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平成26年3月26日判決言渡
平成25年(行コ)第444号所得税更正処分等取消請求控訴事件
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2渋谷税務署長が平成22年11月24日付けで控訴人に対してした控訴人の
平成21年分の所得税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)のうち総
所得金額4億8563万0274円,還付金の額に相当する税額1372万1
300円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件賦課決定
処分」といい,本件更正処分と併せて「本件各処分」という。)を取り消す。
第2事案の概要
1本件は,控訴人が,平成21年分の所得税について,所得税法(平成21年
法律第13号による改正前のもの。以下「法」という。)95条2項に基づき,
平成19年分の控除限度額を繰り越して使用することにより外国税額控除をし
て確定申告をしたところ,渋谷税務署長から,控訴人の平成20年分の所得税
の確定申告書には同条6項所定の事項の記載等がなかったから,同項に規定す
る手続要件を満たしておらず,平成21年分の所得税について同条2項に基づ
く外国税額控除をすることはできないとして,同年分の所得税に係る更正処分
(本件更正処分)及びこれに伴う過少申告加算税の賦課決定処分(本件賦課決
定処分)を受けたことから,本件各処分(本件更正処分については申告を超え
る部分)の取消しを求めた事案である。
2原審は,控訴人の請求を棄却したので,これを不服として,控訴人が本件控
訴を提起した。
3関係法令の定め,前提事実,本件各処分の根拠及び適法性に関する被控訴人
の主張,争点及び争点に関する当事者の主張は,後記4に当審における控訴人
の補充主張を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」中「第2事案の概
要」の1~3,「第3争点」の1及び2並びに「第4争点に関する当事者
の主張」の1及び2に記載のとおりであるから,これを引用する。
4当審における控訴人の補充主張
(1)法95条6項に規定する手続要件を満たしていること
ア法95条6項の「各年」は,文理解釈すれば,「繰越控除限度額が発生
した年」のみを対象とすると解すべきであること
法95条6項の規定を文理解釈すれば,「最も古い年以後の各年」は,
「繰越控除限度額に係る年」,すなわち「繰越控除限度額が発生した年」
のうちの年を意味するものであり,「繰越控除限度額が発生しない年」が
「最も古い年以後の各年」に該当する余地はない。
イ繰越控除限度額が発生しない平成20年分の確定申告書に控除限度額及
び控除対象外国所得税額の記載は不要であること
以下の(ア)~(ウ)の事情に照らせば,平成21年において法95条2項
を適用するために,平成20年分の確定申告書に控除限度額及び控除対象
外国所得税額の記載は不要であり,法95条6項の「各年」もその趣旨で
規定されている。
(ア)繰越控除限度額が発生しない平成20年分の確定申告書に当該年の
控除限度額及び控除対象外国所得税額の記載がなくても,同条2項の適
用を受ける平成21年分の前年以前3年内の各年のうち,繰越控除限度
額が発生した平成19年分の確定申告書に控除限度額等の記載があれば,
控除余裕額(繰越控除限度額)に増減はない。
(イ)控訴人が納付すべき外国所得税額がその年の控除限度額以下であっ
た平成20年分の所得税においては,法95条2項に基づく平成19年
分の控除余裕額の繰越使用による控除が不可能であり,当該控除余裕額
を使用するか否かの選択肢はないから,法施行令224条3項が適用さ
れる余地はなく,平成21年以降の所得税においても平成19年分の控
除限度額等がないものとみなされることはない。
(ウ)税務署長は,平成21年以前3年の各年の確定申告書を確認すれば,
同項の適用対象となり得る繰越控除限度額を容易に確認することができ
る。
ウ国際的二重課税が回避されるように法95条6項の「各年」を解釈すべ
きであること
外国税額控除制度は,同一の所得に対する国際的二重課税を排除し,事
業活動に対する税制の中立性を確保するための制度であり,法95条6項
の「各年」の意義の解釈に当たっても,かかる外国税額控除制度の趣旨が
重視されるべきであり,できるだけ個人の同一の所得に対する国際的二重
課税が回避されるよう解すべきである。
(2)法95条7項に規定する「やむを得ない事情」があること
控訴人が,平成20年分の確定申告書において,法95条6項所定の手続
を履践しなかったことには,単なる控訴人の解釈の誤りという主観的な事情
ではなく,以下のア及びイのとおり,国税庁が提供する確定申告書の様式
(以下「国税庁様式」という。)等の不備及び被控訴人による案内不足など,
「天災その他本人の責めに帰すことのできない客観的事情」があり,外国税
額控除の制度趣旨が,不公平な課税を排除して税額負担能力に応じた公正な
課税を実現するための基本的構造であることに照らせば,控訴人に外国税額
控除の適用を受けさせないことが不当又は酷であると認められ,控訴人には,
法95条7項の「やむを得ない事情」があると認められる。
ア国税庁様式等の不備があったこと
国税庁様式は,必ずしも租税法規に精通しているわけではない納税者が,
租税法規に従って適正に申告することを目的に提供しているものであるか
ら,租税法規において予定されている記載項目を全て網羅する必要がある。
しかし,国税庁様式の所得税の確定申告書には,法95条に関する記載
事項として「外国税額控除額」の記載欄があるのみであり,同条6項の
「当該各年の控除限度額」及び「当該各年において納付することとなった
外国所得税の額」を記載する欄が存在しない。
また,電子申告の場合についても,平成20年の所得税の確定申告に関
し,確定申告書自体にその年の控除限度額及びその年において納付するこ
ととなった外国所得税の額を入力することが不可能であった。
そして,所得税法上,確定申告書と「外国税額控除に関する明細書」は
一体のものではなく,明らかに区別されているから,「外国税額控除に関
する明細書」に控除限度額等を記載して確定申告書と併せて提出したとし
ても,確定申告書に記載したことにはならず,法95条6項の要件を満た
すことにはならない。
イ被控訴人の案内不足があったこと
「外国税額控除に関する明細書」の記載(乙11),確定申告の手引き
の記載(乙12),国税庁の確定申告書等作成コーナーにおける注意事項
の記載(乙13)は,本件における確定申告の方法又は「外国税額控除に
関する明細書」の記載事項等について,適正に把握し,適正な申告が行え
るように案内するものではない。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,控訴人の被控訴人に対する請求は,理由がないものと判断する。
その理由は,原判決の「事実及び理由」中「第5当裁判所の判断」の1~
3に記載のとおりであるから,これを引用する。
2当審における控訴人の補充主張に対する判断
(1)外国税額控除に係る手続要件を充足するか否かについて
ア控訴人は,法95条6項の規定を文理解釈すれば,「最も古い年以後の
各年」は,「繰越控除限度額に係る年」,すなわち「繰越控除限度額が発
生した年」のうちの年を意味するのであり,「繰越控除限度額が発生しな
い年」が「最も古い年以後の各年」に該当する余地はない旨主張する(前
記第2の4(1)ア)。
しかし,引用に係る原判決の「第5当裁判所の判断」中の1(3)イ及
びウに説示のとおり,法95条6項にいう「各年」とは,「繰越控除限度
額に係る年のうち最も古い年」を始まりとして,それ以後法95条2項に
基づく控除を受けようとする年までの各年を意味するものと解することが,
開始時点以外には明確な限定を付していない同項の文理に照らして自然で
あり,「『繰越控除限度額に係る年のうち』『最も古い年以後の各年』に
ついて」というように,「繰越控除限度額に係る年のうち」が直後の「最
も古い年」のみならずそれを超えて「各年」まで直接修飾するという解釈
を採ることは,特に文言上の手掛かりのない本件においては,文理上無理
といわざるを得ない。
したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。
イ控訴人は,前記第2の4(1)イの(ア)~(ウ)の事情に照らせば,平成2
1年において法95条2項を適用するために,平成20年分の確定申告書
に控除限度額及び控除対象外国所得税額の記載は不要であり,法95条6
項の「各年」もその趣旨で規定されている旨主張する。
しかし,引用に係る原判決の「第5当裁判所の判断」中の1(3)ウに
説示のとおり,法95条2項に基づき控除し得る額の計算の基礎となる控
除限度額及び外国所得税の額を,各年分の確定申告書に記載する方法で逐
次明らかにさせておくとともに,納税者に従前の控除余裕額を翌年以降の
繰越使用の対象とする意思があることを各年分の確定申告書上に明らかに
させること,本件においても,平成21年分の所得税について同項に基づ
く控除をするために,平成20年分の所得税の確定申告書(「外国税額控
除に関する明細書」)に,その年分の控除限度額及び外国所得税の額がい
ずれも0であるような場合も含めてその記載を要求することは,税額の計
算の安定を確保し,租税法律関係の明確化を図るために意味の無いことで
はなく,法95条6項の「各年」も,その趣旨で規定されていると解する
のが相当である。
したがって,控訴人の上記主張は,採用することはできない。
ウ控訴人は,法95条6項の「各年」の意義の解釈に当たっても,外国税
額控除制度の趣旨を重視し,できるだけ個人の同一の所得に対する国際的
二重課税が回避されるよう解すべきである旨主張する(前記第2の4(1)
ウ)。
しかし,引用に係る原判決の「第5当裁判所の判断」中の1(3)ウに
説示のとおり,法95条1項が適用されずに外国税額控除が行われない年
については確定申告書への控除限度額及び外国所得税の額の記載を要求せ
ず,後に同条2項に基づく控除余裕額の繰越使用により控除を受けようと
する年に,それ以前の各年に係る控除限度額及び外国所得税の額をまとめ
て確定申告書に記載することを要求するという手続上の仕組みも,立法政
策としては考え得るところであるが,上記ア及びイに説示のとおり,法9
5条6項の「各年」がそのような手続上の仕組みを前提としていると文理
上解釈することはできず,それが税額の計算の安定を確保し,租税法律関
係の明確化を図るという趣旨に合致するというべきである。
したがって,控訴人の上記主張は,法96条6項の「各年」の解釈とし
ては,採用することができない。
(2)法95条7項に規定する「やむを得ない事情」の有無について
控訴人は,平成20年分の確定申告書において,法95条6項所定の手続
を履践しなかったことには,単なる控訴人の解釈の誤りという主観的な事情
ではなく,前記第2の4(2)のア及びイのとおり,国税庁様式等の不備及び
被控訴人による案内不足など,「天災その他本人の責めに帰すことのできな
い客観的事情」があり,控訴人には,法95条7項の「やむを得ない事情」
があると認められる旨主張する。
しかし,引用に係る原判決の「第5当裁判所の判断」中の2の(1)及び
(2)のイ~オに説示のとおり,①法95条7項所定の「やむを得ない事
情」とは,天災,交通途絶その他の納税者の責めに帰することのできない客
観的な事情をいい,納税者の法の不知や事実の誤認等の主観的な事情はこれ
に当たらないものと解するのが相当であること,②所得税については,確
定申告書の書式が法令上定められているわけではなく,国税庁において確定
申告書の書式を作成して提供しているのは,納税者の便宜を図るとともに,
書式の統一化による税務処理上の効率化を図る趣旨のものと解され,納税者
による確定申告書への記載内容を限定する性質のものではないから,仮に国
税庁様式に法令上確定申告書への記載が要求されている事項の記入欄がなか
ったとしても,それだけで直ちに納税者が当該事項の記載義務を免れるとい
うものではないこと,③控訴人は,平成19年分の所得税については,平
成19年分の確定申告書に外国税額控除の金額を記載し,これに添付した
「外国税額控除に関する明細書」に当該金額の計算に関する明細の記載をす
ることにより,同項の規定に基づく外国税額控除を受けていること,④電
子申告の場合についても,「外国税額控除に関する明細書」等にその年の控
除限度額及びその年において納付することとなった外国所得税の額を記載し,
これを確定申告書と併せて提出する方法等により,法95条6項所定の要件
を満たすことが可能であること,⑤被控訴人において,納税者に対し,控
訴人の平成20年分の所得税のように外国税額控除の規定の適用を受けない
ものとして確定申告書を提出する場合について,その年は同条6項に規定す
る「各年」に当たらずその年の控除限度額及びその年において納付すること
となった外国所得税の額を確定申告書に記載することを要しないとか,「外
国税額控除に関する明細書」を利用することはできないといった誤解を招く
ような案内をしていたとは認められないことなどに照らせば,控訴人が平成
20年分の確定申告書に法95条6項所定の事項を記載しなかったことにつ
いては,天災,交通途絶その他の控訴人の責めに帰することのできない客観
的事情によるものということはできず,同条7項に規定する「やむを得ない
事情」があるものと認めることはできない。
したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。
第4結論
以上によれば,控訴人の請求は理由がないから棄却すべきであり,これと同
旨の原判決は相当である。
よって,本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決
する。
東京高等裁判所第15民事部
裁判長裁判官井上繁規
裁判官宮永忠明
裁判官下馬場直志

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