発明がある作用効果を奏す
るものである旨,明細書に特に記載されている場合に,被告製品の構成
が一見特許発明の構成要件をすべて充足するように見えても,発明と同
じ作用効果を奏しないならば,結局,構成も異なると言わざるを得ず,
被告製品は特許発明の技術的範囲に属するとは判断されないことになる。
a気孔率を顕著に小さくできるという作用効果不奏功
(a)本件A明細書の記載からすれば,本件A発明の作用効果の重要
な要素が,「施工体の気孔率が従来の吹付け施工方法による施工体
の気孔率と比べて顕著に小さくできること」にあることは明らかで
ある。
(b)被告製品1を用いた湿式吹付け施工方法による施工体のうち,
被告製品1−6,1−11ないし1−14,1−16は,気孔率が
いずれも15.5%を超えるものであり,従来技術の気孔率と変わ
らず,本件A発明の作用効果である良好な気孔率(気孔率11ない
し12.5%)を得られない。
また,被告製品1−10は,施工要領書記載の上限の水分量での
気孔率がいずれも15.5%を超えるものであり,従来技術の気孔
率と変わらず,本件A発明の作用効果(気孔率11ないし12.5
%)を得られない。
したがって,上記被告製品は,「施工体の気孔率が従来の吹付け
施工方法による施工体の気孔率と比べて顕著に小さくできること」
という本件A発明の作用効果を奏しないものであり,その施工方法
をもって,本件A発明の技術的範囲に属するとすることはできない。
b高い圧縮強度を実現できるという作用効果不奏功
本件A明細書の記載からすれば,本件A発明の作用効果の重要な要
素が,圧縮強度等によって示される耐食性が良好なことにあることは
明らかである。
ところが,被告製品1は,いずれも圧縮強度が298ないし558
kg/c㎡と低く,本件A発明の上記作用効果(本件A発明の実施例
の圧縮強度は840ないし1180kg/c㎡である。)を得られな
いことから,被告製品1を使用した被告方法も,本件A発明の技術的
範囲に属さない。
イ本件B発明の充足性について
(ア)構成要件B−cの充足性
乙49実験の結果は,別紙「乙49実験結果(被告製品1)」及び同
「乙49実験結果(被告製品2)」のとおりであり,被告製品1−1,
9,11,2−1ないし2−4,2−8ないし2−12,2−14,2
−18,2−22,2−24,2−25,2−27は,その自己流動性
値が200mmを下回るから,同製品を使用した施工方法は,構成要件
B−cを充足しない。
また,被告製品1−10は,施工要領書の下限の水分量で施工した場
合の自己流動性値が200mmを下回るから,同製品は本件B発明によ
る課題の解決に不可欠なものではなく,同製品の製造,販売は,本件B
特許権の間接侵害とはならない。
(イ)作用効果不奏功
a気孔率を顕著に小さくできるという作用効果不奏功
(a)本件B明細書の記載からすれば,本件B発明の作用効果の重要
な要素が,「施工体の気孔率が従来の吹付け施工方法による施工体
の気孔率と比べて顕著に小さくできること」にあることは明らかで
ある。
(b)被告製品1を用いた湿式吹付け施工方法による施工体のうち,
被告製品1−6,1−11ないし1−14,1−16は,気孔率が
いずれも15.5%を超えるものであり,従来技術の気孔率と変わ
らず,本件B発明の作用効果である良好な気孔率(気孔率11ない
し12.5%)を得られない。
また,被告製品1−10は,施工要領書記載の上限の水分量での
気孔率がいずれも15.5%を超えるものであり,従来技術の気孔
率と変わらず,本件B発明の作用効果(気孔率11ないし12.5
%)を得られない。
したがって,上記被告製品は,「施工体の気孔率が従来の吹付け
施工方法による施工体の気孔率と比べて顕著に小さくできること」
という本件B発明の作用効果を奏しないものであり,その施工方法
をもって,本件B発明の技術的範囲に属するとすることはできない。
b高い圧縮強度を実現できるという作用効果不奏功
本件B明細書の記載からすれば,本件B発明の作用効果の重要な要
素が,圧縮強度等によって示される耐食性が良好なことにあることは
明らかである。
ところが,被告製品1は,いずれも圧縮強度が298ないし558
kg/c㎡と低く,本件B発明の上記作用効果(本件A発明の実施例
の圧縮強度は840ないし1180kg/c㎡である。)を得られな
いことから,被告製品1を使用した被告方法も,本件B発明の技術的
範囲に属さない。
()特許法101条5号及び旧特許法101条4号の間接侵害の成否(争点3
())について3
(原告)
被告製品は,被告方法の実施に用いられ,被告方法による課題解決に不可
欠なものであって,被告は,被告製品が被告方法の実施に用いられることを
知っていた。
したがって,被告が被告製品を製造,販売する行為は,特許法101条5
号及び旧特許法101条4号の間接侵害行為となる。
(被告)
争う。
被告方法におけるフロー値,混練水分量は,ユーザー自身が現場の状況に
応じて決定する施工条件に左右されるため,被告製品は,特許法101条5
号及び旧特許法101条4号の「発明の課題の解決に不可欠なもの」に該当
せず,また,被告としても,被告製品が本件各発明の実施に用いられること
を知っていたということもあり得ない。
()被告が,被告製品を本件各発明を実施する施工者に販売することは,本4
件各特許権の直接侵害行為者である上記施工者に対する教唆に当たるとして,
原告は,被告に対して,不当利得返還請求権を有するか(争点())につい4

(原告)
被告は,不定形耐火物用粉体組成物をユーザーに販売しているが,単に施
工方法に不可欠な物を販売しているというだけに止まらず,被告製品を使用
した施工方法の実施につき,具体的に施工要領を納入先に示し,それに従っ
た施工を行うよう指示している。
ところで,特許権の直接侵害者(本件では施工者)に対する侵害による金
員請求としては,侵害行為を不法行為として損害賠償請求をなし得るほか,
実施料相当額の不当利得を請求し得ることは異論がない。すなわち,侵害行
為をした者は,権利者の許諾を得ることなく,権利者の特許権を実施したこ
とにより,法律上の原因なく,少なくとも実施料相当額の利益を受け,その
ために権利者に同額の損失を与えたことになるのである。この理は,自己の
製品を販売するに当たってその使用方法(侵害行為)を指示(教唆)した者
に対しても同様に当てはまるものであり,かかる態様で侵害行為を教唆した
者は,権利者の許諾を得ることなく,第三者に対し特許権侵害の教唆をして
直接侵害者に実施せしめたことにより,法律上の原因なく,少なくとも実施
料相当額の利益を受け,そのために権利者に同額の損失を与えたことになる
ことは明らかである。
したがって,被告は,原告に対し,民法703条,704条に基づき実施
料相当額の利益及びその利息について不当利得返還義務を負うものである。
(被告)
争う。
()本件各特許は,特許無効審判により無効にされるべきものか(争点())55
について
(被告)
ア本件A発明の進歩性
(ア)乙40文献の開示内容
a平成3年に工業製品技術協会から発行された「吹付工法の最新の進
歩」との題名の書籍(乙40,以下「乙40文献」という。)には,
次の発明が開示されている。
「AlO−SiO系の代表的なローセメントキャスタブル組成232
物(骨材,微粉,少量のバインダーすなわち低量のアルミナセメント
及び分散剤を含む不定形耐火物組成物)に水を加えて混練されてなる
坏土を圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し,圧縮空気と
急結剤を前記坏土中に注入し,かかる坏土を吹付ノズルから施工箇所
に吹き付ける不定形耐火物の吹付け施工方法で吹付け水分10ないし
14%の水を添加する方法」
なお,上記の「バインダー」とは,結合剤を意味し,ローセメント
キャスタブルの「バインダー」は,一般的に「アルミナセメント」を
意味する。
bこの点,原告は,乙40文献には,本件A発明と対比することがで
きる具体的な構成及び技術的思想は全く開示されていない旨主張する。
しかしながら,乙40文献には,多数の参考文献が引用されており,
また,本文や表1,図1ないし4などから,各吹付施工方法の特徴を
対比できるようにその概要を示したもので,記載自体は模式的ではあ
っても(逆にそうであるからこそ),複数の吹付け方法の間の技術思
想の違いの把握,対比については,当業者には極めて理解しやすい内
容となっているのである。当業者であるからこそ,些末な事項につい
てまで記載をせずに,典型的な技術内容を把握することが可能となる。
したがって,乙40文献は,当業者に,湿式吹付け方法の構成につ
き,十分な技術思想を提示するものである。
(イ)本件A発明と乙40文献に開示された発明との一致点
a本件A発明と乙40文献に開示された発明とは,「骨材,超微粉を
含む耐火性粉末,アルミナセメント及び少量の分散剤を含む不定形耐
火物組成物,すなわち,AlO−SiO系のローセメントキャス232
タブル組成物に水を加えて混練されてなる坏土を圧送ポンプと圧送配
管によって施工現場に圧送し,圧縮空気と急結剤を前記坏土中に注入
し,かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹き付ける不定形耐火
物の吹付け施工方法」である点で一致する。
bこれに対して,原告は,乙40文献は,構成要件A−d及びA−e
から解釈できる「圧縮空気と急結剤を坏土に注入した後,かかる坏土
を吹付けノズルから施工箇所に吹き付ける」との構成を開示していな
いことについて縷々主張する。
しかしながら,構成要件A−d及びA−eの構成は,坏土がノズル
から吹き付けられる前の時点で,坏土に圧縮空気及び急結剤が注入さ
れていることを求めていると解されるものの,それ以上に,圧縮空気
及び急結剤の注入時期について制限していないというべきである。ま
た,その注入位置は,ノズルを有する部材・部品の内部か,当該部品
の手前の配管か,あるいは,その付近かを適宜当業者が選択すればよ
く,構成要件A−d及びA−eとは全く関係がない。
そして,乙40文献は,「圧縮空気と急結剤を坏土に注入した後,
かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹き付ける」という構成を
開示しているから,構成要件A−d及びA−eの構成を開示している
というべきである。
(ウ)本件A発明と乙40文献に開示された発明との相違点
a相違点1
本件A発明においては,不定形耐火物用の粉体組成物の組成中に,
アルミナ及び/又はヒュームドシリカからなる平均粒径10μm以下
の耐火性超微粉を含む耐火性粉末が含まれるのに対し,乙40文献に
記載された発明においては,不定形耐火物用の粉体組成物中の超微粉
が,アルミナ及び/又はヒュームドシリカからなる平均粒径10μm
以下であるのかが必ずしも明確でない点で,両発明は相違する。
b相違点2
本件A発明においては,上端内径50mm,下端内径100mm,
高さ150mmで上下端が開口した円錐台形状のコーン型に,混練直
後の坏土を流し込んで充たし,コーン型を上方に抜き取って60秒間
静置したときのフロー値が180mm以上となる自己流動性を有する
坏土であるのに対し,乙40文献に記載された発明においては,坏土
の自己流動性の値について明らかでない点で,両発明は相違する。
(エ)相違点の検討
a相違点1について
特開平6−287075号公報(乙7,以下「乙7文献」とい
う。)には,不定形耐火物の組成物例として,平均粒径が約0.9μ
のフュームドシリカ及び4.3μのバイヤーアルミナを含有しmm
ているもの(乙7の表2の組成物例2ないし4,以下,これらの組成
物例を「乙7組成物例」という。)が記載されている(【0041】,
【0042】,【0045】,表1,表2)。上記組成物例は,アル
ミナ及び/又はヒュームドシリカからなる平均粒径10μm以下の耐
火性超微粉を含む耐火性粉末であることは明らかである。
したがって,乙7文献には,相違点1に係る構成のすべてが開示さ
れている。
b相違点2について
乙7文献には,乙7組成物例のフロー値がそれぞれ212mm,2
10mm,204mmであることが記載されている。そして,乙7文
献における上記測定に用いられたコーンはJISR5021に示され
ているコーンであるが,同コーンが,本件A発明に記載されているコ
ーンに比して,底面の直径は等しいものの,高さが低いから,同コー
ンを用いたフロー値は,本件A発明で記載されているコーンによるフ
ロー値よりも小さくなり,その結果,上記組成物例のフロー値を本件
A発明で記載されたコーンにより測定すれば,180mmより大きく
なる。
したがって,乙7文献には,相違点2に係る構成のすべてが開示さ
れている。
(オ)乙40文献と乙7文献とを組み合わせることは,以下のとおり,容
易である。
a乙40文献において「AlO−SiO系の代表的なローセメン232
トキャスタブル」組成物を少量の水と混練して湿式吹付けした例が,
比較実験の例(Type「Wet」)として挙げられているように,
そもそも,通常流し込み施工に使用されるセルフフロー化していない
低セメントキャスタブル組成物に水を混練してショットキャスト法
(湿式吹付け施工方法)を適用することは,当業者にとって特段の困
難性を伴わず,阻害要因もない。
この点,原告は,流し込み施工と,湿式吹付け施工とが全く異なる
方法であるかのように主張するが,それは施工現場において坏土を流
し込むのか吹き付けるのかという施工法の異なりにすぎない。流し込
み施工でも,流し込み作業後に施工された坏土は,養生・乾燥・昇温
による「材料固化の過程」が必要であり,その結果,不定形耐火物を
構成することができるのである。湿式吹付け施工においては,急結剤
を添加するが,それは単に壁面でのだれ落ち防止に効果があるだけで,
当該施工された坏土が実使用に耐えるような強度を有する不定形耐火
物となるためには,流し込み施工方法と同様に,養生・乾燥・昇温に
よる「材料固化の過程」が必要である。これは,アルミナセメントの
水和反応による硬化を利用して強度を出すキャスタブルとして共通の
ことで,全く同一の原理に基づく。乙40文献でも高い水分量を選択
して吹き付けたように,当業者は,流し込み施工用の不定形耐火物組
成物を湿式吹付け施工方法に用いようとすれば,混練する水分量や粒
度構成,使用する機材を適宜調整,選択すれば足りる。
b原告の分社前の旭硝子株式会社のカタログ(乙65。1985年
(昭和60年)9月に発行されたもの)にも,「ポンプ施工を容易に
するため,特殊な粒度構成を採用してあります。流動性状がきわめて
良好です。」,「(略)フロー値は190∼200㎜を標準にして下
さい。」,「スクイズポンプを使用すれば,水平方向200m,垂直
方向50mの輸送が可能です。この条件で吹き付け施工も可能で
す。」との記載があり,ポンプ圧送による流し込み用坏土が,そのま
ま吹付け施工にも利用できることが明示され,原告自身が両者間の転
用が容易であることを前提としている。
c本件A明細書の表2においても,本件A発明の実施例である例7
(湿式吹付け施工)と同じ坏土を流し込み施工した実施例が記載され
ている(表2の例8,【0044】)。また,本件B明細書において
も同様に,本件B発明の実施例である例7(湿式吹付け施工)と同じ
坏土を流し込み施工した実施例が記載されている(表2の比較例8,
【0034】)。
d原告従業員である本件A特許及び本件B特許の発明者らが執筆した
論文(甲7)の549頁では,4種類の坏土について,同一の坏土を
流し込み(鋳込み)施工する場合と湿式吹付け方法で施工する場合と
で,若干の水分量を調整した上で得られた耐火物の物性を比較報告し
ている。
上記文献では,いずれの坏土も,流し込み施工よりも湿式吹付け施
工の方が0.5%ないし1%ほど水分量を増やして調整したことが記
載されている。水分量を増やすことで坏土の自己流動性・フロー値を
向上させることができることは,当業者にとって常識である(1%程
度の水分量の調整は,当業者にとって調整の範囲内である。)。この
ように,ある坏土が流し込み材であっても,これを適宜調整して湿式
吹付けに利用することは,当業者には何ら困難ではない。
e乙40文献には,ショットキャスト法(湿式吹付け方法)について,
「ポンプ圧送するため高水分領域でしか吹付けできない欠点がある」
(231頁右欄下2行ないし末行)との記載があるが,同記載は,乙
40文献がポンプ圧送性の高い低セメントキャスタブル用坏土が得ら
れればこれをショットキャスト法に適用することは必然的な流れであ
ること,すなわち,両者の組合せについての強い動機ないし示唆を示
しているといえる。
ショットキャスト法を含む湿式吹付け方法において,一般に対象坏
土が流動性及びポンプ圧送性が高いことが要求されるという当業者の
常識に基づき,水分量が少なくても流動性・ポンプ圧送性の高い坏土
として,乙7文献に記載されたセルフフロー化した低セメントキャス
タブル用坏土が得られれば,乙40文献のショットキャスト法が抱え
る上記技術的課題は解消してしまう。
f乙7組成物例の組成物は,アルミナセメントなどを「球状化処理」
することで,ポンプ圧送性を向上させているが,乙40文献には,
「ポンプ圧送するため高水分領域でしか吹付けできない欠点がある」
との記載がある以上,上記の球状化処理の記載は,乙40文献に流動
性の高い材料である乙7組成物例を組み合わせることを強く動機付け
る。
g流し込み施工方法と吹付け施工方法とは,ポンプ圧送が必要である
という点で共通している。
(カ)以上より,当業者であれば,乙40文献の上記発明に,乙7文献の
上記構成を適用して,乙40文献の上記発明において,アルミナ及び/
又はヒュームドシリカからなる平均粒径10μm以下の耐火性超微粉を
含む耐火性粉末が含まれる構成とし(相違点1),特殊なコーン型であ
るが,これを利用したフロー値が180mm以上となる自己流動性を持
たせること(相違点2)は,容易であるといえる。
したがって,当業者は,乙40文献及び乙7文献に基づき,容易に本
件A発明をすることができるから,本件A発明は,特許法29条2項に
反するものとして,同法123条1項2号に該当し,無効とされるべき
である。
イ本件B発明の進歩性
(ア)乙40文献の開示内容
乙40文献には,次の発明が開示されている。
「lO−SiO系の代表的なローセメントキャスタブル組成物A232
(骨材,微粉,少量のバインダーすなわち低量のアルミナセメント及び
分散剤を含む不定形耐火物組成物)に水を加えて混練されてなる坏土を
圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し,圧縮空気と急結剤を
前記坏土中に注入し,かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹き付
ける不定形耐火物の吹付け施工方法で吹付け水分10ないし14%の水
を添加する方法」
(イ)本件B発明と乙40文献に開示された発明との一致点
本件B発明と乙40文献に開示された発明とは,「骨材,超微粉を含
む耐火性粉末,アルミナセメント及び少量の分散剤を含む不定形耐火物
組成物,すなわち,lO−SiO系のローセメントキャスタブルA232
組成物に,(不定形耐火物組成物)100重量部に対して,水を10な
いし14重量部程度加えて混練されてなる坏土を圧送ポンプと圧送配管
によって施工現場に圧送し,圧縮空気と急結剤を前記坏土中に注入し,
かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹き付ける不定形耐火物の吹
付け施工方法」である点で一致する。
(ウ)本件B発明と乙40文献に開示された発明との相違点
a相違点1
本件B発明においては,不定形耐火物用の粉体組成物の組成中に平
均粒径30μm以下のアルミナセメント及び平均粒径30μm以下の
耐火性粉末(アルミナセメントを除く)が含まれるのに対し,乙40
文献で開示された発明においては,不定形耐火物用の粉体組成物中の
アルミナセメント及び耐火性粉末は,上記のような各平均粒径30μ
m以下であるのかが必ずしも明確でない点で,両発明は相違する。
b相違点2
本件B発明においては,上端内径50mm,下端内径100mm,
高さ150mmで上下端が開口した円錐台形状のコーン型に,混練直
後の坏土を流し込んで充たし,該コーン型を上方に抜き取って60秒
間静置したときのフロー値が200mm以上となる自己流動性を有す
る坏土であるのに対し,乙40文献で開示された発明においては,坏
土の自己流動性の値について明らかでない点で,両発明は相違する。
(エ)相違点の検討
a相違点1について
乙7組成物例は,いずれも,アルミナセメントを含有している。こ
のアルミナセメントの平均粒径は,5.5μmであることが記載され
ており(乙7の【0041】),また,乙7組成物例は,平均粒径が
約0.9μmのフュームドシリカ及び4.3μmのバイヤーアルミナ
を含有していることも記載されている(乙7の【0041】及び【0
042】)。
したがって,乙7組成物例は,不定形耐火物用の粉体組成物の組成
中に,平均粒径30μm以下のアルミナセメント,及び平均粒径30
μm以下の耐火性粉末(アルミナセメントを除く)を含む耐火性粉末
であることは明らかである。
したがって,相違点1に係る構成の全部は,乙7組成物例に開示さ
れている。
b相違点2について
乙7文献には,乙7組成物例のフロー値がそれぞれ212mm,2
10mm,204mmであることが記載されている。そして,乙7文
献における上記測定に用いられたコーンは,JISR5021に示さ
れているコーンであるが,同コーンが,本件B発明に記載されている
コーンに比して,底面の直径は等しいものの,高さが低いから,同コ
ーンを用いた測定値は,本件B発明で記載されているコーンによる測
定値よりも小さくなり,その結果,上記組成物例のフロー値を本件B
発明で記載されたコーンにより測定すれば,200mmより大きくな
る。
したがって,乙7文献には,相違点2に係る構成のすべてが開示さ
れている。
(オ)乙40文献と乙7文献とを組み合わせることは,上記ア(オ)のとお
り,容易である。
(カ)以上より,当業者であれば,乙40文献の上記発明に,乙7文献の
上記構成を適用して,乙40文献の上記発明において,平均粒径30μ
m以下のアルミナセメント及び平均粒径30μm以下の耐火性粉末(ア
ルミナセメントを除く)が含まれる構成とし(相違点1),特殊なコー
ン型であるが,これを利用したフロー値が200mm以上となる自己流
動性を持たせること(相違点2)は,容易であるといえる。
したがって,当業者は,乙40文献及び乙7文献に基づき,容易に本
件B発明をすることができるから,本件B発明は,特許法29条2項に
反するものとして,同法123条1項2号に該当し,無効とされるべき
である。
(原告)
ア乙40文献の開示内容及びこれと本件各発明との一致点
(ア)乙第40号証に開示されている湿式吹付け技術としては,せいぜい,
「AlO−SiO系の代表的なローセメントキャスタブルを選定し,233
吹付施工が可能なように分散剤の種類,量および急結剤の種類,量等の
検討を行った。また,吹付材としての最適粒度構成の検討も加え,吹付
システムとして乾式,半湿式,湿式に区分し,合計5種の吹付システム
において比較テストを実施した」(「2.2各種吹付システムの比
較」の項),「ショットキャスト法は吹付前にミキサーで十分混練して
いるため,吹付水分に関係なく高接着率が得られるが,ポンプ圧送する
ため高水分領域でしか吹付けできない欠点がある。」(「()各種吹付1
システムの接着率について」の項)と記載されている程度である。
上記記載を見ると,代表的なローセメントキャスタブルを選定して吹
付け施工が可能なように吹付け材の検討を行った旨記載されているのみ
で,本件各発明の不定形耐火物用粉体組成物の具体的構成(本件A発明
の構成要件A−a,本件B発明の構成要件B−a)に関する記載は存在
せず(乙40には材料の検討を行ったとの記載しかない。),また,自
己流動性の構成(構成要件A−c,構成要件B−c)並びに,ポンプ圧
送と圧縮空気及び急結剤の添加方法に関する構成(構成要件A−d,A
−e,構成要件B−d,B−e)についての記載は全く存在しない。し
かも,本件B発明との関係では特定された添加水分量に関する構成(構
成要件B−b)の記載も存在しない。
また,乙40文献の表1は,比較テストを実施した各種吹付けシステ
ムの概要を模式的に示したものにすぎず,発明に相当する実体的内容に
ついては全く記載されていない。
このように,乙40文献には,本件各発明と対比することができる具
体的な構成及び技術的思想は全く開示されていない。
(イ)本件A発明の構成要件A−d,A−e,本件B発明の構成要件B−
d,B−eに対応する記載が全く存在しないこと。
a(a)本件A発明は,従来の吹付け施工方法である乾式又は半乾式の
施工方法において,「吹付けノズルで不定形耐火物が必要とする水
分又は不足している水分及び急結剤を注入して吹付けノズルから吹
付け施工」したことによる問題点(3欄23行ないし34行),
「足りない水分と急結剤の水溶液を吹付けノズルで注入する方法を
提案している」ことによる問題点(3欄38行ないし45行),
「吹付けノズルの直前で搬送されてきた湿った坏土に残りの水分を
注入する場合,吹付け施工する坏土中の水分の分布が不均一になる
のを避けられない。特に流動性を向上させるとともに不定形耐火物
を緻密化するため耐火性超微粉を混合してある不定形耐火物を施工
する場合には,不定形耐火物用粉体組成物に混合しておく水分の絶
対量が少なく,吹付け施工は一層困難であった」という問題点(3
欄46行ないし4欄3行)があったことから,湿式吹付け施工方法
においても圧縮空気及び急結剤を注入する位置を検討し,構成要件
A−d及びA−eの構成を採用したのである。すなわち,本件A発
明では,圧縮空気と急結剤を坏土に注入した後,かかる坏土を吹付
けノズルから施工箇所に吹き付けるのであり(図1及び図2にも圧
縮空気及び急結剤の注入位置が上流に示されている。),当該構成
を採用することにより,吹き付けるまでの間に乱流の影響を受け,
急結剤が坏土中によりよく分散されるとの作用効果を得るのである。
そして,特許請求の範囲には,「圧縮空気と急結剤を前記坏土中
に注入し」(構成要件A−d),「かかる坏土を吹付けノズルから
施工場所に吹付ける」(構成要件A−e)と記載されているのであ
るから,上記解釈は,特許請求の範囲に記載された文言どおりのも
のである。すなわち,上記の「かかる坏土」とは,圧縮空気と急結
剤が注入された坏土であり,また,「自己流動性を有する坏土を,
・・・圧送し,・・・注入し,・・・吹き付ける」との記載より,
「圧送」,「注入」「吹付け」の各工程がこの順に行われることが
時系列で記載されたものであるから,「かかる坏土を吹付けノズル
から施工場所に吹付ける」とは,圧縮空気と急結剤が注入された坏
土を,ノズルに送り,ノズルから吹き付けることを意味するのであ
る。
また,このことは,ノズルに送る前に,圧縮空気と急結剤を坏土
に注入することが必要であるとの注入時期の問題ということもでき
る。
(b)ところが,乙40文献には,圧縮空気及び急結剤の注入位置や
注入時期に関する具体的構成が全く記載されていない。
したがって,乙40文献には,本件A発明の構成要件A−d及び
A−eの構成は記載されていない。
b本件B発明の構成要件B−d,B−eの構成についても,上記aと
同様の理由により,乙40文献には記載されていない。
イ乙40文献と乙7文献の組合せの困難性について
以下の理由から,乙40文献と乙7文献とを組み合わせることは困難で
ある。
(ア)湿式吹付け施工方法と流し込み施工方法とは全く異なる施工方法で
あること
湿式吹付け施工では,型枠がなく,しかも,垂直な壁面に吹き付ける
ため,坏土を壁に吹き付けた後,坏土が壁面から流れ落ちないように,
瞬時に坏土を凝集,固化させて壁面での保形性を得る必要がある。その
ため,湿式吹付け用坏土(湿式吹付け材料)には急結剤が配合される。
一方,流し込み施工方法は,不定形耐火物材料を,振動を加えながら
型枠に流し込んで固化させる方法である。この流し込み施工方法では,
混練された坏土を型枠に流し込んでから,半日以上放置,養生させて徐
々に硬化させる。混練時に坏土に取り込まれた気泡は,固化するまでの
間に徐々に脱泡するため,緻密な施工物が得られる。この適切な固化及
び硬化時間を確保するために,夏場や冬場に,流し込み材料には,硬化
調整剤が必要に応じて配合される。このように,気泡を徐々に取り除き
つつ時間をかけて硬化させる流し込み材料には,湿式吹付け材料に用い
られるような急結剤は配合されない。したがって,急結剤の添加による
ホースやノズル中の閉塞という問題は,流し込み施工方法には存在しな
い,湿式吹付け施工方法に特有の課題である。
本件各発明は,ホースやノズルの閉塞防止という課題を,上述のよう
に,耐火性超微粉を含む不定形耐火物用粉体組成物を用い(構成要件A
−a,構成要件B−a),フロー値が所定の自己流動性を有する坏土を
調製することにより(構成要件A−c,構成要件B−c)解決し,坏土
に圧縮空気と急結剤を注入し,かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所
に吹き付ける(構成要件A−d,A−e,構成要件B−d,B−e)こ
とを可能としたものである。
このように,湿式吹付け施工方法は,流し込み施工方法とは異なる技
術的原理に基づき,固有の技術的課題を有するものである。したがって,
如何なる坏土であれば,ホースやノズルの詰まりを生じることなく,如
何なる段階での急結剤の配合を可能とし,かつ,坏土の壁面からの流れ
落ちを生じることなく硬化させて,如何なる特性を備えた施工体を提供
することができるかは,流し込み施工法の技術をもって当業者が予測で
きることではない。
また,型枠内に振動させながら流し込み施工される流し込み材料にお
いては,流動性も振動力との関係で把握されるものであるため,湿式吹
付け施工方法である本件各発明の自己流動性とは,その技術的意義にお
いても全く異なる特性である。
以上より,流し込み施工方法は,湿式吹付け施工方法とは全く異なる
施工方法であり,流し込み施工方法において使用される流し込み材料を,
そのまま湿式吹付け施工方法に使用することはできない。
(イ)乙40文献には吹付け材料,自己流動性及び施工過程について具体
的記載が全く開示されておらず,乙40文献と乙7文献とを組み合わせ
ること自体不可能である。
(ウ)乙7文献では,球状化処理という特別な処理方法を施した耐火性粒
子を使用することが技術的特徴として挙げられており,そのような特別
な処理方法が必要な技術を乙40文献に組み合わせる動機付けが認めら
れず,上記記載は,むしろ阻害要因というべきである。
この点,被告は,乙7文献が耐火性粒子を球状化処理をするのは,流
動性を向上させてポンプ圧送可能な流動性を得るためであるから,乙4
0文献の「ポンプ圧送するため高水分領域でしか吹付けできない欠点が
ある」との記載は,流動性の高い材料と組み合わせることを動機付ける
ものではあっても,阻害要因になることはありえないと主張する。
しかしながら,乙40文献では,流し込み施工用の材料である代表的
なローセメントキャスタブルを選定し,吹付け施工が可能なように分散
剤の種類及び量並びに急結剤の種類及び量等の検討を行っているのであ
り,これに対し,乙7文献は流し込み施工がしやすいように耐火性骨材
ないし結合剤の球状化処理をしているだけで,吹付け施工が可能なよう
に球状化処理しているわけではないのであるから,乙40文献に乙7文
献を組み合わせる動機付けなどあり得ない。しかも,乙7文献の球状化
処理は,流し込み施工をしやすいように材料を特殊な形状に処理してい
るのであるから,吹付け施工に使用することはできないのであって,阻
害要因になるというべきである。
(エ)乙40文献には,「ショットキャスト法は吹付前にミキサーで十分
混練しているため,吹付水分に関係なく高接着率が得られるが,ポンプ
圧送するため高水分域でしか吹付けできない欠点がある。」との記載が
あるが,このように,乙40文献のショットキャスト法(ショットキャ
スト法は一般的な湿式吹付け方法ではなく,先絞りノズルを使用した湿
式吹付け方法である。)において高い水分量を選択したのは,乙40文
献のショットキャスト法は,「先絞りノズル」を使用し,ノズルの出口
付近で急結剤を添加して吹き付ける工法であるため,水分量を多くしな
いとノズル先端で坏土が硬化してしまうからであり,したがって,乙4
0文献の上記記載は,同文献の湿式吹付け施工方法が,「低水分でポン
プ圧送できること」及び「吹付水分を減少して気孔率を小さくするこ
と」などを技術課題としていることを示すものではなく,乙40文献の
ショットキャスト法は,先絞りノズルを使用しているために,高水分領
域でしか吹き付けできないこと,つまり,高気孔率の施工体しか施工で
きないことを示しているにすぎない。したがって,高水分領域でしか吹
き付けることができないというショットキャスト法の上記欠点は,単に,
ポンプ施工が低水量で可能な材料があれば解決できるのはなく,ショッ
トキャスト法以外の別の施工方法(先絞りノズルを使用しない施工方
法)を採用しなければならないのである。
したがって,乙40文献と乙7文献を組み合わせても,先絞りノズル
を使用する限り,「高水分領域でしか吹付けできない」との課題を克服
することはできない。
また,そもそも,乙40文献は,湿式吹付け施工法に問題があるから
半乾式又は乾式施工法が優れているとするものであって,したがって,
乙40文献と乙7文献と組み合わせる動機付けがなく,しかも,仮に,
乙40文献に乙7文献を組み合わせても,乙40文献が記載する欠点を
有する湿式吹付け施工法しか想到できないといわざるを得ない。
したがって,乙40文献を本件各発明の主引用例とするには阻害要因
があるというべきである。
(オ)被告は,吹付け施工法及び流し込み施工法のいずれの施工方法も施
工過程においてポンプが使用されることから,技術的課題の共通性が認
められると主張する。
しかしながら,流し込み施工方法では,坏土を,ポンプ圧送後型枠に
流し込んでから半日以上放置して徐々に硬化させるものであるのに対し
て,湿式吹付け施工方法は,ポンプ圧送して壁に吹き付けた後,瞬時に
凝集させるものであるから,流し込み施工に用いた材料をそのままポン
プ圧送しても吹付け材料として使用することはできないのである。
したがって,ポンプ圧送をするという点で共通しているとしても,施
工方法が異なることから,両施工方法のポンプ圧送における技術的課題
は当然に異なるのである。
()損害額(争点())について66
(原告)
ア請求の根拠とする特許権
本件B特許の登録日である平成12年12月8日から本件A特許の登録
日である平成16年3月11日までは,本件B特許権に基づく主張を,同
月12日から平成18年2月28日までは本件A特許権に基づく主張をす
る。
イ不当利得返還請求
被告は,上記()で主張したとおり,原告に対して不当利得返還義務を4
負うところ,原告は,平成12年12月8日から平成14年12月31日
までの期間における被告製品の販売行為について,不当利得返還請求の主
張をする。
そして,上記期間の被告製品の売上高は,17億9579万円であり,
実施料相当額は,売上高の6%が相当であるから,被告の不当利得返還債
務の額は,1億0775万円となる。
ウ損害賠償請求(特許法102条3項)
原告は,平成15年1月1日から平成18年2月28日までの期間にお
ける被告製品の販売行為については,不法行為に基づく損害賠償請求の主
張をする。
そして,上記期間の被告製品の売上高は,28億3843万円であり,
実施料相当額は,売上高の6%を下らないから,被告が特許法102条3
項の算定により支払うべき損害金の額は,1億7031万円である。
(被告)
争う。
第3当裁判所の判断
本件は,事案に鑑み,争点()から検討する。5
1本件各特許は,特許無効審判により無効にされるべきものか(争点())に5
ついて
()事実認定1
ア乙40文献の記載
乙第40号証によれば,乙40文献は,本件各特許の優先権主張日の前
である平成3年8月26日に発行された「吹付工法の最近の進歩」と題す
る論稿であり,次のとおりの記載があることが認められる。
(ア)「1.はじめに」
「吹付施工は成形枠が不要であり,応急かつ局部補修が可能であるな
ど,施工面において多くの利点を有しているため,増加の傾向にある。
しかし,品質的には,レンガ,流し込みに比較して十分とはいえず,ま
た,吹付施工時の発塵およびリバンドロス問題であった。」
(イ)「2.各種吹付システムの検討」
a「2.1開発の基本的な考え方」
「従来の一般的な冷間用乾式吹付材はバインダー量が多く配含され
ており,かつ吹付水分も多く必要とするため,品質的には十分なもの
とはいえなかった。
従って,バインダー量が非常に少ない耐食性の優れた高密度ローセ
メントキャスタブルを吹付け可能にすべく,いかに吹付水分を減少し,
かつ混練度の向上を図り,吹付施工の重要特性である高接着率を確保
するかを主として検討した。
特に,ローセメントキャスタブルで使用している超微粉を十分に分
散させ,吸付水分量の減少化を図ることによって,従来の吹付材に比
較して,品質的に高密度および高強度の施工体を得るとともに,施工
時の発塵の減少,接着率の向上を図るべく,種々検討を行った。」
b「2.2各種吹付システムの比較」
「AlO−SiO系の代表的なローセメントキャスタブルを選232
定し,吹付施工が可能なように分散剤の種類,量および急結剤の種類,
量等の検討を行った。また,吹付材としての最適粒度構成の検討も加
え,吹付システムとして乾式,半湿式,湿式に区分し,合計5種の吹
付システムにおいて比較テストを実施した。各種吹付システムの概要
を表1に示す。」
(a)「()各種吹付システムの接着率について」1
「各種吹付システムの吹付水分と接着率の関係を図1に示す。シ
ョットキャスト法以外の吹付システムについては,吹付水分を減少
すると接着率が低下し,標準乾式法,分散剤溶液添加法はその傾向
が顕著である。ショットキャスト法は吹付前にミキサーで十分混練
しているため,吹付水分に関係なく高接着率が得られるが,ポンプ
圧送するため高水分領域でしか吹付けできない欠点がある。」
(b)「()各種吹付システムの品質について」2
「各種吹付システムの吹付水分と1000℃焼成後の見掛気孔率
の関係を図2に示す。吹付水分の減少に従ってほぼ直線的に見掛気
孔率が低下し,各種吹付システム間の差は少ない。
高密度の品質を得るには,吹付水分の減少が必要である。」
(c)「()各種吹付システムの強度について」3
「次に,吹付水分と1000℃焼成後の曲げ強度の関係を図3に
示す。吹付水分が減少すれば曲げ強度は増加し,かつ低水分領域に
おいては,吹付水分のわずかの低下により著しく曲げ強度が向上す
る傾向にあり,吹付水分をできるだけ減少させることは,強度向上
に大きく寄与する。」
(ウ)表1
表1は,「Dry」(<A>,「Semi−Wet」(<D,<B>,<C>)
>),「Wet」(<E>)の3種類の区分がされ,それらの区分のそれ
ぞれに,「Method」の欄がある。そして,そのうち「Wet」の
タイプの「Method」の欄には,「Shotcastmeth
od」の記載とともに,以下の図が示されている。
HA+WaterAddingapparatus
GR,FP,BD,DPMixerPump
〈〉()WaterAir
また,表1の下側には,「GR:Grain」,「FP:Fine
powder」,「BD:Binder」,「DP:Dispersa
nt」,「HA:Hardeningaccelerator」との
記載がある(順に,「粒子」,「超微粒子」,「結合剤」,「分散剤」,
「急結剤」を意味する。)。
(エ)図1
図1は,吹付け水分と接着率との関係を示した図であり,ショットキ
ャスト法においては,10ないし14パーセント程度の水分を添加した
ことが記載されている。同図では,ショットキャスト法においては,吹
付け水分の添加量に関わらず,接着率は一定となっている。
また,同図では,乙40文献において比較テストの対象とした他の吹
付け施工法における吹付け水分と接着率の関係も示されているが,同じ
吹付け水分量では,ショットキャスト法が最も高い接着率を示している。
(オ)図2
図2は,吹付け水分と見掛気孔率との関係を示した図であり,ショッ
トキャスト法においては,10ないし14パーセント程度の水分を添加
したことが記載されている。同図では,ショットキャスト法においては,
吹付け水分の添加量と見掛気孔率の高さは正比例の関係となっている。
(カ)図3
図3は,吹付け水分と曲げ強度との関係を示した図であり,ショット
キャスト法においては,10ないし13.5パーセント程度の水分を添
加したことが記載されている。同図では,ショットキャスト法において
は,吹付け水分の量が多くなると,曲げ強度が小さくなる関係となって
いる。
イ乙7文献の記載
乙第7号証によれば,乙7文献は,本件各特許の優先権主張日の前であ
る平成6年10月11日に公開された公開特許公報であり,次のとおりの
記載があることが認められる。
(ア)「要約」
目的
「流動性が優れ比較的少量の水分を加えて混練すればポンプ圧送でき,
流し込み成形時に振動を加えなくても気泡が自然に浮上して排出される
不定形耐火物用組成物を提供する。」
(イ)「特許請求の範囲」
a請求項1
「アルミナセメント,アルミナ,チタニア,ボーキサイト,ダイア
スポア,ムライト,礬土頁岩,シャモット,パイロフィライト,シリ
マナイト,アンダリュサイト,珪石,クロム鉱石,スピネル,マグネ
シア,ジルコニア,ジルコン,クロミア,窒化珪素,窒化アルミニウ
ム,炭化珪素,炭化硼素,硼化ジルコニウムおよび硼化チタンから選
ばれる1種以上の平均粒径が30μm以下の球状化処理された耐火性
粒子を2∼30重量%含む組成物からなり,外掛けで6重量%の水を
加えて混練した坏土を寸法が70mmφ∼100mmφ×60mmの
コーン型に流し込み,コーン型を抜き取って振動を加えないで60秒
間放置したときのコーンフロー値が180mm以上であることを特徴
とする不定形耐火物用組成物」
b請求項4
「請求項1∼3のいずれか1つにおいて,組成物中に分散剤として
ヘキサメタ燐酸ソーダが含まれ,その含有量が0.3重量%以下であ
る不定形耐火物用組成物」
c請求項5
「請求項1∼4のいずれか1つにおいて,組成物中にフュームドシ
リカまたは球状化処理された無定形のシリカ粒子が1重量%以上9重
量%以下配合されている不定形耐火物用組成物」
(ウ)段落【0001】
「【産業上の利用分野】本発明は流動性が良好で,施工現場における
施工作業の一層の省力化が可能な不定形耐火物用組成物に関する。」
(エ)段落【0002】
「【従来の技術】不定形耐火物は一般的に定形耐火物と比較すると嵩
比重が小さく,耐用が劣るという欠点はあるが,その製造,施工の両面
において必要とされる人手が少なく,かつ省エネルギーであるという長
所がある。特に最近では分散性,すなわち流動性が良好で,混入する水
分の量を少なくした成形体の嵩比重が大きい不定形耐火物用組成物が開
発され,耐用が向上してコストパーフォーマンスを考慮した場合,定形
耐火物より概ね優位な状況となっている。」
(オ)段落【0003】
「かくして,不定形耐火物は従来の定形耐火物の使用箇所を次第に置
き換えつつあり,その使用量は年々増えているのが現状である。また,
省力化をさらに進めてポンプ圧送が可能な流動性を有する不定形耐火物
が一部実用に供され始めている。」
(カ)段落【0004】
「しかしながら,ポンプによる圧送が可能な流動性を有する不定形耐
火物は,通常の流し込み施工が行われる不定形耐火物と比較し,今のと
ころ添加水分の量を相当多くしており,添加水分の量が多い分だけ得ら
れる耐火物成形体の嵩比重が小さく,耐用が劣るという問題がある。」
(キ)段落【0007】
「【発明が解決しようとする課題】本発明は従来の不定形耐火物にお
ける前述の問題点を解決し,ポンプ圧送が可能な流動性を有していて,
振動を加えなくても施工でき,得られる耐火物成形体の嵩比重が通常の
振動を加える流し込み施工がされた不定形耐火物と比べて遜色のない嵩
比重を有する物成形体が得られる不定形耐火物用組成物を提供しようと
するものである。」
(ク)段落【0009】
「本発明の発明者らは,不定形耐火物用組成物中に球状化処理された
平均粒径30μm以下の耐火性粒子を2∼30重量%配合しておくと,
多種類の耐火性骨材を主な構成物とする不定形耐火物坏土の流動性を顕
著に向上せしめ得ることを発見し,多種類の耐火性骨材を主な構成物と
する組成物で比較的少量の水分を加えて混練することにより自己流動性
を備え,振動を加えなくても自然に流れ,内部の気泡が浮上して表面か
ら排出され,嵩比重が大きい成形体が得られる不定形耐火物用組成物を
完成した。」
(ケ)段落【0012】
「球状化処理された耐火性粒子の平均粒径は好ましくは1∼20μm
である。本発明で平均粒径とは,レーザ回折式粒度分布計によって求め
られた耐火性粒子の積算粒度分布において積算重量が50重量%の位置
にある粒径をいう。」
(コ)段落【0015】
「本発明において,コーンフロー値はJIS−R−5201に規定さ
れた方法を少々変更した方法で測定され,不定形耐火物用組成物に水を
加えて混練した坏土をコーン型に流し込み,コーン型を抜き取って振動
を加えないで60秒間放置したときのコーンフロー値が180mm以上
であればポンプ圧送による施工が可能な自己流動性を備えている。本発
明の不定形耐火物用組成物では,この組成物に外掛けで6重量%という
比較的少量の水を加えて混練したときにコーンフロー値が180mm以
上の流動性を有する坏土が得られる。このコーンフロー値は大きいほど
施工性と耐火物成形体の性能が向上するので,190mm以上,さらに
は200mm以上であるのが好ましい。」
(サ)段落【0027】
「本発明の他の好ましい不定形耐火物用組成物では,組成物中に分散
剤としてヘキサメタ燐酸ソーダが含まれており,その含有量は0.01
重量%以上,0.3重量%以下である。ヘキサメタ燐酸ソーダは,施工
現場で混合しなければならない液体の分散剤と比べて,予め組成物中に
配合しておける粉末状のものであるので,不定形耐火物用組成物に適し
た分散剤であり,施工に際して分散剤を配合する手間が省ける点で優れ
ている。」
(シ)段落【0028】
「また,ヘキサメタ燐酸ソーダは,0.01重量%以上という僅かな
量の添加で組成物中の粒子が水に分散されたときのマイナスのゼータ電
位の絶対値を大きくする効果があり,他の分散剤を使用するときと比べ
て水を混合した組成物の流動性が顕著に良好である。しかし,0.3重
量%を超えるヘキサメタ燐酸ソーダが添加されても流動性はそれ以上向
上しない。」
(ス)段落【0029】
「本発明の不定形耐火物用組成物中には,球状化処理された耐火性粒
子と球状化処理されていない耐火性粒子の他,組成物の主な構成物であ
る粒度配合された通常粒径が25mm以下の耐火性骨材が含まれている。
これらの耐火性骨材として,たとえば,マグネシア,クロミア,ドロマ
イト,スピネル,アルミナ,ムライト,ジルコン,珪石,シャモット,
蝋石,礬土頁岩,ボーキサイトなどの金属酸化物,炭化珪素などの金属
炭化物,窒化珪素などの金属窒化物および硼化ジルコニウムなどの金属
硼化物から選ばれる1種以上が組み合わされる。」
(セ)段落【0041】
「試験例
球状化処理する耐火性粒子の原料として,・・・粒径が0.3∼17
6μmの範囲にあって平均粒径が5.5μmのアルミナセメントと,・
・・平均粒径が4.3μmのバイヤーアルミナ粉末・・・を準備し
た。」
(ソ)【0042】
「また,アルミナセメント粒子の表面に固着せしめる微小粒子として
ヘキサメタ燐酸ソーダの微粉末と,・・・平均粒径が約0.9μmのフ
ュームドシリカを使用し,表1に示す配合比の混合粉体とし,これらを
・・・球状化処理を行い,表1に示すA,A,A,B,CおよびD123
の6種類の球状化処理された耐火性粒子を得た。」
(タ)段落【0045】
「得られた球状化処理後の耐火性粒子を表2と表3に示した割合で配
合し,No.1∼14の不定形耐火物用組成物とした。すなわち,耐火
性骨材としてAlOが88重量%の粗粒(粒径1.68∼6mm),23
中粒(粒径0.1∼1.68mm)および細粒(中粒を粒径0.2mm
以下に粉砕しもの)としたボーキサイトの耐火性骨材,AlOの含有23
量が98重量%の粗粒(1.0∼6mm),中粒(44μm∼1.0m
m)および細粒(43μm以下)とした電融アルミナの耐火性骨材,S
iCの含有量が99重量%の粗粒(1.0∼5mm),中粒(0.2∼
1.0mm)および細粒(0.2mm以下)とした炭化珪素の耐火性骨
材を準備した。」
(チ)段落【0046】
「また,AlOの含有量が99.5重量%の焼成アルミナ粉末(粒23
径43μm以下),AlOの含有量が99.6重量%のバイヤーアル23
ミナ粉末(平均粒径4.3μm)およびAlOとSiOの含有量が232
それぞれ71重量%と27重量%の合成ムライト粉末(粒径43μm以
下)を準備し,さらに組成物の分散性を向上せしめる添加物としてフュ
ームドシリカ(SiOの含有量が98重量%で平均粒径が0.9μm2
のもの)とヘキサメタ燐酸ソーダ(すべての組成物にそれぞれ0.05
重量%添加)を配合して不定形耐火物用組成物とした。」
(ツ)段落【0047】
「次に,これらの組成物に水を加えて混練し,各不定形耐火物の流動
性をJIS−R−5201に規定された方法を少々変更した方法による
コーンフロー値で評価した。すなわち,表2と表3に示された組成物に
所定量の水分を加えて万能ミキサー中で3分間混練し,混練した坏土を
70mmφ∼100mmφ×60mmの長円錐台形状のフローコーン型
中に流し込み,フローコーン型を上方に抜き取って60秒間振動を加え
ないで放置し,流動して概ね円形に広がった坏土の最大広がり寸法とそ
の直角方向の広がり寸法を測定し,両者の平均を求めてコーンフロー値
とした。」
(テ)表1
球状化処理耐火性粒子としてA,A,A,B,C,Dが記載され123
ており,Aはアルミナセメントの粉体,Aはアルミナセメント90重12
量%及びヒュームドシリカ10重量%の混合粉体,Aはアルミナセメ3
ント90重量%,ヒュームドシリカ9重量%及びヘキサメタ燐酸ソーダ
1重量%の混合粉体,Bはバイヤーアルミナの粉体,Cは合成ムライト
粉末の粉体,Dは炭化珪素粉末の粉体であることが示されている。
(ト)表2
組成物例として,No.1ないし7の組成物が記載されている。その
うち,No.2の組成物は,ボーキサイト粗粒40重量%,同中粒22
重量%,同細粒13重量%,焼成アルミナ粉末10重量%,バイヤーア
ルミナ粉末4重量%,球状化処理粒子A5重量%,ヒュームドシリカ2
6重量%の組成物であることが示され,また,同組成物の欄には,「添
加水分量外掛重量%」として「6.0」,「コーンフロー値mm」
として「212」との各数値が記載されている。No.4の組成物は,
ボーキサイト粗粒40重量%,同中粒22重量%,同細粒13重量%,
焼成アルミナ粉末10重量%,球状化処理粒子B4重量%,アルミナセ
メント5重量%,ヒュームドシリカ6重量%の組成物であることが示さ
れ,また,同組成物の欄には,「添加水分量外掛重量%」として「6.
0」,「コーンフロー値mm」として「204」との各数値が記載さ
れている。
なお,組成物例No.2及びNo.4は,いずれもポンプ圧送が可能
である旨記載されている。
()本件A発明の進歩性2
ア乙40文献の開示内容
(ア)上記()アで認定した乙40文献の記載からすれば,乙40文献に1
は,①吹付け施工は,成形枠が不要であり,応急かつ局部補修が可能で
ある等の多くの利点を有しているが,反面で,流し込み施工に比べて,
品質が劣り,また,発塵やリバウンドロスの問題があること,②このよ
うな問題点を解消するための検討として,AlO−SiO系の代表232
的なローセメントキャスタブルを基に,分散剤及び急結剤の種類及び量
並びに吹付け材としての最適粒度構成についての検討を加え,さらに,
吹付けシステムとして,乾式(3種),半湿式(1種)及び湿式(1
種)に区分して,合計5種の吹付けシステムの比較テストをしたこと,
③上記比較テストの対象となった吹付けシステムの1つに,湿式吹付け
システムであるショットキャスト法があり,このショットキャスト法の
模式図が表1に記載されていることが認められる。
そして,上記()ア(ウ)で認定した表1のショットキャスト法の模式1
図と,上記()ア(ア)及び(イ)で認定した乙40文献の記載を併せ考慮1
すれば,乙40文献で開示されている湿式吹付けシステムであるショッ
トキャスト法とは,適宜の種類及び量の粒子,微粒子,結合剤及び分散
剤に水を加えて混合したAlO−SiO系のローセメントキャスタ232
ブルからなる吹付け材を,圧送ポンプでノズルまで圧送する配管と,急
結剤と水との混合物を添加装置によって添加する配管を有し,後者の配
管は,前者の配管とノズルの結合部付近で接続し,同配管中の上記吹付
け材に急結剤と水の混合物を添加し,これを圧縮空気によりノズルの先
端から放出して,施工箇所に吹き付けることを内容とする施工方法であ
るものと認められる。
したがって,乙40文献は,「適宜の種類及び量の粒子,微粒子,結
合剤及び分散剤に水を加えて混合したAlO−SiO系のローセメ232
ントキャスタブルからなる吹付け材を,圧送ポンプと圧送配管によって
施工現場に圧送し,同吹付け材に急結剤,水及び圧縮空気を注入し,か
かる吹付け材を上記圧縮空気により吹付けノズルから施工箇所に吹き付
けることを特徴とする不定形耐火物の吹付け施工方法」の発明(以下
「乙40発明」という。)を開示しているものと認められる。
(イ)これに対して原告は,乙40文献には,本件A発明と対比すること
のできる具体的な構成及び技術思想は全く開示されていない旨主張する
が,上記()アで認定した乙40文献の記載からすると,当業者であれ1
ば,上記に認定した乙40発明の具体的内容を読み取ることができるこ
とは明らかというべきであり,したがって,原告の上記主張は理由がな
い。
イ本件A発明と乙40発明との一致点及び相違点
(ア)乙40発明の内容は,上記ア(ア)で判示したとおりであり,同発明
の「適宜の種類及び量の粒子,微粒子,結合剤及び分散剤に水を加えて
混合したAlO−SiO系のローセメントキャスタブルの吹付け232
材」は,本件A発明の「不定形耐火物用粉体組成物に水を加えて混練さ
れてなる坏土」ということができること,急結剤を坏土に添加するとき
に,更に水を添加するか否かは設計事項にすぎず,本件A発明のように,
水を添加せずに急結剤のみを坏土に添加することに特段の技術的意義が
あるとは解されないこと(本件A明細書も,「坏土に注入する急結剤と
しては,水溶液の急結剤も使用できるが,吹付け施工する坏土中の水分
量を必要最小限にとどめて良好な耐火物特性を確保するため,好ましく
は粉末を使用する。」(【0026】)との記載があり,水を加えない
使用方法を好ましい実施態様としているにすぎない。)から,本件A発
明と乙40発明との一致点及び相違点は,以下のとおりであることが認
められる。
a一致点
不定形耐火物用粉体組成物に水を加えて混練されてなる坏土を,圧
送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し,圧縮空気と急結剤を
前記坏土に注入し,かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹き付
けることを特徴とする不定形耐火物の吹付け施工方法である点
b相違点
(a)相違点1
本件A発明の不定形耐火物用粉体組成物は,耐火性骨材,アルミ
ナ及び/又はヒュームドシリカからなる平均粒径10μm以下の耐
火性超微粉を含む耐火性粉末,アルミナセメント並びに少量の分散
剤を含むものであるのに対し,乙40発明の不定形耐火物用粉体組
成物は,上記の特定がされていない点
(b)相違点2
本件A発明においては,上端内径50mm,下端内径100mm,
高さ150mmで上下端が開口した円錐台形状のコーン型に,混練
直後の坏土を流し込んで充たし,コーン型を上方に抜き取って60
秒間静置したときのフロー値が180mm以上となる自己流動性を
有する坏土であるのに対し,乙40発明における坏土は,その自己
流動性の値が明らかでない点
(イ)これに対して原告は,本件A発明の構成要件A−d,A−eの意義
について,圧縮空気と急結剤を坏土に注入した後,かかる坏土を吹付け
ノズルから施工箇所に吹き付けることを意味し,ノズルにおいて急結剤
が添加される場合を含まないとの解釈を前提にして,乙40文献には,
圧縮空気及び急結剤の注入位置及び注入時期に関する具体的構成が全く
記載されていない旨の主張をする。
しかしながら,本件A発明の構成要件A−d,A−eの文言は,「圧
送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し,圧縮空気と急結剤を前
記坏土中に注入し,かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹付け
る」というものであり,同文言からは,圧縮空気及び急結剤が坏土に注
入される場所及び時期が,坏土が圧送されてノズルに達する前の配管部
分に限定され,坏土がノズルに達した段階で,ノズルにおいて当該坏土
に注入される場合を含まないと解することはできないというべきである。
したがって,原告の上記主張は,その前提とする本件A発明の構成要
件A−d,A−eの解釈に誤りがあり,失当である。
ウ相違点の検討
(ア)上記()イで認定した乙7文献の記載からすれば,乙7文献は,添1
加水分量を少なくし,嵩比重の大きい耐火物成形体の製造を可能にしな
がら,ポンプ圧送が可能な程度の流動性を有する不定形耐火物組成物の
構成に関する発明についての公開特許公報であること,上記発明は,流
し込み施工法において使用される不定形耐火物用組成物についての従来
技術において,ポンプによる圧送が可能な流動性を有する不定形耐火物
は,添加水分の量を相当多くする必要があるため,耐火物成形体の嵩比
重が小さく,耐用が劣るという課題があり,この課題を解決するための
ものであることが認められる。
そして,乙7文献は,上記()イのとおり,上記の不定形耐火物用組1
成物の具体例として,表2,表3において,14種類の組成物を挙げて
おり,そのうちの,例えば,組成物4は,耐火性骨材であるボーキサイ
ト(粗粒40重量%,中粒22重量%,細粒13重量%),焼成アルミ
ナ粉末(43μm以下,10重量%),球状化処理粒子B(平均粒径4.
3μmのバイヤーアルミナ粉末を球状化処理した耐火性粒子)(4重量
%),アルミナセメント(5重量%)及び平均粒径が0.9μmのヒュ
ームドシリカ(6重量%)によって構成され,これに,ヘキサメタ燐酸
ソーダ(0.05重量%)が配合されている(段落【0046】)。
以上を前提に検討するに,上記組成物例4におけるボーキサイトは本
件A発明の「耐火性骨材」に,平均粒径0.9μmのヒュームドシリカ
は本件A発明の「ヒュームドシリカからなる平均粒径10μm以下の耐
火性超微粉」に,同ヒュームドシリカ及び上記焼成アルミナ粉末は本件
A発明の「ヒュームドシリカからなる平均粒径10μm以下の耐火性超
微粉を含む耐火性粉末」に,アルミナセメントは本件A発明の「アルミ
ナセメント」に,ヘキサメタ燐酸ソーダは本件A発明の「分散剤」(上
記()イのとおり,乙7文献は,ヘキサメタ燐酸ソーダが分散剤である1
ことを示している。)に,それぞれ該当し,ヘキサメタ燐酸ソーダ0.
05重量%は,本件A発明の「少量の分散剤」ということができる。
したがって,乙7文献には,流し込み施工法に使用される不定形耐火
物用組成物として,「耐火性骨材,アルミナ及び/又はヒュームドシリ
カからなる平均粒径10μm以下の耐火性超微粉を含む耐火性粉末,ア
ルミナセメント,並びに少量の分散剤を含む不定形耐火物用粉体組成
物」の発明(以下「乙7発明1」という。)が開示されているというこ
とができる。
さらに,乙7文献には,上記()イのとおり,上記組成物例4に6重1
量%(外掛け)の水分を添加して混練して作成された坏土を,上底の内
径を70mm,下底の内径を100mm,高さを60mmの円錐台形状
のコーン型中に流し込み,コーン型を抜き取って60秒間放置し,流動
して概ね円形に広がった坏土の最大広がり寸法とその直角方向の広がり
寸法の平均を測定したところ,204mmとなった旨記載されている。
ところで,本件A発明のコーン型は,上底の内径が50mm,下底の
内径が100mm,高さが150mmの円錐台形状であるから,乙7文
献のコーン型と本件A発明のコーン型の寸法を比較すると,本件A発明
のコーン型は,乙7文献のコーン型を完全に内包するような形となる
(乙7文献のコーン型のように,下底の内径を100mm,高さを60
mmとすると,上底の内径が80mmであれば,同コーン型は,本件A
発明のコーン型と高さ60mmまでの部分で完全に重なるが,乙7文献
のコーン型は,上底の内径が70mmであるから,本件A発明のコーン
型に内包される形となる。)。したがって,同程度の自己流動性を有す
る坏土について,上記の両コーン型によってフロー値を測定すれば,本
件A発明のコーン型による測定値の方が乙7文献のコーン型による測定
値より大きくなることは明らかである。
そうすると,上記組成物例4を,本件A発明のコーン型により,上記
の方法でフロー値を測定すれば,204mm以上となるものといえる。
したがって,乙7文献には,「この不定形耐火物用組成物に水を加え
て混練して得られた坏土を,上端内径50mm,下端内径100mm,
高さ150mmで上下端が開口した円錐台形状のコーン型に,混練直後
の坏土を流し込んで充たし,コーン型を上方に抜き取って60秒間静置
したときのフロー値が180mm以上となること」の発明(以下「乙7
発明2」といい,乙7発明1と乙7発明2を併せて「乙7発明」とい
う。)が開示されているものと認められる。
なお,乙7発明は,ポンプ圧送が可能である。
(イ)組合せの容易性
乙40文献の記載は,上記()アで認定したとおりであり,これによ1
れば,乙40文献には,上記ア(ア)においても判示したように,吹付け
施工は,水分が多いことにより施工された耐火物の品質が劣り,また,
施工時に発塵及びリバウンドロスが生じる問題点があるところ,これら
2を解決するのために,吹付け水分量の減少化を図ることのできるAl
O−SiO系のローセメントキャスタブルを基に,分散剤及び急結剤32
の種類及び量並びに吹付け材としての最適粒度構成についての検討を加
え,3種の乾式吹付け法,半乾式吹付け法及び湿式吹付け法(ショット
キャスト法)の合計5種類の吹付け法について,比較テストをしたこと,
その結果,ショットキャスト法においては,吹付け水分を多くすると,
得られた耐火物は,見掛気孔率が大きく,曲げ強度が小さくなり,品質
が悪くなること,しかしながら,ショットキャスト法においては,ポン
プ圧送をするという構造から,吹付け水分を少なくできないことが記載
されている。そして,乙40文献が吹付け施工の問題点として指摘する
施工時の発塵及びリバウンドロスの解消の観点からは,ショットキャス
ト法が上記5種の吹付け法のうちで最も優れていることは明らかである。
したがって,乙40文献は,AlO−SiO系のローセメントキ232
ャスタブルを基にした吹付け材の吹付け施工法において,ショットキャ
スト法は,施工時の発塵及びリバウンドロスの解消の観点から優れた施
工法であるが,ポンプ圧送を可能とするためには,高水分領域での吹付
けが必要となり,そのことにより,得られる耐火物の品質が劣る等の欠
点があることを示しているということができる。
そうすると,当業者としては,吹付け水分を少なくしても,ポンプ圧
送が可能となる,ローセメントキャスタブルに関する発明が公知であれ
ば,上記利点を有するショットキャスト法による施工を実現する上で必
要となる,耐火物の品質改善のために,上記ローセメントキャスタブル
に関する発明を,乙40文献で開示された乙40発明に適用することを
考えるのが自然である。そして,乙40文献は,上記のとおり,分散剤
及び急結剤の種類及び量並びに吹付け材としての最適粒度構成について
の検討を加えることを示しており,ローセメントキャスタブルの構成物
の工夫の必要性を指摘していることからも,当業者は,上記諸要素の調
整を適宜行うものであるということができ,そうであれば,当業者が,
ローセメントキャスタブルに関する知見を乙40発明に適用するに当た
っては,その構成や急結剤の添加及びその添加量等についての検討を加
え,ショットキャスト法にとって好適な吹付け材となるよう調整するこ
とは当然のことということができる。
ところで,乙7文献は,上記(ア)で認定したように,流し込み施工法
において使用される不定形耐火物用組成物についての発明の公開特許公
報であり,添加水分量を少なくし,嵩比重の大きい耐火物成形体の製造
を可能にしながら,ポンプ圧送が可能な程度の流動性を有する不定形耐
火物組成物の構成に関する発明を開示しており,この発明を具体化した
乙7発明は,上記(ア)のとおり,その坏土はポンプ圧送が可能であるか
ら,乙7発明は,まさしく,乙40発明の作用効果を損なうことなく,
同発明の上記欠点(高水分領域で用いることによる品質の劣化)を解消
することのできる発明であるといえる。そして,乙7発明の不定形耐火
物用組成物を乙40発明に適用するに当たっては,上記のとおり,適宜,
乙40発明に好適となるよう調整することは当然であるといえる。
したがって,当業者にとって,上記相違点1及び2の構成について,
乙40発明に乙7発明を組み合わせて,本件A発明を想到することは容
易であるというべきである。
(ウ)原告の主張について
a原告は,乙40文献の「ショットキャスト法は吹付前にミキサーで
十分混練しているため,吹付水分に関係なく高接着率が得られるが,
ポンプ圧送するため高水分域でしか吹付けできない欠点がある。」と
の記載は,乙40文献のショットキャスト法は,先絞りノズルを使用
し,ノズルの出口付近で急結剤を添加して吹き付ける工法であること
から,ノズル詰まりが起こりやすく,これを回避するために,高水分
領域でしか吹付けができないことを示しているのであり,したがって,
上記の課題は,単に,ポンプ施工が低水量で可能な材料があれば解決
できるのはなく,ショットキャスト法以外の別の施工方法(先絞りノ
ズルを使用しない施工方法)を採用しなければならないことを示して
いる旨主張する。
しかしながら,上記()アで認定したとおり,乙40文献は,「シ1
ョットキャスト法は吹付前にミキサーで十分混練しているため,吹付
水分に関係なく高接着率が得られるが,ポンプ圧送するため高水分領
域でしか吹付けできない欠点がある。」と記載して,ショットキャス
ト法において高水分領域でしか吹付けできないことの原因がポンプ圧
送にあることを明記しており,一方,ショットキャスト法では,先絞
りノズルを使用し,同ノズルの出口付近で急結剤を添加して吹き付け
るという構造を採ることからノズル詰まりが生じやすく,このノズル
詰まりを防ぐために,高水分領域でしか吹付けできない旨の事実を窺
わせる記載は一切ないから,乙40文献に接した当業者としては,高
水分領域でしか施工できないというショットキャスト法の課題が,シ
ョットキャスト法において使用するノズルの形状及び上記の吹付け方
法に起因するものであると認識するとは考え難い。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
b原告は,湿式吹付け施工法と流し込み施工法とは,全く異なる施工
方法であるから,湿式吹付け施工法である乙40発明に,流し込み施
工法において使用される坏土についての発明である乙7発明を組み合
わせることはできない旨主張する。
しかしながら,上記(イ)で判示したとおり,乙40文献は,ローセ
メントキャスタブルを吹付け材としたショットキャスト法においては,
ポンプ圧送のために,吹付け水分を多くすることが必要であり,この
点がショットキャスト法の欠点である旨記載しており,この問題点は,
低水分でありながらポンプ圧送が可能な耐火物組成物を得ることによ
って解消されるということができるから,この組成物が,吹付け施工
法に使用されるものとして開示されているのか,又は流し込み施工法
に使用されるものとして開示されているかの点は,その適用に当たっ
て,重要な技術的意味を有するものではないというべきである。
この点,湿式吹付け施工法であるショットキャスト法においては,
型枠を利用せず,また,吹付け材を垂直面に吹き付けることから,同
施工法において使用する吹付け材であるローセメントキャスタブルは,
その組成物の構成や急結剤の添加の必要性という点において,流し込
み施工法において使用する坏土とは差異があるが,乙40文献におい
て吹付け材として選定されたローセメントキャスタブルは,流し込み
施工においても使用されていることは周知であり(乙14,15),
乙40文献は,このようなローセメントキャスタブルについて,その
組成物の構成や添加すべき急結剤の種類及び量等を検討することによ
り,これを吹付け剤として使用して,各種吹付け施工法の比較をした
のであり,乙40文献に接した当業者としては,乙7発明に開示され
るような流し込み施工用の坏土であっても,上記のような検討を加え,
吹付け施工に適した組成物の構成を調整し,好適な種類の適量の急結
剤を添加することにより,これを吹付け施工法の吹付け材に使用する
ことを想到することは容易であるものと認められる。
したがって,湿式吹付け施工法と流し込み施工法との上記差異のた
めに,流し込み施工法に使用された坏土を湿式吹付け施工法に使用す
ることを想到することが困難であるということはできず,原告の上記
主張は理由がない。
c原告は,乙40文献は,湿式吹付け施工法に問題があるから半湿式
又は乾式施工法が優れているとするものであり,したがって,これに
乙7文献と組み合わせる動機付けがない旨主張する。
しかしながら,上記(イ)で判示したように,乙40文献は,各種の
施工方法を比較した結果,ショットキャスト法には,ポンプ圧送とい
う構造から,吹付け材の水分量を多くする必要があり,そのため,良
質な耐火材を得ることができないという欠点があり,このことから,
半湿式又は乾式施工法が優れているとしたものである。そうすると,
上記の欠点を解消することができ,かつ,施工時の発塵やリバウンド
ロスを減少するというショットキャスト法の利点を損なわない組成物
や技術があれば,これらをショットキャスト法に適用することにより,
優れた吹付けシステムを達成することができるのであるから,乙40
文献において,ショットキャスト法が,推奨すべき吹付け法から完全
に排除されたものということはできない。むしろ,ショットキャスト
法には,上記()アで認定した乙40文献の記載からすれば,吹付け1
水分量が減少しても接着率は低下しないこと,同じ水分量においては,
他の吹付け施工法よりも接着率が高いことという利点を有しているも
のと認められるから,当業者としては,このようなショットキャスト
法を活用すべく,その欠点を解消できる組成物や技術を適用しようと
考えるのが通常であるというべきである。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
dその他に,原告は,乙40発明と乙7発明とを組み合わせることの
困難性について縷々主張するが,上記ア及びウ(イ)で判示したところ
に照らして,いずれも理由がないことは明らかである。
エ結論
以上より,本件A特許には,特許法29条2項違反の無効理由が存在し,
無効審判により無効にされるべきものと認められるから,同法104条の
3第1項により,原告は,本件A特許権に基づく権利行使をすることはで
きない。
()本件B発明の進歩性3
ア本件B発明と乙40発明との一致点及び相違点
(ア)乙40発明の内容は,上記()アで判示したとおりであるところ,2
前記()イで判示したとおり,乙40発明の「適宜の種類及び量の粒子,2
微粒子,結合剤及び分散剤に水を加えて混合したAlO−SiO系232
のローセメントキャスタブルの吹付け材」は,本件B発明の「不定形耐
火物用粉体組成物に水を加えて混練されてなる坏土」ということができ
ること,急結剤を坏土に添加するときに,更に水を添加するか否かは設
計事項にすぎず,水を添加せずに急結剤のみを坏土に添加することに特
段の技術的意義があるとは解されないことからすれば,本件B発明と乙
40発明との一致点及び相違点は,次のとおりであることが認められる。
a一致点
不定形耐火物用粉体組成物に水を加えて混練されてなる坏土を,圧
送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し,圧縮空気と急結剤を
前記坏土に注入し,かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹き付
けることを特徴とする不定形耐火物の吹付け施工方法である点
b相違点
(a)相違点1
本件B発明の不定形耐火物用粉体組成物は,耐火性骨材,平均粒
径30μm以下のアルミナセメント,平均粒径30μm以下の耐火
性粉末(アルミナセメントを除く)及び少量の分散剤を含むもので
あるのに対し,乙40発明の不定形耐火物用粉体組成物は,上記の
特定がされていない点
(b)相違点2
本件B発明は,不定形耐火物用組成物100重量部に対して,水
を7重量部以上15重量部以下加えて混練して坏土を作るのに対し,
乙40発明は,不定形耐火物用組成物に加える水の割合を特定して
いない点
(c)相違点3
本件B発明においては,上端内径50mm,下端内径100mm,
高さ150mmで上下端が開口した円錐台形状のコーン型に,混練
直後の坏土を流し込んで充たし,コーン型を上方に抜き取って60
秒間静置したときのフロー値が200mm以上となる自己流動性を
有する坏土であるのに対し,乙40発明においては,坏土の自己流
動性の値が明らかでない点
(イ)これに対し,原告は,本件B発明の構成要件B−d,B−eの意義
について,圧縮空気と急結剤を坏土に注入した後,かかる坏土を吹付け
ノズルから施工箇所に吹き付けることを意味し,ノズルにおいて急結剤
が添加される場合を含まないとの解釈を前提にして,乙40文献には,
圧縮空気及び急結剤の注入位置や注入時期に関する具体的構成が全く記
載されていない旨の主張をするが,上記()イ(イ)で判示した理由と同2
じ理由により,原告の同主張は理由がない。
イ相違点の検討
(ア)乙7文献で開示された発明の概略は,上記()ウ(ア)のとおりであ2
るが,乙7文献は,上記()イのとおり,ポンプ圧送が可能な程度の流1
動性を有する不定形耐火物用組成物の具体例として,表2,表3におい
て,14種類の組成物を挙げており,そのうちの,例えば,組成物例2
は,耐火性骨材であるボーキサイト(粗粒40重量%,中粒22重量%,
細粒13重量%),焼成アルミナ粉末(43μm以下,10重量%),
バイヤーアルミナ粉末(4.3μm,4.0重量%),球状化処理粒子
A2(平均粒径が5.5μmのアルミナセメント90重量%と平均粒径
が0.9μmのヒュームドシリカ10重量%を混合して,球状化処理し
た耐火性粒子)(5重量%)及び平均粒径が0.9μmのヒュームドシ
リカ(6重量%)によって構成され,これに,ヘキサメタ燐酸ソーダ
(0.05重量%)が配合されている(段落【0046】)。
そして,上記組成物2におけるボーキサイトは本件B発明の「耐火性
骨材」に,球状化処理粒子A2に含まれる平均粒径が5.5μmのアル
ミナセメントは本件B発明の「平均粒径30μm以下のアルミナセメン
ト」に,4.3μmのバイヤーアルミナ粉末及び平均粒径が0.9μm
のヒュームドシリカは本件B発明の「平均粒径30μm以下の耐火性粉
末(アルミナセメントを除く)」に,ヘキサメタ燐酸ソーダは本件B発
明の「分散剤」(上記()イのとおり,乙7文献は,ヘキサメタ燐酸ソ1
ーダが分散剤であることを示している。)に,それぞれ該当し,ヘキサ
メタ燐酸ソーダ0.05重量%は,本件B発明の「少量の分散剤」とい
うことができる。
したがって,乙7文献には,流し込み施工法に使用される不定形耐火
物用組成物として,「耐火性骨材,平均粒径30μm以下のアルミナセ
メント,平均粒径30μm以下の耐火性粉末(アルミナセメントを除
く)及び少量の分散剤を含む不定形耐火物用粉体組成物」の発明(以下
「乙7発明3」という。)が開示されている。
さらに,上記()イのとおり,乙7文献には,上記組成物例2に6重1
量%(外掛け)の水分を添加して混練して作成された坏土を,上底の内
径を70mm,下底の内径を100mm,高さを60mmの円錐台形状
のコーン型中に流し込み,コーンを抜き取って60秒間放置し,流動し
て概ね円形に広がった坏土の最大広がり寸法とその直角方向の広がり寸
法の平均を測定したところ,212mmとなった旨記載されている。
ところで,本件B発明のコーン型は,本件A発明のコーン型と同一の
寸法であるから,上記()ウ(ア)で判示したように,同程度の自己流動2
性を有する坏土について,本件B発明のコーン型と乙7文献のコーン型
によってフロー値を測定すれば,本件B発明のコーン型による測定値の
方が乙7文献のコーン型による測定値より大きくなることは明らかであ
る。
そうすると,上記組成物例2を,本件B発明のコーン型により,上記
の方法でフロー値を測定すれば,212mm以上となるものといえる。
したがって,乙7文献には,「この不定形耐火物用組成物に水を加え
て混練して得られた坏土を,上端内径50mm,下端内径100mm,
高さ150mmで上下端が開口した円錐台形状のコーン型に,混練直後
の坏土を流し込んで充たし,コーン型を上方に抜き取って60秒間静置
したときの広がり直径が200mm以上となること」の発明(以下「乙
7発明4」という。)が開示されているものと認められる。
(イ)組合せの容易性
上記()ウ(イ)及び同(ウ)で判示したところと同じ理由により,上記2
相違点1及び3の構成について,乙40発明に乙7発明3及び乙7発明
4を組み合わせることは容易というべきである。
(ウ)相違点2について
本件B発明は,不定形耐火物用粉体組成物に加える水の量を7重量部
以上15重量部以下としている(構成要件B−b)。
ところで,本件B明細書(甲5)によれば,同明細書の発明の詳細な
説明の欄における,不定形耐火物用粉体組成物に加えるべき水の量の上
記の数値の説明については,「粉体組成物100重量部に対して加える
水の量は,粉体組成物に配合される主要原料である骨材の比重や気孔率
によって変化するが,自己流動性を付与するために必要な坏土中の水分
量には自ら下限があり,粉体組成物100重量部に対して4重量部以上
(比重が大きく気孔率が小さい電融アルミナ等の骨材の場合には4.5
重量部で自己流動性を付与できる)の水分を加える。」(段落【001
7】),「ポンプ圧送する坏土中の水分,すなわち粉体組成物に加える
水分は,施工された不定形耐火物の気孔率を小さくして耐火物としての
良好な特性を確保できるように,粉体組成物100重量部に対して15
重量部以下である。さらには12重量部以下とするのが好ましい。坏土
中の水分が少なければ,坏土中に含まれる耐火性骨材が沈降して坏土が
不均質化するのを抑制でき,気孔率が小さく均質な組織の不定形耐火物
の施工体が得られる。」(【段落0018】)と記載されるのみであり,
同明細書には,上記数値の技術的意義や,上記数値の裏付けとなる実験
についての記載がないことが認められる。かえって,本件B明細書の段
落【0011】には,「特に低水量(実施例と同じ基準で好ましくは5
∼7%)で施工されるので定型耐火物で発生する粉塵量を低下させう
る。」との記載があることが認められ,本件B明細書は,5ないし7%
の水分量が好ましいとしている。
したがって,本件B発明の構成要件B−bに特段の技術的意義がある
とは認められず,同要件は,当業者が必要に応じ適宜なし得る設計事項
というべきである。
(エ)したがって,当業者にとって,乙40発明に乙7発明を組み合わせ
て,本件B発明を想到することは容易であるというべきである。
ウ結論
以上より,本件B特許には,特許法29条2項違反の無効理由が存在し,
無効審判により無効にされるべきものと認められるから,同法104条の
3第1項により,原告は,本件B特許権に基づく権利行使をすることはで
きない。
2以上の次第で,原告の請求はいずれも理由がないから,これらを棄却するこ
ととし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官清水節
裁判官山田真紀
裁判官佐野信
物件目録1
1KNG−A80(旧符号PNG−A80)
4KNG−A60(旧符号PNG−A60)
5KNG−KVR14R(旧符号PNG−KVR14R)
6KNG−RA14(旧符号PNG−RA14)
9KNG−SC70(旧符号PNG−SC70)
10KNG−SC60(旧符号PNG−SC60)
11KNG−SC50L(旧符号PNG−SC50L)
12KNG−SC40(旧符号PNG−SC40)
13KNG−SC30(旧符号PNG−SC30)
14KNG−SC20(旧符号PNG−SC20)
16PNG−A50
物件目録2
1KNG−QBF2401R30
2KNG−QTC20AZ1
3PNG−SPH4R
4KNG−QMWTP319
5KNG−TP930−R70
6KNG−TP5103
7KNG−TP5410R70
8KNG−TP3103
9KNG−TP3117MR(40)
10KNG−TP3117MR55
11KNG−TP906−VA
12KNG−TP906RY
13KNG−TP906−RYA
14KNG−TP906−RYB
15KNG−TP906−RYC
16KNG−TP906−RYD
17KNG−PL112−R40
18KNG−YL5423
19KNG−PL3101
20KNG−PL3101−RY1
21PNG−H60I
22KNG−AM110
24KNG−AM9−R23
25PNG−SL2107
27PNG−ML110K−RY5
施工方法説明書(A)
下記構成の説明1に示される不定形耐火物用粉体組成物に水を加えて混練さ
れてなり,かつ,下記構成の説明2に示される自己流動性を有する坏土を,
圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し,圧縮空気と急結剤を前記
坏土中に注入し,かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹き付けること
を特徴とする不定形耐火物の吹付け施工方法。
・構成の説明
1次の組成を有する不定形耐火物用粉体組成物である。
(1)耐火性骨材
)(2)ヒュームドシリカ又はアルミナ超微粉(平均粒径10μm以下
(3)アルミナセメント
(4)分散剤(少量)
2上端内径50mm,下端内径100mm,高さ150mmで上下端が開口した円
錐台形状のコーン型に,混練直後の坏土を流し込んで充たし,コーン型を
上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径が180mm以上となる坏
土。
施工方法説明書(B)
下記構成の説明1に示される不定形耐火物用粉体組成物100重量部に水を7重
量部以上15重量部以下加えて混練されてなり,かつ,下記構成の説明2に示
される自己流動性を有する坏土を,圧送ポンプと圧送配管によって施工現場
に圧送し,圧縮空気と急結剤を前記坏土中に注入し,かかる坏土を吹付けノ
ズルから施工箇所に吹き付けることを特徴とする不定形耐火物の吹付け施工
方法。
・構成の説明
1次の組成を有する不定形耐火物用粉体組成物である。
(1)耐火性骨材
)(2)アルミナセメント(平均粒径30μm以下
)(3)ヒュームドシリカ又はアルミナ超微粉(平均粒径30μm以下
(4)分散剤(少量)
2上端内径50mm,下端内径100mm,高さ150mmで上下端が開口した円
錐台形状のコーン型に,混練直後の坏土を流し込んで充たし,コーン型を
上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径が200mm以上となる坏
土。
被告製品の構成説明書(A)
次の組成を有する不定形耐火物用粉体組成物
(1)耐火性骨材
)(2)ヒュームドシリカ又はアルミナ超微粉(平均粒径10μm以下
(3)アルミナセメント
(4)分散剤(少量)
被告製品の構成説明書(B)
次の組成を有する不定形耐火物用粉体組成物
(1)耐火性骨材
)(2)アルミナセメント(平均粒径30μm以下
)(3)ヒュームドシリカ又はアルミナ超微粉(平均粒径30μm以下
(4)分散剤(少量)
乙49実験結果(被告製品1)
物件目録符号添加水分上下限フロー値品質
1の番号FF(㎜)気孔率圧縮強度
(%)
1KNG−A806.0%−14214.8398
4KNG−A608.5%上限31613.7361
7.5%下限24613.5406
5KNG−KVR148.5%上限31613.7361
R7.5%下限24613.5406
6KNG−RA1412.0%上限34917.4298
9.0%下限27416.4409
9KNG−SC707.0%−11815.2543
10KNG−SC608.0%上限20616.8424
7.0%下限13315.0483
11KNG−SC50L9.0%上限19917.4395
8.0%下限16116.2508
12KNG−SC408.0%−28616.3395
13KNG−SC308.0%−26818.0436
14KNG−SC208.0%−26116.8402
16PNG−A5012.0%上限34917.4298
9.0%下限27416.4409
乙49実験結果(被告製品2)
物件目録2符号添加水分フロー値品質
の番号(%)FF(㎜)気孔率
(%)
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2KNG-QTC20AZ19.017020.1
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6KNG-TP510310.035019.8
7KNG-TP5410R7012.035025.9
8KNG-TP31038.313022.1
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採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

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残り応募人数(2019年5月1日現在)
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