弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人A弁護人藤本秀雄の上告趣意第一点について。
 所論の証人を訊問するかどうかは、事実審たる原審の自由裁量に属するのである
から、この点の措置を非難する論旨は理由なく、また本件犯行の動機原因等を事実
摘示に判示しなかつたからとて判断遺脱の違法はないので論旨は理由がない。
 同第二点について。
 本件犯行の動機に関する所論のような事情だけでは、被告人の意思の自由を抑圧
して犯意の成立を阻却するに足る脅迫とは認めることができない。それゆえ、原判
決には所論のような違法はなく論旨は理由がない。
 同第三点について。
 本論は弁護人においてその主張を撤回したので、これに対しては判断を与えない。
 同第四点について。
 所論のような事情は、原判決の認定しないところであるばりでなく、論旨援用の
証拠によつても被告人の本件犯行が刑法第三七条にいわゆる「已ムコトヲ得サルニ
出テタル行為」とは到底認められないので、原判決には所論のような違法はなく論
旨は理由がない。
 被告人B弁護人今西貞夫の上告趣意第一点について。
 被告人Aの所論供述は、単に一片の想像ではなく、同人が実験した事実に因り推
測した事項であると認められるから、これを証拠として所論知情の事実を認定した
からとて違法ではない。
 同二点について。
 記録を調べてみると、原審の昭和二四年六月一七日の所論公判期日には被告人A
が出頭しただけで、被告人Bその他の原審相被告人はすべて出頭しなかつたため、
右Aと他の相被告人との審理が分離され、被告人B等の在廷しないまゝ被告人Aに
対し事実審理並びに証拠調がなされたことがわかる。そして、右公判期日には被告
人Aが原判決摘録のような供述をしている。しかしながら、原審の昭和二四年一一
月九日の公判期日には被告人Aおよび被告人Bその他の原審相被告人はすべて出頭
し、さきに分離された手続は再び併合審理されて、しかも被告人Aに対しては被告
人Bの在廷するところで手続の更新がなされ同被告人は前回の公判期日におけるの
と同一の供述をしているのである。そして同公判期日には被告人B等に対しても審
理が行われたのであつて、原判決は該公判に基いて言渡されたものである。以上の
次第であるから、原判決が証拠とした所論被告人の供述は昭和二四年六月一七日の
原審公判期日における供述ではなく、被告人Bの在廷した同年一一月九日の原審公
判期日における供述である。それゆえ、所論はその前提を誤まるものであつて理由
がない。
 同第三点について。
 所論列車急行券の記載事項乃至様式は、昭和一七年二月二五日運輸省告示第二六
号「旅客及荷物運送規則」第一二〇条および同日附運輸省達第八九号「旅客及荷物
運送取扱細則」第一一三条に定められていて、右急行券を発売する際には鉄道係員
において右取扱細則第一一三条に従い発売日附を押印し、乗車日附、列車番号、乗
車駅名及び其の発時分を表示した上旅客に之を交付すべく、乗車月日、乗車列車、
発売日附、又は乗車駅が不明となつた場合には前示規則第一二五条により急行券は
無効となるのであるから、所論のような粁数や料金のみが記載されているにすぎな
いものは、未だ急行券の用紙であつて、有効な急行券ではない。それゆえ、被告人
等が粁数および料金のみ表示された判示急行券用紙に何ら権限なく所要の事項を記
入し所定の様式にかなつた急行券を作成した以上、有価証券偽造にあたることは明
らかである。そして、原判決挙示の証拠によれば、被告人において右の事実を認識
しながら判示犯行に出たものであることが認められるのであるから、被告人には何
ら有価証券偽造の犯意に欠けるところはない。所論は、単なる法律の不知を主張す
るに止まるものであつて理由がない。
よつて、本件各上告を理由ないものと認め、旧刑訴法第四四六条に従い主文のとお
り判決する。
以上は、当小法廷裁判官全員の一致し意見である。
 検察官 堀忠嗣関与
  昭和二五年九月五日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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